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故マルコ・パンターニゆかりの地サンマリノで開催されたウィリエールの新車発表会。ガスタルデッロ兄弟の手によって我々ジャーナリスト前にウィリエールのVerticale(ヴェルティカーレ)SLRが姿を現した。名作Zero(ゼロ) SLRの後継機となる、さらに重量を削ぎ落としたクライミングモデルのデビューだ。

ウィリエールの、軽さへの飽くなき探究心

ツール前哨戦で実戦デビューしたVerticale(ヴェルティカーレ)SLR。Zero SLRを置き換える軽量モデルだ photo:wilier

ウィリエールの代表を務めるガスタルデッロ兄弟がVerticale SLRを披露 photo:wilier
グルパマFDJ、アスタナ・カザクスタンのメンバー、そしてメディア陣を招いて開催された発表会 photo:wilier


ツール・ド・フランス前哨戦で、その姿が目撃されていたウィリエールの新型モデル「Verticale(ヴェルティカーレ)SLR」が、イタリアにある小国サンマリノ共和国で開催された発表会でベールを脱いだ。地道なアップデートによって徹底的に無駄を省いたZero SLRの後継機は、グルパマFDJのチーム仕様(XS)で6.4kgという数字を叩き出す同社最軽量モデルへと昇華している。

軽さの追求は今も昔も変わらないウィリエールの真髄だ。ウィリエールは故マルコ・パンターニにイーストンチューブ製の超軽量バイク(当時7.2kg)を制作し、ツール・ド・フランス区間2勝と今日まで破られていないラルプデュエズ最速記録を達成。2006年にはブランド100周年を記念する「Cento(チェント)」、その2年後には美しいデザインをより進化させたCento 1(チェント ウノ)、さらに2009年の Cento 1 SLと、軽さと剛性、デザインを兼ね備えた名車を世に送り出してきた。

イーストンチューブを使った7.2kgのパンターニ用バイク。当時としては非常な軽さを誇った photo:wilier
ヴィンチェンツォ・ニバリが駆ったZero SLR。クライマーに愛され、ツールの最難関ステージ優勝にも貢献した photo:wilier


仏王者ヴァランタン・マドゥアスも来場。ツールで乗ることになるバイクと初対面を果たした photo:wilier

徹底的な軽さの追求は、当時世界最軽量のフレーム700g台突入を意味するZero.7(2011年)でスタートした。故ミケーレ・スカルポーニのジロ・デ・イタリア総合優勝に貢献したZero.7は、2016年に創立110周年を記念するフレーム重量680gのZero.6に進化。2019年に純ディスクブレーキ用軽量モデルとしてデビューしたZero SLRはアスタナのクライマーを支え、2020年ツールではミゲルアンヘル・ロペスのクイーンステージ制覇をお膳立てした。そんなウィリエールの軽量モデルが、イタリア語で「垂直」を意味するVerticale(ヴェルティカーレ)SLRに代替わりを果たす。

軽さ、剛性、反応性を高めたクライマーモデル

披露されたVerticale SLR。Zero SLRを置き換えるヒルクライムマシンだ photo:So Isobe

空力を重視するFilante SLRと双璧をなすピュアクライマーモデル。先代と同じコンセプトを引き継ぐVerticale SLRのキーワードは「LIGHTER THAN LIGHT」だ。

塗装済みのMサイズフレームで720gを達成し、未塗装フレームとフォーク、シートポスト、ハンドルバー、ヘッドセットなどスモールパーツを含めたトータル重量ではZero SLRに対し9.73%減と10%近い重量削減をマークする。開発チーフを務めるクラウディオ・サロモーニ氏は「ただ軽いだけのフレームを作るなら簡単。Verticale SLRはトップ選手が求める剛性や反応性、安定性を兼ね備えています。選手、特にクライマー勢も満足しているし、我々にとっての自信作となりました」と、その完成度に胸を張る。

まず初めに言っておくと、Verticale SLRに技術的・素材的なブレイクスルーはない。カーボン素材やホリゾンタル基調のフレームデザインもZero SLRと共通であり、ロードバイク開発がある程度閾値に達したと言っても過言ではない2020年代に、ウィリエール開発チームはひたすら小さな技術改善を繰り返し、積み上げ、そして形にした。それは1gを削り取る、血の滲むような努力の連続だったという。

細身のフレームデザインはZero SLRと共通。クライミングモデルのDNAが息づいている photo:So Isobe

リアステーは非常に華奢。それでいて剛性と快適性を兼ね備える photo:So Isobe
ストレート形状のフォークは左右非対称。クラウン部分の形状を煮詰め、軽量化を推し進めた photo:So Isobe


Verticale SLRに使われるカーボンの90%は日本製。先述した通り東レの第3世代炭素繊維であるトレカT1100とT800で強度を高め、ここにねじり剛性を高める高弾性率タイプのM46JBをブレンドして強さと硬さを両立する。400ピースにも及ぶカーボンピースは新規採用技術によって正確に金型に配置され、硬化プロセス中にカーボン素材を強化させつつ硬化させる特殊な発泡ポリマーを用いた新型テクノロジー「アクティブモールディングシステム」を新規採用したと開発者は力強くアピールする。

可能な限りレジン素材の使用量を抑え、無駄な素材を削ぎ落とすためにフレーム内部を美しく仕上げ、剛性を損なわないようカーボン樹脂内の気泡をできる限り排除する。「これらは全く新しい手法ではありませんが、1gでも軽く仕上げるために一切手を抜きませんでした」とは、かつてトロロッソF1チームのシャーシ制作に携わり、現在はウィリエールでカーボン積層を担当するマルコ・ジェノベーゼ氏の言葉。フレームをよく見回してみればリアのブレーキマウントは(心配になるほど)必要最小限の部材しか用いられておらず、シートポストクランプは上から締め付ける方式を止め、斜め下からの締め付けに変更することで素材量を削減。さらにオフセット-15mmと0mmの2種類が用意されるシートポストも、特にシートクランプ周辺の工夫によって10gを削り取っている。
走りに大きく影響するフロントフォークも軽量化が推し進められた。ディスクブレーキの応力に対処するため左右非対称デザインは維持され、左フォークレッグは反応性と制動力に耐えるためより大口径化。応力が集中するフォーククラウン(ヘッドチューブに繋がる部分)は徹底的な形状見直しによって強度向上と軽量化を同時に叶えたもの。Zero SLRで採用されたマヴィックのスピードリリースシステムは軽量化のために廃止され、ウィリエール傘下のミケが専用開発したスルーアクスルを採用して、安全性を担保しつつ更なる軽さを身につけたという。

目を引くのは専用設計のステム一体型ハンドル「V-Bar」だろう。フレア形状のハンドルは既に一般化しているが、V-Barは正面から見て一直線に末広がるになるのではなく、緩やかなS字を描いて左右15mmづつ、合計30mmフレアする形状を採用した。これはブレーキレバーも含めた空力性能を最大化させ、かつ人間工学に基づいて握りやすさをも叶えたもの。ステム長90mm、100mm、110mm、120mm、130mm、そして150mmの5種類が用意され、ステム長90mmと100mmは上幅370/下幅400mm、それより長いステム長のハンドルは上幅390/下幅420mm。すなわち現代レーサーのニーズに即したサイズ展開が用意されている。V-Barは完成車はもちろんフレームセットにもフレーム同色のものが付属する。

フレームセットで先代比-175g

ジオメトリーはグルパマFDJの声を活かして微調整。リーチやヘッドチューブ長を変更している photo:wilier

ウィリエールの総力を結集して生まれたVerticale SLRの未塗装フレーム(Mサイズ)は648g。同条件のZero SLRは766.5gと-118.5gもの軽量化を達成しており、フロントフォークは15mmスペーサーを取り付ける長さでコラムカットした状態で320gから296gへと-24g、シートポストは-10g、スルーアクスルは前後で-9g、ハンドルバーはステム100mモデルで310gと軽く-28.5gを削減。唯一重量が増しているのは堅牢性をましたリアのディレイラーハンガーだが、増加はわずかに0.5g。トータルで見れば-175g削減という極限のダイエットに成功したのだ。

こうして書き連ねるとVerticale SLRは扱いにくいカリカリの軽量モデルのように聞こえるものの、ジェノベーゼ氏によれば剛性はむしろ強化され、快適性についても従来通りの数値を維持しているという。チェーンステーには実測32mm幅のタイヤを余裕で飲み込むタイヤクリアランスが与えられ、フレームとハンドルのジオメトリーは今年からパートナーシップを組んだグルパマFDJからのフィードバックをもとに微調整。具体的にはXS(-2.5mm)とSサイズ(-1mm)でリーチが短くなり、反対にXL(+7mm)とXXLサイズ(+9mm)では長くなった。ヘッドチューブが2〜3mm伸びていることも含め、これらは全て最新ポジションを導入するグルパマFDJの意向に沿ったものだという。

美しいメタリックレッドは秀逸の美しさ。アップチャージ無しのレギュラーカラーとして用意される photo:wilier

フロントディレイラー台座もプロ選手の意向を組んだシステムだ。高速化するレースに対応すべく巨大なチェーンリングを取り付ける流れがあるが、Verticale SLRでは位置調整可能なFD台座を採用して55Tや56Tに対応しつつ、ホビーユーザー用の52Tや50T、あるいは48Tまでセット可能。シートポストにボルトオンできるリアライトが用意されているのは意外だが、「一般ユーザーも、プロのトレーニング用としても安全性のために作った。何よりも美しいフレームに合わない不格好なライトはダメ」というイタリアらしい美的センスに基づくものだという。

ツール・ド・フランスで正式実戦投入。国内価格はフレーム1,045,000円

メルカントゥールクラシックを制したレニー・マルティネス(フランス、グルパマFDJ) photo:wilier

正常進化を遂げ、性能を引き上げたVerticale SLRは、既にウィリエールがサポートするグルパマFDJとアスタナ・カザクスタンに手渡されており、各地のツール前哨戦で既に実戦投入済み。ツール・ド・フランス初出場を決めた20歳レニー・マルティネスは「イノベーションLAB」カラーにペイントされた最終プロトタイプのVerticale SLRでメルカントゥールクラシックのステージ優勝を挙げるなど、Verticale SLRは既に実績十分と言える活躍を見せている。

日本国内での販売パッケージはフレームセット(税込1,045,000円/フレームと同色のV-Bar付属)と、完成車2種類の合計3種類が用意される。完成車はシマノDURA-ACE(税込1,826,000円)もしくはULTEGRA(税込1,644,500円)をセットし、いずれもミケの最上級モデルであるKLEOS RD36ホイールをセットする。フレンチトリコロールにペイントされたグルパマカラーはプラス22万円(税込)のアップチャージとなる。

ウィリエール VERTICALE SLR スペック

ウィリエール Verticale SLR(グルパマFDJ) (c)wilier

ウィリエール Verticale SLR(レッド) (c)wilier
ウィリエール Verticale SLR(マットブラック/ラマ―ト) (c)wilier


レギュラーカラーレッド、マットブラック/ラマ―ト
チームカラーグルパマFDJ (+22万円)
シマノDURA-ACE DI2/ミケKLEOS RD36ホイール完成車1,826,000円(税込)
シマノULTEGRA DI2/ミケKLEOS RD36ホイール完成車1,644,500円(税込)
フレームセット(同色のV-Barが付属)1,045,000円
提供:服部産業 / Text:So Isobe