2011/07/16(土) - 12:51
超級山岳オービスク峠を先頭から2分遅れで通過した世界チャンピオンが、40kmに渡る長いダウンヒルで挽回。ゴール前でライバルを引き離し、独走に持ち込んだトル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ)が、ノルウェー国旗が目立つルルドのゴールに飛び込んだ。
ピレネー3連戦の2日目、第13ステージの舞台はポーからルルドまでの152.5km。前後を重要な頂上ゴールに挟まれた比較的難易度の低いピレネー山岳ステージだ。
この日のピークは、後半に鎮座するピレネーの名峰、今年で73回目の登場となる超級山岳オービスク峠だ。平均勾配7.1%・登坂距離16.4kmのこの登りを越えると、ゴール地点ルルドまで42kmのダウンヒル。クライマーの士気が上がるステージで、序盤からスプリンターたちが積極的に動いた。
1時間目の平均スピードが49.1km/hに達するアタック合戦の末に、50km地点で10名の逃げグループが形成される。あまりのハイスピードな展開に、前日までの落車による怪我に苦しめられていたアンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)はバイクを降りた。
前日に逃げていたジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)が先陣を切り、9名がこれに合流。すでに総合で大きく遅れている10名だったため、マイヨジョーヌはユーロップカーは迷うこと無く先行を許した。
先頭10名の面子は多種多様。山岳スペシャリストとして知られるダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)の他、ウラディミール・グセフ(ロシア、カチューシャ)やジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)が入った。
何より目立ったのが、アルカンシェルのフースホフトとアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)、エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)というスプリンタートリオ。ステージ優勝を狙うこの3名は、82km地点のスプリントポイントに目もくれず、協力して6分のリードを築くことを優先した。
そして迎えた超級山岳オービスク峠。観客が詰めかけたこの登りが始まるとすぐ、世界チャンピオンのフースホフトがアタック。「山をこなせるスプリンター」の代名詞とも言えるフースホフトが、快調にシッティングで登りを進んだ。
追撃したロワとモンクティエに先行を許しながらも、フースホフトはペースを保って登坂を継続。モンクティエを振り切ってオービスク峠を登り切った2日連続逃げのロワは、一躍山岳賞ランキングの首位に立った。
オービスク峠の頂上通過時点で、ロワから53秒遅れでモンクティエ、2分03秒遅れでフースホフト、そして8分遅れでメイン集団という展開。最終的なマイヨジョーヌ狙いの有力チームは動きを見せず、ユーロップカーが一貫して集団をコントロールした。
霧立ちこめるオービスク峠の下りで、フースホフトはすぐにモンクティエをキャッチ。テクニカルコーナーを攻め、平坦区間では持ち前の独走力で追い上げる。やがてモンクティエが先頭交代を拒否したが、そんなこともお構い無しに突き進むフースホフト。
やがてゴールまで10kmを切ると、先頭ロワの背中が見えてくる。しかしフースホフトはすぐにロワを捕まえず、しばらく独走を継続させることでロワを消耗させる作戦に。しばらくロワを泳がせたフースホフトは、ラスト3kmでモンクティエを一瞬のうちに千切り、そしてラスト2.2kmで先頭ロワを抜き去って独走に。
歓声に包まれるルルドの街を、世界チャンピオンが闊歩。アルカンシェルが両手を突き上げ、難関山岳ステージのゴールに飛び込んだ。
「ツールの山岳ステージで勝てるとは思っていなかった!オービスク峠を上手く切り抜け、そして下りと平地で挽回。戦略的に完璧なレース運びだったよ」。目をほんのり赤くした世界チャンピオンが嬉しさを噛み締めながら語る。
2005年と2009年のツール・ド・フランスでマイヨヴェールを獲得し、スプリンターとしてステージ通算8勝を飾っているフースホフト。今年はマイヨヴェールに興味を示さず、エーススプリンターのタイラー・ファラー(アメリカ)とともにステージ優勝に専念。フースホフトは第2ステージのチームTTで総合首位に立つと、その後の山岳ステージでオールラウンダーに匹敵する登坂力を見せ、第9ステージまでマイヨジョーヌを着続けた。
「今年は1週目からタフなステージが続いたので、ここ数日は苦しんでいた。でも今朝起きた時、調子の良さを感じたので、逃げに乗ったんだ。レインボージャージを着て今日成し遂げたことを考えると本当にインクレディブルだ」。
「今年はすでにマイヨジョーヌを着た。でもこのレインボージャージを着てステージ優勝したいと切に願っていた。今日、それがこうして達成された。本当に満足している。集団スプリントでタイラー・ファラーが勝ち、チームTTでチームが勝ち、そしてこの勝利。チームはチャンスを一つも落としていない」。ガーミン・サーヴェロは第2・第3ステージに続くステージ3勝目だ。
2日連続で果敢に逃げながらも、世界チャンピオンに敗れ去ったロワはステージ3位。山岳賞ランキング首位の証、マイヨアポワを獲得したが、ステージ優勝を逃した失意は隠せない。「失望感は計り知れない。価値があるのはステージ優勝だけ。マイヨアポワが欲しくて逃げたんじゃない。ステージ優勝が欲しかった。下りが始まった時点で1分30秒のリードがあったので、逃げ切れると思った。でも向かい風が吹いていたし、ゴール手前の短い登りで失速した。僕のエンジンはもう煙を上げていた」。
チームメイトのアルノー・ジャネソン(フランス、FDJ)がマイヨブランを守っており、FDJは2つのスペシャルジャージを獲得。ロワは今大会2度目の敢闘賞に輝いている。
メイン集団は7分37秒遅れでゴール。下りで一人抜け出したフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)がステージ10位に入り、マイヨヴェールへの執念を見せた。
選手コメントはレース公式サイトより。
ツール・ド・フランス2011第13ステージ結果
1位 トル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ) 3h47'36"
2位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス) +10"
3位 ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ) +26"
4位 ラルスイティング・バク(デンマーク、HTC・ハイロード) +5'00"
5位 ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ) +5'02"
6位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ) +5'03"
7位 ウラディミール・グセフ(ロシア、カチューシャ) +5'08"
8位 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD) +5'16"
9位 マーティン・チャリンギ(オランダ、ラボバンク)
10位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +6'47"
個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) 55h49'57"
2位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +1'49"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) +2'06"
4位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +2'17"
5位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) +3'16"
6位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +3'22"
7位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク) +4'00"
8位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) +4'11"
9位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +4'35"
10位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)
ポイント賞 マイヨ・ヴェール
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード) 264pts
2位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター) 251pts
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) 240pts
山岳賞 マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ
1位 ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ) 45pts
2位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) 40pts
3位 イェーレ・ファネンデルト(ベルギー、オメガファーマ・ロット) 34pts
新人賞 マイヨ・ブラン
1位 アルノー・ジャネソン(フランス、FDJ) 55h55'47"
2位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス) +1'37"
3位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ) +2'05"
チーム総合成績
1位 ガーミン・サーヴェロ 166h54'52"
2位 レオパード・トレック +05"
3位 ユーロップカー +1'25"
敢闘賞
ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)
text:Kei Tsuji
photo:Makoto Ayano, Cor Vos
ピレネー3連戦の2日目、第13ステージの舞台はポーからルルドまでの152.5km。前後を重要な頂上ゴールに挟まれた比較的難易度の低いピレネー山岳ステージだ。
この日のピークは、後半に鎮座するピレネーの名峰、今年で73回目の登場となる超級山岳オービスク峠だ。平均勾配7.1%・登坂距離16.4kmのこの登りを越えると、ゴール地点ルルドまで42kmのダウンヒル。クライマーの士気が上がるステージで、序盤からスプリンターたちが積極的に動いた。
1時間目の平均スピードが49.1km/hに達するアタック合戦の末に、50km地点で10名の逃げグループが形成される。あまりのハイスピードな展開に、前日までの落車による怪我に苦しめられていたアンドレアス・クレーデン(ドイツ、レディオシャック)はバイクを降りた。
前日に逃げていたジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)が先陣を切り、9名がこれに合流。すでに総合で大きく遅れている10名だったため、マイヨジョーヌはユーロップカーは迷うこと無く先行を許した。
先頭10名の面子は多種多様。山岳スペシャリストとして知られるダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス)の他、ウラディミール・グセフ(ロシア、カチューシャ)やジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)が入った。
何より目立ったのが、アルカンシェルのフースホフトとアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD)、エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)というスプリンタートリオ。ステージ優勝を狙うこの3名は、82km地点のスプリントポイントに目もくれず、協力して6分のリードを築くことを優先した。
そして迎えた超級山岳オービスク峠。観客が詰めかけたこの登りが始まるとすぐ、世界チャンピオンのフースホフトがアタック。「山をこなせるスプリンター」の代名詞とも言えるフースホフトが、快調にシッティングで登りを進んだ。
追撃したロワとモンクティエに先行を許しながらも、フースホフトはペースを保って登坂を継続。モンクティエを振り切ってオービスク峠を登り切った2日連続逃げのロワは、一躍山岳賞ランキングの首位に立った。
オービスク峠の頂上通過時点で、ロワから53秒遅れでモンクティエ、2分03秒遅れでフースホフト、そして8分遅れでメイン集団という展開。最終的なマイヨジョーヌ狙いの有力チームは動きを見せず、ユーロップカーが一貫して集団をコントロールした。
霧立ちこめるオービスク峠の下りで、フースホフトはすぐにモンクティエをキャッチ。テクニカルコーナーを攻め、平坦区間では持ち前の独走力で追い上げる。やがてモンクティエが先頭交代を拒否したが、そんなこともお構い無しに突き進むフースホフト。
やがてゴールまで10kmを切ると、先頭ロワの背中が見えてくる。しかしフースホフトはすぐにロワを捕まえず、しばらく独走を継続させることでロワを消耗させる作戦に。しばらくロワを泳がせたフースホフトは、ラスト3kmでモンクティエを一瞬のうちに千切り、そしてラスト2.2kmで先頭ロワを抜き去って独走に。
歓声に包まれるルルドの街を、世界チャンピオンが闊歩。アルカンシェルが両手を突き上げ、難関山岳ステージのゴールに飛び込んだ。
「ツールの山岳ステージで勝てるとは思っていなかった!オービスク峠を上手く切り抜け、そして下りと平地で挽回。戦略的に完璧なレース運びだったよ」。目をほんのり赤くした世界チャンピオンが嬉しさを噛み締めながら語る。
2005年と2009年のツール・ド・フランスでマイヨヴェールを獲得し、スプリンターとしてステージ通算8勝を飾っているフースホフト。今年はマイヨヴェールに興味を示さず、エーススプリンターのタイラー・ファラー(アメリカ)とともにステージ優勝に専念。フースホフトは第2ステージのチームTTで総合首位に立つと、その後の山岳ステージでオールラウンダーに匹敵する登坂力を見せ、第9ステージまでマイヨジョーヌを着続けた。
「今年は1週目からタフなステージが続いたので、ここ数日は苦しんでいた。でも今朝起きた時、調子の良さを感じたので、逃げに乗ったんだ。レインボージャージを着て今日成し遂げたことを考えると本当にインクレディブルだ」。
「今年はすでにマイヨジョーヌを着た。でもこのレインボージャージを着てステージ優勝したいと切に願っていた。今日、それがこうして達成された。本当に満足している。集団スプリントでタイラー・ファラーが勝ち、チームTTでチームが勝ち、そしてこの勝利。チームはチャンスを一つも落としていない」。ガーミン・サーヴェロは第2・第3ステージに続くステージ3勝目だ。
2日連続で果敢に逃げながらも、世界チャンピオンに敗れ去ったロワはステージ3位。山岳賞ランキング首位の証、マイヨアポワを獲得したが、ステージ優勝を逃した失意は隠せない。「失望感は計り知れない。価値があるのはステージ優勝だけ。マイヨアポワが欲しくて逃げたんじゃない。ステージ優勝が欲しかった。下りが始まった時点で1分30秒のリードがあったので、逃げ切れると思った。でも向かい風が吹いていたし、ゴール手前の短い登りで失速した。僕のエンジンはもう煙を上げていた」。
チームメイトのアルノー・ジャネソン(フランス、FDJ)がマイヨブランを守っており、FDJは2つのスペシャルジャージを獲得。ロワは今大会2度目の敢闘賞に輝いている。
メイン集団は7分37秒遅れでゴール。下りで一人抜け出したフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)がステージ10位に入り、マイヨヴェールへの執念を見せた。
選手コメントはレース公式サイトより。
ツール・ド・フランス2011第13ステージ結果
1位 トル・フースホフト(ノルウェー、ガーミン・サーヴェロ) 3h47'36"
2位 ダヴィ・モンクティエ(フランス、コフィディス) +10"
3位 ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ) +26"
4位 ラルスイティング・バク(デンマーク、HTC・ハイロード) +5'00"
5位 ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ) +5'02"
6位 エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ) +5'03"
7位 ウラディミール・グセフ(ロシア、カチューシャ) +5'08"
8位 アレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ISD) +5'16"
9位 マーティン・チャリンギ(オランダ、ラボバンク)
10位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +6'47"
個人総合成績 マイヨ・ジョーヌ
1位 トマ・ヴォクレール(フランス、ユーロップカー) 55h49'57"
2位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +1'49"
3位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) +2'06"
4位 アンディ・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック) +2'17"
5位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) +3'16"
6位 ダミアーノ・クネゴ(イタリア、ランプレ・ISD) +3'22"
7位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク) +4'00"
8位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) +4'11"
9位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) +4'35"
10位 トム・ダニエルソン(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)
ポイント賞 マイヨ・ヴェール
1位 マーク・カヴェンディッシュ(イギリス、HTC・ハイロード) 264pts
2位 ホセホアキン・ロハス(スペイン、モビスター) 251pts
3位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) 240pts
山岳賞 マイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュ
1位 ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ) 45pts
2位 サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) 40pts
3位 イェーレ・ファネンデルト(ベルギー、オメガファーマ・ロット) 34pts
新人賞 マイヨ・ブラン
1位 アルノー・ジャネソン(フランス、FDJ) 55h55'47"
2位 レイン・ターラマエ(エストニア、コフィディス) +1'37"
3位 リゴベルト・ウラン(コロンビア、チームスカイ) +2'05"
チーム総合成績
1位 ガーミン・サーヴェロ 166h54'52"
2位 レオパード・トレック +05"
3位 ユーロップカー +1'25"
敢闘賞
ジェレミー・ロワ(フランス、FDJ)
text:Kei Tsuji
photo:Makoto Ayano, Cor Vos
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