2024/10/15(火) - 19:00
7年ぶりのフルモデルチェンジ。FRとVRを総力特集
派手なグラフィックが目をひくプロトタイプを全国各地の展示会で目にした方も多いだろう。
ハイクオリティなスポーツバイクを生み出すアメリカ、カリフォルニアのエンジニアリング集団、フェルトが軽量フラッグシップレーサーの「FR」とエンデュランスロード「VR」を一挙にフルモデルチェンジさせた。
モデルライフが長きに渡るフェルトにとって、FRとVRのモデルチェンジは2017年以来じつに7年ぶりのこと。FRとVRはともにフェルトらしい質実剛健な刷新が行われ、ロードバイクのあり方が急激に変化する、2020年代半ばの最新ロードバイクたるに相応しいスペックを備えて共に第4世代化を果たしている。
シクロワイアードではこの度、フェルトを知る国内ライダー2名を招聘してバイクテストを実施し、さらにフェルト本社と繋ぎ首脳陣への特別インタビューも行った。開発陣の言葉に基づく詳細解説や、インプレッション、そしてインタビューで両モデルを徹底紹介する。
2モデル刷新は、エンジニアリング集団フェルト復活の狼煙
まさに質実剛健。派手なプロモーションをほとんど打つこともない。生粋のエンジニアであるジム・フェルト氏とビル・ドーリング氏が立ち上げたフェルトバイシクルは、1994年のブランド設立以降、ずっと性能第一主義を貫き通してきた。
モトクロスの本場アメリカでヤマハ、カワサキ、スズキ、ホンダなど大メーカーのエンジニアを歴任し、自身のためのトライアスロンバイクを制作(1982年)した才能をイーストン社に見出されたのちに高性能アルミチューブ開発で名を挙げたフェルト氏と、ジェイミスの立ち上げに関わり、GTに移籍したのちに「トリプルトライアングルフレーム」を生み出すなど辣腕を振るったドーリング氏が率いてきたフェルト。それだけに少数精鋭、そして華美を求めないブランド指針は極めて自然なことのように思える。
フェルトはエントリーからハイエンドまで、ロードはもちろんMTB、トラック、トライアスロンまで幅広いラインナップを扱う総合ブランドとして成長し、中でも2000年台後半〜2010年代中盤はガーミン・スリップストリームやアルゴス・シマノとタッグを組み、ブランドの黄金期と言える時代を過ごす。日本でも正規輸入販売を行うライトウェイプロダクツジャパンとの協業による日本オリジナルモデルの展開、弱虫ペダルチームへのサポートなど認知度を高めてきた。
しかし、ここ近年はトーンダウンを否めなかったこともまた事実だ。2017年にロシニョール傘下となったことで2人の創業者が会社を離れ、オフロードモデルの開発を中止、2021年にはオーストリアのEバイク資本ピエラー・モビリティAG傘下に移ったものの、昨2023年にはピエラーが株式を保有したまま放出されてしまう。二転三転を経て、再びフェルトは2017年以来の独立資本に切り替わった。ただしこの流れは、長年フェルトに勤め、その変遷を見守ってきた首脳陣の一人の言葉を借りれば「再び我々自身が作りたいものを作れるようになった大チャンス」なのだという。
新型FRとVRはそれぞれ先代と似通ったコンサバティブな設計を貫いているが、それは「本当に作りたいものを作った」フェルトらしさ際立つ作品だ。レース屋を自称するフェルトが、再び世界のトップシーンで羽ばたかんとする狼煙なのだ。
前置きが長くなったが、これより2モデルの詳細解説に入ろう。
FR:実直を極めた軽量オールラウンドレースバイク
「フェルト史上最速のクライミングレースバイク」を掲げる新型FRは、歴代モデルが培ってきたレーサーたる走りと軽さを受け継ぎつつ、各部のインテグレーションを推し進め、エアロ性能をプラスした軽量オールラウンダーへと進化した。各部分のアップデートは行われているものの、典型的で美しいダイヤモンド型フレームからは、北米ブランドで進むエアロと軽さの統合には目もくれず、実直に理想像を追い求めた、極めてフェルトらしい設計思想が見て取れる。
FRの歴史はフェルトのカーボンレーサーの歴史といって過言ではない。剛性と軽さを両立した初代と第2世代はクイックなハンドリングとショートチェーンステーによる瞬間的な加速力を武器に、ARを差し置いてマルセル・キッテルやジョン・デゲンコルプら、当時黄金期を誇ったスプリンターからも愛される存在に。しかしプロ向けの乗り味を突き詰めていたため、2017年に登場した第3世代はリアバックの柔軟性を高めつつトラクション性能を向上させ、過酷なレースシーンを走る選手に寄り添う優しさを手に入れている。
第4世代を意味する「FR4.0」にはARや、トライアスロンモデル「IA」開発で得たノウハウが投入され、空力に大きく影響するフォークとヘッドチューブの接合部周辺を中心にクリーンなルックスに生まれ変わった。
シートステーがトップチューブまで繋がるデザインは、ドロップドシートステーがスタンダードとなった今ではクラシカルにも思えるが、開発者によれば、これは瞬間的な大パワーを受け止める剛性を確保しつつ、先代で獲得したトラクション性能を残すための選択。つまりスピードと快適性の相乗効果を狙ったデザインだという。
前方投影面積を減らして空力性能を改善するために、先代と比べてトップチューブのスロープ角度が抑えられ、D形断面のヘッドチューブ周辺や、内蔵シートクランプ(ボルトを2本に増やすことで固定力も向上させた)を新規採用。フォークとの接合部形状も先代と比べて現代版に進化させるなど、伝統のフレーム形状を維持したまま可能な限りエアロ化を推し進めた。
ハイパフォーマンスバイクであり続けるために、ジオメトリーはリーチを長く、スタックを短くとったアグレッシブな数値を継続している。「レースバイクであってもスラックなジオメトリーが増えていますが、フェルトを愛してくれるレーサーのニーズはそうじゃない。機敏なFRはアメリカのクリテリウムシーンでも愛されていますから、深いポジションが取れるように配慮しています」と言う。
これまでフェルトは最高性能のカーボン素材を投入した「FRD」グレードを用意していたが、第4世代ではFR、VR共にフレームはノーマルモデルのみ。FRのフレーム重量は900gとやや重量がかさんでいるが、これは開発陣曰く「レーサーたる走り」を追い求めた結果。「ただ軽いだけのFRを作るのは簡単ですが、今の時代は少しだけ重量がかさんでも、エアロ性能に長けている方が実際に速いのです。ある程度の重量増は目を瞑りましたが、ホイールやハンドルなどは可能な限り軽いものをチョイスして軽い完成車パッケージになるよう努めました」と言う。
販売パッケージは5種類の完成車が用意され、最上位はアルテグラDI2とレイノルズのAR41ホイールで武装した「FR Advanced Ultegra Di2(税込99万円)」で、機械式105を搭載する「FR Advanced 105(税込49.5万円)」がボトムラインとしてエントリー〜ミドル層のニーズを支えている。
VR:レーサー譲りの走りと乗り心地を両立するバーサタイルロード
長いヘッドチューブと短いトップチューブ、スラックなジオメトリー。他社に先駆けた設計思想を取り入れ、エンデュランスロードのあり方に一石を投じた名作「Zシリーズ」の血脈を引くのがVRだ。グラベルロードの黎明期(2017年)に登場した第3世代は、FR譲りの走行性能を活かしながらオフロードにも対応するタイヤクリアランスを持たせた「オールロード」へと進化。時代のニーズを捉え、変化してきたVRシリーズの第4世代は、FRと同様のアプローチを施すことで大幅な進化を果たした。
具体的に言えば、特徴的なジオメトリーはそのままに、エアロ性能を向上させ、フレーム形状やカーボンレイアップを刷新することでFR譲りのレーシング性能を身につけるなど、今現代のエンデュランスモデルに相応しいブラッシュアップを遂げた。「ライダーに寄り添うようにストレスを消し、その背中を、もっと遠くへと押してくれるバイクになるよう工夫を凝らしました」と開発者は言う。
初代Zシリーズから受け継がれるスローピングフレームは900gと軽く、上端から下端まで複雑な形状変化を見せるシートステーは、剛性と柔軟性のバランスを突き詰めた、VRのキャラクターを支える最大のポイント。開発陣によればエンド部分の直径はFRと変わらないものの、シートチューブとの接合部を細くすることで乗り心地を上げているという。
新型VRに投じられたユニークなシステムが、先んじてデビューしたグラベルレースモデルBREED Carbon(ブリードカーボン)に初採用された「バイブレーション・ダンピングスリーブ」だ。FRと同じく内蔵化されたシートクランプに樹脂製スリーブを実装して衝撃を取り払うシステムであり、長距離に挑むとき、あるいはオフロードに足を踏み入れる時のストレスを軽減してくれる。硬質な乗り心地を好む方であればスリーブを抜いて30.9㎜径のシートポストを入れることも可能であり、グラベルユースに向けてドロッパーシートポストも搭載可能という、凄まじいまでのマルチパーパスぶりを誇っている。
先述した振動吸収機能やスラックジオメトリー、そして38mmタイヤを飲み込むクリアランスなど、グラベルモデルのエッセンスを多分に取り込んではいるものの、開発陣曰く、あくまで新型VRの根幹はロードバイク。ジオメトリーやハンドリングなどはあくまで舗装路での乗り心地や走りを軸に設計しているという。
「高速化が進んでいる北米のグラベルレースでは、軽さとスピードを求めるレーサーの中にはVRを選ぶ選手もいるでしょう。でもそれはほんの一部の例外です。VRの走りはFRに負けず劣らずレーサーと言えるものですし、我々は一台であらゆる道にチャレンジできるドリームバイクを作りたかった。新しいVRは、あくまでロードバイクを愛する人のために作り上げたバーサタイルバイクなのです」。
VRは3モデル展開で国内販売が行われている。アルテグラDI2とレイノルズのAR41ホイールを装備するトップモデル「VR Advanced Ultegra Di2(税込99万円)」と、105DI2を搭載する「Advanced 105 DI2(税込79.2万円)」、機械式105を搭載する「FR Advanced 105(税込49.5万円)」。
フェルト FR 4.0ラインアップ
Ultegra Di2完成車 | 105 Di2完成車 | 105完成車 | |
フレーム | |||
フォーク | |||
ステム/ハンドル | Carbon Integrated Road Handlebar/Stem | Easton AL/ Devox DBar.A1 | Easton AL/Devox DBar.A1 |
コンポーネント | Shimano Ultegra Di2 R8150 | Shimano 105 Di2 R7150 | Shimano 105 R7100 |
サドル | Prologo Dimension 143 T4.0 | Prologo Dimension 143 T4.0 | Prologo Dimension 143 STN |
シートポスト | Devox Post.C2 Cap | Devox Post.C2 Cap | Devox Post.C2 Cap |
ホイール | Reynolds AR41 DB Custom | Reynolds AR41 DB Custom | Devox WheelRDS.A1 with Shimano hubs |
タイヤ | Vittoria Rubino Pro IV, 700x28c | Vittoria Rubino Pro IV, 700x28c | Vittoria Rubino Pro IV, 700x28c |
カラー | ライティングホワイト、ネイビースモーク | ディスラプティブブルー、ファストオレンジ | マットベイブルー |
価格 | 990,000円 | 792,000円 | 495,000円 |
フェルト VR 4.0ラインアップ
Ultegra Di2完成車 | 105 Di2完成車 | 105完成車 | |
フレーム | |||
フォーク | |||
ステム/ハンドル | Carbon Integrated Road Handlebar/Stem | Easton AL/ Devox DBar.A2 | Easton AL/Devox DBar.A2 |
コンポーネント | Shimano Ultegra Di2 R8150 | Shimano 105 Di2 R7150 | Shimano 105 R7100 |
サドル | Prologo Dimension Space T4.0 | Prologo Dimension Space T4.0 | Prologo Dimension Space STN |
シートポスト | Devox Post.C2 | Devox Post.C2 | Devox Post.C2 |
ホイール | Reynolds AR46 DB Custom | Reynolds AR46 DB Custo | Devox WheelRDS.A1 with Shimano hubs |
タイヤ | Vittoria Rubino Pro IV, 700x32c | Vittoria Rubino Pro IV, 700x32c | Vittoria Rubino Pro IV, 700x32c |
カラー | ライティングホワイト | ディスラプティブブルー、ファストオレンジ | マットベイブルー、ブラック |
価格 | 990,000円 | 792,000円 | 495,000円 |
次章では軽量オールラウンドモデル「FR」のインプレッションを紹介。フェルトを、FRを乗り込んできたテスター2名の言葉に注目してもらいたい。
text:So Isobe
提供:ライトウェイプロダクツジャパン
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