2013/04/28(日) - 07:20
大都市イズミルにゴールするツアー・オブ・ターキー(UCI2.HC)第7ステージ。昨年劇的な逃げ切りを演出したラスト800mの「魔のコーナー」で再び落車が発生した。マルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ)が混乱のスプリントを制している。
2012年4月27日、トルコ南部のアランヤから続いた地中海沿いを進む旅路は、トルコ第3の人口を有する港湾都市イズミルで終わりを告げる。クシャダスからオーシャンロードを駆け抜け、イズミルに至る行程は今大会最短の124km。海沿い特有のアップダウンはあるが、登りと言う登りは無い。
イズミルのゴールでは、昨年イーリョ・ケイセ(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)が劇的な逃げ切り勝利を飾っている。逃げ切り濃厚と見られながら、ラスト800mの鋭角コーナーで落車したケイセは、落ちたチェーンを戻して再スタートを切り、数メートル差で逃げ切った。
今年もコースレイアウトは昨年と同じ。ドラマを生んだ鋭角コーナーはもちろん健在だ。
スタート前に「今日も逃げるように言われています」と話す佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)は、宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)に誘われて集団の前から2列目に並ぶ。逃げの佐野に対し、宮澤は「今日は(スプリントで)狙っていいよと言われた」と言う。
なお、スタートの最前列ではなく2列目に並ぶ理由は、宮澤曰く「今まで最前列でスタートして良かった試しがない」から。
逃げ切りの前例があるステージだけに、この日もスタート直後からアタックの掛け合いとなる。レース前半は、こんもりとした岬と、波に削られた湾を繋ぐワインディングロード。落としどころが見つからないまま時間と距離だけが過ぎて行き、50km地点でようやく6名の逃げが決まった。
アルゴス・シマノやアスタナ、トルクセケルスポールがコントロールするメイン集団に対して、マイケル・ヘップバーン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)やクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、サクソ・ティンコフ)ら6名は3分のリードを稼ぎ出す。しかしステージ自体が短いこともあり、メイン集団は大きなタイム差を与えない。
ラスト20kmを切るとコースは高速道路へ。この真っ平らで真っすぐな道でタイム差は縮まると、諦めないヘップバーンが先頭グループからアタック。トラック世界選手権の団体追い抜きで3回、個人追い抜きで2回金メダルを獲得しているヘップバーンが無駄の無いフォームで独走に持ち込む。
6日間レースのスペシャリストであるケイセに続いて、トラックレーサーの逃げ切りが決まるのか。しかしいくら4kmを4分13秒で走り抜く個人追い抜き世界チャンピオンの力を持ってしても、スプリンターチームは振り切れない。
ヘップバーンはラスト4kmで吸収。大都市イズミルの街中に入り、中央分離帯で分けられた大通りを曲がりくねりながら集団は進む。するとラスト3kmでアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)を含む数名がミスコース。本来のコースとは反対側の車線に入ってしまったグライペルはここで勝負から脱落してしまう。
スプリントに備えて集団前方に位置していた宮澤もこのトラップにかかってしまう。中央分離帯をジャンプしてコースに戻ったものの、大きくポジションを下げてしまい、勝負に絡めず。「道が広いため集団待機でスプリントへ入ろうとしたが、道を間違えた選手の外側に回ってしまい、上がりきれずスプリントに入れなかった。今日は良い場面を作れなかったが、明日は最終日。いい形で締めくくりたい」と宮澤。
スプリンターチームが火花を散らす中、次なるトラブルはラスト800mで発生。問題の鋭角コーナーで落車が起こり、集団の最前列にいた約10名だけが先行して最終ストレートに駆け出す。チームメイトの力を借りてポジションを上げ、タイミングを見計らってスプリントをスタートさせたキッテルが勝利した。
「正直言って、ラスト2kmはかなり難しかった。どのチームも統率が取れていなかった。アルゴス・シマノも例外ではなくリードアウトの選手たちを失ってしまったんだ。チームメイトのニキアス・アルントを見つけてラスト1kmで何とか集団前方に復帰。最終コーナーで落車が発生した時はペダルから脚を離してしまったけど、すぐに体勢を整えて加速。本当にエキサイティングなフィナーレだった」と、第1ステージに続く今大会2勝目を飾ったキッテル。
今大会のスプリントで頭一つ抜け出している感のあるキッテルとグライペル。2人のジャーマンスプリンターはここまで2勝ずつ。「翌日の最終ステージで決着ですね?」という記者の問いには「そうかもね。アンドレのモチベーションも高いに違いない。明日は2人にチャンスがあるし、その時になってみないと分からない」と答える。「第1ステージで優勝してそのあと落車して、山岳ステージを乗り切って今日また優勝した。ニキアスも成績を残したし、チームとして上出来な1週間だった。明日もこの良い流れをキープしたい」。
ミスコースによってスプリントに加われなかったグライペルは「今日のコースは危険過ぎる。昨年の経験から、絶対に落車が起こると思ったので、リスクを負わないために元々スプリントしないつもりだった。その判断は間違ってなかったと思う」と打ち明ける。最終ステージはもちろん優勝を狙ってくるだろう。
レース後、選手たちはホテルでシャワーを浴びて身支度を整え、すぐにイズミル空港へ移動。夜9時のフライト(もちろん大会スポンサーのトルコ航空)でイスタンブールに飛び、夜遅くにホテルに到着した。「アジアとヨーロッパを結ぶレース」はトルコ最大の都市でフィナーレを迎える。
ツアー・オブ・ターキー2013第7ステージ結果
1位 マルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ) 2h40'04"
2位 アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)
3位 マキシミリアーノ・リチェーゼ(アルゼンチン、ランプレ・メリダ)
4位 ブライアン・コカール(フランス、ユーロップカー)
5位 ソニー・コルブレッリ(イタリア、バルディアーニヴァルヴォーレ・CSFイノックス)
6位 ジェイコブ・キーオ(アメリカ、ユナイテッドヘルスケア)
7位 フランチェスコ・ラスカ(イタリア、カハルーラル)
8位 ブラス・ヤルク(スロベニア、ネットアップ・エンドゥーラ)
9位 バティスト・プランカールト(ベルギー、クレラン・ユーフォニー)
10位 ニコラス・マース(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)
87位 宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)
120位 佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)
個人総合成績
1位 ムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール) 26h29'28"
2位 ナタナエル・ベルハネ(エリトリア、ユーロップカー) +41"
3位 ヨアン・バゴ(フランス、コフィディス) +44"
4位 マキリム・メドレル(フランス、ソジャサン) +57"
5位 ニコラ・エデ(フランス、コフィディス) +1'00"
6位 キャメロン・マイヤー(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) +1'02"
7位 ダルウィン・アタプマ(コロンビア、コロンビア) +1'08"
8位 フロリアン・ギロー(フランス、ブルターニュ・セシェ) +1'09"
9位 ダナイル・アンドノフ(ブルガリア、カハルーラル) +1'13"
10位 ローリー・スザーランド(オーストラリア、サクソ・ティンコフ) +1'15"
ポイント賞
アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)
山岳賞
セルゲイ・グレチン(ウクライナ、トルクセケルスポール)
ターキッシュビューティースプリント賞
ミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)
チーム総合成績
コフィディス
text&photo:Kei Tsuji in Izmir, Turkey
2012年4月27日、トルコ南部のアランヤから続いた地中海沿いを進む旅路は、トルコ第3の人口を有する港湾都市イズミルで終わりを告げる。クシャダスからオーシャンロードを駆け抜け、イズミルに至る行程は今大会最短の124km。海沿い特有のアップダウンはあるが、登りと言う登りは無い。
イズミルのゴールでは、昨年イーリョ・ケイセ(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)が劇的な逃げ切り勝利を飾っている。逃げ切り濃厚と見られながら、ラスト800mの鋭角コーナーで落車したケイセは、落ちたチェーンを戻して再スタートを切り、数メートル差で逃げ切った。
今年もコースレイアウトは昨年と同じ。ドラマを生んだ鋭角コーナーはもちろん健在だ。
スタート前に「今日も逃げるように言われています」と話す佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)は、宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)に誘われて集団の前から2列目に並ぶ。逃げの佐野に対し、宮澤は「今日は(スプリントで)狙っていいよと言われた」と言う。
なお、スタートの最前列ではなく2列目に並ぶ理由は、宮澤曰く「今まで最前列でスタートして良かった試しがない」から。
逃げ切りの前例があるステージだけに、この日もスタート直後からアタックの掛け合いとなる。レース前半は、こんもりとした岬と、波に削られた湾を繋ぐワインディングロード。落としどころが見つからないまま時間と距離だけが過ぎて行き、50km地点でようやく6名の逃げが決まった。
アルゴス・シマノやアスタナ、トルクセケルスポールがコントロールするメイン集団に対して、マイケル・ヘップバーン(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)やクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、サクソ・ティンコフ)ら6名は3分のリードを稼ぎ出す。しかしステージ自体が短いこともあり、メイン集団は大きなタイム差を与えない。
ラスト20kmを切るとコースは高速道路へ。この真っ平らで真っすぐな道でタイム差は縮まると、諦めないヘップバーンが先頭グループからアタック。トラック世界選手権の団体追い抜きで3回、個人追い抜きで2回金メダルを獲得しているヘップバーンが無駄の無いフォームで独走に持ち込む。
6日間レースのスペシャリストであるケイセに続いて、トラックレーサーの逃げ切りが決まるのか。しかしいくら4kmを4分13秒で走り抜く個人追い抜き世界チャンピオンの力を持ってしても、スプリンターチームは振り切れない。
ヘップバーンはラスト4kmで吸収。大都市イズミルの街中に入り、中央分離帯で分けられた大通りを曲がりくねりながら集団は進む。するとラスト3kmでアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)を含む数名がミスコース。本来のコースとは反対側の車線に入ってしまったグライペルはここで勝負から脱落してしまう。
スプリントに備えて集団前方に位置していた宮澤もこのトラップにかかってしまう。中央分離帯をジャンプしてコースに戻ったものの、大きくポジションを下げてしまい、勝負に絡めず。「道が広いため集団待機でスプリントへ入ろうとしたが、道を間違えた選手の外側に回ってしまい、上がりきれずスプリントに入れなかった。今日は良い場面を作れなかったが、明日は最終日。いい形で締めくくりたい」と宮澤。
スプリンターチームが火花を散らす中、次なるトラブルはラスト800mで発生。問題の鋭角コーナーで落車が起こり、集団の最前列にいた約10名だけが先行して最終ストレートに駆け出す。チームメイトの力を借りてポジションを上げ、タイミングを見計らってスプリントをスタートさせたキッテルが勝利した。
「正直言って、ラスト2kmはかなり難しかった。どのチームも統率が取れていなかった。アルゴス・シマノも例外ではなくリードアウトの選手たちを失ってしまったんだ。チームメイトのニキアス・アルントを見つけてラスト1kmで何とか集団前方に復帰。最終コーナーで落車が発生した時はペダルから脚を離してしまったけど、すぐに体勢を整えて加速。本当にエキサイティングなフィナーレだった」と、第1ステージに続く今大会2勝目を飾ったキッテル。
今大会のスプリントで頭一つ抜け出している感のあるキッテルとグライペル。2人のジャーマンスプリンターはここまで2勝ずつ。「翌日の最終ステージで決着ですね?」という記者の問いには「そうかもね。アンドレのモチベーションも高いに違いない。明日は2人にチャンスがあるし、その時になってみないと分からない」と答える。「第1ステージで優勝してそのあと落車して、山岳ステージを乗り切って今日また優勝した。ニキアスも成績を残したし、チームとして上出来な1週間だった。明日もこの良い流れをキープしたい」。
ミスコースによってスプリントに加われなかったグライペルは「今日のコースは危険過ぎる。昨年の経験から、絶対に落車が起こると思ったので、リスクを負わないために元々スプリントしないつもりだった。その判断は間違ってなかったと思う」と打ち明ける。最終ステージはもちろん優勝を狙ってくるだろう。
レース後、選手たちはホテルでシャワーを浴びて身支度を整え、すぐにイズミル空港へ移動。夜9時のフライト(もちろん大会スポンサーのトルコ航空)でイスタンブールに飛び、夜遅くにホテルに到着した。「アジアとヨーロッパを結ぶレース」はトルコ最大の都市でフィナーレを迎える。
ツアー・オブ・ターキー2013第7ステージ結果
1位 マルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ) 2h40'04"
2位 アンドレア・グアルディーニ(イタリア、アスタナ)
3位 マキシミリアーノ・リチェーゼ(アルゼンチン、ランプレ・メリダ)
4位 ブライアン・コカール(フランス、ユーロップカー)
5位 ソニー・コルブレッリ(イタリア、バルディアーニヴァルヴォーレ・CSFイノックス)
6位 ジェイコブ・キーオ(アメリカ、ユナイテッドヘルスケア)
7位 フランチェスコ・ラスカ(イタリア、カハルーラル)
8位 ブラス・ヤルク(スロベニア、ネットアップ・エンドゥーラ)
9位 バティスト・プランカールト(ベルギー、クレラン・ユーフォニー)
10位 ニコラス・マース(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)
87位 宮澤崇史(サクソ・ティンコフ)
120位 佐野淳哉(ヴィーニファンティーニ)
個人総合成績
1位 ムスタファ・サヤル(トルコ、トルクセケルスポール) 26h29'28"
2位 ナタナエル・ベルハネ(エリトリア、ユーロップカー) +41"
3位 ヨアン・バゴ(フランス、コフィディス) +44"
4位 マキリム・メドレル(フランス、ソジャサン) +57"
5位 ニコラ・エデ(フランス、コフィディス) +1'00"
6位 キャメロン・マイヤー(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ) +1'02"
7位 ダルウィン・アタプマ(コロンビア、コロンビア) +1'08"
8位 フロリアン・ギロー(フランス、ブルターニュ・セシェ) +1'09"
9位 ダナイル・アンドノフ(ブルガリア、カハルーラル) +1'13"
10位 ローリー・スザーランド(オーストラリア、サクソ・ティンコフ) +1'15"
ポイント賞
アンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)
山岳賞
セルゲイ・グレチン(ウクライナ、トルクセケルスポール)
ターキッシュビューティースプリント賞
ミハイル・イグナチエフ(ロシア、カチューシャ)
チーム総合成績
コフィディス
text&photo:Kei Tsuji in Izmir, Turkey
フォトギャラリー
Amazon.co.jp