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バスク、マリャビアのオルベア本社見学を終えた筆者は、翌日早朝にビルバオ空港から、スペインの対側にあるバレンシア行きの飛行機に飛び乗った。目指すのはバレアス海に面したアリカンテ周辺。温かい海風と、眩しい太陽がもたらす温暖な気候を求め、ヨーロッパ中のプロチームが冬季トレーニング合宿の定番地として集まる場所だ。

本格シーズンインに向けてコンディションを整えるロット・デスティニー photo:CorVos

バレンシア空港で合流したのは、かつてプロ選手として活躍し、現在はサイクリングプロモーターとして活動する"フミ"こと別府史之氏だ。

プロ時代からフランスに住う彼は、この時ちょうどオルベアとのパートナーシップ締結し、マイバイクの到着を待つばかりのタイミング。「まだテストライドしかできていないけど、すごく走りの良いバイクだし、バスクのDNAが込められた伝統あるブランドと関われることは本当に嬉しいですね。キャンプ訪問も現役以来で楽しみです」と心躍らせる彼と共に、既に距離を乗り込むチームに潜り込ませて頂いたのだ。

伝統あるブランドとチームのコラボレーションは何を生み出すか

トレーニングを重ねるカンペナールツたち photo:CorVos

今年からオルベアを駆るロット・デスティニーは、海岸線から少し離れたゴルフリゾートホテルに合宿拠点を置いていた。海こそ見えないけれど、暖かい太陽光と、白っぽくて岩山、南国を感じさせる植物たち。スペインというキーワードに想像する姿そのものの中に停まる、派手なチームカーがその存在をアピールする。

昨年10勝を挙げたノリに乗る若手アルノー・ドゥリーや、現役最終年度を見据える逃げの名手トーマス・デヘント、元アワーレコードホルダーのヴィクトール・カンペナールツ。主要メンバーのほとんどが、この温暖な場所で本格シーズンインに向けてコンディションを整えていた。

ベルギーに拠点を置く、ベルギー人選手中心の老舗チームとバスクブランドがタッグを組んだことを意外なニュースとして受け止めた人も多いだろう。しかもロットにとっては、長年パートナーシップを築いてきた同郷リドレーから乗り換えだ。しかし双方にとって、異なる歴史、そして伝統を持つ相手と組むことは大きな意味を成すのだという。

雨でもトレーニングメニューに変更なし。ベルギー選手にとって悪天候は慣れっこだ photo:Fumyuki Beppu

プロダクトマネージャーのアリザガ氏と話すヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー) photo:Fumyuki Beppu
逃げの名手トーマス・デヘント(ベルギー)。現役最終年度を過ごす photo:Fumyuki Beppu



「オルベアにとって、これまではワールドツアーという大舞台でビッグブランドと渡り合う事は無理でした。でも、自社ファクトリーを持ち、スタッフも増えた今こそがステップアップの時期であると社内スタッフ全員で考え、決定に繋げたんです」と言うのは、オルベアのプロダクトマネージャーを務めるホセバ・アリザガ氏。「ロットはプロトンの中で最も歴史あるチームであり、パートナーとして申し分ない。彼らのメインターゲットとなるクラシックレースは僕らにとって未知の分野だし、そこから得るフィードバックは我々にとって素晴らしいノウハウになりますから」とも続ける。

ORCA AEROが主力モデル -300gのプロトタイプも目撃

チームのメインバイクであるORCA AERO。メンバーの7割ほどがこちらを選択 photo:Fumyuki Beppu

ホテルに用意されたチームパーキングには巨大なメカニックトラック2台が据え付けられ、車内と屋外で5名のメカニシャン達がフル稼働でチームバイクの組み立てを進めていた。

作業をひと段落させたメカに話を聞いたところ、ロット・デスティニーのチームバイクは合計おおよそ300台以上。バイクは軽量モデルのORCAとエアロモデルのORCA AEROがレース用とスペア用、さらに選手それぞれの自宅用で用意され、かつタイムトライアルバイク「ORDU」もレース用と練習用がある。さらに16名が所属する女子チーム、17名が所属するU23育成チームも含めれば、合計バイク台数は誰も分からないほどに膨れ上がる。

春のクラシックレースを得意とし、グランツールでステージ優勝量産を狙うロット・デスティニーの主力バイクがエアロを最重視した「ORCA AERO」だ。厳しい登坂を含むコースではORCAも併用され、注目の22歳レナルト・ファンイートヴェルト(ベルギー)のUAEツアー総合優勝にも貢献しているが、やはりキャンプを見回していても、クラシックハンターの多いチームゆえ軽さよりもエアロに対するニーズが強い模様。

真っ黒のORCA AERO。300gを削ぎ落としたプロトタイプだという photo:Fumyuki Beppu

クライマーは軽量なORCAを選択。選択肢を絞らないこともオルベアが重視することだ photo:CorVos

キャンプで目を引いたのがオルベアロゴすら無い、真っ黒なORCA AEROだ。一瞬新型かと思ったものの、チームカラーにペイントされた通常モデルと見比べてもカタチ自体は全く一緒。キャンプに同席したアリザガ氏に聞いたところ、なんとこのブラックバージョン、フレーム形状はそのままに重量を300gも削ぎ落としたプロトタイプなのだという。

「ORCA AEROは空力こそ抜きん出ていますが、最新の軽量エアロバイクと比較すると重量で少々ハンデがあることは事実です。ロットの選手には出来る限り軽いバイクに乗って欲しいですし、カーボン積層を減らした軽量モデルを作り供給しました」とアリザガ氏。詳細こそシークレットだったものの、軽量化を進め、耐久性と耐衝撃性を上げるべく高品質なカーボンとレジン素材を投入しているという。

同氏によれば積層を減らしたことで剛性は若干落ちたものの、これは「乗り心地の良いバイクが欲しい」という、若手を中心に増えてきたニーズをも叶えるため。ワイドタイヤ興隆に代表されるように、今はただ軽く硬いバイクではなく、プロ選手が快適性を求める時代へと移り変わろうとしている。この軽量バージョンは市販を想定しない研究開発モデルだというが、オルベアがまだ少数派のニーズをも敏感に捉えていること、そしてどのようにフィードバックを製品に落とし込むかの好例が見えてくる。

ヴィクトール・カンペナールツ 特別インタビュー

「まさに僕らが求めていた走りだった」

話を聞いたヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー)。機材に造詣深いことでも知られる photo:CorVos

さて、注目すべきは、ロット・デスティニーの選手たちがオルベアのバイクをどう感じているのか。取材班はキャンプに同席した別府史之氏と共に、元アワーレコードホルダーであり、機材に厳しい選手としても知られるヴィクトール・カンペナールツ(ベルギー)に話を聞く機会に恵まれた。長年乗り続けたブランドから乗り換える不安はなかったのか。あなたたちにとって、オルベアのバイクはどういうものなのか?

「オルベアのバイクには本当に満足しているよ。昨年の冬にチームを通してオルベアからコンタクトがあった。僕がバイクに詳しく、細部まで興味があると知られているからね。最初にスタッフからオルベアの印象は?と聞かれ、乗ってみないと分からないよと答えた(笑)。石畳のあるベルギーでのテストもリクエストしてね。

彼らは1週間後にベルギーまでバイクを持ってきてくれて、2日間に渡りアルデンヌやトラックでテストした。僕の住まうエリアなら、それぞれの登りや石畳ごとにレースで必要とされるスピードを把握している。その結果、とても良いバイクだということを理解できた。特にORCA AEROが良い。高速域でも安定しているし、それはまさに僕らが求めていたものだった」。

午前中の練習を終え、昼食を済ませたばかりだったカンペナールツはニコニコしながらその時の様子を振り返った。バイクについて話している時、彼はとても気分が良さそうだった。

「ORCA AEROは高速域でも安定している。それは僕らが求めていたものだった」 photo:CorVos

「ORCAも軽さと高い剛性に驚いた。一般的にその2つは相反するものだから。チームのクライマーはその恩恵を山岳ステージで十分に受けられるだろう。剛性はアタックするときの反応性の良さに繋がる。コーナーを駆け抜けるスピードも速いと感じたよ。

TTバイク(ORDU)は早めに手配してもらい、もう3ヶ月は練習している。感触も良く、低いポジションを実現できることも好みだ。ハンドルも信頼性がある。200kmも乗るとボルトを締め直さなければならないタイムトライアルバイクもあるけれど、ORDUはそういった心配がない。オルベアのOQUO(オクオ)ホイールの感触も良かったし、全体的に良いブランドと製品だと思う」。

ベタ褒めとも言える高評価だったものの、気になるのは彼が練習中ずっと乗っていた軽量プロト版のORCA AEROだ。-300gを実現しても完成車重量はまだ重いと言うが、「ワールドツアーに完全フラットなレースはない。必ず登りがある。オルベアのプロトモデルは軽くて気に入ったしレースで助けになるだろう。現時点で6.8kgのエアロバイクは不可能だけど、そこに近づけるのは良いこと。オルベアとチームは絶えず連絡を取り合っているし、良い関係が築けている。素晴らしいことだと思う」と加える。

選手がトレーニングに出ている間、ORCAのテストライドに出かけたフミこと別府史之氏。積極的なSNS投稿も確認してほしい photo:Fumyuki Beppu
先述したアリザガ氏によれば、チームは昨年末から風洞実験や出力テストでオルベアバイクを評価してきた。カンペナールツ自身もORCAとORCA AERO、そして他ブランドとの違いを把握していた。

「50km/hで走る時、ORCA AEROはORCAと比べて11ワットをセーブできる。一般的な数値で見ればORCAの空力も十分良いと言える範疇だが、僕は何度もアタックする走り方なので、空力アドバンテージを重視してORCA AEROを常用する。山岳では順位を狙わないしね。昨年まで乗ってきたバイクと比べるとORCA AEROは50km/hで3ワット低く走れる。小さい差なのでどちらも優秀だけど、マージナルゲインの差は大事だよ」

機材に無頓着な選手も(意外なことに)少なくないが、マージナルゲインを積み重ねるタイムトライアルスペシャリストの言葉は非常に重かった。良くも悪くも忖度無い彼の意見からは、奇をてらわず、性能と信頼性を重視するオルベアの姿勢が見て取れる。

ちなみに、筆者は昨年ツール・ド・フランスでカンペナールツが58Tという巨大なチェーンリングを使っている姿を目撃していたが、カンペナールツは今年も58/42をメインで使い、長いダウンヒルがあるステージでは逃げを打つために更に大きなギアを使うという。それに合わせて、チェーンの屈曲率を抑えて抵抗を生まないよう、リアカセットも大きいものに変更。ただし前後共ビッグギアは重量がかさむ為、そのバランスを重視する必要がある、とも。このようにプロ選手はもの凄い速さで変わりゆくトレンドに対応し、進化し続けているのだ。

キャンプ滞在中の食事はチームと同席。ホテルが提供する選手メシを頂くことができた
中央に置かれた調味料と、計りの数々。チームが算出した必要カロリーに基づいて、選手個人が食事量を軽量するのだ


ある日の夕食一例。低カロリー高タンパクで風味を最大限活かしたメニューが日替わりビュッフェスタイルで並ぶ
しっかり量を計りながら皿盛りする選手たち。明確な基準で運用されているという

日本国内輸入販売:(有)サイクルクリエーション
TEL:0297-79-4714
email: info.japan@orbea.com

提供:オルベア text:So Isobe