2009/05/10(日) - 09:03
リード島に脚を踏み入れた瞬間、あたりはジロ・デ・イタリア一色。ヴェネツィアの沖に浮かぶフラットな島で、ジロ・デ・イタリア100年記念大会が開幕した。リード島へのヴァポレット(水上バス)の旅も含め現地からレポートしよう。
真っ平らなリード島で100周年大会が始動
ご存知の通り、ヴェネツィア島にクルマや自転車は入れない。入り組んだ水路や路地がモータリゼーションを拒んだおかげで、街全体が歩行者天国だ。トレニタリアが乗り入れるサンタルチア駅と隣接するピアッツァーレ・ローマのバスターミナルが外部からのアクセス拠点を担っている。
その拠点から水上バスに揺られること約30分。テーマパークに迷い込んだかと思うほどの壮観な景色が広がる水路を抜けると、沖合にリード島が見えてくる。
ヴェネツィアの潟とアドリア海を隔て、沈みゆくヴェネツィア本島を高潮から守っているというリード島は、全長11km、人口17000人の閑静な住宅が建ち並ぶシーサイドタウン。ジロの上陸を目の当たりにした地元のシニョーラ(ご婦人)は「こんな人が集まるのは、9月のフィルムフェスティバル以外見たことない」と目を丸くしていた。
個人的な話からさせてもらうと、当日現地入りしたため、島に着いて先ずすべきはプレス登録。IDカードが無ければ動きたくても動けない。しかしいざプレスルームに着いてみると、スタート数時間前にもかかわらず「お昼休みだから担当者はいないよ!」という刺激的なお知らせ。
各国フォトグラファーと一緒に「もうレースが始まるんですけど!」と主張しても、「我々は4日間もプレスルームを開いていた。まだ登録していないのはアンタのせいだ!」と、もっともなカウンターアタック。アタフタしながら登録を済ませてプレスルームを出た頃には、すでにスタートまで30分を切っていた。
早足でコースに繰り出し、肩で息をしながら撮影ポイントを探す。舗装されたばかりの滑らかな路面を進むが、ド平坦な直線基調のコースのため、歩けども歩けどもコーナーが見えてこない。タイムオーバーで腰を据えたのは、スタート500m先の木々に覆われたストレートだった。
息を整えながら用意をしていると、70歳ぐらいのシニョーレ(おじさん)が、コースの数十メートル先の家から孫の手を引いてご機嫌な表情で歩いてきた。聞けば、ヴェネツィアに住んでいる孫が、ジロが見たいからとリード島の家に遊びに来ているという。出場しているチームや選手についてはほとんど知識が無かったようだが、風を切り裂いて駆け抜ける選手たちに2人とも目を輝かせていた。
コロンビアの主砲カヴェンディッシュの知名度↑
速いチームはキレイだ。顔のルックスではなく、規則正しいローテーションで巡航する様は美しい。そういったチームは順当に上位に食い込んでくる。
抽選で出走順が決められたというチームタイムトライアルは、奇しくも有力&注目チームが最初と最後に。第一走のチームコロンビアがトップタイムを叩き出した。平均スピードは56.335km/h。カーブが少ないだけに超高速だ。
タイム更新を狙うチームが5分毎にスタートしていくが、コロンビアを打ち破るチームは現れない。「ランスを見るためにここまで来たんだ!」というアメリカ人たちの期待をよそに、最終走のアスタナは3位に。アメリカ登録の多国籍チームコロンビアがマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)にマリアローザをプレゼントした。
「ジャージを着ているのは僕。でもこれはチームの勝利だ」と記者会見で語ったカヴェンディッシュ。春先のミラノ〜サンレモを劇的なスプリントで制し、ついにジロでマリアローザを着た。スプリント指導役を担うエリック・ツァベル(ドイツ)もゴール地点にかけつけ、快進撃を見せる若武者を讃えた。
レース終了後、ホテルに到着するまでに「今日は誰が勝った?」と何度も聞かれたが、「イギリスのカヴェンディッシュ」と答えると、「ああ、サンレモの彼ね、強い彼ね」という返事ばかり。イタリア国内における知名度は確固たるものになったといっていいだろう。表彰式ではニックネームの「キャノンボール」が連呼されていた。
昨年ジロのチームタイムトライアルを制したガーミンは、TTスペシャリストをズラリと揃えてタイトル防衛に挑んだが、6秒差に泣いた。中間計測タイムではチームコロンビアとガーミンはほぼ互角。しかし後半に伸び悩み、昨年7秒差で下したチームコロンビアに敗北した。
プレスルームを抜け出し、水上バス乗り場に向かう頃には、オレンジの太陽が霞むヴェネツィアの向こうへと沈んでいった。
センチメンタルな気持ちに浸っていると、どうも周囲が排気ガス臭い。見渡すと、本島へ渡る関係車両がフェリー待ちで長蛇の列を作っていた。「今晩はトリエステに行くんだ」と、早くも疲れた表情を見せる運転手が教えてくれる。3週間続くジロ。トリエステにゴールする翌日のステージも、カヴェンディッシュを優勝候補に推す声は強い。
text&photo:Kei TSUJI
真っ平らなリード島で100周年大会が始動
ご存知の通り、ヴェネツィア島にクルマや自転車は入れない。入り組んだ水路や路地がモータリゼーションを拒んだおかげで、街全体が歩行者天国だ。トレニタリアが乗り入れるサンタルチア駅と隣接するピアッツァーレ・ローマのバスターミナルが外部からのアクセス拠点を担っている。
その拠点から水上バスに揺られること約30分。テーマパークに迷い込んだかと思うほどの壮観な景色が広がる水路を抜けると、沖合にリード島が見えてくる。
ヴェネツィアの潟とアドリア海を隔て、沈みゆくヴェネツィア本島を高潮から守っているというリード島は、全長11km、人口17000人の閑静な住宅が建ち並ぶシーサイドタウン。ジロの上陸を目の当たりにした地元のシニョーラ(ご婦人)は「こんな人が集まるのは、9月のフィルムフェスティバル以外見たことない」と目を丸くしていた。
個人的な話からさせてもらうと、当日現地入りしたため、島に着いて先ずすべきはプレス登録。IDカードが無ければ動きたくても動けない。しかしいざプレスルームに着いてみると、スタート数時間前にもかかわらず「お昼休みだから担当者はいないよ!」という刺激的なお知らせ。
各国フォトグラファーと一緒に「もうレースが始まるんですけど!」と主張しても、「我々は4日間もプレスルームを開いていた。まだ登録していないのはアンタのせいだ!」と、もっともなカウンターアタック。アタフタしながら登録を済ませてプレスルームを出た頃には、すでにスタートまで30分を切っていた。
早足でコースに繰り出し、肩で息をしながら撮影ポイントを探す。舗装されたばかりの滑らかな路面を進むが、ド平坦な直線基調のコースのため、歩けども歩けどもコーナーが見えてこない。タイムオーバーで腰を据えたのは、スタート500m先の木々に覆われたストレートだった。
息を整えながら用意をしていると、70歳ぐらいのシニョーレ(おじさん)が、コースの数十メートル先の家から孫の手を引いてご機嫌な表情で歩いてきた。聞けば、ヴェネツィアに住んでいる孫が、ジロが見たいからとリード島の家に遊びに来ているという。出場しているチームや選手についてはほとんど知識が無かったようだが、風を切り裂いて駆け抜ける選手たちに2人とも目を輝かせていた。
コロンビアの主砲カヴェンディッシュの知名度↑
速いチームはキレイだ。顔のルックスではなく、規則正しいローテーションで巡航する様は美しい。そういったチームは順当に上位に食い込んでくる。
抽選で出走順が決められたというチームタイムトライアルは、奇しくも有力&注目チームが最初と最後に。第一走のチームコロンビアがトップタイムを叩き出した。平均スピードは56.335km/h。カーブが少ないだけに超高速だ。
タイム更新を狙うチームが5分毎にスタートしていくが、コロンビアを打ち破るチームは現れない。「ランスを見るためにここまで来たんだ!」というアメリカ人たちの期待をよそに、最終走のアスタナは3位に。アメリカ登録の多国籍チームコロンビアがマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)にマリアローザをプレゼントした。
「ジャージを着ているのは僕。でもこれはチームの勝利だ」と記者会見で語ったカヴェンディッシュ。春先のミラノ〜サンレモを劇的なスプリントで制し、ついにジロでマリアローザを着た。スプリント指導役を担うエリック・ツァベル(ドイツ)もゴール地点にかけつけ、快進撃を見せる若武者を讃えた。
レース終了後、ホテルに到着するまでに「今日は誰が勝った?」と何度も聞かれたが、「イギリスのカヴェンディッシュ」と答えると、「ああ、サンレモの彼ね、強い彼ね」という返事ばかり。イタリア国内における知名度は確固たるものになったといっていいだろう。表彰式ではニックネームの「キャノンボール」が連呼されていた。
昨年ジロのチームタイムトライアルを制したガーミンは、TTスペシャリストをズラリと揃えてタイトル防衛に挑んだが、6秒差に泣いた。中間計測タイムではチームコロンビアとガーミンはほぼ互角。しかし後半に伸び悩み、昨年7秒差で下したチームコロンビアに敗北した。
プレスルームを抜け出し、水上バス乗り場に向かう頃には、オレンジの太陽が霞むヴェネツィアの向こうへと沈んでいった。
センチメンタルな気持ちに浸っていると、どうも周囲が排気ガス臭い。見渡すと、本島へ渡る関係車両がフェリー待ちで長蛇の列を作っていた。「今晩はトリエステに行くんだ」と、早くも疲れた表情を見せる運転手が教えてくれる。3週間続くジロ。トリエステにゴールする翌日のステージも、カヴェンディッシュを優勝候補に推す声は強い。
text&photo:Kei TSUJI
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