2016/03/04(金) - 09:07
UCIワールドツアーの開幕戦として、世界中の選手、スタッフ、メディア、そして市民から愛される「ツアー・ダウンアンダー」。その魅力はどこにあるのでしょうか? 日本でも真似はできるのでしょうか? 開催地となるオーストラリア・アデレードに開幕前後に滞在した、目黒誠子さんがその秘密に迫りました。
アデレード中心部のキングウィリアムズ通りを走り抜けたツアー・ダウンアンダー photo:Kei Tsuji
「ツアー・ダウンアンダー」はどのようにして今の形になったのでしょうか。その歴史をひも解いていきたいと思います。
ツアー・ダウンアンダーの第1回大会が開催されたのは1999年。その後、2005年にUCIオセアニアツアーに組み込まれ、さらにその3年後の2008年よりUCIプロツアー(現ワールドツアー)に格上げされました。そして、今年で第18回目の開催となります。さて、それでは「ツアー・ダウンアンダー成功への10のヒミツ」をおとどけしましょう!
盛大に行われるチームプレゼンテーション。 photo:Seiko Megurolink
トラムもツアー・ダウンアンダーにラッピング。
開幕10日以上前からテントが設営され、着々と準備が進む。 photo:Seiko Meguro
テントの中。アデレードの行政機関である「アデレードカウンシル」の大きな垂れ幕。 photo:Seiko Meguro
ヒミツその1 南オーストラリア州による全面バックアップ
街中いたるところ、各地にパンフレットが置かれている。 photo:Seiko.Meguro2008年、UCIプロツアーに格上げされたのは、州のバックアップが全面的にあったから。2007年、「ツーリズムイベントとして価値が高い」とダウンアンダーに目をつけた当時の州知事マイク・ランと当時の観光大使ジェーン・ロマ・スミスが、ヨーロッパ以外で開催される初のUCIプロツアーとなるべくキャンペーンを行いました。その甲斐あって、翌年の2008年にはオーストラリアで最初のUCIプロツアーであり、かつ開幕戦ともなるレースを実現できたのです。そういった経緯もあり、現在もオーガナイザーは南オーストラリア州となっています。
「ロードレース」である「ツアー・ダウンアンダー」に早くから目をつけた当時の州知事マイク・ラン氏と当時観光大使のジェーン・ロマ・スミス氏の功績はかなり大きいと思います。ではなぜ彼らは「ツアー・ダウンアンダー」に目をつけたのでしょうか。
ヒミツその2 ツーリズムイベントとして認められたダウンアンダー
「ツーリズムイベントとしてこれからもよいオーガナイズをしていきたい」と語るレースディレクター、マイク・ターター氏。 photo:Seiko.Meguro
南オーストラリア州は良質なワインの産地。ワイナリーが舞台。 photo:Seiko.Meguro2016年のツアー・ダウンアンダーの観客数は、述べ731,000人、2015年の経済効果は約5000万ドル(日本円にして約40億円)となりました。初年度である2008年の経済効果は1730万ドルだったものの翌年には倍になり、順調に成長を続けており、2009年の経済効果は3900万ドル、2013年には4300万ドル、76万人の観客を魅了しました。
「ツアー・ダウンアンダー」はオーストラリアを代表するレースであると同時に、州の観光産業のもっとも大きな原動力としての地位を固めており、その経済的効果は計り知れません。8日間の開催で、アデレードだけではなく周辺地域の4万以上のスポットへツーリストが訪れており、州の一番大きな産業であるワイナリーをはじめとした各地でさまざまな催しものが開かれています。
レストラン、小売店、観光業者などあらゆる産業でダウンアンダーの成功の恩恵を受けているようです。また、インターネットやテレビ中継などメディアの発達のおかげで、南オーストラリアの美しい風景や広大なビーチ、おいしいワインや食事、野生動物など、南オーストラリアを世界に紹介する最高のプラットフォームとなっています。日本でも「ロードレース」がツーリズムイベントとしても価値が高いと認められれば、国や地域の素晴らしいアドバタイズメント(広告物)として大きな可能性が広がりそうです。
ヒミツその3 「お祭り好きな街」アデレード
アデレードという街で「ツアー・ダウンアンダー」が成功したのにはいくつかの理由があるようですが、その大きな理由の一つに、過去にF1を開催していた実績があるようです。アデレードでは1985年から1995年までの10年間、F1のオーストラリアグランプリが開催されていました。場所はアデレード市中心部からビクトリアパークにかけての街の真ん中で開催されており、アデレード市民にとって大きな楽しみであると共に、大きな誇りでした。
レース通過前にはキャラバン隊が通り過ぎていく photo:Seiko.Meguro
巨大な自転車型のバルーンが設置される photo:Seiko Meguro
街全体が自転車に対してフレンドリーなアデレード photo:Seiko Meguro
ですが、経済状況やオーガナイズ、ライセンス継続取得の獲得に苦労し、南オーストラリア州最大のライバルとも言える、隣のビクトリア州・メルボルンに開催地を奪われてしまいました。お祭り好きなアデレードは10年間苦汁をなめ、「F1に取って代われるようなイベント」がないか探し求めていたところに「ツアー・ダウンアンダー」がすっぽりとはまったわけです。
「ツアー・ダウンアンダー」が開催されてからはますます自転車に対する意識が高まったようで、2014年には「ヴェロシティ・カンファレンス」が開かれ、街全体でバイクフレンドリーな都市にしていこうとしているようです。
ヒミツその4 ライバルの存在
過去、F1開催を奪われたアデレード。現在は「ツアー・ダウンアンダー」が大きな成功を得ていますが、実は数年前、この「ツアー・ダウンアンダー」までも奪われそうな危機に陥ったときがありました。オーストラリアは、「州」としての存在が大きく、州が変わればルールも変わり、それはまるで「国と国」であるような感覚があります。
チームプレゼンテーションの場となるヴィクトリア広場。 photo:Seiko.Meguro
スタート前には選手のサインを求めるファンがたくさん並んでいました! photo:Seiko.Meguroメルボルンのような大きな都市を持つヴィクトリア州と、穏やかな文化都市アデレードを持つ南オーストラリア州もライバルのような関係で、南オーストラリアの「ツアー・ダウンアンダー(UCI-WT)」に対して、ヴィクトリア州は「ヘラルド・サン・ツアー(UCI2-1)」、また「カデル・エバンス・グレート・オーシャン・ロードレース(UCI1-HC)」をますます盛り上げたい、と意気込んでいます。
「カデル・エバンス・グレート・オーシャン・ロードレース」は昨年から始まった新しい大会ですが、ヴィクトリア州が全面バックアップし、早くも「HCからワールドツアーに格上げされる」とうわさされています。このライバル関係が功を奏してか、オーストラリアのロードレースは、ますますおもしろくなりそうです。
ヒミツその5 アデレードという街のサイズ
「ゴール前で待機~!」 photo:Seiko.Meguro「シティ」と言われる中心部も簡単に歩けてしまうほどの距離。中心部にはトレンス川が流れ、きれいなビーチも丘もある。空港までは車で15分程度。この程よい距離感覚と、人口的にも多すぎないところが、「イベントをみんなで楽しもう」という参加型の意識を創世させていくことに役立ちました。
アデレードでは「ツアー・ダウンアンダー」のほかに「アデレード・フリンジフェスティバル」「アデレード芸術祭」など数多くのお祭りやイベントが存在しており、市全体でイベントをたのしんでいます。これは南オーストラリア州やアデレードカウンシルなど、行政の力も大きいと言えます。
ヒミツその6 市民を巻き込んだ「ドレスタウン賞」
では市民をどのように巻き込んでいるのでしょうか?「ツアー・ダウンアンダー」期間中、「サントス・ベスト・ドレスタウン賞」が開かれていました。これは街全体の「仮装大賞」のようなもので、まるでクリスマス時期にイルミネーションや飾り付けで家や建物を飾るように、ツアー・ダウンアンダー期間中も街全体をデコレーションして楽しもう!というもの。
バロッサバレー、リンドック地域のデコレーション。凝ってる! photo:Seiko.Meguro
牛の置物にはクランクの耳飾りが! photo:Seiko.Meguro
沿道には色とりどりにペイントされた自転車が photo:Seiko.Meguro
思い思いのデコレーションで目を楽しませてくれます photo:Seiko.Meguro
個人ではなく「地域」一丸となってデコレーションが行われ、2016年はリンドック地域が勝利。7,000オーストラリアドルを獲得しました。飾りつけに使われる材料は、オーストラリアの国旗はもちろん、着古した洋服やぼろぼろになってしまった自転車などなんでも!古いものもカラフルに塗り替えられ楽しそう。運がよければ全世界に放映される可能性も!。ロードレースは公道を使うことから自分の家の前を通る可能性もあります。「観客もロードレースの一部」。これは日本でもすぐに真似ができそうですね。
ヒミツその7 開幕戦にふさわしいコース
名物、ウィランガヒルに自転車で登る観客たち。ものすごい混雑です。まるでオランダコーナー! photo:Seiko.Meguro
おまわりさんの自転車もかわいい! photo:Seiko.Meguroノートンサミットやウィランガヒルなど、「丘」はあるものの険しい山がない。フラットと言っていいほど起伏が少ない地形。これはシーズンイン直後のレースとして選手に大きな負担をかけることなく、顔見せのレースとしても愛される理由となっているようです。
ヒミツその8 南半球というアドバンテージ
「ツアー・ダウンアンダー」の開催時期は毎年1月中旬。この時期、南半球にあるオーストラリアは真夏であり、最高気温は40度を超えることもしばしば。真冬の北半球から来る大半の選手や関係者にとって、季節が真逆であるアデレードはまさに楽園。「シーズンインのレースとして最高の場所」と言う選手も多く、毎年取り合いになるほど人気の高いレースとなっています。
他のレースとコンフリクト(競合、衝突)することなく、開催時期のタイミングを考慮するのは成功の大きな条件と言えそうです。
ヒミツその9 移動ゼロのステージレース
ホテル全体が「ツアー・ダウンアンダー」一色となるヒルトンアデレード。 photo:Seiko.Meguro「ツアー・ダウンアンダー」はステージレースであるにかかわらず、各ステージ間の移動がなく、「シティ」と言われるアデレード中心部のヒルトンホテルが滞在場所となっています。「移動がない」ということは当然荷物のパッキング・アンパッキングをする必要もなければ時間に追われることもない…。移動のための時間をホテルでの回復やリラックスの時間に充てることができます。これは選手はもちろん、スタッフ、メディアにとっても負担が少なく、大きく助かる側面となっています。
ヒルトンホテルのすぐ前の広場にチームテントが設営され、チームプレゼンテーションも目と鼻の先のビクトリア広場で行われます。ヒルトンホテルの隣には「セントラルマーケット」があり、補給食を買いに遠くまで出かける必要もない。カフェやレストランもたくさん。そのようなところから家族や友人を連れてくる選手も多く、陽気でリラックスしたアデレードで、最高のキックオフとなっているようです。
ヒミツその10 メディアや選手・関係者へのホスピタリティ
「ツアー・ダウンアンダー」のおもてなしは他に類を見ません。選手には「インターネットカフェ」ならぬ「インターネットルーム」のようなくつろぎの空間が提供され、ケータリングの食事もなかなかのものであるよう。メディア向けには、メディアセンターにおいてフリーPCの貸出やWifi回線使用のほか、おいしいコーヒーやワイン、ミネラルウォーター、スポーツドリンク、チョコレート、時にはピザがふるまわれ、あまりの居心地の良さにすっかりお尻に根が生えてしまうメディアもちらほら……。
配布されたメディアキットにはこんなにたくさんのノベルティが! photo:Seiko.Meguro
ケータリングのカフェがメディアセンターに来てくれる! photo:Seiko.Meguro
レースの様子を伝える新聞がメディアセンターには張り出されていました photo:Seiko.Meguroこのメディアセンターは選手も使うことができ、レース前にコーヒーを飲みにくる選手もたくさんいました。リッチ―・ポート選手やゲラント・トーマス選手も訪れ、レース前後にリラックスしていました。拠点のメディアセンターからは毎日「メディア・トランスポート」が提供され、レンタカーを借りることなくレースを追いかけ取材することができます。拠点が一か所ですから、落ち着いて仕事をすることができます。ステージ開催場所の名産品の入ったメディアキットも各々にギフトとして提供されました。
どうしてここまでメディアに対してのトリートが充実しているのでしょうか? 当然のことながら、ニュースを発信するのはメディア。発信者であるメディアに愛され、ツアーに対してポジティブなニュースが発信されれば自動的に読者もポジティブな印象を持つようになります。ポジティブな印象を持つ読者はツアーに興味を持ちますます観戦したくなる……。このポジティブなサーキュレーションが「ツアー・ダウンアンダー」には流れているようです。
「ツアー・ダウンアンダー」は、「このレースが外側からどのように見られたいのか。」そのことを大きく意識した大会だと感じました。
以上、「ツアー・ダウンアンダー成功の10のヒミツ」でしたが、難しく考えることなく、私たち日本におけるレースでも、少し意識を変えるだけで改善が可能なところがたくさんあると感じました。
オーストラリアで活動中の目黒誠子さん photo:Seiko.Meguroプロフィール
目黒誠子(めぐろせいこ)
ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。3月までオーストラリアで語学留学をしながら現地の自転車事情を取材。各プロチームとの親交を深めるべく活動している。
text:Seiko Meguro in Adelaide, Australia
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「ツアー・ダウンアンダー」はどのようにして今の形になったのでしょうか。その歴史をひも解いていきたいと思います。
ツアー・ダウンアンダーの第1回大会が開催されたのは1999年。その後、2005年にUCIオセアニアツアーに組み込まれ、さらにその3年後の2008年よりUCIプロツアー(現ワールドツアー)に格上げされました。そして、今年で第18回目の開催となります。さて、それでは「ツアー・ダウンアンダー成功への10のヒミツ」をおとどけしましょう!
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ヒミツその1 南オーストラリア州による全面バックアップ
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ヒミツその2 ツーリズムイベントとして認められたダウンアンダー
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レストラン、小売店、観光業者などあらゆる産業でダウンアンダーの成功の恩恵を受けているようです。また、インターネットやテレビ中継などメディアの発達のおかげで、南オーストラリアの美しい風景や広大なビーチ、おいしいワインや食事、野生動物など、南オーストラリアを世界に紹介する最高のプラットフォームとなっています。日本でも「ロードレース」がツーリズムイベントとしても価値が高いと認められれば、国や地域の素晴らしいアドバタイズメント(広告物)として大きな可能性が広がりそうです。
ヒミツその3 「お祭り好きな街」アデレード
アデレードという街で「ツアー・ダウンアンダー」が成功したのにはいくつかの理由があるようですが、その大きな理由の一つに、過去にF1を開催していた実績があるようです。アデレードでは1985年から1995年までの10年間、F1のオーストラリアグランプリが開催されていました。場所はアデレード市中心部からビクトリアパークにかけての街の真ん中で開催されており、アデレード市民にとって大きな楽しみであると共に、大きな誇りでした。
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ですが、経済状況やオーガナイズ、ライセンス継続取得の獲得に苦労し、南オーストラリア州最大のライバルとも言える、隣のビクトリア州・メルボルンに開催地を奪われてしまいました。お祭り好きなアデレードは10年間苦汁をなめ、「F1に取って代われるようなイベント」がないか探し求めていたところに「ツアー・ダウンアンダー」がすっぽりとはまったわけです。
「ツアー・ダウンアンダー」が開催されてからはますます自転車に対する意識が高まったようで、2014年には「ヴェロシティ・カンファレンス」が開かれ、街全体でバイクフレンドリーな都市にしていこうとしているようです。
ヒミツその4 ライバルの存在
過去、F1開催を奪われたアデレード。現在は「ツアー・ダウンアンダー」が大きな成功を得ていますが、実は数年前、この「ツアー・ダウンアンダー」までも奪われそうな危機に陥ったときがありました。オーストラリアは、「州」としての存在が大きく、州が変わればルールも変わり、それはまるで「国と国」であるような感覚があります。
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「カデル・エバンス・グレート・オーシャン・ロードレース」は昨年から始まった新しい大会ですが、ヴィクトリア州が全面バックアップし、早くも「HCからワールドツアーに格上げされる」とうわさされています。このライバル関係が功を奏してか、オーストラリアのロードレースは、ますますおもしろくなりそうです。
ヒミツその5 アデレードという街のサイズ
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ヒミツその6 市民を巻き込んだ「ドレスタウン賞」
では市民をどのように巻き込んでいるのでしょうか?「ツアー・ダウンアンダー」期間中、「サントス・ベスト・ドレスタウン賞」が開かれていました。これは街全体の「仮装大賞」のようなもので、まるでクリスマス時期にイルミネーションや飾り付けで家や建物を飾るように、ツアー・ダウンアンダー期間中も街全体をデコレーションして楽しもう!というもの。
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ヒミツその8 南半球というアドバンテージ
「ツアー・ダウンアンダー」の開催時期は毎年1月中旬。この時期、南半球にあるオーストラリアは真夏であり、最高気温は40度を超えることもしばしば。真冬の北半球から来る大半の選手や関係者にとって、季節が真逆であるアデレードはまさに楽園。「シーズンインのレースとして最高の場所」と言う選手も多く、毎年取り合いになるほど人気の高いレースとなっています。
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ヒミツその9 移動ゼロのステージレース
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ヒミツその10 メディアや選手・関係者へのホスピタリティ
「ツアー・ダウンアンダー」のおもてなしは他に類を見ません。選手には「インターネットカフェ」ならぬ「インターネットルーム」のようなくつろぎの空間が提供され、ケータリングの食事もなかなかのものであるよう。メディア向けには、メディアセンターにおいてフリーPCの貸出やWifi回線使用のほか、おいしいコーヒーやワイン、ミネラルウォーター、スポーツドリンク、チョコレート、時にはピザがふるまわれ、あまりの居心地の良さにすっかりお尻に根が生えてしまうメディアもちらほら……。
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どうしてここまでメディアに対してのトリートが充実しているのでしょうか? 当然のことながら、ニュースを発信するのはメディア。発信者であるメディアに愛され、ツアーに対してポジティブなニュースが発信されれば自動的に読者もポジティブな印象を持つようになります。ポジティブな印象を持つ読者はツアーに興味を持ちますます観戦したくなる……。このポジティブなサーキュレーションが「ツアー・ダウンアンダー」には流れているようです。
「ツアー・ダウンアンダー」は、「このレースが外側からどのように見られたいのか。」そのことを大きく意識した大会だと感じました。
以上、「ツアー・ダウンアンダー成功の10のヒミツ」でしたが、難しく考えることなく、私たち日本におけるレースでも、少し意識を変えるだけで改善が可能なところがたくさんあると感じました。
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目黒誠子(めぐろせいこ)
ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。趣味はバラ栽培と鑑賞。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。3月までオーストラリアで語学留学をしながら現地の自転車事情を取材。各プロチームとの親交を深めるべく活動している。
text:Seiko Meguro in Adelaide, Australia
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