2018/01/31(水) - 09:10
1月20、21日に東京の九段下にある科学技術館にてハンドメイドバシクル展が開催された。日本中から個性的なフレームビルダー達が集まり、自慢のバイクを披露した展示会の模様をお伝えしよう。
世界有数の大都市、東京の中心地でありながら都会の喧騒からは隔てられた皇居周辺。その北側に位置する北の丸公園は日本武道館をはじめ、国立近代美術館、国立公文図書館など多くの文化施設を持つ都会のオアシスである。今回、その中の1つである科学技術館にて日本各地から集まった自転車フレームビルダー達の展示会、ハンドメイドバイシクル展が開催された。
競輪選手にフレームを供給するビルダー達が中心となって始まったハンドメイドバイシクル展。その始まりは1988年まで遡る。今でこそ世界的影響力を持つハンドメイドバイシクルショーといえば、アメリカのNAHBSやイギリスのBespokedなどが挙げられるが、それらよりも長い歴史を持つ伝統的なイベントなのだ。ハンドメイドバイクへの注目の高まりを受け、科学技術館へは過去最多となる50ブースが出展し、個性溢れるフレームやパーツ類が並べられた。
入り口付近にはイベントスペースが設けられ、ハンドメイド自転車の選び方と題したトークショーを開催。M.マキノサイクルファクトリーの坂西裕さんと、自転車ジャーナリストの田村浩さんによるトークが行われており、多くの人が熱心に耳を傾けていた。また、このイベントスペースでは溶接したパイプへのヤスリがけ体験も行われており、自転車が人の手によって作られていくことをその手で実感できるコーナーとなっていた。
今回会場として開放されたのは4つのフロア。例年イベントスペースとされていた部屋も展示スペースとされており、それぞれの部屋の壁際に各ビルダーたちの誇る自転車がずらりと並んだ。展示されるバイクのジャンルは多岐に渡り、スチールの細さを活かしたロードバイクはもちろんのこと、ハンドメイドならではの工夫を細部に凝らしたツーリングバイク、チタン製のMTBなどユニークな自転車ばかり。自転車以外にも個性豊かなパーツメーカー、フレームビルディングに欠かせないチューブやラグなどを扱う商社も出展しており、ハンドメイドバイクのディープな世界を垣間見ることが出来た。
NAHBS出展のRacer Sportifを日本初お披露目したケルビム
日本を代表するフレームビルダー、今野真一率いるケルビムはNAHBS2017に出展した”Racer Sportif”を日本初公開。1960年台のカーデザイナーが未来の車をスケッチしたような”レトロフューチャー”なデザインをコンセプトに、野暮ったくなりがちなフェンダーもフレーム/フォークにインテグレートすることでスマートなシルエットを実現した。
そこに、アヘッドステムやDi2内装、スルーアクスル、フラットマウントディスクブレーキなど現代の仕様を組み合わせている。ハンドメイドバイクビルダーが発信し、大きな潮流となっているグラベルバイクではなく、あくまでもスポルティーフとしての美しさを追求しつつ、時代の最先端を行くバイクとなっている。
創業から50年ほどの歴史を持つケルビム。若手ビルダーが存在感を増してきたハンドメイドバイク業界では老舗となるが、伝統のスタイルを守りつつ、時代に合わせる部分は変えていくという柔軟な姿勢でフレーム作りにあたっているという。NAHBS2017出展作として話題になったバイクだが、意外にも国内初お披露目の舞台となったそうで、他のビルダーの方々からも「やっと見れた」との声も上がっていた。
ハンドメイドの敷居を下げる BYOB Factory
誰でもバイクビルディングが可能なレンタルスペース「BYOB Factory」の中心的人物であるサンライズサイクルの高井氏は小径車を出展。小径カーボンリムのプロモーション用に製作したというバイクは一見シンプルながら、随所に工夫を凝らした1台となっている。
例えばブランドロゴプレートには、シフトを操作すると動くギミックを搭載。小径車には珍しくリアブレーキをBB下にしたのも特徴的だ。またフロントディレイラー台座の角度やシートステーの角度はロードフレームとは異なり特別な調整が必要となるため、少し傾きを与えられている。
「速く走るためのロードレーサー、オフロードを走破するためのMTB、荷物を積んで長距離を走るためのツーリング車。それぞれのジャンルで明確な目的がある中で、目的による区分ではない唯一のカテゴリとして小径車は特別な存在だと思っているんです。オフロードを走れる小径車もあるし、荷物を積める小径車もある。速く走れる小径車だって。そんな多様性の象徴のような存在だからこそ、ルールに囚われない自由な発想をカタチにしたかったんですよ」という高井氏。確かに、凝り固まった視点であれば、決して思いもよらないような奔放で型破りなアイディアと世界観が、サンライズサイクルのバイクからは伝わってくる。
今、彼が考えているのはショップとビルダーの関わり方について。「日本でショップがスポーツ自転車を売るとなったら、マスプロメーカーが生産した海外製のバイクをセレクトショップ的にラインアップして売るというのが今は一般的ですよね?でも、ほんの少し時を遡って欲しいんです。まだ自転車が国内で製造されていた時代には、各ショップがそれぞれのフィロソフィーを形にしたオリジナルフレームをラインアップしていました。そんな、今は薄まってしまったショップとビルダーのつながりを取り戻したいんですよ」
もう一つ、BYOB Factoryの出展物の中で気になったのが「BYOB謹製 家庭用フレームジグ」。これはフレームビルディングを行う際のジオメトリー調整を個人レベルでも自在に出来るようにしたジグで、これがあれば自宅でも簡単にフレームビルディングの世界に踏み込めるという代物。
高井氏によると、アメリカでは自宅で自分のフレームを作るのは当たり前の自転車文化だそうで、日本でもそれを浸透させたいとのこと。フレームジグと同時にチューブセットの販売も計画しており、日本でもガレージフレームビルディングを身近な存在にしてくれる起爆剤となるやも?
気鋭のビルダーやパーツブランド、マテリアルメーカーも出展
東京サイクルデザイン専門学校の現役生たちもブースを出展。スタイルを追求しトップチューブとステムがツライチになるよう設計されたロードバイクや、独創的なデザインのシティコミューター、シンプルながらも剛性を高めるためにコンパクトフレーム設計を取り入れたトラックバイクなど、学生らしい個性的な自転車が展示されていた。フレームビルディングを最初から学ぶことができる唯一の学校として知られる東京サイクルデザイン専門学校だが、卒業生も自らのブランドを携え出展するなど、その輪は確実に広がっているようだ。
ただの自転車ではない、工夫を凝らした便利かつ面白いバイクが出てくるのもハンドメイドバイシクル展の魅力の1つ。フォールディングバイク専業ブランドの5LINKSでは折りたたむ事が出来る700Cの本格ロードバイクを展示。フリーボディを外せるようにすることで、チェーンが外れるのを防ぎ、そのままシートステーとシートチューブの結合部を外してコンパクトに畳む事が出来るという優れものだ。まさにその変形機構には目からウロコで、これなら輪行も手軽に行う事が出来るだろう。
その他、日東や三ヶ島ペダルといったハンドメイドバイクにぴったりのパーツを供給するメーカー各社も出展。またフレームビルディングに欠かせないタンゲやコロンバスといったチューブブランドも顔を出しており、作り手にとっても意義のある展示会となったようだ。
中でもグラファイトデザインは昨年の11月から販売している自転車フレーム用カーボンチューブを展示していた。過去に自転車フレームを製造していた経験を活かし、専用に調整したカーボンチューブだという。今まで大阪の東洋フレームにカーボンチューブを提供してきた同社だが、これにより多くのビルダーにカーボンチューブを使ってもらうことが可能になった。
他にもここでは紹介しきれないほどのバイクやパーツ類が展示されており、1日見ていても飽きないボリュームとなっていた。マスプロメーカーの自転車とは違うこだわりの自転車に興味のある方は、是非来年のハンドメイドバイシクル展に足を運んで欲しい。
photo:Kosuke.Kamata
世界有数の大都市、東京の中心地でありながら都会の喧騒からは隔てられた皇居周辺。その北側に位置する北の丸公園は日本武道館をはじめ、国立近代美術館、国立公文図書館など多くの文化施設を持つ都会のオアシスである。今回、その中の1つである科学技術館にて日本各地から集まった自転車フレームビルダー達の展示会、ハンドメイドバイシクル展が開催された。
競輪選手にフレームを供給するビルダー達が中心となって始まったハンドメイドバイシクル展。その始まりは1988年まで遡る。今でこそ世界的影響力を持つハンドメイドバイシクルショーといえば、アメリカのNAHBSやイギリスのBespokedなどが挙げられるが、それらよりも長い歴史を持つ伝統的なイベントなのだ。ハンドメイドバイクへの注目の高まりを受け、科学技術館へは過去最多となる50ブースが出展し、個性溢れるフレームやパーツ類が並べられた。
入り口付近にはイベントスペースが設けられ、ハンドメイド自転車の選び方と題したトークショーを開催。M.マキノサイクルファクトリーの坂西裕さんと、自転車ジャーナリストの田村浩さんによるトークが行われており、多くの人が熱心に耳を傾けていた。また、このイベントスペースでは溶接したパイプへのヤスリがけ体験も行われており、自転車が人の手によって作られていくことをその手で実感できるコーナーとなっていた。
今回会場として開放されたのは4つのフロア。例年イベントスペースとされていた部屋も展示スペースとされており、それぞれの部屋の壁際に各ビルダーたちの誇る自転車がずらりと並んだ。展示されるバイクのジャンルは多岐に渡り、スチールの細さを活かしたロードバイクはもちろんのこと、ハンドメイドならではの工夫を細部に凝らしたツーリングバイク、チタン製のMTBなどユニークな自転車ばかり。自転車以外にも個性豊かなパーツメーカー、フレームビルディングに欠かせないチューブやラグなどを扱う商社も出展しており、ハンドメイドバイクのディープな世界を垣間見ることが出来た。
NAHBS出展のRacer Sportifを日本初お披露目したケルビム
日本を代表するフレームビルダー、今野真一率いるケルビムはNAHBS2017に出展した”Racer Sportif”を日本初公開。1960年台のカーデザイナーが未来の車をスケッチしたような”レトロフューチャー”なデザインをコンセプトに、野暮ったくなりがちなフェンダーもフレーム/フォークにインテグレートすることでスマートなシルエットを実現した。
そこに、アヘッドステムやDi2内装、スルーアクスル、フラットマウントディスクブレーキなど現代の仕様を組み合わせている。ハンドメイドバイクビルダーが発信し、大きな潮流となっているグラベルバイクではなく、あくまでもスポルティーフとしての美しさを追求しつつ、時代の最先端を行くバイクとなっている。
創業から50年ほどの歴史を持つケルビム。若手ビルダーが存在感を増してきたハンドメイドバイク業界では老舗となるが、伝統のスタイルを守りつつ、時代に合わせる部分は変えていくという柔軟な姿勢でフレーム作りにあたっているという。NAHBS2017出展作として話題になったバイクだが、意外にも国内初お披露目の舞台となったそうで、他のビルダーの方々からも「やっと見れた」との声も上がっていた。
ハンドメイドの敷居を下げる BYOB Factory
誰でもバイクビルディングが可能なレンタルスペース「BYOB Factory」の中心的人物であるサンライズサイクルの高井氏は小径車を出展。小径カーボンリムのプロモーション用に製作したというバイクは一見シンプルながら、随所に工夫を凝らした1台となっている。
例えばブランドロゴプレートには、シフトを操作すると動くギミックを搭載。小径車には珍しくリアブレーキをBB下にしたのも特徴的だ。またフロントディレイラー台座の角度やシートステーの角度はロードフレームとは異なり特別な調整が必要となるため、少し傾きを与えられている。
「速く走るためのロードレーサー、オフロードを走破するためのMTB、荷物を積んで長距離を走るためのツーリング車。それぞれのジャンルで明確な目的がある中で、目的による区分ではない唯一のカテゴリとして小径車は特別な存在だと思っているんです。オフロードを走れる小径車もあるし、荷物を積める小径車もある。速く走れる小径車だって。そんな多様性の象徴のような存在だからこそ、ルールに囚われない自由な発想をカタチにしたかったんですよ」という高井氏。確かに、凝り固まった視点であれば、決して思いもよらないような奔放で型破りなアイディアと世界観が、サンライズサイクルのバイクからは伝わってくる。
今、彼が考えているのはショップとビルダーの関わり方について。「日本でショップがスポーツ自転車を売るとなったら、マスプロメーカーが生産した海外製のバイクをセレクトショップ的にラインアップして売るというのが今は一般的ですよね?でも、ほんの少し時を遡って欲しいんです。まだ自転車が国内で製造されていた時代には、各ショップがそれぞれのフィロソフィーを形にしたオリジナルフレームをラインアップしていました。そんな、今は薄まってしまったショップとビルダーのつながりを取り戻したいんですよ」
もう一つ、BYOB Factoryの出展物の中で気になったのが「BYOB謹製 家庭用フレームジグ」。これはフレームビルディングを行う際のジオメトリー調整を個人レベルでも自在に出来るようにしたジグで、これがあれば自宅でも簡単にフレームビルディングの世界に踏み込めるという代物。
高井氏によると、アメリカでは自宅で自分のフレームを作るのは当たり前の自転車文化だそうで、日本でもそれを浸透させたいとのこと。フレームジグと同時にチューブセットの販売も計画しており、日本でもガレージフレームビルディングを身近な存在にしてくれる起爆剤となるやも?
気鋭のビルダーやパーツブランド、マテリアルメーカーも出展
東京サイクルデザイン専門学校の現役生たちもブースを出展。スタイルを追求しトップチューブとステムがツライチになるよう設計されたロードバイクや、独創的なデザインのシティコミューター、シンプルながらも剛性を高めるためにコンパクトフレーム設計を取り入れたトラックバイクなど、学生らしい個性的な自転車が展示されていた。フレームビルディングを最初から学ぶことができる唯一の学校として知られる東京サイクルデザイン専門学校だが、卒業生も自らのブランドを携え出展するなど、その輪は確実に広がっているようだ。
ただの自転車ではない、工夫を凝らした便利かつ面白いバイクが出てくるのもハンドメイドバイシクル展の魅力の1つ。フォールディングバイク専業ブランドの5LINKSでは折りたたむ事が出来る700Cの本格ロードバイクを展示。フリーボディを外せるようにすることで、チェーンが外れるのを防ぎ、そのままシートステーとシートチューブの結合部を外してコンパクトに畳む事が出来るという優れものだ。まさにその変形機構には目からウロコで、これなら輪行も手軽に行う事が出来るだろう。
その他、日東や三ヶ島ペダルといったハンドメイドバイクにぴったりのパーツを供給するメーカー各社も出展。またフレームビルディングに欠かせないタンゲやコロンバスといったチューブブランドも顔を出しており、作り手にとっても意義のある展示会となったようだ。
中でもグラファイトデザインは昨年の11月から販売している自転車フレーム用カーボンチューブを展示していた。過去に自転車フレームを製造していた経験を活かし、専用に調整したカーボンチューブだという。今まで大阪の東洋フレームにカーボンチューブを提供してきた同社だが、これにより多くのビルダーにカーボンチューブを使ってもらうことが可能になった。
他にもここでは紹介しきれないほどのバイクやパーツ類が展示されており、1日見ていても飽きないボリュームとなっていた。マスプロメーカーの自転車とは違うこだわりの自転車に興味のある方は、是非来年のハンドメイドバイシクル展に足を運んで欲しい。
photo:Kosuke.Kamata
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