2019/07/02(火) - 12:00
新型ADDICT RCのテクノロジー詳細をレポート。目に見えない軽さへの飽くなき探求や、完全フル内装と整備性を兼ね備えるコックピット、ファインチューニングが施されたジオメトリー、空力性能と剛性、快適性を増したフレーム設計など、直接開発者に聞いた話を加えつつ解説していく。
新型ADDICT RCを語る上で欠かせないのが軽さの追求だろう。ディスクブレーキ化に伴ってやや重量を増していることは事実だが、フレームに投入された技術的には大幅進化を果たしている。「先代の技術をそのまま使ったとしたら、同じ剛性値に達するにはもう数百グラムは必要だろう」とはヘッドエンジニアを務めるリコ・ズーセ氏の言葉だ。
会場に用意されたカットサンプルフレームを見て驚くのが、フレーム内部にバリやシワがあるどころか、光沢が出るほどスムースに仕上げられていることだ。スコットは従来からフレーム内部を滑らかに仕上げることで軽量化や強剛性化に努めてきたが、今回のモデルチェンジに伴い成型方法もアップデート。製法については企業秘密として語られなかったが、その技術はCRESTON iC SLハンドルにも応用され、トータルでの軽量化を遂げているという。
フレームの構造自体も大きく変わった。従来のフレームは別々に成型した8パーツを6箇所の接着で接合していたが、新型ADDICT RCでは一体成型品を増やすことで3つのパーツを4箇所の接着で済ませるようになった。これによって接着剤の使用量を減らしたほか、手作業工程が減ることで個体差を無くすというメリットも生まれている。
リアドロップアウトはXCレーサーのSPARKと同じく完全中空構造であり、フロントフォーク先端も中空構造のフルカーボン製だ。ブレーキキャリパー台座はリア側と同じように直接ボルト留めする構造を採用し、アダプターを介さずとも済むようになった(シマノの場合-22.3g/ロングボルトを使用するため+3.2g=19gの軽量化)。
ボルトを隠すプロテクターはボルト式よりも軽くアクセスに優れるマグネット式だ。更に一般的な丸断面だったシートポストはFOILと同じD型シェイプだが、142g(FOILは192g)と超軽量に収められ、クランプ僅か12g(FOILは28g)と、各所に軽量パーツを得意とするスコットのこだわりが見て取れる。
昨今のロードバイクに欠かせない要素がケーブル類の内装化だ。エアロロードのみならず、ピナレロやウィリエールなど各社がオールラウンドバイクのフル内装化を進める中、スコットはFOILに先んじてADDICT RCのフル内装化を達成した。前章で記した上位モデル用の一体型ハンドル「CRESTON iC SL」、中級モデル用の「CRESTON iC 1.5ハンドル/RR iCステム」共に電動/機械式コンポーネントに両対応しつつ、いかなるブレーキホース、ケーブル、ワイヤーも引き抜くことなくスペーサー量の変更やステム交換を可能としたことが最たる特徴だ。
しかし一口に内装化と言っても、フレーム設計上はいかにコラム剛性を確保しつつ、ヘッドチューブ内にルーティング用スペースを確保するかという問題が付きまとう。「フル内装化したバイクは決して珍しくはないものの、我々の視点で見れば、この2項目を両立したものはまだ存在しない」とズーセ氏は言う。例えばイラストの1番目と3番目のイラストはフォークコラムを細くした分ハンドリングが悪くなり、2番目のイラストでは変速ワイヤーを通すスペースが無く機械式コンポーネントを使えない。
そこでADDICT RCでは、コラムの中心軸をヘッドチューブに対して3mm後方にオフセットさせた「エキセントリックフォークシャフト」を用い、上側1-1/8インチ+下側1-1/4インチの上下異径コラムと、上下1-1/2インチベアリングを組み合わせるという斬新なアイディアが採用された。
なおフロントブレーキホースもコラム前面の開口部からフォークレッグ内に入る特殊なルーティングが採用されており、これによってコラム剛性とルーティングスペースをどちらも確保することに成功している。イメージ図とカットモデルの写真を見比べると構造がお判り頂けるはずだ。
ボルトが露出しない一体型のCRESTON iC SLハンドルはY字状のフォルムが特徴的だが、これは角度を緩やかにし、構造的に強度を増すための工夫。上ハンドル部からコラムクランプ末端部まで一続きのカーボンプリプレグを使用しているため剛性と軽量化に優れ、295gと超軽量ながらFOILに搭載していた一体型ハンドルに比べてスプリント剛性(ねじれ剛性)を+26%、ステムを薄くすることで上下後方の振動吸収性を+27%確保している。対応するコンピュータマウントはガーミンもしくはワフーの2種類で、Y字部分にコンピュータをセットできるため空力面でもアドバンテージを有しているという。
構造面はもちろんのこと、握りやすさへの配慮がCRESTON iC SLハンドルに与えられたもう一つの顔だ。「エアロだけど持ちづらいハンドルはもう過去のもの。サドルで協力体制を敷くゲビオマイズド(ドイツのプロフィッター集団)と共同で、ミッチェルトン・スコットの選手たちの協力も得ながら、実際のレース強度で踏み込む際どのような力が掛かるのかを徹底的に調べ上げた。全てのライダーにとっての最適解となるよう、そして空力面でもアドバンテージになるよう工夫した」と、シンクロスマネージャーのベン・マーチャンド氏は胸を張る。上ハンドル部分までバーテープを巻かずともグリップするよう、3Dプリントによる滑り止め加工が施されているもユーザーを思った工夫だ。
マーチャンド氏によれば、シンクロス開発陣の最難関課題はCRESTON iC SLではなく、ミドルグレードモデルに搭載する別体式のCRESTON iC 1.5ハンドルとRR iCステムだったという。ブレーキホースを切ることなくステム交換やスペーサー調整が可能なシステムは既にBMCやスペシャライズドが採用しているものの、ステム下部にホース類を沿わせるため完全内装とは呼べず、さらにフレームへの取り込み口を兼ねるスペーサーが必要となるため、ハンドル位置をできるだけ下げたいユーザーにはそぐわない。そこで長期に渡る開発期間を経て、パズルのような機構を介してステム内部を中通しする独創的な構造が完成した。取り外しの工程は以下の写真を参照いただきたい。
先代比-160g:ディスク化による重量増を埋めて補う軽さの探求
新型ADDICT RCを語る上で欠かせないのが軽さの追求だろう。ディスクブレーキ化に伴ってやや重量を増していることは事実だが、フレームに投入された技術的には大幅進化を果たしている。「先代の技術をそのまま使ったとしたら、同じ剛性値に達するにはもう数百グラムは必要だろう」とはヘッドエンジニアを務めるリコ・ズーセ氏の言葉だ。
会場に用意されたカットサンプルフレームを見て驚くのが、フレーム内部にバリやシワがあるどころか、光沢が出るほどスムースに仕上げられていることだ。スコットは従来からフレーム内部を滑らかに仕上げることで軽量化や強剛性化に努めてきたが、今回のモデルチェンジに伴い成型方法もアップデート。製法については企業秘密として語られなかったが、その技術はCRESTON iC SLハンドルにも応用され、トータルでの軽量化を遂げているという。
フレームの構造自体も大きく変わった。従来のフレームは別々に成型した8パーツを6箇所の接着で接合していたが、新型ADDICT RCでは一体成型品を増やすことで3つのパーツを4箇所の接着で済ませるようになった。これによって接着剤の使用量を減らしたほか、手作業工程が減ることで個体差を無くすというメリットも生まれている。
リアドロップアウトはXCレーサーのSPARKと同じく完全中空構造であり、フロントフォーク先端も中空構造のフルカーボン製だ。ブレーキキャリパー台座はリア側と同じように直接ボルト留めする構造を採用し、アダプターを介さずとも済むようになった(シマノの場合-22.3g/ロングボルトを使用するため+3.2g=19gの軽量化)。
ボルトを隠すプロテクターはボルト式よりも軽くアクセスに優れるマグネット式だ。更に一般的な丸断面だったシートポストはFOILと同じD型シェイプだが、142g(FOILは192g)と超軽量に収められ、クランプ僅か12g(FOILは28g)と、各所に軽量パーツを得意とするスコットのこだわりが見て取れる。
オフセットコラムと2種類の専用コックピットが鍵 独創的で先進的な内装システム
昨今のロードバイクに欠かせない要素がケーブル類の内装化だ。エアロロードのみならず、ピナレロやウィリエールなど各社がオールラウンドバイクのフル内装化を進める中、スコットはFOILに先んじてADDICT RCのフル内装化を達成した。前章で記した上位モデル用の一体型ハンドル「CRESTON iC SL」、中級モデル用の「CRESTON iC 1.5ハンドル/RR iCステム」共に電動/機械式コンポーネントに両対応しつつ、いかなるブレーキホース、ケーブル、ワイヤーも引き抜くことなくスペーサー量の変更やステム交換を可能としたことが最たる特徴だ。
しかし一口に内装化と言っても、フレーム設計上はいかにコラム剛性を確保しつつ、ヘッドチューブ内にルーティング用スペースを確保するかという問題が付きまとう。「フル内装化したバイクは決して珍しくはないものの、我々の視点で見れば、この2項目を両立したものはまだ存在しない」とズーセ氏は言う。例えばイラストの1番目と3番目のイラストはフォークコラムを細くした分ハンドリングが悪くなり、2番目のイラストでは変速ワイヤーを通すスペースが無く機械式コンポーネントを使えない。
そこでADDICT RCでは、コラムの中心軸をヘッドチューブに対して3mm後方にオフセットさせた「エキセントリックフォークシャフト」を用い、上側1-1/8インチ+下側1-1/4インチの上下異径コラムと、上下1-1/2インチベアリングを組み合わせるという斬新なアイディアが採用された。
なおフロントブレーキホースもコラム前面の開口部からフォークレッグ内に入る特殊なルーティングが採用されており、これによってコラム剛性とルーティングスペースをどちらも確保することに成功している。イメージ図とカットモデルの写真を見比べると構造がお判り頂けるはずだ。
ボルトが露出しない一体型のCRESTON iC SLハンドルはY字状のフォルムが特徴的だが、これは角度を緩やかにし、構造的に強度を増すための工夫。上ハンドル部からコラムクランプ末端部まで一続きのカーボンプリプレグを使用しているため剛性と軽量化に優れ、295gと超軽量ながらFOILに搭載していた一体型ハンドルに比べてスプリント剛性(ねじれ剛性)を+26%、ステムを薄くすることで上下後方の振動吸収性を+27%確保している。対応するコンピュータマウントはガーミンもしくはワフーの2種類で、Y字部分にコンピュータをセットできるため空力面でもアドバンテージを有しているという。
構造面はもちろんのこと、握りやすさへの配慮がCRESTON iC SLハンドルに与えられたもう一つの顔だ。「エアロだけど持ちづらいハンドルはもう過去のもの。サドルで協力体制を敷くゲビオマイズド(ドイツのプロフィッター集団)と共同で、ミッチェルトン・スコットの選手たちの協力も得ながら、実際のレース強度で踏み込む際どのような力が掛かるのかを徹底的に調べ上げた。全てのライダーにとっての最適解となるよう、そして空力面でもアドバンテージになるよう工夫した」と、シンクロスマネージャーのベン・マーチャンド氏は胸を張る。上ハンドル部分までバーテープを巻かずともグリップするよう、3Dプリントによる滑り止め加工が施されているもユーザーを思った工夫だ。
マーチャンド氏によれば、シンクロス開発陣の最難関課題はCRESTON iC SLではなく、ミドルグレードモデルに搭載する別体式のCRESTON iC 1.5ハンドルとRR iCステムだったという。ブレーキホースを切ることなくステム交換やスペーサー調整が可能なシステムは既にBMCやスペシャライズドが採用しているものの、ステム下部にホース類を沿わせるため完全内装とは呼べず、さらにフレームへの取り込み口を兼ねるスペーサーが必要となるため、ハンドル位置をできるだけ下げたいユーザーにはそぐわない。そこで長期に渡る開発期間を経て、パズルのような機構を介してステム内部を中通しする独創的な構造が完成した。取り外しの工程は以下の写真を参照いただきたい。
機械式シフトワイヤーの取り回しがタイトとなるため最も短いステム長でも90mmだが、後述するフレームのジオメトリー調整によって、特にXXSやXSなどスモールサイズフレームの乗りやすさを改善している。例えば従来XSフレームに80mmを付けていたならば、XXSサイズにして90mmステムを付けた方が全体のバランスは良くなるとマーチャンド氏は言う。今回登場したコックピットはどちらも、内装式ハンドル/ステムのベンチマーク的存在となるに違いない。
「いくら世界最高性能のバイクを作れたとしても、ジオメトリーがおかしければ何の意味もない」とは、ADDICT RCのプレゼンテーションで語られた言葉だ。例えばイェーツ兄弟やチャベスなどXSサイズを使う小柄なクライマーが多いミッチェルトン・スコットからは、よりアグレッシブなジオメトリーを持つスモールサイズが求められていたという。
しかし28mmタイヤに対応するクリアランスもまたADDICT RCの必須条件であり、そこでスコットと同じスイスのフリヴールにあるフィッター集団「ラドラボール」やチームの協力を仰ぎつつ、フォークを長く、ヘッドチューブを短く、かつ安定感を高めるべくBBハイトを低く調整。旧型ADDICT RCを使った新型ジオメトリープロトタイプを数台チームに渡した上で数値を煮詰めた。
先述したように、オールラウンドレーサーとしての総合力を引き上げるべく、FOILにも使われるエアロシェイプ「F01エアフォイル」の使用範囲がトップチューブとチェーンステーを除いた全チューブに広がり、コックピットのエアロ化を果たしたことで先代比-6W、時速45km/hで40kmを走行した場合27秒速い(ミッチェルトン・スコットのチームスペック完成車で比較)という空力面での進化を達成。カーボン積層を更にアップデートすることでBB剛性は+14.5%、同時にシートチューブとシートステーの柔軟性を増すよう設計しているため、FOILを僅かに上回る快適性を身につけている。
空力強化と軽量化のクロスオーバーが進む現在だが、スコットにとってそれは、既に先代デビュー以前から取り組んできたテーマ。軽さはもちろん、独創的かつユーザーフレンドリーな機構を備えたハンドルや、剛性、空力、そして快適性と全方位的に進化を果たした軽量オールラウンダーが新型ADDICT RCだ。カテゴリーのベンチマークとなり得る注目機が、再びスコットから登場した。
次章ではADDICT RCの現地インプレッションと、同席したアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)や、ヘッドエンジニアを務めたズーセ氏へのインタビューを紹介する。
アグレッシブなポジションと、ワイドクリアランスに対応した新ジオメトリー
「いくら世界最高性能のバイクを作れたとしても、ジオメトリーがおかしければ何の意味もない」とは、ADDICT RCのプレゼンテーションで語られた言葉だ。例えばイェーツ兄弟やチャベスなどXSサイズを使う小柄なクライマーが多いミッチェルトン・スコットからは、よりアグレッシブなジオメトリーを持つスモールサイズが求められていたという。
しかし28mmタイヤに対応するクリアランスもまたADDICT RCの必須条件であり、そこでスコットと同じスイスのフリヴールにあるフィッター集団「ラドラボール」やチームの協力を仰ぎつつ、フォークを長く、ヘッドチューブを短く、かつ安定感を高めるべくBBハイトを低く調整。旧型ADDICT RCを使った新型ジオメトリープロトタイプを数台チームに渡した上で数値を煮詰めた。
-6W、+14.5%、+αの快適性 オールラウンドレーサーとして更なる高みへ
先述したように、オールラウンドレーサーとしての総合力を引き上げるべく、FOILにも使われるエアロシェイプ「F01エアフォイル」の使用範囲がトップチューブとチェーンステーを除いた全チューブに広がり、コックピットのエアロ化を果たしたことで先代比-6W、時速45km/hで40kmを走行した場合27秒速い(ミッチェルトン・スコットのチームスペック完成車で比較)という空力面での進化を達成。カーボン積層を更にアップデートすることでBB剛性は+14.5%、同時にシートチューブとシートステーの柔軟性を増すよう設計しているため、FOILを僅かに上回る快適性を身につけている。
空力強化と軽量化のクロスオーバーが進む現在だが、スコットにとってそれは、既に先代デビュー以前から取り組んできたテーマ。軽さはもちろん、独創的かつユーザーフレンドリーな機構を備えたハンドルや、剛性、空力、そして快適性と全方位的に進化を果たした軽量オールラウンダーが新型ADDICT RCだ。カテゴリーのベンチマークとなり得る注目機が、再びスコットから登場した。
次章ではADDICT RCの現地インプレッションと、同席したアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)や、ヘッドエンジニアを務めたズーセ氏へのインタビューを紹介する。
提供:スコットジャパン text&photo:So.Isobe