2012/01/16(月) - 15:00
北京でのプレゼンテーションにおいてベールを脱いだアジア初のプロコンチネンタルチーム、チャンピオンシステム。チーム体制、そしてチームが目指すものとは。これから世界へ向けてステップアップを目指すその展望を訊いた。
■北京を新たなスタート地に選んだ新チーム
数年ぶりに訪れた北京の町は、徹底警備でピリピリしていた五輪シーズンに比べ、ちょっとリラックスした顔を見せていた。チームプレゼンテーションは1月11日、よく晴れた水曜日。
「ドライバーが今みんなランチだから30分ぐらい待ってね」と1時間ほどウエイティングしたあと、タクシーでホテルからプレゼンテーション会場の老山(ラオシャン)ベロドロームにむかう。北京五輪のために建設された、トラックのほかMTBやBMXのコースなどもある大きな自転車競技場だ。
翌12日の団体追抜予選を皮切りにUCIトラックワールドカップ第3戦がこのベロドロームで開催されることになっており、参戦する日本チームも姿を見せた。
到着したプレスルームはがらんとしていている。案内状を見せプレゼンテーション会場をきくと「??」と顔を見合わせている。スタッフ用送迎車で会場に向かった方に電話すると、どうも別の建物らしい。プレスルームに戻り、口伝てで書いたあやしげな簡体字のメモを見せると、ベロドロームの裏手に行けという。英語が併記された案内板によればそこは老山運動員公寓ことアスリートビレッジらしい。
開始時刻の14時はもう間もなくだ。建物入口のUCIトラックワールドカップのバナーを横目に、大急ぎでエレベーターで5階へ。廊下を急ぐと、両側の部屋はところどころ扉があいていて、USAやフランスのナショナルユニフォームが見える。この時期はUCIトラックワールドカップのチーム宿舎になっているようだ。
会議室のような部屋に無事到着すると、チャンピオンシステムの選手の顔と名前がプリントされた大きなバナーがずらり。正面のバックドロップの左右にはFUJIのチームバイク2台が展示され、すでに現地のスチールや動画のカメラマンたちが選手席や自転車を熱心に撮影している。
世界のあちこちから集まったチャンピオンシステムの関係者も社名入りのウエアに身を包んでこの場に参加し、再会の挨拶や情報交換をしている。
「無事着けました?」電話で会場を教えてくれたChampion System Japan社長のあべ木亮二さんが笑顔で迎えてくれた。
ファイルを抱え、笑顔で忙しそうに動き回っているのは、チャンピオンシステム香港サブヘッドオフィスのボス、ルイス・シーさん。2012チャンピオンシステムプロサイクリングチームのエグゼクティブマネージャーでもあり、チームを支える重要なスタッフのひとり。
参加予定だったニューヨーク本社のボスたち、スコット・ケイリンさんとモリー・エデルシュテインさんはトラブルのため香港で足止めされ、残念ながら参加できなくなってしまった模様だ。
どんな会社がこの「歴史的」チームのタイトルスポンサーなのだろうか。このプレゼンの前日、一足先に到着したあべきさんにその背景をうかがったのでその概要をまずお伝えしよう。
■アジアを重要拠点に世界を目指す
自転車、トライアスロン、カヌー、スキー、モータースポーツなどのウエアを扱うスポーツアパレルメーカーであるチャンピオンシステムは、6~7年前にニューヨークで設立された若い会社で、ブランドのトップである共同経営者は4人。
もともとニューヨークで15年近く一緒にレディスアパレルを扱っていたスコットさんとルイスさん。ともに自転車が好きで、既存のウエアの粗悪さを憂えていた。
そんなことからふたりはさらにニューヨークで自転車ショップを経営しているモーリさん、中国でグラフィックデザインを担当するT.S.タンさんと組み、チャンピオンシステムを立ち上げる。
世界各エリアの代理店は約20。アメリカ地域では米国、カナダ、メキシコ、アジア地域では中国、日本、韓国、香港、台湾、オセアニアではオーストラリア、ニュージーランド、欧州ではベルギー、スイス、チェコ、ドイツ、スペイン、フランス、英国、オランダ、ロシア、ウクライナといった国・地域でビジネスを展開している。
各地の代理店で受けたオーダーをデータで中国に送り、版のデザインから印刷、縫製、エンドユーザへの直接出荷までを中国で行うことで低価格を実現。またコンチネンタルチームなど世界のプロ選手からのフィードバックを反映させたクオリティで、さらなるビジネスの拡大をはかっている。2011年ジャパンカップクリテリウムでのスティール・ヴォンホフの優勝も記憶に新しいジェネシス(オーストラリア)や、トレンガヌ・プロアジア(マレーシア)、タブリス・ペトロケミカル(イラン)などのチームジャージも同社の製品だ。
世界トップレベルで戦うチームの活動には、莫大な資金を必要とする。チャンピオンシステム社内では、既存のチームをプロコンチネンタルチームに上げたほうがよいのか、あるいは別のプロツアーチームのサポートをしたほうがよいのか、会社としてどちらがよりプラスかの論議を重ねた。その後、プロツアーチームの選択肢が消えたことで、プロコンチネンタルチームにかける決断をしたという。
同社のカンパニープロフィールからは、成長途上にあるアジアを主役に据え、若い組織のチャレンジに共感するサポートを獲得し、サポーターとともに世界のトップシーンを目指す、という今期チームのフィロソフィが形成されていったバックボーンが推察される。
この日のプレゼンテーションでルイスさんは、「アジアのサイクリストたちをサポートしてきた我々はいま、次の段階のサポートを決意しました。チームのオーナー、そしてタイトルスポンサーとして、我々のエリート選手たちが世界のトッププロ選手たちと戦い、同時に中国の未来のスターを育てていくことに胸躍らせています」と語った。
■この「好機」を最大に活かすために
チームがプロコンチネンタルチーム昇格を決めた際のインタビューで、「5年でプロツアーに出ることを目標にしている」と語っていたエドワード・ビーモン ゼネラルマネージャーをはじめ、この日の多くのスピーカーが口に残した単語があった。「opportunity」。まさに「好機」と呼ぶにふさわしいこの1年の大きなチャンスをどう結実させて行くのか。
「我々はまさに歴史的な旅へと船出しました。ご臨席の皆様と、チャンピオンシステム、チャイニーズ・サイクリング・アソシエーション、とりわけFUJIをはじめとする、スポンサーの皆様に感謝します。このチームはプロフェッショナルサイクリングの未開の地を拓くものです。アジアの選手たちのグループが初めて全世界のトップライダーたちに立ち向かう、もっとも大きな好機なのです」とビーモン ゼネラルマネージャーは言う。
「うまくいけば我々はこのチームをツールドフランス、そしてワールドツアーに連れて行くことができます。そして希望と夢を、たくさんのアジア、そして中国の子供たちにもたらすことができるでしょう。」とも。
FUJIなどのブランドを擁するADVANCED SPORTSからも、クリス・リンタマン副社長とミレイ・ガルベツ スポンサーシップマネージャーが登壇し、2台のバイク、FUJIアルタミラとSSTを前にして言葉を継ぐ。「チームバイクスポンサーのFUJIにとっても、過去と現在をつなぐ好機です。FUJIはもともと日本で1899年に創業され、その日米富士自転車を引き継いで発展した我々は、アジアに深いルーツを持っています。アジア初のプロコンチネンタルチームのチャンピオンシステムとともに仕事をすることは、我々にとって、ブランドとしてすばらしい好機です。」
その好機を最大に活かし、萌芽を育むというミッションのために、チームのそれぞれが重要な役割を担う。選手紹介の壇上で、ツール・ド・フランスでステージ優勝4回などの華麗なキャリアを紹介されたのち、マイクを向けられヤン・キルシプーはこう語った。「これはカムバックではなく、私のキャリアの別パートであり、私は違った任務にあるのです」。
ビーモン ゼネラルマネージャーに「今期は、プロツアーで経験ある欧米選手が一緒に走ることでアジアの選手たちを育てていくというチーム構成かと思いますが?」と訊くと、彼は「フム」とうなずいた。
「今シーズン、ヤン・キルシプーはキャプテン?」と聞くと「ティーチャー!」との答えが返ってきた。「エデュケーショナル。フィニッシャーでなくです。」
現場で後輩たちを教えていくことが、今期チームのキルシプーの重要な仕事ということらしい。
いっぽう「アジア最速のスプリンター」ことアヌア・マナンは、チームでの自分の立ち位置をどう考えるのかを聞いてみた。「マレーシアのスーパースターであるあなたは、このアジア初のプロコンチネンタルチームの中で、どんな役目を持っていると思いますか?」
「たくさんのレースに勝つ必要がありますね」と大きくうなずいたマナン。「まずはツール・ド・ランカウイでいい結果を出すこと。五輪前のいい準備にもなるようにと思います。そしてアジアの自転車競技を育てていくには、中国や香港や、様々なアジアの選手たちが高いカテゴリのレースに出ていき、チャレンジャーとして戦っていくことが必要です。」
また、ルイスさんには、スポンサーとしての立場でこのチームのターゲットにどう近づいていくプランがあるかを聞いてみた。
「2~3年かけてチームを育てようと思っています。長期日程のレースでなく、ワンデイレースや2~3日のレースを重視してしっかり結果を積み上げたい。
ファンドレイジングですか? それはまさに、非常に重要な問題です。もちろんチームが結果を出すことは、チャンピオンシステムという会社にとっても、ビジネスの拡大につながります。ただ今年はチャンピオンシステムがタイトルスポンサーですが、その名にこだわらず、今シーズンよい結果を出してより大きなスポンサーを獲得していくことも考えています。」
■多様な持ち味の「18人の侍」たち
2012年のチームメンバーは8人のアジア選手を含む10カ国からの18人。昨年からの顔ぶれは数名で、チームの核となるベテランスプリンター、ヤン・キルシプー(エストニア)、エストニアのU23チャンピオンのマート・オジャビー、2009年にチェコのプロコンチネンタルチームPSKワールプールの選手としてRace of Solidarity and Olympics(ポーランド、UCI2.1)ステージ優勝などの実績をもつマチアス・フリーダマン(ドイツ)らの選手たちだ。
そして新たに、レオパード・トレックからウィリアム・クラーク(オーストラリア)、HTC・ハイロードからクレイグ・ルイス(米国)、バカンソレイユ・DCMからゴリク・ガルデイン(ベルギー)など、UCIプロチーム経験者たちを迎え、大きな力を得た今シーズン。アスタナに在籍していたアーロン・ケンプスや、プロツアーチームの研修生を経験した若手選手らもチームに加わった。
アジア勢を見てみると、ランプレでの研修生経験があり、2005年ツアー・オブ・サウスチャイナシー個人総合優勝などの実績を持つウー・キンサン(ホンコン)が引き続きチームに残った。ホンコンからもう1名、加えて、中国より4名、マレーシアより2名がチームロースターに名を連ねている。
2011年ツール・ド・コリアでステージ優勝、ナショナルチャンピオン4回などの経歴を持つガン・ジュ(中国)、BMX出身で、アジアBMX選手権では2005~2010年に連続してチャンピオンとなったスティーブン・ワン(香港)など、持ち味の異なったメンバーがチームに揃う。
また、中国のジャーナリストによれば、ビァオ・リウ(中国)はツアー・オブ・チンハイレイクでもおなじみの、標高の高いチンハイ(青海)の出身。新顔だが自転車のキャリアは長く、耐久力を持ち味とする選手だという。
マレーシアからは、トレンガヌ・プロアジアより、マレーシアで絶大な人気を誇るアヌア・マナン。そして元マレーシアナショナルロードチャンピオンのアディク・オスマンが加わった。
日本人選手は残念ながら今回は含まれていないが、チームが順調に駒を進め、チームのニーズと日本選手の条件が合致すれば、国際標準の感覚のなかで世界のトップをめざす一つのルートとして、日本の選手たちにとってもこのチームが大きな存在になっていく可能性も充分にありそうだ。
じつはチームからは福島晋一に強いオファーを送っていた。しかしトレンガヌ・プロアジアの「核」である福島は、その魅力に迷いながらもマレーシア拠点のトレンガヌへの残留を決めたという経緯がある。
■レーススケジュール
チームのwebには、UCIワールドツアーレースである10月のツアー・オブ・北京のほか、10以上のUCI2.HC(超級)のレースを含んだレーススケジュールが掲載されている。
なお、RSCスポルトが開催するジロ・デ・イタリアなどの主要レースのワイルドカード候補にチャンピオンシステムもその名を連ねていたが、10日に発表された招待リストには、残念ながらチームの名はなかった。
エドワード・ビーモン ゼネラルマネージャーは今後の出場予定についてこう語る。
「webに掲載されているレースは、交渉中のものも含んでいてまだ完全に決定したものではありませんが、チャンピオンシステムはアジアを拠点とするチームで、中国はとても重要です。アジアの大きなレースを最も重要と考えていますが、そのほかに、ヨーロッパやアメリカ、オセアニアなど、世界のレースにも出場していく予定です。
まずはチームにとって、とても大きなチャンスが、2月のツアー・オブ・カタールだと考えています。」
現時点で出場の方向が固まりつつあるとルイスさんが言うレースのリストを、原稿末尾に掲載した。この「opportunity」―幸運なチャンスである2012シーズン、チームはどう戦い、歴史にどんな足跡を残すのだろうか。
壇上では、カメラを向けられるとチームバイクを手に慣れた様子でポーズするガルデイン、チャイニーズ選手たちの集合写真をリクエストするカメラマンたち、マイクを向けスタッフや選手にインタビューするクルーなど、プレゼンテーション終了後も、いつまでも熱心な撮影や取材が続いていた。
【チャンピオンシステムの主な2012出場予定レース】
2月
ツアー・オブ・カタール(カタール、UCI2.HC)
ツアー・オブ・オマーン(オマーン、UCI2.HC)
3月
ツール・ド・ランカウイ(マレーシア、UCI2.HC)
ツール・ド・台湾(台湾、UCI2.1)
コッピ・バルタリ(イタリア、UCI2.1)
4月
ツール・ド・コリア(韓国、UCI2.2)
5月
ツール・ド・カリフォルニア(米国、UCI2.HC)
ツアー・オブ・ジャパン(日本、UCI2.2)
ツアー・オブ・ベルギー(ベルギー、UCI2.HC)
6月
ツール・ド・ボース(カナダ、UCI2.2)
7月
ツアー・オブ・チャイナ(中国、UCI2.1)
ツアー・オブ・チンハイレイク(中国、UCI2.HC)
8月
ツアー・オブ・エルクグローブ(米国、UCI2.1)
ツアー・オブ・ユタ(米国、UCI2.1)
ツアー・オブ・コロラド(米国、UCI2.HC)
10月
ツアー・オブ・北京(中国、UCIワールドツアー)
photo&text:Yuko.SATO
■北京を新たなスタート地に選んだ新チーム
数年ぶりに訪れた北京の町は、徹底警備でピリピリしていた五輪シーズンに比べ、ちょっとリラックスした顔を見せていた。チームプレゼンテーションは1月11日、よく晴れた水曜日。
「ドライバーが今みんなランチだから30分ぐらい待ってね」と1時間ほどウエイティングしたあと、タクシーでホテルからプレゼンテーション会場の老山(ラオシャン)ベロドロームにむかう。北京五輪のために建設された、トラックのほかMTBやBMXのコースなどもある大きな自転車競技場だ。
翌12日の団体追抜予選を皮切りにUCIトラックワールドカップ第3戦がこのベロドロームで開催されることになっており、参戦する日本チームも姿を見せた。
到着したプレスルームはがらんとしていている。案内状を見せプレゼンテーション会場をきくと「??」と顔を見合わせている。スタッフ用送迎車で会場に向かった方に電話すると、どうも別の建物らしい。プレスルームに戻り、口伝てで書いたあやしげな簡体字のメモを見せると、ベロドロームの裏手に行けという。英語が併記された案内板によればそこは老山運動員公寓ことアスリートビレッジらしい。
開始時刻の14時はもう間もなくだ。建物入口のUCIトラックワールドカップのバナーを横目に、大急ぎでエレベーターで5階へ。廊下を急ぐと、両側の部屋はところどころ扉があいていて、USAやフランスのナショナルユニフォームが見える。この時期はUCIトラックワールドカップのチーム宿舎になっているようだ。
会議室のような部屋に無事到着すると、チャンピオンシステムの選手の顔と名前がプリントされた大きなバナーがずらり。正面のバックドロップの左右にはFUJIのチームバイク2台が展示され、すでに現地のスチールや動画のカメラマンたちが選手席や自転車を熱心に撮影している。
世界のあちこちから集まったチャンピオンシステムの関係者も社名入りのウエアに身を包んでこの場に参加し、再会の挨拶や情報交換をしている。
「無事着けました?」電話で会場を教えてくれたChampion System Japan社長のあべ木亮二さんが笑顔で迎えてくれた。
ファイルを抱え、笑顔で忙しそうに動き回っているのは、チャンピオンシステム香港サブヘッドオフィスのボス、ルイス・シーさん。2012チャンピオンシステムプロサイクリングチームのエグゼクティブマネージャーでもあり、チームを支える重要なスタッフのひとり。
参加予定だったニューヨーク本社のボスたち、スコット・ケイリンさんとモリー・エデルシュテインさんはトラブルのため香港で足止めされ、残念ながら参加できなくなってしまった模様だ。
どんな会社がこの「歴史的」チームのタイトルスポンサーなのだろうか。このプレゼンの前日、一足先に到着したあべきさんにその背景をうかがったのでその概要をまずお伝えしよう。
■アジアを重要拠点に世界を目指す
自転車、トライアスロン、カヌー、スキー、モータースポーツなどのウエアを扱うスポーツアパレルメーカーであるチャンピオンシステムは、6~7年前にニューヨークで設立された若い会社で、ブランドのトップである共同経営者は4人。
もともとニューヨークで15年近く一緒にレディスアパレルを扱っていたスコットさんとルイスさん。ともに自転車が好きで、既存のウエアの粗悪さを憂えていた。
そんなことからふたりはさらにニューヨークで自転車ショップを経営しているモーリさん、中国でグラフィックデザインを担当するT.S.タンさんと組み、チャンピオンシステムを立ち上げる。
世界各エリアの代理店は約20。アメリカ地域では米国、カナダ、メキシコ、アジア地域では中国、日本、韓国、香港、台湾、オセアニアではオーストラリア、ニュージーランド、欧州ではベルギー、スイス、チェコ、ドイツ、スペイン、フランス、英国、オランダ、ロシア、ウクライナといった国・地域でビジネスを展開している。
各地の代理店で受けたオーダーをデータで中国に送り、版のデザインから印刷、縫製、エンドユーザへの直接出荷までを中国で行うことで低価格を実現。またコンチネンタルチームなど世界のプロ選手からのフィードバックを反映させたクオリティで、さらなるビジネスの拡大をはかっている。2011年ジャパンカップクリテリウムでのスティール・ヴォンホフの優勝も記憶に新しいジェネシス(オーストラリア)や、トレンガヌ・プロアジア(マレーシア)、タブリス・ペトロケミカル(イラン)などのチームジャージも同社の製品だ。
世界トップレベルで戦うチームの活動には、莫大な資金を必要とする。チャンピオンシステム社内では、既存のチームをプロコンチネンタルチームに上げたほうがよいのか、あるいは別のプロツアーチームのサポートをしたほうがよいのか、会社としてどちらがよりプラスかの論議を重ねた。その後、プロツアーチームの選択肢が消えたことで、プロコンチネンタルチームにかける決断をしたという。
同社のカンパニープロフィールからは、成長途上にあるアジアを主役に据え、若い組織のチャレンジに共感するサポートを獲得し、サポーターとともに世界のトップシーンを目指す、という今期チームのフィロソフィが形成されていったバックボーンが推察される。
この日のプレゼンテーションでルイスさんは、「アジアのサイクリストたちをサポートしてきた我々はいま、次の段階のサポートを決意しました。チームのオーナー、そしてタイトルスポンサーとして、我々のエリート選手たちが世界のトッププロ選手たちと戦い、同時に中国の未来のスターを育てていくことに胸躍らせています」と語った。
■この「好機」を最大に活かすために
チームがプロコンチネンタルチーム昇格を決めた際のインタビューで、「5年でプロツアーに出ることを目標にしている」と語っていたエドワード・ビーモン ゼネラルマネージャーをはじめ、この日の多くのスピーカーが口に残した単語があった。「opportunity」。まさに「好機」と呼ぶにふさわしいこの1年の大きなチャンスをどう結実させて行くのか。
「我々はまさに歴史的な旅へと船出しました。ご臨席の皆様と、チャンピオンシステム、チャイニーズ・サイクリング・アソシエーション、とりわけFUJIをはじめとする、スポンサーの皆様に感謝します。このチームはプロフェッショナルサイクリングの未開の地を拓くものです。アジアの選手たちのグループが初めて全世界のトップライダーたちに立ち向かう、もっとも大きな好機なのです」とビーモン ゼネラルマネージャーは言う。
「うまくいけば我々はこのチームをツールドフランス、そしてワールドツアーに連れて行くことができます。そして希望と夢を、たくさんのアジア、そして中国の子供たちにもたらすことができるでしょう。」とも。
FUJIなどのブランドを擁するADVANCED SPORTSからも、クリス・リンタマン副社長とミレイ・ガルベツ スポンサーシップマネージャーが登壇し、2台のバイク、FUJIアルタミラとSSTを前にして言葉を継ぐ。「チームバイクスポンサーのFUJIにとっても、過去と現在をつなぐ好機です。FUJIはもともと日本で1899年に創業され、その日米富士自転車を引き継いで発展した我々は、アジアに深いルーツを持っています。アジア初のプロコンチネンタルチームのチャンピオンシステムとともに仕事をすることは、我々にとって、ブランドとしてすばらしい好機です。」
その好機を最大に活かし、萌芽を育むというミッションのために、チームのそれぞれが重要な役割を担う。選手紹介の壇上で、ツール・ド・フランスでステージ優勝4回などの華麗なキャリアを紹介されたのち、マイクを向けられヤン・キルシプーはこう語った。「これはカムバックではなく、私のキャリアの別パートであり、私は違った任務にあるのです」。
ビーモン ゼネラルマネージャーに「今期は、プロツアーで経験ある欧米選手が一緒に走ることでアジアの選手たちを育てていくというチーム構成かと思いますが?」と訊くと、彼は「フム」とうなずいた。
「今シーズン、ヤン・キルシプーはキャプテン?」と聞くと「ティーチャー!」との答えが返ってきた。「エデュケーショナル。フィニッシャーでなくです。」
現場で後輩たちを教えていくことが、今期チームのキルシプーの重要な仕事ということらしい。
いっぽう「アジア最速のスプリンター」ことアヌア・マナンは、チームでの自分の立ち位置をどう考えるのかを聞いてみた。「マレーシアのスーパースターであるあなたは、このアジア初のプロコンチネンタルチームの中で、どんな役目を持っていると思いますか?」
「たくさんのレースに勝つ必要がありますね」と大きくうなずいたマナン。「まずはツール・ド・ランカウイでいい結果を出すこと。五輪前のいい準備にもなるようにと思います。そしてアジアの自転車競技を育てていくには、中国や香港や、様々なアジアの選手たちが高いカテゴリのレースに出ていき、チャレンジャーとして戦っていくことが必要です。」
また、ルイスさんには、スポンサーとしての立場でこのチームのターゲットにどう近づいていくプランがあるかを聞いてみた。
「2~3年かけてチームを育てようと思っています。長期日程のレースでなく、ワンデイレースや2~3日のレースを重視してしっかり結果を積み上げたい。
ファンドレイジングですか? それはまさに、非常に重要な問題です。もちろんチームが結果を出すことは、チャンピオンシステムという会社にとっても、ビジネスの拡大につながります。ただ今年はチャンピオンシステムがタイトルスポンサーですが、その名にこだわらず、今シーズンよい結果を出してより大きなスポンサーを獲得していくことも考えています。」
■多様な持ち味の「18人の侍」たち
2012年のチームメンバーは8人のアジア選手を含む10カ国からの18人。昨年からの顔ぶれは数名で、チームの核となるベテランスプリンター、ヤン・キルシプー(エストニア)、エストニアのU23チャンピオンのマート・オジャビー、2009年にチェコのプロコンチネンタルチームPSKワールプールの選手としてRace of Solidarity and Olympics(ポーランド、UCI2.1)ステージ優勝などの実績をもつマチアス・フリーダマン(ドイツ)らの選手たちだ。
そして新たに、レオパード・トレックからウィリアム・クラーク(オーストラリア)、HTC・ハイロードからクレイグ・ルイス(米国)、バカンソレイユ・DCMからゴリク・ガルデイン(ベルギー)など、UCIプロチーム経験者たちを迎え、大きな力を得た今シーズン。アスタナに在籍していたアーロン・ケンプスや、プロツアーチームの研修生を経験した若手選手らもチームに加わった。
アジア勢を見てみると、ランプレでの研修生経験があり、2005年ツアー・オブ・サウスチャイナシー個人総合優勝などの実績を持つウー・キンサン(ホンコン)が引き続きチームに残った。ホンコンからもう1名、加えて、中国より4名、マレーシアより2名がチームロースターに名を連ねている。
2011年ツール・ド・コリアでステージ優勝、ナショナルチャンピオン4回などの経歴を持つガン・ジュ(中国)、BMX出身で、アジアBMX選手権では2005~2010年に連続してチャンピオンとなったスティーブン・ワン(香港)など、持ち味の異なったメンバーがチームに揃う。
また、中国のジャーナリストによれば、ビァオ・リウ(中国)はツアー・オブ・チンハイレイクでもおなじみの、標高の高いチンハイ(青海)の出身。新顔だが自転車のキャリアは長く、耐久力を持ち味とする選手だという。
マレーシアからは、トレンガヌ・プロアジアより、マレーシアで絶大な人気を誇るアヌア・マナン。そして元マレーシアナショナルロードチャンピオンのアディク・オスマンが加わった。
日本人選手は残念ながら今回は含まれていないが、チームが順調に駒を進め、チームのニーズと日本選手の条件が合致すれば、国際標準の感覚のなかで世界のトップをめざす一つのルートとして、日本の選手たちにとってもこのチームが大きな存在になっていく可能性も充分にありそうだ。
じつはチームからは福島晋一に強いオファーを送っていた。しかしトレンガヌ・プロアジアの「核」である福島は、その魅力に迷いながらもマレーシア拠点のトレンガヌへの残留を決めたという経緯がある。
■レーススケジュール
チームのwebには、UCIワールドツアーレースである10月のツアー・オブ・北京のほか、10以上のUCI2.HC(超級)のレースを含んだレーススケジュールが掲載されている。
なお、RSCスポルトが開催するジロ・デ・イタリアなどの主要レースのワイルドカード候補にチャンピオンシステムもその名を連ねていたが、10日に発表された招待リストには、残念ながらチームの名はなかった。
エドワード・ビーモン ゼネラルマネージャーは今後の出場予定についてこう語る。
「webに掲載されているレースは、交渉中のものも含んでいてまだ完全に決定したものではありませんが、チャンピオンシステムはアジアを拠点とするチームで、中国はとても重要です。アジアの大きなレースを最も重要と考えていますが、そのほかに、ヨーロッパやアメリカ、オセアニアなど、世界のレースにも出場していく予定です。
まずはチームにとって、とても大きなチャンスが、2月のツアー・オブ・カタールだと考えています。」
現時点で出場の方向が固まりつつあるとルイスさんが言うレースのリストを、原稿末尾に掲載した。この「opportunity」―幸運なチャンスである2012シーズン、チームはどう戦い、歴史にどんな足跡を残すのだろうか。
壇上では、カメラを向けられるとチームバイクを手に慣れた様子でポーズするガルデイン、チャイニーズ選手たちの集合写真をリクエストするカメラマンたち、マイクを向けスタッフや選手にインタビューするクルーなど、プレゼンテーション終了後も、いつまでも熱心な撮影や取材が続いていた。
【チャンピオンシステムの主な2012出場予定レース】
2月
ツアー・オブ・カタール(カタール、UCI2.HC)
ツアー・オブ・オマーン(オマーン、UCI2.HC)
3月
ツール・ド・ランカウイ(マレーシア、UCI2.HC)
ツール・ド・台湾(台湾、UCI2.1)
コッピ・バルタリ(イタリア、UCI2.1)
4月
ツール・ド・コリア(韓国、UCI2.2)
5月
ツール・ド・カリフォルニア(米国、UCI2.HC)
ツアー・オブ・ジャパン(日本、UCI2.2)
ツアー・オブ・ベルギー(ベルギー、UCI2.HC)
6月
ツール・ド・ボース(カナダ、UCI2.2)
7月
ツアー・オブ・チャイナ(中国、UCI2.1)
ツアー・オブ・チンハイレイク(中国、UCI2.HC)
8月
ツアー・オブ・エルクグローブ(米国、UCI2.1)
ツアー・オブ・ユタ(米国、UCI2.1)
ツアー・オブ・コロラド(米国、UCI2.HC)
10月
ツアー・オブ・北京(中国、UCIワールドツアー)
photo&text:Yuko.SATO
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