2017/11/22(水) - 09:30
四国の奥地、愛媛県松野町で開催されたMTBマラソンレース、「松野四万十バイクレース」。完走するだけでステータスとして扱われる過酷なレースへ、無念のリタイアを喫した昨年大会のリベンジを果たしにチャレンジした一人の男の記録を届けよう。
正直、もう出るつもりは無かったんです。だって、人生で一番キツいイベントだったから。人生で初めて体力が尽きてリタイアすることになったあの日、空を見上げて自分の練習不足を悔やんだあの日、私はリベンジではなくもっと平和な解決策を選ぶことを決意した。そう、2度と松野四万十バイクレースという名の地獄には出ないという消極的だが確実な方法を。
だが、仕事は選べない。空前の売り手市場というニュースをどこか遠い異世界の出来事の様に聞き流す僕の耳に入ってきたのは、編集長が松野四万十バイクレースに深くかかわる愛媛の門田選手と電話する声。「今年は誰を派遣しましょうかねー」不穏な気配を感じる……。「去年のリベンジを果たす、っていうのも面白いんじゃないでしょうか」ンンッ!?「まあ、2年連続リタイアは流石にマズいでしょうけど、アッハッハ!」そ、そーですよ、それは洒落にならないです!
「とりあえず本人と相談してみますよ」と言って電話を切った編集長がこちらに近づいてくる。きっと隣のフジワラに用事があるにちがいな「ヤスオカくん、今年も松野四万十出るよね」「ヒェッ」思わず変な声が出てしまった、これがPTSDというやつか……。
落車のトラウマを克服するためにティボー・ピノはレーシングカーに同乗させられ、高速の恐怖を無理やり乗り越えさせられたという。限界まで速さを追求し、トップレベルで競い合うアスリートですらトラウマを克服するという行為には相当の覚悟が必要なのだ。ましてや単なるいちwebメディアの編集部員とあっては、もはや人間に克服できるレベルの行いではないのではないだろうか。神を弑するようなものである。
しかし、これは業務命令。一介のサラリーマンである私は、命じられれば鉄砲玉のごとく死地に飛び込むしかないし、生きているなら神様だって殺してみせるしかないのである。そうそう、カーボンパーツで有名なエンヴィのCEOはサラ・リーマン氏というらしい。合コンで出会った美女サイクリストと絶対に盛り上がれる鉄板ネタなんですが、今回は特別に皆さんにおすそ分けしましょう。閑話休題。とにかく、このようにして再び私が四国の奥地へ飛び立つことは決まったのだった。どっとはらい。
迫りくる試練を乗り越えるのに必要なのは、レベリングと装備の更新だ!
走らざるを得ないとなれば、覚悟を決めて準備を整えるしかない。なんだかゲーム好きの人にしか伝わらない小見出しだが、つまり自分を鍛えるのと、機材を整えるということ。幸いにして昨年の経験があるので、大体どれくらいのフィジカルが必要なのかは、なんとなく想像がつく。基本的に必要なのは登坂力。パワーウェイトレシオで4w/kgあれば、なすすべもなく沈没ということにはならないはずだ。ちなみに去年は3w/kgあるかどうかという感じでした……。
パワーウェイトレシオを上げるためには、体重を落とすかパワーを上げるかの2択となるが、ここはほどほどに体重を落としつつ、出力を上げていく方向で行く。ロードバイクに比べるとMTBは車体も重いし、さまざまな装備を背負う必要もあるので、単純なパワーウェイトレシオよりも出力を底上げする方がトータルで楽になるはずだ。
週末のロングライド取材なども利用し、距離を稼いでいく。長時間ライドへの慣らしへの仕上げということで、大会2週間前には都内から八ヶ岳までの自走ライドなども行い、ベースはどうにか作り上げることに成功。体重もピーク時の68kgから62kgまで落とした。この時点でFTPは250w程度、何とか目標は達成だ。
さて、残るは機材である。自転車は去年と変わらずジャイアントのXCモデルであるXTC Advanced。しかし、久しぶりに引っ張りだしてきたところ、「キシキシ」という異音が。どうやらフロントホイールから鳴っているようだ、とスポークを握るとニップルが飛んでいる。これはイカンということで、急きょショップへ持ち込みニップルを交換してもらおうとすると、更なる問題が発生。スポークを張りなおしていると他のニップルが次々に飛んでいくのだ。ニップルを締めると「パーン!」締めると「パーン!」。一体僕が何をしたっていうんだ、あんまりすぎる……。
原因はアルミのロングニップルの採用とスポーク長が微妙に足りないこと。ニップルの根本部分に応力が集中し、そこから次々にポキポキ折れていくのだ。仕方ないのでブラスニップルへ交換する。サイクルハウスイシダさん、ありがとうございました。ついでとばかりに、タイヤも新調。さらにチューブレス化へもチャレンジ。自分のバイクでチューブレスタイヤを使うのは初めてだが、圧倒的な走りの軽さには驚いた。これはたしかに戻れないかも。
そしてさらに最終兵器として用意したのがフォーリアーズの42Tラストギア。純正の10速環境では36Tが最大歯数だが、激坂に次ぐ激坂の松野四万十バイクレース、軽いギアはいくつあっても良いはずだ。ということで、用意したこのコグだが、これを装着するのにも紆余曲折が。
まず一つ目の問題は、自分のバイクについていたSLXグレードのスプロケットはトップ側2枚を除いてカシメられていたこと。これはピンの頭を削り飛ばしてバラしてなんとか対応する。ちなみに、フォーリアーズの注意書にはXT以上のスプロケットに対応と書かれていたが、こういうことだとは……。だが、最大の問題となったのが、スプロケットとリアディレイラーのワイヤー留めアームが干渉するということ。
問:ウキウキ気分でおっきなギアを装着してホイールが回らなかった時の僕の気持ちを5文字以内で答えよ。答:絶望した。ここで再び近所のショップに駆け込む。吉祥寺の風魔プラスワンという最高のお店だ。見ていただいたところ、過去にも似たような症例があったという。その時はアームを少し削って対応されたとのこと。もしくはキャパシティとしては現行のM9000世代のRDなら対応するとのことだが、如何せん11速のため互換性が無い……。削ってもらうか、と思ったところで、「あ、最新のDEOREだったら行けるかもしれないね」と新たな提案が!しかも在庫もあるという!
その場で交換してもらい、無事にギアも使えるように。控えめに言って神対応と言える。しかし、この時気付いてしまったのです。スプロケットごと新型DEOREに交換すればもっともコストがかからなかったことに。ま、まあトータル重量でみれば多少軽くなっているはずなので、価値のあるカスタムだった……のだ!
こうして何とか準備完了し、自分の中ではある程度の完走の目星をつけて松山空港へと飛び立ったのだった、ゴホゴホッ。(不穏な効果音と共に後編へとつづきます)
text:Naoki Yasuoka
正直、もう出るつもりは無かったんです。だって、人生で一番キツいイベントだったから。人生で初めて体力が尽きてリタイアすることになったあの日、空を見上げて自分の練習不足を悔やんだあの日、私はリベンジではなくもっと平和な解決策を選ぶことを決意した。そう、2度と松野四万十バイクレースという名の地獄には出ないという消極的だが確実な方法を。
だが、仕事は選べない。空前の売り手市場というニュースをどこか遠い異世界の出来事の様に聞き流す僕の耳に入ってきたのは、編集長が松野四万十バイクレースに深くかかわる愛媛の門田選手と電話する声。「今年は誰を派遣しましょうかねー」不穏な気配を感じる……。「去年のリベンジを果たす、っていうのも面白いんじゃないでしょうか」ンンッ!?「まあ、2年連続リタイアは流石にマズいでしょうけど、アッハッハ!」そ、そーですよ、それは洒落にならないです!
「とりあえず本人と相談してみますよ」と言って電話を切った編集長がこちらに近づいてくる。きっと隣のフジワラに用事があるにちがいな「ヤスオカくん、今年も松野四万十出るよね」「ヒェッ」思わず変な声が出てしまった、これがPTSDというやつか……。
落車のトラウマを克服するためにティボー・ピノはレーシングカーに同乗させられ、高速の恐怖を無理やり乗り越えさせられたという。限界まで速さを追求し、トップレベルで競い合うアスリートですらトラウマを克服するという行為には相当の覚悟が必要なのだ。ましてや単なるいちwebメディアの編集部員とあっては、もはや人間に克服できるレベルの行いではないのではないだろうか。神を弑するようなものである。
しかし、これは業務命令。一介のサラリーマンである私は、命じられれば鉄砲玉のごとく死地に飛び込むしかないし、生きているなら神様だって殺してみせるしかないのである。そうそう、カーボンパーツで有名なエンヴィのCEOはサラ・リーマン氏というらしい。合コンで出会った美女サイクリストと絶対に盛り上がれる鉄板ネタなんですが、今回は特別に皆さんにおすそ分けしましょう。閑話休題。とにかく、このようにして再び私が四国の奥地へ飛び立つことは決まったのだった。どっとはらい。
迫りくる試練を乗り越えるのに必要なのは、レベリングと装備の更新だ!
走らざるを得ないとなれば、覚悟を決めて準備を整えるしかない。なんだかゲーム好きの人にしか伝わらない小見出しだが、つまり自分を鍛えるのと、機材を整えるということ。幸いにして昨年の経験があるので、大体どれくらいのフィジカルが必要なのかは、なんとなく想像がつく。基本的に必要なのは登坂力。パワーウェイトレシオで4w/kgあれば、なすすべもなく沈没ということにはならないはずだ。ちなみに去年は3w/kgあるかどうかという感じでした……。
パワーウェイトレシオを上げるためには、体重を落とすかパワーを上げるかの2択となるが、ここはほどほどに体重を落としつつ、出力を上げていく方向で行く。ロードバイクに比べるとMTBは車体も重いし、さまざまな装備を背負う必要もあるので、単純なパワーウェイトレシオよりも出力を底上げする方がトータルで楽になるはずだ。
週末のロングライド取材なども利用し、距離を稼いでいく。長時間ライドへの慣らしへの仕上げということで、大会2週間前には都内から八ヶ岳までの自走ライドなども行い、ベースはどうにか作り上げることに成功。体重もピーク時の68kgから62kgまで落とした。この時点でFTPは250w程度、何とか目標は達成だ。
さて、残るは機材である。自転車は去年と変わらずジャイアントのXCモデルであるXTC Advanced。しかし、久しぶりに引っ張りだしてきたところ、「キシキシ」という異音が。どうやらフロントホイールから鳴っているようだ、とスポークを握るとニップルが飛んでいる。これはイカンということで、急きょショップへ持ち込みニップルを交換してもらおうとすると、更なる問題が発生。スポークを張りなおしていると他のニップルが次々に飛んでいくのだ。ニップルを締めると「パーン!」締めると「パーン!」。一体僕が何をしたっていうんだ、あんまりすぎる……。
原因はアルミのロングニップルの採用とスポーク長が微妙に足りないこと。ニップルの根本部分に応力が集中し、そこから次々にポキポキ折れていくのだ。仕方ないのでブラスニップルへ交換する。サイクルハウスイシダさん、ありがとうございました。ついでとばかりに、タイヤも新調。さらにチューブレス化へもチャレンジ。自分のバイクでチューブレスタイヤを使うのは初めてだが、圧倒的な走りの軽さには驚いた。これはたしかに戻れないかも。
そしてさらに最終兵器として用意したのがフォーリアーズの42Tラストギア。純正の10速環境では36Tが最大歯数だが、激坂に次ぐ激坂の松野四万十バイクレース、軽いギアはいくつあっても良いはずだ。ということで、用意したこのコグだが、これを装着するのにも紆余曲折が。
まず一つ目の問題は、自分のバイクについていたSLXグレードのスプロケットはトップ側2枚を除いてカシメられていたこと。これはピンの頭を削り飛ばしてバラしてなんとか対応する。ちなみに、フォーリアーズの注意書にはXT以上のスプロケットに対応と書かれていたが、こういうことだとは……。だが、最大の問題となったのが、スプロケットとリアディレイラーのワイヤー留めアームが干渉するということ。
問:ウキウキ気分でおっきなギアを装着してホイールが回らなかった時の僕の気持ちを5文字以内で答えよ。答:絶望した。ここで再び近所のショップに駆け込む。吉祥寺の風魔プラスワンという最高のお店だ。見ていただいたところ、過去にも似たような症例があったという。その時はアームを少し削って対応されたとのこと。もしくはキャパシティとしては現行のM9000世代のRDなら対応するとのことだが、如何せん11速のため互換性が無い……。削ってもらうか、と思ったところで、「あ、最新のDEOREだったら行けるかもしれないね」と新たな提案が!しかも在庫もあるという!
その場で交換してもらい、無事にギアも使えるように。控えめに言って神対応と言える。しかし、この時気付いてしまったのです。スプロケットごと新型DEOREに交換すればもっともコストがかからなかったことに。ま、まあトータル重量でみれば多少軽くなっているはずなので、価値のあるカスタムだった……のだ!
こうして何とか準備完了し、自分の中ではある程度の完走の目星をつけて松山空港へと飛び立ったのだった、ゴホゴホッ。(不穏な効果音と共に後編へとつづきます)
text:Naoki Yasuoka
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