2019/04/16(火) - 11:46
直木賞・山本周五郎賞のダブル受賞作家、熊谷達也さんの新刊「エスケープ・トレイン」の出版記念トークショーが「ベルエキップ」主催で開催された。サイクルロードレースをテーマに、スポーツの普遍のおもしろさや人間ドラマが描き出されたこの小説の誕生秘話をはじめ、仙台が舞台となった物語の裏話、そして熱心なサイクリストでもある熊谷さんと自転車について語る貴重な会となった。
主催は東北随一のプロサイクルショップ「ベルエキップ」。オーナー遠藤さんの呼びかけで開催された。「新刊出版が2月で、熊谷さんとやろうやろうと言っていたのですが、ずるずる時が過ぎてしまって。それで決めたのが一週間前。小さく、と思っていたのだけどこんなにお客様が来てくれてよかった」。と遠藤さん。たった一週間前の告知にもかかわらず、ベルエキップのリピーターからロードレースのファン、自転車メーカーのスタッフ、友人知人をはじめ約30名が集まった。
小説は23歳の小林湊人が主人公。期待されながらもどこか抜けたところがあり、そして迷いながらも様々な人との出逢いや経験を通し才能がどんどん開花していく様子が描かれている。舞台は主に仙台であるがツアー・オブ・ジャパンや全日本選手権など国内の主要ロードレースのほか、世界のトップレベルで戦ってきた梶山浩介の加入によって欧州の雰囲気も加味される。
トークショー会場は仙台市五橋にあるアイリッシュパブ「バーンズアイリッシュパブ」。ギネス・キルケニー・スコッチウィスキー等を取り揃え、本場のアイルランド料理も楽しめる。オーナーの鈴木さんは元ブラウマイスター(ビールづくり職人)、そしてベルエキップに通う自転車乗りで、店内の大スクリーンでは欧州ロードレースのDVDが流れる。7月の「ツール・ド・フランスナイト」などベルエキップ主催のイベントはたびたびここで行われている。
遠藤さんの乾杯の発声で会がスタート。ビールやフードを楽しみながら、質問を交えながらの約2時間半。熊谷さんの話をたっぷり聞くことができた。
― 自転車を始めるきっかけ
ツール・ド・フランスはNHKが放映していた時代からなんとなく見ていました。1986年のグレッグレモンが優勝したシーン、これがすごく印象に残っていて、2014年、ケーブルテレビに加入して本格的に見始めました。旅する感覚がかっこいいなぁと思うし、逃げの選手が集団に飲み込まれていく瞬間など、ドラマチックですごくおもしろい。必ず録画して繰り返し見ています。「あと何回ツール・ド・フランスを見られるのだろう」と思いながら見ています。桜みたいですね。
自転車に乗るきっかけはちょうど同じ頃にやっていたNHKの健康番組です。コレステロール値が高いのが気になっていたのですが、その番組で3つの運動を比べてどれだけ数値が改善するか、というのをやっていて。ママチャリが一番よかったんです。それで自転車が結びついた。すぐにエントリーモデルのロードバイクを買い走り始めました。
― 自転車に乗り始めてから健康に。夫婦でサイクリング
それまではオートバイに乗っていました。サイクリストを見かけると「辛気臭いことやってるな~」と(笑) 小説家という仕事柄、運動不足になってしまって、みるみるうちに体重が増え、高脂血症となってしまった。医師からも警告される程で、危なかったです。散歩をし始め5㎏は減ったのですがそれ以上が減らなくて。でも毎日1〜2時間ほど自転車に乗るうちに、みるみる減っていきました。最高体重80㎏から63㎏まで減り、当然脂肪も落ちて数値もがらりと変わったので、医師が「何したの?」とびっくりするほどでした。奥さんも一緒に自転車に乗ります。奥さんにいろいろ言われる人、先行投資、必要です。「これはあなたのです」と言って買ってあげると一緒に楽しんで乗ってくれますから、先に買っちゃってください(笑)
― ニセコクラッシックではメダルも
最初は一人で乗っていたのですが2015年の秋、北海道美瑛町のセンチュリーライドにはじめて参加したのがきっかけで、あちこちのイベントに参加するようになりました。ベルエキップの朝練にも参加するようになり、仲間も出来てどんどんのめり込んでいきました。小説に出てくる練習コース、あそこはまさしく朝練の場所です。2016年春のもてぎエンデューロ(4時間ソロ)が自分にとっては初めてタイムを競うもので、650人中150番台取れたんです。「次は100番以内を目指す」と目標ができました。そして2週間後の「蔵王ヒルクライム」。完走はできたのですが、エンデューロのダメージが残っていてフィニッシュ後お尻がつってしまって(笑) でもコンスタントにイベントやレースには参加し、2017年のニセコクラッシックでは年齢別上位25%に入りメダルもいただきました。
― 小説を書こうと思ったきっかけ
自転車について書いてみたいと乗り始めた頃から思っていました。ヒルクライムも含めて自分もレースに出るようになり「レースはおもしろいな」「集団の中はどういう感覚なのだろう」「選手の感情はどのようなものだろう」とますます思うようになりました。担当の編集者に相談したら、彼はマラソンをする人で。「いいですね!」とすんなりOK。大義名分ができました(笑) 自分もレースに参加することで、体で知ることができましたね。競技の特性やルールについては、ツール・ド・フランスなど欧州のロードレースを見ていると、今回帯を書いてくださった栗村修さんはじめいろいろな人が詳しく解説してくれています。自分も最初はまったくわからなかったのですが、知れば知るほどおもしろくなりました。自転車を知らない人にもわかるように書いたつもりですが、そのような読者からも「読んでいて気持ちがよかった」と感想を言ってもらえるとやはりうれしいですね。
― 地元仙台が舞台
書くからには仙台を舞台にしたかった。「ベルマシーヌの須藤さん」とか「エルソレイユの梶山選手」とか名前が似通っているが、連載がはじまってから気が付きました(笑)。この小説はフィクションですが、親近感を持ってもらえれば。仙台によい自転車文化を根付かせていけたらいいなと思っています。
― 実業団登録チーム「Team nacrée(チームナクレ)」
「仙台に自転車文化を根付かせたい」。そんな思いから、この春仙台に実業団登録チームを立ち上げました。ジャージも出来上がってきました。ミシュラン一つ星のフレンチレストラン「nacrée(ナクレ)」の緒方稔シェフが代表で、私がGMです。チームはレストラン名「nacrée(ナクレ)」から取りました。20代から60代まで幅広い年代の16名が所属し、内8名が実業団登録しています。本格的にレースを走り、力をつけたいという人から自転車を楽しみたい人まで、よい具合に棲み分けができて、長く継続していけるチームを目指しています。緒方シェフがオーナーだけに、ケータリング付きのライド構想もあります。レース参戦だけでなく、いろいろな人を巻き込みながら地域や人々へ恩返ししていけたらと思っています。
チームナクレのデビュー戦は4月27日のもてぎエンデューロ、翌日の東日本ロードクラッシックと続く。熊谷さん自身も4月のもてぎエンデューロ、5月のなまはげライド、6月のさくらんぼライド、7月のニセコクラッシックと参戦予定とのこと。
熊谷達也さんへの10の質問
現在の愛車は?
A.ジャイアント TCR ADVANCED PRO
最初に乗った自転車は?
A.人生最初の自転車はマルキンの軽快車。ロードバイクはクォータ CORSA。
これから乗ってみたい自転車は?
A.チャプター2のHULU(実はトークショー翌日のベルエキップ試乗会で気に入り、注文してしまった)
自転車で走ってみたいところは?
A.ピレネー山脈。
観戦に行ってみたいところは?
A.もちろんツール・ド・フランス。
憧れ、お気に入りのライダーは?
A.日本人ですもん、当然ながら、新城幸也選手、別府史之選手、そして仙台出身の増田成幸選手。
会ってみたい人は?
A.浅田顕さん(J SPORTSスポーツの解説が面白いとのこと)
自転車に乗る前や乗った後に食べたくなるものは?
A.乗る前は白いご飯、乗ったあとはビール(食べ物じゃないですが...笑)。
今後の目標を教えてください
A.ニセコクラシックでもう一度メダルをもらって世界選手権に出場する! & Team nacréeをいいクラブチームに育てたい。
読者のみなさんへ一言
A.「エスケープ・トレイン」は、ロードレースファンだけでなく、誰にでも楽しく読んでもらえるように願って書きました。この本を通してロードレースの面白さや疾走感を味わってもらえたらうれしいです。
筆者プロフィール:目黒 誠子(めぐろせいこ)
宮城県丸森町生まれ。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。2014年より3年間、ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当していた。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。現在は宮城県丸森町に拠点を置きつつ、海外の自転車事情やライフスタイルを取材しながら、ライター、プロデューサー、コーディネーターとして活動。自転車とまちづくり・クリーン工房アドバイザー、「自転車と旅の日~MARUVÉLO(マルベロ)」主宰。(https://www.facebook.com/maruvelo/)
主催は東北随一のプロサイクルショップ「ベルエキップ」。オーナー遠藤さんの呼びかけで開催された。「新刊出版が2月で、熊谷さんとやろうやろうと言っていたのですが、ずるずる時が過ぎてしまって。それで決めたのが一週間前。小さく、と思っていたのだけどこんなにお客様が来てくれてよかった」。と遠藤さん。たった一週間前の告知にもかかわらず、ベルエキップのリピーターからロードレースのファン、自転車メーカーのスタッフ、友人知人をはじめ約30名が集まった。
小説は23歳の小林湊人が主人公。期待されながらもどこか抜けたところがあり、そして迷いながらも様々な人との出逢いや経験を通し才能がどんどん開花していく様子が描かれている。舞台は主に仙台であるがツアー・オブ・ジャパンや全日本選手権など国内の主要ロードレースのほか、世界のトップレベルで戦ってきた梶山浩介の加入によって欧州の雰囲気も加味される。
トークショー会場は仙台市五橋にあるアイリッシュパブ「バーンズアイリッシュパブ」。ギネス・キルケニー・スコッチウィスキー等を取り揃え、本場のアイルランド料理も楽しめる。オーナーの鈴木さんは元ブラウマイスター(ビールづくり職人)、そしてベルエキップに通う自転車乗りで、店内の大スクリーンでは欧州ロードレースのDVDが流れる。7月の「ツール・ド・フランスナイト」などベルエキップ主催のイベントはたびたびここで行われている。
遠藤さんの乾杯の発声で会がスタート。ビールやフードを楽しみながら、質問を交えながらの約2時間半。熊谷さんの話をたっぷり聞くことができた。
― 自転車を始めるきっかけ
ツール・ド・フランスはNHKが放映していた時代からなんとなく見ていました。1986年のグレッグレモンが優勝したシーン、これがすごく印象に残っていて、2014年、ケーブルテレビに加入して本格的に見始めました。旅する感覚がかっこいいなぁと思うし、逃げの選手が集団に飲み込まれていく瞬間など、ドラマチックですごくおもしろい。必ず録画して繰り返し見ています。「あと何回ツール・ド・フランスを見られるのだろう」と思いながら見ています。桜みたいですね。
自転車に乗るきっかけはちょうど同じ頃にやっていたNHKの健康番組です。コレステロール値が高いのが気になっていたのですが、その番組で3つの運動を比べてどれだけ数値が改善するか、というのをやっていて。ママチャリが一番よかったんです。それで自転車が結びついた。すぐにエントリーモデルのロードバイクを買い走り始めました。
― 自転車に乗り始めてから健康に。夫婦でサイクリング
それまではオートバイに乗っていました。サイクリストを見かけると「辛気臭いことやってるな~」と(笑) 小説家という仕事柄、運動不足になってしまって、みるみるうちに体重が増え、高脂血症となってしまった。医師からも警告される程で、危なかったです。散歩をし始め5㎏は減ったのですがそれ以上が減らなくて。でも毎日1〜2時間ほど自転車に乗るうちに、みるみる減っていきました。最高体重80㎏から63㎏まで減り、当然脂肪も落ちて数値もがらりと変わったので、医師が「何したの?」とびっくりするほどでした。奥さんも一緒に自転車に乗ります。奥さんにいろいろ言われる人、先行投資、必要です。「これはあなたのです」と言って買ってあげると一緒に楽しんで乗ってくれますから、先に買っちゃってください(笑)
― ニセコクラッシックではメダルも
最初は一人で乗っていたのですが2015年の秋、北海道美瑛町のセンチュリーライドにはじめて参加したのがきっかけで、あちこちのイベントに参加するようになりました。ベルエキップの朝練にも参加するようになり、仲間も出来てどんどんのめり込んでいきました。小説に出てくる練習コース、あそこはまさしく朝練の場所です。2016年春のもてぎエンデューロ(4時間ソロ)が自分にとっては初めてタイムを競うもので、650人中150番台取れたんです。「次は100番以内を目指す」と目標ができました。そして2週間後の「蔵王ヒルクライム」。完走はできたのですが、エンデューロのダメージが残っていてフィニッシュ後お尻がつってしまって(笑) でもコンスタントにイベントやレースには参加し、2017年のニセコクラッシックでは年齢別上位25%に入りメダルもいただきました。
― 小説を書こうと思ったきっかけ
自転車について書いてみたいと乗り始めた頃から思っていました。ヒルクライムも含めて自分もレースに出るようになり「レースはおもしろいな」「集団の中はどういう感覚なのだろう」「選手の感情はどのようなものだろう」とますます思うようになりました。担当の編集者に相談したら、彼はマラソンをする人で。「いいですね!」とすんなりOK。大義名分ができました(笑) 自分もレースに参加することで、体で知ることができましたね。競技の特性やルールについては、ツール・ド・フランスなど欧州のロードレースを見ていると、今回帯を書いてくださった栗村修さんはじめいろいろな人が詳しく解説してくれています。自分も最初はまったくわからなかったのですが、知れば知るほどおもしろくなりました。自転車を知らない人にもわかるように書いたつもりですが、そのような読者からも「読んでいて気持ちがよかった」と感想を言ってもらえるとやはりうれしいですね。
― 地元仙台が舞台
書くからには仙台を舞台にしたかった。「ベルマシーヌの須藤さん」とか「エルソレイユの梶山選手」とか名前が似通っているが、連載がはじまってから気が付きました(笑)。この小説はフィクションですが、親近感を持ってもらえれば。仙台によい自転車文化を根付かせていけたらいいなと思っています。
― 実業団登録チーム「Team nacrée(チームナクレ)」
「仙台に自転車文化を根付かせたい」。そんな思いから、この春仙台に実業団登録チームを立ち上げました。ジャージも出来上がってきました。ミシュラン一つ星のフレンチレストラン「nacrée(ナクレ)」の緒方稔シェフが代表で、私がGMです。チームはレストラン名「nacrée(ナクレ)」から取りました。20代から60代まで幅広い年代の16名が所属し、内8名が実業団登録しています。本格的にレースを走り、力をつけたいという人から自転車を楽しみたい人まで、よい具合に棲み分けができて、長く継続していけるチームを目指しています。緒方シェフがオーナーだけに、ケータリング付きのライド構想もあります。レース参戦だけでなく、いろいろな人を巻き込みながら地域や人々へ恩返ししていけたらと思っています。
チームナクレのデビュー戦は4月27日のもてぎエンデューロ、翌日の東日本ロードクラッシックと続く。熊谷さん自身も4月のもてぎエンデューロ、5月のなまはげライド、6月のさくらんぼライド、7月のニセコクラッシックと参戦予定とのこと。
熊谷達也さんへの10の質問
現在の愛車は?
A.ジャイアント TCR ADVANCED PRO
最初に乗った自転車は?
A.人生最初の自転車はマルキンの軽快車。ロードバイクはクォータ CORSA。
これから乗ってみたい自転車は?
A.チャプター2のHULU(実はトークショー翌日のベルエキップ試乗会で気に入り、注文してしまった)
自転車で走ってみたいところは?
A.ピレネー山脈。
観戦に行ってみたいところは?
A.もちろんツール・ド・フランス。
憧れ、お気に入りのライダーは?
A.日本人ですもん、当然ながら、新城幸也選手、別府史之選手、そして仙台出身の増田成幸選手。
会ってみたい人は?
A.浅田顕さん(J SPORTSスポーツの解説が面白いとのこと)
自転車に乗る前や乗った後に食べたくなるものは?
A.乗る前は白いご飯、乗ったあとはビール(食べ物じゃないですが...笑)。
今後の目標を教えてください
A.ニセコクラシックでもう一度メダルをもらって世界選手権に出場する! & Team nacréeをいいクラブチームに育てたい。
読者のみなさんへ一言
A.「エスケープ・トレイン」は、ロードレースファンだけでなく、誰にでも楽しく読んでもらえるように願って書きました。この本を通してロードレースの面白さや疾走感を味わってもらえたらうれしいです。
筆者プロフィール:目黒 誠子(めぐろせいこ)
宮城県丸森町生まれ。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。2014年より3年間、ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当していた。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。現在は宮城県丸森町に拠点を置きつつ、海外の自転車事情やライフスタイルを取材しながら、ライター、プロデューサー、コーディネーターとして活動。自転車とまちづくり・クリーン工房アドバイザー、「自転車と旅の日~MARUVÉLO(マルベロ)」主宰。(https://www.facebook.com/maruvelo/)
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