2022/07/04(月) - 19:05
アンバウンド2021のディフェンディングチャンピオン、イアン・ボズウェルと2位のローレンス・テンダムにインタビュー。2人ともワールドツアーのロードプロからグラベルレーサーに転身し、今は世界中でレースとアドベンチャーな旅を楽しんでいる。新しいバイクライフとグラベルへの愛を語り合う2人のユニークな対談。
イアン・ボズウェル
2021年アンバウンド・グラベルプロクラス優勝。元チームスカイ、カチューシャのロード選手だった。将来のグランツール総合優勝を期待される逸材だったが2019年ティレノ〜アドリアティコにおいて落車、脳震盪を起こしその後も症状が続いたため引退を決意。その後2020年シーズンより元ロードプロで構成されるwahooFrontierチームに加入、グラベルレーサーに転身する。オレゴン出身で、現在はバーモント州に住む。ニックネームは「The Boz」
ローレンス・テンダム
プロロード選手として16年のキャリアをもち、2012年ブエルタ・ア・エスバーニャ総合8位、ツール・ド・フランスは10回以上出場して2014年には総合9位の成績を持つクライマーだった。ラボバンク、チームサンウェブ、CCC等のワールドツアーチームを経てボズウェルと同じ2019年シーズンをもって引退。以降アドベンチャーライド、バイクパッキング、マウンテンバイク、グラベルレーサーに転身した。今年はグラベル3戦、MTB3戦からなるLife Time Grand-prix6戦にフル出場する。自身がプロデュースするポッドキャストやyoutube番組「Live Slow Ride Fast」が人気。愛称「LtD」。
ボズウェル:あぁ、君は日本のウェブマガジンの人だね。僕の一番好きな国を知っているかい? 日本だ。これまで4度も行っている。埼玉や大阪、そして君は僕を温泉に連れて行ってくれたよね。素晴らしい思い出だ。
ダイスケ(=矢野大介:raphaジャパン代表)やケイ(=辻啓)はスーパーナイスガイだよな。日本の友人たち皆によろしく伝えてくれ。いつか日本のグラベルレースに出たいよ。ぜひ君が手配してくれよな!
― 昨年のアンバウンドグラベルに優勝して、何か変化がありましたか?
ボズウェル:ああ! ロードレースから引退していたのに、またレースができて楽しかったし、勝利によってまた自転車界に戻ってきたような感覚があった。大切な何かを取り戻したような奇妙な感覚だ。ローレンス(テンダム)と僕は同じ時期に現役を引退して、アンバウンドには楽しむ目的で参加したんだ。あくまでも楽しむことを念頭に昨年は走っていたのだけど。
― ローレンス、あなたは昨年イアンと一緒にフィニッシュしての2位でした。
テンダム:そう。少し惜しかったけど、この歳にしては凄くないかい? 実を言うと2年前はもっとバイクで旅をする計画を立てていたんだ。しかし今は思っていたよりコンペティティブな乗り方をしている。いま僕は41歳で、このような走り方があと何年できるか分からないけど、アルプスなどへのバイクパッキングツアーは後になってもいくらでも行けるだろう。あと10年ぐらいはここでの勝利を目標にしていきたいんだ。
― トランスコーディレラ(コロンビアでのツアー形式の山岳ステージレース)の動画Una CHIMBAを見ましたよ。とても面白いドキュメンタリーフィルムでした。南米の険しい山奥の地のアドベンチャーでしたね。私はこのところ、あなたのYoutube動画にハマっているんです。とても面白い!
テンダム:あれね! コロンビアでの辺境レースは冒険旅みたいですごく楽しかったよ。
ここ最近は「なぜ人々はレースをするのだろう?」「どうして皆、自転車が好きなのだろう?」という疑問について考えを巡らせているんだ。そしてわかったことは、皆違ったアプローチがあるということだ。レース、ツアー、アドベンチャー....。バイクライドの楽しみ方にはいくらでもバリエーションが有る。
僕にとって自転車に跨った最初の記憶は、運河の近くで迷子になったこと。その時、後ろを向いて来た道を戻れば家に帰ることができただろう。でもそうはしなかった。進み続けたんだ。それが世界を広げてくれるきっかけだった。
そして15歳になり、移動距離が80kmほどまで伸びると、友達の誰もが見たことない景色を見ることができるようになった。そして大人になり、北京五輪やプロ初レースであったツアー・ダウンアンダーなどに出場するようになった。
いま41歳で、いまだに自転車が僕をあらゆる場所に連れて行ってくれるんだ。先日行ってきたコロンビアもそうだね。
自転車は冒険や旅の道具。もちろん同時に僕の得意なことではあるが、最初に言ったようにレースで2位になる自転車の乗り方と、旅する自転車の乗り方とは種類の異なるものだ。トーマス・デッケル(同郷のオランダ人元プロ選手。ラボバンク時代のチームメイト)らと争うものとはね。
皆が僕に「どんなリザルトを期待しているの?」と聞いてくるが、僕は「結果は何も期待していない。ただ楽しむために自転車に乗っているんだ」と答えている。でも41歳でアンバウンド・グラベルで2位なんて、最高だろう?
ボズウェル:そうだね。まだ皆がレースリザルトの方に興味が行っているよね。しかし僕らは昨年ケニアに行き、日本には今まで4度行くなど、自転車によって世界じゅう色んなところに旅することができるんだ。現地に到着しても、僕らは普通の観光なんかしないよ。
例えばケニアではマサイマラ(国立保護区)を自転車で走ったんだ。あの場所を楽しむには自転車が最も良い方法だろう? キリンや象など野生動物のそばを、いつもと変わらないスピードでバイクライドを楽しんでいたよ。車では速すぎて見逃してしまう様々な匂いや、色んなものを見ることができる速度だ。
テンダム:なぜ僕が自転車に乗るかというと、人々と出会い、新しい場所に行きたいから。もちろん最大限の結果は得たいものの、1位や8位、10位になったとしても、その経験をすることに比べればちっぽけなことだ。それに、ロードレースのようにレースが終わった翌日には既に移動の飛行機の上なんて、何かが違うだろう?
ボズウェル:僕とテンダムは違うアプローチから似た考え方にたどり着いたんだ。僕ら2人ともプロロード選手としてのキャリアをある程度送ってきた。「引き続き厳しいレースという好きなことを続けるのもいいが、何かもっと別の楽しいことをしたい」という思いがあったんだ。
ワールドツアーのレースは好きだったけど、必ずしも楽しいわけではなかった。ツール・ド・フランスを含め、かなりのストレスが伴うからね。
テンダム:僕はいま41歳で、ツールで総合9位に入ったこともある。その時から今のような自転車との関わり方を夢見ていた。それは今、叶えることができているんだ。もし明日再びアンバウンドの表彰台に立つことができれば、それはツールの表彰台と等しい成果なんだ。
― ロードレースに戻りたいと思う瞬間はありますか?
テンダム:引退1年目の2020年には「もう2度と戻りたくない」と思っていたんだ。だが、そんな僕にトーマス・デッケルが「もう一回一緒にツールを走ろう。そして毎ステージの夜にポッドキャストを配信しよう!」と誘ってきたんだ。それに対し「君はあの(グランツールの)大変さを覚えていないのかい?」と言い返した。それと同時に、共に雨の中走ったジロの初日を彼に思い出させたんだ。どれだけ大変だったのかをね。
最近トーマスにその話をしたら、「いまはもう2度とやりたくないよ」と言い切ったんだ(笑)。
ボズウェル:いまだに僕ら2人はワールドツアーで走る選手たちと繋がっているけど、彼らを心から尊敬している。だが、あそこに戻りたいとは思わない。ジロでの横風や雨などを考えると、こっちの方が楽しいからね。
テンダム:山岳ステージで登坂する30人の集団が、徐々に人数を減らしていく様を見ていると、かつて自分があそこに居たのだと誇らしい思いがするよ。そして明日、それに近しい気持ちを抱くことができればいいよね。
ボズウェル:僕ら2人は既にプロトンで良い経験をすることができた。他の引退した選手のように「ツールでステージ優勝がしたかったな」などといった想いはあるものの、いま楽しいことができているから後悔は無いんだ。
テンダム:なかには意図せず引退に追い込まれ、フラストレーションを感じる選手もいるだろうが、僕らは「やれることはやった」と清々しい気持ちがある。次に進もうと前向きな気持ちとともにね。
今日、トム・デュムランの引退が発表された。プロとして走るのは今季限りだと。
ボズウェル:ほんとに?
テンダム:じつは彼からは2週間ほど前に連絡をもらっており、彼にとっては悩んだ末の前向きな結論かもしれないが、きっと複雑な思いもあるだろう。
ボズウェル:僕の場合、落車して引退した年の夏の終わりには、もうプロトンに戻ることはないと悟ったんだ。またその年の5月に引退したマルセル・キッテルと何度も話し合った。僕は彼の引退に賛成だった。なぜなら彼は大きなプレッシャーと周囲からの過度な期待に苦しんでいたからね。
また、最近友人であるローレンス・ワーバス(アメリカ、AG2Rシトロエン)と話す中で、彼はワールドツアーで戦うことの、特に高地合宿の過酷さを語ってくれた。
テンダム:長い期間、家から離れ、例えばグランツールや1週間のステージレースなどに赴けば、ずっとホテル暮らしが続くんだ。カジノにも映画館にも行けない。
ボズウェル:トレーニング合宿に行けば自転車に乗ること以外何もしない。あとはベッドでマッサージを受けるぐらい。もちろんコース上から素晴らしい景色が見られるものの、居ながらにしてその土地を訪れることはない。バイクかバスからの景色しか見ることができないんだ。
でも今はその場所に行き、様々なことを経験できるんだ。
― ローレンス、あなたがキャッチフレーズにしている「Live Slow, Ride Fast(ゆっくり生きろ、速く走れ)」ってステキな言葉ですね。そのジャージにもそのフレーズが書かれている。
― アンバウンド後のレース予定を教えて下さい。
テンダム:僕はLife Time Grand Prixの6戦すべてを走る予定だから、この後はユタ州の山岳グラベルレース Tushar Crusherへ行く。Red BoatとRed Fieldのレースには妻や子供と一緒に行く予定だ。そこに3週間滞在するんだ。楽しみだね。
ところでイアンは昨年何レースに出場したの? 8か9ぐらい?
ボズウェル:ああ、そのぐらいだ。そしてその程度のレース数で十分だと思っている。なぜならレースの数日前からイベントがあり、レース後も数日間は会場周辺で過ごすからね。
ロードのワールドツアーレースよりもグラベルレースは選手には準備する日数が必要なんだ。なぜなら準備を全て自分で行わなければならないからね。ロードのワールドツアーレースではチームがスーツケースやバイク、ホテルなど全てを用意してくれるけれど、それらも自分で手配するんだ。
― アンバウンドで乗るバイクについて話を聞かせて下さい。2人ともスペシャライズドのCruxではなくDIVERGEを選んでいます。その理由はなんですか?
テンダム:昨年もこれで出場したんだよ。お気に入りさ。
ボズウェル:1位と2位のバイクだ。悪いバイクのはずがないだろう?
ここ最近Cruxにたくさん乗っていたんだ。僕の住むバーモントの周りには丘が多く、家の周りをライドするなら最適なバイクなんだ。俊敏だがラフ過ぎず、ピーキー過ぎることもない。ここ数年の各社ブランドの動きを見てみると、みんなグラベルバイクをライナップしているね。でもだいたいは1車種。
ケニアではとても路面が荒れている一方で、アメリカではスムースな路面を走るレースも多い。スペシャライズドは様々なスタイル、アドベンチャーから長距離〜短距離のレースまで、それぞれに対応した、それぞれのバイクを造ろうと試みているね。
例えばロードレースではクイックステップがパリ〜ルーベではROUBAIXを、山岳ではTARMACを、またタイムトライアルでもそれ専用のバイクがある。彼らは目的に応じて、何に重点を置くのか、どういうレースをしたいかによってそれぞれのバイクを造っているんだ。グラベルバイクも選択肢が必要なんだ。イベントによってバイクを選ぶことができるのはクールだよね。CruxかDIVERGEか、迷うことができる。
テンダム:距離や路面状況によってもバイクを乗り分ける。アンバウンドのような長い距離にはこのDIVERGEが適しているし、僕はテクニックのあるライダーではないので、DIVERGEならより安心して走ることができるんだ。
ボズウェル:アンバウンドにはマウンテンバイクをルーツに持つ選手が多くやってくるけど、僕とローレンスは彼らほどテクニックはない。特にダウンヒルに関してはね。彼らはダウンヒルのアドバンテージを得るためにCruxを選ぶだろうし、軽量であることは登りでも有利になる。それぞれの特性にあったバイクを選ぶことができるんだ。
テンダム:ここに来るまでの1ヶ月間、Cruxでトレーニングを積んでいたんだけど、ここに来てDIVERGEに乗り、腰がリラックスした状態でライドすることができたんだ。だから「僕は正しい選択をした」と実感することができるんだ。このバイクは好きだし、気に入っているよ。もしアンバウンドのコースがもっと短くて登りが多かったらCruxを選んだだろうね。
ボズウェル:みんなが僕のバイクの細部について聞いてくるんだけど、カラーやチェーンリング以外は昨年と同じだよ。
テンダム:僕は昨年と100%同じだね。あと、エアロハンドルバーはついていない(笑)。
― タイヤサイズは?
テンダム:42Cだ。昨年出場した選手のうち、3分の1のトップ選手が42Cを使っていたと思う。空気圧は前輪が1.9気圧、後輪が2.1気圧だ。
ボズウェル:結構低いね。昨年の僕は3.1気圧だった。僕の方が体重が重いからかもね。サイドカットを回避するためにも空気圧は高めに設定しているんだ。またCruxよりもDIVERGEのほうが振動を吸収してくれることも高めの空気圧に影響していると思う。バイクとセッティングについては、昨年同様に満足しているよ。PATHFINDER PROは昨年僕らがこのタイヤを使って優勝したことで、今年は多くの選手が使うようだね。
テンダム:僕は普段から2気圧だから、レースでもこの空気圧が慣れているんだ。適正空気圧はもっと低いのだろうけどね。
ボズウェル:ケニアの初日を2気圧にしたのが低すぎたよ。4回パンクしたんだ。空気圧の設定はけっこう難しいね。
テンダム:僕たちが少し狭いリム幅を使う理由もそこにある。広いリムではタイヤのサイドが張ってしまうが、リムが狭い方が丸く立つだろう? その方がクッション性を与えてくれるんだ。
― ありがとうございました。明日のレースを期待しています。
ボズウェル:こちらこそありがとう。僕は君が日本をまた案内してくれることを期待しているよ。僕は日本に必ずまた行きたいんだ。くれぐれも忘れないでくれよな!
テンダム:僕にとって日本は少しミステリアスな感じでとても惹かれる。ぜひ自転車で旅をしてみたいな。
イアン・ボズウェルが駆るのは鮮やかなピンクに彩られたS-WORKS DIVERGE。ダウンチューブには筆記体でDIVERGEのレターが入るのみだが、素材を示すFACT11rのステッカーが示すとおり、最高グレードのカーボンによるS-WORKSクラスであることは間違いない。ヘッド部には20mmトラベルと油圧ダンパーを備えるFuture Shock 2.0を内蔵し、ショートストロークながら荒れたグラベルからの微振動を効果的にカットする。ステム上のダイアルでロックアウトも可能だ。
コンポはスラムのRED EtapでフロントはQuarkパワーメーターを内蔵したシングル仕様のクランク。ギア板はディスク状の50Tがセットされ、最小ギア50Tスプロケットがチョイスされる。DIVERGEは650Bホイールにも対応するがボズウェルはもちろん700CのROVAL TERRA CLXホイールをセット。タイヤはスペシャライズドのPATHFINDER PRO 42Cをセット。昨年の優勝時にも使用したタイヤで、以来アメリカではベストセラーになっているようだ。
サドルは液状ポリマーによる3Dプリント成形のS-WORKS ROMIN EVO MIRRORを使用。パンク対策として軽量ポリウレタンチューブとCO2カートリッジセットをサドル後部にSWATストラップで留めてミニマムに固定。トップチューブ上にダイレクトマウントしたピンクのバッグには補給食等を携帯する。
サイドエントリー式のボトルケージを使用するのはレースによってはトップチューブ下部にフレームバッグを取り付けるためだという。また2人ともGPSサイコンはwahoo ELEMENT BOLTを使用し、「ラップ・マイ・バイク」ステッカーを貼ってデコレーションを楽しんでいる。
テンダムのバイクもボズウェルと同じS-WORKS DIVERGEだ。コンポはシマノGRX DI2のフロントダブル仕様で、ギアレシオはF:48✕31T、R:11〜32T。ロード選手時代からシマノのアンバサダーであり、PROのハンドル、サドル、シートピラー等を使用する。ホイールとタイヤもボズウェルと共通だ。
「グラベルレースを走るのは初めてだけど、いつか機会があったら一度は出てみたいと思っていたんだ。トレーニング中のアメリカ・ユタ州に居て、せっかくの出場の誘いに対してこのチャンスは逃がすわけにいかなかったよ」とサガンは言う。
サガンが選んだバイクはスペシャライズドのS-WORKS Cruxだ。最軽量ディスクブレーキロード"Aethos"に用いられた技術を落とし込んだ世界最軽量のグラベルバイクはFACT12rフレーム単体で725g、フォークは400g弱という数値。ワイドタイヤによる走破性を持ちつつ、グラベル/シクロクロスでパフォーマンスを発揮するキャラクターはテクニックに秀でるサガンのキャラクターにぴったりだ。
コンポはシマノGRX DI2をフロントシングル仕様で。ギアレシオはF:42T✕R:11〜34T。Roval Terra CLXホイールにPathfinder Pro42Cタイヤはボズウェルやテンダムと共通の仕様。ハンドルには少しフレアしたRoval Terraカーボンをチョイス。ロードでも使用するS-Works Romin EVOサドルをセットしていた。
オープン参加のサガンとオスは100マイルクラスで楽しみながら走ってトップグループを率いたが、補給地点のチェックポイントではサインを求めるファンへのサービスに徹し、順位やタイムを狙う走りはしなかったようだ。
ライダープロフィール
イアン・ボズウェル
2021年アンバウンド・グラベルプロクラス優勝。元チームスカイ、カチューシャのロード選手だった。将来のグランツール総合優勝を期待される逸材だったが2019年ティレノ〜アドリアティコにおいて落車、脳震盪を起こしその後も症状が続いたため引退を決意。その後2020年シーズンより元ロードプロで構成されるwahooFrontierチームに加入、グラベルレーサーに転身する。オレゴン出身で、現在はバーモント州に住む。ニックネームは「The Boz」
ローレンス・テンダム
プロロード選手として16年のキャリアをもち、2012年ブエルタ・ア・エスバーニャ総合8位、ツール・ド・フランスは10回以上出場して2014年には総合9位の成績を持つクライマーだった。ラボバンク、チームサンウェブ、CCC等のワールドツアーチームを経てボズウェルと同じ2019年シーズンをもって引退。以降アドベンチャーライド、バイクパッキング、マウンテンバイク、グラベルレーサーに転身した。今年はグラベル3戦、MTB3戦からなるLife Time Grand-prix6戦にフル出場する。自身がプロデュースするポッドキャストやyoutube番組「Live Slow Ride Fast」が人気。愛称「LtD」。
ボズウェル:あぁ、君は日本のウェブマガジンの人だね。僕の一番好きな国を知っているかい? 日本だ。これまで4度も行っている。埼玉や大阪、そして君は僕を温泉に連れて行ってくれたよね。素晴らしい思い出だ。
ダイスケ(=矢野大介:raphaジャパン代表)やケイ(=辻啓)はスーパーナイスガイだよな。日本の友人たち皆によろしく伝えてくれ。いつか日本のグラベルレースに出たいよ。ぜひ君が手配してくれよな!
― 昨年のアンバウンドグラベルに優勝して、何か変化がありましたか?
ボズウェル:ああ! ロードレースから引退していたのに、またレースができて楽しかったし、勝利によってまた自転車界に戻ってきたような感覚があった。大切な何かを取り戻したような奇妙な感覚だ。ローレンス(テンダム)と僕は同じ時期に現役を引退して、アンバウンドには楽しむ目的で参加したんだ。あくまでも楽しむことを念頭に昨年は走っていたのだけど。
― ローレンス、あなたは昨年イアンと一緒にフィニッシュしての2位でした。
テンダム:そう。少し惜しかったけど、この歳にしては凄くないかい? 実を言うと2年前はもっとバイクで旅をする計画を立てていたんだ。しかし今は思っていたよりコンペティティブな乗り方をしている。いま僕は41歳で、このような走り方があと何年できるか分からないけど、アルプスなどへのバイクパッキングツアーは後になってもいくらでも行けるだろう。あと10年ぐらいはここでの勝利を目標にしていきたいんだ。
― トランスコーディレラ(コロンビアでのツアー形式の山岳ステージレース)の動画Una CHIMBAを見ましたよ。とても面白いドキュメンタリーフィルムでした。南米の険しい山奥の地のアドベンチャーでしたね。私はこのところ、あなたのYoutube動画にハマっているんです。とても面白い!
テンダム:あれね! コロンビアでの辺境レースは冒険旅みたいですごく楽しかったよ。
ここ最近は「なぜ人々はレースをするのだろう?」「どうして皆、自転車が好きなのだろう?」という疑問について考えを巡らせているんだ。そしてわかったことは、皆違ったアプローチがあるということだ。レース、ツアー、アドベンチャー....。バイクライドの楽しみ方にはいくらでもバリエーションが有る。
僕にとって自転車に跨った最初の記憶は、運河の近くで迷子になったこと。その時、後ろを向いて来た道を戻れば家に帰ることができただろう。でもそうはしなかった。進み続けたんだ。それが世界を広げてくれるきっかけだった。
そして15歳になり、移動距離が80kmほどまで伸びると、友達の誰もが見たことない景色を見ることができるようになった。そして大人になり、北京五輪やプロ初レースであったツアー・ダウンアンダーなどに出場するようになった。
いま41歳で、いまだに自転車が僕をあらゆる場所に連れて行ってくれるんだ。先日行ってきたコロンビアもそうだね。
自転車は冒険や旅の道具。もちろん同時に僕の得意なことではあるが、最初に言ったようにレースで2位になる自転車の乗り方と、旅する自転車の乗り方とは種類の異なるものだ。トーマス・デッケル(同郷のオランダ人元プロ選手。ラボバンク時代のチームメイト)らと争うものとはね。
皆が僕に「どんなリザルトを期待しているの?」と聞いてくるが、僕は「結果は何も期待していない。ただ楽しむために自転車に乗っているんだ」と答えている。でも41歳でアンバウンド・グラベルで2位なんて、最高だろう?
ボズウェル:そうだね。まだ皆がレースリザルトの方に興味が行っているよね。しかし僕らは昨年ケニアに行き、日本には今まで4度行くなど、自転車によって世界じゅう色んなところに旅することができるんだ。現地に到着しても、僕らは普通の観光なんかしないよ。
例えばケニアではマサイマラ(国立保護区)を自転車で走ったんだ。あの場所を楽しむには自転車が最も良い方法だろう? キリンや象など野生動物のそばを、いつもと変わらないスピードでバイクライドを楽しんでいたよ。車では速すぎて見逃してしまう様々な匂いや、色んなものを見ることができる速度だ。
テンダム:なぜ僕が自転車に乗るかというと、人々と出会い、新しい場所に行きたいから。もちろん最大限の結果は得たいものの、1位や8位、10位になったとしても、その経験をすることに比べればちっぽけなことだ。それに、ロードレースのようにレースが終わった翌日には既に移動の飛行機の上なんて、何かが違うだろう?
ボズウェル:僕とテンダムは違うアプローチから似た考え方にたどり着いたんだ。僕ら2人ともプロロード選手としてのキャリアをある程度送ってきた。「引き続き厳しいレースという好きなことを続けるのもいいが、何かもっと別の楽しいことをしたい」という思いがあったんだ。
ワールドツアーのレースは好きだったけど、必ずしも楽しいわけではなかった。ツール・ド・フランスを含め、かなりのストレスが伴うからね。
テンダム:僕はいま41歳で、ツールで総合9位に入ったこともある。その時から今のような自転車との関わり方を夢見ていた。それは今、叶えることができているんだ。もし明日再びアンバウンドの表彰台に立つことができれば、それはツールの表彰台と等しい成果なんだ。
― ロードレースに戻りたいと思う瞬間はありますか?
テンダム:引退1年目の2020年には「もう2度と戻りたくない」と思っていたんだ。だが、そんな僕にトーマス・デッケルが「もう一回一緒にツールを走ろう。そして毎ステージの夜にポッドキャストを配信しよう!」と誘ってきたんだ。それに対し「君はあの(グランツールの)大変さを覚えていないのかい?」と言い返した。それと同時に、共に雨の中走ったジロの初日を彼に思い出させたんだ。どれだけ大変だったのかをね。
最近トーマスにその話をしたら、「いまはもう2度とやりたくないよ」と言い切ったんだ(笑)。
ボズウェル:いまだに僕ら2人はワールドツアーで走る選手たちと繋がっているけど、彼らを心から尊敬している。だが、あそこに戻りたいとは思わない。ジロでの横風や雨などを考えると、こっちの方が楽しいからね。
テンダム:山岳ステージで登坂する30人の集団が、徐々に人数を減らしていく様を見ていると、かつて自分があそこに居たのだと誇らしい思いがするよ。そして明日、それに近しい気持ちを抱くことができればいいよね。
ボズウェル:僕ら2人は既にプロトンで良い経験をすることができた。他の引退した選手のように「ツールでステージ優勝がしたかったな」などといった想いはあるものの、いま楽しいことができているから後悔は無いんだ。
テンダム:なかには意図せず引退に追い込まれ、フラストレーションを感じる選手もいるだろうが、僕らは「やれることはやった」と清々しい気持ちがある。次に進もうと前向きな気持ちとともにね。
今日、トム・デュムランの引退が発表された。プロとして走るのは今季限りだと。
ボズウェル:ほんとに?
テンダム:じつは彼からは2週間ほど前に連絡をもらっており、彼にとっては悩んだ末の前向きな結論かもしれないが、きっと複雑な思いもあるだろう。
ボズウェル:僕の場合、落車して引退した年の夏の終わりには、もうプロトンに戻ることはないと悟ったんだ。またその年の5月に引退したマルセル・キッテルと何度も話し合った。僕は彼の引退に賛成だった。なぜなら彼は大きなプレッシャーと周囲からの過度な期待に苦しんでいたからね。
また、最近友人であるローレンス・ワーバス(アメリカ、AG2Rシトロエン)と話す中で、彼はワールドツアーで戦うことの、特に高地合宿の過酷さを語ってくれた。
テンダム:長い期間、家から離れ、例えばグランツールや1週間のステージレースなどに赴けば、ずっとホテル暮らしが続くんだ。カジノにも映画館にも行けない。
ボズウェル:トレーニング合宿に行けば自転車に乗ること以外何もしない。あとはベッドでマッサージを受けるぐらい。もちろんコース上から素晴らしい景色が見られるものの、居ながらにしてその土地を訪れることはない。バイクかバスからの景色しか見ることができないんだ。
でも今はその場所に行き、様々なことを経験できるんだ。
― ローレンス、あなたがキャッチフレーズにしている「Live Slow, Ride Fast(ゆっくり生きろ、速く走れ)」ってステキな言葉ですね。そのジャージにもそのフレーズが書かれている。
― アンバウンド後のレース予定を教えて下さい。
テンダム:僕はLife Time Grand Prixの6戦すべてを走る予定だから、この後はユタ州の山岳グラベルレース Tushar Crusherへ行く。Red BoatとRed Fieldのレースには妻や子供と一緒に行く予定だ。そこに3週間滞在するんだ。楽しみだね。
ところでイアンは昨年何レースに出場したの? 8か9ぐらい?
ボズウェル:ああ、そのぐらいだ。そしてその程度のレース数で十分だと思っている。なぜならレースの数日前からイベントがあり、レース後も数日間は会場周辺で過ごすからね。
ロードのワールドツアーレースよりもグラベルレースは選手には準備する日数が必要なんだ。なぜなら準備を全て自分で行わなければならないからね。ロードのワールドツアーレースではチームがスーツケースやバイク、ホテルなど全てを用意してくれるけれど、それらも自分で手配するんだ。
ボズウェルとテンダムが駆るグラベルバイク スペシャライズドS-WORKS DIVERGE
― アンバウンドで乗るバイクについて話を聞かせて下さい。2人ともスペシャライズドのCruxではなくDIVERGEを選んでいます。その理由はなんですか?
テンダム:昨年もこれで出場したんだよ。お気に入りさ。
ボズウェル:1位と2位のバイクだ。悪いバイクのはずがないだろう?
ここ最近Cruxにたくさん乗っていたんだ。僕の住むバーモントの周りには丘が多く、家の周りをライドするなら最適なバイクなんだ。俊敏だがラフ過ぎず、ピーキー過ぎることもない。ここ数年の各社ブランドの動きを見てみると、みんなグラベルバイクをライナップしているね。でもだいたいは1車種。
ケニアではとても路面が荒れている一方で、アメリカではスムースな路面を走るレースも多い。スペシャライズドは様々なスタイル、アドベンチャーから長距離〜短距離のレースまで、それぞれに対応した、それぞれのバイクを造ろうと試みているね。
例えばロードレースではクイックステップがパリ〜ルーベではROUBAIXを、山岳ではTARMACを、またタイムトライアルでもそれ専用のバイクがある。彼らは目的に応じて、何に重点を置くのか、どういうレースをしたいかによってそれぞれのバイクを造っているんだ。グラベルバイクも選択肢が必要なんだ。イベントによってバイクを選ぶことができるのはクールだよね。CruxかDIVERGEか、迷うことができる。
テンダム:距離や路面状況によってもバイクを乗り分ける。アンバウンドのような長い距離にはこのDIVERGEが適しているし、僕はテクニックのあるライダーではないので、DIVERGEならより安心して走ることができるんだ。
ボズウェル:アンバウンドにはマウンテンバイクをルーツに持つ選手が多くやってくるけど、僕とローレンスは彼らほどテクニックはない。特にダウンヒルに関してはね。彼らはダウンヒルのアドバンテージを得るためにCruxを選ぶだろうし、軽量であることは登りでも有利になる。それぞれの特性にあったバイクを選ぶことができるんだ。
テンダム:ここに来るまでの1ヶ月間、Cruxでトレーニングを積んでいたんだけど、ここに来てDIVERGEに乗り、腰がリラックスした状態でライドすることができたんだ。だから「僕は正しい選択をした」と実感することができるんだ。このバイクは好きだし、気に入っているよ。もしアンバウンドのコースがもっと短くて登りが多かったらCruxを選んだだろうね。
ボズウェル:みんなが僕のバイクの細部について聞いてくるんだけど、カラーやチェーンリング以外は昨年と同じだよ。
テンダム:僕は昨年と100%同じだね。あと、エアロハンドルバーはついていない(笑)。
― タイヤサイズは?
テンダム:42Cだ。昨年出場した選手のうち、3分の1のトップ選手が42Cを使っていたと思う。空気圧は前輪が1.9気圧、後輪が2.1気圧だ。
ボズウェル:結構低いね。昨年の僕は3.1気圧だった。僕の方が体重が重いからかもね。サイドカットを回避するためにも空気圧は高めに設定しているんだ。またCruxよりもDIVERGEのほうが振動を吸収してくれることも高めの空気圧に影響していると思う。バイクとセッティングについては、昨年同様に満足しているよ。PATHFINDER PROは昨年僕らがこのタイヤを使って優勝したことで、今年は多くの選手が使うようだね。
テンダム:僕は普段から2気圧だから、レースでもこの空気圧が慣れているんだ。適正空気圧はもっと低いのだろうけどね。
ボズウェル:ケニアの初日を2気圧にしたのが低すぎたよ。4回パンクしたんだ。空気圧の設定はけっこう難しいね。
テンダム:僕たちが少し狭いリム幅を使う理由もそこにある。広いリムではタイヤのサイドが張ってしまうが、リムが狭い方が丸く立つだろう? その方がクッション性を与えてくれるんだ。
― ありがとうございました。明日のレースを期待しています。
ボズウェル:こちらこそありがとう。僕は君が日本をまた案内してくれることを期待しているよ。僕は日本に必ずまた行きたいんだ。くれぐれも忘れないでくれよな!
テンダム:僕にとって日本は少しミステリアスな感じでとても惹かれる。ぜひ自転車で旅をしてみたいな。
ボズウェルのスペシャライズドS-WORKS DIVERGE
イアン・ボズウェルが駆るのは鮮やかなピンクに彩られたS-WORKS DIVERGE。ダウンチューブには筆記体でDIVERGEのレターが入るのみだが、素材を示すFACT11rのステッカーが示すとおり、最高グレードのカーボンによるS-WORKSクラスであることは間違いない。ヘッド部には20mmトラベルと油圧ダンパーを備えるFuture Shock 2.0を内蔵し、ショートストロークながら荒れたグラベルからの微振動を効果的にカットする。ステム上のダイアルでロックアウトも可能だ。
コンポはスラムのRED EtapでフロントはQuarkパワーメーターを内蔵したシングル仕様のクランク。ギア板はディスク状の50Tがセットされ、最小ギア50Tスプロケットがチョイスされる。DIVERGEは650Bホイールにも対応するがボズウェルはもちろん700CのROVAL TERRA CLXホイールをセット。タイヤはスペシャライズドのPATHFINDER PRO 42Cをセット。昨年の優勝時にも使用したタイヤで、以来アメリカではベストセラーになっているようだ。
サドルは液状ポリマーによる3Dプリント成形のS-WORKS ROMIN EVO MIRRORを使用。パンク対策として軽量ポリウレタンチューブとCO2カートリッジセットをサドル後部にSWATストラップで留めてミニマムに固定。トップチューブ上にダイレクトマウントしたピンクのバッグには補給食等を携帯する。
サイドエントリー式のボトルケージを使用するのはレースによってはトップチューブ下部にフレームバッグを取り付けるためだという。また2人ともGPSサイコンはwahoo ELEMENT BOLTを使用し、「ラップ・マイ・バイク」ステッカーを貼ってデコレーションを楽しんでいる。
ローレンス・テンダムのスペシャライズドS-WORKS DIVERGE
テンダムのバイクもボズウェルと同じS-WORKS DIVERGEだ。コンポはシマノGRX DI2のフロントダブル仕様で、ギアレシオはF:48✕31T、R:11〜32T。ロード選手時代からシマノのアンバサダーであり、PROのハンドル、サドル、シートピラー等を使用する。ホイールとタイヤもボズウェルと共通だ。
ペテル・サガンのスペシャライズドS-WORKS Crux
アンバウンド・グラベル100マイルクラスにダニエル・オスとともに出場したペテル・サガン。グラベル界の大きな話題となったサガンが駆ったバイクはS-WORKS Cruxだった。石畳クラシックのパリ〜ルーベとロンド・ファン・フラーンデレンのダブル勝者のサガンだが、グラベルレース参加は今回が初の体験だ。「グラベルレースを走るのは初めてだけど、いつか機会があったら一度は出てみたいと思っていたんだ。トレーニング中のアメリカ・ユタ州に居て、せっかくの出場の誘いに対してこのチャンスは逃がすわけにいかなかったよ」とサガンは言う。
サガンが選んだバイクはスペシャライズドのS-WORKS Cruxだ。最軽量ディスクブレーキロード"Aethos"に用いられた技術を落とし込んだ世界最軽量のグラベルバイクはFACT12rフレーム単体で725g、フォークは400g弱という数値。ワイドタイヤによる走破性を持ちつつ、グラベル/シクロクロスでパフォーマンスを発揮するキャラクターはテクニックに秀でるサガンのキャラクターにぴったりだ。
コンポはシマノGRX DI2をフロントシングル仕様で。ギアレシオはF:42T✕R:11〜34T。Roval Terra CLXホイールにPathfinder Pro42Cタイヤはボズウェルやテンダムと共通の仕様。ハンドルには少しフレアしたRoval Terraカーボンをチョイス。ロードでも使用するS-Works Romin EVOサドルをセットしていた。
オープン参加のサガンとオスは100マイルクラスで楽しみながら走ってトップグループを率いたが、補給地点のチェックポイントではサインを求めるファンへのサービスに徹し、順位やタイムを狙う走りはしなかったようだ。
photo:MakotoAYANO,Snowy Mountain Photography, Life time
presented by Specialized Japan
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