2019/07/09(火) - 12:00
軽量オールラウンダーであるADDICT RCだが、その走りはエアロロード顔負けの非常にパワフルなものだった。スイス、フリヴールにあるスコット本社周辺の丘陵地を舞台に、新型ADDICT RCをインプレッションした。
モデルチェンジを待ちわびていたファンも多いだろう。6年ぶりとなるADDICT RCのフルモデルチェンジは軽量ヒルクライムバイク好きにとってのビッグニュース。フレームの重量微増を補うシステム全体の軽量化や、更なる剛性強化、そして富士ヒルクライムのような高速レースで武器になる空力性能の改善は、トップレーサーだけでなくホビーユーザーにとっても朗報だ。
今回試乗用に準備されたのは、HMX-SLカーボンを使ったプレミアムモデル「ULTIMATE」の完成車パッケージだった。スラムのRED eTap AXSをフル装備し、足回りはジップの202 NSW Discにシュワルベのプロトタイプチューブレス(28c)。同行したエステバン・チャベス(コロンビア)とサイモン・イェーツ(イギリス)はシマノ R9170デュラエースを装備したチーム仕様で、見る角度によって色が変わるフレームとハンドルのカラーが魅力的(なおプロ選手は剛性はSLと同等、素材の耐久性はSL以上であるHMXフレームを使う)。二人とも新しいバイクに(チャベスは普段よりもっと)ニコニコ顔だ。
スコット本社があるフリヴールは、スイスらしい牧歌的風景に囲まれた小さな都市だ。つまり、ものの10分も走れば延々と続くアップダウンコースに出ることができる。前章で登場したエンジニアのリコ(U23時代はプロを目指していたという)に率いられ、普段のランチライドで使うという定番コースを案内してもらった。
フォルム的には最近のライバルモデルと似通っているかと思いきや、実際に目の当たりにしたADDICT RCは、例えばスペシャライズドのTarmacや、3週間前にイタリアで試したウィリエールのZero SLRのような、他社のライバルモデルたちよりもずっとマッシブだ。
ダウンチューブを中心としたエアロデザイン、クリーンで世界最先端のインテグレーションが与えられたハンドル周辺と、骨太なフロントフォーク。FOIL DISCと初代FOILを足して2で割ったようなルックスは、飛躍的に進化する現代版軽量オールラウンダーの最新形。軽さを追求したオールブラックの仕上げもグロスとマットが塗り分けられていたりと芸が細かい。
「これは果たして軽量バイクの走り心地なんだろうか?」しっかりと踏み込むまでもなく、もはや1漕ぎめから私はそう思った。全然ヒラヒラなんかしていない。BBを中心に感じる剛性は非常に高く、渡欧前にスコットジャパンから借り受けた先代ADDICT RCよりもその感覚はずっと強い。知り合いのドイツ人ジャーナリスト(剛脚)が「8000ワット出せる脚があったら良かったのに」とジョークを飛ばしていたが、確かにそのくらい踏みつけても耐えられそうな雰囲気すらある。
前に進む感覚が強く、まっすぐ踏んでも、例え斜めに踏んで(ガチャ踏みして)も、バイク自らトルクフルに前へ出る。「踏力を推進力に変換している感じ」がやたらと強く、特にBBからチェーンステーにかけての剛性強化は体感が容易で、強く踏んだ時にようやくBBあたりがしなる感じ。
全体的なまとまり感が強く、しなり無く進んで行くフィーリング自体は先代ADDICT RC同様だが、かと言って踏み辛いかと言うとそんなこともない。先代よりもゴチっとした塊感は薄く、非常に薄皮で、かつ大口径な味付けに変わっていたからだ。だからハイペースで登りを攻めても息切れする感覚が薄く、ダンシングだって軽快だ。
軽量バイクではあるものの、フィーリング的にはエアロロードバイクと通ずるものがある。スプリント的に踏み込んでもどっしりと構えているし、空力性能を改善したと言うからルーラーが長時間先頭引きするにも良いだろう。ウィリエールのZero SLRがダンシングを得意とするクライミングバイクだっただけに、違うアプローチで登り性能を突き詰める両社の対比が面白い。
軽量ホイールの代名詞でもあるジップ 202 NSW Discがセットされていたこともあって、ハンドリングはかなり機敏だが、倒し込んだその先で無闇に切れ込まず、安定するのはレーシングバイクとしての必要事項。シュワルベのプロトタイプチューブレスはグリップ感と快適性の面では良かったが、登りを得意とするADDICT RCだけにもう2,3mm細身のもので走ってみたいな、とも感じる。快適性に関してはエンデュランスロードのそれとは異なるため、しなやかなケーシングのタイヤを合わせるのが良いだろう。
関心したのがハンドルバーの持ちやすさだった。クリストファー・フルーム(イギリス)のサドルで有名になったフィッター集団「ゲビオマイズド」とのコラボレーションで生まれた上ハンドルのシェイプは、例えば登りでプッシュするような状況でも不思議と手馴染みが良い。
ステムからY字に分岐しているためクラウチングポジションは取りづらいが、3Dプリントによる滑り止めの感触も心地良い。2ピース式のCRESTON iC 1.5ハンドルとRR iCステムを試す機会はなかったものの、シェイプ自体は共通なので快適なライドを約束してくれるはずだ。
軽量バイクのモデルチェンジが相次ぐ中、スコットは新型ADDICT RCに更なる剛性と空力性能、そして軽量化を与え、最新鋭の軽量オールラウンダーとしてブラッシュアップさせてきた。
強いBB剛性にせよ、機敏なハンドリングにせよ、やはりADDICT RCがスキルを持ったレーサー用バイクであることは間違いない事実だが、販売の大多数を占めるであろうHMXグレードならば若干乗りやすさも増すはずだ。
当然兄弟モデルであるノーマルADDICTの次期モデルも開発が進んでいるはずだし、ADDICT RCの先進インテグレーションは、近いうちに登場すると思われる新型FOILにも活かされるのだろう。新型ADDICT RCの登場は、ここ数年鳴りを潜めていたスコットのロードラインナップ刷新の狼煙に思えてならないのだ。
次章ではADDICT RCで昨年のブエルタ・ア・エスパーニャを制したサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)と、エンジニアへのインタビューを紹介。トップクライマーから見た新型ADDICT RCの魅力とは?
スコット本社周辺の丘陵地帯でADDICT RCを走らせる
モデルチェンジを待ちわびていたファンも多いだろう。6年ぶりとなるADDICT RCのフルモデルチェンジは軽量ヒルクライムバイク好きにとってのビッグニュース。フレームの重量微増を補うシステム全体の軽量化や、更なる剛性強化、そして富士ヒルクライムのような高速レースで武器になる空力性能の改善は、トップレーサーだけでなくホビーユーザーにとっても朗報だ。
今回試乗用に準備されたのは、HMX-SLカーボンを使ったプレミアムモデル「ULTIMATE」の完成車パッケージだった。スラムのRED eTap AXSをフル装備し、足回りはジップの202 NSW Discにシュワルベのプロトタイプチューブレス(28c)。同行したエステバン・チャベス(コロンビア)とサイモン・イェーツ(イギリス)はシマノ R9170デュラエースを装備したチーム仕様で、見る角度によって色が変わるフレームとハンドルのカラーが魅力的(なおプロ選手は剛性はSLと同等、素材の耐久性はSL以上であるHMXフレームを使う)。二人とも新しいバイクに(チャベスは普段よりもっと)ニコニコ顔だ。
スコット本社があるフリヴールは、スイスらしい牧歌的風景に囲まれた小さな都市だ。つまり、ものの10分も走れば延々と続くアップダウンコースに出ることができる。前章で登場したエンジニアのリコ(U23時代はプロを目指していたという)に率いられ、普段のランチライドで使うという定番コースを案内してもらった。
フォルム的には最近のライバルモデルと似通っているかと思いきや、実際に目の当たりにしたADDICT RCは、例えばスペシャライズドのTarmacや、3週間前にイタリアで試したウィリエールのZero SLRのような、他社のライバルモデルたちよりもずっとマッシブだ。
ダウンチューブを中心としたエアロデザイン、クリーンで世界最先端のインテグレーションが与えられたハンドル周辺と、骨太なフロントフォーク。FOIL DISCと初代FOILを足して2で割ったようなルックスは、飛躍的に進化する現代版軽量オールラウンダーの最新形。軽さを追求したオールブラックの仕上げもグロスとマットが塗り分けられていたりと芸が細かい。
軽量バイクらしくない、トルクフルな走りに驚く
「これは果たして軽量バイクの走り心地なんだろうか?」しっかりと踏み込むまでもなく、もはや1漕ぎめから私はそう思った。全然ヒラヒラなんかしていない。BBを中心に感じる剛性は非常に高く、渡欧前にスコットジャパンから借り受けた先代ADDICT RCよりもその感覚はずっと強い。知り合いのドイツ人ジャーナリスト(剛脚)が「8000ワット出せる脚があったら良かったのに」とジョークを飛ばしていたが、確かにそのくらい踏みつけても耐えられそうな雰囲気すらある。
前に進む感覚が強く、まっすぐ踏んでも、例え斜めに踏んで(ガチャ踏みして)も、バイク自らトルクフルに前へ出る。「踏力を推進力に変換している感じ」がやたらと強く、特にBBからチェーンステーにかけての剛性強化は体感が容易で、強く踏んだ時にようやくBBあたりがしなる感じ。
全体的なまとまり感が強く、しなり無く進んで行くフィーリング自体は先代ADDICT RC同様だが、かと言って踏み辛いかと言うとそんなこともない。先代よりもゴチっとした塊感は薄く、非常に薄皮で、かつ大口径な味付けに変わっていたからだ。だからハイペースで登りを攻めても息切れする感覚が薄く、ダンシングだって軽快だ。
軽量バイクではあるものの、フィーリング的にはエアロロードバイクと通ずるものがある。スプリント的に踏み込んでもどっしりと構えているし、空力性能を改善したと言うからルーラーが長時間先頭引きするにも良いだろう。ウィリエールのZero SLRがダンシングを得意とするクライミングバイクだっただけに、違うアプローチで登り性能を突き詰める両社の対比が面白い。
軽量ホイールの代名詞でもあるジップ 202 NSW Discがセットされていたこともあって、ハンドリングはかなり機敏だが、倒し込んだその先で無闇に切れ込まず、安定するのはレーシングバイクとしての必要事項。シュワルベのプロトタイプチューブレスはグリップ感と快適性の面では良かったが、登りを得意とするADDICT RCだけにもう2,3mm細身のもので走ってみたいな、とも感じる。快適性に関してはエンデュランスロードのそれとは異なるため、しなやかなケーシングのタイヤを合わせるのが良いだろう。
関心したのがハンドルバーの持ちやすさだった。クリストファー・フルーム(イギリス)のサドルで有名になったフィッター集団「ゲビオマイズド」とのコラボレーションで生まれた上ハンドルのシェイプは、例えば登りでプッシュするような状況でも不思議と手馴染みが良い。
ステムからY字に分岐しているためクラウチングポジションは取りづらいが、3Dプリントによる滑り止めの感触も心地良い。2ピース式のCRESTON iC 1.5ハンドルとRR iCステムを試す機会はなかったものの、シェイプ自体は共通なので快適なライドを約束してくれるはずだ。
新型ADDICT RC登場はスコットロードラインナップ刷新の狼煙?
軽量バイクのモデルチェンジが相次ぐ中、スコットは新型ADDICT RCに更なる剛性と空力性能、そして軽量化を与え、最新鋭の軽量オールラウンダーとしてブラッシュアップさせてきた。
強いBB剛性にせよ、機敏なハンドリングにせよ、やはりADDICT RCがスキルを持ったレーサー用バイクであることは間違いない事実だが、販売の大多数を占めるであろうHMXグレードならば若干乗りやすさも増すはずだ。
当然兄弟モデルであるノーマルADDICTの次期モデルも開発が進んでいるはずだし、ADDICT RCの先進インテグレーションは、近いうちに登場すると思われる新型FOILにも活かされるのだろう。新型ADDICT RCの登場は、ここ数年鳴りを潜めていたスコットのロードラインナップ刷新の狼煙に思えてならないのだ。
次章ではADDICT RCで昨年のブエルタ・ア・エスパーニャを制したサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)と、エンジニアへのインタビューを紹介。トップクライマーから見た新型ADDICT RCの魅力とは?
提供:スコットジャパン text&photo:So.Isobe