2011/09/20(火) - 13:01
トレックのロードバイクのハイエンドに位置するのがマドン6シリーズだ。OCLV600カーボン仕様の通常モデルに加え、航空宇宙産業で使われる最高級の素材を採用したOCLV700カーボン仕様のスペシャルモデル、6.9SSLをラインナップ。特に後者は、レオパード・トレックやチームレディオシャックといったグランツールを走るUCIプロツアーチームに供給され、ツール・ド・フランスでのシュレク兄弟の活躍やカンチェラーラの力走を支えたことでおなじみだ。
トレックワールド・ジャパンでは、レオパード・トレックのシュレク兄弟とカンチェラーラのシグネチャーモデルに加え、チーム・レディオシャックの別府史之選手の実戦仕様のバイクが会場入り口正面の一等地に展示されていた。このことからも、トレックのマドンシリーズに対する力の入れようがうかがい知れる。
フロントエンドとFD台座のフルカーボン化
2012年モデルのマドン6シリーズは、6.9SSLも含めて2011年モデルから大幅な変更は行われていない。数少ない変更点としては、フロントディレイラー台座とフロントフォークのエンド部分のカーボン化によって、さらに軽量化が図られたことが挙げられる。それだけ同シリーズの2011年モデルの完成度が高かった、という証拠であるし、2012年モデルはさらに熟成が進んだとみることもできる。今回、さらに熟成が進んだ2012年モデルのマドン6シリーズに試乗し、改めてその戦闘力を確認したい。
インプレッション
マドン6SSL
軽さと剛性の高さに快適性をプラスした究極のレーシングバイク
ツール・ド・フランス2011の第18ステージ。アルプス4連戦のハイライトであるガリビエ峠を単独で逃げ切り、山頂勝利を収めたアンディ・シュレク(レオパード・トレック)。そして弟アンディをアシストし、自らもステージ2位となった兄のフランク。個人総合では兄弟で2位と3位に入る史上初の快挙を成し遂げた。彼らの走りを支えたのは、マドン6.9SSLであった。
また、昨シーズンからチームレディオシャックに所属している別府史之選手も、2シーズン続けてこのマシンに乗っている。今年は日本人として初、北の地獄・パリ~ルーベを完走した。
その両強豪チームが来季は合併することがすでに報じられているが、この新チームでもマドンに跨るライダーたちの勇姿が見られるはずだ。
そんなプロチーム御用達の6.9SSLは、バイクにまたがった瞬間にライダーをその気にさせるレーシングバイク特有のオーラを放っている。
BB周りからダウンチューブ、ヘッド周りにかけての剛性が高く、ペダリングがダイレクトに推進力に変わっていく。ハードブレーキング時にも高速でのコーナーリング時にも踏ん張りがきく。これは独自規格の幅広ボトムブラケット「BB90」や、上下異径のステアリングコラムのたまものであり、フレーム素材にトレックのOCLVカーボンで最も剛性比重量と縦方向の柔軟性に優れたOCLV700を使っていることも影響しているだろう。
重量も軽く、加速の乗りも上りでの走りもかなり鋭い。ダンシング時のバイクの振りも軽く、ダンシングにも高回転でのシッティングにも対応する懐の広さがある。
しかし、単に軽くて硬いだけのバイクでないのがこのバイクのすごいところだ。スパルタンな乗り味一辺倒ではなく、快適性がプラスされているのだ。
たとえば舗装のちょっと荒れた路面を走ったり、路面の継ぎ目にハイスピードで突入したりしたときに、必要最低限のロードインフォメーションは伝えてくれるのに、不快な突き上げや振動はかなり角が取れた状態で伝わってくるのだ。
快適性というキーワードに寄与しているテクノロジーは、主に2つ。ライドチューンドシートマストとE2オーバル型ステアリングコラムだ。
ライドチューンドシートマストは、フレーム側にはインテグラルシートポストのような突起を作り、その上にキャップ状のシートマストをかぶせる独自の方式。シートチューブ上端を積極的にしならせることで、快適性を実現している。それは、ツール・ド・フランスのような3週間にわたる過酷なステージレースで余計な体力の消費を抑えることを目的に開発されたというが、ホビーライダーにとっても大きなメリットとなるだろう。
E2オーバル型ステアリングコラムは、ハンドリング性能を左右する横剛性と衝撃を吸収する前後方向への柔軟性を両立するため、横幅を広く、前後幅を薄くした楕円形状を採用したステアリングコラム。これもトレック独自の技術だ。
電動変速システムのDi2やANT+サイクルコンピューターに対応するテクノロジーも満載だ。ANT+ワイヤレススピード&ケイデンスセンサーをフレームに内蔵できるデュオトラップ、シマノDi2に対応したデザイン、ケーブル内蔵システムなどを採用している。これは外観をすっきり見せる効果もあるが、空気抵抗を低減し、走行性能を高めることにもつながるだろう。
オリジナルペイントのバイクを作り、好みのパーツをアッセンブルするプロジェクトワンにも対応しており、自分だけのバイクを作れるという魅力もある。もちろんフレームセットでの注文も可能なので、乗り換え組のユーザーも要注目だ。
マドン6.9SSLは、トレックが誇る究極のレーシングバイク。その走行性能はもちろん折り紙付きだ。だが、決して乗り手を選ぶバイクではなく、誰もがハイエンドの走行性能を体感できる、非常に素直で扱いやすいバイクである。
マドン6シリーズ
SSLとの違いはフレーム素材のみ ハイエンド級のレーシングバイク
マドン6SSLが究極のレース用ウエポンなら、マドン6シリーズの位置づけはどうなるのか気になるところだろう。カタログ上で両者の違いを探すと、フレーム素材のOCLVカーボンがOCLV600になっているだけで、シートマストやE2オーバル型ステアリングコラム、BB90といった重要なテクノロジーはすべて6シリーズでも採用されている。
つまり、フレーム素材の違いによって重量がわずかに重いだけで、実質ハイエンドクラスのレーシングバイクと言っても差し支えない。むしろSSLシリーズが「航空宇宙産業の最高級カーボンを使ったスペシャルモデル」という認識でいいだろう。
その証拠としてフレームジオメトリーを挙げたい。マドンには、様々なレベルのライダーに対応するためにヘッドチューブ長が違う3種類のフレームジオメトリーが用意されている。
最も低いハンドル位置にセッティング可能で、身体の柔軟性が高いレース志向のライダー向けの「H1」、アップライトなポジションを取れる「H3」、両者の特徴を両立する標準的なヘッドチューブ長の「H2」の3種類だ。
このうち、最もレーシーなH1は、6SSL/6シリーズでしか選択できない。つまり、トレックのロードバイクで最もレーシーな乗り味を求めるなら、必然的に両シリーズから選ぶことになるのだ。なお、6SSLシリーズはH1とH2の2種類、6シリーズはH1からH3 までのすべてのジオメトリーを選ぶことができる。
乗り味に関しても、短時間の試乗では違いを見つけ出すのが困難なほどSSLシリーズと6シリーズとの違いは少ない。6シリーズでも十分に軽いし、同一のコンポやホイールで比較すれば、重量の影響が大きな上りでの戦闘力でも特段劣るわけではない。
フレームセットで7万円という価格差を考えると、ほぼプロ仕様のレーシングバイクがよりお値打ちに手に入れられるという意味で、6シリーズを選ぶのも当然「アリ」だ。その分、浮いたお金でプロジェクトワンのシグネチャーシリーズの手の込んだペイントを施す…なんて購入プランも考えられる。
なお、マドン6シリーズもプロジェクトワンに対応している。フレームデザインで選択できるパターンがSSLシリーズとは異なるが、オリジナルペイントのバイクを購入する喜びは味わえる。そういう意味では、2012年のトレックロードバイクラインナップの中では、最も価格に対して高い満足度が得られるバイクと言えるのかもしれない。
提供:トレック・ジャパン レポート:浅野真則、シクロワイアード編集部