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この章では里山における下り系トレイルライドを想定したタイヤチョイスとバイクセッティングを2つの例で掘り下げてみます。日本各地の典型的な里山トレイルは、変化に富み、ややウェットな傾向があります。ペダルアップ(自力で漕ぐ)で上り、ラフな走りでトレイルを傷めないことを前提にテクニックを活かして下りを楽しむトレイルライドは本当に楽しいものです。まさに日本でのマウンテンバイキングの醍醐味とも言えるバイクとタイヤを選ぶヒントにして欲しい。

ライドシーン3

ロングストロークFサスとハードテイルで下りを楽しむトレイルライド

モノラル AE 150mmストロークのFサスを基準に設計された下り系29erだモノラル AE 150mmストロークのFサスを基準に設計された下り系29erだ photo:Makoto.AYANO

使用機材

バイクモノラル AE
タイヤMAZZA 29×2.6(フロント&リアとも)
空気圧セッティングフロント/1.1気圧、リア/1.2気圧

インプレッション

モデルとしたチタン製のハードテイルバイク モノラルAEは、150mmストロークのFサスを基準に設計された下り系29er。日本発のアウトドアギアブランド「MONORAL」のMTB好き開発者が、日本の地形にあったバイクとして設計した下り系バイクで、「AE」はAll MountainとEnduroの2つの頭文字をとっています。下りメインにジオメトリーが引かれた、ロングストロークのFサスの性能を最大限に生かして下る「登れるダウンヒル系ハードテイルバイク」。こうした現代の遊び心あるセッティングのバイクは高性能タイヤと組み合わせれば十分に楽しめるでしょう。

フロント&リアともにMAZZA 29×2.6を装着。ケーシングはしなやかなTRAILだフロント&リアともにMAZZA 29×2.6を装着。ケーシングはしなやかなTRAILだ
フロントフォークに36mm径の150mmストロークのものをセット。ヘッドアングルも64°で、下りを攻めることを楽しもうというバイク。そのフレームとフロントフォークの剛性の高さにあったタイヤの選択が必要になる。もしこれにグリップの悪いタイヤを使ってしまうと、フレームもフォークも硬すぎて路面を掴む能力がない全然トンチンカンな走りのバイクになってしまうので、軽さでタイヤを選ばず、フレームとフォークの能力を受け止められるハイパフォーマンスタイヤを選ぶべきです。

MAZZA 29×2.6  エアボリュームとノブのエッジは大迫力だMAZZA 29×2.6 エアボリュームとノブのエッジは大迫力だ 大径かつ太い29×2.6サイズのタイヤでフレーム側にも余裕あるクリアランスが要求される大径かつ太い29×2.6サイズのタイヤでフレーム側にも余裕あるクリアランスが要求される


前後タイヤにTRAILケーシングのMAZZAを2.6で入れてみた。2.4に比べてエアボリュームがあるため、空気圧を下げてリアは1.2に、フロントは1.1がベストでした。空気圧を上げるとケーシングのしなやかさが活かしづらくなり、路面をつかむ能力が低くなります。

フロント&リアともMAZZA 29×2.6でゲレンデのバンクを攻めるフロント&リアともMAZZA 29×2.6でゲレンデのバンクを攻める photo:Makoto.AYANO
前後共に同じ1.1にすると、ノブを刺してグリップを稼ぐタイプのタイヤになった。コーナーを攻めた際にバンクがないフラットなコーナーで、前後輪ともに上手い具合に流れていく。前後にしっかり体重がかかった状態で滑ることで同じような挙動になり、コントロールがしやすかった。

下りは攻め攻めだけど、登りもしっかり上れるバイクなので、急な坂を登る際に、自分がバランスを崩すまでバイク自体が登ってくれる印象。下りコーナーリングとブレーキ性能が高いタイヤなのもあって、急坂登りでもしっかりグリップしてくれる。そこがハードテイルのメリット。体力とテクニックが続く限りタイヤが受け止めてくれる。

MONORALバイク開発設計者の角南健夫さんもテストライドに参加。コンセプトを確かめたMONORALバイク開発設計者の角南健夫さんもテストライドに参加。コンセプトを確かめた photo:Makoto.AYANO
急坂を脚をつかずにどこまで登れるのかチャレンジをする際に、すごく頼りになるタイヤです。ただ、ブロックとブロックの間があいているので、濡れている岩の表面などで少しのズレによって一気に滑ることがある。その点はMAZZAよりもMARTELLOの方がブロックが密になっているので、スリップした際のグリップのリカバリー力がありますね。

ただしウェットな路面でもコンパウンドの良さによる適応能力の高さはあります。いつものタイヤの感覚だと乗り越えられない箇所もいくつかクリアができました。いつも「脚をつかずに登ってやろう」と思っているところで、同じバイクで同じ人間(自分)がタイヤだけを換えて、使い慣れていないにも関わらず登れた時にタイヤに助けられたことを実感できました。

29×2.6サイズならではの空気量の豊富さとノブが刺さるグリップ力を生かして下りを攻める29×2.6サイズならではの空気量の豊富さとノブが刺さるグリップ力を生かして下りを攻める photo:Makoto.AYANO
ハードブレーキングの際も路面をつかみ、安心して走ることが出来ました。しっかりブレーキがかかるのが楽しい感じ。私は普段、ハードテールバイクはリアがロックしやすいから、フロントブレーキには4ポッドキャリパーを入れて、リアは2ポッドにしています。でもしっかりグリップしてくれるのでその必要がなく、ロックするまでに余裕がありました。だから前後4ポッドキャリパーでもいけますね。

MAZZAをフロント29×2.4、リア2.6で前輪のグリップ力を効かせてバンクを攻めるMAZZAをフロント29×2.4、リア2.6で前輪のグリップ力を効かせてバンクを攻める photo:Makoto.AYANO
MAZZAは下りだけでなく激坂も登れるタイヤです。オールマウンテンって結局、脚をつかずにどこまで登れるか、下れるか。クロスカントリーバイクだけでなく、下り系バイクでも登ることを考えたタイヤチョイスが走りの幅を広げてくれます。

MAZZAをフロント29×2.4、リア2.6。フロントのノブを刺すことを意識して攻めるMAZZAをフロント29×2.4、リア2.6。フロントのノブを刺すことを意識して攻める photo:Makoto.AYANOMAZZAをフロント29×2.4、リア2.6で。「ユルい土のシングルトラックの対応力が凄い」MAZZAをフロント29×2.4、リア2.6で。「ユルい土のシングルトラックの対応力が凄い」


ライドシーン4

27.5Plusハードテイルバイクで下りを楽しむ里山ライド

サンタクルズCHAMELEON 27.5 タイヤはMARTELLO 27.5×2.8(フロント&リアとも)サンタクルズCHAMELEON 27.5 タイヤはMARTELLO 27.5×2.8(フロント&リアとも) photo:Makoto.AYANO

使用機材

バイクサンタクルズCHAMELEON 27.5
タイヤMARTELLO 27.5×2.8(フロント&リアとも)

インプレッション

ライドシーン2で登場したサンタクルズCHAMELEONを、29インチから27.5インチホイールに換装して、タイヤを2.8のプラス規格にしての下り系トレイルライドです(CHAMELEONは29と27.5の両対応バイク)。

MARTELLO 27.5×2.8  プラス規格の太さが安心感を放つMARTELLO 27.5×2.8 プラス規格の太さが安心感を放つ
このところ29の主流化はますます進み、27.5をすっかり凌駕しています。しかし27.5のハンドリングの切り返しの素早さや小回り性からくる操縦性の楽しさは捨てがたく、小柄な人にメリットのある点なども含め、まだまだ日本の里山では大活躍するホイール規格です。29のほうが走破性、速さという点で優れていたとしても、操る楽しさこそMTBライディングの醍醐味ですから。

浮力あふれるMARTELLO 27.5×2.8。ノブもオーソドックスなキャラメルパターンだ浮力あふれるMARTELLO 27.5×2.8。ノブもオーソドックスなキャラメルパターンだ リアにもMARTELLO 27.5×2.8をセットリアにもMARTELLO 27.5×2.8をセット


シーン2で29インチで乗ったバイクを、27.5インチのMARTELLO 27.5×2.8にチェンジ。プラス規格タイヤで横幅が広くなり、接地面積が大きくなったぶん、ノブが路面に刺さる力がやや弱くなり、硬く絞まったコーナーでの滑りやすさが出てきます。その反面、ふかふかのルーズな路面ではタイヤの太さからくる接地面積の増大により、埋まることなく走れます。

整備されたMTBゲレンデにはむしろそういったシュチュエ—ションはあまり無いので、ゲレンデより里山トレイル向きです。落ち葉の下に何があるか分からない時は、飛び出している突起さえ避けてさえいればほぼ大丈夫。緩んだ土や掘れた溝にもビクともしないキャパがあります。

MARTELLO 27.5×2.8のふわふわの浮力を生かして砂地のコーナーをクリアMARTELLO 27.5×2.8のふわふわの浮力を生かして砂地のコーナーをクリア photo:Makoto.AYANO
2.8Plusで面圧が低くなる分、ノブは刺さりにくいのですが、ノブのブロック配置に工夫があります。ノブ同士の間隔が広い2列のセンターノブと張り出したサイドノブによってグリップを確保しています。そしてセンターとサイドの間のレールはMAZZAほど深くなく、バイクをバンクさせても均一なグリップを保ち、激しい挙動変化を起こさない扱いやすいタイヤです。

Plusの太さで密にブロックが並んでいると、落ち葉の上などでも滑りやすくなってしまうんです。密すぎないノブで、太いタイヤ幅にあったトレッドパターンになっていると思います。一気に滑ることは抑えつつ、複数のブロックが路面を広く捉えることで滑り出しが把握しやすいタイヤ。バイクコントロールで粘りながらの横滑りが積極的に楽しめる。アグレッシブに攻めるレーシングタイヤではなく、バイクコントロール自体を楽しむライドに適していると思います。

ルーズな土のシングルトラックもMARTELLO 27.5×2.8なら走破性が高いルーズな土のシングルトラックもMARTELLO 27.5×2.8なら走破性が高い photo:Makoto.AYANO
里山ではノブが刺さり過ぎるタイヤは路面を痛めます。MARTELLOはブロックの配置によって面圧が低く、攻撃性の少ないタイヤになっています。トレイルにダメージを与えないように配慮しながら走るのは心地よい。まさに里山向きのタイヤです。

登りのトラクションの掛かりもすごく良かった。ガレた砂利でも連続したノブが路面を捉えるので転がりが良い印象。泥ハケ性を向上させるレールが斜めに入っているので、マッド路面で目詰まりを起こしてスリップするタイヤになりにくい。MAZZAほどではないが、泥をかいて進んでいく能力がある。

粘土質の登りにさらに木の根っこが露出したような所でも、多少グリップを失いながらもリカバリーをしながら登っていける能力を感じました。このタイヤは登っても面白い。特に低速で、トラクションコントロールしながら急坂のどこまで登って行けるかトライしやすいタイヤです。エアボリュームがあって空気圧を下げることができる。そしてケーシング自体のしなやかさとあわせて3つの能力で登りを楽しませてくれます。

多少重さはあるけど、トレイルライドならオールマイティーに使えます。里山トレイル全般、スノーライドやE-bikeにも良さそうですね。

提供:VTJ、photo&text:Makoto.AYANO
協力:MONORAL Outdoor(モノラル)サンタクルズ(ウィンクレル)