2023/05/01(月) - 15:31
スイス南西部に位置するヴォー(Vaud)州、別名レマン湖地方とも言われる自然豊かなカントン(地方)はサイクリングに最適なエリア。スイスサイクリング特集Vol.2ではこのヴォー州を満喫するジュラ山脈〜ヴォードワーズ山脈のアルプス峠越えツーリングを紹介します。
vol.1で紹介したワイン&ライドも同じヴォー州の湖水エリア。ラヴォーの葡萄畑をE-bikeで巡ったあと、我ら3人は一路UCI(世界自転車競技連合)がある街エーグル(Aigle)へと向かった。まずは明日から乗るロードバイクをレンタルすることがその目的。
実は今回のスイスサイクリングツアーではヘルメットとウェア、シューズは日本から持参したものの、自転車は持ってこなかった。スイスで乗る自転車はすべてレンタルで済ませるというのが当初からのプラン。5日間のツアーで、毎日場所を変え、フィールドを変えてサイクリングを楽しむ計画で、乗る自転車も毎日違うという予定。私自身は「果たしてそんなことが可能なのか?」と疑問だったのだが...。
前日のラヴォーの葡萄畑巡りは誰でもが楽しめるサイクリングだったが、このアルプスの峠越えツーリングはチャレンジしたいサイクリストにオススメだ。このヴォー州にはスイス政府観光局が奨める20以上のバイクルートがあり、その密度はスイス随一を誇っている。つまりスイスのサイクリング・リヴィエラというわけだ。
今回スイスを旅する3人、フェローサイクルの水澤さん、スイス政府観光局のサラ・ロロフ女史、そして私・シクロワイアード編集部の綾野がまず向かったのはエーグル市内のサイクルショップ。そこでロードバイクをレンタルできるという話だった。店内にあるレンタルバイクから、身体にあったサイズからショップスタッフにお任せで提案してもらった。
綾野に差し出されたのはBMC TeamMachine SLRというカーボンフレームのディスクロードバイク。なんとシマノ・デュラエースのディスクブレーキとDT SWISSのカーボンホイールを装備した150万円以上する最高級モデルだった。
スイスに来る直前に足を怪我してしまい、ペダルを漕ぐことに不安があるサラさんにはイタリアブランドのウィリエールのE-Bikeが提案された。こちらもなんと250万円近くする最高級モデルのEロードバイク! 「こんなに素晴らしいバイクが借りられるなんて!」と、驚きを通り越して大興奮してしまった二人。水澤さんはスコットADDICTのカーボンロードバイクを日本から持参していた。
そしてレンタル料を聞いて2度ビックリ。ロードバイクとE-bikeともに1日70CFR(約10,500円)、2日で110CFR(約16,600円)、1週間でも230CFR(約34,700円)ということで、こんなに高品質なバイクがこんなに手軽な料金でいいのか、と耳を疑ってしまった。これなら荷物料金を支払ってまで飛行機で自身のバイクを持ってくる選択肢は無いほどに安いと思える...(もちろんレンタル料はショップにより異なります)。
荷物をサポートカーに預け、いざ出発。朝からあいにくの雨模様だが、軽い雨で気温も低くないためツアーは決行。少しの不安を持っていざクロワ峠(Col de la Croix)へと登り始めた。
まず最初の難関、ヴォードワーズ山脈のクロワ峠(1,776m)は、先の7月のツール・ド・フランス2022第9ステージでもコースに採用された峠で(ツール・ド・フランスでは周辺国も訪問する)、綾野は2ヶ月前にも撮影で訪れている。標高1360m地点のホテルから1,776mのクロワ峠頂上までは距離7km、平均勾配4%、獲得標高差420mというプロフィール。アランさん曰く、「プロレーサーたちが通った峠ということで心配するなかれ、急勾配の箇所が無いのがクロワ峠の良いポイント。一定ペースで淡々と登ることができますよ」とのこと。
肌寒い小雨のなか走り出したが、すぐに身体は温まり、ジャケットは脱ぐことに。サラさんはEロードバイクでスイスイ進んでいくし、水澤さんも調子が良さそう。アランさんは「今日のメンバーは心配ないね」と笑っている。
標高が高くなるにつれ森林限界を超え、樹林帯を抜けて草原地帯へと出るため一気に展望が開ける。その景観の素晴らしさがアルプスサイクリングの魅力だ。途中でMTBトレールなどの案内道標が何本も現れる。そのどこを走ってもごきげんなトレイルなのだろう。
クロワ峠には1時間ほどで到着。アランさんは「ここはクルマも少なくて、とても走りやすい峠。スイスには有名な峠が多いけれど、観光地として人気なだけでなく交通の要所のため、クルマが多く、とくにバカンス中などは自転車では走りにくいことも多い。その点クロワ峠は主要な都市も結んでいないためクルマが少なく、ハイカー以外の観光客も少ない。だからサイクリング向きの峠としてピックアップしたんです」。なるほど、納得。ヒルクライム中もずっとおしゃべりが楽しめたのは、勾配が適度で厳しくなく、クルマもほとんど通らないからだった。
クロワ峠の脇の広場に山小屋レストラン「Chez Francine(シェ・フランシーヌ)」がある。実は出発前からここで朝食をいただくことにしていた4人。小屋のなかは暖かく、チーズにハム、温かいカフェオレをいただき、小屋の女性主人と楽しい談笑の時間。本日2度めの朝食はとても充実したものだった。
下りきったら2つ目の峠、モス峠(Col des Mosses)にチャレンジ。モス峠(標高1445m)もツール・ド・フランスで通過した峠だ(ただし進行方向は逆だった)。Route de Pillon(ピヨン道路)からRoute de Mosse(モス道路)を走り、麓からは距離8km、獲得標高差約300m。アラン氏の案内でメインルートから外れた細道で向かう。このショートカットルートは風景が良く、のどかで走りやすかった。モス峠はなだらかな道沿いの見晴らしの良い峠だ。
白衣とキャップをまとい、ガイドさんに製造所内を案内してもらった。草原で草を食む牛からとれた生乳と近隣地で採取される岩塩と清冽な水を使い、チーズが生産されていく。棚で熟成が進む円盤状のチーズに圧倒される。
視覚で食欲を刺激された後は外のテラスでチーズをメインにしたランチを頂く。プレートにぎっしり載った色々な種類のチーズは少なくとも30ヶ月以上熟成されたもの。製造所で生産されるすべての種類のチーズをいただいた。繊細なアルプスハーブの豊穣なアロマと、独特のスパイシーでフルーティーな味わいがあり、若干ナッツのような風味も。もちろんラヴォー産の白ワイン「シャスラ」とあわせて味わった。
ランチと工場見学を済ませると、外はすっかり雨が上がって青空が広がっていた。緑の山肌がみずみずしい緑色に輝く。やはり天気は良いに越したことはない。
Etivasからダイナミックなダウンヒルを経てさらに下り、山間の街シャトー・デー(Château-d'Œx)に到着。この街が今日のフィニッシュで宿泊地。石造りの大通りを歩いた街の真ん中のHotel de Ville(オテル・ド・ヴィル)という名前のホテルに泊まる。
ここでアランさんとはお別れ。聞けば驚くことにアランさんは来た道を戻り、また別の峠越えルートで自身の住むグリヨン村まで自転車で帰るという。その距離60km。日がまだ高く、9時頃まで明るいスイスとはいえ、そのタフさに驚く3人。
アランさんはプロフェッショナルな走りの最高のガイド、郷土愛と自転車への情熱を感じる素敵なサイクリストでした。またお会いしましょう。なおアランさんが主宰するウェブサイト A SWISS WITH A PULSEではアランさんが実際に走って奨める本格的サイクリングコースが各エリアに渡って紹介されている。ヴォー州周辺を走りたいサイクリストは必見だ。条件が合えばアランさんにガイドを頼むこともできる。
そして今回はアランさんがアレンジしてくれたツアーにより、レンタルしたロードバイクは荷物を運んでくれたサポートカーが回収してエーグルのDomCycleに返却してくれることに。
ホテルでシャワーを浴びて、夕食前に近くのアウトドアスポーツ店 ORIGINE SPORTS(オリジンスポーツ)に伺い、明日の朝レンタルするマウンテンバイクの予約をした。そのお店はシャトー・デーの街の中心部のホテルから徒歩2分のところにあり、フレンドリーな店主さんが案内してくれ、手続きも簡単だった。お借りするMTBはもちろんE-Bike。スイスの山の街ではアウトドアスポーツショップがレンタルバイクをしていることが多く一般的なため、スキー場(夏場はトレッキングやMTBライドの基地となる)の近くにはこうした形態のお店が多く見つかる(レンタサイクルを借りるのも簡単だ)。
ペイダンオー地方(Pays-d'Enhaut)の牧草地が広がるのどかな山里の街シャトー・デー。その周辺をE-MTBで巡る観光サイクリングツアー。ただしほぼMTB初心者であるためルートはテクニック的に難しすぎることのないように案内をお願いした。
切り絵で有名な山里シャトー・デー。E-MTBで周るのはルージュモン(Rougemont)やロシニエール(Rossinière)にかけて。標高900mから1100mほどの高地の斜面に集落が点在する牧歌的な風景が広がる山里「ペイダン・オーのリビエラ」エリア。周囲には標高2,000m以上のアルプスが見渡せる。
ライドツアーの始点はシャトー・デーのランドマークともなっているカトリック教会から。周囲を360°パノラマで見渡せるこの教会の小山から走り出した。
サリーヌ川(Sarine)のほとりに走る小道はトレッキングルートかつMTBルート。目印になる案内道標が随所にあるから一人でも走れなくなないが、やっぱり道案内をしながら村々の話を聞かせてくれるガイドさんに連れてもらって走るのが最高。清冽な流れのサリーヌ川沿いのトレイルを走ってRamacleの滝を訪問したのち、グリーンの牧草地広がる山里を走り抜けてカウベルの音が響き渡る山村巡りの開始だ。
「スイスいち美しい村」のひとつに数えられるルージュモン。この小さな山村には70年代に故ダイアナ妃が在籍していた学校があったことで、農業だけでなく、王侯貴族や著名人、富裕階級向けの観光地としても注目を集めるという。観光名所になっている大きな家「グラン・シャレ」(Grand Chalet)もコース上に組んでもらい、観光も兼ねられた。
ヨーロッパで最大の木造住宅建築のひとつであるこの大きなシャレー(山小屋)は18世紀にさかのぼるスイスで最も古いシャレーの1つで、20世紀最後の巨匠といわれたフランス国籍の画家バルテュスが晩年を過ごした家。そして今は妻で自身も画家、随筆家、作陶家として活躍する一方、2005年ユネスコ「平和のアーティスト」の称号を授与された日本人女性の節子・クロソフスカ・ド・ローラ夫人が暮らしていることでも知られる。そうしたお話を聞けるのもガイドツアーならでは。
牧草地に出ると有名なMOB(モントルー・オーベルラン・ベルノワ)鉄道のゴールデン・パス列車が通り過ぎた。パノラマが楽しめることで有名な特急列車はスイスタイムできっちり定刻に現れるので、鉄道に詳しい水澤氏が見物方法を教えてくれたのだ。
この日も途中から雨が降り出したが、大満足の一日を終えることが出来た。昼食に街中のレストランでチーズフォンデュを食べ、ホテルへ戻る。この泊まっているHotel de Ville自体が有名な建築物でレストランにもなっているのだ。シャトー・デーは熱気球で有名な街なので、時期が合えばバルーンフェスティバルや熱気球によるクルーズも楽しめる。
スイス国内にはおもに8つの絶景鉄道ルートがある。アルプスの氷河からきらめく湖、山々から美しい街へ。絶景を走る鉄道はそれぞれゴールデンパス、グレイシャー、ベルニナ、ゴッタルド・パノラマエクスプレスと名付けられ、それらの特急列車に乗ること自体が旅の目的となる人気ぶりだ。今回のツアーにはその1区間を旅の帰路に組み込んでいた。必要なのは「スイストラベルパス」だけ。
ゴールデンパス・パノラマエクスプレスの車両は天井部分にも窓が広がり、シートに座ったまま上下左右に展開するパノラマを楽しめる。緑煌めく牧草地にのどかな山村を経て蒼い湖水をたたえるレマン湖畔へ。心地よい揺れに身を任せながら、車窓に広がる景色を堪能する50分間の列車旅だった。
エーグルには世界国際自転車競技連合/Union Cycliste International)の拠点「UCI ワールドサイクリングセンター」がある。クルマなら高速道路を降りてすぐ、川沿いに銀色に輝くヴェロドロームと併設されたビルがUCIの本拠地だ。
ヴェロドロームとは室内自転車競技場。「ピスト」と呼ばれる板張りの自転車競技専用トラックは国際レベルの競技が開催されるほか、日常的には各国からの若手選手によって結成されたWCCチームが強化合宿を行っており、その練習風景などが見学できる(日本人選手もよく所属している)。メカニックルームやトレーニングルーム、自転車博物館も併設されており、見学が随時できるようになっている。
展示スペースでは過去の有名選手たちが駆った名車やジャージなどがディスプレイされ、テーマに応じた企画展なども開催されており、訪問時はツール・ド・フランス2022の数ステージがスイスで開催されたことを記念する展示が行われていた。UCIはレースだけでなく様々なサイクリングを統括・支援している。ワールドサイクリングセンターはこの地に立ち寄ることがあればぜひ訪問したいスポットだ。
vol.1で紹介したワイン&ライドも同じヴォー州の湖水エリア。ラヴォーの葡萄畑をE-bikeで巡ったあと、我ら3人は一路UCI(世界自転車競技連合)がある街エーグル(Aigle)へと向かった。まずは明日から乗るロードバイクをレンタルすることがその目的。
実は今回のスイスサイクリングツアーではヘルメットとウェア、シューズは日本から持参したものの、自転車は持ってこなかった。スイスで乗る自転車はすべてレンタルで済ませるというのが当初からのプラン。5日間のツアーで、毎日場所を変え、フィールドを変えてサイクリングを楽しむ計画で、乗る自転車も毎日違うという予定。私自身は「果たしてそんなことが可能なのか?」と疑問だったのだが...。
前日のラヴォーの葡萄畑巡りは誰でもが楽しめるサイクリングだったが、このアルプスの峠越えツーリングはチャレンジしたいサイクリストにオススメだ。このヴォー州にはスイス政府観光局が奨める20以上のバイクルートがあり、その密度はスイス随一を誇っている。つまりスイスのサイクリング・リヴィエラというわけだ。
今回スイスを旅する3人、フェローサイクルの水澤さん、スイス政府観光局のサラ・ロロフ女史、そして私・シクロワイアード編集部の綾野がまず向かったのはエーグル市内のサイクルショップ。そこでロードバイクをレンタルできるという話だった。店内にあるレンタルバイクから、身体にあったサイズからショップスタッフにお任せで提案してもらった。
綾野に差し出されたのはBMC TeamMachine SLRというカーボンフレームのディスクロードバイク。なんとシマノ・デュラエースのディスクブレーキとDT SWISSのカーボンホイールを装備した150万円以上する最高級モデルだった。
スイスに来る直前に足を怪我してしまい、ペダルを漕ぐことに不安があるサラさんにはイタリアブランドのウィリエールのE-Bikeが提案された。こちらもなんと250万円近くする最高級モデルのEロードバイク! 「こんなに素晴らしいバイクが借りられるなんて!」と、驚きを通り越して大興奮してしまった二人。水澤さんはスコットADDICTのカーボンロードバイクを日本から持参していた。
そしてレンタル料を聞いて2度ビックリ。ロードバイクとE-bikeともに1日70CFR(約10,500円)、2日で110CFR(約16,600円)、1週間でも230CFR(約34,700円)ということで、こんなに高品質なバイクがこんなに手軽な料金でいいのか、と耳を疑ってしまった。これなら荷物料金を支払ってまで飛行機で自身のバイクを持ってくる選択肢は無いほどに安いと思える...(もちろんレンタル料はショップにより異なります)。
DomCycles(ドム・サイクルズ)
住所 | chemin du sillon 2 1860 AIGLE |
HP | https://domcycle.ch/(→レンタサイクルのページ) |
ヴィラール・スル・オロンからツール・ド・フランスの舞台クロワ峠へ
ヴォー州アルプスを代表するマウンテンリゾート、ヴィラール・スル・オロン(Villars-sur-Ollon)のホテルで一夜を過ごし、翌朝に峠越えツアーに出発。ガイドを務めてくれるアラン・ランフ(Alain Rumpf)氏が迎えに来てくれた。アランさんは隣村のグリヨン(Gryon)に住んでいる。荷物をサポートカーに預け、いざ出発。朝からあいにくの雨模様だが、軽い雨で気温も低くないためツアーは決行。少しの不安を持っていざクロワ峠(Col de la Croix)へと登り始めた。
まず最初の難関、ヴォードワーズ山脈のクロワ峠(1,776m)は、先の7月のツール・ド・フランス2022第9ステージでもコースに採用された峠で(ツール・ド・フランスでは周辺国も訪問する)、綾野は2ヶ月前にも撮影で訪れている。標高1360m地点のホテルから1,776mのクロワ峠頂上までは距離7km、平均勾配4%、獲得標高差420mというプロフィール。アランさん曰く、「プロレーサーたちが通った峠ということで心配するなかれ、急勾配の箇所が無いのがクロワ峠の良いポイント。一定ペースで淡々と登ることができますよ」とのこと。
肌寒い小雨のなか走り出したが、すぐに身体は温まり、ジャケットは脱ぐことに。サラさんはEロードバイクでスイスイ進んでいくし、水澤さんも調子が良さそう。アランさんは「今日のメンバーは心配ないね」と笑っている。
標高が高くなるにつれ森林限界を超え、樹林帯を抜けて草原地帯へと出るため一気に展望が開ける。その景観の素晴らしさがアルプスサイクリングの魅力だ。途中でMTBトレールなどの案内道標が何本も現れる。そのどこを走ってもごきげんなトレイルなのだろう。
クロワ峠には1時間ほどで到着。アランさんは「ここはクルマも少なくて、とても走りやすい峠。スイスには有名な峠が多いけれど、観光地として人気なだけでなく交通の要所のため、クルマが多く、とくにバカンス中などは自転車では走りにくいことも多い。その点クロワ峠は主要な都市も結んでいないためクルマが少なく、ハイカー以外の観光客も少ない。だからサイクリング向きの峠としてピックアップしたんです」。なるほど、納得。ヒルクライム中もずっとおしゃべりが楽しめたのは、勾配が適度で厳しくなく、クルマもほとんど通らないからだった。
クロワ峠の脇の広場に山小屋レストラン「Chez Francine(シェ・フランシーヌ)」がある。実は出発前からここで朝食をいただくことにしていた4人。小屋のなかは暖かく、チーズにハム、温かいカフェオレをいただき、小屋の女性主人と楽しい談笑の時間。本日2度めの朝食はとても充実したものだった。
九十九折れの下りを経て、モス峠を目指す
峠からはオルモン=デス(Ormont Dessous)までのダウンヒル。雨は小止みのまま肌寒いが、レインジャケットを着込んで下った。九十九折れのコーナーごとに山岳のパノラマが展開する。下りきったら2つ目の峠、モス峠(Col des Mosses)にチャレンジ。モス峠(標高1445m)もツール・ド・フランスで通過した峠だ(ただし進行方向は逆だった)。Route de Pillon(ピヨン道路)からRoute de Mosse(モス道路)を走り、麓からは距離8km、獲得標高差約300m。アラン氏の案内でメインルートから外れた細道で向かう。このショートカットルートは風景が良く、のどかで走りやすかった。モス峠はなだらかな道沿いの見晴らしの良い峠だ。
アルプス麓の製造所で、芳醇なスイスチーズを味わう
モス峠から標高1100mまで下ったところにレティバ(L'Etivaz)のチーズ製造所兼販売店La Maison de L’Etivaz(メゾン・ド・レティバ)がある。ここはスイスチーズのブランドとして有名な「レティバ(スイスチーズ協会HP)」の製造所兼ストアで、訪問者がチーズ造りの様子を見学することができるのだ。四方を山に囲まれた自然の真っ只中で、そんなところにあるとは驚き。白衣とキャップをまとい、ガイドさんに製造所内を案内してもらった。草原で草を食む牛からとれた生乳と近隣地で採取される岩塩と清冽な水を使い、チーズが生産されていく。棚で熟成が進む円盤状のチーズに圧倒される。
視覚で食欲を刺激された後は外のテラスでチーズをメインにしたランチを頂く。プレートにぎっしり載った色々な種類のチーズは少なくとも30ヶ月以上熟成されたもの。製造所で生産されるすべての種類のチーズをいただいた。繊細なアルプスハーブの豊穣なアロマと、独特のスパイシーでフルーティーな味わいがあり、若干ナッツのような風味も。もちろんラヴォー産の白ワイン「シャスラ」とあわせて味わった。
La Maison de L’Etivaz(メゾン・ド・レティバ)
住所 | Route des Mosses 72 1660 L'Etivaz |
HP | https://www.etivaz-aop.ch |
ランチと工場見学を済ませると、外はすっかり雨が上がって青空が広がっていた。緑の山肌がみずみずしい緑色に輝く。やはり天気は良いに越したことはない。
Etivasからダイナミックなダウンヒルを経てさらに下り、山間の街シャトー・デー(Château-d'Œx)に到着。この街が今日のフィニッシュで宿泊地。石造りの大通りを歩いた街の真ん中のHotel de Ville(オテル・ド・ヴィル)という名前のホテルに泊まる。
ここでアランさんとはお別れ。聞けば驚くことにアランさんは来た道を戻り、また別の峠越えルートで自身の住むグリヨン村まで自転車で帰るという。その距離60km。日がまだ高く、9時頃まで明るいスイスとはいえ、そのタフさに驚く3人。
アランさんはプロフェッショナルな走りの最高のガイド、郷土愛と自転車への情熱を感じる素敵なサイクリストでした。またお会いしましょう。なおアランさんが主宰するウェブサイト A SWISS WITH A PULSEではアランさんが実際に走って奨める本格的サイクリングコースが各エリアに渡って紹介されている。ヴォー州周辺を走りたいサイクリストは必見だ。条件が合えばアランさんにガイドを頼むこともできる。
そして今回はアランさんがアレンジしてくれたツアーにより、レンタルしたロードバイクは荷物を運んでくれたサポートカーが回収してエーグルのDomCycleに返却してくれることに。
アランさんのサイト A SWISS WITH A PULSE
https://www.aswisswithapulse.com/ |
ホテルでシャワーを浴びて、夕食前に近くのアウトドアスポーツ店 ORIGINE SPORTS(オリジンスポーツ)に伺い、明日の朝レンタルするマウンテンバイクの予約をした。そのお店はシャトー・デーの街の中心部のホテルから徒歩2分のところにあり、フレンドリーな店主さんが案内してくれ、手続きも簡単だった。お借りするMTBはもちろんE-Bike。スイスの山の街ではアウトドアスポーツショップがレンタルバイクをしていることが多く一般的なため、スキー場(夏場はトレッキングやMTBライドの基地となる)の近くにはこうした形態のお店が多く見つかる(レンタサイクルを借りるのも簡単だ)。
ORIGINE SPORTS(オリジンスポーツ)
E-bikeレンタル料金 | 半日:64CHF/1日:89CHF、ヘルメット 5CHF 一週間:407CHF、ヘルメット 22CHF |
HP | https://originesports.ch/ (予約や問い合わせ等はHPより) |
美しき山里 シャトー・デー周辺をE-MTBで巡る
翌日、地元のシャトー・デー観光協会が手配してくれたMTBガイドさんに案内していただき、朝食後の2時間ほどで周辺から渓谷沿いの村巡りを走ることに。ペイダンオー地方(Pays-d'Enhaut)の牧草地が広がるのどかな山里の街シャトー・デー。その周辺をE-MTBで巡る観光サイクリングツアー。ただしほぼMTB初心者であるためルートはテクニック的に難しすぎることのないように案内をお願いした。
切り絵で有名な山里シャトー・デー。E-MTBで周るのはルージュモン(Rougemont)やロシニエール(Rossinière)にかけて。標高900mから1100mほどの高地の斜面に集落が点在する牧歌的な風景が広がる山里「ペイダン・オーのリビエラ」エリア。周囲には標高2,000m以上のアルプスが見渡せる。
ライドツアーの始点はシャトー・デーのランドマークともなっているカトリック教会から。周囲を360°パノラマで見渡せるこの教会の小山から走り出した。
サリーヌ川(Sarine)のほとりに走る小道はトレッキングルートかつMTBルート。目印になる案内道標が随所にあるから一人でも走れなくなないが、やっぱり道案内をしながら村々の話を聞かせてくれるガイドさんに連れてもらって走るのが最高。清冽な流れのサリーヌ川沿いのトレイルを走ってRamacleの滝を訪問したのち、グリーンの牧草地広がる山里を走り抜けてカウベルの音が響き渡る山村巡りの開始だ。
「スイスいち美しい村」のひとつに数えられるルージュモン。この小さな山村には70年代に故ダイアナ妃が在籍していた学校があったことで、農業だけでなく、王侯貴族や著名人、富裕階級向けの観光地としても注目を集めるという。観光名所になっている大きな家「グラン・シャレ」(Grand Chalet)もコース上に組んでもらい、観光も兼ねられた。
ヨーロッパで最大の木造住宅建築のひとつであるこの大きなシャレー(山小屋)は18世紀にさかのぼるスイスで最も古いシャレーの1つで、20世紀最後の巨匠といわれたフランス国籍の画家バルテュスが晩年を過ごした家。そして今は妻で自身も画家、随筆家、作陶家として活躍する一方、2005年ユネスコ「平和のアーティスト」の称号を授与された日本人女性の節子・クロソフスカ・ド・ローラ夫人が暮らしていることでも知られる。そうしたお話を聞けるのもガイドツアーならでは。
牧草地に出ると有名なMOB(モントルー・オーベルラン・ベルノワ)鉄道のゴールデン・パス列車が通り過ぎた。パノラマが楽しめることで有名な特急列車はスイスタイムできっちり定刻に現れるので、鉄道に詳しい水澤氏が見物方法を教えてくれたのだ。
この日も途中から雨が降り出したが、大満足の一日を終えることが出来た。昼食に街中のレストランでチーズフォンデュを食べ、ホテルへ戻る。この泊まっているHotel de Ville自体が有名な建築物でレストランにもなっているのだ。シャトー・デーは熱気球で有名な街なので、時期が合えばバルーンフェスティバルや熱気球によるクルーズも楽しめる。
展望列車でスイスの絶景を堪能
翌朝、帰路は駅から列車に乗ってモントルーへと向かうことに。ここで乗る列車は昨日観た「ゴールデンパス・パノラマエクスプレス」。ベルン州の湖の街インターラーケンとレマン湖沿岸の街モントルーとを結ぶ特急列車で、ここシャトー・デーも停車駅になっているのだ。スイス国内にはおもに8つの絶景鉄道ルートがある。アルプスの氷河からきらめく湖、山々から美しい街へ。絶景を走る鉄道はそれぞれゴールデンパス、グレイシャー、ベルニナ、ゴッタルド・パノラマエクスプレスと名付けられ、それらの特急列車に乗ること自体が旅の目的となる人気ぶりだ。今回のツアーにはその1区間を旅の帰路に組み込んでいた。必要なのは「スイストラベルパス」だけ。
ゴールデンパス・パノラマエクスプレスの車両は天井部分にも窓が広がり、シートに座ったまま上下左右に展開するパノラマを楽しめる。緑煌めく牧草地にのどかな山村を経て蒼い湖水をたたえるレマン湖畔へ。心地よい揺れに身を任せながら、車窓に広がる景色を堪能する50分間の列車旅だった。
スイスの鉄道絶景ルート紹介ページ(スイス政府観光局)
→スイス・グランドトレインツアー「ロジャー・フェデラーの忘れられない鉄道旅」 |
UCI ワールドサイクリングセンターを訪問
エーグルには世界国際自転車競技連合/Union Cycliste International)の拠点「UCI ワールドサイクリングセンター」がある。クルマなら高速道路を降りてすぐ、川沿いに銀色に輝くヴェロドロームと併設されたビルがUCIの本拠地だ。
ヴェロドロームとは室内自転車競技場。「ピスト」と呼ばれる板張りの自転車競技専用トラックは国際レベルの競技が開催されるほか、日常的には各国からの若手選手によって結成されたWCCチームが強化合宿を行っており、その練習風景などが見学できる(日本人選手もよく所属している)。メカニックルームやトレーニングルーム、自転車博物館も併設されており、見学が随時できるようになっている。
展示スペースでは過去の有名選手たちが駆った名車やジャージなどがディスプレイされ、テーマに応じた企画展なども開催されており、訪問時はツール・ド・フランス2022の数ステージがスイスで開催されたことを記念する展示が行われていた。UCIはレースだけでなく様々なサイクリングを統括・支援している。ワールドサイクリングセンターはこの地に立ち寄ることがあればぜひ訪問したいスポットだ。
UCI World cycling center
→WEB SITE |
ヴォー(VAUD)州でのサイクリングツアーに関する特設サイト
→ The perfect spot for biking |
→ The most beautiful bike tours in the canton of Vaud(サイクリング推奨ルート) |
text&photo:Makoto.AYANO 提供:スイス政府観光局、Vaud Promotion