2024/07/02(火) - 18:00
故マルコ・パンターニゆかりの山岳路でウィリエール期待のVerticale SLRをテスト。剛性を増しつつも軽くしなやかであることを維持するマシンに、ウィリエールが考える現代軽量マシンの理想形を見た。
新型Verticale(ヴェルティカーレ)SLRのプレゼンの場となったのは、イタリアはエミリア=ロマーニャ州とマルケ州に挟まれた小国サンマリノ。標高749mの岩山を中心に広がる世界最古の独立共和国は、かつてイタリア中に無数に存在したという都市国家唯一の生き残りであり、故マルコ・パンターニが練習に通ったというゆかりの地でもある。メルカトーネ・ウノ時代のパンターニ供給モデルに端を発するウィリエールの超軽量バイク開発ゆえ、ここサンマリノがVerticale SLR発表の場所として選ばれた。
ジャーナリスト陣を先導するのは、グルパマFDJの将来を担うレニー・マルティネスや、フランス王者のヴァランタン・マドゥアス、そしてアスタナ・カザクスタンのアロルド・テハダ(コロンビア)という、ウィリエールが機材供給を行う2チームの豪華クライマーたち。初めて乗る新車にニコニコ顔のマルティネスと談笑しながら、筆者も山岳ライドをスタートさせた。
ツール・ド・フランスでアスタナが駆る、目に眩しい"ハルクグリーン"のVerticale SLRで統一した隊列が、サンマリノの市街地を抜けて山岳地帯へ。登坂区間に入ってすぐに感じたのは、Verticale SLRの圧倒的な挙動の軽さだった。
シマノDURA-ACEとミケのKLEOS RD36ホイールで武装したMサイズ(トップ長543mm)のテストバイクは、30cのヴィットリアCORSA PRO TLRタイヤを履いていた。トップ長535mm程度がちょうどいい僕にとっては少々大きめ(大きなバイクはダルい印象に繋がる)で、いくらタイヤのワイド化が進む中でも軽量バイクのテストに30cは重たいだろうと思っていたのに、Verticaleはそんな懸念を吹き飛ばすほどに軽やかに走る。
具体的に言えばダンシングの振りはこれまで試乗してきたディスクブレーキロードの中でもトップクラスに軽く、ヘッドからリアまで絶妙なしなりを伴って加速に繋げていく。5年前にウィリエール本社でテストした先代Zero SLRも線の細い軽い走りだったが、Verticaleは基本路線を維持しながらより高剛性で芯が太くなった。それでも、特にハイパワーでダンシングした時には依然として水中を泳ぐ生き物のような挙動があって、現代のクライマーバイクとはこうあるべき、を体現しているようにも思える。
ウィリエールのレースバイクは乗りやすい。これは僕一人の意見ではなく、ライドを共にしたジャーナリストやプロ選手たちも同じだったし、エアロモデルのFilante SLRを所有するCW編集長、綾野も共通した意見を持っている。これは快適性が備わっていることはもちろんのこと、特にBB周りが硬いバイクにありがちな「脚を跳ね返される」「硬すぎて踏めない」ということがないという特徴によるものであり、一般的に踏み心地/乗り心地の優しさは反応性と相反する要素だが、ウィリエールの、特にこのVerticaleは軽量バイクとしての「乗りやすさ」と「速さ」のバランスが絶妙だ。
Mサイズで6.9kg(ペダル付き)という質量的な軽さゆえにゼロ発進や低速域の登りが得意で、ペダリングに「踏みしろ」があるから重ためのギアで巡航するのも全くもって悪くない。Filanteと違って中高速域での伸びは感じないものの、クライマーバイクと言いつつも先代Zero SLRに比べてオールラウンドに性能向上を見せたように感じる。昨年ツールの全ステージ(TT除く)でZero SLRを使っていたアロルド・テハダも「反応性が上がったのでレースで強い武器になる。登りの苦しい場面で助けてくれるし、すごく良いバイクだ」と満足げだった。
今回のテストライドは60kmで獲得標高2000mという、これでもかと登りを詰め込んだコース。しかも最後にはイル・ピラータが一人こもってトレーニングを積んだ難関山岳チッポ・ディ・カルペーニャにアタックするレイアウトだ。パンターニに「Il Carpegna mi basta(練習にはカルペーニャがあれば十分だ)」と言わしめた森の中の暗い峠道は常時10%以上を刻み、舗装は信じられないほど割れ(ところどころ舗装が消失している)、積み重なった土や落ち葉で蛇行も不可というもの。
マルティネスや、スペインメディアとして参加していたオスカル・プジョルのペーシングは自分にとって明らかにオーバーペース(彼らにとってはソーシャルライド)だった。「アイムデッド」状態で最後のカルペーニャを登ることになったが、なんとか最後まで心折れずに頑張れたのは、脚当たりの良いVerticaleのおかげ。ウィリエールが隣町のライバルとして対抗心を燃やすピナレロのDOGMA F(特にレース向けに剛性強化を行った新型)だったらこうはいかなかっただろうな、と思う。
プロレースの高速化に伴ってエアロ化が進み、剛性強化の一途を辿るハイエンドバイクだが、それでもウィリエールは実直に軽量バイクの開発を進め、実に5年を要してVerticale SLRの発表に繋げた。グランツールの山岳ステージを獲るために開発されたバイクだが、その軽さとウィリエールの軽量バイクらしい乗り味は、ホビーユーザーに山岳を軽やかに走る喜びをもたらしてくれる。例年の流れから推測するに、遠くない将来には弟分のSLグレードが登場するだろうが、このシャープな走りはSLRグレードだけで享受され得るものだ。
うねりながらフレアする特殊な専用ハンドル「V-bar」は奇抜な見た目以上に使いやすいものだった。当たり前のことながら、人間工学に基づいて設計したというS字フォルムは一直線フレアのハンドルより握りやすく、100mmステムで310gという軽さはダンシングの軽さにも効いているように思う。遅れを取り戻そうとめいっぱい飛ばした雨のダウンヒルでは何度か30cのCORSA PROのグリップ力に助けられる場面があったし、プロロゴ自慢のCPCテクノロジーを投入した新作バーテープ「ONE TOUCH 3D」も安心感を高める要素になってくれた。
剛性を増しつつも軽くしなやかであることを維持したフレームに、セミディープのチューブレスホイール、そして転がりとグリップ、振動吸収性を兼ね備えた30cタイヤ。これがウィリエールが考える現代の軽量バイクなのだ。
これまで僕が乗ってきたZero SLR一番の違いは剛性が強化されたこと。僕は体重が81kgでパワーもあるから、そのメリットは軽量クライマーより大きいんだ。剛性が強化されたことで動きが機敏になったので、全体として走りがより軽く感じたね。ダウンヒルでは機敏なのに安定していたのは、ミケのホイールセットによる部分も大きいと思うけれど、フルパッケージとして登りも下りもZero SLRに比べて良くなった。峠道を愛する一人として嬉しい進化だと思ったよ。
今現在でもZero SLRの走りは一級品だし、僕にとってお気に入りのバイクだ。でもVerticale SLRは全ての要素を改良、改善した進化版。幸い僕のもとにVerticale SLRが届くことになっているので本当に幸せだよ。ブラックカラーを選んだけれど、その理由は一番軽い塗装だから。レッドやグリーンも良かったけれど、ウィリエールの歴史ある「ラマート」を加えたブラックもすごくクラシックで魅力的だ。ライフワークとして峠の肖像を切り取ったアカウントを運営しているけれど、その相棒にVerticaleに乗れるのは本当に幸せなことだね。
テストを通してウィリエールは歴史深く、古のエッセンスを現代バイクに取り込み、シンプルなルックスにまとめ上げることのできる稀有なメーカーだと感じた。ポジションにこだわる僕としてはテストバイクのサイズが合わずにちょっと残念だったけれど、それでも俊敏な走り、特に素早いパワー伝達性能に感動できたんだ。
走りそのものも良かったけれど、驚いたのがハンドルバーだった。正直プレゼンテーションを聴いた時は形状に懐疑的だったけど、ダウンヒルを攻めた時はとても快適で、下ハンを握りながらのブレーキ操作がとても楽だった。上幅370mmは今のレーサーが求める形であり、ブラケットを握れば自然にエアロポジションを取れる。実はウィリエールのロードバイクは初めてだったけど、今僕が熱中しているMTBレースではダブルサスのURTA MAX SLRに乗っているんだ。120mmストロークなのに良く走る極めて優秀なバイクだよ。ウィリエールは良いバイクの作り方を知っているブランドだと思う。
次章では、ウィリエールの開発チーフを務めるクラウディオ・サロモーニ氏へのインタビューを紹介する。Verticale SLRに投入された新テクノロジーやメッセージ、そして「今までのどのプロチームより機材研究に熱心」と言うグルパマFDJとの協業について聞きました。
サンマリノからカルペーニャを目指す、パンターニゆかりの山岳ライド
新型Verticale(ヴェルティカーレ)SLRのプレゼンの場となったのは、イタリアはエミリア=ロマーニャ州とマルケ州に挟まれた小国サンマリノ。標高749mの岩山を中心に広がる世界最古の独立共和国は、かつてイタリア中に無数に存在したという都市国家唯一の生き残りであり、故マルコ・パンターニが練習に通ったというゆかりの地でもある。メルカトーネ・ウノ時代のパンターニ供給モデルに端を発するウィリエールの超軽量バイク開発ゆえ、ここサンマリノがVerticale SLR発表の場所として選ばれた。
ジャーナリスト陣を先導するのは、グルパマFDJの将来を担うレニー・マルティネスや、フランス王者のヴァランタン・マドゥアス、そしてアスタナ・カザクスタンのアロルド・テハダ(コロンビア)という、ウィリエールが機材供給を行う2チームの豪華クライマーたち。初めて乗る新車にニコニコ顔のマルティネスと談笑しながら、筆者も山岳ライドをスタートさせた。
走りもZero SLRから正統進化、剛性を増しつつ軽量路線を維持
ツール・ド・フランスでアスタナが駆る、目に眩しい"ハルクグリーン"のVerticale SLRで統一した隊列が、サンマリノの市街地を抜けて山岳地帯へ。登坂区間に入ってすぐに感じたのは、Verticale SLRの圧倒的な挙動の軽さだった。
シマノDURA-ACEとミケのKLEOS RD36ホイールで武装したMサイズ(トップ長543mm)のテストバイクは、30cのヴィットリアCORSA PRO TLRタイヤを履いていた。トップ長535mm程度がちょうどいい僕にとっては少々大きめ(大きなバイクはダルい印象に繋がる)で、いくらタイヤのワイド化が進む中でも軽量バイクのテストに30cは重たいだろうと思っていたのに、Verticaleはそんな懸念を吹き飛ばすほどに軽やかに走る。
具体的に言えばダンシングの振りはこれまで試乗してきたディスクブレーキロードの中でもトップクラスに軽く、ヘッドからリアまで絶妙なしなりを伴って加速に繋げていく。5年前にウィリエール本社でテストした先代Zero SLRも線の細い軽い走りだったが、Verticaleは基本路線を維持しながらより高剛性で芯が太くなった。それでも、特にハイパワーでダンシングした時には依然として水中を泳ぐ生き物のような挙動があって、現代のクライマーバイクとはこうあるべき、を体現しているようにも思える。
乗りやすさと速さの絶妙なバランス
ウィリエールのレースバイクは乗りやすい。これは僕一人の意見ではなく、ライドを共にしたジャーナリストやプロ選手たちも同じだったし、エアロモデルのFilante SLRを所有するCW編集長、綾野も共通した意見を持っている。これは快適性が備わっていることはもちろんのこと、特にBB周りが硬いバイクにありがちな「脚を跳ね返される」「硬すぎて踏めない」ということがないという特徴によるものであり、一般的に踏み心地/乗り心地の優しさは反応性と相反する要素だが、ウィリエールの、特にこのVerticaleは軽量バイクとしての「乗りやすさ」と「速さ」のバランスが絶妙だ。
Mサイズで6.9kg(ペダル付き)という質量的な軽さゆえにゼロ発進や低速域の登りが得意で、ペダリングに「踏みしろ」があるから重ためのギアで巡航するのも全くもって悪くない。Filanteと違って中高速域での伸びは感じないものの、クライマーバイクと言いつつも先代Zero SLRに比べてオールラウンドに性能向上を見せたように感じる。昨年ツールの全ステージ(TT除く)でZero SLRを使っていたアロルド・テハダも「反応性が上がったのでレースで強い武器になる。登りの苦しい場面で助けてくれるし、すごく良いバイクだ」と満足げだった。
今回のテストライドは60kmで獲得標高2000mという、これでもかと登りを詰め込んだコース。しかも最後にはイル・ピラータが一人こもってトレーニングを積んだ難関山岳チッポ・ディ・カルペーニャにアタックするレイアウトだ。パンターニに「Il Carpegna mi basta(練習にはカルペーニャがあれば十分だ)」と言わしめた森の中の暗い峠道は常時10%以上を刻み、舗装は信じられないほど割れ(ところどころ舗装が消失している)、積み重なった土や落ち葉で蛇行も不可というもの。
マルティネスや、スペインメディアとして参加していたオスカル・プジョルのペーシングは自分にとって明らかにオーバーペース(彼らにとってはソーシャルライド)だった。「アイムデッド」状態で最後のカルペーニャを登ることになったが、なんとか最後まで心折れずに頑張れたのは、脚当たりの良いVerticaleのおかげ。ウィリエールが隣町のライバルとして対抗心を燃やすピナレロのDOGMA F(特にレース向けに剛性強化を行った新型)だったらこうはいかなかっただろうな、と思う。
ウィリエールが考える現代クライミングバイク
プロレースの高速化に伴ってエアロ化が進み、剛性強化の一途を辿るハイエンドバイクだが、それでもウィリエールは実直に軽量バイクの開発を進め、実に5年を要してVerticale SLRの発表に繋げた。グランツールの山岳ステージを獲るために開発されたバイクだが、その軽さとウィリエールの軽量バイクらしい乗り味は、ホビーユーザーに山岳を軽やかに走る喜びをもたらしてくれる。例年の流れから推測するに、遠くない将来には弟分のSLグレードが登場するだろうが、このシャープな走りはSLRグレードだけで享受され得るものだ。
うねりながらフレアする特殊な専用ハンドル「V-bar」は奇抜な見た目以上に使いやすいものだった。当たり前のことながら、人間工学に基づいて設計したというS字フォルムは一直線フレアのハンドルより握りやすく、100mmステムで310gという軽さはダンシングの軽さにも効いているように思う。遅れを取り戻そうとめいっぱい飛ばした雨のダウンヒルでは何度か30cのCORSA PROのグリップ力に助けられる場面があったし、プロロゴ自慢のCPCテクノロジーを投入した新作バーテープ「ONE TOUCH 3D」も安心感を高める要素になってくれた。
剛性を増しつつも軽くしなやかであることを維持したフレームに、セミディープのチューブレスホイール、そして転がりとグリップ、振動吸収性を兼ね備えた30cタイヤ。これがウィリエールが考える現代の軽量バイクなのだ。
ウィリエールアンバサダーとプジョルに聞く、Verticale SLRの走り
筆者はこの発表会で一緒に過ごしたウィリエールアンバサダーのダニエル・ヒューズ(イギリス)と、かつてチーム右京で走り、ツアー・オブ・ジャパン総合優勝に輝いた経験を持つオスカル・プジョルに話を聞いた。ウィリエールのバイクを知り尽くした人、そして元プロ選手という異なる視点からのVerticale SLRについて聞いた。ダニエル・ヒューズ(イギリス、ウィリエールアンバサダー)
これまで僕が乗ってきたZero SLR一番の違いは剛性が強化されたこと。僕は体重が81kgでパワーもあるから、そのメリットは軽量クライマーより大きいんだ。剛性が強化されたことで動きが機敏になったので、全体として走りがより軽く感じたね。ダウンヒルでは機敏なのに安定していたのは、ミケのホイールセットによる部分も大きいと思うけれど、フルパッケージとして登りも下りもZero SLRに比べて良くなった。峠道を愛する一人として嬉しい進化だと思ったよ。
今現在でもZero SLRの走りは一級品だし、僕にとってお気に入りのバイクだ。でもVerticale SLRは全ての要素を改良、改善した進化版。幸い僕のもとにVerticale SLRが届くことになっているので本当に幸せだよ。ブラックカラーを選んだけれど、その理由は一番軽い塗装だから。レッドやグリーンも良かったけれど、ウィリエールの歴史ある「ラマート」を加えたブラックもすごくクラシックで魅力的だ。ライフワークとして峠の肖像を切り取ったアカウントを運営しているけれど、その相棒にVerticaleに乗れるのは本当に幸せなことだね。
オスカル・プジョル(スペイン、元プロ選手/YouTuber)
テストを通してウィリエールは歴史深く、古のエッセンスを現代バイクに取り込み、シンプルなルックスにまとめ上げることのできる稀有なメーカーだと感じた。ポジションにこだわる僕としてはテストバイクのサイズが合わずにちょっと残念だったけれど、それでも俊敏な走り、特に素早いパワー伝達性能に感動できたんだ。
走りそのものも良かったけれど、驚いたのがハンドルバーだった。正直プレゼンテーションを聴いた時は形状に懐疑的だったけど、ダウンヒルを攻めた時はとても快適で、下ハンを握りながらのブレーキ操作がとても楽だった。上幅370mmは今のレーサーが求める形であり、ブラケットを握れば自然にエアロポジションを取れる。実はウィリエールのロードバイクは初めてだったけど、今僕が熱中しているMTBレースではダブルサスのURTA MAX SLRに乗っているんだ。120mmストロークなのに良く走る極めて優秀なバイクだよ。ウィリエールは良いバイクの作り方を知っているブランドだと思う。
次章では、ウィリエールの開発チーフを務めるクラウディオ・サロモーニ氏へのインタビューを紹介する。Verticale SLRに投入された新テクノロジーやメッセージ、そして「今までのどのプロチームより機材研究に熱心」と言うグルパマFDJとの協業について聞きました。
提供:服部産業 / Text:So Isobe