2023/04/12(水) - 18:01
スイスをサイクリングで楽しむ特集、vol.1はレマン湖の北岸に広がる葡萄畑をE-bikeで巡る旅を紹介します。ユネスコ文化遺産にも指定されたテラス状に広がる葡萄の段々畑、ラヴォー地区で営まれるワイン造りの様子を訪ねるにはE-bikeがいちばん。この地でしか味わえない至高のワインとグルメを堪能します。
スイスとフランスにまたがるレマン湖。その美しさで有名な湖のスイス側、ローザンヌからモントルー郊外まで、湖の上にのびる丘陵にぶどう畑が続く美しい風景で有名なラヴォー地区はある。きらめくレマン湖と雄大なアルプスを眼前に、テラスのように段々に連なるぶどう畑。葡萄農家が暮らす小さな村が織り成す景観の美しさだけではなく、ワインづくりの長い伝統と歴史を評価され、2007年にユネスコ文化遺産として登録された。
今回の旅のスタートは湖畔の都市モントルー(Montreux)から。フレディー・マーキュリーが暮らしたこの街の駅前にホテルをとっていた我々3人は、午前9時前の普通電車に乗り込んだ。自転車に乗れるスポーティなウェアで電車に乗りこむと、湖畔沿いを行く車窓からは朝日にきらめくレマン湖の風景が楽しめた。
電車に揺られて15分、8駅めの湖畔の小さな無人駅リヴァ(Rivaz)で降り、線路沿いの小道を歩くこと3分。Cantonale通り沿いにWine & Rideのフラッグが翻るドメーヌ・ショデ(DOMAIN Chaudet)の赤い建物がある。
フレンドリーなスタッフの2人が迎えてくれ、ウェルカムドリンクを頂きながらさっそく今日のツアーの行程の説明と、e-bike(電動アシスト自転車)の操作方法についてレクチャーを受ける。ずらりと並んだe-bikeは日本では見たことがないMilooというメーカーの製で、かなりしっかりしたつくりのタウンモデル。
e-bikeでのライドは誰でも簡単とのことで、簡単な操作法のレクチャーを受けたらヘルメットをかぶってさっそくツアーへと出発。先導するアンさんはいきなり壁のような急坂を登り始める。その勾配にちょっと驚いたが、ペダルを回せばかなりのパワーで進み始めた。ペダル式自転車だとぜったい登れない急坂を、パワフルなモーターにアシストされてグイグイと進んでいく。あっという間に標高を増し、レマン湖の蒼い湖面が眼下に広がる。
煉瓦と石造りの古くて可愛い小さな町を抜け、ぶどう畑の間に縫うようにつけられた細い作業道の急坂をどんどんと登っていく。上り詰めたら眼下の斜面には規則的に整然と刻まれたぶどう畑が湖面までつながっている。
高台から見下ろせば透明度の高さがわかる湖面のきらめき、そして葡萄畑に点在する赤い屋根の小さな村の集落。湖面の向こうには視線の高さよりも高くそびえたつ冠雪したフレンチアルプスの山並み(対岸はフランス領)。湖面は吸い込まれるような透明感できらめいている。なんという素晴らしい眺めだろう。
アンさんが葡萄畑から一房のぶどうをもいで手渡してくれた。ラヴォー地区の葡萄は、さんさんと降り注ぐ太陽とレマン湖からの強烈な反射光、そして夜は急斜面を支える石垣が蓄えた輻射熱の「3つの太陽」に恵まれて育つという。絶えず太陽の恩恵を受けて実るブドウの主な品種は白ワインとなる「シャスラ」種で、さまざまな土壌と日射によって微妙な味を違いを生み出すという。
高台から見下ろす斜面には、遠くまで小さな村や集落が点在しているのが眺められる。ラヴォー地区には以下の8つのワインの銘柄があり、それぞれワイン生産村と同じ名称が使われている。
この地での葡萄栽培はローマ時代まで遡る歴史をもち、現在の葡萄畑の原型は、この地を修道院が支配していた11世紀頃に形成されたと考えられている。テラス状に広がる葡萄畑とその農家が暮らす小さな村が織り成す景観。ワインづくりの長い伝統と歴史を評価され、2007年に「ラヴォー地区の葡萄畑」の名でユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録された。自然と共存しながら美しい景観と文化を守りつつ、主力産業として地域経済に貢献している稀有な成功例としての高い価値を認められたのだ。
素晴らしい景観を楽しみながら、葡萄畑の間の小道をE-bikeで走る。ときどき立ち止まっては景色を眺め、収穫にいそしむ農家の人々との会話を楽しむ。訪問した9月中旬は葡萄の収穫期真っ最中で、作業中のみなさんが忙しそうにしていたのが印象的だ。
急坂をE-bikeで下りながら、葡萄畑の中へと進む細い小径に入り込んでいく。葡萄畑自体が世界遺産のため、立ち入りには細心の注意が必要だ(私有地のためガイド無しで勝手に入っていくことは避けたい)。wine&rideはラヴォー地区の葡萄農家と提携しているため、立ち寄る先ではいずれも歓迎してくれる。
葡萄畑に点在する集落をつなぐ小道は迷路のように縦横無尽に張り巡らされていて、走っているだけで楽しくなる。決して広くはないエリアだけど、変化に富んでいるため飽きない。
段々畑のテラスの上段から下段まで、E-bikeでくまなく巡ってライドは終了、wine&rideの拠点に戻ったら、すぐ裏から湖面に降りて徒歩でカヴォー(Caveau=醸造所) のDomaine CHAUDET(ドメーヌ・ショデ)に立ち寄る。併設のワインバーでは白ワイン「シャスラ」を堪能することができる。ラヴォー地区のワインは生産量が少なく、近隣国にもほとんど輸出されることがなく、地元やスイス国内でほとんど消費されてしまうことから希少価値が非常に高いという。とくに人気の高いラヴォーのシャスラを飲むには、この地に赴かなくてはならない。
この一帯ではシャスラの他にもピノ・ノワールなど、カラマン (Calamin)、デザレー (Dézaley)、Lavaux(ラヴォー)の3つのA.O.C.(=アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ)」認定ワインが楽しめる。そんな贅沢な地域だからこそ、そのときのカヴォーのオススメをいただきたい。
スタッフによる説明を聞きながら、サンサフォラン (St-Saphorin)のワインをいただく。レマン湖の眺められるバーでグラスを傾ける至福の時間。ほろ酔いで気持ちよくなったところで、少し歩いた先の高台のレストランで昼食。
ここではシェフのオススメでレマン湖で獲れるパーチ(スズキ目の淡水魚)のムニエルをいただいた。ワインのオススメはやっぱりシャスラ。E-bikeで半日走った適度な運動の後だけに、食事もワインも格別に美味しい。レストランのテラスからは時間によって色を変えるレマン湖の湖面が美しい。
レストランに近い湖畔道路の坂の頂点には、湖岸へ向けて開けた高台にコート・ド・ベルビューという名のパノラマポイントが有る。「素晴らしい眺めの丘」という名前そのままの展望スポット。ここは車道沿いにあるので誰でもクルマでアクセスできる。この日私たちがE-bikeで登ったのはすぐこの裏手。徒歩やガイド無しでは到底訪れることができなかったポイントだ。それを知って得意になる3人。
それまでラヴォー観光のおもな「足」はハイキングだった。排気ガスを出すエンジン付きのクルマの立ち入りは禁止されているが、あまりに急勾配の坂が続くために徒歩では行動範囲が限られ、健脚の人しか楽しめないエリアだった。あるいは観光用のミニトレインの運行もあるが、やはり行動範囲は限られている。そこで無公害のE-bikeがこの地にフィットする移動手段として見いだされた。
誰にでもサイクリングを可能にしてくれるE-bikeは、体力のない人でも安心な乗り物。街乗り自転車、いわゆる”ママチャリ”に乗ることができる人なら、脚力の無さを補って十分なパワーで坂を登ってくれる。キツく感じる前にモーターのアシストが効いてくれるため、どんなに険しい急坂でも適度な運動量で登っていける。だから体力の無さを気にする必要がない。今回のツアーでは改めてE-bikeの利点を実感した。これならどんな人でもラヴォー観光を楽しめる。
ワイン産地の醸造所や葡萄畑を巡る「オノツーリズム」。E-bikeなど自転車で巡るwine&rideのアイデアはアルゼンチンで生まれ、フランスに渡り、そしてここスイスに広がったという。世界を旅することを愛した2人の創業者が考案した新しい観光のカタチは、現在世界4ケ所で展開され、6年目を迎える。地元のアルチザンを訪ね、ワイン職人の情熱と仕事にかける意識を学び、味わう。e-bikeを使うことでリスペクトを持って接しやすく、土地や環境に優しいことでサステナブル (持続可能)な観光のカタチと言える。それは参加している立場からも気持ちの良いものだった。
Rivaz駅を降りて徒歩2分。Rte Cantonale通り(州道9号線)沿いにある赤い建物で、「Wine And Ride」の幟旗が目印。今回は朝9時集合でランチまでの3時間のツアーでアレンジしてもらった。個人・グループともにツアー参加申し込みはHPより可能。人気の時期はかなり混むので予約申込は早めに。
スイスとフランスにまたがるレマン湖。その美しさで有名な湖のスイス側、ローザンヌからモントルー郊外まで、湖の上にのびる丘陵にぶどう畑が続く美しい風景で有名なラヴォー地区はある。きらめくレマン湖と雄大なアルプスを眼前に、テラスのように段々に連なるぶどう畑。葡萄農家が暮らす小さな村が織り成す景観の美しさだけではなく、ワインづくりの長い伝統と歴史を評価され、2007年にユネスコ文化遺産として登録された。
今回の旅のスタートは湖畔の都市モントルー(Montreux)から。フレディー・マーキュリーが暮らしたこの街の駅前にホテルをとっていた我々3人は、午前9時前の普通電車に乗り込んだ。自転車に乗れるスポーティなウェアで電車に乗りこむと、湖畔沿いを行く車窓からは朝日にきらめくレマン湖の風景が楽しめた。
電車に揺られて15分、8駅めの湖畔の小さな無人駅リヴァ(Rivaz)で降り、線路沿いの小道を歩くこと3分。Cantonale通り沿いにWine & Rideのフラッグが翻るドメーヌ・ショデ(DOMAIN Chaudet)の赤い建物がある。
フレンドリーなスタッフの2人が迎えてくれ、ウェルカムドリンクを頂きながらさっそく今日のツアーの行程の説明と、e-bike(電動アシスト自転車)の操作方法についてレクチャーを受ける。ずらりと並んだe-bikeは日本では見たことがないMilooというメーカーの製で、かなりしっかりしたつくりのタウンモデル。
e-bikeでのライドは誰でも簡単とのことで、簡単な操作法のレクチャーを受けたらヘルメットをかぶってさっそくツアーへと出発。先導するアンさんはいきなり壁のような急坂を登り始める。その勾配にちょっと驚いたが、ペダルを回せばかなりのパワーで進み始めた。ペダル式自転車だとぜったい登れない急坂を、パワフルなモーターにアシストされてグイグイと進んでいく。あっという間に標高を増し、レマン湖の蒼い湖面が眼下に広がる。
煉瓦と石造りの古くて可愛い小さな町を抜け、ぶどう畑の間に縫うようにつけられた細い作業道の急坂をどんどんと登っていく。上り詰めたら眼下の斜面には規則的に整然と刻まれたぶどう畑が湖面までつながっている。
高台から見下ろせば透明度の高さがわかる湖面のきらめき、そして葡萄畑に点在する赤い屋根の小さな村の集落。湖面の向こうには視線の高さよりも高くそびえたつ冠雪したフレンチアルプスの山並み(対岸はフランス領)。湖面は吸い込まれるような透明感できらめいている。なんという素晴らしい眺めだろう。
アンさんが葡萄畑から一房のぶどうをもいで手渡してくれた。ラヴォー地区の葡萄は、さんさんと降り注ぐ太陽とレマン湖からの強烈な反射光、そして夜は急斜面を支える石垣が蓄えた輻射熱の「3つの太陽」に恵まれて育つという。絶えず太陽の恩恵を受けて実るブドウの主な品種は白ワインとなる「シャスラ」種で、さまざまな土壌と日射によって微妙な味を違いを生み出すという。
高台から見下ろす斜面には、遠くまで小さな村や集落が点在しているのが眺められる。ラヴォー地区には以下の8つのワインの銘柄があり、それぞれワイン生産村と同じ名称が使われている。
ラヴォー地区のワイン8銘柄: カラマン (Calamin)、シャルドンヌ (Chardonne)、デザレー (Dézaley)、エペッス (Epesses)、リュットリー (Lutry)、サンサフォラン (St-Saphorin)、ヴヴェイ・モントルー (Vevey-Montreux)、ヴィレット (Villette)
この地での葡萄栽培はローマ時代まで遡る歴史をもち、現在の葡萄畑の原型は、この地を修道院が支配していた11世紀頃に形成されたと考えられている。テラス状に広がる葡萄畑とその農家が暮らす小さな村が織り成す景観。ワインづくりの長い伝統と歴史を評価され、2007年に「ラヴォー地区の葡萄畑」の名でユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録された。自然と共存しながら美しい景観と文化を守りつつ、主力産業として地域経済に貢献している稀有な成功例としての高い価値を認められたのだ。
素晴らしい景観を楽しみながら、葡萄畑の間の小道をE-bikeで走る。ときどき立ち止まっては景色を眺め、収穫にいそしむ農家の人々との会話を楽しむ。訪問した9月中旬は葡萄の収穫期真っ最中で、作業中のみなさんが忙しそうにしていたのが印象的だ。
急坂をE-bikeで下りながら、葡萄畑の中へと進む細い小径に入り込んでいく。葡萄畑自体が世界遺産のため、立ち入りには細心の注意が必要だ(私有地のためガイド無しで勝手に入っていくことは避けたい)。wine&rideはラヴォー地区の葡萄農家と提携しているため、立ち寄る先ではいずれも歓迎してくれる。
葡萄畑に点在する集落をつなぐ小道は迷路のように縦横無尽に張り巡らされていて、走っているだけで楽しくなる。決して広くはないエリアだけど、変化に富んでいるため飽きない。
段々畑のテラスの上段から下段まで、E-bikeでくまなく巡ってライドは終了、wine&rideの拠点に戻ったら、すぐ裏から湖面に降りて徒歩でカヴォー(Caveau=醸造所) のDomaine CHAUDET(ドメーヌ・ショデ)に立ち寄る。併設のワインバーでは白ワイン「シャスラ」を堪能することができる。ラヴォー地区のワインは生産量が少なく、近隣国にもほとんど輸出されることがなく、地元やスイス国内でほとんど消費されてしまうことから希少価値が非常に高いという。とくに人気の高いラヴォーのシャスラを飲むには、この地に赴かなくてはならない。
この一帯ではシャスラの他にもピノ・ノワールなど、カラマン (Calamin)、デザレー (Dézaley)、Lavaux(ラヴォー)の3つのA.O.C.(=アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ)」認定ワインが楽しめる。そんな贅沢な地域だからこそ、そのときのカヴォーのオススメをいただきたい。
スタッフによる説明を聞きながら、サンサフォラン (St-Saphorin)のワインをいただく。レマン湖の眺められるバーでグラスを傾ける至福の時間。ほろ酔いで気持ちよくなったところで、少し歩いた先の高台のレストランで昼食。
ここではシェフのオススメでレマン湖で獲れるパーチ(スズキ目の淡水魚)のムニエルをいただいた。ワインのオススメはやっぱりシャスラ。E-bikeで半日走った適度な運動の後だけに、食事もワインも格別に美味しい。レストランのテラスからは時間によって色を変えるレマン湖の湖面が美しい。
レストランに近い湖畔道路の坂の頂点には、湖岸へ向けて開けた高台にコート・ド・ベルビューという名のパノラマポイントが有る。「素晴らしい眺めの丘」という名前そのままの展望スポット。ここは車道沿いにあるので誰でもクルマでアクセスできる。この日私たちがE-bikeで登ったのはすぐこの裏手。徒歩やガイド無しでは到底訪れることができなかったポイントだ。それを知って得意になる3人。
それまでラヴォー観光のおもな「足」はハイキングだった。排気ガスを出すエンジン付きのクルマの立ち入りは禁止されているが、あまりに急勾配の坂が続くために徒歩では行動範囲が限られ、健脚の人しか楽しめないエリアだった。あるいは観光用のミニトレインの運行もあるが、やはり行動範囲は限られている。そこで無公害のE-bikeがこの地にフィットする移動手段として見いだされた。
誰にでもサイクリングを可能にしてくれるE-bikeは、体力のない人でも安心な乗り物。街乗り自転車、いわゆる”ママチャリ”に乗ることができる人なら、脚力の無さを補って十分なパワーで坂を登ってくれる。キツく感じる前にモーターのアシストが効いてくれるため、どんなに険しい急坂でも適度な運動量で登っていける。だから体力の無さを気にする必要がない。今回のツアーでは改めてE-bikeの利点を実感した。これならどんな人でもラヴォー観光を楽しめる。
ワイン産地の醸造所や葡萄畑を巡る「オノツーリズム」。E-bikeなど自転車で巡るwine&rideのアイデアはアルゼンチンで生まれ、フランスに渡り、そしてここスイスに広がったという。世界を旅することを愛した2人の創業者が考案した新しい観光のカタチは、現在世界4ケ所で展開され、6年目を迎える。地元のアルチザンを訪ね、ワイン職人の情熱と仕事にかける意識を学び、味わう。e-bikeを使うことでリスペクトを持って接しやすく、土地や環境に優しいことでサステナブル (持続可能)な観光のカタチと言える。それは参加している立場からも気持ちの良いものだった。
Wine And Ride Lavaux(ワイン&ライド ラヴォー)
Rivaz駅を降りて徒歩2分。Rte Cantonale通り(州道9号線)沿いにある赤い建物で、「Wine And Ride」の幟旗が目印。今回は朝9時集合でランチまでの3時間のツアーでアレンジしてもらった。個人・グループともにツアー参加申し込みはHPより可能。人気の時期はかなり混むので予約申込は早めに。
住所 | Route Cantonale 9, 1071 Rivaz, Suisse |
ウェブサイト | https://www.wineandride.com/en/ |
参考リンク
text&photo:Makoto.AYANO 提供:スイス政府観光局