2018年11月より台湾の台中市にて世界フローラ博覧会が開催される。そのPRのため台湾から政府高官含め約40名が来日し、しまなみ海道サイクリングを楽しんだ。初めてしまなみ海道を走る編集部員によるツーリングの帯同レポートをお届けしよう。
台中フローラ世界博覧会をPRするために日本を訪れた使節団。しまなみ海道サイクリングを楽しんだ
例年よりも少しだけ涼しく過ごしやすい8月下旬、突如私フジワラのもとに届いた愛媛県今治と広島県尾道を跨ぐ「しまなみ海道」サイクリング取材のお誘い。しまなみ海道と言えばサイクリングディスティネーションとして日本のみならず世界的に有名な場所であり、そのコンテンツ力の高さゆえに数多くのメディアが取り上げているスポットだ。
今回、CW編集部からフジワラがしまなみ海道を訪れるのは、来年11月より台湾の台中市で開催される「フローラ世界博覧会(通称:花博)」のプロモーションを兼ねたサイクリングツアーに帯同するため。その様子を紹介しながら、初めてのしまなみ海道サイクリングを存分に楽しんでしまおうというのが私の魂胆であった。なので、初めて私がしまなみ海道を走った体験をつづるレポートとしても読み進んでもらいたい。
話をフローラ世界博覧会に戻そう。そもそもこの博覧会とは何だろうか。日本でも1990年、2000年、2004年に開かれたこともある、自然・花・庭園をテーマとした大規模展覧会である。それが台湾の中部・台中で行われるのだ。
中村時広・愛媛県知事と林陵三・台中副市長らが集まった
陳盛山・台中政府観光局長も来日し、台中の魅力を語った
お酒が進み両国の名士たちも大盛り上がり
そこかしこで乾杯が行われている
台湾といえば亜熱帯であり、同地域を代表するタピオカの原料となるキャッサバやパイナップルが有名。そして台中では絶滅危惧種に指定されていたタイワンヤマネコが発見されたり、台湾でも有数な景勝地である高美湿地を有していたりと、自然豊かな地域でもあるのだ。その魅力を世界中の人に紹介するために花博が開かれる。
台中は世界最大規模の自転車カンパニー「ジャイアント」がヘッドクオーターを置く地であり、サイクリング文化の中心地でもある。そんな台中市が博覧会のPRとしてサイクリングを選び、走る地として友好都市という関係にある上サイクリングが盛んな愛媛県や広島県、大分県を選ぶのは自然なことであった。
サイクリングに先立ち、松山城と愛媛県庁が目の前の松山全日空ホテルでフローラ世界博覧会のレセプションパーティーが開催された。壇上に立ち、挨拶を行ったのは林陵三・台中副市長やジャイアントの元CEOトニー・ロー氏、中村時広・愛媛県知事、菅良二・今治市長ら、両国の名士たち。今回のサイクリングをもって両都市間の友好を深め、来る花博の成功を願った。
サイクリングガイドはバイクの調整も行ってくれる頼もしい存在だ photo:GIANT
準備バッチリ。ヘルメットも忘れずに! photo:GIANT
初めて目の当たりにする瀬戸内海としまなみ海道には圧倒された
菅良二・今治市長が積極的にしまなみ海道を紹介する
台湾から訪れた40名のサイクリング隊は愛媛県の名物に舌鼓を打ちながら、そこかしこで杯を酌み交わすほど大盛り上がり。中村県知事が台湾の曲を歌い上げ来訪を祝うと、トニーさんや台湾の自行車新文化基金会(Cycling Life Style Foundation)の会長ヴィッキー・リュウさんが日本の曲を歌い上げお返し。楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうのが世の常。もう少しお酒を飲みたそうな顔をするメンバーもいる中、宴会はお開きに。訪日隊は翌日のサイクリングに向け体を休めるため、道後温泉で一晩を明かすのであった。
夜が明けたらいよいよサイクリング本番だ。松山市内に宿泊した私は自動車でスタート地点となる糸山展望台へは自動車で移動するのだが、その間私はワクワクしっぱなし。実はしまなみ海道に訪れるのは初めてで、見るもの全てが新鮮で驚きを与えてくれるのだ。
まず、驚いたのは島の多さと海面の穏やかさ。相模湾で育った私にとって海といえば大小様々な波が立ち、水平線が見える大海原なのだが、瀬戸内海は穏やかで対岸がすぐそこに見えているのだ。海面は静かで時間が止まっているようにも感じられる。
出発にあたり林陵三・台中副市長のお言葉を頂く
集団を牽引、案内してくれるJCGA公認サイクリングガイドのみなさんとも顔合わせ
怪我予防のための準備運動は欠かせませんね
いよいよしまなみ海道へと飛び出していく
しかし自動車の中から眺めた瀬戸内海よりも私にインパクトを与えたのは、糸山展望台から見える来島海峡大橋だった。移動車を降りるなり目に飛び込んできた巨大建造物は圧倒的な存在感を主張しており、気圧された私は感嘆の声を漏らすことしかできない。高速道路を通る自動車が少ないのかタイヤが転がる音は聞こえず、海面は穏やか、風は心地よい程度。糸島にいる我々だけが現実世界を過ごしており、遠景の来島海峡大橋はまるで絵葉書に描かれた世界かの様に静かである。
1枚の絵と思わせるほど完成された風景は、台湾からのサイクリストたちも素晴らしいと感じたようで、スマートフォンを取り出し思い思いに撮影している。その様子をカメラに収めている私を呼び止め、撮影してくれと頼む人も少なくない。また、熱心にしまなみ海道の魅力を教えてくれる菅・今治市長の言葉にも耳を傾けている人も。これから走る場所への期待が高いこと示すかのように皆さんのテンションは高め。
出発式、準備体操を終えた我々はいよいよ来島海峡大橋へと飛び出していく。ママチャリでも登っていけるように斜度が設計されたループ橋には中央線が引かれており、正面衝突事故の可能性にも配慮している。しまなみ海道は走りやすいと言われる所以はこういうところにあるのだろうと、実地を走り初めて気がつく。やはり自転車は外に出て走らなければわからないことが多い。
好天に恵まれたこの日、橋の上は心地よい風が吹き抜ける photo:GIANT
ジャイアントの元CEOトニー・ロー氏は何度もしまなみ海道を走りきっているという
青い海、緑の島、巨大なループ橋の組み合わせは他では見ることができない光景だ
橋に上がり、眺望の良い景色が目の前に広がると、「実地を走らなければ…」などという小難しい考えは何処かへ消え、ただ「ここへ来てよかった」とだけ思うようになる。少し動けば汗ばむような陽気と、体を冷やしてくれる爽やかな風に身を包まれる、最高のサイクリングシチュエーションだ。このロケーションに心が動かない人はいない。そう思わせるように台湾からの皆さんほぼ全員の口角があがっており、カメラを向けると元気ハツラツなポーズをしてくれる。中には自分のカメラやスマホを取り出し、過ぎ去る景色を記録する人も。
約4kmの橋を走ると再びループ橋を下るのだが、このループ橋を見る風景がまた良いのだ。緑が映える島と海という自然の中に存在する巨大な人工物。どこを切り取っても写真映えするロケーションで、スピードを出して走ることが勿体無いと感じるほど。約70kmのサイクリング行程の1割にも満たない距離しか走っていないのに、こう思わせるしまなみ海道のコンテンツ力の高さには驚きだ。
今回のしまなみ海道ツアーには様々な方が出走するため基本スピードはのんびり、休憩が各島ごとに設定されている。サポートしてくれるのは各自治体の方たち。上り坂など少し厳しいところでは、"加油"と書いたボードを掲げ応援してくれるのでここが頑張りどころとわかりやすい。カメラを向けたり、声をかけたりすると好意的に返してくれる皆さんも上り坂は真剣な様子で走り抜けていく。
接岸している巨大船舶のすぐ脇を通過するのも滅多にない機会だ
よしうみバラ公園は暑い日差しにも負けずバラが咲き誇っていた
自治体の応援団は給水サポートだけではなく、坂道の途中で励ましてくれた
台湾からも自転車メディアが帯同しており、実走取材を行っていた
また、台湾から参加の約40名、日本から参加の約20名の大集団を引っ張ってくれたサイクリングガイドたちも大きな力となってくれている。迷いやすい交差点や危険な場所、車道を横断する必要がある場所などには必ず先回りし誘導してくれるため、見知らぬ土地でのサイクリングを安全で快適に楽しむことができているのだ。
大島ではよしうみバラ公園で一息入れた後に、宮窪峠を超えて伯方島へと向かう。大島と伯方島の間に浮かぶ能島は村上水軍が根城を構えていた場所。城を守る堀のような機能となるほど激しい潮流が島の周りで発生することで有名なスポットだ。現在では潮流体験なども行われる観光スポットであるが、この日はタイミングが悪く、静かで平和な潮が流れているだけであった。荒々しい瀬戸内海の一面も見てみたかったが、次回訪れる機会があるのならばこの目に入れてみたい。
タイミングが合えば激しい潮流を見ることができるという。この日は穏やかな水面であった photo:GIANT
後編に続く。
台中フローラ世界博覧会
台中フローラ世界博覧会は、「后里馬場森林」、「外埔永豊」、「豊原葫蘆墩公園」というテーマが異なる3つのエリアを通じ、緑豊かな台中の魅力を味わえる博覧会だ。会期は2018年の11月より2019年の4月まで。どの季節でも色鮮やかな花を楽しめるようなエリアづくりとなる予定だという。
台中フローラ世界博覧会 2018年11月~2019年4月に開催予定 (c)2018floraexpo.twテーマ:花を再発見するGNP
開催日程:2018年11月3日~2019年4月24日
開催会場:外埔永豊、后里馬場森林、豊原葫蘆墩公園
URL(日本語):http://2018floraexpo.tw/Jp/
text&photo:Gakuto.Fujiwara
Photo:GIANT

例年よりも少しだけ涼しく過ごしやすい8月下旬、突如私フジワラのもとに届いた愛媛県今治と広島県尾道を跨ぐ「しまなみ海道」サイクリング取材のお誘い。しまなみ海道と言えばサイクリングディスティネーションとして日本のみならず世界的に有名な場所であり、そのコンテンツ力の高さゆえに数多くのメディアが取り上げているスポットだ。
今回、CW編集部からフジワラがしまなみ海道を訪れるのは、来年11月より台湾の台中市で開催される「フローラ世界博覧会(通称:花博)」のプロモーションを兼ねたサイクリングツアーに帯同するため。その様子を紹介しながら、初めてのしまなみ海道サイクリングを存分に楽しんでしまおうというのが私の魂胆であった。なので、初めて私がしまなみ海道を走った体験をつづるレポートとしても読み進んでもらいたい。
話をフローラ世界博覧会に戻そう。そもそもこの博覧会とは何だろうか。日本でも1990年、2000年、2004年に開かれたこともある、自然・花・庭園をテーマとした大規模展覧会である。それが台湾の中部・台中で行われるのだ。




台湾といえば亜熱帯であり、同地域を代表するタピオカの原料となるキャッサバやパイナップルが有名。そして台中では絶滅危惧種に指定されていたタイワンヤマネコが発見されたり、台湾でも有数な景勝地である高美湿地を有していたりと、自然豊かな地域でもあるのだ。その魅力を世界中の人に紹介するために花博が開かれる。
台中は世界最大規模の自転車カンパニー「ジャイアント」がヘッドクオーターを置く地であり、サイクリング文化の中心地でもある。そんな台中市が博覧会のPRとしてサイクリングを選び、走る地として友好都市という関係にある上サイクリングが盛んな愛媛県や広島県、大分県を選ぶのは自然なことであった。
サイクリングに先立ち、松山城と愛媛県庁が目の前の松山全日空ホテルでフローラ世界博覧会のレセプションパーティーが開催された。壇上に立ち、挨拶を行ったのは林陵三・台中副市長やジャイアントの元CEOトニー・ロー氏、中村時広・愛媛県知事、菅良二・今治市長ら、両国の名士たち。今回のサイクリングをもって両都市間の友好を深め、来る花博の成功を願った。




台湾から訪れた40名のサイクリング隊は愛媛県の名物に舌鼓を打ちながら、そこかしこで杯を酌み交わすほど大盛り上がり。中村県知事が台湾の曲を歌い上げ来訪を祝うと、トニーさんや台湾の自行車新文化基金会(Cycling Life Style Foundation)の会長ヴィッキー・リュウさんが日本の曲を歌い上げお返し。楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうのが世の常。もう少しお酒を飲みたそうな顔をするメンバーもいる中、宴会はお開きに。訪日隊は翌日のサイクリングに向け体を休めるため、道後温泉で一晩を明かすのであった。
夜が明けたらいよいよサイクリング本番だ。松山市内に宿泊した私は自動車でスタート地点となる糸山展望台へは自動車で移動するのだが、その間私はワクワクしっぱなし。実はしまなみ海道に訪れるのは初めてで、見るもの全てが新鮮で驚きを与えてくれるのだ。
まず、驚いたのは島の多さと海面の穏やかさ。相模湾で育った私にとって海といえば大小様々な波が立ち、水平線が見える大海原なのだが、瀬戸内海は穏やかで対岸がすぐそこに見えているのだ。海面は静かで時間が止まっているようにも感じられる。




しかし自動車の中から眺めた瀬戸内海よりも私にインパクトを与えたのは、糸山展望台から見える来島海峡大橋だった。移動車を降りるなり目に飛び込んできた巨大建造物は圧倒的な存在感を主張しており、気圧された私は感嘆の声を漏らすことしかできない。高速道路を通る自動車が少ないのかタイヤが転がる音は聞こえず、海面は穏やか、風は心地よい程度。糸島にいる我々だけが現実世界を過ごしており、遠景の来島海峡大橋はまるで絵葉書に描かれた世界かの様に静かである。
1枚の絵と思わせるほど完成された風景は、台湾からのサイクリストたちも素晴らしいと感じたようで、スマートフォンを取り出し思い思いに撮影している。その様子をカメラに収めている私を呼び止め、撮影してくれと頼む人も少なくない。また、熱心にしまなみ海道の魅力を教えてくれる菅・今治市長の言葉にも耳を傾けている人も。これから走る場所への期待が高いこと示すかのように皆さんのテンションは高め。
出発式、準備体操を終えた我々はいよいよ来島海峡大橋へと飛び出していく。ママチャリでも登っていけるように斜度が設計されたループ橋には中央線が引かれており、正面衝突事故の可能性にも配慮している。しまなみ海道は走りやすいと言われる所以はこういうところにあるのだろうと、実地を走り初めて気がつく。やはり自転車は外に出て走らなければわからないことが多い。



橋に上がり、眺望の良い景色が目の前に広がると、「実地を走らなければ…」などという小難しい考えは何処かへ消え、ただ「ここへ来てよかった」とだけ思うようになる。少し動けば汗ばむような陽気と、体を冷やしてくれる爽やかな風に身を包まれる、最高のサイクリングシチュエーションだ。このロケーションに心が動かない人はいない。そう思わせるように台湾からの皆さんほぼ全員の口角があがっており、カメラを向けると元気ハツラツなポーズをしてくれる。中には自分のカメラやスマホを取り出し、過ぎ去る景色を記録する人も。
約4kmの橋を走ると再びループ橋を下るのだが、このループ橋を見る風景がまた良いのだ。緑が映える島と海という自然の中に存在する巨大な人工物。どこを切り取っても写真映えするロケーションで、スピードを出して走ることが勿体無いと感じるほど。約70kmのサイクリング行程の1割にも満たない距離しか走っていないのに、こう思わせるしまなみ海道のコンテンツ力の高さには驚きだ。
今回のしまなみ海道ツアーには様々な方が出走するため基本スピードはのんびり、休憩が各島ごとに設定されている。サポートしてくれるのは各自治体の方たち。上り坂など少し厳しいところでは、"加油"と書いたボードを掲げ応援してくれるのでここが頑張りどころとわかりやすい。カメラを向けたり、声をかけたりすると好意的に返してくれる皆さんも上り坂は真剣な様子で走り抜けていく。




また、台湾から参加の約40名、日本から参加の約20名の大集団を引っ張ってくれたサイクリングガイドたちも大きな力となってくれている。迷いやすい交差点や危険な場所、車道を横断する必要がある場所などには必ず先回りし誘導してくれるため、見知らぬ土地でのサイクリングを安全で快適に楽しむことができているのだ。
大島ではよしうみバラ公園で一息入れた後に、宮窪峠を超えて伯方島へと向かう。大島と伯方島の間に浮かぶ能島は村上水軍が根城を構えていた場所。城を守る堀のような機能となるほど激しい潮流が島の周りで発生することで有名なスポットだ。現在では潮流体験なども行われる観光スポットであるが、この日はタイミングが悪く、静かで平和な潮が流れているだけであった。荒々しい瀬戸内海の一面も見てみたかったが、次回訪れる機会があるのならばこの目に入れてみたい。

後編に続く。

台中フローラ世界博覧会は、「后里馬場森林」、「外埔永豊」、「豊原葫蘆墩公園」というテーマが異なる3つのエリアを通じ、緑豊かな台中の魅力を味わえる博覧会だ。会期は2018年の11月より2019年の4月まで。どの季節でも色鮮やかな花を楽しめるようなエリアづくりとなる予定だという。

開催日程:2018年11月3日~2019年4月24日
開催会場:外埔永豊、后里馬場森林、豊原葫蘆墩公園
URL(日本語):http://2018floraexpo.tw/Jp/
text&photo:Gakuto.Fujiwara
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