2023/11/28(火) - 13:39
スイスはサイクリング天国。スイス政府観光局が立ち上げた「100%ウーマン・サイクリングプロジェクト」にインフルエンサーの篠さんが挑戦、世界中からやってきた女性サイクリストたちとスイス各地を様々なサイクリングで楽しんだ。 6日間の素晴らしい体験をお届けします。
「100%Women」は、スイス政府観光局が立ち上げた、女性のための旅やアクティビティを提案するプロジェクト。「コンフォートゾーン」から一歩踏み出して、女性のための旅やアクティビティを紹介・提案するこの企画の今年のテーマは「サイクリング」。スイスでのサイクリングは多様だ。世界でもっとも安全な国のひとつであるスイスでは女性の一人旅も安心。サイクリング愛好家が多く、ガイド付きツアーやイベントも多く、整備されたサイクリングロードにわかりやすい標識、自転車旅に適したホテルやレンタル施設などインフラも整っている。環境に優しく、スイスを楽しむのに適した旅行手段がサイクリングだ。 「100%ウーマン・サイクリング」は、スイスを自転車で楽しむ女性を応援するプロジェクトだ。
過去に開催された「100%Women World Record Challenge」では、25カ国から集まった80名以上の女性で、世界最大の女性だけのロープチームを結成し、スイスのブライトホルン(標高4,164m)登頂に成功したという。
そんな「新しいコトにチャレンジするプロジェクト」が、今年初めてサイクリングにフォーカスを当てた。
今年の「100% Women Cycling 」では、国籍も言葉も生活習慣も違う18名の女性が集まった。他のアクティビティがメインのメンバーもいれば、スポーツ経験すらない者もいる。大層なものではなく、スイスの広大な自然を楽しみながら、みんなで自転車という乗り物をスポーツとして体験しようという、もっと身近なチャレンジだ。この記事では、100% Women Cyclingに参加した私こと篠が、6日間に渡ってスイスを自転車で体験したことをお伝えします。
初日は早速マウンテンバイク体験でしたが、MTB未経験者もいるので、トレイルに向かう前にインストラクターの先生に従って、まずは基本操作のおさらい。バイクの上でお互いハイタッチしながら自己紹介したり、輪になってスタンディングゲームをしたりして、楽しみながらバイクコントロールを学ぶことができました。
この日のメインディッシュは「コルヴィリア(Corviglia)・フロー・トレイル」。スイスの「トレイル 」は日本で言う「マウンテンバイクパーク」に近い感覚だと思います。2,100m越えのスタート地点へはリフトに乗ってアクセスできて、リフト乗り場の階段はすべてスロープ付きでリフトも広々としていて、登山鉄道をマウンテンバイク載せる用に改造されたものと改造された車両もあるから、ワクワクしながら乗り込みました。
リフトを降りて外に出た瞬間、映像でしか観たことがなかったような世界が目の前に広がっていました。予想を遥かに越えるダイナミックな景色に、思わず声にならない声が漏れてしまいました。
トレイルにはフラットコースもあれば山頂の周回コースもあり、ダウンヒルコースもあります。分かりやすく身近な日本のコースに例えるなら、ダウンヒルコースは白馬岩岳のスケールを何倍にも大きくしたイメージです。
今回は全部で3本下りましたが、上級コースだとジャンプセクションが多くてドロップオフも出てきますが、多くのコースは綺麗に整備されたシングルトラックが延々と続く感じ。初心者から上級者まで誰でも楽しめる夢のようなコース設計です。
横がすぐ崖なので、綺麗な景色に見惚れていたら空に向かって飛んでいきそうなのが贅沢な悩み。 標高を下げていくと森の中を通る区間もありますが、日本と地質が違うからか、完全な土より岩混じりで、橋を渡ったり、板でバンクを造っているセクションもあったりと、景色の変化も楽しみつつ遊び心も備えたコースだと思います。
「ポイントが高い」と思ったのは、山の中腹にもリフト駅があり、麓まで降りなくても、途中で登り返すことで景観の良い標高の高いエリアで違うコースが楽しめることです。
そして「共通のリフト券を使ってケーブルカーや登山列車を併せて利用すれば、全長数百キロのトレイルにアクセスできる」と聞いて驚きました。少なくともトレイル案内図を見ただけで、全体のスケールの大きさが伺えます。
一日中楽しんで「これだけ走っても今回私が体験したトレイルは序の口過ぎないのか…」と、スールレイに1ヶ月住みたい欲が湧き上がってきます。
あまり知られていないことですが、実はスイスのレンタルバイク事情はかなり充実していて、リフト入口のショップで良いバイクを借りられることがほとんどです。レンタルであってもしっかり整備されたグレードの高いバイクが借りられるので、手軽にMTB体験したい方は手ぶらで遊びに来ることを強くオススメしたいです。
2日目はグラベルバイクツーリングで、ズルレイからツオーツ村に抜ける30km、300mUpほどのイージーライドです。
スイスのグラベルは期待以上でした。登ろうと思えば山道にも入れるし、選べばフラットなご機嫌フラットダートが延々と続く…。「グラベル天国」と言っても過言じゃない!
日本と違って大きな石がゴロゴロしてなくて、主にきめ細かい砂利で、グラベルなのにスピード感が味わえて新鮮でした。こういうグラベルをずっと走ってみたかったんです!
フラットを走っていても、遠くに見える雪山が現在地の標高の高さを思い出させてくれます。日本で走り慣れている畦道にはない圧倒的開放感に心が踊りました。
スイスは地域によってはサイクリングロードが普通に未舗装だったりするので、サン・モリッツ近辺ですれ違うサイクリストはロードバイクよりもグラベルバイクやマウンテンバイクに乗る方が多かったです。
ゴール地点のツオーツ(Zuoz)村はオーバーエンガディン(Oberengadin)地方で最も美しい村のひとつと言われており、16世紀前後の歴史的な建物や色鮮やかな装飾が施された家並みが印象的です。
ちなみにスイスでは、街中の噴水や山道にある水飲み場でも、特別な注意書きがない限り水が飲用可能なので給水には困らない。こうしたさり気ない文化の違いは面白い。
この日は昼頃にはライドを切り上げ、ランチを楽しんだあとバスでティチーノ州へ移動。スイスは交通機関が発達していて、山中でもバス網が充実しているからどこへだって行けてしまう。初めて行く場所はついつい欲張って自転車にたくさん乗ってしまいがちですが、こうした余裕のある旅の良さを再認識しました。
3日目は待ちに待ったロードサイクリングだ。書きそびれていましたが、今回のプロジェクトはスイスのバイクメーカー、BMCが機材を全面サポートしてくれます。しかもバイクはすべてメカニックさんが調整&ポジション合わせしてくれるので、安心。
ロードバイクはBMCのハイエンドモデル TeamMachine完成車を借りることができした。完成車定価200万円のバイクをレンタルできるなんて贅沢過ぎます!
ツアーガイドを務めてくださったのは元プロサイクリストで、世界選手権やジロ・デ・イタリア・ドンネで優勝した経験を持つニコーレ・ブレンドリさん。この日走ったのはアスコナ〜ロカルノ湖沿いのサイクリングロードと丘陵地帯を巡る54km・獲得標高差1,000mほどのサイクリングコース。
スイスは地域によって言語も違うし、景色もガラッと変わるのが魅力的です。巡っていて全然飽きない。オフロード体験で2泊滞在したスールレイは標高1,800mでしたが、ロカルノは標高200mで、スイスで最も標高が低いマッジョーレ湖畔にあり、お花やヤシの木々が育つ温暖なリゾート地。公用語はイタリア語です。
サイクリングコース終了後に時間の余裕があったので、意気投合した3人で探索ライドに出かけました。その場でSTRAVAアプリを開いてサクッとコースを作ってサイコンに伝送し、ライドをスタート。
土地勘がないので、旧市街の細い路地をくぐり抜けたり、行き止まりで自転車を担いで階段を登ったりもしましたが、突拍子もない提案に応じてくれるノリの良さや、ちょっとアドベンチャーな展開だって笑い飛ばせる気さくさに親近感。国も言葉も違えど、私達は自転車という趣味の共通言語で繋がっている、と実感した日でした。
4日目はサン・ゴッタルド峠のヒルクライムチャレンジです。超級山岳サン・ゴッタルド峠の標高は2,106m。ティチーノ州アイロロとウーリ州ゲッシュネンの間にあるアルプスの峠で、新道と旧道がありますが、今回登るのは旧道の「トレモラ」。13世紀からアルプスを南北に結ぶ通商の道として知られていますが、いまは峠の下を貫通するトンネルがあるので、石畳で舗装された曲がりくねった旧道が人気のツーリングルートに生まれ変わりました。
アイロロ駅を降りればすぐ登りで、全長13km、約1000m Upのコースで、街を抜けて山に向かっていく…。最初の3kmは緩めで、徐々に勾配が上がっていき、残り6kmから舗装がすべて石畳に切り替わるという一風変わった峠道です。
景色はとにかくダイナミックで、惚れ惚れする綺麗な九十九折れが山肌を這う。登りながらため息しか出てこなかった…。ここを走れただけでもスイスに来た価値がありました。
各自のペースで登るので、ペース差はあったものの全員が無事登頂! ほとんど自転車経験がないメンバーにとって、このロングクライムを登り切ることは大きなチャレンジだったと思います。
「自転車で山道を登るなんて思ってもみなかったが、この企画で一緒に登るみんなから勇気をもらった。とてもとても大変だったけど、やってみたらできたんだ。この経験は大きな自信に繋がって、今は達成感でいっぱいだ」 と喜んでいるメンバーを見て、自分の事のように嬉しかったです。
自転車を長く続けていると、つい感覚が麻痺してしまいますが、始めたての頃の自分もこんな気持ちで峠を登っては自転車に魅了されていったことを思い出しました。こうした企画をきっかけに、普段自転車に乗らない人が興味を持ってくれたら嬉しいなあ。
この日のスペシャルゲストは現在UCIプロチームのQ36.5 Pro Cycling Team に所属しているフィリッポ・コロンボ選手。登っていたら後ろから凄まじい速さで抜かれて、これは二度とないチャンスだと思い、後ろに着いて行きました。
すごく優しくて、いろいろお話してくれたけれど、キツすぎてそれどころではなかったのが悔しい。彼は流しているだけなのに凄まじい速さで、私にとってはかなりの高強度トレーニングでしたが、2kmほど一緒に峠を登れたのは一生の思い出です。
グシュタードは標高1050mにあるスイスを横断する絶景パノラマ鉄道「ゴールデンパス・ライン」が走るザーネン地方の山村。公用語はドイツ語が使われています。ツェルマットやサン・モリッツなどの山岳リゾートとは違う素朴で静かな雰囲気の町です。
プロジェクト最終日は希望者のみスイスの自転車レースに挑戦できるので、その前日は休息日兼違うアクティビティを体験する観光の日です。
この日はグジュタードの近郊の有名な観光地、グレッシャー3000(グラシエ・トロワミル)へ。ツァンフローラン氷河を中心に、ディアブルレ氷河など大小8つの氷河が連なってできた広大な雪原。スノーアクティビティやスノーバス、トレッキングなど、1年を通して万年雪と氷河を体験できるエリアです。
ロープウェイに乗って僅か15分で標高3,000mの山頂まで到達。ロープウェイ駅からハイキングコースの端にあるカフェまで1時間程のプチハイキングを楽しみました。
イージーな観光日のはずが、普段自転車ばかりで歩かない私にとって、高原ハイキングはかなりのハードアクティビティでした。「2kmの雪原ハイキングより自転車で100km走る方が断然楽です」と言って嘆いたら、皆に笑われました。
ハイキングに慣れたメンバーが多くて、はしゃぎながらも早足で前を行く皆は凄いなあ、と眺めてはヒィコラ歩く(笑)。前日のヒルクライムチャレンジとは皆と立場が逆転してしまいました。
普段登山をよく楽しむメンバーに雪道を歩くコツを教わって少し楽になりましたが、絶景カフェに辿り着く頃にはヘロヘロ。でも疲れも吹っ飛ぶほどの絶景を目の当たりにして、頑張って自分の足で歩いてよかったと感動に浸りました。
帰りは初めてスノータクシーに乗車。行きの1時間を僅か15分でワープ! アトラクション感満載でテンションが上がります。
スイスでびっくりしたことと言えば、2,000~3,000mでも観光地なら普通に携帯の電波が入る点です。3,000m超えからインスタライブしたり、リアルタイムでSNS投稿できるから常識が覆されました。
この日の夜はグシュタードの高原にあるホルンベルクのベルクレストランで食事を楽しみました。 グシュタードはスイスらしさが詰まった町だと思います。 この日はスイスの民族音楽、アルプホルンの演奏を楽しみ、ヨーデルの歌い方をレクチャーして頂きました。
生歌のヨーデルは初めて耳にしましたが、すぅーと入ってくる優しい歌声で、感動しました。サイクリングだけではなく、旅でこうして現地の文化に触れられるのは貴重な経験です。
あっという間に最終日。この日はグシュタードで開催された「LA REINE」という女性グランフォンドレースに参加しました。
グランフォンド:136km、2970m Up、メディオフォンド:89km、1800m Upの2つのカテゴリーがあり、今回私はグランフォンドカテゴリーに出走しました。
ルールは少し特殊で、全体の通しタイムではなく、序盤・中盤・後半の計3箇所の計測区間の合計タイムを競う形式です。それ以外の区間は計測されないため、途中のエイドでくつろいで交流したり景色を楽しんだりと、サイクリング気分も味わえる日本にはあまりないタイプのレースで新鮮な感覚。
それなりの距離と上昇量があり、計測区間の配置が絶妙なので、補給や休憩などのマネージメント能力次第で結果が大きく変わる面白いレースだと思いました。
長い下り途中にある案内看板を見落とし、開始早々コースミスして2km登り返すドジをやってしまったが、慣れない海外で走るとこういうこともあると笑ってしまいました。
その後、計測開始地点を見落としてあたふたしていたところ、ほっとけないと思ったチームのラウラが「一緒に走ろう」と誘ってくれて、計測区間はそれぞれのペース楽しみ、それ以外は雑談しながらローテーションして最後まで一緒に走りました。
スイスは右通行だったり、環状交差点が多かったり、コース上に牛の群れが居たりと、慣れないことだらけでしたけど、彼女のおかげで無事ゴールに辿り着けました。
ゴール後、みんなで広場で寛ぎながら、ブースで振る舞われるスナックやワインを片手に談笑。始終和気あいあいとした雰囲気の素敵なレースイベントでした。
そして終わってみればまさかの総合6位入賞。初めて海外のレースで立派なトロフィーを頂き、最高のスイス土産になりました。
6位のトロフィーを手に持って歩いていたら、「ヘイ君、賞をもらったんだね!おめでとう!ワインを奢ってあげるよ」と、陽気なウェイターさんにカウンターに連れていかれたのはいい思い出です(笑)。
長いようで一瞬だった6日間のスイスツアー。100% Women Cyclingプロジェクトに参加した素敵な女性達と6日間も共に過ごせて本当に貴重な経験になった。もっとも日が長い時期というのもあり、早朝から夜11時近くまで毎日アクティビティ盛り沢山で、ある意味欲張りすぎたスケジュールで動きまわったのですが、それでも時間が全然足りないぐらい。もっともっとスイスを堪能したかった。
スイスのダイナミックな大自然に包まれて、普段抱えている悩みが馬鹿馬鹿しくなるほど全てを忘れて楽しめて、癒されるとはこういうことだなぁ、と、久しぶりに心が踊った旅だった。
今までスイスでサイクリングするなんて全くイメージがつかなかったが、実際行ってみると自転車を楽しむには最高の環境なのがよく分かる。人も食も景色もとても素敵な国。日本のサイクリストの皆さんには是非ともサイクリングに訪れて欲しい国です。
100%ウーマン・サイクリングプロジェクト
「100%Women」は、スイス政府観光局が立ち上げた、女性のための旅やアクティビティを提案するプロジェクト。「コンフォートゾーン」から一歩踏み出して、女性のための旅やアクティビティを紹介・提案するこの企画の今年のテーマは「サイクリング」。スイスでのサイクリングは多様だ。世界でもっとも安全な国のひとつであるスイスでは女性の一人旅も安心。サイクリング愛好家が多く、ガイド付きツアーやイベントも多く、整備されたサイクリングロードにわかりやすい標識、自転車旅に適したホテルやレンタル施設などインフラも整っている。環境に優しく、スイスを楽しむのに適した旅行手段がサイクリングだ。 「100%ウーマン・サイクリング」は、スイスを自転車で楽しむ女性を応援するプロジェクトだ。
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挑戦した人 篠さん プロフィール
ツイッターアカウント「篠」を持つSNS界で人気のホビーサイクリスト。弱虫ペダルをキッカケに自転車を始め9年。今や年間走行距離は1.5万kmを越え、総獲得標高は35万mにも及ぶほど。とくに山岳地帯を走り込むパッションでサイクリングを楽しんでいる。スイスのサイクルアパレルブランドの「アソス」やフランスのバイクブランド「ラピエール」のアンバサダーでもある。
X (twitter): @shino_138
instagram: @shino_138
X (twitter): @shino_138
instagram: @shino_138
過去に開催された「100%Women World Record Challenge」では、25カ国から集まった80名以上の女性で、世界最大の女性だけのロープチームを結成し、スイスのブライトホルン(標高4,164m)登頂に成功したという。
そんな「新しいコトにチャレンジするプロジェクト」が、今年初めてサイクリングにフォーカスを当てた。
今年の「100% Women Cycling 」では、国籍も言葉も生活習慣も違う18名の女性が集まった。他のアクティビティがメインのメンバーもいれば、スポーツ経験すらない者もいる。大層なものではなく、スイスの広大な自然を楽しみながら、みんなで自転車という乗り物をスポーツとして体験しようという、もっと身近なチャレンジだ。この記事では、100% Women Cyclingに参加した私こと篠が、6日間に渡ってスイスを自転車で体験したことをお伝えします。
Day 1
コルヴィリア・フロー・トレイルで極上マウンテンバイキング
グラウビュンデン(Graubünden)州にある村スールレイ(Surlej)は、サン・モリッツとシルヴァプラーナの近くに位置している山あいの小さな村。スイスには4つの言語圏がありますが、スールレイではロマンシュ語が公用語です(ちなみに主要な都市や観光地ではどこでも英語でのやり取りが可能)。初日は早速マウンテンバイク体験でしたが、MTB未経験者もいるので、トレイルに向かう前にインストラクターの先生に従って、まずは基本操作のおさらい。バイクの上でお互いハイタッチしながら自己紹介したり、輪になってスタンディングゲームをしたりして、楽しみながらバイクコントロールを学ぶことができました。
この日のメインディッシュは「コルヴィリア(Corviglia)・フロー・トレイル」。スイスの「トレイル 」は日本で言う「マウンテンバイクパーク」に近い感覚だと思います。2,100m越えのスタート地点へはリフトに乗ってアクセスできて、リフト乗り場の階段はすべてスロープ付きでリフトも広々としていて、登山鉄道をマウンテンバイク載せる用に改造されたものと改造された車両もあるから、ワクワクしながら乗り込みました。
リフトを降りて外に出た瞬間、映像でしか観たことがなかったような世界が目の前に広がっていました。予想を遥かに越えるダイナミックな景色に、思わず声にならない声が漏れてしまいました。
トレイルにはフラットコースもあれば山頂の周回コースもあり、ダウンヒルコースもあります。分かりやすく身近な日本のコースに例えるなら、ダウンヒルコースは白馬岩岳のスケールを何倍にも大きくしたイメージです。
今回は全部で3本下りましたが、上級コースだとジャンプセクションが多くてドロップオフも出てきますが、多くのコースは綺麗に整備されたシングルトラックが延々と続く感じ。初心者から上級者まで誰でも楽しめる夢のようなコース設計です。
横がすぐ崖なので、綺麗な景色に見惚れていたら空に向かって飛んでいきそうなのが贅沢な悩み。 標高を下げていくと森の中を通る区間もありますが、日本と地質が違うからか、完全な土より岩混じりで、橋を渡ったり、板でバンクを造っているセクションもあったりと、景色の変化も楽しみつつ遊び心も備えたコースだと思います。
「ポイントが高い」と思ったのは、山の中腹にもリフト駅があり、麓まで降りなくても、途中で登り返すことで景観の良い標高の高いエリアで違うコースが楽しめることです。
そして「共通のリフト券を使ってケーブルカーや登山列車を併せて利用すれば、全長数百キロのトレイルにアクセスできる」と聞いて驚きました。少なくともトレイル案内図を見ただけで、全体のスケールの大きさが伺えます。
一日中楽しんで「これだけ走っても今回私が体験したトレイルは序の口過ぎないのか…」と、スールレイに1ヶ月住みたい欲が湧き上がってきます。
あまり知られていないことですが、実はスイスのレンタルバイク事情はかなり充実していて、リフト入口のショップで良いバイクを借りられることがほとんどです。レンタルであってもしっかり整備されたグレードの高いバイクが借りられるので、手軽にMTB体験したい方は手ぶらで遊びに来ることを強くオススメしたいです。
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Day 2
オーバーエンガディン地方の美しい村を巡るグラベルバイクツーリング
2日目はグラベルバイクツーリングで、ズルレイからツオーツ村に抜ける30km、300mUpほどのイージーライドです。
スイスのグラベルは期待以上でした。登ろうと思えば山道にも入れるし、選べばフラットなご機嫌フラットダートが延々と続く…。「グラベル天国」と言っても過言じゃない!
日本と違って大きな石がゴロゴロしてなくて、主にきめ細かい砂利で、グラベルなのにスピード感が味わえて新鮮でした。こういうグラベルをずっと走ってみたかったんです!
フラットを走っていても、遠くに見える雪山が現在地の標高の高さを思い出させてくれます。日本で走り慣れている畦道にはない圧倒的開放感に心が踊りました。
スイスは地域によってはサイクリングロードが普通に未舗装だったりするので、サン・モリッツ近辺ですれ違うサイクリストはロードバイクよりもグラベルバイクやマウンテンバイクに乗る方が多かったです。
ゴール地点のツオーツ(Zuoz)村はオーバーエンガディン(Oberengadin)地方で最も美しい村のひとつと言われており、16世紀前後の歴史的な建物や色鮮やかな装飾が施された家並みが印象的です。
ちなみにスイスでは、街中の噴水や山道にある水飲み場でも、特別な注意書きがない限り水が飲用可能なので給水には困らない。こうしたさり気ない文化の違いは面白い。
この日は昼頃にはライドを切り上げ、ランチを楽しんだあとバスでティチーノ州へ移動。スイスは交通機関が発達していて、山中でもバス網が充実しているからどこへだって行けてしまう。初めて行く場所はついつい欲張って自転車にたくさん乗ってしまいがちですが、こうした余裕のある旅の良さを再認識しました。
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Day 3
ロカルノ湖周辺の丘陵地帯で楽しむロードサイクリング
3日目は待ちに待ったロードサイクリングだ。書きそびれていましたが、今回のプロジェクトはスイスのバイクメーカー、BMCが機材を全面サポートしてくれます。しかもバイクはすべてメカニックさんが調整&ポジション合わせしてくれるので、安心。
ロードバイクはBMCのハイエンドモデル TeamMachine完成車を借りることができした。完成車定価200万円のバイクをレンタルできるなんて贅沢過ぎます!
ツアーガイドを務めてくださったのは元プロサイクリストで、世界選手権やジロ・デ・イタリア・ドンネで優勝した経験を持つニコーレ・ブレンドリさん。この日走ったのはアスコナ〜ロカルノ湖沿いのサイクリングロードと丘陵地帯を巡る54km・獲得標高差1,000mほどのサイクリングコース。
スイスは地域によって言語も違うし、景色もガラッと変わるのが魅力的です。巡っていて全然飽きない。オフロード体験で2泊滞在したスールレイは標高1,800mでしたが、ロカルノは標高200mで、スイスで最も標高が低いマッジョーレ湖畔にあり、お花やヤシの木々が育つ温暖なリゾート地。公用語はイタリア語です。
サイクリングコース終了後に時間の余裕があったので、意気投合した3人で探索ライドに出かけました。その場でSTRAVAアプリを開いてサクッとコースを作ってサイコンに伝送し、ライドをスタート。
土地勘がないので、旧市街の細い路地をくぐり抜けたり、行き止まりで自転車を担いで階段を登ったりもしましたが、突拍子もない提案に応じてくれるノリの良さや、ちょっとアドベンチャーな展開だって笑い飛ばせる気さくさに親近感。国も言葉も違えど、私達は自転車という趣味の共通言語で繋がっている、と実感した日でした。
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Day 4
超級山岳の景観! サン・ゴッタルド峠ヒルクライムチャレンジ
4日目はサン・ゴッタルド峠のヒルクライムチャレンジです。超級山岳サン・ゴッタルド峠の標高は2,106m。ティチーノ州アイロロとウーリ州ゲッシュネンの間にあるアルプスの峠で、新道と旧道がありますが、今回登るのは旧道の「トレモラ」。13世紀からアルプスを南北に結ぶ通商の道として知られていますが、いまは峠の下を貫通するトンネルがあるので、石畳で舗装された曲がりくねった旧道が人気のツーリングルートに生まれ変わりました。
アイロロ駅を降りればすぐ登りで、全長13km、約1000m Upのコースで、街を抜けて山に向かっていく…。最初の3kmは緩めで、徐々に勾配が上がっていき、残り6kmから舗装がすべて石畳に切り替わるという一風変わった峠道です。
景色はとにかくダイナミックで、惚れ惚れする綺麗な九十九折れが山肌を這う。登りながらため息しか出てこなかった…。ここを走れただけでもスイスに来た価値がありました。
各自のペースで登るので、ペース差はあったものの全員が無事登頂! ほとんど自転車経験がないメンバーにとって、このロングクライムを登り切ることは大きなチャレンジだったと思います。
「自転車で山道を登るなんて思ってもみなかったが、この企画で一緒に登るみんなから勇気をもらった。とてもとても大変だったけど、やってみたらできたんだ。この経験は大きな自信に繋がって、今は達成感でいっぱいだ」 と喜んでいるメンバーを見て、自分の事のように嬉しかったです。
自転車を長く続けていると、つい感覚が麻痺してしまいますが、始めたての頃の自分もこんな気持ちで峠を登っては自転車に魅了されていったことを思い出しました。こうした企画をきっかけに、普段自転車に乗らない人が興味を持ってくれたら嬉しいなあ。
この日のスペシャルゲストは現在UCIプロチームのQ36.5 Pro Cycling Team に所属しているフィリッポ・コロンボ選手。登っていたら後ろから凄まじい速さで抜かれて、これは二度とないチャンスだと思い、後ろに着いて行きました。
すごく優しくて、いろいろお話してくれたけれど、キツすぎてそれどころではなかったのが悔しい。彼は流しているだけなのに凄まじい速さで、私にとってはかなりの高強度トレーニングでしたが、2kmほど一緒に峠を登れたのは一生の思い出です。
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Day 5
グレッシャー3000へ登る氷河と高原ハイキング
グシュタードは標高1050mにあるスイスを横断する絶景パノラマ鉄道「ゴールデンパス・ライン」が走るザーネン地方の山村。公用語はドイツ語が使われています。ツェルマットやサン・モリッツなどの山岳リゾートとは違う素朴で静かな雰囲気の町です。
プロジェクト最終日は希望者のみスイスの自転車レースに挑戦できるので、その前日は休息日兼違うアクティビティを体験する観光の日です。
この日はグジュタードの近郊の有名な観光地、グレッシャー3000(グラシエ・トロワミル)へ。ツァンフローラン氷河を中心に、ディアブルレ氷河など大小8つの氷河が連なってできた広大な雪原。スノーアクティビティやスノーバス、トレッキングなど、1年を通して万年雪と氷河を体験できるエリアです。
ロープウェイに乗って僅か15分で標高3,000mの山頂まで到達。ロープウェイ駅からハイキングコースの端にあるカフェまで1時間程のプチハイキングを楽しみました。
イージーな観光日のはずが、普段自転車ばかりで歩かない私にとって、高原ハイキングはかなりのハードアクティビティでした。「2kmの雪原ハイキングより自転車で100km走る方が断然楽です」と言って嘆いたら、皆に笑われました。
ハイキングに慣れたメンバーが多くて、はしゃぎながらも早足で前を行く皆は凄いなあ、と眺めてはヒィコラ歩く(笑)。前日のヒルクライムチャレンジとは皆と立場が逆転してしまいました。
普段登山をよく楽しむメンバーに雪道を歩くコツを教わって少し楽になりましたが、絶景カフェに辿り着く頃にはヘロヘロ。でも疲れも吹っ飛ぶほどの絶景を目の当たりにして、頑張って自分の足で歩いてよかったと感動に浸りました。
帰りは初めてスノータクシーに乗車。行きの1時間を僅か15分でワープ! アトラクション感満載でテンションが上がります。
スイスでびっくりしたことと言えば、2,000~3,000mでも観光地なら普通に携帯の電波が入る点です。3,000m超えからインスタライブしたり、リアルタイムでSNS投稿できるから常識が覆されました。
この日の夜はグシュタードの高原にあるホルンベルクのベルクレストランで食事を楽しみました。 グシュタードはスイスらしさが詰まった町だと思います。 この日はスイスの民族音楽、アルプホルンの演奏を楽しみ、ヨーデルの歌い方をレクチャーして頂きました。
生歌のヨーデルは初めて耳にしましたが、すぅーと入ってくる優しい歌声で、感動しました。サイクリングだけではなく、旅でこうして現地の文化に触れられるのは貴重な経験です。
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Day 6
女性だけのグランフォンド LA REINEに挑戦!
あっという間に最終日。この日はグシュタードで開催された「LA REINE」という女性グランフォンドレースに参加しました。
グランフォンド:136km、2970m Up、メディオフォンド:89km、1800m Upの2つのカテゴリーがあり、今回私はグランフォンドカテゴリーに出走しました。
ルールは少し特殊で、全体の通しタイムではなく、序盤・中盤・後半の計3箇所の計測区間の合計タイムを競う形式です。それ以外の区間は計測されないため、途中のエイドでくつろいで交流したり景色を楽しんだりと、サイクリング気分も味わえる日本にはあまりないタイプのレースで新鮮な感覚。
それなりの距離と上昇量があり、計測区間の配置が絶妙なので、補給や休憩などのマネージメント能力次第で結果が大きく変わる面白いレースだと思いました。
長い下り途中にある案内看板を見落とし、開始早々コースミスして2km登り返すドジをやってしまったが、慣れない海外で走るとこういうこともあると笑ってしまいました。
その後、計測開始地点を見落としてあたふたしていたところ、ほっとけないと思ったチームのラウラが「一緒に走ろう」と誘ってくれて、計測区間はそれぞれのペース楽しみ、それ以外は雑談しながらローテーションして最後まで一緒に走りました。
スイスは右通行だったり、環状交差点が多かったり、コース上に牛の群れが居たりと、慣れないことだらけでしたけど、彼女のおかげで無事ゴールに辿り着けました。
ゴール後、みんなで広場で寛ぎながら、ブースで振る舞われるスナックやワインを片手に談笑。始終和気あいあいとした雰囲気の素敵なレースイベントでした。
そして終わってみればまさかの総合6位入賞。初めて海外のレースで立派なトロフィーを頂き、最高のスイス土産になりました。
6位のトロフィーを手に持って歩いていたら、「ヘイ君、賞をもらったんだね!おめでとう!ワインを奢ってあげるよ」と、陽気なウェイターさんにカウンターに連れていかれたのはいい思い出です(笑)。
長いようで一瞬だった6日間のスイスツアー。100% Women Cyclingプロジェクトに参加した素敵な女性達と6日間も共に過ごせて本当に貴重な経験になった。もっとも日が長い時期というのもあり、早朝から夜11時近くまで毎日アクティビティ盛り沢山で、ある意味欲張りすぎたスケジュールで動きまわったのですが、それでも時間が全然足りないぐらい。もっともっとスイスを堪能したかった。
スイスのダイナミックな大自然に包まれて、普段抱えている悩みが馬鹿馬鹿しくなるほど全てを忘れて楽しめて、癒されるとはこういうことだなぁ、と、久しぶりに心が踊った旅だった。
今までスイスでサイクリングするなんて全くイメージがつかなかったが、実際行ってみると自転車を楽しむには最高の環境なのがよく分かる。人も食も景色もとても素敵な国。日本のサイクリストの皆さんには是非ともサイクリングに訪れて欲しい国です。
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photo:Florence Gross text:shino 提供:スイス政府観光局