ダンジェロ&アンティヌッチィ・NIPPOとともに初めてのシーズンを終えた大西恵太メカ。慣れない環境で奮闘しながらも、実り多きシーズンになったと振り返る。連載2回目となる今回の手記は、シーズン後半での学びについて。文化や考え方の違いなど、貴重な経験を積むことができた。

レース後に洗車を行う大西恵太メカニック(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)レース後に洗車を行う大西恵太メカニック(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO) (c)Sonoko.TANAKA転戦にも慣れたシーズン後半

シーズン後半はすべてイタリア国内でのレースでした。前半でイタリア国外でのレースを経験したこともあり言葉も勝手も慣れていたぶん、気持ちに余裕をもって仕事を行うよう心がけました。

1チーム8人出走のレースや、プロツアーチームも参加するカテゴリーの高いレースも多く、限られた時間の中で質の高い仕事をしなければならない……と、毎レース気の引き締まる思いでした。

選手の自転車はレースごとに洗車と細部におよぶチェックを受けているので、常に非常に良い状態に保たれていますが、さすがにシーズン終盤になると激しいレース使用で不具合が増えてきたりもします。そのため遠征の間では、チーム拠点の倉庫で作業する時間が増え、シーズン序盤とは違った忙しさが出てきたりもしました。

選手との信頼関係が生まれ始めた

レースに向けてホテルで作業を進めるレースに向けてホテルで作業を進める photo : Keita ONISHI今年の初めからチームに合流させてもらい、シーズン後半になるとチームの遠征ほぼすべてに帯同しているため、選手やスタッフと接することにも慣れてきて、冗談を言ったりおどけて見せたりと“いつもいる日本人”として皆に認識された気がします。

ヨーロッパの活動に専念できるように日本国内のレースには帯同しないで良いという大門監督の計らいにより、ヨーロッパでのチーム遠征に帯同し続けることができました。どういう形であれ信頼されることが重要であり、新米で言葉も不十分な自分にとってイタリアに長くいられたことが、自分の居場所を作るという意味でも良かったことだと思っています。

選手からもらった2枚のリーダージャージ選手からもらった2枚のリーダージャージ photo : Keita ONISHI特別賞のジャージを獲得した選手がレース後にくれた2枚のジャージ、青玉のジャージはツール・ド・スロバキアの全8ステージ中前半にリケーゼ、後半にルビアーノとチームが独占していたスプリント賞のジャージです。ルビアーノが獲得して2日目に渡してくれました。オレンジのジャージはセッティマーナ・ロンバルダと言うレースでリケーゼがスプリント賞を獲得した際のジャージです。洗車中の自分に突然渡してくれたのでとても驚いたのを覚えています。ロードレースに置いて重要な意味をもつジャージを選手にもらった時はとてもうれしい瞬間でした。大切に取っておきます。


肌で感じるイタリアとの文化の違い


チームスタッフがビールを楽しむ!?チームスタッフがビールを楽しむ!? photo : Keita ONISHI1年を通して学んだことは、言葉を始めチーム遠征の勝手など実質的なことだけでなく、遠い異国の人々の生活や考え方も自分にとっては非常に大きい事柄でした。自分が行き詰っているときなどに、チームスタッフであるイタリア人たちの言葉や、やり方に何度救われたことでしょう。それは日本人にはない発想や現地ならではのやり方、それに触れる度に自分がイタリアでしている事は日々貴重な経験の連続で、価値のある時間を過ごしていると思っています。

チーム倉庫での作業チーム倉庫での作業 photo : Keita ONISHIほとんどの日本人が考えない様なことを1人のイタリア人が言うことがあります。たとえば時間と食事に対する概念には慣れが必要でした。渡欧する前は、夕食の後も遅くまで自転車を整備して、朝に仕事は残さないようにと考えていましたが、現地人の言うことはまるで逆でした。夕食の後はリラックスタイムで仕事なんてありえない、ビールを飲みに行こうと言うのです。夕食後に仕事をしていると仕事が遅い、仕事ができない人に見られるのですね。

そのためには必死で夕食前に終るように仕事をするし、少し時間を過ぎてもシャワーを浴びてから夕食に向かうように言われました。もし仕事が残った場合朝の早起きは惜しまないで作業しています。良い仕事をするには良い食事と休息をとは、なんともイタリア人らしいなと思います。

そんなイタリア人に囲まれて活動している時間は何より自分の財産になっていると思います。日本人の真面目で几帳面なところは世界に誇れるところだと思っているので、国民性の違いなどもかみ締めながら、それも武器にして次のシーズンも頑張りたいと思います。


photo & text : Keita Onishi
edit : Sonoko TANAKA