2019/07/12(金) - 18:50
本編ではアメリカにて発表されたキャノンデールの2つの新作モデル、TOPSTONE CARBONとSUPERSIX EVOの開発者インタビューをお届け。完成形に至るまでの開発秘話やテクノロジーの詳細解説を、2人のエンジニアの言葉を通してお伝えしていこう。
「全ては快適性とトラクション強化のため」とインタビューに応じるダリウス・シェカリ氏 photo:Yuto.Murata
― リアサスペンションの搭載には驚きました。どこからこのアイデアが出てきて、そしてなぜ採用に至ったのでしょうか?
まず、快適性はロードバイクにとって非常に重要な要素ですよね。どの時代でも乗り心地が良くてコンフォートなバイクを人々は求め、それに応えるよう我々も開発を続けてきました。伝統的なやり方で言えば、フレームの柔軟性をコントロールしてしなりによって快適性を生み出す方法が一つ。シートポストやサドル、スポーク等々も同じ考えで剛性や形状を調整し振動吸収性を高めようと各社工夫してきました。
そして次に注目されたのがタイヤです。ここ数年でロードバイクのタイヤ幅は一気にワイドになりました。20Cが標準だった時代から今では28Cや30Cだって入ります。バイクの形を大きく変えることなく、クリアランスを広げるだけでワイドタイヤによる快適性や高いトラクション性能を享受できるようになりました。
ですがバイクのしなりやタイヤ幅にも限界はあります。そこからさらなる快適性を追求すると、やはりサスペンションに行き着くわけです。我々はすでにフロントサスフォークを搭載した、SLATEというロードバイクを世に送り出していますし、それならリアサスペンションを採用したバイクもあっていいんじゃないかと今作の開発が進められたのです。
リアのフレキシブルな動作を可能としたKingPinサスペンション (c)キャノンデール・ジャパン
もちろんキャノンデールが誇るMTBの開発で培われたノウハウが詰まっています。バイクのデザインをスタートする前に、サスペンション、ダンパー、ショックユニットなど様々なシステムを検討しました。MTBのように重くて複雑な機構ではなく、ロードの形に合うシンプルで軽いシステムを目指したのです。ショートトラベルでも確実に作動して効果を生み出す構造とし、かつカーボンシートポストやコンフォートサドルも合わせることで真に快適な乗り心地を実現できました。
それでいてフレーム重量は1,100gほどで、ULTEGRA RX完成車も7.8kgとサスペンション付きバイクとして考えたら非常に軽量な仕上がりです。スチールやアルミバイクの時代に行ったらツールも勝てるくらいの重量ですよね。そんなバイクで存分にオフロードが楽しめる、これがTOPSTONE CARBONなのです。
― SLATEではサス付きフォークを採用して大きな注目を集めましたね。今作への搭載は検討されなかったのでしょうか?
「オフロードをスムーズに速く駆け抜ける楽しさを味わって欲しい」とダリウス氏 photo:Meg McMahon
そうですね、楽しくトリッキーに遊ぶSLATEとは走りのスタイルが違いますから。あくまで基本的なグラベルロードとして設計して、軽量でレスポンシブにオフロードを駆ける性能を重視したのです。フロントサスフォークだとそれだけで1,400gもあり重量がかさんでしまいます。もちろん快適性は向上するでしょうが、登りでの反応性などを損なわないとも限りません。
そこで今作は一般的なリジットフォークとし、カーボンレイアップを調整してフレキシブルな作りとし快適性を確保しています。ヘッド下側を大口径な1.5インチとしながらも、コラムはテーパードではなくストレートとすることで剛性を抑え、しなりを生み出して路面からの衝撃を緩和します。グラベルでの急ブレーキやエクストリームな乗り方でも壊れないけれども限界までしならせる、ここを追求していったんです。SLATEのようなワオ!って見た目はないけど、十分にコンフォートな乗り心地を実現できていますよ。
― 試乗してみてオフロードで快適かつ速いという走りを感じました。両立が難しい性能ですが、どうやってこれら2つをバランスさせているのでしょう?
バイク全体をしならせて快適性を生み出すよう設計している (c)キャノンデール・ジャパン
どういった乗り味が好まれるのか、どういった走りが速いと感じるのか、一般サイクリストからプロライダーまで幅広いレベルのフィードバックをデータとして持っており、開発においてそれらを活用していきます。速さに直結するヘッドやBBの剛性は数値で目標を定めればいいですが、同時にエクセレントな乗り心地を生み出す快適さとは個人のフィーリングの問題であり、定義するのは非常に難しかったですね。
そこで完成形に至るまで、サスペンションやフレームデザインの異なる大きく3つのプロトタイプを作成し検証。それぞれのバージョンにおいてカーボンレイアップのみを調整した、フレーム剛性が高い/中間/低いの3タイプも作り、乗り比べてみてどのくらいが適当なのかを探っていったんです。バイクが極端にソフトな方がトラクションも乗り心地もよくて好まれる傾向にあったのは興味深かったですね。我々が想定するコンプライアンスの加減と、ライダーのフィーリングが必ずしも一致せず、テストを繰り返して性能を煮詰めていきました。
革新的なKingPinサスペンションを生み出したダリウス氏 photo:Meg McMahon
またフロントに関しては、SAVEハンドルバーも大きな役割を果たしています。一見ボリュームあるデザインには見えますが、縦方向のコンプライアンスを高めるよう調整しており快適性を向上させているのです。
ただ、ハンドルはバイクとライダーとの接点でありライドフィールに大きな影響を与える部分。ヘッドにサスペンション機構を搭載する考えもありますが、それだとBBの硬さとフロント周りの動きがマッチせずフィーリングを阻害してしまうというのが我々の意見です。ハンドルが変に上下に動くとダンシングでのポジションやフォームにも悪影響になりますしね。その点、SAVEハンドルバーのしなりは確実に、でもごくわずかに抑えることでバイクとライダーのコンタクトフィールをバランスするよう作ってあるんです。
速さに関してはバイクの軽さももちろんですが、タイヤのチョイスも非常に重要だと考えます。オフロードでも車体が跳ねずに路面に吸い付いて走れることが速さに繋がるのです。グッドなタイヤとグッドな空気圧ほど良いサスペンションはありませんね。同じように、バイクのフレキシブルな作りが荒れた路面でもトラクションを生み出しスムーズな走行感に寄与しています。それでいて部分部分で剛性をコントロールしてパワーがスポイルされないよう配慮しているので、バイク全体でロスのない速い走りを実現できたのです。
― どういった乗り方やユーザーをターゲットに考えていますか?
グラベルをロスなく駆ける高性能な走りを実現したTOPSTONE CARBON (c)キャノンデール・ジャパン
純粋にレーシングもしくはツーリングと区別するわけではなく、”パフォーマンスアドベンチャー”とでも言いましょうか。荒れた路面をクイックにそしてファストに走って楽しんで欲しいと思います。遅くてダルいバイクは決して快適とは言えないですよね。優れた振動吸収性のみならず、”速さ”も含めて快適なマシンに仕上がっていますよ。
バイクのフレックス度合いもサイズごとに細かく調整しており、あらゆる体格のライダーが同じライドフィールとなるよう作り上げました。小さいサイズはチューブが短くなるから硬い、大きいサイズはその反対で柔らかい、そんな乗り味は過去のものです。シートステーのベンド形状やサスペンションのピポッド位置までサイズごとに完全に異なります。全てのサイクリストにTOPSTONE CARBONの楽しさを味わって欲しいですね。
空気力学の専門家としてSUPERSIX EVOの開発を指揮したネイサン・バリー氏 photo:Yuto.Murata
― 今回のモデルチェンジによって先代から大きく形状が変わりましたね。どういった意図があるのでしょうか。また開発プロセスも合わせて教えて下さい。
第2世代SUPERSIX EVOは軽量かつ高剛性で高い評価を受けていましたが、一方でエアロダイナミクスや快適性はやや劣っている部分がありました。それらの問題を解消しつつ、今まで以上に速いバイクを創り上げることが今作のゴールでした。そのために大胆にフレームデザインを変える必要があった。全く新しいチューブシェイプやコンパクトなリアトライアングルなどが、性能向上に大きな役割を果たしているのです。
開発に当たっては、まずフレーム重量をアンダー850gという明確な目標を決めてスタートしました。ヘッドチューブとBBの剛性を適正な数値に定め、その上でエアロダイナミクスを最大限高めるよう設計していったのです。剛性やエアロに関してはターゲットとする数値をクリアするのに問題はありませんでしたが、プロダクトマネージャーが求める重量まで突き詰めていくのに苦労しましたね。
エアロフォルムを纏い生まれ変わったSUPERSIX EVO photo:Meg McMahon
まず始めはコンピューターのCFD解析を用い、様々なチューブシェイプを検証していくところから始まります。エアロと剛性、そして軽量性を併せ持ったベストな形状を探っていく作業です。そこからフレームの形に落とし込んでいき、最終的には風洞実験を繰り返し細部を煮詰めていきました。
SUPERSIX EVOと言えば軽量性が大きな特徴でしたが、今作の開発においては過去作のイメージを意識することなく、全く新しいモデルとして”速さ”にフィーチャーしたバイクになっています。SYSTEMSIXの開発を通して、重量が増えても優れたエアロダイナミクスによってさらなる速さを実現できると証明できましたからね。
フレーム重量850g以下を目指しカーボンレイアップや形状を調整していった (c)キャノンデール・ジャパン
CFD解析に基づき空力&剛性&軽量性をバランスしたエアロチュービングを採用 (c)キャノンデール・ジャパン
エアロと快適性を高めるコンパクトなリアトライアングルが今作の大きな特徴 (c)キャノンデール・ジャパン
もちろん軽いバイクは素晴らしいですよ。実際、超軽量なバイクにすることも可能ではありますが、そうすると非常に高価なものになってしまう。それではベストなバイクとは言えません。今まで以上の速さを持った、全方位にグッドなオールラウンドレーシングバイクこそ我々が目指したところなのです。
各社フレームのルックスが似てきたという意見があるのは認識しています。ライバルブランドがリリースしてくるバイクを見ても「ああ、やっぱりそうなるよね」とエンジニアも納得していますし。エアロや速さを追求してシミュレーションしていくと、どうしても同じような形に行き着くんです。その上で、エアロコックピットによるスマートな見た目やケーブル内装のシステムは新型EVOの大きな特徴だと思います。
― 実際乗ってみて、速さや快適性を増した走りを体感できました。これらはどこに起因しているのでしょうか?
エアロ効果によってさらに速い走行性能を獲得した新型SUPERSIX EVO (c)キャノンデール・ジャパン
シートステーの交点を下げ、シートチューブとシートポストのしなりを活かすことで快適性を向上させた (c)キャノンデール・ジャパンやはり強化されたエアロダイナミクスの恩恵は大きいはず。今回のライドを時速40kmほどで走っていたなら、前作比で20Wはパワーセーブできていると思いますよ。20Wも変われば体感で大きく違うことでしょう。今回ディープリムホイールでテストしてもらったけど、これをローハイトのホイールで比較してみたらもっと顕著にその差を感じられるはずです。重量増なんて気にならないほどエアロの効果は偉大ですね。
またシートステーをドロップさせたデザインによって、シートチューブ上側のしなりを活かせるようになり快適な乗り心地を生み出しているんです。シートポストのしなりも加えて、サドル部分が前後に動くことで振動吸収の役割を果たすよう設計しています。もちろんフレックスにしなるチェーンステーも効果は大きいですし、全体で見て16%ほどコンプライアンスの向上を実現できているんですよ。
― EFエデュケーションファーストの選手からはどんな評価でしたか?
選手の好みによってリムとディスクを使い分けるEFエデュケーションファースト photo:Makoto.AYANO
ツールのチームプレゼンでSUPERSIX EVOをお披露目したリゴベルト・ウラン(EFエデュケーションファースト) photo:Makoto.AYANO
反応性やハンドリングに関しては前作から変わらず好評で、かつ速くて快適という部分でプロライダーにも気に入ってもらえました。こうして欲しいという意見は、カーボンレイアップを調整していく際にフィードバックとして活かしています。リムとディスクのチョイスは選手の好みに任せていて、チームとしては両モデルが混在している状態ですね。
プロ専用のスペシャルモデルは作っておらず、フレームのグレードは全て市販品と同じです。なのでリムブレーキを選択する選手のフレームはHi-Modではありません。6.8kgという重量制限があるためHi-Modほど軽量でなくても問題ないのです。それでいて剛性はHi-Modフレームと同等まで仕上げており、選手たちにも満足してもらえています。将来的にはディスクに統一されていくでしょうが、まだ保守的なライダーは少なくありませんね。
また、マーケットを見てもまだリムブレーキバイクは多くのサイクリストに需要があると判断し、今回ラインアップに残しておきました。レース派のライダーには根強い人気がありますね。あとは、どうしてもディスクブレーキコンポーネントの方が値段が高いので、よりリーズナブルなラインアップでユーザーの選択肢を増やしたい考えでもあります。エントリーレベルの人にもこの高性能な新型バイクを使ってもらいたいですね。
「より速いバイクに仕上げることが新型EVOの目標だった」とネイサン氏 photo:Yuto.Murata
TOPSTONE CARBONのデザインを主導した、ダリウス・シェカリ氏インタビュー
バイク全体をしならせ、これまでにない極上の快適性を実現した1台
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― リアサスペンションの搭載には驚きました。どこからこのアイデアが出てきて、そしてなぜ採用に至ったのでしょうか?
まず、快適性はロードバイクにとって非常に重要な要素ですよね。どの時代でも乗り心地が良くてコンフォートなバイクを人々は求め、それに応えるよう我々も開発を続けてきました。伝統的なやり方で言えば、フレームの柔軟性をコントロールしてしなりによって快適性を生み出す方法が一つ。シートポストやサドル、スポーク等々も同じ考えで剛性や形状を調整し振動吸収性を高めようと各社工夫してきました。
そして次に注目されたのがタイヤです。ここ数年でロードバイクのタイヤ幅は一気にワイドになりました。20Cが標準だった時代から今では28Cや30Cだって入ります。バイクの形を大きく変えることなく、クリアランスを広げるだけでワイドタイヤによる快適性や高いトラクション性能を享受できるようになりました。
ですがバイクのしなりやタイヤ幅にも限界はあります。そこからさらなる快適性を追求すると、やはりサスペンションに行き着くわけです。我々はすでにフロントサスフォークを搭載した、SLATEというロードバイクを世に送り出していますし、それならリアサスペンションを採用したバイクもあっていいんじゃないかと今作の開発が進められたのです。
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もちろんキャノンデールが誇るMTBの開発で培われたノウハウが詰まっています。バイクのデザインをスタートする前に、サスペンション、ダンパー、ショックユニットなど様々なシステムを検討しました。MTBのように重くて複雑な機構ではなく、ロードの形に合うシンプルで軽いシステムを目指したのです。ショートトラベルでも確実に作動して効果を生み出す構造とし、かつカーボンシートポストやコンフォートサドルも合わせることで真に快適な乗り心地を実現できました。
それでいてフレーム重量は1,100gほどで、ULTEGRA RX完成車も7.8kgとサスペンション付きバイクとして考えたら非常に軽量な仕上がりです。スチールやアルミバイクの時代に行ったらツールも勝てるくらいの重量ですよね。そんなバイクで存分にオフロードが楽しめる、これがTOPSTONE CARBONなのです。
― SLATEではサス付きフォークを採用して大きな注目を集めましたね。今作への搭載は検討されなかったのでしょうか?
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そうですね、楽しくトリッキーに遊ぶSLATEとは走りのスタイルが違いますから。あくまで基本的なグラベルロードとして設計して、軽量でレスポンシブにオフロードを駆ける性能を重視したのです。フロントサスフォークだとそれだけで1,400gもあり重量がかさんでしまいます。もちろん快適性は向上するでしょうが、登りでの反応性などを損なわないとも限りません。
そこで今作は一般的なリジットフォークとし、カーボンレイアップを調整してフレキシブルな作りとし快適性を確保しています。ヘッド下側を大口径な1.5インチとしながらも、コラムはテーパードではなくストレートとすることで剛性を抑え、しなりを生み出して路面からの衝撃を緩和します。グラベルでの急ブレーキやエクストリームな乗り方でも壊れないけれども限界までしならせる、ここを追求していったんです。SLATEのようなワオ!って見た目はないけど、十分にコンフォートな乗り心地を実現できていますよ。
― 試乗してみてオフロードで快適かつ速いという走りを感じました。両立が難しい性能ですが、どうやってこれら2つをバランスさせているのでしょう?
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どういった乗り味が好まれるのか、どういった走りが速いと感じるのか、一般サイクリストからプロライダーまで幅広いレベルのフィードバックをデータとして持っており、開発においてそれらを活用していきます。速さに直結するヘッドやBBの剛性は数値で目標を定めればいいですが、同時にエクセレントな乗り心地を生み出す快適さとは個人のフィーリングの問題であり、定義するのは非常に難しかったですね。
そこで完成形に至るまで、サスペンションやフレームデザインの異なる大きく3つのプロトタイプを作成し検証。それぞれのバージョンにおいてカーボンレイアップのみを調整した、フレーム剛性が高い/中間/低いの3タイプも作り、乗り比べてみてどのくらいが適当なのかを探っていったんです。バイクが極端にソフトな方がトラクションも乗り心地もよくて好まれる傾向にあったのは興味深かったですね。我々が想定するコンプライアンスの加減と、ライダーのフィーリングが必ずしも一致せず、テストを繰り返して性能を煮詰めていきました。
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ただ、ハンドルはバイクとライダーとの接点でありライドフィールに大きな影響を与える部分。ヘッドにサスペンション機構を搭載する考えもありますが、それだとBBの硬さとフロント周りの動きがマッチせずフィーリングを阻害してしまうというのが我々の意見です。ハンドルが変に上下に動くとダンシングでのポジションやフォームにも悪影響になりますしね。その点、SAVEハンドルバーのしなりは確実に、でもごくわずかに抑えることでバイクとライダーのコンタクトフィールをバランスするよう作ってあるんです。
速さに関してはバイクの軽さももちろんですが、タイヤのチョイスも非常に重要だと考えます。オフロードでも車体が跳ねずに路面に吸い付いて走れることが速さに繋がるのです。グッドなタイヤとグッドな空気圧ほど良いサスペンションはありませんね。同じように、バイクのフレキシブルな作りが荒れた路面でもトラクションを生み出しスムーズな走行感に寄与しています。それでいて部分部分で剛性をコントロールしてパワーがスポイルされないよう配慮しているので、バイク全体でロスのない速い走りを実現できたのです。
― どういった乗り方やユーザーをターゲットに考えていますか?
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バイクのフレックス度合いもサイズごとに細かく調整しており、あらゆる体格のライダーが同じライドフィールとなるよう作り上げました。小さいサイズはチューブが短くなるから硬い、大きいサイズはその反対で柔らかい、そんな乗り味は過去のものです。シートステーのベンド形状やサスペンションのピポッド位置までサイズごとに完全に異なります。全てのサイクリストにTOPSTONE CARBONの楽しさを味わって欲しいですね。
SUPERSIX EVOにエアロをプラスした立役者、ネイサン・バリー氏インタビュー
軽さよりも速さ、弱点を克服し進化を遂げたピュアオールラウンダー
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― 今回のモデルチェンジによって先代から大きく形状が変わりましたね。どういった意図があるのでしょうか。また開発プロセスも合わせて教えて下さい。
第2世代SUPERSIX EVOは軽量かつ高剛性で高い評価を受けていましたが、一方でエアロダイナミクスや快適性はやや劣っている部分がありました。それらの問題を解消しつつ、今まで以上に速いバイクを創り上げることが今作のゴールでした。そのために大胆にフレームデザインを変える必要があった。全く新しいチューブシェイプやコンパクトなリアトライアングルなどが、性能向上に大きな役割を果たしているのです。
開発に当たっては、まずフレーム重量をアンダー850gという明確な目標を決めてスタートしました。ヘッドチューブとBBの剛性を適正な数値に定め、その上でエアロダイナミクスを最大限高めるよう設計していったのです。剛性やエアロに関してはターゲットとする数値をクリアするのに問題はありませんでしたが、プロダクトマネージャーが求める重量まで突き詰めていくのに苦労しましたね。
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SUPERSIX EVOと言えば軽量性が大きな特徴でしたが、今作の開発においては過去作のイメージを意識することなく、全く新しいモデルとして”速さ”にフィーチャーしたバイクになっています。SYSTEMSIXの開発を通して、重量が増えても優れたエアロダイナミクスによってさらなる速さを実現できると証明できましたからね。
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各社フレームのルックスが似てきたという意見があるのは認識しています。ライバルブランドがリリースしてくるバイクを見ても「ああ、やっぱりそうなるよね」とエンジニアも納得していますし。エアロや速さを追求してシミュレーションしていくと、どうしても同じような形に行き着くんです。その上で、エアロコックピットによるスマートな見た目やケーブル内装のシステムは新型EVOの大きな特徴だと思います。
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― EFエデュケーションファーストの選手からはどんな評価でしたか?
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反応性やハンドリングに関しては前作から変わらず好評で、かつ速くて快適という部分でプロライダーにも気に入ってもらえました。こうして欲しいという意見は、カーボンレイアップを調整していく際にフィードバックとして活かしています。リムとディスクのチョイスは選手の好みに任せていて、チームとしては両モデルが混在している状態ですね。
プロ専用のスペシャルモデルは作っておらず、フレームのグレードは全て市販品と同じです。なのでリムブレーキを選択する選手のフレームはHi-Modではありません。6.8kgという重量制限があるためHi-Modほど軽量でなくても問題ないのです。それでいて剛性はHi-Modフレームと同等まで仕上げており、選手たちにも満足してもらえています。将来的にはディスクに統一されていくでしょうが、まだ保守的なライダーは少なくありませんね。
また、マーケットを見てもまだリムブレーキバイクは多くのサイクリストに需要があると判断し、今回ラインアップに残しておきました。レース派のライダーには根強い人気がありますね。あとは、どうしてもディスクブレーキコンポーネントの方が値段が高いので、よりリーズナブルなラインアップでユーザーの選択肢を増やしたい考えでもあります。エントリーレベルの人にもこの高性能な新型バイクを使ってもらいたいですね。
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提供:キャノンデール・ジャパン text&photo:Yuto.Murata