2019/07/16(火) - 12:00
ブエルタ・ア・エスパーニャ覇者サイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)と、ADDICT RCのヘッドエンジニアを務めたリコ・ズーセ氏へのインタビューを紹介します。ADDICTと共にグランツアーを戦ってきた世界屈指のトップクライマーから見た新型の魅力とは。
プレゼンテーションに同席したブエルタ覇者サイモン・イェーツと新型ADDICT RC photo:So.Isobe
― まずは先のジロ・デ・イタリアについて聞かせて下さい。おそらく少し残念な結果かとは思いますが、どんなレースでしたか?
そうだね。少なくとも自分の思った通りにはいかなかった。総合8位には入れたし、幾つかのステージでは満足いく走りができたけれど、総合優勝を目指していたので期待とは程遠い。落ち込んだけどジロはまた来年もやってくる。レーススケジュール次第ではあるけれど来年リベンジしたい。ツール・ド・フランスはアダムに任せるけど、リカバリー次第ではブエルタ・ア・エスパーニャに出る可能性もある(※後日サイモンのツール出場が決定)。
ただしチームとしては決して悪いジロではなかった。チャベスの復活の勝利は誰もが感動したし、それでチームの士気がぐっと上向きになったんだ。彼が怪我で苦しんでいたのは誰もが知っていたことだったし、僕も本当に嬉しかった。彼はまだ総合を争うレベルまで戻っていないけれど、来年あたりには総合争いに食い込んでくると確信しているよ。
― 話をADDICT RCに向けましょう。走りの印象はどうでしたか?
「短時間乗っただけでも進化を感じることができた。バイクがたわまずパワーが伝わる」 photo:So.Isobe
「ディスクブレーキで6.8kgを実現できる新型ADDICT RCには満足」 (c)Jochen Haar/Scott Sport今回を含めて1、2度のショートライドしかしていないので、その真価は厳しい山岳で本気で踏まないと判断しづらいものがある。ただしファーストインプレッションとしては良かったよ。というか、ものすごく良かった。先代ADDICT RCは僕が今まで乗ってきた中でのベストバイクと言えるけど、短時間乗っただけでも進化を感じることができた。
例えば、最初に違うな、と感じたのはボトムブラケット周辺の剛性。特に登りでアタックした時の違いは明確で、先代よりもたわみが出ずにパワーがナチュラルに伝わっていくのが分かった。レースでは武器になると思うね。
― スコットの開発チームに要求したことはありますか?
自分はクライマーなので、欠かせないのがバイクを組んだ時に6.8kgに収まっていること。新型ADDICT RCは様々なアップデートを施され、更にディスクブレーキにも関わらず6.8kgを達成している。大歓迎だね。ハンドルも先代の時からFOILの一体型ハンドルに差し替えて使っているので嬉しいアップデートだった。
― ディスクブレーキに関しての個人的な意見は?
常にADDICT RCと共にグランツールを戦ってきたサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) (c)CorVos
好きだよ。これは嘘じゃない。ドライコンディションではリムブレーキと大きな違いは感じないけれど、レインコンディションでの違いは圧倒的。例えば5月のジロ・デ・イタリアの山岳では冷たい雨になることも多く、今年もめちゃくちゃタフなステージがあった。そういう場面で確実なブレーキングができるのは何がどうしたってアドバンテージだ。新型ADDICT RCはディスクブレーキオンリーだけど、重量増を回避しているし、個人的には全くデメリットには感じていない。
早くレースで使ってみたいね。僕は比較的機材に対してコンサバティブなので、トレーニングである程度使ってからの話だけど、楽しみだよ。もしかしたらツールでアダムのサポート役に回るかもしれない(取材は5月中旬)ので、その場合はツールがADDICT RCを使う最初のレースになるだろう。
photo:Kei Tsuji1992年8月7日生まれ、イングランド出身のオールラウンダー。2013年の世界選手権ポイントレースで金メダルを獲るなどトラック競技で頭角を現し、2014年に双子の弟アダムと共にオリカ・グリーンエッジでプロデビュー。以来6年間同チームのグランツールエースを務め、2017年ツールで前年のアダムに続きマイヨブランを獲得した。
昨年のジロでマリアローザを長期間着用したものの、後半に失速。リベンジを賭けたブエルタでは着実な走りで総合優勝を達成した。今年はジロで総合8位。今ツールではアダムのサポート役に回る。
ヘッドエンジニアを務めたリコ・ズーセ氏 photo:So.Isobe
― 新型ADDICT RCの走りに大きな進化を感じました。選手たちや他のジャーナリストも話していましたが、特にBB剛性の差は体感できる部分でした。
やはりBB剛性は走りの要ですから。ここが柔らかいことはつまりエネルギーロスに直結してしまいます。もちろん脚力やスキルは必要ですが、ADDICT RC、特にHMX-SLカーボンを使うULTIMATEはミッチェルトン・スコットが使うプロ機材ですので、一切の妥協はありません。
― 例えばピナレロのF12は性能と同時にルックスの美しさにもこだわっていました。ADDICTの場合は?
デザインスケッチから開発をスタートするという意味では同じですね。やはり多くのユーザーにとって「カッコ良いこと」は非常に重要ですし、そもそもそこが抜けていては購買欲に繋がりませんから。小さなリアバックなどは確かに現在のロードバイクの流行ですが、単に流行に則ったのではなく、それが良いから採用したということ。ADDICTに関しては世界最高性能のバイクを作る目標を持っていたため、デザインよりも機能美と表現した方が良いでしょう。ただしそれはADDICTシリーズ、ひいてはスコットの全製品に言えることです。
― 先代ADDICTに対するミッチェルトン・スコットの選手たちの要望は何だったのでしょう。
2018年ツール。ポルティヨン峠のダウンヒルを攻めるアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Makoto.AYANO
第一にはUCIの重量制限6.8kgジャストに仕上がるバイクであること。第二にBB剛性がもっと欲しいということ。そして乗り心地やエアロダイナミクス...。ただし剛性に関してはあればあっただけ良いわけではありません。例えば先代モデルのBMCのTimemachine Roadは過剛性でほとんどの選手たちが乗りませんでした。昨年モデルチェンジを行ないバランスの良いバイクになりましたが、先代は良くなかった。
そしてディスクブレーキ化しているため、特に6.8kgに対する思いは強かったわけです。特に山岳で争うようなオールラウンダーやクライマーの場合、7.0kgでは重すぎる。少なくとも6.9kgに収まっていないと選手たちは使ってくれません。今年は移行期間なので全選手が新型ADDICTをツール・ド・フランスで使ってくれるかは分かりませんが、来年は70%以上の選手がADDICTに、残りのスプリンターやルーラーたちがFOILに乗ることになるでしょう。ADDICTは今までFOILがカバーしてきた部分を置き換える性能を有していると言えますね。女子チームは現在100%FOILに乗っていますが、来季はADDICTに変更になるはずです。
― 選手たちの反応は?
第一印象は非常にポジティブなものでしたね。特にエステバン・チャベスはすごく気に入ってくれたようです。先日一緒に走った時が彼の初ライドでしたが、「これ、すごく良いね。普段の自分のポジションとは違うけれど、それでもかなり走るように感じる。良いサインだと思うよ」と。エステバンやサイモン、そしてアダムもXSサイズを使っているのでジオメトリー変更についても気に入ってくれたようです。
ADDICT RCのモデルチェンジはスコットのロードラインナップ刷新の狼煙となり得るか photo:So.Isobe
― 一般ユーザーからはリムブレーキ廃止を嫌がる声も出そうですが...。
どのメーカーも同じだと思いますが、ディスクブレーキの制動力とグリップ力の強いワイドタイヤの組み合わせこそ、これからのロードバイクの標準。コーナーを攻めることもできるし、多くのユーザーにとっては安心してダウンヒルを下ることができる。もともと落車などリスクのあるスポーツですが、そこをできる限り取り除いてあげることはメーカーとしての責務です。特にハイエンドモデルで新規にリムブレーキモデルを開発することはありません。
新型ADDICT RCは、我々スコットが自信を持って送り出す次世代軽量オールラウンダーです。日本の皆さんにもきっと気に入ってもらえると信じています。
ヘッドエンジニアを務めたリコ・ズーセ氏 photo:So.IsobeFEA解析や3Dモデリングを専攻し2013年にスコットへと加入。ADDICT CX/GRAVELの開発を皮切りにエンジニアとして活躍し、ロードバイクカテゴリーのヘッドエンジニアとしてADDICT RC開発の指揮を採った。アンダー時代は母国ドイツのブンデスリーガに所属し、プロを目指してキッテルやデゲンコルプらと競い合ったという。現在も「ビースト(他社員からの愛称)」としてスコット社内最速の脚を誇る。
ブエルタ覇者サイモン・イェーツにインタビュー
「BB剛性向上は顕著。バイクがたわまずパワーが伝わる」
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― まずは先のジロ・デ・イタリアについて聞かせて下さい。おそらく少し残念な結果かとは思いますが、どんなレースでしたか?
そうだね。少なくとも自分の思った通りにはいかなかった。総合8位には入れたし、幾つかのステージでは満足いく走りができたけれど、総合優勝を目指していたので期待とは程遠い。落ち込んだけどジロはまた来年もやってくる。レーススケジュール次第ではあるけれど来年リベンジしたい。ツール・ド・フランスはアダムに任せるけど、リカバリー次第ではブエルタ・ア・エスパーニャに出る可能性もある(※後日サイモンのツール出場が決定)。
ただしチームとしては決して悪いジロではなかった。チャベスの復活の勝利は誰もが感動したし、それでチームの士気がぐっと上向きになったんだ。彼が怪我で苦しんでいたのは誰もが知っていたことだったし、僕も本当に嬉しかった。彼はまだ総合を争うレベルまで戻っていないけれど、来年あたりには総合争いに食い込んでくると確信しているよ。
― 話をADDICT RCに向けましょう。走りの印象はどうでしたか?
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例えば、最初に違うな、と感じたのはボトムブラケット周辺の剛性。特に登りでアタックした時の違いは明確で、先代よりもたわみが出ずにパワーがナチュラルに伝わっていくのが分かった。レースでは武器になると思うね。
― スコットの開発チームに要求したことはありますか?
自分はクライマーなので、欠かせないのがバイクを組んだ時に6.8kgに収まっていること。新型ADDICT RCは様々なアップデートを施され、更にディスクブレーキにも関わらず6.8kgを達成している。大歓迎だね。ハンドルも先代の時からFOILの一体型ハンドルに差し替えて使っているので嬉しいアップデートだった。
― ディスクブレーキに関しての個人的な意見は?
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好きだよ。これは嘘じゃない。ドライコンディションではリムブレーキと大きな違いは感じないけれど、レインコンディションでの違いは圧倒的。例えば5月のジロ・デ・イタリアの山岳では冷たい雨になることも多く、今年もめちゃくちゃタフなステージがあった。そういう場面で確実なブレーキングができるのは何がどうしたってアドバンテージだ。新型ADDICT RCはディスクブレーキオンリーだけど、重量増を回避しているし、個人的には全くデメリットには感じていない。
早くレースで使ってみたいね。僕は比較的機材に対してコンサバティブなので、トレーニングである程度使ってからの話だけど、楽しみだよ。もしかしたらツールでアダムのサポート役に回るかもしれない(取材は5月中旬)ので、その場合はツールがADDICT RCを使う最初のレースになるだろう。
サイモン・イェーツ プロフィール
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昨年のジロでマリアローザを長期間着用したものの、後半に失速。リベンジを賭けたブエルタでは着実な走りで総合優勝を達成した。今年はジロで総合8位。今ツールではアダムのサポート役に回る。
ヘッドエンジニアに話を聞く
「6.8kgジャストに仕上がることがチームからの第一条件だった」
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やはりBB剛性は走りの要ですから。ここが柔らかいことはつまりエネルギーロスに直結してしまいます。もちろん脚力やスキルは必要ですが、ADDICT RC、特にHMX-SLカーボンを使うULTIMATEはミッチェルトン・スコットが使うプロ機材ですので、一切の妥協はありません。
― 例えばピナレロのF12は性能と同時にルックスの美しさにもこだわっていました。ADDICTの場合は?
デザインスケッチから開発をスタートするという意味では同じですね。やはり多くのユーザーにとって「カッコ良いこと」は非常に重要ですし、そもそもそこが抜けていては購買欲に繋がりませんから。小さなリアバックなどは確かに現在のロードバイクの流行ですが、単に流行に則ったのではなく、それが良いから採用したということ。ADDICTに関しては世界最高性能のバイクを作る目標を持っていたため、デザインよりも機能美と表現した方が良いでしょう。ただしそれはADDICTシリーズ、ひいてはスコットの全製品に言えることです。
― 先代ADDICTに対するミッチェルトン・スコットの選手たちの要望は何だったのでしょう。
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第一にはUCIの重量制限6.8kgジャストに仕上がるバイクであること。第二にBB剛性がもっと欲しいということ。そして乗り心地やエアロダイナミクス...。ただし剛性に関してはあればあっただけ良いわけではありません。例えば先代モデルのBMCのTimemachine Roadは過剛性でほとんどの選手たちが乗りませんでした。昨年モデルチェンジを行ないバランスの良いバイクになりましたが、先代は良くなかった。
そしてディスクブレーキ化しているため、特に6.8kgに対する思いは強かったわけです。特に山岳で争うようなオールラウンダーやクライマーの場合、7.0kgでは重すぎる。少なくとも6.9kgに収まっていないと選手たちは使ってくれません。今年は移行期間なので全選手が新型ADDICTをツール・ド・フランスで使ってくれるかは分かりませんが、来年は70%以上の選手がADDICTに、残りのスプリンターやルーラーたちがFOILに乗ることになるでしょう。ADDICTは今までFOILがカバーしてきた部分を置き換える性能を有していると言えますね。女子チームは現在100%FOILに乗っていますが、来季はADDICTに変更になるはずです。
― 選手たちの反応は?
第一印象は非常にポジティブなものでしたね。特にエステバン・チャベスはすごく気に入ってくれたようです。先日一緒に走った時が彼の初ライドでしたが、「これ、すごく良いね。普段の自分のポジションとは違うけれど、それでもかなり走るように感じる。良いサインだと思うよ」と。エステバンやサイモン、そしてアダムもXSサイズを使っているのでジオメトリー変更についても気に入ってくれたようです。
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― 一般ユーザーからはリムブレーキ廃止を嫌がる声も出そうですが...。
どのメーカーも同じだと思いますが、ディスクブレーキの制動力とグリップ力の強いワイドタイヤの組み合わせこそ、これからのロードバイクの標準。コーナーを攻めることもできるし、多くのユーザーにとっては安心してダウンヒルを下ることができる。もともと落車などリスクのあるスポーツですが、そこをできる限り取り除いてあげることはメーカーとしての責務です。特にハイエンドモデルで新規にリムブレーキモデルを開発することはありません。
新型ADDICT RCは、我々スコットが自信を持って送り出す次世代軽量オールラウンダーです。日本の皆さんにもきっと気に入ってもらえると信じています。
リコ・ズーセ氏(ヘッドエンジニア) プロフィール
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提供:スコットジャパン text&photo:So.Isobe