2015/09/14(月) - 09:12
本格的な夏を過ぎ、速くも秋の足音が聞こえてきた9月初旬。北信州の山々を舞台に、信越五高原ロングライドが開催された。獲得標高2,730mを誇る国内屈指の山岳コースに挑みつつ、地元の食に舌鼓をうち、雄大な自然を思う存分満喫することのできるイベントの模様をレポートする。
「サイクリングは人生に新たな扉を開く」とはアメリカ人初のツール・ド・フランス優勝者であるグレッグ・レモンの言葉。そんな名言を大会テーマとし、 脚にも目にも舌にもエピックで、一度走れば、あなたのサイクルライフを新たな世界へと導いてくれる大会が「信越自然郷・五高原ロングライド(以下、信越五高原ロングライド)」だ。冬はスキーリゾートとして賑わう自然豊かな北信州の高原地帯を舞台とし、今年で6回めの開催を迎えた。
曼荼羅伝説の「斑尾高原」、山と湯の神が鎮座する「妙高高原」、森に妖精が飛ぶ「黒姫高原」、パワースポットとして知られる神々降臨の地「戸隠高原」、そして豊穣な農を育む「飯綱高原」。信越自然郷に位置する5つの高原を駆け巡る120kmのコースは獲得標高が2,730mにも達する。同時に、下りもハードであり、参加者にはスキルと体力の両方が要求される。
そんな国内屈指のハードコースを制覇すべく120kmコースには289名が、また戸隠高原を除いた4高原を走る95kmコースには32名がエントリー。この週末は同じ信州でも複数のロングライドが開催されており、参加人数は決して多くなかったが、リピーターが占める割合はかなりのものだ。
「年に一度、この大会だけは皆で走りにくるんですよ」というチームもあるほどで信越五高原ロングライドは知る人ぞ知る大会といえよう。そんな噂をききつけたかは分からないが、今年は台湾から2名のサイクリストが参加。ちなみに、筆者も昨年参加して、その魅力に取り憑かれた一人である。
さて、大会当日の朝6時の段階で道路標識が示す気温は16℃。高原らしくキリッと冷え、肌寒いほど。快晴となった昨年とは一転して、分厚い雲が空を覆い、スタート地点の斑尾高原スキー場は濃い霧に包まれている。なんだか、季節の変わり目らしいパッとしない天気だ。しかし、前夜に泊まらせて頂いたペンションぶ~わんのオーナーであり大会実行委員会長の林靖夫さんに聞けば「何とか天気は持ってくれそう」とのこと。多くの参加者が雨天の準備をしているが、「天気よもってくれっ」と思いを一つにしつつ、午前7時にスタートをきっていく。
信越五高原ロングライドの特徴の1つに、2箇所からスタート地点を選択できるショットガンスタート方式を採用していることがあげれられる。これはコース上の参加者の分布を均すことで、安全性を高めることを目的としており、コース上の立て看板や、大勢の立哨+並走スタッフとあわせて、安全対策は万全だと感じた。
スタート地点からしばらくは、斑尾高原から北に進路をとり、手付かずの草木が路肩に茂る細い林道を走る。対向車注意とは立て看板にあるものの、車が通ることも無ければ、信号もない。雪国とあって路面には多少のひび割れがあるものの、筆者は昨年の経験から25Cのしなやかなタイヤに履き替えてきたため、問題はない。
ワームアップ替わりにと、登り下り共に最大勾配10%ほどのアップダウンをこなすころには、段々と気温が上昇。まだ、コース序盤とあって参加者のみなさんもアチラコチラで談笑しながら駒を進める。続いて、「アパリゾート上越妙高の森ゴルフコース」の横を通る軽快なダウンヒルをこなすと、あっという間に第1エイドの原通りに到着する。ここでは、粒がぎっしりと詰まった金色のとうもろこしと、出荷が始まったばかりながら甘いりんごを頂く。
割りとあっという間に終わった第1エイドまでとはことなり、第1~第2エイドまでは、今大会のハイライト区間といえるだろう。第1エイドを後にして、間髪入れずに登場するのが東から西へ伸びる県道399号線の直登だ。勾配は6%ほどとプロファイル的には決して特徴的ではものの、前には霊山妙高山、後ろには大平山と、コースの中でも特に眺めがよいのだ。沿道で揺れるすすきは秋の訪れを感じさせてくれる。
直登を終え、かつて国内で唯一の藩営温泉であったという赤倉温泉を前に現れるのが「鬼の洗濯板」。距離は400mながら、平均勾配14%/最大勾配18.6%という激坂で、スリップ防止用のコブが等間隔に配されていることから、その名がつけられたのだとか。ただでさえ獲得標高2,730mと過酷ながら、ベルギーのクラシックレースの様なアクセントを混ぜ込んでくるとは、主催者はきっと「ドS」だと思わずにはいられない(笑)。入り口で応援していた鬼さんの煽りにも似た応援をうけつつ、鬼の洗濯板をクリアし、赤倉温泉の温泉街を超えれば、第2エイドに到着だ。
第2エイドは、もう一つのスタート地点である池ノ平。ここまでの走行時間は2時間強というところだが、早めの昼食を頂く。粒がシッカリとした地元産米のおにぎりに、とうもろこし、赤くて甘いプチトマト、キュウリとキャベツの浅漬、きのこの味噌汁と、イベント序盤ながら北信州をふんだんに味わうことができた。特に味噌汁きのこ、なす、ネギと具だくさんで、きのこ好きの筆者にはたまらない一杯でした。お腹を満たすと同時に、塩分補給にもぴったりで、味噌増しもできたのだとか?
次のエイドまでは、細やかなアップダウンを繰り返す。ルートラボ等で見る分にはキツくもなさそうだが、実際に走ると、どんどんと消耗していく。一方で、黒姫山の雄大な眺めや、収穫の時期が近づいてきた田んぼ、白い花が咲き誇るそば畑、オレンジの秋桜と、日本の原風景が目を楽しませてくれた。沿道の直売所から漂う焼きとうもろこしの香ばしい匂いに後ろ髪をひかれつつ、ピレネー地方の大型犬グレート・ピレニーズの応援に和みつつ、1時間ほどで第3エイドに。ここからは、今大会最大の強敵である距離15km/標高差500m強の戸隠高原への登りに突入する。
晴れていれば、木漏れ日の目に鮮やかな林道なのだが、今年木々の間から漏れてきたのは雨粒。そう、コース半ばにして雨が降ってきてしまったのだ。気温がそれほど下がらなかったのが救いではあるが、「己との戦い」という様相を呈してきた。
どの参加者も淡々と登りをこなし、戸隠の登りを終えるが、未だ安心はできない。そう、ここから35kmもの下りが待っているのだ。快晴の昨年は思う存分ダウンヒルを楽しめたが、今年はフルウェット。今大会の最高標高地点である戸隠キャンプ場で、参加者の皆さんと雨宿りしてみるが、逆に雨脚が勢いを増す中で再びフィニッシュへ向けてペダルを回し始めることに。そんなに普段の行いが悪いのかな?なんて思いながら(苦笑)。
スタッフであった地元の人も「雨の日は車でも通りたくない」という戸隠神社の大鳥居前をはじめ、テクニカルなコーナーをこなしつつ、それこそ神頼みで慎重にダウンヒル。念のため、タイヤの空気圧を6Barから4Barへと下げていたためタイヤが滑ることは一切なかったが、所々に出てくる登り返しがキツいのなんの。筆者を含め、心を何度もへし折られた方は沢山いるはず。
そんな雨の中でも、シッカリと誘導してくれる地元スタッフのみなさんの掛け声に励まされつつ、第5エイドの「サンクゼール」というワイナリーにたどりつく。「ホットワインで身体を暖めたい!」ところではあるが、ここはグッと我慢してワインと同じくらいこだわって作られるジャムを、天然酵母を使用したこだわりのパンに乗せて頂き、糖分を補給。斑尾高原スキー場への最後の登りに備える。
ここまでの獲得標高は約2,200mをこえている。他のロングライドイベントであればフィニッシュしているだろうが、信越五高原ロングライドは、ここからが正念場といっても過言ではない。15kmで500mを登らなくてはならないのだ。既に疲労困憊で、棒状態の脚には冷たい雨が打ち付け、もはや体力などは残っていない。完走への執念だけが、背中を押してくれていたはず。それは多くの参加者にとって、同じことであったろう。
そして、迎えたフィニッシュ。昨年初完走した際にも大きな達成感を得ることができたが、今年は更にその上を行く達成感があった。グレッグ・レモンの言葉のとおり、人生の新しい扉が開けた気になったのは筆者だけでないはず。今年の雨の信越五高原ロングライドは、多くの参加者にとっての人生史上で最もハードかつエピックなライドイベントの1つとして長く記憶されることだろう。
フィニッシュに辿りついた参加者は全体の89.4%と、晴れであった第4回大会とも大きくは変わらないとのこと。この高い完走率の理由には、己に挑戦する参加者を全力でバックアップしてくれる万全のホスピタリティがあると改めて感じさせてくれた。自分自身にチャレンジしてみたい方や、脱初心者を目指している方はぜひとも来年の参加を検討してほしい。完走した際には、サイクリストとしての新しい扉を開くことができるはずだから。
text&photo:Yuya.Yamamoto
「サイクリングは人生に新たな扉を開く」とはアメリカ人初のツール・ド・フランス優勝者であるグレッグ・レモンの言葉。そんな名言を大会テーマとし、 脚にも目にも舌にもエピックで、一度走れば、あなたのサイクルライフを新たな世界へと導いてくれる大会が「信越自然郷・五高原ロングライド(以下、信越五高原ロングライド)」だ。冬はスキーリゾートとして賑わう自然豊かな北信州の高原地帯を舞台とし、今年で6回めの開催を迎えた。
曼荼羅伝説の「斑尾高原」、山と湯の神が鎮座する「妙高高原」、森に妖精が飛ぶ「黒姫高原」、パワースポットとして知られる神々降臨の地「戸隠高原」、そして豊穣な農を育む「飯綱高原」。信越自然郷に位置する5つの高原を駆け巡る120kmのコースは獲得標高が2,730mにも達する。同時に、下りもハードであり、参加者にはスキルと体力の両方が要求される。
そんな国内屈指のハードコースを制覇すべく120kmコースには289名が、また戸隠高原を除いた4高原を走る95kmコースには32名がエントリー。この週末は同じ信州でも複数のロングライドが開催されており、参加人数は決して多くなかったが、リピーターが占める割合はかなりのものだ。
「年に一度、この大会だけは皆で走りにくるんですよ」というチームもあるほどで信越五高原ロングライドは知る人ぞ知る大会といえよう。そんな噂をききつけたかは分からないが、今年は台湾から2名のサイクリストが参加。ちなみに、筆者も昨年参加して、その魅力に取り憑かれた一人である。
さて、大会当日の朝6時の段階で道路標識が示す気温は16℃。高原らしくキリッと冷え、肌寒いほど。快晴となった昨年とは一転して、分厚い雲が空を覆い、スタート地点の斑尾高原スキー場は濃い霧に包まれている。なんだか、季節の変わり目らしいパッとしない天気だ。しかし、前夜に泊まらせて頂いたペンションぶ~わんのオーナーであり大会実行委員会長の林靖夫さんに聞けば「何とか天気は持ってくれそう」とのこと。多くの参加者が雨天の準備をしているが、「天気よもってくれっ」と思いを一つにしつつ、午前7時にスタートをきっていく。
信越五高原ロングライドの特徴の1つに、2箇所からスタート地点を選択できるショットガンスタート方式を採用していることがあげれられる。これはコース上の参加者の分布を均すことで、安全性を高めることを目的としており、コース上の立て看板や、大勢の立哨+並走スタッフとあわせて、安全対策は万全だと感じた。
スタート地点からしばらくは、斑尾高原から北に進路をとり、手付かずの草木が路肩に茂る細い林道を走る。対向車注意とは立て看板にあるものの、車が通ることも無ければ、信号もない。雪国とあって路面には多少のひび割れがあるものの、筆者は昨年の経験から25Cのしなやかなタイヤに履き替えてきたため、問題はない。
ワームアップ替わりにと、登り下り共に最大勾配10%ほどのアップダウンをこなすころには、段々と気温が上昇。まだ、コース序盤とあって参加者のみなさんもアチラコチラで談笑しながら駒を進める。続いて、「アパリゾート上越妙高の森ゴルフコース」の横を通る軽快なダウンヒルをこなすと、あっという間に第1エイドの原通りに到着する。ここでは、粒がぎっしりと詰まった金色のとうもろこしと、出荷が始まったばかりながら甘いりんごを頂く。
割りとあっという間に終わった第1エイドまでとはことなり、第1~第2エイドまでは、今大会のハイライト区間といえるだろう。第1エイドを後にして、間髪入れずに登場するのが東から西へ伸びる県道399号線の直登だ。勾配は6%ほどとプロファイル的には決して特徴的ではものの、前には霊山妙高山、後ろには大平山と、コースの中でも特に眺めがよいのだ。沿道で揺れるすすきは秋の訪れを感じさせてくれる。
直登を終え、かつて国内で唯一の藩営温泉であったという赤倉温泉を前に現れるのが「鬼の洗濯板」。距離は400mながら、平均勾配14%/最大勾配18.6%という激坂で、スリップ防止用のコブが等間隔に配されていることから、その名がつけられたのだとか。ただでさえ獲得標高2,730mと過酷ながら、ベルギーのクラシックレースの様なアクセントを混ぜ込んでくるとは、主催者はきっと「ドS」だと思わずにはいられない(笑)。入り口で応援していた鬼さんの煽りにも似た応援をうけつつ、鬼の洗濯板をクリアし、赤倉温泉の温泉街を超えれば、第2エイドに到着だ。
第2エイドは、もう一つのスタート地点である池ノ平。ここまでの走行時間は2時間強というところだが、早めの昼食を頂く。粒がシッカリとした地元産米のおにぎりに、とうもろこし、赤くて甘いプチトマト、キュウリとキャベツの浅漬、きのこの味噌汁と、イベント序盤ながら北信州をふんだんに味わうことができた。特に味噌汁きのこ、なす、ネギと具だくさんで、きのこ好きの筆者にはたまらない一杯でした。お腹を満たすと同時に、塩分補給にもぴったりで、味噌増しもできたのだとか?
次のエイドまでは、細やかなアップダウンを繰り返す。ルートラボ等で見る分にはキツくもなさそうだが、実際に走ると、どんどんと消耗していく。一方で、黒姫山の雄大な眺めや、収穫の時期が近づいてきた田んぼ、白い花が咲き誇るそば畑、オレンジの秋桜と、日本の原風景が目を楽しませてくれた。沿道の直売所から漂う焼きとうもろこしの香ばしい匂いに後ろ髪をひかれつつ、ピレネー地方の大型犬グレート・ピレニーズの応援に和みつつ、1時間ほどで第3エイドに。ここからは、今大会最大の強敵である距離15km/標高差500m強の戸隠高原への登りに突入する。
晴れていれば、木漏れ日の目に鮮やかな林道なのだが、今年木々の間から漏れてきたのは雨粒。そう、コース半ばにして雨が降ってきてしまったのだ。気温がそれほど下がらなかったのが救いではあるが、「己との戦い」という様相を呈してきた。
どの参加者も淡々と登りをこなし、戸隠の登りを終えるが、未だ安心はできない。そう、ここから35kmもの下りが待っているのだ。快晴の昨年は思う存分ダウンヒルを楽しめたが、今年はフルウェット。今大会の最高標高地点である戸隠キャンプ場で、参加者の皆さんと雨宿りしてみるが、逆に雨脚が勢いを増す中で再びフィニッシュへ向けてペダルを回し始めることに。そんなに普段の行いが悪いのかな?なんて思いながら(苦笑)。
スタッフであった地元の人も「雨の日は車でも通りたくない」という戸隠神社の大鳥居前をはじめ、テクニカルなコーナーをこなしつつ、それこそ神頼みで慎重にダウンヒル。念のため、タイヤの空気圧を6Barから4Barへと下げていたためタイヤが滑ることは一切なかったが、所々に出てくる登り返しがキツいのなんの。筆者を含め、心を何度もへし折られた方は沢山いるはず。
そんな雨の中でも、シッカリと誘導してくれる地元スタッフのみなさんの掛け声に励まされつつ、第5エイドの「サンクゼール」というワイナリーにたどりつく。「ホットワインで身体を暖めたい!」ところではあるが、ここはグッと我慢してワインと同じくらいこだわって作られるジャムを、天然酵母を使用したこだわりのパンに乗せて頂き、糖分を補給。斑尾高原スキー場への最後の登りに備える。
ここまでの獲得標高は約2,200mをこえている。他のロングライドイベントであればフィニッシュしているだろうが、信越五高原ロングライドは、ここからが正念場といっても過言ではない。15kmで500mを登らなくてはならないのだ。既に疲労困憊で、棒状態の脚には冷たい雨が打ち付け、もはや体力などは残っていない。完走への執念だけが、背中を押してくれていたはず。それは多くの参加者にとって、同じことであったろう。
そして、迎えたフィニッシュ。昨年初完走した際にも大きな達成感を得ることができたが、今年は更にその上を行く達成感があった。グレッグ・レモンの言葉のとおり、人生の新しい扉が開けた気になったのは筆者だけでないはず。今年の雨の信越五高原ロングライドは、多くの参加者にとっての人生史上で最もハードかつエピックなライドイベントの1つとして長く記憶されることだろう。
フィニッシュに辿りついた参加者は全体の89.4%と、晴れであった第4回大会とも大きくは変わらないとのこと。この高い完走率の理由には、己に挑戦する参加者を全力でバックアップしてくれる万全のホスピタリティがあると改めて感じさせてくれた。自分自身にチャレンジしてみたい方や、脱初心者を目指している方はぜひとも来年の参加を検討してほしい。完走した際には、サイクリストとしての新しい扉を開くことができるはずだから。
text&photo:Yuya.Yamamoto
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