2020/03/24(火) - 18:35
E-BIKEの魅力を探るべくメタボ会長のプライベートライドに同行した私たち編集部。”龍神の滝”や”九頭龍神社”などおおよそ必要のないポイントに立ち寄りながらのサイクリングに、すっかり走りのリズムを崩されながらも終点”都民の森”を目指します。
さて、九頭龍神社からは都民の森までノンストップ。遅れがちなフジワラを先頭とし、後ろから励ましつつ登っていく。「なんで僕が先頭なんだよ……放っといてくれよもう……」という彼の心の叫びは誰にも拾われることなく消えゆく。とはいえ、旧料金所から先も巡航速度が10km/hを切ることはない良いペース。なんだかんだでやればできる男である。
しかし、私の後ろには空気を読まない男が一人。「このペースじゃE-BIKEの電池が消耗しちゃうよ!」と発破をかけてくる。斜度がキツくなればなるほど、楽チンそうなメタボ会長の増長ぶりが著しい。
実際、斜度がキツくなればなる程、E-BIKEとペダルバイクの差が顕著に現れる。路面を睨み続けることしかできない私達に対して、会長の表情は全くの平静そのものである。旧料金所先の最難関区間にも関わらず、つづら折りからの絶景を楽しみながら走っている。ペダルバイク時代の会長からは想像も付かない姿だ。
笑顔を浮かべながら息が乱れることもなく、此処から見下ろす景色が最高だの、冬の空気は濃くて美味しいだのと上機嫌で話し掛けて来るのだが、息も絶え絶えの私たちにはタダの迷惑以外の何物でもない。それほどE-BIKEのモータードーピングは効果が高い様子だ。
「E-BIKEを知るまでは、都民の森なんて苦痛以外の何物でもなく、決して好んで来るコースじゃ無かったけど、セラフを買ってからは楽しくて何度も来てるんだよなぁ。体力に自信が無い人ほどE-BIKEは楽しめると思うよ!」とオヤジが得意気に語る。聞くと10%の登坂でも平坦路を20km/hで巡行する程度の負荷だと言うから、E-BIKE恐るべしである。
登り坂とモラハラ上司という2重苦を乗り越え、どうにか都民の森へ辿りつく。バイクラックに愛車を掛け、早速売店で磯辺餅をゲット。これが美味いんだよなぁ、とぱくついているとフジワラがボソッと「はぁ~疲れた…。これだから人と走るのは嫌なんだよな…。」と愚痴っている。
「まあまあそう言うなって」と、しっかり弾除けの役割を果たした後輩をとりなしていると「大体、会長はずるいですよ、E-BIKEであんな楽そうに登ってて」と、あまりの疲れぶりに判断能力が鈍ったのか、ついに自身の雇用主へ舌鋒を向ける。
これには烈火のごとく怒りだすかと思ったが、「フジワラ君、それは考え違いじゃないか?」と、意外に穏やかな反応だ。「君はロードバイクに乗っている時にオートバイに追い抜かれて『ずるい!』って思うかい?思わないだろう。つまり、E-BIKEとペダルバイクの違いはそういうことなんだよ。要は全く別のカテゴリーってことだよ。」と優しげに語りかけている。
「君たちと同じペダルバイクなのに、超高級カーボンフレームをハイエンドのコンポーネントで組み上げ、超軽量カーボンホイールを装着してるほうがよっぽど『ずるい!』んじゃね?って思うけどな。」昔の会長をすっかり棚上げした無責任な意見ではあるが、なるほど一理ある。あわや譴責処分を覚悟していただけにその言葉に納得してしまうのであった。
「それじゃあ靴を履き替えるぞ!」磯辺餅を食べ終わった私たちに会長が声を掛けてくる。そういえば、今日のライドが始まる前にトレッキングシューズを用意させられたんだっけ……。「面倒くさいな」と仕方なく持ってきたトレッキングシューズに履き替える私たちをお構いなしに、オヤジは独り急坂を登り始める。ちなみに彼の足元は建設現場用の安全靴だ。
会長は一体どこへ行こうというのか?都民の森はゴールであってスタート地点ではない!そんな疑問を抱いている間にも、彼は売店の奥へと続く急坂をズンズンと登っていく。結構な傾斜を進み、階段を上がり切ると、ロッジ風の建物”森林館”が見えてくる。この中には舞茸天が名物のレストランがあることは知ってはいたが…。10年を超える都民の森歴を有する私なのに、思い返すと一度も登って来たことはなかった……。
森林館でお昼ごはんを奢ってくれるものと思い込んでいた私を嘲笑うかのように、その先に伸びる整備の行き届いた散策道へとオヤジは舵を切る。「え?何処に行くんですか?」思わず声を上げてしまった私に対し「はぁ?三頭大滝に行くんだよ。まさか君たちは三頭大滝の事も知らないのか?」と叱責が飛んでくる。
まさかと言われても知らないものは知らない。隣のフジワラもコクリと頷く。そんな私たちに追い打ちを掛けるように会長が毒を吐く。「都民の森には100回以上来てるって豪語してたのに、駐車場までしか知らないなんて、いままで何やってたんだよ?」
「だから!駐車場でカレーパン食べながら登坂の疲れを癒してたんだよ!生粋のサイクリストである俺たちにとって”とちのみ売店”こそが砂漠のオアシスであり、売店前の安っぽいプラスチック製のガーデンテーブルとチェアこそが憩いの場なんだよ!夏場に食べる”冷やしキュウリ”が俺たちにどれだけの勇気を与えてくれるかアンタに判るか!」こんな暴言を吐く勇気があれば、きっと私の人生も違った景色になっていたことだろう。そんな妄想を抱きながらハイキングは続く。
森林館を過ぎると、ハイキングコースの斜度は一気に緩む。ウッドチップが敷き詰められた非常に歩きやすい散策道で、これならわざわざトレッキングシューズに履き替えなくとも、MTB用のビンディングシューズでも全然大丈夫だったな、なんて思いつつ歩を進める。しばらく進むとザァザァと水の流れる音が聞こえてきた。都民の森入口から歩くこと20分、此処が今日の最終目的地、三頭(みとう)大滝だ!
龍神の滝もそこそこの迫力だったが、三頭大滝は更に規模が大きく33mの落差を誇る。吊り橋も掛けられており、しっかりとその全容を楽しむことが出来る。ちなみにこの吊り橋「滝見橋」の対岸には道が無く、正真正銘滝を見るためだけに造られたものなのだとか。
そんな東京都が推す一大名所らしいのだが、一度も訪れたことはなかった。なんとなれば、すぐそこまで毎週来ていた時期もあるにも関わらず、都内にこんな大きな滝があるとは露知らず。上京してより十数年、初めて都民の森に真の意味で足を踏み入れた気がする。
目前に拡がる風景からは、ここが東京都とはとても信じられない。東京都のポテンシャルも捨てたモンではない。隣で滝を眺めるフジワラが、満足げな表情を浮かべながら口を開く。「ハイキングもいいし、景色もいいし、会長もなかなかやりますね!」
いやいや、私は惑わされない。私には苦しさの中にある達成感のみを信じてペダルを廻してきたプライドがある。如何に新鮮で、如何に楽しくとも、会長のスタイルを認めることは負けなのだ。
さて、それでは下山開始である。「折角だからこっちの登山道側を降りてみるか?」というメタボ会長に続き、帰りは別のルートを進む。これが結構本格的な下りで、ウッドチップのハイキングコースとは比べ物にならない路面状況。トレッキングシューズを履いていなければ滑落してもおかしくはない感じだ。
自転車なら楽チンの下り坂でも、結構疲れるのがトレッキングである。脚をパンパンにしながら何とか自転車の下まで辿り着く。ここからは武蔵五日市駅まで爽快なダウンヒルタイムだ。一気に駆け下り、駅前駐車場のハイエース”シクロワイアード号”に到着。
「登ってるときは大変でしたけど、ハイキングとかも普段やらないから楽しかったですねー。なんかこういうの新鮮でした!今度また一人で来てみようかな~」とぼっちサイクリストぶりは堅持しつつも、お気楽路線になびきつつあるヘタレことフジワラ。
全くがっかりな後輩だ!編集部では隣同士の席で苦楽を共にし、お互いを分かり合えてるとばかり思っていたのに残念で致し方ない!確かに、今回のライドは楽しかったことは認めよう。今まで走ってきたコースの途中や少し先にある魅力的なスポットを見落としてきたことも甘んじて認めよう。
しかし、私は惑わされない。真の男はサイコンと路面、この2つしか視界に入らずともサイクリングを楽しめるのだ。それ以外の全ては余計な誘惑に過ぎない!サイクリングこそはストイックであるべきなのだ!過去の自分を守るための防衛機制を働かせ、そう自分に言い聞かせる私であった。
もう、フジワラは誘ってあげない。
さて、九頭龍神社からは都民の森までノンストップ。遅れがちなフジワラを先頭とし、後ろから励ましつつ登っていく。「なんで僕が先頭なんだよ……放っといてくれよもう……」という彼の心の叫びは誰にも拾われることなく消えゆく。とはいえ、旧料金所から先も巡航速度が10km/hを切ることはない良いペース。なんだかんだでやればできる男である。
しかし、私の後ろには空気を読まない男が一人。「このペースじゃE-BIKEの電池が消耗しちゃうよ!」と発破をかけてくる。斜度がキツくなればなるほど、楽チンそうなメタボ会長の増長ぶりが著しい。
実際、斜度がキツくなればなる程、E-BIKEとペダルバイクの差が顕著に現れる。路面を睨み続けることしかできない私達に対して、会長の表情は全くの平静そのものである。旧料金所先の最難関区間にも関わらず、つづら折りからの絶景を楽しみながら走っている。ペダルバイク時代の会長からは想像も付かない姿だ。
笑顔を浮かべながら息が乱れることもなく、此処から見下ろす景色が最高だの、冬の空気は濃くて美味しいだのと上機嫌で話し掛けて来るのだが、息も絶え絶えの私たちにはタダの迷惑以外の何物でもない。それほどE-BIKEのモータードーピングは効果が高い様子だ。
「E-BIKEを知るまでは、都民の森なんて苦痛以外の何物でもなく、決して好んで来るコースじゃ無かったけど、セラフを買ってからは楽しくて何度も来てるんだよなぁ。体力に自信が無い人ほどE-BIKEは楽しめると思うよ!」とオヤジが得意気に語る。聞くと10%の登坂でも平坦路を20km/hで巡行する程度の負荷だと言うから、E-BIKE恐るべしである。
登り坂とモラハラ上司という2重苦を乗り越え、どうにか都民の森へ辿りつく。バイクラックに愛車を掛け、早速売店で磯辺餅をゲット。これが美味いんだよなぁ、とぱくついているとフジワラがボソッと「はぁ~疲れた…。これだから人と走るのは嫌なんだよな…。」と愚痴っている。
「まあまあそう言うなって」と、しっかり弾除けの役割を果たした後輩をとりなしていると「大体、会長はずるいですよ、E-BIKEであんな楽そうに登ってて」と、あまりの疲れぶりに判断能力が鈍ったのか、ついに自身の雇用主へ舌鋒を向ける。
これには烈火のごとく怒りだすかと思ったが、「フジワラ君、それは考え違いじゃないか?」と、意外に穏やかな反応だ。「君はロードバイクに乗っている時にオートバイに追い抜かれて『ずるい!』って思うかい?思わないだろう。つまり、E-BIKEとペダルバイクの違いはそういうことなんだよ。要は全く別のカテゴリーってことだよ。」と優しげに語りかけている。
「君たちと同じペダルバイクなのに、超高級カーボンフレームをハイエンドのコンポーネントで組み上げ、超軽量カーボンホイールを装着してるほうがよっぽど『ずるい!』んじゃね?って思うけどな。」昔の会長をすっかり棚上げした無責任な意見ではあるが、なるほど一理ある。あわや譴責処分を覚悟していただけにその言葉に納得してしまうのであった。
「それじゃあ靴を履き替えるぞ!」磯辺餅を食べ終わった私たちに会長が声を掛けてくる。そういえば、今日のライドが始まる前にトレッキングシューズを用意させられたんだっけ……。「面倒くさいな」と仕方なく持ってきたトレッキングシューズに履き替える私たちをお構いなしに、オヤジは独り急坂を登り始める。ちなみに彼の足元は建設現場用の安全靴だ。
会長は一体どこへ行こうというのか?都民の森はゴールであってスタート地点ではない!そんな疑問を抱いている間にも、彼は売店の奥へと続く急坂をズンズンと登っていく。結構な傾斜を進み、階段を上がり切ると、ロッジ風の建物”森林館”が見えてくる。この中には舞茸天が名物のレストランがあることは知ってはいたが…。10年を超える都民の森歴を有する私なのに、思い返すと一度も登って来たことはなかった……。
森林館でお昼ごはんを奢ってくれるものと思い込んでいた私を嘲笑うかのように、その先に伸びる整備の行き届いた散策道へとオヤジは舵を切る。「え?何処に行くんですか?」思わず声を上げてしまった私に対し「はぁ?三頭大滝に行くんだよ。まさか君たちは三頭大滝の事も知らないのか?」と叱責が飛んでくる。
まさかと言われても知らないものは知らない。隣のフジワラもコクリと頷く。そんな私たちに追い打ちを掛けるように会長が毒を吐く。「都民の森には100回以上来てるって豪語してたのに、駐車場までしか知らないなんて、いままで何やってたんだよ?」
「だから!駐車場でカレーパン食べながら登坂の疲れを癒してたんだよ!生粋のサイクリストである俺たちにとって”とちのみ売店”こそが砂漠のオアシスであり、売店前の安っぽいプラスチック製のガーデンテーブルとチェアこそが憩いの場なんだよ!夏場に食べる”冷やしキュウリ”が俺たちにどれだけの勇気を与えてくれるかアンタに判るか!」こんな暴言を吐く勇気があれば、きっと私の人生も違った景色になっていたことだろう。そんな妄想を抱きながらハイキングは続く。
森林館を過ぎると、ハイキングコースの斜度は一気に緩む。ウッドチップが敷き詰められた非常に歩きやすい散策道で、これならわざわざトレッキングシューズに履き替えなくとも、MTB用のビンディングシューズでも全然大丈夫だったな、なんて思いつつ歩を進める。しばらく進むとザァザァと水の流れる音が聞こえてきた。都民の森入口から歩くこと20分、此処が今日の最終目的地、三頭(みとう)大滝だ!
龍神の滝もそこそこの迫力だったが、三頭大滝は更に規模が大きく33mの落差を誇る。吊り橋も掛けられており、しっかりとその全容を楽しむことが出来る。ちなみにこの吊り橋「滝見橋」の対岸には道が無く、正真正銘滝を見るためだけに造られたものなのだとか。
そんな東京都が推す一大名所らしいのだが、一度も訪れたことはなかった。なんとなれば、すぐそこまで毎週来ていた時期もあるにも関わらず、都内にこんな大きな滝があるとは露知らず。上京してより十数年、初めて都民の森に真の意味で足を踏み入れた気がする。
目前に拡がる風景からは、ここが東京都とはとても信じられない。東京都のポテンシャルも捨てたモンではない。隣で滝を眺めるフジワラが、満足げな表情を浮かべながら口を開く。「ハイキングもいいし、景色もいいし、会長もなかなかやりますね!」
いやいや、私は惑わされない。私には苦しさの中にある達成感のみを信じてペダルを廻してきたプライドがある。如何に新鮮で、如何に楽しくとも、会長のスタイルを認めることは負けなのだ。
さて、それでは下山開始である。「折角だからこっちの登山道側を降りてみるか?」というメタボ会長に続き、帰りは別のルートを進む。これが結構本格的な下りで、ウッドチップのハイキングコースとは比べ物にならない路面状況。トレッキングシューズを履いていなければ滑落してもおかしくはない感じだ。
自転車なら楽チンの下り坂でも、結構疲れるのがトレッキングである。脚をパンパンにしながら何とか自転車の下まで辿り着く。ここからは武蔵五日市駅まで爽快なダウンヒルタイムだ。一気に駆け下り、駅前駐車場のハイエース”シクロワイアード号”に到着。
「登ってるときは大変でしたけど、ハイキングとかも普段やらないから楽しかったですねー。なんかこういうの新鮮でした!今度また一人で来てみようかな~」とぼっちサイクリストぶりは堅持しつつも、お気楽路線になびきつつあるヘタレことフジワラ。
全くがっかりな後輩だ!編集部では隣同士の席で苦楽を共にし、お互いを分かり合えてるとばかり思っていたのに残念で致し方ない!確かに、今回のライドは楽しかったことは認めよう。今まで走ってきたコースの途中や少し先にある魅力的なスポットを見落としてきたことも甘んじて認めよう。
しかし、私は惑わされない。真の男はサイコンと路面、この2つしか視界に入らずともサイクリングを楽しめるのだ。それ以外の全ては余計な誘惑に過ぎない!サイクリングこそはストイックであるべきなのだ!過去の自分を守るための防衛機制を働かせ、そう自分に言い聞かせる私であった。
もう、フジワラは誘ってあげない。
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