2016/08/10(水) - 11:27
新型FRの開発使命は、既に完成されていたハンドリングはそのままに、フェルトらしいシンプルなフォルムに剛性と快適性を追加すること。およそ3年に渡る開発の詳細と、そのインプレッションをお伝えしたい。
新型FRシリーズに求められたのは、従来の特徴であるハンドリングや反応性、加速性能はそのままに、レーサーとしての質を高めるべく剛性と快適性を高めること。FRの開発にあたっては、ARやIAを生み出す中で生まれたフレーム解析技術と知識を応用し、Fシリーズの開発当時では不可能だった0.1mm単位の形状変更による強度・剛性変化を数値化できるノウハウが用いられた。これを活かした緻密な設計により、シンプルなフォルムを崩すことなく飛躍的な性能向上を叶えたという。
シートポスト下の各チューブ接合部分の形状を工夫することで捻れ剛性を向上させたことは前章に記した通りだが、それ以外にも細やかに各部のフォルムは進化を遂げている。レース機材であることからプロ選手の意見が積極的に取り入れられており、その筆頭としてはジオメトリーに若干のモディファイが加えられたことが挙げられる。
例えばFRでは大きなフレームサイズのヘッドチューブ長が伸ばされているが、これは今日のプロトンでは小さなフレームを使うことが多いため、従来のFシリーズを使う大柄な選手はスペーサーを積まなければ理想のポジションが出なかった。この問題を解決すべく、51サイズで110mmから115mmへ、54サイズでは120mmから135mmへと大幅に延長された。開発陣の言葉を借りれば、目指したのは「自転車の中に座っているような、前後の一体感を味わえるジオメトリー」だ。
新ジオメトリーでもなおレーシングフレームとしては一般的な値であり、ステムの工夫によって従来通りのアグレッシブなポジションを好む方にも、よりリラックスしたポジションを好む方にも対応するというメリットが生まれている。
もちろんヘッドチューブの延長は剛性低下を招く原因であるが、下側ベアリング径の変更やカーボンの積層調整はもちろん、チューブ自体の形状を細やかに変更することで強度をキープ。機械式コンポーネントのワイヤーが外装式とされたことも、フレームへの穴開けを最小限にすることで強度低下を防ぐ狙いがある。
ジオメトリー変更に加えてもう一つ開発に時間を割いたのが、接地感の改善だ。例えどんなに硬いバイクであっても、どんなに登りの軽いバイクであっても、跳ねによる不安を覚えてしまうバイクでは思い切った走りなどできるはずがない。特に高速化するプロトンでは下りの重要度は増す一方であり、この部分を改善できればよりレーサーとしての完成度を高めることができる。そうフェルトの開発陣は考えたという。
そこでFRではシートステーの形状をホイール・タイヤと交差する部分を境に変化(上側に行くほど扁平な形状となる)させたほか、持ち味のカーボン積層を細やかに調整することで、Fシリーズとの大幅な形状変更を伴うことなく乗り味をチューニング。結果的に+30%という大幅な接地感向上を実現したほか、更にフォークの断面形状をひし形に変更したことで、フロント周りのスタビリティも大きく進化させているという。
およそ3年という期間を経て完成版となったFRのプロトタイプ2台は、フェルトと強い信頼関係で結ばれているヒンカピーチームへと手渡された。チームにとっての大一番であるツアー・オブ・カリフォルニアの僅か2日前というタイミングにも関わらず、すぐさま実戦に投入されデビューを飾ったという。
プレゼンテーションに登場したヒンカピーチームのエース、ロビン・カーペンター(アメリカ)は「プロトタイプを試してびっくりした。とにかくリアの柔軟性が高まったので攻めた走りができたんだ。そのままカリフォルニアに持ち込んだけれど、特にステージレースではその安心感がより目立つことになった」とジャーナリストの前で語っている。
今回試乗用として充てがわれたのは、日本国内での完成車パッケージ最高峰である「FR2」。FRDからカーボン素材を変更し、リーズナブルなプライスを実現したセカンドモデルで、フレーム自体はFR1と同様だ。コンポーネントにはシマノ・アルテグラDi2にパイオニアのパワーメーター、足回りはマヴィック・キシリウムエリートと同イクシオンタイヤが選択されており、プライスタグは698,000円(税抜)である。
「あれっ、カリフォルニアってこんなに湿度が高かったっけ?」。そう思わせる、梅雨明けした日本と大差無い蒸し暑さと、カリフォルニア「らしさ」を存分に感じる強烈な日差し。揃いのジャージに身を包むおよそ10名と共に、揃いのFRに乗ってペダルを踏み出した。
ちなみに渡米直前には2016モデルのF FRDをライトウェイプロダクツジャパンより借り受け、比較のために200kmの長距離ライドを行っていた。そのためグレード間の差異はあれど、乗り味や挙動については理解があった。
FR2に乗ってすぐに気づいたのは2つ。まずは全体のバランスが改善されたこと。Fではやや重心が高く、ダンシングの振りが(特にヘッド部分)ギクシャクするニュアンスを感じていたが、FRではポジションが出ていない状態でも理解できるほど挙動がスムーズになった。そしてもう一つが、走りの奥深さがぐっと増していること。それを生んでいるのは間違いなくリアセクションの柔軟性向上であり、ダンシングで強く踏み込むと、ごく僅かなしなりを伴って車速が伸びていく。
従来モデルの乗り味は「硬い!ダイレクト!リニア!以上!」というシンプルで淡白なイメージだったが、FRは前作のフィーリングを色濃く受け継ぎつつも、リアの柔軟性が高まったことで「こく味」がプラスされたように思う。プレゼンテーションで語られた「接地性+30%」という文句は伊達では無く、前作よりも重心が下がっているかのような安心感があるのだ。
そのためバイクをより信用でき、自信を持ってコーナーへと進入できる。スパッと切れ込み奥で安定する従来のハンドリングはそのまま継続されており、バイクを操る楽しさ・味わいが一際濃厚になった。もちろん乗り心地自体も高まっているため、Fで感じたお尻の痛さが大幅に和らいだことも付け加えておきたい。Fはカーボンホイール+チューブラータイヤ、FRはアルミホイール+クリンチャータイヤで乗り比べたにも関わらず、だ。
脚を踏み下ろした際のフィーリングもごくナチュラルで、ここにフレームの軽さがプラスされるため、反応性はとても軽快だ。試乗では3〜5%ほどの直登が延々と続く(嫌らしい)区間も用意されていたのだが、疲れで少しペダリングがギクシャクしても、バイクの走りに影響を及ぼすことがFよりも少なくなっているように思う。これはワイドになったBBとカーボン積層によるものだと推測されるが、大きな形状変更を伴わずに改良したあたりに、流石「チュービングの魔術師」たるフェルトの手腕を感じたのだった。
また、ヘッドチューブの延長も筆者本人にとっては良かった。元より低いハンドル位置が好みだが、レースでもないペースで200kmを走ると流石に肩や腰が辛い。しかし15mmの延長がもたらす快適さは絶大だったし、深いポジションにセットしたければステム角度を工夫すれば良い話だ。要望があるとすればリアブレーキをデュラエースに変更したい位だが、TRP製のブレーキも制動力、フィーリング共に不都合があるわけではない。
先代からの大きな形状変更を伴わないフルモデルチェンジは、地味と言ってしまえば地味だ。しかしほんの少しだけ走りに深みを与えたことで、軽さや鋭さといった従来の特徴あるフィーリングがより活き活きと、そして長時間に渡って楽しめるようになったと思う。料理に隠し味を入れ、味を引き立たせるのと似ている......のかもしれない。
エアロロードのような「◯km/hで◯ワット削減!」と言うような、直接的に速さを訴えかける派手さは無い。けれど乗って感じるのは、フェルトの美学(シンプルゆえの走行性能)をそのままに、見た目以上の熟成が加えられたこと。
リアブレーキの移動を嘆く意見もあるだろうが、メンテナンスのやり辛さ以上に、走行性能の伸び率は明らかに大きい。従来のFユーザーなら、一踏みしただけでも「おお!」と感じることができるだろう。これがフレームセットで28万円というのだから、フェルトは商売っ気が無いのでは?と思ってしまった。
次章では幅を広げたエンデュランスロード、VRの詳細解説と、地元ローカルライダーに有名なグラベルロードを含むコースで試乗したインプレッションを紹介する。
シンプルなフォルムに与えられた、剛性強化と快適性向上
「先代のFシリーズで既にレースバイクとしてのハンドリングは完成されていた。それを遥かに上回るパフォーマンスを与えるという目標を持ったFRの開発は、簡単なものではありませんでした」。今でも開発の最前線に立つ創業者のジム・フェルト氏は、筆者の問いに対してそう答えた。新型FRシリーズに求められたのは、従来の特徴であるハンドリングや反応性、加速性能はそのままに、レーサーとしての質を高めるべく剛性と快適性を高めること。FRの開発にあたっては、ARやIAを生み出す中で生まれたフレーム解析技術と知識を応用し、Fシリーズの開発当時では不可能だった0.1mm単位の形状変更による強度・剛性変化を数値化できるノウハウが用いられた。これを活かした緻密な設計により、シンプルなフォルムを崩すことなく飛躍的な性能向上を叶えたという。
シートポスト下の各チューブ接合部分の形状を工夫することで捻れ剛性を向上させたことは前章に記した通りだが、それ以外にも細やかに各部のフォルムは進化を遂げている。レース機材であることからプロ選手の意見が積極的に取り入れられており、その筆頭としてはジオメトリーに若干のモディファイが加えられたことが挙げられる。
例えばFRでは大きなフレームサイズのヘッドチューブ長が伸ばされているが、これは今日のプロトンでは小さなフレームを使うことが多いため、従来のFシリーズを使う大柄な選手はスペーサーを積まなければ理想のポジションが出なかった。この問題を解決すべく、51サイズで110mmから115mmへ、54サイズでは120mmから135mmへと大幅に延長された。開発陣の言葉を借りれば、目指したのは「自転車の中に座っているような、前後の一体感を味わえるジオメトリー」だ。
新ジオメトリーでもなおレーシングフレームとしては一般的な値であり、ステムの工夫によって従来通りのアグレッシブなポジションを好む方にも、よりリラックスしたポジションを好む方にも対応するというメリットが生まれている。
もちろんヘッドチューブの延長は剛性低下を招く原因であるが、下側ベアリング径の変更やカーボンの積層調整はもちろん、チューブ自体の形状を細やかに変更することで強度をキープ。機械式コンポーネントのワイヤーが外装式とされたことも、フレームへの穴開けを最小限にすることで強度低下を防ぐ狙いがある。
ジオメトリー変更に加えてもう一つ開発に時間を割いたのが、接地感の改善だ。例えどんなに硬いバイクであっても、どんなに登りの軽いバイクであっても、跳ねによる不安を覚えてしまうバイクでは思い切った走りなどできるはずがない。特に高速化するプロトンでは下りの重要度は増す一方であり、この部分を改善できればよりレーサーとしての完成度を高めることができる。そうフェルトの開発陣は考えたという。
そこでFRではシートステーの形状をホイール・タイヤと交差する部分を境に変化(上側に行くほど扁平な形状となる)させたほか、持ち味のカーボン積層を細やかに調整することで、Fシリーズとの大幅な形状変更を伴うことなく乗り味をチューニング。結果的に+30%という大幅な接地感向上を実現したほか、更にフォークの断面形状をひし形に変更したことで、フロント周りのスタビリティも大きく進化させているという。
およそ3年という期間を経て完成版となったFRのプロトタイプ2台は、フェルトと強い信頼関係で結ばれているヒンカピーチームへと手渡された。チームにとっての大一番であるツアー・オブ・カリフォルニアの僅か2日前というタイミングにも関わらず、すぐさま実戦に投入されデビューを飾ったという。
プレゼンテーションに登場したヒンカピーチームのエース、ロビン・カーペンター(アメリカ)は「プロトタイプを試してびっくりした。とにかくリアの柔軟性が高まったので攻めた走りができたんだ。そのままカリフォルニアに持ち込んだけれど、特にステージレースではその安心感がより目立つことになった」とジャーナリストの前で語っている。
FRインプレッション
今回のメディア発表会では、半日ずつ2日間にわたって試乗の時間が確保され、ジャーナリスト達は2グループに分かれて1日ずつFRとVRを乗り換えて試した。今回試乗用として充てがわれたのは、日本国内での完成車パッケージ最高峰である「FR2」。FRDからカーボン素材を変更し、リーズナブルなプライスを実現したセカンドモデルで、フレーム自体はFR1と同様だ。コンポーネントにはシマノ・アルテグラDi2にパイオニアのパワーメーター、足回りはマヴィック・キシリウムエリートと同イクシオンタイヤが選択されており、プライスタグは698,000円(税抜)である。
「あれっ、カリフォルニアってこんなに湿度が高かったっけ?」。そう思わせる、梅雨明けした日本と大差無い蒸し暑さと、カリフォルニア「らしさ」を存分に感じる強烈な日差し。揃いのジャージに身を包むおよそ10名と共に、揃いのFRに乗ってペダルを踏み出した。
ちなみに渡米直前には2016モデルのF FRDをライトウェイプロダクツジャパンより借り受け、比較のために200kmの長距離ライドを行っていた。そのためグレード間の差異はあれど、乗り味や挙動については理解があった。
FR2に乗ってすぐに気づいたのは2つ。まずは全体のバランスが改善されたこと。Fではやや重心が高く、ダンシングの振りが(特にヘッド部分)ギクシャクするニュアンスを感じていたが、FRではポジションが出ていない状態でも理解できるほど挙動がスムーズになった。そしてもう一つが、走りの奥深さがぐっと増していること。それを生んでいるのは間違いなくリアセクションの柔軟性向上であり、ダンシングで強く踏み込むと、ごく僅かなしなりを伴って車速が伸びていく。
従来モデルの乗り味は「硬い!ダイレクト!リニア!以上!」というシンプルで淡白なイメージだったが、FRは前作のフィーリングを色濃く受け継ぎつつも、リアの柔軟性が高まったことで「こく味」がプラスされたように思う。プレゼンテーションで語られた「接地性+30%」という文句は伊達では無く、前作よりも重心が下がっているかのような安心感があるのだ。
そのためバイクをより信用でき、自信を持ってコーナーへと進入できる。スパッと切れ込み奥で安定する従来のハンドリングはそのまま継続されており、バイクを操る楽しさ・味わいが一際濃厚になった。もちろん乗り心地自体も高まっているため、Fで感じたお尻の痛さが大幅に和らいだことも付け加えておきたい。Fはカーボンホイール+チューブラータイヤ、FRはアルミホイール+クリンチャータイヤで乗り比べたにも関わらず、だ。
脚を踏み下ろした際のフィーリングもごくナチュラルで、ここにフレームの軽さがプラスされるため、反応性はとても軽快だ。試乗では3〜5%ほどの直登が延々と続く(嫌らしい)区間も用意されていたのだが、疲れで少しペダリングがギクシャクしても、バイクの走りに影響を及ぼすことがFよりも少なくなっているように思う。これはワイドになったBBとカーボン積層によるものだと推測されるが、大きな形状変更を伴わずに改良したあたりに、流石「チュービングの魔術師」たるフェルトの手腕を感じたのだった。
また、ヘッドチューブの延長も筆者本人にとっては良かった。元より低いハンドル位置が好みだが、レースでもないペースで200kmを走ると流石に肩や腰が辛い。しかし15mmの延長がもたらす快適さは絶大だったし、深いポジションにセットしたければステム角度を工夫すれば良い話だ。要望があるとすればリアブレーキをデュラエースに変更したい位だが、TRP製のブレーキも制動力、フィーリング共に不都合があるわけではない。
先代からの大きな形状変更を伴わないフルモデルチェンジは、地味と言ってしまえば地味だ。しかしほんの少しだけ走りに深みを与えたことで、軽さや鋭さといった従来の特徴あるフィーリングがより活き活きと、そして長時間に渡って楽しめるようになったと思う。料理に隠し味を入れ、味を引き立たせるのと似ている......のかもしれない。
エアロロードのような「◯km/hで◯ワット削減!」と言うような、直接的に速さを訴えかける派手さは無い。けれど乗って感じるのは、フェルトの美学(シンプルゆえの走行性能)をそのままに、見た目以上の熟成が加えられたこと。
リアブレーキの移動を嘆く意見もあるだろうが、メンテナンスのやり辛さ以上に、走行性能の伸び率は明らかに大きい。従来のFユーザーなら、一踏みしただけでも「おお!」と感じることができるだろう。これがフレームセットで28万円というのだから、フェルトは商売っ気が無いのでは?と思ってしまった。
次章では幅を広げたエンデュランスロード、VRの詳細解説と、地元ローカルライダーに有名なグラベルロードを含むコースで試乗したインプレッションを紹介する。
提供:ライトウェイプロダクツジャパン、制作:シクロワイアード編集部