2016/08/18(木) - 12:04
前章のFRに続いて、今回は北米での新たなるムーブメントを取り入れ進化を遂げた次世代のエンデュランスロード、VRの詳細解説とインプレッションを紹介していく。
しかし前章で簡単に紹介した通り、最大35mm幅のタイヤに対応するクリアランスや、最小1:1以下のギア構成、各所に設けられたキャリアやフェンダー用のマウント、さらにはトップチューブにボルトオンするストレージボックスの用意など、ピュアなロードバイクの枠を飛び越えた感もある。
これはアメリカで一種のムーブメントを引き起こしているグラベルライドやバイクパッキング(ストレージを搭載したツーリング)への対応力を増すための進化であり、開発にあたっては「VR一台でどんな用途にも使える汎用性」が重視されたのだという。
でも、だったらシクロクロスバイクや、グラベルバイクで良いんじゃないか。そう思う方も多いだろう。しかしシクロクロスでは33Cのブロックタイヤが基本であり、俊敏なハンドリングや泥はけ性能が必要だ。かたや、アメリカのフラットダートを長距離に渡って走るグラベルロードには、とにかく安定したハンドリングと、快適性とスピードを両立するために40C程度のスリックタイヤが求められる。
しかし考えてみて欲しい。自宅のガレージから「グラベル」までの道のりを。自宅から野山に直結できる人がどれだけいるかを。VRは先述したアドベンチャーバイクとしての要素を含めつつ、ロードバイクとして舗装路上での走行性能に軸足が置かれているのだという。
基本的なフレームの改良はFRに準じており、シートステーとシートチューブの接合部形状を工夫し、ブレーキブリッジを廃したことで縦方向の柔軟性向上を実現。さらにフレーム毎の乗り味を調整するべく、カーボン積層や下側ヘッドベアリングの径を変更しており、ボトムブラケットのBB386化や、それに伴うクリアランス向上もFR同様に達成した。横剛性はFRとほぼ同レベルにまで仕上げられているという。前46-30T+後12-32Tというギア構成は特殊だが、ローギア設定を11%低くすることで厳しい登りへの対応力を増している。
未舗装路を踏まえていることからジオメトリーも若干変更され、ヘッドチューブがやや伸び、より上体の起きたアップライトポジションに。これによって操作性を高め視界を広く、バッグを背負った通勤ライドへのフィットも増しているのだ。筆者はこの部分の恩恵を、プレゼンテーション後のテストライドで大きく授かることになったのであった。
こちらもFR同様、渡米前にライトウェイプロダクツジャパンより2016モデルのZ4(完成車の最高峰モデル)を借り受けていたため、乗り味については先代モデルとの比較として行った。ライドリーダーによれば、今日はローカルに有名な郊外のオフロードまで走りに行くという。とても楽しみだ。
VRの感想に触れる前に、まずは渡米前に試したZ4の印象を述べておきたい。筆者にとってはこの時初めてフェルトのエンデュランスロードに乗車したが、驚かされたのは想像以上に「良く走る」フレームだったこと。正直なところもっとフワフワとしたコンフォートバイクかと思っていたが、踏み味は固く、リアの突き上げだって、なかなかどうして勇ましい。
アップライトなジオメトリー以外はレーシングバイクに近い乗り味を感じていたのだが、それがVRでは、より一層その色が強調されるようになった。遂にTeXtremeカーボンが導入されたことに加え、BBのワイド化が効いているのだろうが、ペダリング剛性がかなり上がったことが、まず気づいた点。Zで感じていたBB付近のしなりは薄くなり、反対にペダルが素直にストンと回っていく。だからダンシングのキレは増していて、スプリントだってタイヤの重さ以外はイケイケだ。登りのシッティングもよりスムーズになった。
スルーアクスル化したフロントフォークもZと違い、急制動に対してもビクともしない。ハンドリングに関してはホイールベースが長いため細かい切り返しは苦手(大型車を運転しているイメージに似ていると言えば解りやすいだろうか)だが、ハンドルの切り込みがFR並みに軽くなったので、エンデュランスバイクでありがちな野暮ったさを上手く打ち消しているように感じた。
もちろん振動吸収性能はFRよりも高く、シートステーやシートポストのしなりを感じるのだが、前作同様に決してフワフワとはしていない。衝撃吸収の主だった部分は27Cの(実測は30mm程度ある)太いタイヤに役割が与えられており、それぞれの役割を最大限に生かすことでトータルとしての性能が引き上げられているように思う。空気圧は5Bar前後が好感触で、6.5Barに設定した際には路面の凹凸を全部拾ってしまい、跳ねによって快適性はもとより安定感までも無くなるのでNG。しかしレーサーにも通じる走り味であるから、23c程度の細タイヤだって相性は悪くないはずだ。
途切れ途切れの舗装と、パサパサの砂地、そして砂利敷きがミックスされた渓谷沿いのグラベルロードに突入する前には、3Barほどまで空気圧を調整。シクロクロスバイクとまではいかないが、ロングホイールベースと高いハンドル位置が生み出す安定感は上々で、重心も低いため不安感無くグラベル遊びが楽しめた。プレゼンテーションでは低ノブのセミブロックタイヤを履いた展示車を見たが、それも納得の走破性だ。
30Tのインナーリングも会話を楽しみながらのグラベルクライムには丁度良いし、46Tのアウターは平坦や下りで細かくケイデンスを調整するのにピッタリだ。つい熱くなって一人リム打ちパンクを食ったのはここだけの内緒にしておきたい。
これだけのマルチパーパスロードたるギミックを持つVRだが、その本質には自ら「レース屋」と称するフェルトならではの、FRシリーズと共通する運動性能を確かに感じることができた。走りの芯をぶらさず、ジオメトリーと太タイヤをもって快適性を高めるという設計思想は、例えばしなやかな走りを身上とするサーヴェロ・Cシリーズとも違うアプローチであり、新しいジャンルを切り開こうとする両社の違いが興味深い。
何をもって正解とするかはユーザーの好みに委ねられる部分だが、VRならではの硬質な走りを好む方は少なくない。ハンドル高やギア構成を工夫できればホビーレースにも対応するはずだし、通勤・通学時の信号ダッシュでも気持ち良い走りが味わえる。それでいてアップライトなポジションや高い直進安定性によって、ロングライドやブルベのような超長距離走にもうってつけだと感じる。こちらもFR同様、フレームセット28.8万円という価格なのだから、市場でのコストパフォーマンスは非常に高いだろう。エンデュランスロードのあり方に一石を投じるエポックメイキングな一台だ。
次章最終回では、フェルト創業者であるジム・フェルト氏へのインタビューと、ロサンゼルス郊外に位置するフェルト本社の開発拠点を訪ねた際の様子を紹介していく。
マルチユースへの対応力と、運動性能の向上
これまで長きに渡り、フェルトのエンデュランスロードの座を守ってきたZシリーズ。持ち前のカーボン技術で振動吸収性能を高め、パリ〜ルーベのような石畳系クラシックレースにも投入実績を持つロードバイクが、この度アドベンチャーバイクとしての側面を兼ね備えつつ、「VRシリーズ」としてFRと共にデビューしたのである。しかし前章で簡単に紹介した通り、最大35mm幅のタイヤに対応するクリアランスや、最小1:1以下のギア構成、各所に設けられたキャリアやフェンダー用のマウント、さらにはトップチューブにボルトオンするストレージボックスの用意など、ピュアなロードバイクの枠を飛び越えた感もある。
これはアメリカで一種のムーブメントを引き起こしているグラベルライドやバイクパッキング(ストレージを搭載したツーリング)への対応力を増すための進化であり、開発にあたっては「VR一台でどんな用途にも使える汎用性」が重視されたのだという。
でも、だったらシクロクロスバイクや、グラベルバイクで良いんじゃないか。そう思う方も多いだろう。しかしシクロクロスでは33Cのブロックタイヤが基本であり、俊敏なハンドリングや泥はけ性能が必要だ。かたや、アメリカのフラットダートを長距離に渡って走るグラベルロードには、とにかく安定したハンドリングと、快適性とスピードを両立するために40C程度のスリックタイヤが求められる。
しかし考えてみて欲しい。自宅のガレージから「グラベル」までの道のりを。自宅から野山に直結できる人がどれだけいるかを。VRは先述したアドベンチャーバイクとしての要素を含めつつ、ロードバイクとして舗装路上での走行性能に軸足が置かれているのだという。
基本的なフレームの改良はFRに準じており、シートステーとシートチューブの接合部形状を工夫し、ブレーキブリッジを廃したことで縦方向の柔軟性向上を実現。さらにフレーム毎の乗り味を調整するべく、カーボン積層や下側ヘッドベアリングの径を変更しており、ボトムブラケットのBB386化や、それに伴うクリアランス向上もFR同様に達成した。横剛性はFRとほぼ同レベルにまで仕上げられているという。前46-30T+後12-32Tというギア構成は特殊だが、ローギア設定を11%低くすることで厳しい登りへの対応力を増している。
未舗装路を踏まえていることからジオメトリーも若干変更され、ヘッドチューブがやや伸び、より上体の起きたアップライトポジションに。これによって操作性を高め視界を広く、バッグを背負った通勤ライドへのフィットも増しているのだ。筆者はこの部分の恩恵を、プレゼンテーション後のテストライドで大きく授かることになったのであった。
VRインプレッション 舗装路をつないで郊外の有名オフロードへ
テストライドはVRの完成車パッケージ最高峰モデル「VR2」で行った。UHCAdvanced+TeXtremeカーボンを使う最上級フレームに、シマノアルテグラDi2と油圧ディスクブレーキ(STIレバーはST-R785)を組み合わせ、ホイールは3T社の新型フルカーボンディスクブレーキ専用クリンチャーホイールであるDiscus C35 team Stealthというパッケージング。残念ながら日本への供給は行われないが、その下にあたるアルミホイール装備+機械式アルテグラ+油圧ディスクブレーキのVR3は37万8000円(税抜)で販売が行われる。こちらもFR同様、渡米前にライトウェイプロダクツジャパンより2016モデルのZ4(完成車の最高峰モデル)を借り受けていたため、乗り味については先代モデルとの比較として行った。ライドリーダーによれば、今日はローカルに有名な郊外のオフロードまで走りに行くという。とても楽しみだ。
VRの感想に触れる前に、まずは渡米前に試したZ4の印象を述べておきたい。筆者にとってはこの時初めてフェルトのエンデュランスロードに乗車したが、驚かされたのは想像以上に「良く走る」フレームだったこと。正直なところもっとフワフワとしたコンフォートバイクかと思っていたが、踏み味は固く、リアの突き上げだって、なかなかどうして勇ましい。
アップライトなジオメトリー以外はレーシングバイクに近い乗り味を感じていたのだが、それがVRでは、より一層その色が強調されるようになった。遂にTeXtremeカーボンが導入されたことに加え、BBのワイド化が効いているのだろうが、ペダリング剛性がかなり上がったことが、まず気づいた点。Zで感じていたBB付近のしなりは薄くなり、反対にペダルが素直にストンと回っていく。だからダンシングのキレは増していて、スプリントだってタイヤの重さ以外はイケイケだ。登りのシッティングもよりスムーズになった。
スルーアクスル化したフロントフォークもZと違い、急制動に対してもビクともしない。ハンドリングに関してはホイールベースが長いため細かい切り返しは苦手(大型車を運転しているイメージに似ていると言えば解りやすいだろうか)だが、ハンドルの切り込みがFR並みに軽くなったので、エンデュランスバイクでありがちな野暮ったさを上手く打ち消しているように感じた。
もちろん振動吸収性能はFRよりも高く、シートステーやシートポストのしなりを感じるのだが、前作同様に決してフワフワとはしていない。衝撃吸収の主だった部分は27Cの(実測は30mm程度ある)太いタイヤに役割が与えられており、それぞれの役割を最大限に生かすことでトータルとしての性能が引き上げられているように思う。空気圧は5Bar前後が好感触で、6.5Barに設定した際には路面の凹凸を全部拾ってしまい、跳ねによって快適性はもとより安定感までも無くなるのでNG。しかしレーサーにも通じる走り味であるから、23c程度の細タイヤだって相性は悪くないはずだ。
途切れ途切れの舗装と、パサパサの砂地、そして砂利敷きがミックスされた渓谷沿いのグラベルロードに突入する前には、3Barほどまで空気圧を調整。シクロクロスバイクとまではいかないが、ロングホイールベースと高いハンドル位置が生み出す安定感は上々で、重心も低いため不安感無くグラベル遊びが楽しめた。プレゼンテーションでは低ノブのセミブロックタイヤを履いた展示車を見たが、それも納得の走破性だ。
30Tのインナーリングも会話を楽しみながらのグラベルクライムには丁度良いし、46Tのアウターは平坦や下りで細かくケイデンスを調整するのにピッタリだ。つい熱くなって一人リム打ちパンクを食ったのはここだけの内緒にしておきたい。
これだけのマルチパーパスロードたるギミックを持つVRだが、その本質には自ら「レース屋」と称するフェルトならではの、FRシリーズと共通する運動性能を確かに感じることができた。走りの芯をぶらさず、ジオメトリーと太タイヤをもって快適性を高めるという設計思想は、例えばしなやかな走りを身上とするサーヴェロ・Cシリーズとも違うアプローチであり、新しいジャンルを切り開こうとする両社の違いが興味深い。
何をもって正解とするかはユーザーの好みに委ねられる部分だが、VRならではの硬質な走りを好む方は少なくない。ハンドル高やギア構成を工夫できればホビーレースにも対応するはずだし、通勤・通学時の信号ダッシュでも気持ち良い走りが味わえる。それでいてアップライトなポジションや高い直進安定性によって、ロングライドやブルベのような超長距離走にもうってつけだと感じる。こちらもFR同様、フレームセット28.8万円という価格なのだから、市場でのコストパフォーマンスは非常に高いだろう。エンデュランスロードのあり方に一石を投じるエポックメイキングな一台だ。
次章最終回では、フェルト創業者であるジム・フェルト氏へのインタビューと、ロサンゼルス郊外に位置するフェルト本社の開発拠点を訪ねた際の様子を紹介していく。
提供:ライトウェイプロダクツジャパン、制作:シクロワイアード編集部