2回目の休息日前に、今大会最難関クラスの山岳ステージが登場する。ゴール地点は、最大勾配が25%に達する超級山岳クイトゥ・ネグル。独走に持ち込んだダリオ・カタルド(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)が逃げ切ったその数分後方では、総合上位陣によるバトルが勃発した。

第16ステージ・コースプロフィール第16ステージ・コースプロフィール image: Unipublicアストゥリアス州の海沿いの街ヒホンから、標高1850mのスキー場まで、183.5kmにわたって山岳地帯を走るブエルタ・ア・エスパーニャ第16ステージ。獲得標高差は4500mオーバーで、平均勾配が8%半ばという1級山岳サンロレンソ峠と1級山岳コベルトリア峠がレース中盤に登場する。

急勾配の登りに備え、土井雪広(アルゴス・シマノ)は36x28を使用する急勾配の登りに備え、土井雪広(アルゴス・シマノ)は36x28を使用する photo:Kei Tsujiそして最後はパハレス峠を駆け上がる。登坂距離は19.4kmで、平均勾配は6.9%。このパハレス峠はこれまで何度もブエルタに登場しているが、今回のゴール地点は、峠から更に登った先のスキー場、ブエルタ初登場のクイトゥ・ネグルだ。

スキー場の斜面を登る延長部分は、常に勾配が15%を超えるような驚きの厳しさ。タフな一日の最後に、最大勾配25%の激坂バトルが待っている。この超級山岳クイトゥ・ネグルと、最終日前日の超級山岳ボラ・デル・ムンドで総合争いは決着する。

アストゥリアスの山岳地帯に向かうプロトンアストゥリアスの山岳地帯に向かうプロトン photo:Kei Tsuji「今日はかなり厳しいコースだけど、アタックして逃げに乗る」と宣言してスタートした土井雪広(アルゴス・シマノ)。同じ思惑を持ったアタッカーたちがレース序盤から熱いバトルを繰り広げた。

この日の逃げは、55km地点でようやく決まる。トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)とダリオ・カタルド(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)の2人。「何度も何度もアタックした。20名ほどのグループに入って先行しかけたけどダメだった」と土井。

55km地点で飛び出したトーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)とダリオ・カタルド(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)55km地点で飛び出したトーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)とダリオ・カタルド(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Unipublicスピードのある先頭2人は、単独追走したハビエル・ラミレス(スペイン、アンダルシア)を振り切り、メイン集団とのタイム差を広げ始める。2つの1級山岳と超級頂上ゴールに向かって、エスケープデュオはリードを広げ始めた。

デヘントは5月のジロ・デ・イタリア最終日前日のステルヴィオステージで逃げ切り、総合表彰台を射止めている。しかしブエルタではすでに大きくタイムを失っており、第15ステージ終了時でマイヨロホから1時間11分遅れ。逃げの相棒カタルドも総合で1時間05分遅れ。

メイン集団は実質的に先頭2人の逃げ切りを容認。タイム差は瞬く間に15分まで広がり、逃げ切りがほぼ決定的となった。

ゴールが置かれた標高1850mの超級山岳クイトゥ・ネグルゴールが置かれた標高1850mの超級山岳クイトゥ・ネグル photo:Kei Tsuji

メイン集団をコントロールするサクソバンク・ティンコフバンクメイン集団をコントロールするサクソバンク・ティンコフバンク photo:Unipublic1級山岳サンロレンソ峠に差し掛かると、サクソバンク・ティンコフバンクがメイン集団のコントロールを開始する。

ゴールまで82kmを残したこのサンロレンソ峠で、5年連続山岳賞が懸かったダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)がアタックを仕掛けたが、山岳賞ジャージを着るサイモン・クラーク(オーストラリア)とピーター・ウェーニング(オランダ)のオリカ・グリーンエッジ勢がこれを封じる。クラークはこのサンロレンソ峠を3番手通過して4ポイントを獲得し、2ポイント差で山岳賞ジャージを守ることに成功している。

超級山岳クイトゥ・ネグルで攻防を繰り広げるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)とアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)超級山岳クイトゥ・ネグルで攻防を繰り広げるホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)とアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク) photo:Unipublic続く1級山岳コベルトリア峠でエウスカルテルが集団コントロールに合流。サクソバンクがペースアップを担い、平均勾配8.6%の登りを進む。ここでメイン集団は大きく人数を減らし、土井も遅れた。

「2つめの1級山岳(コベルトリア峠)まで集団にいたけど、ちょうどチームカーにボトルを取りにいったタイミングでサクソバンクがペースアップ。何とかボトルを運んだものの、そこでグルペットに入った」と、土井は振り返る。

先頭で超級山岳クイトゥ・ネグルを登るダリオ・カタルド(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)先頭で超級山岳クイトゥ・ネグルを登るダリオ・カタルド(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Kei Tsujiコベルトリア峠でのサクソバンクのペースアップによって、総合4位クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)が脱落。しかし下り区間でメイン集団に復帰する。

ヤン・バケランツ(ベルギー、レディオシャック・ニッサン)やルイスアンヘル・マテマルドネス(スペイン、コフィディス)ら6名が一時的に追走グループを形成したが、最後の超級山岳クイトゥ・ネグルの登りが始まってすぐにメイン集団に吸収された。

超級山岳クイトゥ・ネグルを制したダリオ・カタルド(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)超級山岳クイトゥ・ネグルを制したダリオ・カタルド(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ) photo:Unipublic先頭2名のリードは10分、7分、5分と着実に縮まったが、逃げ切るには充分なタイム差。ラスト3kmを切り、スキー場を駆け上がる急勾配区間でカタルドが先行し始める。観客が詰めかけた登りを先頭で登るカタルド。ゴール手前の最大勾配25%区間でデヘントが差を縮めたが、カタルドが先頭を守りきった。

今年イタリアのタイムトライアルチャンピオンに輝いた27歳のカタルド。登坂力も同時に兼ね備えていることは、2年連続ジロ・デ・イタリア総合12位という成績が証明している。今年ボルタ・ア・カタルーニャで総合9位。これがグランツール初勝利だ。

「総合ではなく、ステージ優勝狙いで出場している。初登場の険しいクイトゥ・ネグルで歴史に名を刻むことが出来てよかった」。

スペースの問題で、登り中腹に置かれた表彰台でシャンパンを開けたカタルドは語る。「登りは厳しかったけど、ジロのモンテ・ゾンコランは、今日のラスト3kmを10kmに延長したようなもの。苦しいけど、選手たちは慣れている」。

超級山岳クイトゥ・ネグルで一進一退の攻防を繰り広げるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)超級山岳クイトゥ・ネグルで一進一退の攻防を繰り広げるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsuji

超級山岳クイトゥ・ネグルで一進一退の攻防を繰り広げるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)超級山岳クイトゥ・ネグルで一進一退の攻防を繰り広げるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsujiカタルドの独走勝利が決まると、観客の関心は総合争いに移行する。最も積極的に集団をコントロールしたのはサクソバンクで、ヘスス・エルナンデス(スペイン)が強力なペースを作る。フルームは再び千切れ、総合6位のロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)とともにパックを形成。メイン集団に復帰することはなかった。

超級山岳クイトゥ・ネグルで一進一退の攻防を繰り広げるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)超級山岳クイトゥ・ネグルで一進一退の攻防を繰り広げるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsujiこの日も攻撃の口火を切ったのはコンタドール。ロドリゲスがすかさず反応したが、アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)は一歩出遅れる。前日同様、ナイロ・クインターナ(コロンビア)がバルベルデを援護した。

コンタドールはアタックを連発させたが、その背後には常にロドリゲスの姿。やがてバルベルデは遅れ、ゴール手前の急勾配区間に突入する。ラスト200mの激坂で仕掛けたロドリゲスが、コンタドールを2秒、バルベルデを19秒引き離してゴールした。

超級山岳クイトゥ・ネグルでマイヨロホから2分32秒遅れたクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)超級山岳クイトゥ・ネグルでマイヨロホから2分32秒遅れたクリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsujiステージ3位でボーナスタイムも同時に手にしたロドリゲス。コンタドールとの総合タイム差を22秒から28秒に拡大させた「プリート」は「総合優勝に向けて、とても大きな一歩だ」と記者会見で語気を強める。「残るはフエンテ・デとボラ・デル・ムンド。(マドリード近郊出身の)アルベルトは間違いなくモチベーション高くボラ・デル・ムンドに挑むと思う」。

バルベルデは「総合3位のポジションを守るために走った」と言うが、コンタドールはまだまだ総合逆転を諦めていない。「昨日までより脚が回った。チームとしてレースをタフな展開に持ち込んで、ヒートアップさせ、興奮のレースを演出することが出来たと思う。本当にスリルいっぱいで、スペクタクルだった」とコンタドール。休息日を挟み、総合争いは最終週に持ち込まれる。

「序盤のアタックと中盤のボトル運びで脚がいっぱいいっぱいだった」と話す土井は、30分遅れのグルペットでクイトゥ・ネグルにゴールした(最終グルペットは37分遅れ)。疲労はしているものの、表情は生気に満ちている印象。気温10度の空の下、ジャケットを着込んで下山の帰路についた。

超級山岳クイトゥ・ネグルを登る土井雪広(アルゴス・シマノ)超級山岳クイトゥ・ネグルを登る土井雪広(アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji超級山岳クイトゥ・ネグルを登る土井雪広(アルゴス・シマノ)超級山岳クイトゥ・ネグルを登る土井雪広(アルゴス・シマノ) photo:Kei Tsuji


ブエルタ・ア・エスパーニャ2012第16ステージ結果
1位 ダリオ・カタルド(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)      5h18'28"
2位 トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)             +07"
3位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)                +2'39"
4位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)     +2'41"
5位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)               +2'58"
6位 ナイロ・クインターナ(コロンビア、モビスター)                +3'24"
7位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)                +4'07"
8位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・シャープ)          +4'15"
9位 ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)                 +4'18"
10位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)                +4'21"

12位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)                +4'42"
14位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                 +5'11"
20位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)          +6'58"
120位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ)                    +30'49"

敢闘賞
ダリオ・カタルド(イタリア、オメガファーマ・クイックステップ)

個人総合成績(マイヨロホ)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)              63h38'24"
2位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)      +28"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)               +2'04"
4位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)                  +4'52"
5位 ダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)                 +6'58"
6位 ロバート・ヘーシンク(オランダ、ラボバンク)                 +7'28"
7位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・シャープ)          +8'28"
8位 ローレンス・テンダム(オランダ、ラボバンク)                 +9'00"
9位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)                +9'11"
10位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)          +11'44"
120位 土井雪広(日本、アルゴス・シマノ)                   +2h12'43"

ポイント賞(プントス)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               164pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              139pts
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)    123pts

山岳賞(モンターニャ)
1位 サイモン・クラーク(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)        38pts
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               36pts
3位 トーマス・デヘント(ベルギー、ヴァカンソレイユ・DCM)            33pts

複合賞(コンビナーダ)
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)               4pts
2位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)              9pts
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・ティンコフバンク)    11pts

チーム総合成績
1位 モビスター                               190h39'03"
2位 エウスカルテル                               +12'22"
3位 ラボバンク                                 +15'52"

text&photo:Kei Tsuji in Valgrande-Pajares, Spain
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