2019/06/25(火) - 22:00
ツール・ド・フランス目前に、スコットの新型ADDICT RCがデビューする。「最高パフォーマンスのロードバイク」を目指し、更なる軽量化に加え、剛性アップ、空力と乗り心地の改善、他社より一歩進んだフル内装ルーティングなど、総合的なレベルアップを図ったオールラウンドバイクだ。サイモン・イェーツらトップ選手を招き、真新しいスイスのスコット本社で開かれた発表会をレポートする。
フルモデルチェンジを果たしたADDICT RC。軽さを軸に総合力をレベルアップさせたオールラウンダーだ photo:So.Isobe
2014年のラインナップ復活から実に6年。ディスクブレーキモデルの追加など、度重なるアップデートを経ながらスコットの軽量ロードの座を守り続けてきたADDICT RC(アディクト)が遂にフルモデルチェンジを遂げる。スイス、フリヴールの真新しいスコット本社社屋にはヨーロッパを中心に大勢のメディアが集結し、ミッチェルトン・スコットが駆る次世代クライミングバイクへの期待が大きいことが窺える。
プレゼンテーション会場は真新しいスコット新社屋。その規模に圧倒される photo:So.Isobe
ジロを走り終えた直後のサイモン・イェーツ(イギリス)とエステバン・チャベス(コロンビア)も参加 photo:So.Isobe
コックピットは刷新。一歩抜きん出た独創的なシステムに注目が集まる (c)Simon Ricklin/Scott Sport
発表会ではテストライドも実施された。乗り味や選手インタビューは第3編にて (c)Simon Ricklin/Scott Sport
ジロ・デ・イタリア閉幕後僅か1日というタイミングで開催されたプレゼンテーションには、総合8位でマリアローザ争いを終えたサイモン・イェーツ(イギリス)と、第19ステージで涙の復活勝利を果たしたエステバン・チャベス(コロンビア)も参加。ジャーナリスト陣や、これからニューバイクと共に山岳ステージを戦う二人の前に、プレゼンテーションまで沈黙を貫き通していた(参加者にも事前情報は一切渡されなかった)新型ADDICT RCが姿を現した。
コンパクト化されたリアバックなどデザイン変更が施されつつも、車体前側部分に先代の雰囲気を色濃く残すADDICT RC。シンプルかつ壮大な「世界最高パフォーマンスのロードバイク」という開発目標を叶えるべく、更なる軽量化を図りつつ、高剛性化やインテグレーション化、空力改善、乗り心地の向上など、全方位に進化を遂げたスーパーバイクとして再デビューを果たした。
2003年当時840gという衝撃的な軽さを誇ったCR1。サウニエルデュバルのクライマーが活躍したことでその名声を高めた (c)CorVos
クロスカントリーの男女世界王者を擁するMTBや、近年のムーブメントを率いるEバイクなど総合ブランドとして成長するスコットだが、ことロードバイクに関しては20年間に渡り軽量カテゴリーのパイオニアとして業界を牽引してきた。
2001年には量産モデルとして世界で初めてフレーム重量1kg切りを達成したTeam Issueを皮切りに、わずか2年後には840gにまでダイエットしたCR1をリリース。UCI規定の完成車重量6.8kgにやすやすと達したCR1は、山岳スペシャリスト揃いのサウニエル・デュバルに供給され、険しい山岳コースで快進撃を見せることとなる。ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャの山岳を制したことでクライマーバイクの座を確固たるものとし、各メーカーを巻き込んだ軽量化戦争の火付け役ともなった。
4年後の2007年にデビューしたのが初代ADDICTだ。フレーム重量790g、フォーク重量330g、市販完成車重量5.9kgと当時の世界最軽量記録を再び塗り替えただけではなく、高い剛性ゆえにスプリンターからも厚い信頼を誇った。絶頂期のマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)やアンドレ・グライペル(ドイツ)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)らが所属したチームコロンビアの主力機として活躍し、2009年にはシーズン通算132勝という記録を打ち立てる。
FOIL登場前、ADDICTはいかなるステージでも使用され軽量オールラウンダーとしての地位を確立 (c)CorVos
絶頂期のマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)を支えた初代ADDICT (c)CorVos
2013年のツール・ド・フランスでデビューした第2世代ADDICT photo:Makoto.AYANO
2018年のブエルタ・ア・エスパーニャを制したサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
今年のジロ・デ・イタリアで復活のステージ優勝を挙げたエステバン・チャベス(コロンビア、ミッチェルトン・スコット) photo:LaPresse
ADDICTはエアロロードのFOIL(フォイル)登場後も山岳マシンとして愛され、2013年には東レ製T-1000グレード素材による「HMX-SL」カーボンを提げた第2世代へ。フレーム&フォークのセットで1kg以下という更なる軽量化を遂げつつ、エアロや剛性といったオールラウンド性能を磨き新生オリカ・グリーンエッジ(現ミッチェルトン・スコット)の主力機として引き続き活躍を続けてきた。
丸5年間というロングライフは高性能の証明だ。近年では2018年のサイモン・イェーツ(イギリス)のブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝やマッテーオ・トレンティン(イタリア)のヨーロッパ選手権優勝、今年のジロ・デ・イタリアでコロンビアを涙させたチャベスの復活ステージ優勝など、FOILと共にミッチェルトン・スコットの勝利量産を支えてきた。「スコットの歴史は軽量ロードバイクの進化の歴史」と言っても過言ではない。
295gという軽さを誇るCRESTON iC SLハンドル。ねじれ剛性と垂直方向の柔軟性を高めている (c)Scott Sport
第3世代となるADDICT RCの重量は、セカンドグレードのHMXモデルで850g(先代HMXモデルは810g)。ディスクブレーキ化したフレーム&フォーク単体で見れば僅かに重量は増しているものの、僅か295gというシンクロスの新型一体型ハンドル「CRESTON iC SL」の採用や、大幅に軽量化されたシートポストなど各所の工夫により、フレーム&フォーク、コックピット、シートポスト&クランプの合計では-100g、ハイエンドグレードのHMX-SLカーボンを使った「ULTIMATE」では-160gという大幅な軽量化を見た。各システムのインテグレート化が進む昨今において、傘下のシンクロスと共同開発できることがスコットの大きな強みと言えるだろう。なお両グレード共にディスクブレーキのみのラインナップとなる。
ADDICT RCは先述のCRESTON iC SL一体型ハンドルで完全インターナルルーティングを達成しているが、白眉はCRESTON iC 1.5ハンドルとRR iCステムの組み合わせによって、全ラインナップのフル内装化を果たしたこと。機械式の変速ワイヤーですら内装化させ、さらにいかなるブレーキホース、ケーブル、ワイヤーも引き抜くことなくスペーサー量の変更やステム交換が可能なよう配慮されている。
ミドルグレードの完成車に用意されたCRESTON iC 1.5ハンドルとRR iCステム。機械式/電動式問わず完全フル内装化と整備性を両立した photo:So.Isobe
非常に複雑な機構を持つRR iCステム。詳細は次章にて photo:So.Isobe
ハンドリングを損なわずにブレーキホース/変速ワイヤーの通り道を確保するべく、ヘッドベアリングは上下共に1.5インチ化され、コラム中心軸をオフセットさせるなど、これまでのロードバイクには存在しない革新的なアイディアが多数盛り込まれた。開発者の一人は「いくらハイエンドモデルがフル内装化されていても、ミドルグレードまでテクノロジーが降りてこなければ意味がない」と言う。
フレームには従来ヘッドチューブとダウンチューブのみに採用されてきたエアロシェイプ「F01エアフォイル」の使用範囲が拡大され、シートステーの接合位置を下げたデザインの採用や先述のインターナル化に伴い、空力抵抗を-6W低減(先代比、45km/h走行時)。カーボン積層を更にアップデートすることでBB剛性は+14.5%。さらに縦方向のフレックスを僅かに向上させ、FOIL同等レベルに押し上げるなど、軽量モデルの枠を超えた大幅なブラッシュアップが施されている。
次章では、図解やチャート、インタビューを踏まえて新型ADDICT RCを構築するテクノロジーを解説していく。
テーマは「世界最高のパフォーマンス」 ADDICT RCが6年ぶりにフルモデルチェンジ
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ジロ・デ・イタリア閉幕後僅か1日というタイミングで開催されたプレゼンテーションには、総合8位でマリアローザ争いを終えたサイモン・イェーツ(イギリス)と、第19ステージで涙の復活勝利を果たしたエステバン・チャベス(コロンビア)も参加。ジャーナリスト陣や、これからニューバイクと共に山岳ステージを戦う二人の前に、プレゼンテーションまで沈黙を貫き通していた(参加者にも事前情報は一切渡されなかった)新型ADDICT RCが姿を現した。
コンパクト化されたリアバックなどデザイン変更が施されつつも、車体前側部分に先代の雰囲気を色濃く残すADDICT RC。シンプルかつ壮大な「世界最高パフォーマンスのロードバイク」という開発目標を叶えるべく、更なる軽量化を図りつつ、高剛性化やインテグレーション化、空力改善、乗り心地の向上など、全方位に進化を遂げたスーパーバイクとして再デビューを果たした。
スコットの歴史は軽量ロードバイクの進化の歴史
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2001年には量産モデルとして世界で初めてフレーム重量1kg切りを達成したTeam Issueを皮切りに、わずか2年後には840gにまでダイエットしたCR1をリリース。UCI規定の完成車重量6.8kgにやすやすと達したCR1は、山岳スペシャリスト揃いのサウニエル・デュバルに供給され、険しい山岳コースで快進撃を見せることとなる。ジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャの山岳を制したことでクライマーバイクの座を確固たるものとし、各メーカーを巻き込んだ軽量化戦争の火付け役ともなった。
4年後の2007年にデビューしたのが初代ADDICTだ。フレーム重量790g、フォーク重量330g、市販完成車重量5.9kgと当時の世界最軽量記録を再び塗り替えただけではなく、高い剛性ゆえにスプリンターからも厚い信頼を誇った。絶頂期のマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)やアンドレ・グライペル(ドイツ)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)らが所属したチームコロンビアの主力機として活躍し、2009年にはシーズン通算132勝という記録を打ち立てる。
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丸5年間というロングライフは高性能の証明だ。近年では2018年のサイモン・イェーツ(イギリス)のブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝やマッテーオ・トレンティン(イタリア)のヨーロッパ選手権優勝、今年のジロ・デ・イタリアでコロンビアを涙させたチャベスの復活ステージ優勝など、FOILと共にミッチェルトン・スコットの勝利量産を支えてきた。「スコットの歴史は軽量ロードバイクの進化の歴史」と言っても過言ではない。
システム全体で160g、HMXモデルでも100gを軽量化
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ADDICT RCは先述のCRESTON iC SL一体型ハンドルで完全インターナルルーティングを達成しているが、白眉はCRESTON iC 1.5ハンドルとRR iCステムの組み合わせによって、全ラインナップのフル内装化を果たしたこと。機械式の変速ワイヤーですら内装化させ、さらにいかなるブレーキホース、ケーブル、ワイヤーも引き抜くことなくスペーサー量の変更やステム交換が可能なよう配慮されている。
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ハンドリングを損なわずにブレーキホース/変速ワイヤーの通り道を確保するべく、ヘッドベアリングは上下共に1.5インチ化され、コラム中心軸をオフセットさせるなど、これまでのロードバイクには存在しない革新的なアイディアが多数盛り込まれた。開発者の一人は「いくらハイエンドモデルがフル内装化されていても、ミドルグレードまでテクノロジーが降りてこなければ意味がない」と言う。
フレームには従来ヘッドチューブとダウンチューブのみに採用されてきたエアロシェイプ「F01エアフォイル」の使用範囲が拡大され、シートステーの接合位置を下げたデザインの採用や先述のインターナル化に伴い、空力抵抗を-6W低減(先代比、45km/h走行時)。カーボン積層を更にアップデートすることでBB剛性は+14.5%。さらに縦方向のフレックスを僅かに向上させ、FOIL同等レベルに押し上げるなど、軽量モデルの枠を超えた大幅なブラッシュアップが施されている。
次章では、図解やチャート、インタビューを踏まえて新型ADDICT RCを構築するテクノロジーを解説していく。
スコット 新型ADDICT RCスペック
ADDICT RC ULTIMATE
サイズ | XXS、XS、S、M、L |
フレーム | Addict RC Disc HMX SL |
フォーク | Addict RC Disc HMX SL 1-1/8"-1-1/4" |
ヘッドセット | シンクロス Addict RC Integrated |
ボトムブラケット規格 | BB86 |
対応コンポーネント | 電動式、機械式 |
参考完成車重量 | 6.9kg(スラムRED eTap AXS+ジップ202 NSW Disc) |
フレームセット価格 | 未定 |
ADDICT RC
サイズ | XXS、XS、S、M、L |
フレーム | Addict RC Disc HMX |
フォーク | Addict RC Disc HMX 1-1/8"-1-1/4" |
ヘッドセット | シンクロス Addict RC Integrated |
ボトムブラケット規格 | BB86 |
対応コンポーネント | 電動式、機械式 |
参考完成車重量 | 7.12kg(シマノR9170系Dura-Ace+DTスイスERC1100 Dicut db) |
フレームセット価格 | 未定 |
提供:スコットジャパン text&photo:So.Isobe