2016/08/02(火) - 19:27
アメリカとドイツを拠点に持つフェルト。ロードバイクラインナップにおける新ピュアレーシングモデル「FR」と、エンデュランスモデル「VR」がデビューを飾った。披露の場となった、アメリカ・カリフォルニアで開催されたプレゼンテーションの模様やインプレッション、ジム・フェルト氏へのインタビューと合わせ、これから4編に渡って詳細にレポートをしていく。
プロダクトマネージャーであるヒューバート氏。新モデルについて語り進める
フェルト本社の開発研究所を訪問。その様子とインタビューは続編にて
創業者であり、今も第一線で指揮を執るジム・フェルト氏も同席
かつてヤマハ、カワサキ、スズキ、ホンダなど一流ブランドのモトクロスエンジニアを生業としていたジム・フェルト氏が自身のためのトライアスロンバイクを制作したのが1982年のこと。その試作バイクを見染めたイーストン社からオファーを受けたフェルト氏はその後、世界中の名だたるブランドに採用されるアルミチューブの開発で一躍名を挙げ、1994年の自身のブランド設立に繋げた。高性能バイクを追い求めていく過程で生まれたフェルトだけに、その第一優先事項がマーケティングに無いことは、とても自然なことのように思える。
従来、ピュアレーシングの「F」、空力を追求した「AR」、そして快適性を高めた「Z」というロードバイク3本柱をラインナップしてきたフェルト。それが今回、2017年モデルとしてFは「FR」として、Zは「VR」としてフルモデルチェンジを果たすことが発表された。
アメリカと日本のジャーナリストおよそ20名が2日間のテストライドに参加した。 (c)FELT
ずらりとあつらえられた新型VR (c)FELT
テストに臨むジャーナリストたち。 (c)FELT
3本柱の2車種が一気に変わるなんて滅多なことでは無いし、フェルトは先日リオオリンピックトラック競技用の「TA」を発表して世間を驚かせたばかり。勢いに乗るフェルトのインターナショナルプレゼンテーションに参加するべく、CW編集部はフェルト本社が位置する、アメリカはカリフォルニア、ロサンゼルス郊外の街、アーバインへと飛んだ。
我々取材陣の到着を待っていたのは、新型FRとVRを合わせて40台以上のテストバイクと、2017モデルのフェルトフルラインナップ。プレゼンテーションはアメリカと日本のジャーナリスト20名ほどを招き、2日間に渡ってテストライドの機会が与えられる形で開催された。
テストに供されたFR1。ピュアレーシングバイクとしての価値を更に高めている
伝統的なロードバイクのフォルムから外れない、ごくオーソドックスなルックスを伴ってデビューした新型FR。他の大手アメリカンブランドが採用するようなギミックを一切投入せず、前作との外見上の大きな差異は、BB下に移されたリアブレーキくらいだろうか。しかし実際は、素材からジオメトリーまで全てを見直し、さらにブラッシュアップを行った完全なる別物だ。フェルトの考えるレーシングバイクとしての剛性と軽量性、そして快適性が、シンプルなフォルムに落とし込まれている。
設計上の大きな変更点はシートポスト下のトップチューブ〜シートチューブ〜シートステーの接合部分。従来はシートステーとシートチューブがほぼ同一の幅で接続していたが、新型ではシートステーがシートチューブの横を沿う形でトップチューブへと繋がるワイドフォルムに。従来ではリアバックのしなりに対してシートチューブが捻れロスが生じていたが、今回の形状変更によって、+30%もの横方向の捻れ剛性を向上させている。
直線で構成されたシンプルなリアバック。シートステーブリッジを廃したことで柔軟性を高めている
また、シートチューブとシートステーの役割を分担させたことに加え、更にブレーキブリッジを廃したことでリアのしなやかさを高めることにも同時に成功。数値で表すとリアバックの垂直柔軟性向上は12%だ。ボトムブラケット規格は従来のBB30からBB386へと変更されており、シェル幅が18.5mm拡大したことで28cタイヤまでに対応するクリアランスを確保した。
もちろんフェルトが誇るカーボン積層技術もフル投入されており、積層をコントロールすることはもちろん、今回のFRでは下側ヘッドベアリング径をサイズ毎に変更するなど、よりサイズ間の乗り味に変化が無いよう注意が払われた。製造過程で発生するフレーム内部の残留物を大幅に減らすことで軽量化を図る成形方法「インサイドアウトコンストラクション」も引き続き継続され、ここにお馴染みとなったスウェーデンOxeon社製の「TeXtreme」をメイン素材に使うことでさらなる軽量化が行われている。トップモデルの「FR FRD」には従来使用されていなかった「TeXtreme60」グレードの素材が奢られたことも、特筆すべき事項だろう。
パワフルな造形を見せるダウンチューブ。TeXtremeカーボンのチェック柄が目立つ
ボトムブラケット規格はBB386に。幅を18mm拡大したことで高剛性化とタイヤクリアランスの拡大を行った
これら地道なアップグレードを全体に施すことによって、FRDグレードではリアの接地性能を+30%、軽量化を+5%という進化を達成。その他にもケーブルルーティング変更やジオメトリー調整が行われるなど、FRシリーズはよりピュアレーシングバイクとしての価値を高めている。
アドベンチャーバイクとしての側面も兼ね備えた新型VR。写真はテストバイクのVR2(日本未入荷モデル)
従来の「Z」を置き換える、新たなエンデュランスロードバイクが「VR」シリーズ。Zシリーズよりも更に守備範囲を広げ、アメリカで特に人気を得ている未舗装路ツーリングやバイクパッキングへも対応する、アドベンチャーバイクとしての側面も兼ね備えた。
最大35mm幅タイヤ+ワイドリムの組み合わせに対応するクリアランスや、前46-30T+後12-32Tという最小1:1以下のギア構成、各所に設けられたキャリアやフェンダー用のマウント、さらにはトップチューブにボルトオンするストレージボックスの用意など、マルチなスタイルに対応する汎用性が与えられたVR。しかし基本的にはオンロードユースに主眼を置いており、走行性能に関する部分も大きな進化を遂げている。
直線で構成されたリアバック。快適性を大きく向上させている
ヘッドチューブの延長以外、ほぼ同様のジオメトリーを持つフレームは完全なる新設計。完全なるディスクブレーキ専用設計であり、エントリーグレードを除くほとんどがフラットマウント+12mmスルーアクスル、142mmエンドを採用するなど、新ディスクロードムーブメントの潮流に沿った規格を採用した。
快適性に関してはFR同様にシートポスト下のチューブ集合部デザインを工夫したことが大きな変化。加えてシートステーの中央部を扁平にする(全体を扁平化するよりも局所的にしなりを生み出すことができる上、エンドを強化することでディスクブレーキの制動力に耐えることができる)ことで、フレーム全体としては垂直方向の快適性を+12%引き上げている。
途中からシートステーの形状を変化させ、積極的にしなりを生み出す。フェンダー用の台座も見える
フラットマウント、12mmスルーアクスル、142mm幅エンドという最新規格を導入
加えて、フレーム毎の乗り味を調整するべく、カーボン積層や下側ヘッドベアリングの径を変更しており、ボトムブラケットのBB386化や、それに伴うクリアランス向上もレーシングバイクであるFR同様だ。快適性を重視したフレーム上側に対しヘッドチューブ〜ダウンチューブのフォルムは力強く、ヘッド部分は+23%の剛性向上を獲得。レーシングバイクに迫る走行性能を手にしている。
シクロワイアードはこれから3編に渡り、2車種の詳細解説とカリフォルニアでのインプレッション、創業者であり、今も第一線で指揮を執るジム・フェルト氏へのインタビュー、そして本社訪問の様子を紹介していく。
カリフォルニアで開催されたメディアローンチ
派手さは無い。けれど質実剛健で、性能第一主義。フェルトを端的に説明するならば、こうした表現になるだろう。大々的なプロモーションも打たなければ、現在はワールドツアーチームへの機材供給も行っていない。けれどその裏には、マーケティングではなく、研究開発をより重視するという姿勢がある。
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従来、ピュアレーシングの「F」、空力を追求した「AR」、そして快適性を高めた「Z」というロードバイク3本柱をラインナップしてきたフェルト。それが今回、2017年モデルとしてFは「FR」として、Zは「VR」としてフルモデルチェンジを果たすことが発表された。
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我々取材陣の到着を待っていたのは、新型FRとVRを合わせて40台以上のテストバイクと、2017モデルのフェルトフルラインナップ。プレゼンテーションはアメリカと日本のジャーナリスト20名ほどを招き、2日間に渡ってテストライドの機会が与えられる形で開催された。
走りに磨きを掛けたピュアレーシングモデル、FR
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設計上の大きな変更点はシートポスト下のトップチューブ〜シートチューブ〜シートステーの接合部分。従来はシートステーとシートチューブがほぼ同一の幅で接続していたが、新型ではシートステーがシートチューブの横を沿う形でトップチューブへと繋がるワイドフォルムに。従来ではリアバックのしなりに対してシートチューブが捻れロスが生じていたが、今回の形状変更によって、+30%もの横方向の捻れ剛性を向上させている。
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また、シートチューブとシートステーの役割を分担させたことに加え、更にブレーキブリッジを廃したことでリアのしなやかさを高めることにも同時に成功。数値で表すとリアバックの垂直柔軟性向上は12%だ。ボトムブラケット規格は従来のBB30からBB386へと変更されており、シェル幅が18.5mm拡大したことで28cタイヤまでに対応するクリアランスを確保した。
もちろんフェルトが誇るカーボン積層技術もフル投入されており、積層をコントロールすることはもちろん、今回のFRでは下側ヘッドベアリング径をサイズ毎に変更するなど、よりサイズ間の乗り味に変化が無いよう注意が払われた。製造過程で発生するフレーム内部の残留物を大幅に減らすことで軽量化を図る成形方法「インサイドアウトコンストラクション」も引き続き継続され、ここにお馴染みとなったスウェーデンOxeon社製の「TeXtreme」をメイン素材に使うことでさらなる軽量化が行われている。トップモデルの「FR FRD」には従来使用されていなかった「TeXtreme60」グレードの素材が奢られたことも、特筆すべき事項だろう。
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より守備範囲を広げたエンデュランスロード、VR
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最大35mm幅タイヤ+ワイドリムの組み合わせに対応するクリアランスや、前46-30T+後12-32Tという最小1:1以下のギア構成、各所に設けられたキャリアやフェンダー用のマウント、さらにはトップチューブにボルトオンするストレージボックスの用意など、マルチなスタイルに対応する汎用性が与えられたVR。しかし基本的にはオンロードユースに主眼を置いており、走行性能に関する部分も大きな進化を遂げている。
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ヘッドチューブの延長以外、ほぼ同様のジオメトリーを持つフレームは完全なる新設計。完全なるディスクブレーキ専用設計であり、エントリーグレードを除くほとんどがフラットマウント+12mmスルーアクスル、142mmエンドを採用するなど、新ディスクロードムーブメントの潮流に沿った規格を採用した。
快適性に関してはFR同様にシートポスト下のチューブ集合部デザインを工夫したことが大きな変化。加えてシートステーの中央部を扁平にする(全体を扁平化するよりも局所的にしなりを生み出すことができる上、エンドを強化することでディスクブレーキの制動力に耐えることができる)ことで、フレーム全体としては垂直方向の快適性を+12%引き上げている。
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加えて、フレーム毎の乗り味を調整するべく、カーボン積層や下側ヘッドベアリングの径を変更しており、ボトムブラケットのBB386化や、それに伴うクリアランス向上もレーシングバイクであるFR同様だ。快適性を重視したフレーム上側に対しヘッドチューブ〜ダウンチューブのフォルムは力強く、ヘッド部分は+23%の剛性向上を獲得。レーシングバイクに迫る走行性能を手にしている。
シクロワイアードはこれから3編に渡り、2車種の詳細解説とカリフォルニアでのインプレッション、創業者であり、今も第一線で指揮を執るジム・フェルト氏へのインタビュー、そして本社訪問の様子を紹介していく。
提供:ライトウェイプロダクツジャパン、制作:シクロワイアード編集部