2022/06/25(土) - 18:04
マイキーことマイケル・ライスさんとCW編集部の綾野。仲良し2人がタッグを組み、Chapter2ジャパンチームとしてアンバウンド・グラベルに出場した。綾野が出場した100マイルは200マイルの半分の距離。グラベルレース入門編として出場しやすいが、それでも160km。出場までの道のり、レースやバイクセッティングのノウハウまですべて紹介します。
いつか出たいと思っていたUnbound Gravel。まさかそれが今年実現するとは思っていなかったが、チャンスは突然やってくる。1月の小田原にマイキーを訪ねた時、申込み締め切りの直前だった。
月に数度、グランフォンドやグラベルのライド会を催しているサイクリングジプシーカフェ/chapter2ジャパン。一緒にグラベルライド講習会を走った仲間のジェフさんが「Unboundに出る」と言い出したのだ。ジェフさんはトライアスリートだけどグラベルは初心者。しかも乗り方もおぼつかないビギナーだが、今年チャレンジしたいと言うのだ。しかもXLクラス(560km)に!
それに触発されたマイキーが「僕らも申し込もう」と軽いノリで言い出し、なかば強引に誘われたかたちでとりあえず申し込んでみることにした。マイキーとは、いつもこうである(苦笑)。申込みだけして、出れるかどうかは半年後に考えればいい。ただ、その日にChapter2のグラベルバイク、AOも注文してしまった。気持ちは決まっていた。
AOのフレームは注文から4日で届き、迷いながらもwebエントリーも締切日当日に済ませた。アメリカ人は申し込んだとしても抽選で狭き門らしいが、日本人で今まで抽選に漏れた人はいないそうだ。大会は国際化を目指しており、海外からの参加者は大歓迎のようだ。
マイキーは念のため申し込みフォームの注釈に「日本でTV俳優をしていて、NHKサイクルアラウンドジャパンのレギュラー番組を持っている。シクロワイアードにレポートもする」と書き添え(それで通るよね、という目論見)、より確実であろうプロクラスにエントリー。僕は取材も両立したいため参加クラスに100マイルを選び、フィニッシュしたらすぐ200マイル組の取材にあたるつもりで。
そしてエントリー時から半年先のUnboundのことを頭に入れつつ、週末にはロングライドやグラベルライドで長く乗る日を設け、極力距離を稼いできた。隔週ぐらいの頻度でロングライドを企画しているジプシーカフェに通い、グラベルバイクはロードホイールに交換して舗装路でも長距離を乗ったりもした。直前のGWは超ロングライドを数回入れて脚を仕上げた。
その日を意識して過ごせたおかげで身体と心の準備はでき、機材と体力的な不安は無くなり、余裕を持ってアメリカに渡ることができた。
今回、出場にこぎつけられたのはマイキーのおかげだ。なぜならマイキーのお母さんと親戚一同がサポートに駆けつけてくれると言うし、一番の懸案だった宿を確保してくれることになったのだ。
エンポリアの街は小さく、それに比べて4,000人規模の大イベント。当然ホテルの部屋は足りない。それがマイキーの母の友人つながりで街中に一軒家を借りられることになったのだ。多くの参加者がクルマで1時間以上かけて遠方の街から通う実情で、これは本当に助かる。
そして以前から「Unboundに一緒に行きましょう!」と誘ってくれていたカズこと山本和弘さん(キャノンデール・ジャパン)も行動を共にすることになり、友人&家族的大所帯での遠征となった。
マイキーはカンザス州出身。しかし実家はコロラドに近いエリアで、カンザスといってもホストシティのエンポリアまでは700km以上離れているとか。つまり母や親戚一同は長距離ドライブで駆けつけてくれることに。借りた家はアメリカの典型的な広い庭&ガレージ付きの豪邸で、現地流の生活をしつつ準備ができたのも何よりだった。そういうのが本当に楽しい。
100マイルのスタートは200マイルが出発する1時間後。200マイルに出場するマイキーとカズと一緒にスタートへ。朝焼けとともにスタートする約1,400人の200マイル組を見送ると、約1,100人がエントリーした100マイルが整列するのだ。
マイキーは200マイルのプロクラスで走る。世界じゅうのグラベルレースを本業にするエリート選手が多く出場するなか、それは一見すると無茶なのだが、エントリーが受理されることが第一の作戦だった。トップレーサーが10時間以内で走りきる中、マイキーの予想は「日暮れまでに帰ってこれれば」というものだった。21時が完全日没だから、15時間が予想完走タイムとのことだった。僕がフィニッシュするのが早いからゴールで会おう!
100マイルクラスに話を戻すと、話題はペテル・サガンとダニエル・オス(トタルエネルジー)の飛び入り参加だ。年初に2度めのコロナに感染したサガンは体調が上がらず、アメリカのユタ州で乗り込み合宿を続けていたのだ。ツール・ド・フランスでの活躍と3度の世界チャンピオンの大スターはここでも大人気で、サイン攻めに。
スタート前にサガンには走行中に並走して撮影させてもらう旨を伝えてOKをもらい、僕もちゃっかりツーショットを撮らせてもらう。最前列はプロクラスの場所。100マイルにも多くの男女プロ選手がエントリーしていて、ステイタス&レベルは決して低くなさそうだ。
7時。パトカーの先導でローリングスタートを切る。位置取り争いで街中のパレード走行から速く、ロードレース並みの密集度だ。2kmほど先のグラベルの入り口で先導車が先行すると、そこからがリアルスタートだ。
誰もが集団の前のポジションでグラベルに侵入したがってバトルとなる。最初のコーナーでさっそくスリップ落車が発生して、すぐ後方でガシャガシャッと何人かがクラッシュした音が聞こえる。野辺山シクロクロスにも来てくれていたモリー・キャメロンが巻き込まれていたことを後になって知った。
集団の密集度は高いままで、30km/h以上のスピードでグラベル上を進み続ける先頭集団。路面の状況は先頭を行く選手しか見えないはずで、穴や轍が無いことを祈りつつ、ひたすら集団に追従するのはかなりの緊張感を伴う。
サガンと一緒に走ろうと、多くの選手が彼の周りに群がる。撮影をしたくてもこの集団の密集度では手放しするのは危険で、チャンスをうかがいながら近くを走る。サガンもツール取材などで僕のことを認識してくれているので、笑いながら撮影に協力してくれた。
そして前に入らせてもらうと、サドル後部に取り付けたGoProに向かってサガンが何か喋ったり、ぴょんぴょん跳ねたりと、お茶目して遊んでいるのを感じる(しかし後ろは振り返れなかった)。落車事故を起こすワケにいかないという点で、今までやってきた実走撮影でもっとも緊張した一瞬だった。
実はそのGoProは、その後の雨と砂泥被りのため撮影データすべてが飛んでしまった。それがつくづく残念だ。面白い映像が撮れていたはずなのに申し訳ありません。
道幅は広く、クルマが通った跡のスムーズなライン上を皆が走りたがるが、大きな集団では走るラインは選べない。時々穴があって弾かれて落車する人がいて、それを避けること2度。常に油断はできない。
フリントヒルズは大平原かつ緩い勾配が続く丘陵地。アップダウンはそれなりにあり、緩やかなダウンヒルでは50km/h以上のスピードが出ていたかもしれない。
最初の1時間の平均時速は30km/hを超えていた。急坂が現れだすと、グループは分解してバラバラになり、ようやく周りを見る余裕がでてくる。肝が冷えた時間はおしまい。ここまで無理して先頭集団についてたからか、かなり脚を削られてしまった。上りになると脚が痛み、攣りそうになる。まだ130kmを残しているのに、ちょっと頑張りすぎた。
44マイル(66km)地点のテキサコヒルは給水ポイント「オアシス」だ。丘の上に大きな水槽が設置してあり、そこからボトルに水をもらう。ただし水のみ。本来なら暑さのためここまで大量の水を飲んでいるのだろうが、涼しかったから空になったのはボトルは1本のみ。水に浸したバンダナを配ってくれるが、晴れて暑かったらありがたかったことだろう。
50マイル地点に現れた”The JUDGE”(審判)という名の激坂は、皆が足を着いて歩くポイントだ。ここで自分は31✕32のギアでなんとか登っていけ、皆に感心された。「コースは平坦だ」と聞いていたが、それを信じずにフロントWに32Tローギアを用意しておいたのは良かった。
2時間をすぎたあたりで黒雲の下のエリアに入る。サンダーストーム(雷嵐)の予報が出ていたので覚悟はしていたが、やはり。そぼ降る雨に濡れながら進むも、気温は13度ほどと寒く、レインジャケットを羽織ることに。
参るのがタイヤで巻き上げる砂泥水の跳ね。細かな砂を含む泥はバイクを痛め、あちこちジャリジャリに。泥水は容赦なくカメラにかかり、対策が甘かったため、胸の一眼レフカメラはほどなく不動になってしまった。
体格の大きなアメリカ人は体重があるからか、ヒルクライムでは軽量級の自分が意外なほどスイスイ進むように感じる。下りは慎重を心がけながらも路面がスムーズなのでかなりスピードが出る。かなり先まで路面のラインが読めていれば思い切って下れるが、ときどき泥濘や穴が現れてタイヤを取られてすっ飛んでいる人もいるので、それを戒めにして慎重に行く。路肩でパンクを直している人は途切れずにいる。尖った石を踏まないこと。それが大事と路面を凝視して走る。
雨が降り続き、冠水した泥区間が続くようになる。路肩の草地に上って歩き出す人も。僕は日本のウェット&マディなシクロクロスを経験しているので、うまく乗っていける。「ブラボー!」とのお声をいただく。幸い泥はシャバシャバで、タイヤにまとわりつかなかったのは幸いだ。後で聞けば200マイルコースの泥はピーナツバターのように粘ったようだが、土の粘度は場所により違ったようだ。
現地のグラベルエキスパートに「もし前で歩き出した人を見たらすぐ降りること。そのまま突っ込めば転倒するかもしれないと警戒しろ」というアドバイスをもらっていた。これはまさにそのとおりで、泥や川渡りでスタックしている人がいるセクションに停まらず突っ込んでそのまま派手に転んでしまう人を何人か見かけた。泥がディレイラーにまとわりつき、破損することもあるだろう。まずバイクを壊さないことが完走への基本条件だ。
今回、じつはマイキーファミリーのサポート部隊は200マイルコースへ回ったので、自分へのサポートは無し。というのはコースがあまりに広範囲で、コースは重複していても通過時間の差によって100と200を同時にサポートすることは不可能だと判ったから。だから自分は基本はサポート無しで走り切れるだけの補給食と装備を積んで走った。
もしそれが事前に判断ができていれば「Crew for Hire(有料:$45)」を申し込んで、現地のボランティアスタッフのサポートを受けることができたのに。それに関しては下調べ不足だったが、たとえ単独参戦でもこの制度を利用すれば補給サポートに関しては心配がないということ。むしろスポンサー提供のエナジージェルなど補給食もドリンクもふんだんに用意されるので、利用価値は大きそうだ。
降り続く雨には参った。タイヤが巻き上げる砂泥水が身体にかかり、バイクを傷める。チェーンはジャリジャリ、ブレーキパッドやローターが削れていく。しかしここから後半は平坦基調でアップダウンが少ないのは助かる。しかし雨は強さを増してきた。「サンダーストーム」の予報が出ていたとおり雷が落ちるが、恐れていたほどではなかった。レース前数日の狂ったような荒天からすれば、穏やかな天気で助かったとさえ思える。
やがて雨は止み、エンポリアが近づくにつれて青空が見えてきて、後半は楽になった。路面も締まりだし、滑るように快調に走り続けた。ただ、撮影しようにも動くのはiPhoneと手持ちのGoProだけというのが悔しかった。
エンポリアのフィニッシュラインではコース沿道の大勢の人垣から歓声を浴び、アナウンサーが名前を呼び「日本からの挑戦者、おめでとう!」と叫んでくれた。これには鳥肌が立つほど気分が良かった。ボランティアさんからフィニッシャータオルを受け取り、ビールとフード券をもらう。カメラマン仲間や、連絡を取り合ってきた主催者関係者も「やり遂げたな、グラベルグラインダー!」と喜んでくれた。
フィニッシュして祝福されるのがこんなにも嬉しいものだとは、ずいぶん忘れていた感覚かもしれない。しかもこの喜びは困難が大きいほど味わえるものだ。走行距離168km、獲得標高差1,322m、完走タイムは8時間16分56秒。Stravaの移動時間は7時間20分だから、約1時間は撮影で停まっていた計算。55歳のホビーライダーの参考タイムとして記しておきます。困難はあれど100マイルならグラベル入門者でも走りきれるだろう。
時刻は午後3時過ぎ。急いで家に帰り、シャワーを浴び、再び撮影に出る準備をする。あまりの砂泥まみれを洗い流すのは簡単ではなかったけれど...。
マイキーはどの辺を走っているのだろう? wahoo ELEMENTのLivetrackで位置情報をチェックするが、居場所が表示されない....(スマホバッテリーの省電力のためOFFにしていたそうだ)
200マイルのトップフィニッシャーは例年より1時間以上早い最速タイムだったようで、急いでラストのグラベル区間へ向かい、200マイル参加の皆を撮影するため待つことにする。それほど疲れていないと思っていたが、消耗が激しく、食べ飽きたはずのエナジージェルを貪り食べてしまう始末。しかし頑張って走っているエントラントたちを撮っていると、元気がもらえる。過酷な時間を過ごし、消耗しきっているはずなのに、皆が笑顔なのだ。「撮ってくれてありがとう!」と何度も声をかけられた。
マイキーは日没の寸前、21時の2分前にフィニッシュ。「Beat the Sun」のラスト走者の栄誉をものにして観客から喝采を浴びた。結果としては3回のパンク、1回の落車、CP2では過酷さに気が遠くなって20分の仮眠をしたそうだ。タイムは14時間49秒48。総合637位、プロクラス101人中97位だった。
カンザスに里帰りして25年ぶりに故郷のレースに出場したマイキー。家族・親戚たちにサポートされて本当に幸せそうだった。マイキーはさっそく来年も出場すると決めたようだ。chapter2のオーナーでツアーを組みたいとも話しているから、関係が近い人はぜひアドバイスをもらって今から準備にかかるといい。
日が暮れてからも続々とフィニッシュするエントラントたち。アナウンサーは「You are the Winner!」と連呼し、すべての完走者を讃える。沿道の拍手と歓声も、夜の街に途切れること無くこだまする。完走した者すべてが勝者。これはグラベルレースの基本理念だ。速かった者も遅かった者も、困難に打ち克って完走という偉業を成し遂げたのだ。
アメリカにはセルフチャレンジ型のウルトラエンデュランス・オフロードイベントが多く存在する。主催者ライフタイム社が企画するLife Time Grand Prixは年間6イベントあり、3つがマウンテンバイク、3つがグラベル。Unbound Gravelはその2戦めにあたる。賞金総額25万ドルが用意されプロサイクリストの熱い注目を浴びるが、アマチュアにも大人気。選ばれたアスリートだけでなく、誰でも許容してくれるおおらかさがあり、挑戦したい気持ちを刺激してくれるのだ。バイクスポーツを通して困難に挑戦し、自己の壁を超えることで達成感を得ることに変わりはない。
充足感に溢れたフィニッシュラインの雰囲気をいつまでも味わっていたかったが、クローズ時間の午前3時まで付き合うには瞼が重かった。23時には家に帰り、マイキーやカズと一緒に食事を摂る。疲れた胃には昨日のカーボローディング用に作ったパスタの残りがぴったりだった。塩味が嬉しかった。
100マイルを走ってみて、取材上はそれで良かったのだが、200をやり遂げたカズとマイキーを見ていると、自分も200マイルに挑戦すべきだったとも思っている。全力を尽くした表情が限りなく眩しく見えるのだ。
ー IN GRAVEL WE ROAM ー「我らが彷徨えるグラベルのご加護を」。この日走ったグラベルはカンザスにしかないし、Unbound Gravelはアメリカでしかできない体験だったと思う。これからしばらくはやり残したものを心に留めて過ごすことになりそうだ。
ニュージーランドのバイクブランド、Chapter2がリリースするグラベルモデルが「AO(アオ)」だ。マオリ語で「地面、土、地球」を意味するグラベルロードらしいネーミング。グラベル/オールロードバイクとして設計され、レース向きの組み上げを実現したいユーザー、あるいはパニアバッグやボトルなど荷物を積んでクロスカントリーロードトリップに出かけたいユーザーのニーズどちらにも応えることができる。
走りを重視するChapter2らしく、フレーム素材には東レのカーボンT700とT800を採用することでフレーム重量1040g、フォーク427gという軽量性を実現。ドライブ側のBB付近が下がったチェーンステーにより大きなタイヤクリアランスをもち、700Cと650Bホイールに両対応。700Cなら40〜45C、650Bなら2.0が使用できる。
交換・可変式のリアエンド小物を備え、ハブ軸位置がブレーキ台座ごとスライドするシステムによってチェーンステー長を可変させることができ、チェーンステーを仮想的に長くして直進性や安定感を高めたり、短くして反応性を高めたりと、バイクのキャラクターを変えることができる。今回マイキーも綾野も、ともに後方にスライドした設定により安定性を高めるセッティングでレースを走った。
200マイルを走るマイキーはカンパニョーロのグラベルコンポ「EKAR(エカル)」を、ホイールには振動吸収性をもつ繊維状のBERDスポークを備えるASTUTOのカーボンホイールをチョイス。
バッグ類にはORUCASE(オルケース)のトップチューブバッグ/1.0L、スマグラーハンドルバーバッグ/2.1L、フレームバッグ ミニ/1.65Lの3つを取り付け、補給食とリペアパーツ等を分散させて装備。ボトルケージは高いホールド力をもつエリートのグラベル用Pria paveにJET 950mlボトルを組み合わせ、軽量かつ大容量で3リットル近い飲料をバイクに取り付ける仕様だ。
綾野はコンポにシマノGRX Di2を使用。チェーンリングはW仕様で48✕31T、フリーはアルテグラの11〜32Tでワイドレシオを確保。ホイールには発表されたばかりのGRXカーボンホイールに、タイヤはシュワルベ G-ONE R 45mmをチョイス。サドルにはフィジークのグラベルサドル TERRA ARGO X3、ハンドルバーはCADEX ARカーボンハンドルを使用。このハンドルはGRX Di2レバーとの形状の相性が非常に良く、超軽量でレースライドに最適なシェイプだ。
ストレージにはORUCASEのスマグラーハンドルバーバッグ/2.1L、トップチューブバッグ/1.0Lを組み合わせ、撮影用の交換レンズを収納するためボトルケース/1.25-1.75Lを使用した。フレームサイズがXSのためフレームトライアングルも小さく、ボトルに容量の大きなものを使用するとフレームバッグが使えないのがネックだった。ツールケースはダウンチューブ下部にボトルケージを介して取付けている。
AOの走りの特徴は軽量フレームならではの軽いもの。機敏で反応性に優れたレーシーな走りはレースにぴったりで、スモールサイズが得意なChapter2らしくXSサイズでも小気味よい運動性能を発揮してくれた。かつ、アイレットを多く備えてバッグ類のダイレクトマウントにも対応。バイクパッキングや荷物を積んでのツーリングにも使えるユーティリティと拡張性が魅力で、実はレースだけでない自分の使い方のニーズにバッチリ合っていたから選んだバイク。そのあたりのチョイスのこだわりは次の動画で語っているのであわせて参考にしてほしい。
chapter2AO GRAVEL
出場のチャンスは突然に。しかし準備は念入りに
いつか出たいと思っていたUnbound Gravel。まさかそれが今年実現するとは思っていなかったが、チャンスは突然やってくる。1月の小田原にマイキーを訪ねた時、申込み締め切りの直前だった。
月に数度、グランフォンドやグラベルのライド会を催しているサイクリングジプシーカフェ/chapter2ジャパン。一緒にグラベルライド講習会を走った仲間のジェフさんが「Unboundに出る」と言い出したのだ。ジェフさんはトライアスリートだけどグラベルは初心者。しかも乗り方もおぼつかないビギナーだが、今年チャレンジしたいと言うのだ。しかもXLクラス(560km)に!
それに触発されたマイキーが「僕らも申し込もう」と軽いノリで言い出し、なかば強引に誘われたかたちでとりあえず申し込んでみることにした。マイキーとは、いつもこうである(苦笑)。申込みだけして、出れるかどうかは半年後に考えればいい。ただ、その日にChapter2のグラベルバイク、AOも注文してしまった。気持ちは決まっていた。
AOのフレームは注文から4日で届き、迷いながらもwebエントリーも締切日当日に済ませた。アメリカ人は申し込んだとしても抽選で狭き門らしいが、日本人で今まで抽選に漏れた人はいないそうだ。大会は国際化を目指しており、海外からの参加者は大歓迎のようだ。
マイキーは念のため申し込みフォームの注釈に「日本でTV俳優をしていて、NHKサイクルアラウンドジャパンのレギュラー番組を持っている。シクロワイアードにレポートもする」と書き添え(それで通るよね、という目論見)、より確実であろうプロクラスにエントリー。僕は取材も両立したいため参加クラスに100マイルを選び、フィニッシュしたらすぐ200マイル組の取材にあたるつもりで。
そしてエントリー時から半年先のUnboundのことを頭に入れつつ、週末にはロングライドやグラベルライドで長く乗る日を設け、極力距離を稼いできた。隔週ぐらいの頻度でロングライドを企画しているジプシーカフェに通い、グラベルバイクはロードホイールに交換して舗装路でも長距離を乗ったりもした。直前のGWは超ロングライドを数回入れて脚を仕上げた。
その日を意識して過ごせたおかげで身体と心の準備はでき、機材と体力的な不安は無くなり、余裕を持ってアメリカに渡ることができた。
今回、出場にこぎつけられたのはマイキーのおかげだ。なぜならマイキーのお母さんと親戚一同がサポートに駆けつけてくれると言うし、一番の懸案だった宿を確保してくれることになったのだ。
エンポリアの街は小さく、それに比べて4,000人規模の大イベント。当然ホテルの部屋は足りない。それがマイキーの母の友人つながりで街中に一軒家を借りられることになったのだ。多くの参加者がクルマで1時間以上かけて遠方の街から通う実情で、これは本当に助かる。
そして以前から「Unboundに一緒に行きましょう!」と誘ってくれていたカズこと山本和弘さん(キャノンデール・ジャパン)も行動を共にすることになり、友人&家族的大所帯での遠征となった。
マイキーはカンザス州出身。しかし実家はコロラドに近いエリアで、カンザスといってもホストシティのエンポリアまでは700km以上離れているとか。つまり母や親戚一同は長距離ドライブで駆けつけてくれることに。借りた家はアメリカの典型的な広い庭&ガレージ付きの豪邸で、現地流の生活をしつつ準備ができたのも何よりだった。そういうのが本当に楽しい。
サガン登場に話題騒然 100マイルクラスを一緒に走る!
100マイルのスタートは200マイルが出発する1時間後。200マイルに出場するマイキーとカズと一緒にスタートへ。朝焼けとともにスタートする約1,400人の200マイル組を見送ると、約1,100人がエントリーした100マイルが整列するのだ。
マイキーは200マイルのプロクラスで走る。世界じゅうのグラベルレースを本業にするエリート選手が多く出場するなか、それは一見すると無茶なのだが、エントリーが受理されることが第一の作戦だった。トップレーサーが10時間以内で走りきる中、マイキーの予想は「日暮れまでに帰ってこれれば」というものだった。21時が完全日没だから、15時間が予想完走タイムとのことだった。僕がフィニッシュするのが早いからゴールで会おう!
100マイルクラスに話を戻すと、話題はペテル・サガンとダニエル・オス(トタルエネルジー)の飛び入り参加だ。年初に2度めのコロナに感染したサガンは体調が上がらず、アメリカのユタ州で乗り込み合宿を続けていたのだ。ツール・ド・フランスでの活躍と3度の世界チャンピオンの大スターはここでも大人気で、サイン攻めに。
スタート前にサガンには走行中に並走して撮影させてもらう旨を伝えてOKをもらい、僕もちゃっかりツーショットを撮らせてもらう。最前列はプロクラスの場所。100マイルにも多くの男女プロ選手がエントリーしていて、ステイタス&レベルは決して低くなさそうだ。
7時。パトカーの先導でローリングスタートを切る。位置取り争いで街中のパレード走行から速く、ロードレース並みの密集度だ。2kmほど先のグラベルの入り口で先導車が先行すると、そこからがリアルスタートだ。
誰もが集団の前のポジションでグラベルに侵入したがってバトルとなる。最初のコーナーでさっそくスリップ落車が発生して、すぐ後方でガシャガシャッと何人かがクラッシュした音が聞こえる。野辺山シクロクロスにも来てくれていたモリー・キャメロンが巻き込まれていたことを後になって知った。
集団の密集度は高いままで、30km/h以上のスピードでグラベル上を進み続ける先頭集団。路面の状況は先頭を行く選手しか見えないはずで、穴や轍が無いことを祈りつつ、ひたすら集団に追従するのはかなりの緊張感を伴う。
サガンと一緒に走ろうと、多くの選手が彼の周りに群がる。撮影をしたくてもこの集団の密集度では手放しするのは危険で、チャンスをうかがいながら近くを走る。サガンもツール取材などで僕のことを認識してくれているので、笑いながら撮影に協力してくれた。
そして前に入らせてもらうと、サドル後部に取り付けたGoProに向かってサガンが何か喋ったり、ぴょんぴょん跳ねたりと、お茶目して遊んでいるのを感じる(しかし後ろは振り返れなかった)。落車事故を起こすワケにいかないという点で、今までやってきた実走撮影でもっとも緊張した一瞬だった。
実はそのGoProは、その後の雨と砂泥被りのため撮影データすべてが飛んでしまった。それがつくづく残念だ。面白い映像が撮れていたはずなのに申し訳ありません。
グラベル上のハイスピードライドは未体験ゾーンへ
ロードレース的な走りには慣れていたせいか、ハイスピードの先頭集団には1時間近く滞留できた。細かい石が浮いているものの、硬く締まったフラットダートは想像以上に走りが軽く、「グラベルってこんなにスピードが出るのか!」と驚いた。日本でこんな走りは体験したことがない。道幅は広く、クルマが通った跡のスムーズなライン上を皆が走りたがるが、大きな集団では走るラインは選べない。時々穴があって弾かれて落車する人がいて、それを避けること2度。常に油断はできない。
フリントヒルズは大平原かつ緩い勾配が続く丘陵地。アップダウンはそれなりにあり、緩やかなダウンヒルでは50km/h以上のスピードが出ていたかもしれない。
最初の1時間の平均時速は30km/hを超えていた。急坂が現れだすと、グループは分解してバラバラになり、ようやく周りを見る余裕がでてくる。肝が冷えた時間はおしまい。ここまで無理して先頭集団についてたからか、かなり脚を削られてしまった。上りになると脚が痛み、攣りそうになる。まだ130kmを残しているのに、ちょっと頑張りすぎた。
続くアップダウン 降り出した雨で泥まみれに
100マイルの高低差のある難関はコース前半部に集中している。川渡りからのAT&T(電話局)のタワーアンテナのある丘は緩やかなスイッチバックをこなして上りつめる。すぐ脇を高速道路が走り、高台からは大平原が見渡せる。牛の群れる「キャトルペン」は一帯が自然に近い牧場のようで、コース脇には牛が群れ、通り過ぎる自転車に興味を持って見ている。このあたりがフリントヒルズの最標高ポイントだ。44マイル(66km)地点のテキサコヒルは給水ポイント「オアシス」だ。丘の上に大きな水槽が設置してあり、そこからボトルに水をもらう。ただし水のみ。本来なら暑さのためここまで大量の水を飲んでいるのだろうが、涼しかったから空になったのはボトルは1本のみ。水に浸したバンダナを配ってくれるが、晴れて暑かったらありがたかったことだろう。
50マイル地点に現れた”The JUDGE”(審判)という名の激坂は、皆が足を着いて歩くポイントだ。ここで自分は31✕32のギアでなんとか登っていけ、皆に感心された。「コースは平坦だ」と聞いていたが、それを信じずにフロントWに32Tローギアを用意しておいたのは良かった。
2時間をすぎたあたりで黒雲の下のエリアに入る。サンダーストーム(雷嵐)の予報が出ていたので覚悟はしていたが、やはり。そぼ降る雨に濡れながら進むも、気温は13度ほどと寒く、レインジャケットを羽織ることに。
参るのがタイヤで巻き上げる砂泥水の跳ね。細かな砂を含む泥はバイクを痛め、あちこちジャリジャリに。泥水は容赦なくカメラにかかり、対策が甘かったため、胸の一眼レフカメラはほどなく不動になってしまった。
体格の大きなアメリカ人は体重があるからか、ヒルクライムでは軽量級の自分が意外なほどスイスイ進むように感じる。下りは慎重を心がけながらも路面がスムーズなのでかなりスピードが出る。かなり先まで路面のラインが読めていれば思い切って下れるが、ときどき泥濘や穴が現れてタイヤを取られてすっ飛んでいる人もいるので、それを戒めにして慎重に行く。路肩でパンクを直している人は途切れずにいる。尖った石を踏まないこと。それが大事と路面を凝視して走る。
雨が降り続き、冠水した泥区間が続くようになる。路肩の草地に上って歩き出す人も。僕は日本のウェット&マディなシクロクロスを経験しているので、うまく乗っていける。「ブラボー!」とのお声をいただく。幸い泥はシャバシャバで、タイヤにまとわりつかなかったのは幸いだ。後で聞けば200マイルコースの泥はピーナツバターのように粘ったようだが、土の粘度は場所により違ったようだ。
現地のグラベルエキスパートに「もし前で歩き出した人を見たらすぐ降りること。そのまま突っ込めば転倒するかもしれないと警戒しろ」というアドバイスをもらっていた。これはまさにそのとおりで、泥や川渡りでスタックしている人がいるセクションに停まらず突っ込んでそのまま派手に転んでしまう人を何人か見かけた。泥がディレイラーにまとわりつき、破損することもあるだろう。まずバイクを壊さないことが完走への基本条件だ。
いよいよ後半、チェックポイントのマディソンへ
Unbound Gravelはセルフサポートが基本のレースだが、ルート上唯一のチェックポイントでは外部からのサポートを受けることができる(それ以外で受けると失格)。8時間走り続けるには補給食やドリンクの補充が必須だ。店で食料などを購入するのはOKだが、100、200ともにコース上に商店などはほぼ見当たらない。今回、じつはマイキーファミリーのサポート部隊は200マイルコースへ回ったので、自分へのサポートは無し。というのはコースがあまりに広範囲で、コースは重複していても通過時間の差によって100と200を同時にサポートすることは不可能だと判ったから。だから自分は基本はサポート無しで走り切れるだけの補給食と装備を積んで走った。
もしそれが事前に判断ができていれば「Crew for Hire(有料:$45)」を申し込んで、現地のボランティアスタッフのサポートを受けることができたのに。それに関しては下調べ不足だったが、たとえ単独参戦でもこの制度を利用すれば補給サポートに関しては心配がないということ。むしろスポンサー提供のエナジージェルなど補給食もドリンクもふんだんに用意されるので、利用価値は大きそうだ。
降り続く雨には参った。タイヤが巻き上げる砂泥水が身体にかかり、バイクを傷める。チェーンはジャリジャリ、ブレーキパッドやローターが削れていく。しかしここから後半は平坦基調でアップダウンが少ないのは助かる。しかし雨は強さを増してきた。「サンダーストーム」の予報が出ていたとおり雷が落ちるが、恐れていたほどではなかった。レース前数日の狂ったような荒天からすれば、穏やかな天気で助かったとさえ思える。
後半は平坦基調 感動的なフィニッシュへ
やがて雨は止み、エンポリアが近づくにつれて青空が見えてきて、後半は楽になった。路面も締まりだし、滑るように快調に走り続けた。ただ、撮影しようにも動くのはiPhoneと手持ちのGoProだけというのが悔しかった。
エンポリアのフィニッシュラインではコース沿道の大勢の人垣から歓声を浴び、アナウンサーが名前を呼び「日本からの挑戦者、おめでとう!」と叫んでくれた。これには鳥肌が立つほど気分が良かった。ボランティアさんからフィニッシャータオルを受け取り、ビールとフード券をもらう。カメラマン仲間や、連絡を取り合ってきた主催者関係者も「やり遂げたな、グラベルグラインダー!」と喜んでくれた。
フィニッシュして祝福されるのがこんなにも嬉しいものだとは、ずいぶん忘れていた感覚かもしれない。しかもこの喜びは困難が大きいほど味わえるものだ。走行距離168km、獲得標高差1,322m、完走タイムは8時間16分56秒。Stravaの移動時間は7時間20分だから、約1時間は撮影で停まっていた計算。55歳のホビーライダーの参考タイムとして記しておきます。困難はあれど100マイルならグラベル入門者でも走りきれるだろう。
時刻は午後3時過ぎ。急いで家に帰り、シャワーを浴び、再び撮影に出る準備をする。あまりの砂泥まみれを洗い流すのは簡単ではなかったけれど...。
マイキーはどの辺を走っているのだろう? wahoo ELEMENTのLivetrackで位置情報をチェックするが、居場所が表示されない....(スマホバッテリーの省電力のためOFFにしていたそうだ)
200マイルのトップフィニッシャーは例年より1時間以上早い最速タイムだったようで、急いでラストのグラベル区間へ向かい、200マイル参加の皆を撮影するため待つことにする。それほど疲れていないと思っていたが、消耗が激しく、食べ飽きたはずのエナジージェルを貪り食べてしまう始末。しかし頑張って走っているエントラントたちを撮っていると、元気がもらえる。過酷な時間を過ごし、消耗しきっているはずなのに、皆が笑顔なのだ。「撮ってくれてありがとう!」と何度も声をかけられた。
マイキーは日没の寸前、21時の2分前にフィニッシュ。「Beat the Sun」のラスト走者の栄誉をものにして観客から喝采を浴びた。結果としては3回のパンク、1回の落車、CP2では過酷さに気が遠くなって20分の仮眠をしたそうだ。タイムは14時間49秒48。総合637位、プロクラス101人中97位だった。
カンザスに里帰りして25年ぶりに故郷のレースに出場したマイキー。家族・親戚たちにサポートされて本当に幸せそうだった。マイキーはさっそく来年も出場すると決めたようだ。chapter2のオーナーでツアーを組みたいとも話しているから、関係が近い人はぜひアドバイスをもらって今から準備にかかるといい。
日が暮れてからも続々とフィニッシュするエントラントたち。アナウンサーは「You are the Winner!」と連呼し、すべての完走者を讃える。沿道の拍手と歓声も、夜の街に途切れること無くこだまする。完走した者すべてが勝者。これはグラベルレースの基本理念だ。速かった者も遅かった者も、困難に打ち克って完走という偉業を成し遂げたのだ。
アメリカにはセルフチャレンジ型のウルトラエンデュランス・オフロードイベントが多く存在する。主催者ライフタイム社が企画するLife Time Grand Prixは年間6イベントあり、3つがマウンテンバイク、3つがグラベル。Unbound Gravelはその2戦めにあたる。賞金総額25万ドルが用意されプロサイクリストの熱い注目を浴びるが、アマチュアにも大人気。選ばれたアスリートだけでなく、誰でも許容してくれるおおらかさがあり、挑戦したい気持ちを刺激してくれるのだ。バイクスポーツを通して困難に挑戦し、自己の壁を超えることで達成感を得ることに変わりはない。
充足感に溢れたフィニッシュラインの雰囲気をいつまでも味わっていたかったが、クローズ時間の午前3時まで付き合うには瞼が重かった。23時には家に帰り、マイキーやカズと一緒に食事を摂る。疲れた胃には昨日のカーボローディング用に作ったパスタの残りがぴったりだった。塩味が嬉しかった。
100マイルを走ってみて、取材上はそれで良かったのだが、200をやり遂げたカズとマイキーを見ていると、自分も200マイルに挑戦すべきだったとも思っている。全力を尽くした表情が限りなく眩しく見えるのだ。
ー IN GRAVEL WE ROAM ー「我らが彷徨えるグラベルのご加護を」。この日走ったグラベルはカンザスにしかないし、Unbound Gravelはアメリカでしかできない体験だったと思う。これからしばらくはやり残したものを心に留めて過ごすことになりそうだ。
マイキー&綾野が駆ったグラベルバイク Chapter2 AO
ニュージーランドのバイクブランド、Chapter2がリリースするグラベルモデルが「AO(アオ)」だ。マオリ語で「地面、土、地球」を意味するグラベルロードらしいネーミング。グラベル/オールロードバイクとして設計され、レース向きの組み上げを実現したいユーザー、あるいはパニアバッグやボトルなど荷物を積んでクロスカントリーロードトリップに出かけたいユーザーのニーズどちらにも応えることができる。
走りを重視するChapter2らしく、フレーム素材には東レのカーボンT700とT800を採用することでフレーム重量1040g、フォーク427gという軽量性を実現。ドライブ側のBB付近が下がったチェーンステーにより大きなタイヤクリアランスをもち、700Cと650Bホイールに両対応。700Cなら40〜45C、650Bなら2.0が使用できる。
交換・可変式のリアエンド小物を備え、ハブ軸位置がブレーキ台座ごとスライドするシステムによってチェーンステー長を可変させることができ、チェーンステーを仮想的に長くして直進性や安定感を高めたり、短くして反応性を高めたりと、バイクのキャラクターを変えることができる。今回マイキーも綾野も、ともに後方にスライドした設定により安定性を高めるセッティングでレースを走った。
200マイルを走るマイキーはカンパニョーロのグラベルコンポ「EKAR(エカル)」を、ホイールには振動吸収性をもつ繊維状のBERDスポークを備えるASTUTOのカーボンホイールをチョイス。
バッグ類にはORUCASE(オルケース)のトップチューブバッグ/1.0L、スマグラーハンドルバーバッグ/2.1L、フレームバッグ ミニ/1.65Lの3つを取り付け、補給食とリペアパーツ等を分散させて装備。ボトルケージは高いホールド力をもつエリートのグラベル用Pria paveにJET 950mlボトルを組み合わせ、軽量かつ大容量で3リットル近い飲料をバイクに取り付ける仕様だ。
綾野はコンポにシマノGRX Di2を使用。チェーンリングはW仕様で48✕31T、フリーはアルテグラの11〜32Tでワイドレシオを確保。ホイールには発表されたばかりのGRXカーボンホイールに、タイヤはシュワルベ G-ONE R 45mmをチョイス。サドルにはフィジークのグラベルサドル TERRA ARGO X3、ハンドルバーはCADEX ARカーボンハンドルを使用。このハンドルはGRX Di2レバーとの形状の相性が非常に良く、超軽量でレースライドに最適なシェイプだ。
ストレージにはORUCASEのスマグラーハンドルバーバッグ/2.1L、トップチューブバッグ/1.0Lを組み合わせ、撮影用の交換レンズを収納するためボトルケース/1.25-1.75Lを使用した。フレームサイズがXSのためフレームトライアングルも小さく、ボトルに容量の大きなものを使用するとフレームバッグが使えないのがネックだった。ツールケースはダウンチューブ下部にボトルケージを介して取付けている。
AOの走りの特徴は軽量フレームならではの軽いもの。機敏で反応性に優れたレーシーな走りはレースにぴったりで、スモールサイズが得意なChapter2らしくXSサイズでも小気味よい運動性能を発揮してくれた。かつ、アイレットを多く備えてバッグ類のダイレクトマウントにも対応。バイクパッキングや荷物を積んでのツーリングにも使えるユーティリティと拡張性が魅力で、実はレースだけでない自分の使い方のニーズにバッチリ合っていたから選んだバイク。そのあたりのチョイスのこだわりは次の動画で語っているのであわせて参考にしてほしい。
chapter2AO GRAVEL
text:Makoto AYANO
photo:Snowy Mountain Photography, Life time,MakotoAYANO
presented by chapter2
photo:Snowy Mountain Photography, Life time,MakotoAYANO
presented by chapter2