2012/07/21(土) - 01:32
「逃げの展開を狙う選手にとって、実質的に最後のチャンスとなる」。ツール・ド・フランス第18ステージについて常々そう話していた新城幸也(ユーロップカー)が、有言実行のエスケープを試みた。最終ゴールスプリントは世界チャンピオンの手に落ちている。
マイヨジョーヌ争いの決着は翌日の第19ステージにお任せして、レースの主導権はスプリンターたちに戻される。この日はブラニャックからパリの方向を目指して222km北上。逃げ切りを狙う選手にとってはラストチャンスであり、まだ勝利を手にしていないチームが積極的に動くことは容易に想像出来る。
すでに多くのスプリンターがリタイアし、しかもこの日の地点には4級山岳が置かれている。3〜4級のカテゴリー山岳が散りばめられたコースは、100%スプリンター向きであると言えない。逃げのチャンスを掴むべく、この日もレースはアタックの応酬で始まった。
数名が集団から飛び出しては吸収され、続けざまに別の選手が飛び出す。平均50km/hに近いハイスピードな展開は、最初の3級山岳通過後にようやく落ち着く。メイン集団から飛び出した16名の中に、ユキヤが入った。
ユキヤとともに逃げたのはヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック・ニッサン)やエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)、ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)、アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、ミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)と言った面々。
逃げに選手を送り込めなかったラボバンク、オメガファーマ・クイックステップ、ソール・ソジャサン、アージェードゥーゼル、エウスカルテル、リクイガス・キャノンデールがメイン集団をコントロール。逃げとのタイム差は3分30秒を上限とし、レース後半にかけて縮小に転じる。
120km地点でコースに飛び出した犬が原因でフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)やデニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)、タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・シャープ)らが落車。幸いどの選手も問題なくレースに復帰している。
ゴールまで42kmを残した4級山岳でユキヤがアタックし、そのまま頂上を先頭通過。この動きによって逃げグループは14名まで絞られた。
ラスト30kmで早くもタイム差が1分割れ。するとゴールまで20kmを残して逃げグループからアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)とジェレミー・ロワ(フランス、FDJ・ビッグマット)がアタック。これによって逃げグループは完全に崩壊し、ユキヤは追走グループを形成して先頭を追うも、結局はチームスカイがリードするメイン集団に掴まってしまう。
諦めずにもう一段ペースを上げたヴィノクロフとルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)が先頭のハンセンに追いつき、30秒リードでこの日最後の4級山岳へ。気迫溢れるヴィノが4級山岳を先頭通過した。
メイン集団からはニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)、アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)、ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)の3人が飛び出し、前のヴィノクロフ、パオリーニ、ハンセンに合流。この先頭6名は10秒リードでラスト5kmアーチを潜る。
降り始めた雨によって濡れたコーナーを慎重にクリアする先頭6名。マイヨジョーヌを着るブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)自らがメイン集団を率い、この逃げを捕まえにかかる。
最終ストレートに入り、LLサンチェスとロッシュの2人が最後の抵抗。しかし、その後ろからマン島の超特急がかっ飛んできた。
ウィギンズとエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)の力を借りて好位置をキープしたカヴェンディッシュは、ライバルたちが躊躇うラスト300mでスプリントを開始する。
低い体勢でペダルを踏み込む世界チャンピオンが、リードアウト役の選手たちを抜き、先頭のLLサンチェスとロッシュを置き去りにする。為す術が無いまま肩を落とすライバルたちの数メートル前で、カヴが雄叫びのガッツポーズを見せた。
今大会2勝目、ならびにツール通算22勝目を飾ったカヴ。今年はウィギンズの総合狙いにフォーカスするチームスカイに移籍し、ロンドン五輪に合わせて体重を落としたこともあり、以前見せていたような圧倒的なパワーは影を潜めていた。
しかし、この日のスプリントは「速いカヴ」のそれだった。「インクレディブルだ(信じられない)」。カヴは18日ぶりの勝ちレースをそう表現する。「ゴール寸前まで逃げている選手がいたけど、チームメイトたちの走りはパーフェクトだった。監督は逃げ容認のオーダーを出したけど、ブラッド(ウィギンズ)が『スプリント勝負に持ち込もう』と言ってくれたんだ。そしてその通りになった。ブラッドやフルーミーはリラックスしてゴールすればそれで良かった。でも実際にはブラッドが引いて、それまで逃げていたエドヴァルド(ボアッソンハーゲン)リードアウト。彼らは最高のチームメイトたちだ」。カヴのロンドン五輪に向けた準備は万端。最終パリステージでも勝利を狙ってくるだろう。
マイヨジョーヌ、マイヨアポワ、マイヨブランの順位に変動は無し。この日はアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)が遅れたため、ステージ3位のペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)がマイヨヴェールのリードを広げることに成功している。
選手コメントはレース公式サイトより。
ツール・ド・フランス2012第18ステージ結果
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ) 4h54'12"
2位 マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
3位 ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)
4位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)
5位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)
6位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・シャープ)
7位 ボルト・ボジッチ(スロベニア、アスタナ)
8位 セバスティアン・イノー(フランス、アージェードゥーゼル)
9位 ダリル・インペイ(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)
10位 サミュエル・ドゥムラン(フランス、コフィディス)
115位 新城幸也(日本、ユーロップカー) +4'42"
個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) 83h22'18"
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +2'05"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) +2'41"
4位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル) +5'53"
5位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム) +8'30"
6位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) +9'57"
7位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン) +10'11"
8位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー) +10'17"
9位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、アスタナ) +11'00"
10位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット) +11'46"
84位 新城幸也(日本、ユーロップカー) +2h23'07"
ポイント賞 マイヨ・ヴェール
ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)
山岳賞 マイヨ・ブラン・アポワ・ルージュ
トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)
新人賞 マイヨ・ブラン
ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)
チーム総合成績
レディオシャック・ニッサン
敢闘賞
アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
マイヨジョーヌ争いの決着は翌日の第19ステージにお任せして、レースの主導権はスプリンターたちに戻される。この日はブラニャックからパリの方向を目指して222km北上。逃げ切りを狙う選手にとってはラストチャンスであり、まだ勝利を手にしていないチームが積極的に動くことは容易に想像出来る。
すでに多くのスプリンターがリタイアし、しかもこの日の地点には4級山岳が置かれている。3〜4級のカテゴリー山岳が散りばめられたコースは、100%スプリンター向きであると言えない。逃げのチャンスを掴むべく、この日もレースはアタックの応酬で始まった。
数名が集団から飛び出しては吸収され、続けざまに別の選手が飛び出す。平均50km/hに近いハイスピードな展開は、最初の3級山岳通過後にようやく落ち着く。メイン集団から飛び出した16名の中に、ユキヤが入った。
ユキヤとともに逃げたのはヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック・ニッサン)やエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)、ルイ・コスタ(ポルトガル、モビスター)、アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、ミハエル・アルバジーニ(スイス、オリカ・グリーンエッジ)と言った面々。
逃げに選手を送り込めなかったラボバンク、オメガファーマ・クイックステップ、ソール・ソジャサン、アージェードゥーゼル、エウスカルテル、リクイガス・キャノンデールがメイン集団をコントロール。逃げとのタイム差は3分30秒を上限とし、レース後半にかけて縮小に転じる。
120km地点でコースに飛び出した犬が原因でフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)やデニス・メンショフ(ロシア、カチューシャ)、タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・シャープ)らが落車。幸いどの選手も問題なくレースに復帰している。
ゴールまで42kmを残した4級山岳でユキヤがアタックし、そのまま頂上を先頭通過。この動きによって逃げグループは14名まで絞られた。
ラスト30kmで早くもタイム差が1分割れ。するとゴールまで20kmを残して逃げグループからアダム・ハンセン(オーストラリア、ロット・ベリソル)とジェレミー・ロワ(フランス、FDJ・ビッグマット)がアタック。これによって逃げグループは完全に崩壊し、ユキヤは追走グループを形成して先頭を追うも、結局はチームスカイがリードするメイン集団に掴まってしまう。
諦めずにもう一段ペースを上げたヴィノクロフとルーカ・パオリーニ(イタリア、カチューシャ)が先頭のハンセンに追いつき、30秒リードでこの日最後の4級山岳へ。気迫溢れるヴィノが4級山岳を先頭通過した。
メイン集団からはニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)、アンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック・ニッサン)、ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)の3人が飛び出し、前のヴィノクロフ、パオリーニ、ハンセンに合流。この先頭6名は10秒リードでラスト5kmアーチを潜る。
降り始めた雨によって濡れたコーナーを慎重にクリアする先頭6名。マイヨジョーヌを着るブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)自らがメイン集団を率い、この逃げを捕まえにかかる。
最終ストレートに入り、LLサンチェスとロッシュの2人が最後の抵抗。しかし、その後ろからマン島の超特急がかっ飛んできた。
ウィギンズとエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)の力を借りて好位置をキープしたカヴェンディッシュは、ライバルたちが躊躇うラスト300mでスプリントを開始する。
低い体勢でペダルを踏み込む世界チャンピオンが、リードアウト役の選手たちを抜き、先頭のLLサンチェスとロッシュを置き去りにする。為す術が無いまま肩を落とすライバルたちの数メートル前で、カヴが雄叫びのガッツポーズを見せた。
今大会2勝目、ならびにツール通算22勝目を飾ったカヴ。今年はウィギンズの総合狙いにフォーカスするチームスカイに移籍し、ロンドン五輪に合わせて体重を落としたこともあり、以前見せていたような圧倒的なパワーは影を潜めていた。
しかし、この日のスプリントは「速いカヴ」のそれだった。「インクレディブルだ(信じられない)」。カヴは18日ぶりの勝ちレースをそう表現する。「ゴール寸前まで逃げている選手がいたけど、チームメイトたちの走りはパーフェクトだった。監督は逃げ容認のオーダーを出したけど、ブラッド(ウィギンズ)が『スプリント勝負に持ち込もう』と言ってくれたんだ。そしてその通りになった。ブラッドやフルーミーはリラックスしてゴールすればそれで良かった。でも実際にはブラッドが引いて、それまで逃げていたエドヴァルド(ボアッソンハーゲン)リードアウト。彼らは最高のチームメイトたちだ」。カヴのロンドン五輪に向けた準備は万端。最終パリステージでも勝利を狙ってくるだろう。
マイヨジョーヌ、マイヨアポワ、マイヨブランの順位に変動は無し。この日はアンドレ・グライペル(ドイツ、ロット・ベリソル)が遅れたため、ステージ3位のペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)がマイヨヴェールのリードを広げることに成功している。
選手コメントはレース公式サイトより。
ツール・ド・フランス2012第18ステージ結果
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ) 4h54'12"
2位 マシュー・ゴス(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)
3位 ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)
4位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)
5位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)
6位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・シャープ)
7位 ボルト・ボジッチ(スロベニア、アスタナ)
8位 セバスティアン・イノー(フランス、アージェードゥーゼル)
9位 ダリル・インペイ(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)
10位 サミュエル・ドゥムラン(フランス、コフィディス)
115位 新城幸也(日本、ユーロップカー) +4'42"
個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) 83h22'18"
2位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ) +2'05"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) +2'41"
4位 ユルゲン・ファンデンブロック(ベルギー、ロット・ベリソル) +5'53"
5位 ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム) +8'30"
6位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) +9'57"
7位 アイマル・スベルディア(スペイン、レディオシャック・ニッサン) +10'11"
8位 ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー) +10'17"
9位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、アスタナ) +11'00"
10位 ティボー・ピノ(フランス、FDJ・ビッグマット) +11'46"
84位 新城幸也(日本、ユーロップカー) +2h23'07"
ポイント賞 マイヨ・ヴェール
ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)
山岳賞 マイヨ・ブラン・アポワ・ルージュ
トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー)
新人賞 マイヨ・ブラン
ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ、BMCレーシングチーム)
チーム総合成績
レディオシャック・ニッサン
敢闘賞
アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
Amazon.co.jp