2024/07/25(木) - 18:30
ウィリエールがリリースした新型クライミングモデル、Verticale SLRをテストしているとき、予想外に良い印象を持ったのがミケのKleos(クレオス)RDホイールだった。フレームの動きを邪魔しないどころか、ひときわ引き立てる軽やかな走りに、思い切りスプリントしてもたわまない剛性感。正直言ってあまり期待していなかっただけに、良い意味で予想を覆されたのだった。
本章では、2022年にウィリエール傘下となり、新体制のもと復権を目指すミケブランドと、彼らが誇る新時代のホイールラインナップを総力特集。1919年創業、イタリアの自転車産業中心地であるトレヴィーゾに本拠地を構える屈指の老舗コンポーネントブランドは、自社生産だからこそなし得る高精度に磨きをかけつつ、次なるステップに踏み出そうとしている。新しくCEOに就任したグレゴリー・ジラール氏へのインタビューから、新世代ミケの今を紐解いてお伝えしたい。
ミケは1919年にアウグストとフェルディナンドのミケリン兄弟によって創業され、今年(2024年)で実に創業105年という歴史深いブランドだ。自転車とモーターサイクル製造で規模を拡大し、第二次世界大戦後は類まれな製造品質を武器に、クランクやカセット、ハブといったコンポーネント製造に特化した会社(Ferdinando Michelin Conegliano)を立ち上げたことが現在にまで至る源流。1986年には同じファミリーネームを使う仏ミシュラン社からの要請で「ミケ」にブランドネームを変更し、1995年には同社初の完組ホイールをリリース。2019年に創設100周年を迎えた3年後には長年貫いてきた単独資本から脱却し「世界を率いるイタリア自転車グループ創設」の名のもと、本社が近く、長年深い関係性を築いてきたウィリエール傘下に加わっている。
「ミケは100年以上に及ぶ歴史の中でいたずらな規模拡大を求めず、情熱を注ぎ込んで"本当に質の良いもの"を作り続けてきました。ウィリエールグループとなった今も、その根幹や、本社工場はもちろん、たった41名の従業員メンバーも変わっていません。むしろホイールをウィリエールの完成車に組み込むことになったため生産体制を増強している最中なのです」と、ウィリエールから出向し、ミケCEOに就いたグレゴリー・ジラール氏は言う。
「今最も大切なことは、ミケの認知度を上げること」と氏は続ける。なにせシマノやカンパニョーロ、マヴィックといったビッグブランドに比べれば知名度は皆無に近く、プロチームへの供給もトラックイタリア代表チーム(クランクセット/チェーン)や、ウィリエールのMTBチーム(ホイール/スルーアクスル)のみ。しかし逆を言えば、知名度がないからこそ、Verticale SLR発表会でKleos(クレオス)RD 36を試したとき、良い意味で走りに驚かされた。
ミケの強み、そして誇りは全製品の95%以上を自社工場で生産していることにある。カーボンリムだけはアジアから輸入しているが、それでもリムのカーボン素材の選定や設計、ホイールビルドは全て自社。ハブも、クランクも、スプロケットも、さらにはホイールスポークに至るまでミケは自ら金属材を削り込み、様々な加工を施して作り上げている。多くのバイクブランドはパーツ製造をサプライヤーに任せて組み上げのみを行なうが、ミケはプライドをもって自社製造を保ち続けている。
「Kleos RDホイールのスポークが良い例です。フロント用は空力を意識し、リア用は駆動性能を重視した形状に加工を施しています。さらにフロントハブ形状は風洞実験を経てエアロ性能が高まるように工夫を凝らしました。サプライヤーからそれぞれを購入しているようでは、ここまで小回りの効く開発は絶対にできません」とジラール氏は胸を張る。
Kleos RDは新時代ミケの幕開け。シマノやスラムと戦わなくてはならないコンポーネントではなく、もともとポテンシャルがあり、評価も高かったホイールに彼らは勝機を見出した。2023年は合計34000ペアを出荷し、2024年春にはホイールの生産ラインを4本から5本に増強したことで更なる飛躍を見据える。
「まず、ライバルブランドの製品を我々自ら試し、自社製品との比較を行い、立ち位置を把握することからスタートしました。さらに風洞施設には6回も足を運ぶなど、Kleos RDを作るにあたって過去のミケでは行われなかった手順を踏みました。すべてを見直し、今我々ができる、完璧なホイールを作り上げるためだったのです」。
2年に及ぶ開発研究の末に生まれたKleos RDシリーズは、36mm、50mm、そして62mmと異なるリムハイトを持つ3種類をラインナップする(日本国内展開は36と50の2種類)。中でもペア重量1390gを誇るKleos RD 36は、Verticale SLRの完成車パッケージにフル投入されるなど、この先日本のユーザーも増えるであろう製品だ。
フラッグシップのみに与えられる名称「RD」は「Race Division」の頭文字。つまりミケのテクノロジーをフル投入した最高レベルの製品であり、トッププロ選手の厳しい要求に応えることを意味している。リムは東レのトレカT1100とT700を組み合わせて軽さと硬さを両立し、36mmと50mmはリム内幅21mm、62mmは内幅23mmと、製品特性を踏まえた芸の細かい設計。チューブレスタイヤに対しては「冷静に市況を分析し、ユーザー層や安全性を考慮した上でもロードホイールにはフックが必要」と全モデルがフックドだ。高精度であることを極めた自社生産のアルミハブにはセラミックスピード製ベアリングが奢られていることも性能、そして所有欲を高めてくれる。
Kleos RD 36はペア重量1350g切りを目指していたが、それでは剛性が足りないことがわかり、あえて重量を増やして性能バランスを優先した。「もちろん"1300gのホイール"と打ち出した方がインパクトは強いでしょうが、剛性が足りないままでは良い評価が得られないと判断しました。20g重くても、反応性の高い実戦で武器になるホイールであることの方が重要だったのです」とジラール氏は言う。このようにマーケティング優先ではなく、あくまで性能第一主義であることも好感度が高い。
「実は今、我々ミケの開発チームは過去にないほど燃えているんです。なぜって、ようやく世界の舞台で戦える優秀なホイールを持つことができたからです。これを第一ステップにして、優秀なライバルブランドを越えるにはどうしようかと、全員がやる気に満ち溢れているんです」。
「そのためには、まずリムの高性能化が必要不可欠。私も先週まで中国に赴いてリムサプライヤーと打ち合わせを続けていました。今の剛性を維持しながら軽くするために何ができるか、もしくは、もっと革新的なアイディアを取り入れられないか、と。アジアや東欧の工場からある程度品質の良い完成品ホイールを購入し、ミケのロゴを貼って世に送り出すことは簡単です。でも、我々はイタリアでの自社開発と生産にこだわり、プライドを持って作った製品をハイエンドマーケットに送り込むことこそが目標なのです」。と、インタビューが終わる頃、ジラール氏は自信をのぞかせた。
新時代ミケの象徴であるKleos RDシリーズは、先述した通り日本国内ではKleos RD 36、そしてKleos RD 50の2種類が展開される。気になるプライスは2種類とも税込404,800円(税抜368,000円)と、高騰を続ける欧州ブランドのハイエンドホイールとしては比較的買い求めやすい価格帯を維持していることも嬉しい。
個人的な感想を言えば、軽く強く、各部が高い精度で仕上げられていることを感じるKleos RD 36は、軽量クライミングモデルとして生まれたVerticale SLRの走りを十分に引き立てるものだった。
確かにネームバリューはまだ低く、Verticale SLRの完成車付属ホイールが、カンパニョーロや、グルパマFDJが使うシマノではないことに不安を覚える方もいるだろう。でも安心してほしい。Kleos RDシリーズはあなたを不安にさせないホイールだ。コストパフォーマンスも高く、他人と被ることもほとんどない(今のうちは)。機敏なホイールを愛する方にとって、良い選択肢の一つとなるだろう。
本章では、2022年にウィリエール傘下となり、新体制のもと復権を目指すミケブランドと、彼らが誇る新時代のホイールラインナップを総力特集。1919年創業、イタリアの自転車産業中心地であるトレヴィーゾに本拠地を構える屈指の老舗コンポーネントブランドは、自社生産だからこそなし得る高精度に磨きをかけつつ、次なるステップに踏み出そうとしている。新しくCEOに就任したグレゴリー・ジラール氏へのインタビューから、新世代ミケの今を紐解いてお伝えしたい。
自社開発、自社生産にこだわるイタリアンコンポーネントブランド
ミケは1919年にアウグストとフェルディナンドのミケリン兄弟によって創業され、今年(2024年)で実に創業105年という歴史深いブランドだ。自転車とモーターサイクル製造で規模を拡大し、第二次世界大戦後は類まれな製造品質を武器に、クランクやカセット、ハブといったコンポーネント製造に特化した会社(Ferdinando Michelin Conegliano)を立ち上げたことが現在にまで至る源流。1986年には同じファミリーネームを使う仏ミシュラン社からの要請で「ミケ」にブランドネームを変更し、1995年には同社初の完組ホイールをリリース。2019年に創設100周年を迎えた3年後には長年貫いてきた単独資本から脱却し「世界を率いるイタリア自転車グループ創設」の名のもと、本社が近く、長年深い関係性を築いてきたウィリエール傘下に加わっている。
「ミケは100年以上に及ぶ歴史の中でいたずらな規模拡大を求めず、情熱を注ぎ込んで"本当に質の良いもの"を作り続けてきました。ウィリエールグループとなった今も、その根幹や、本社工場はもちろん、たった41名の従業員メンバーも変わっていません。むしろホイールをウィリエールの完成車に組み込むことになったため生産体制を増強している最中なのです」と、ウィリエールから出向し、ミケCEOに就いたグレゴリー・ジラール氏は言う。
「今最も大切なことは、ミケの認知度を上げること」と氏は続ける。なにせシマノやカンパニョーロ、マヴィックといったビッグブランドに比べれば知名度は皆無に近く、プロチームへの供給もトラックイタリア代表チーム(クランクセット/チェーン)や、ウィリエールのMTBチーム(ホイール/スルーアクスル)のみ。しかし逆を言えば、知名度がないからこそ、Verticale SLR発表会でKleos(クレオス)RD 36を試したとき、良い意味で走りに驚かされた。
ミケの強み、そして誇りは全製品の95%以上を自社工場で生産していることにある。カーボンリムだけはアジアから輸入しているが、それでもリムのカーボン素材の選定や設計、ホイールビルドは全て自社。ハブも、クランクも、スプロケットも、さらにはホイールスポークに至るまでミケは自ら金属材を削り込み、様々な加工を施して作り上げている。多くのバイクブランドはパーツ製造をサプライヤーに任せて組み上げのみを行なうが、ミケはプライドをもって自社製造を保ち続けている。
「Kleos RDホイールのスポークが良い例です。フロント用は空力を意識し、リア用は駆動性能を重視した形状に加工を施しています。さらにフロントハブ形状は風洞実験を経てエアロ性能が高まるように工夫を凝らしました。サプライヤーからそれぞれを購入しているようでは、ここまで小回りの効く開発は絶対にできません」とジラール氏は胸を張る。
Kleos RDは新時代ミケの幕開け。シマノやスラムと戦わなくてはならないコンポーネントではなく、もともとポテンシャルがあり、評価も高かったホイールに彼らは勝機を見出した。2023年は合計34000ペアを出荷し、2024年春にはホイールの生産ラインを4本から5本に増強したことで更なる飛躍を見据える。
「まず、ライバルブランドの製品を我々自ら試し、自社製品との比較を行い、立ち位置を把握することからスタートしました。さらに風洞施設には6回も足を運ぶなど、Kleos RDを作るにあたって過去のミケでは行われなかった手順を踏みました。すべてを見直し、今我々ができる、完璧なホイールを作り上げるためだったのです」。
ミケ新時代の狼煙、プロスペックでコストバリューも高いKleos RDホイール
2年に及ぶ開発研究の末に生まれたKleos RDシリーズは、36mm、50mm、そして62mmと異なるリムハイトを持つ3種類をラインナップする(日本国内展開は36と50の2種類)。中でもペア重量1390gを誇るKleos RD 36は、Verticale SLRの完成車パッケージにフル投入されるなど、この先日本のユーザーも増えるであろう製品だ。
フラッグシップのみに与えられる名称「RD」は「Race Division」の頭文字。つまりミケのテクノロジーをフル投入した最高レベルの製品であり、トッププロ選手の厳しい要求に応えることを意味している。リムは東レのトレカT1100とT700を組み合わせて軽さと硬さを両立し、36mmと50mmはリム内幅21mm、62mmは内幅23mmと、製品特性を踏まえた芸の細かい設計。チューブレスタイヤに対しては「冷静に市況を分析し、ユーザー層や安全性を考慮した上でもロードホイールにはフックが必要」と全モデルがフックドだ。高精度であることを極めた自社生産のアルミハブにはセラミックスピード製ベアリングが奢られていることも性能、そして所有欲を高めてくれる。
Kleos RD 36はペア重量1350g切りを目指していたが、それでは剛性が足りないことがわかり、あえて重量を増やして性能バランスを優先した。「もちろん"1300gのホイール"と打ち出した方がインパクトは強いでしょうが、剛性が足りないままでは良い評価が得られないと判断しました。20g重くても、反応性の高い実戦で武器になるホイールであることの方が重要だったのです」とジラール氏は言う。このようにマーケティング優先ではなく、あくまで性能第一主義であることも好感度が高い。
「ミケの開発陣は野心を燃やしている」
「実は今、我々ミケの開発チームは過去にないほど燃えているんです。なぜって、ようやく世界の舞台で戦える優秀なホイールを持つことができたからです。これを第一ステップにして、優秀なライバルブランドを越えるにはどうしようかと、全員がやる気に満ち溢れているんです」。
「そのためには、まずリムの高性能化が必要不可欠。私も先週まで中国に赴いてリムサプライヤーと打ち合わせを続けていました。今の剛性を維持しながら軽くするために何ができるか、もしくは、もっと革新的なアイディアを取り入れられないか、と。アジアや東欧の工場からある程度品質の良い完成品ホイールを購入し、ミケのロゴを貼って世に送り出すことは簡単です。でも、我々はイタリアでの自社開発と生産にこだわり、プライドを持って作った製品をハイエンドマーケットに送り込むことこそが目標なのです」。と、インタビューが終わる頃、ジラール氏は自信をのぞかせた。
Kleos RDは税抜ペア30万円代、高いコストバリューも嬉しい
新時代ミケの象徴であるKleos RDシリーズは、先述した通り日本国内ではKleos RD 36、そしてKleos RD 50の2種類が展開される。気になるプライスは2種類とも税込404,800円(税抜368,000円)と、高騰を続ける欧州ブランドのハイエンドホイールとしては比較的買い求めやすい価格帯を維持していることも嬉しい。
個人的な感想を言えば、軽く強く、各部が高い精度で仕上げられていることを感じるKleos RD 36は、軽量クライミングモデルとして生まれたVerticale SLRの走りを十分に引き立てるものだった。
確かにネームバリューはまだ低く、Verticale SLRの完成車付属ホイールが、カンパニョーロや、グルパマFDJが使うシマノではないことに不安を覚える方もいるだろう。でも安心してほしい。Kleos RDシリーズはあなたを不安にさせないホイールだ。コストパフォーマンスも高く、他人と被ることもほとんどない(今のうちは)。機敏なホイールを愛する方にとって、良い選択肢の一つとなるだろう。
提供:服部産業 / Text:So Isobe