2016/06/07(火) - 09:04
目黒誠子さんによる、アデレードのスポーツバイク事情をお届けするレポートの第3弾。今回は、交通ルールに対する市民の意識、そしてそれを支えるスクールの様子をレポートします。
オーストラリアで自転車に乗ってみて、まず最初に驚くのは、その乗りやすさ。基本的な交通ルールは日本とほぼ同じとはいえ、どうしてこれほど乗りやすいのでしょうか?今回はその秘密を取材をしてみました。
アデレードと日本の交通ルールの認識度の違い
自転車を含めた車両は、左側通行で右ハンドル、時速の単位はマイルではなくキロ、などなど、基本的な交通ルールは日本とほぼ同じ。国土の広さが違うと言え、それにしても乗りやすい!と感じるオーストラリアのアデレード。それは、子どもから大人まで自転車に乗る人みんなが、確実に自転車のルールを守っていることが大きな理由だと感じました。
オーストラリアでは、自転車に乗るときは必ずヘルメット着用が義務づけられています。かぶらないで走っているところが見つかれば、罰金を支払わなければなりません。また、歩道を走ってはならず(これも日本と同じですが)、もし歩道を走っているところが見つかれば、こちらも高い罰金が取られます。日本ではよく目にする光景でもある、大変危険な「逆走」などもってのほか。これらのルールを守らなければ、サイクリストやドライバー、また歩行者からも白い目で見られることでしょう。
交通ルールは日本とほぼ同じであるのにかかわらず、違うところはその周知と認識。どうしてこんなに皆に周知がされているのでしょうか?何か行政が対策をしているのでしょうか?そんな風に思っていたところにモーニングバイクライドで知り合ったのは、「ライドアバイクライト」のリー・アン・フレミングさん。
聞くと、3年ほど前からアデレードカウンシルからの依頼で、自転車通勤を希望する人向けに「コミュータークラス」を開催しているというのです。まず、「自転車に安全に乗るためのスキルや交通ルールを教え」、そして、「自転車に乗ることへの自信を持ってもらい」、「自転車で通勤する人の数を増やす」ための活動をしているのだそう。興味深かったので、私も参加させてもらいました!
自転車通勤を希望する人に向けたコミュータークラス
日曜日の朝。シティのサウステラスの会場に集まったのは約20名。前週の日曜日の座学では、みっちりと二時間、交通ルールや自転車に乗るためのスキルを学んできました。ルールについての自信はついたけど、スキルについては乗ってみないと……という雰囲気。それでも自転車に乗ることに対するわくわく感が伝わってきます!
最初に行われたのは、自転車の片手運転。片手運転ができなければ、「左折します。右折します。お先にどうぞ」などのハンドサインを出すこともできません。スタッフが差し伸べる片手にタッチして、何周か回ります。なかなか片手運転ができずにヨタ付いてしまう人も、回数を重ねるうちにとても上手にできるようになっていました。
次は「ストップ」の仕方。「とっさに止まる場合、前輪のブレーキをかけると危険。後輪のブレーキを必ずかけること。」ということが、何度も受講者に教えられます。でもそれでも急に「止まれ!」となると、前輪のブレーキをかけてしまい、思わず自転車ごと体が反転してしまう人も。ヒヤリとするも、ここはコミュータークラス。「ここで経験して体で覚えてもらうことが目的。失敗しても全然大丈夫!もう外ではやらないから!」とリーアンさん。受講者を励ましながらモチベーションを高めます。
公道を実際に走ってみます
さて、次はいよいよ公道での実技。信号での止まり方、自転車道路の走り方、曲がり方、止まり方など、実際に道路を走りながら、先生のあとについて走ります。3つのチームに分かれ、事前にそれぞれのコースを確認し、注意事項を聞いたあとは30分ほどのライド。
少人数なので、わからないことがあればすぐに聞ける充実した密着度。各々、コミュータークラスのレクチャーライドを楽しんだようです。一人では、道路に出ることに不安を感じていた人も、こうして先生と走ると自信がかなりつくようです。
会場に戻ったあとは、パンク修理のレクチャーです。自転車に乗る上で、いつどんな時にパンクがあるかわかりません。修理の仕方も頭に入れておくと安心です。
「自転車通勤は、健康にもいいし、仕事の効率も良くなる最高の交通手段。周りでもやっている人が多くて、興味を持っていたのだけどなかなか始められなくて。そんなときに妻がこの講座を見つけ、即受講を決めた。不安もなくなり、これで自転車通勤デビューできそう。楽しみです。」と語ってくれたのは、受講したデービッドさん。
ライドアバイクライト主宰のリーアンさんは、「不安に思っている人を勇気づけるのが私たちの仕事。安全で楽しく乗れることを覚えれば、自転車に乗る人がもっと増え、CO2削減にもなるし健康にもよいしと良いことばかり。それには皆が共通してルールを守ることが大事です。最近は女性も増えてきてとても嬉しい。女性に知ってもらえれば、自然と子どもや周りの人たちに知れ渡ります。なので私は女性への教育がとても大切と考えています。もっともっと女性に乗ってもらいたい!」と目をキラキラさせながら語ってくれました。
自転車政策を大きく推進するアデレード
このコミュータークラスが始まったのは3年前。自転車政策を大きく推進するアデレードが次世代のアクセスとして強く押し出しているのが自転車。「Smart Move」としてさまざまな取り組みを行っています。レジャーだけでなく、通勤の手段として、また地方からアデレードに来る人たちがたのしみながら自転車で出てきやすいように、インフラから整えているようです。
このコミュータ―クラスも、「Get back to the bike-もう一度自転車に乗ってみよう!」というキャンペーンで、元々はランチタイムの短い時間に、シティで働く人たちに向けて行われていました。それが進化しはじめ、ランチタイムだけでは足りないようになり、週末の2時間プラス2セッションのコースになりました。
夏の夕方には、スキルとライドを含めた3時間クラスとして、サラリーマンだけでなく、子ども連れのファミリーを対象にも行っているようです。3年間で受講したのは約100名。そう聞くと、小さな動きで遠回りであるように見えるかもしれません。
でも、少しずつ自転車に対する意識を高めていくことで、皆がルールを知り、守るようになります。特に、広くない国土で人口が密集している日本においては、ビギナーから自転車上級者まで、皆が共通の認識を持つことがとても重要なことではないかと感じました。日本でも、自転車道のようなインフラだけではなく、このようなソフト面でも、自転車に乗りやすい環境がますます整えられていけばいいなぁと思いました。
プロフィール
目黒誠子(めぐろせいこ)
ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。今年3月までオーストラリアで語学留学をしながら現地の自転車事情を取材。各プロチームとの親交を深めるべく活動している。
text&photo:Seiko.Meguro
オーストラリアで自転車に乗ってみて、まず最初に驚くのは、その乗りやすさ。基本的な交通ルールは日本とほぼ同じとはいえ、どうしてこれほど乗りやすいのでしょうか?今回はその秘密を取材をしてみました。
アデレードと日本の交通ルールの認識度の違い
自転車を含めた車両は、左側通行で右ハンドル、時速の単位はマイルではなくキロ、などなど、基本的な交通ルールは日本とほぼ同じ。国土の広さが違うと言え、それにしても乗りやすい!と感じるオーストラリアのアデレード。それは、子どもから大人まで自転車に乗る人みんなが、確実に自転車のルールを守っていることが大きな理由だと感じました。
オーストラリアでは、自転車に乗るときは必ずヘルメット着用が義務づけられています。かぶらないで走っているところが見つかれば、罰金を支払わなければなりません。また、歩道を走ってはならず(これも日本と同じですが)、もし歩道を走っているところが見つかれば、こちらも高い罰金が取られます。日本ではよく目にする光景でもある、大変危険な「逆走」などもってのほか。これらのルールを守らなければ、サイクリストやドライバー、また歩行者からも白い目で見られることでしょう。
交通ルールは日本とほぼ同じであるのにかかわらず、違うところはその周知と認識。どうしてこんなに皆に周知がされているのでしょうか?何か行政が対策をしているのでしょうか?そんな風に思っていたところにモーニングバイクライドで知り合ったのは、「ライドアバイクライト」のリー・アン・フレミングさん。
聞くと、3年ほど前からアデレードカウンシルからの依頼で、自転車通勤を希望する人向けに「コミュータークラス」を開催しているというのです。まず、「自転車に安全に乗るためのスキルや交通ルールを教え」、そして、「自転車に乗ることへの自信を持ってもらい」、「自転車で通勤する人の数を増やす」ための活動をしているのだそう。興味深かったので、私も参加させてもらいました!
自転車通勤を希望する人に向けたコミュータークラス
日曜日の朝。シティのサウステラスの会場に集まったのは約20名。前週の日曜日の座学では、みっちりと二時間、交通ルールや自転車に乗るためのスキルを学んできました。ルールについての自信はついたけど、スキルについては乗ってみないと……という雰囲気。それでも自転車に乗ることに対するわくわく感が伝わってきます!
最初に行われたのは、自転車の片手運転。片手運転ができなければ、「左折します。右折します。お先にどうぞ」などのハンドサインを出すこともできません。スタッフが差し伸べる片手にタッチして、何周か回ります。なかなか片手運転ができずにヨタ付いてしまう人も、回数を重ねるうちにとても上手にできるようになっていました。
次は「ストップ」の仕方。「とっさに止まる場合、前輪のブレーキをかけると危険。後輪のブレーキを必ずかけること。」ということが、何度も受講者に教えられます。でもそれでも急に「止まれ!」となると、前輪のブレーキをかけてしまい、思わず自転車ごと体が反転してしまう人も。ヒヤリとするも、ここはコミュータークラス。「ここで経験して体で覚えてもらうことが目的。失敗しても全然大丈夫!もう外ではやらないから!」とリーアンさん。受講者を励ましながらモチベーションを高めます。
公道を実際に走ってみます
さて、次はいよいよ公道での実技。信号での止まり方、自転車道路の走り方、曲がり方、止まり方など、実際に道路を走りながら、先生のあとについて走ります。3つのチームに分かれ、事前にそれぞれのコースを確認し、注意事項を聞いたあとは30分ほどのライド。
少人数なので、わからないことがあればすぐに聞ける充実した密着度。各々、コミュータークラスのレクチャーライドを楽しんだようです。一人では、道路に出ることに不安を感じていた人も、こうして先生と走ると自信がかなりつくようです。
会場に戻ったあとは、パンク修理のレクチャーです。自転車に乗る上で、いつどんな時にパンクがあるかわかりません。修理の仕方も頭に入れておくと安心です。
「自転車通勤は、健康にもいいし、仕事の効率も良くなる最高の交通手段。周りでもやっている人が多くて、興味を持っていたのだけどなかなか始められなくて。そんなときに妻がこの講座を見つけ、即受講を決めた。不安もなくなり、これで自転車通勤デビューできそう。楽しみです。」と語ってくれたのは、受講したデービッドさん。
ライドアバイクライト主宰のリーアンさんは、「不安に思っている人を勇気づけるのが私たちの仕事。安全で楽しく乗れることを覚えれば、自転車に乗る人がもっと増え、CO2削減にもなるし健康にもよいしと良いことばかり。それには皆が共通してルールを守ることが大事です。最近は女性も増えてきてとても嬉しい。女性に知ってもらえれば、自然と子どもや周りの人たちに知れ渡ります。なので私は女性への教育がとても大切と考えています。もっともっと女性に乗ってもらいたい!」と目をキラキラさせながら語ってくれました。
自転車政策を大きく推進するアデレード
このコミュータークラスが始まったのは3年前。自転車政策を大きく推進するアデレードが次世代のアクセスとして強く押し出しているのが自転車。「Smart Move」としてさまざまな取り組みを行っています。レジャーだけでなく、通勤の手段として、また地方からアデレードに来る人たちがたのしみながら自転車で出てきやすいように、インフラから整えているようです。
このコミュータ―クラスも、「Get back to the bike-もう一度自転車に乗ってみよう!」というキャンペーンで、元々はランチタイムの短い時間に、シティで働く人たちに向けて行われていました。それが進化しはじめ、ランチタイムだけでは足りないようになり、週末の2時間プラス2セッションのコースになりました。
夏の夕方には、スキルとライドを含めた3時間クラスとして、サラリーマンだけでなく、子ども連れのファミリーを対象にも行っているようです。3年間で受講したのは約100名。そう聞くと、小さな動きで遠回りであるように見えるかもしれません。
でも、少しずつ自転車に対する意識を高めていくことで、皆がルールを知り、守るようになります。特に、広くない国土で人口が密集している日本においては、ビギナーから自転車上級者まで、皆が共通の認識を持つことがとても重要なことではないかと感じました。日本でも、自転車道のようなインフラだけではなく、このようなソフト面でも、自転車に乗りやすい環境がますます整えられていけばいいなぁと思いました。
プロフィール
目黒誠子(めぐろせいこ)
ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。今年3月までオーストラリアで語学留学をしながら現地の自転車事情を取材。各プロチームとの親交を深めるべく活動している。
text&photo:Seiko.Meguro
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