2024/11/14(木) - 18:00
新体制フェルトの首脳陣に聞く、フェルトの今とこれから
まさに質実剛健。見た目と打って変わって際立つ走行性能。ともに第4世代化を果たしたフェルトのレーシングバイク「FR」とエンデュランスバイク「VR」は、乗らなければ分からない魅力をシンプルなフォルムに秘めた素晴らしいスポーツバイクだった。
シクロワイアードでは国内正規販売代理店を務めるライトウェイプロダクトジャパン協力のもと、2017年以来の独立資本となったフェルトの首脳陣とオンラインで繋ぎ、インタビューを行う機会に恵まれた。
話を聞いたのは、フェルトでヘッドエンジニアを務めるギエム・クゾー氏と、フェルト勤続25年を誇るインターナショナルセールスマネージャー、ヒューゴ・プイグデファブレガス氏だ。
2017年にロシニョール傘下となり、2021年にはオーストリアのEバイク資本ピエラー・モビリティAG傘下に移行したフェルトブランドは、2024年7月1日付でオーストリア籍の独立会社「FELT Bicycles GmbH」として再スタート。かつてMTBのダウンヒルレーサーとして名を挙げ、今はMTBブランド「Unno Bicycles」の創設者、そして精鋭エンジニアリング企業「CERO Design」のオーナーを務めるセサル・ロホ氏らを株主に迎え、かつてジム・フェルト氏が築き上げてきた性能第一主義への回帰を目指している。
スリップストリームやアルゴスとタッグを組んだ時代に栄華を極めるも、資本元のブランディング変更に翻弄され、独立資本として復活の狼煙をあげたフェルトが今目指すものとは。「もっと派手さを求めても良いのでは?」と思わせる、コンサバティブなバイク設計に宿る意図とは?日本、そして世界のサイクリストに向けたメッセージとは。首脳陣による言葉を紹介したい。
「温故知新を極めたフェルトの新型バイク」
前章で書き記した通り、軽量フラッグシップレーサーの「FR」とエンデュランスロード「VR」のモデルチェンジは2017年以来じつに7年ぶり。どちらも先代モデルと似通った設計(FRに至ってはドロップドステー採用されていない!)で、これまで存在した最上級のFRDグレードも無い。しかしコンサバティブなデザインは、トレンドに流されず、フェルトが本当に作りたいものを作った証なのだという。
「現在のロードバイクはドロップステーが主流ですし、尚且つエアロと軽量モデルの統合が進んでいます。FRはそのトレンドに沿っていませんが、もちろんそれは理解の上。1モデルに統合すれば開発予算も半分ですし、新しいロードバイクであることを打ち出ちやすい。でも我々は、そういったマーケティング優先の製品開発を行いません」とクゾー氏。「市場のニーズを考えれば軽量モデルとエアロモデルはどちらも必要不可欠。クライマーは軽いバイクに乗りたいし、スプリンターはエアロバイクに乗りたいからです」とも続ける。
もっとFRを軽く作れたのでは?という筆者の問いに対しても、「もちろんFRのようなレーシングバイクにとって軽さは命と言っても過言ではありません。他ブランドの軽量モデルとは重量差がありますが、FRは軽量であること、運動性能、そしてエアロダイナミクスの3要素をバランスしたバイクです。正直言って軽くするだけなら簡単ですが、軽いだけではレースバイクとして走らないものになってしまうし、現代ではいくら軽量モデルでもエアロ性能は大切。そうした要素をプラスした結果、900gというフレーム重量になりましたが、重量だけで判断して欲しくありません。FR、そしてVRも、他ブランドの900gフレームより優秀な走りをしてくれますから」と、いかにもフェルトらしい明瞭な答えが返ってくる。
ただし、フレームが多少重量が嵩んでいるため、完成車が軽く、即実戦投入可能なようパーツ構成を配慮しているという。上級モデルにはカーボンホイールやステム一体型ハンドル、シマノDI2コンポーネントが投入されていることがこれに当たる。
「今のフェルトは自転車愛に溢れる人ばかり」
「今、我々フェルトはここ6年のうちで最も輝かしい瞬間を過ごしていると言えます」と言うのはヒューゴ氏だ。ライトウェイプロダクツジャパンの展示会にも来日した、フェルト社史の全てを知る彼だからこそ、その言葉の意味は大きい。彼は次のように続ける。「ロシニョールグループに売却された後、オフロードモデルや低価格帯のロードバイク、クロスバイクの開発が中止に追い込まれました。投資も止まり、開発も、出荷も止まってしまう苦しい時期でした。ピエラー・モビリティ傘下となってからも基本的に状況は変わりませんでしたが、いよいよ我々フェルトは単独資本になり得た。これが意味するものは非常に大きいのです。
なぜかといえば、会社首脳陣がみんな、ピュアに自転車を愛する人間だけになったからです。今のフェルトは、巨大資本に利益をもたらす駒ではなく、自転車を愛する人が、自転車を愛する人に向けて自転車を作るブランドに戻りました。ロシニョールはウインタースポーツ企業でしたから、正直に言えば自転車への愛はありませんでした。今、フェルトは、ジム・フェルトが作り上げたときと同じような、自転車熱に溢れる人たちばかりになりました。
新しく株主の一人になったセサル・ロホはかつて世界トップレベルのダウンヒルレーサーとして鳴らし、各メーカーと協業して革新的なバイクを世に送り出してきたエンジニアリング集団"CERO Design"のオーナーです。CEROは超ハイレベルなノウハウを持っていますから、彼らと協業できることはフェルトにとってメリットしか有りません」。
開発ヘッドチーフを務めるクゾー氏によれば、新体制となったフェルトが今注力しているのは、中長期的な堅実な資金投資と堅実な開発プロセス、そして堅実な製品作り。そしてその上で、現在開発を進めている新型ARがデビューすることによって、「フェルトのロードラインナップは非常にエキサイティングな展開を迎える」とも。
かつてミドル〜エントリーグレードが絶大な人気を誇ったフェルトだが、今現在はハイエンド製品の開発を進め、各モデルが拡充したのちボトムライン開発に着手するという。
「今は優れたハイエンド製品の開発を進め、製品第一主義ブランドとしての柱を築くべきタイミングです。そうして生まれた製品を、ミドル〜エントリーグレードにどう落とし込んでいくかが今後の課題です。かつて世界中のエントリー層を支えたアルミモデルに関しては、カーボンモデルの充実を図った後になるでしょう。再出発したばかりの我々は小規模ですし、残念ながらそこまで開発リソースを割ける状態にはありません。でも、だからこそ、良いものを作るために集中したい。あれもこれも、と手を広げれば、納得ゆく製品は生まれませんから」と言うクゾー氏の言葉には、かつてフェルトが掲げていた製品第一主義が染み渡っているように思える。
「かつて掲げた製品第一主義の再来」
ヒューゴ氏は新体制フェルトについて以下のように続けた。この記事の結びに彼の言葉を紹介する。「創業から長らくの間、フェルトの基盤はマーケティングではなく、優秀な製品を作ることにありました。20年前にジム・フェルトと初顔合わせをしたときに彼が話していたのが『製品が全てだ』ということ。セールスやマーケティングに注力せず、ひたすらに良いものを作り続けていれば周りが認めてくれる、とね。
今、独立資本となった我々フェルトは、ジム・フェルトがいた時の製品第一主義を再び掲げ、200%の信念を持ってその道を突き進みます。その時を知るメンバーはごく少数になってしまいましたが、野心的で、頭のキレる、優秀なスタッフが、世界最高の製品を作るために日夜努力を重ねています。
今、我々が注力しているのは新型ARの開発です。エアロロードというコンセプトは一昔前に比べて数が減りましたが、それは各社のマーケティング戦略によるものです。我々の考えからすれば、今現在では軽量ロードとエアロロードを統合することはほぼ不可能で、それぞれのニーズにあった両方のバイクがなくてはなりません。北米のメジャーブランドはそれぞれエアロロードとレースロードを統合しましたが、製品第一主義の我々からすれば、彼らのようにマーケティングが強い会社は、製品をそこまで重要視していないように見えてしまいます。
何度も言いますが、フェルトは、あらゆるジャンルで最高のバイクを開発するために努力を重ねています。我々が本当に作りたいものを作れるようになった今、我々の製品、そしてブランドの魅力を感じてくれている人は絶対にいる。フェルトはかつての栄光を取り戻し、再浮上するために再スタートを切ったのです。
text:So Isobe
提供:ライトウェイプロダクツジャパン
提供:ライトウェイプロダクツジャパン