2011/03/14(月) - 14:26
カーボンフレームは金属フレームと比べるとコストの高い金型が必要となり、易々とデザイン変更は出来ないとは過去の話と言えよう。本当に金型代を回収できるのかと、こちらが心配してしまうほど、昨今のカーボンフレームのモデルチェンジは早く、ニューモデルが登場するようになった。
BMC レースマシーンRM01 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
BMCは今までカーボンとアルミのハイブリッドモデルにも強い意欲を示していたが、今年のラインナップを見るとハイブリッドモデルはマスドロードフレームでは入門クラスの1種類だけになり、メーカーとしてフルカーボン路線に舵を切った。
このレースマシーンRM01は、2010年モデルとしてデビューしたばかり。よりレース指向となるチームマシーンSLR01の兄弟モデルとしてハイエンドの一角を担っていた。しかし、インペックの登場により、わずかワンシーズンでサードモデルとなった。とは言うものの、カーボンそのものから開発されたSLR01をベースに、素材などを見直してエントリーライダーにも扱いやすい走行性能に仕上げられている。重量はフレームセットで75gほど増しているが1670g(フレーム、フォーク、シートポスト、ヘッドセット)の数値は十分に軽量と言っていいレベルにある。これまであまり軽さを前面に押し出してはいなかったBMCも他社と肩を並べるようになっている。
トップチューブは伝統とも言えるT字型ではなく、上側がフラットな五角形となった
BMCのアイデンティティのひとつとも言える、二股に分かれたiSC構造のトップチューブ接合部
そして、このフレームには掲げられたコンセプトがある。それはiSC(インターロック・スケルトン・コンセプト)デザインを一歩進めた、シートステーとシートポスト、フロントフォークを積極的に動かすTCC(チューンド・コンプライアンス・コンセプト)だ。
トップチューブとシートステーの交点がより離れ、シートステーは流行となっている細身の形状に仕立てられる。後輪側から見ると、シートポスト、シートチューブ、シートステーなどが平らであることがわかる。外径の太い角形や丸型だとその方向へ力がかかったときにつっかえ棒となってしまが、RM01では外径を抑えつつ、比較的平らに近い形状にしているため、荷重がかかる方向へと力が逃げる。狙った方向に各部をしならせていて、それらの設計が振動吸収性、快適性に貢献しているのだ。
ヘッドチューブはテーパータイプながらもすっきりとしていて、トラディショナルな雰囲気を醸し出す
ショルダー部分が肉厚なため、逆アーチにもストレートにも見えるフロントフォーク。このデザインもTCCのためだ
TCC構造の一端を担う角断面に成型されたシートポスト。RM01の固定方法はオーソドックスなクランプ式となる
シートポストはBMCお得意のロック機構内蔵式ではない。通常のシートクランプ式だ。しかし多角形断面のため専用品となっている。先述の通りシートポストもTCCの重要な要素であり、フレームと別体ではあるがインテグラルシートポストのようなモジュール思想による設計と言える。
BBシェルは、もはやハイエンドモデルの常識となりつつあるオーバーサイズ規格BB30を採用。BBシェルにつながるシートチューブ、ダウンチューブ、シートステーは幅ぎりぎりまで太くされている。注目はシートチューブ。ここはメーカーによって太くするか細くするか分かれるのだが、BMCの場合、接地面は太く、上に行くにつれて細くなっていくタワー型にしている。徹底的にBB部のねじれ剛性を高めて、踏力を逃がさない設計だ。
今や各社がこぞって採用するオーバーサイズ規格のBB30。30という数字はBBシャフトの直径が30mmであることに由来する
チェーンステーは幅広の角断面形状。複雑ではないが、個性的な形状であることがわかる
シート集合部のSCCとともにBMCのアイコンとなっていたT字型トップチューブも、新たに多角形構造に変更。やや逆アーチ気味に見えるフロントフォークは、ショルダー部分の強化を行っている。ヘッドチューブの容積は大きくないが、ショルダー部とテーパードステアラーでフロント周りの剛性を確保するという考えなのだろう。
結果として流行のデザインを取り入れてはいるのだが、それをきっちりと消化しBMCらしいデザインにまとめているところに開発者の非凡なセンスを感じる。過去モデルの特徴を持ち合わせていつつも、別物というのはなかなか出来ることではない。
タワー状に外径が変化していくシートチューブ。これは差し込まれるシートポストがしなることが出来るようにするため
この角度から見るとシートポストの後ろ側が平らであることがよくわかる。TCCはここにも反映されている
シート&チェーンステーともに角断面だが、シート側はしならせるため、チェーン側は脚力を逃がさないためと役割が異なる
BMCのバイクは、アルミのハイドロフォーミングチューブの登場から現在のカーボンまで続く有機的なデザインではなく、ロードバイクでは珍しいメカニックな印象を受ける。男心をくすぐられてしまったら……、ほかのバイクでは満足出来なくなってしまうかもしれない。
そんなBMCのレースマシーンRM01を2人はどう評価したのだろうか。気になるインプレッションに移ろう。
―インプレッション
「BMCらしい上質なペダリングフィールが心地よい」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
ロードレーサーSL01にも乗ったのですが、レースマシーンRM01と比べてみるとBMCが求めるバイク作りの方向性が分かるような気がします。両者とも似ていて、ロードレース用のバイクとして設計されていると思いますが、このRM01はステージレースに代表されるような長距離において、ライダーの力を残してくれる効果を期待できます。
「しなやかな乗り味だ。フロントフォークの剛性がもう少し高い方が自分には好み」戸津井俊介
特にフロントフォークの感触が近く、限界まで攻めると剛性がやや足りない印象を受けました。他のバイクと比べてもそういう印象を受けますが、僕がレースバイクとしてのロードバイクに求めるフィーリングとしては、ちょっともの足り無さを感じるところがあります。
しかしフレーム単体の仕上がりはとてもいいフィーリングでした。今回、数台の試乗を一度に行なったのですが、その中ではかなり自分好みのフィーリングです。
剛性はどちらかといえば柔らかいレベルにあると思います。でもフニャフニャとした薄ぺらな感覚はなく、密度が詰まっているようなしなやかさです。そして、シルキーな走行感覚で脚にはかなり優しいものです。ペダリングフィールがとても上質で、ひと踏みごとに色々なインフォメーションを脚に感じることができるというか。独特のペダリングフィールはBMCらしいですね。
ペダリング自体が楽しいバイクで、低速でも楽しいですし、スピードを上げての巡航走行も気持ちよく走れます。そして、スピードを一度乗せてしまえば、ハイスピードを非常に持続しやすい性能を備えているので脚力を温存できますね。ですので、初心者には乗りやすいモデルと言えるでしょう。
加速はガツンと鋭く速度が上がるという感じよりも、むしろ、「ジワッ」と力をかけていって、その速度の頂点に来たときにシフトチェンジしてさらに加速するといった走り方をすると、スムーズに速度が上がってゆきます。上りでも高めのケイデンスで回転を重視するよりも、トルクをかけて行くような走り方の方が合っていると思います。
基本的にフレーム剛性が過度ではないので、長いヒルクライム、ロングライドやトライアスロンみたいに一定ペースで走るような場合は適していますね。レース的な走りならば、先にも話しましたが、耐久レースやステージレースが向いるでしょう。
フォーク周りの剛性が高すぎないことが快適な乗り味に貢献していますが、ハンドリングはつかみ所がないというか、ハイスピードコーナーでは少し神経を遣うように思えます。剛性の芯がどこにあって、どうやってバイクを倒し込んでいったら上手く走れるかすぐには分かりませんでした。試乗の最中、ずっとフロント周りのことを気にしながら走っていました。下りの荒れた路面で、わざと横に振るとフロントとリヤが違う動きをするようにも感じました。
フロントホイールの路面との接地感はしっかりあるのですが、リヤホイールが弾かれてしまう。縦方向に対しての動きはとてもバランスがいいけれど、横方向の動きに関してはちょっと前後でチグハグな感覚を受けました。フロント周りの剛性がもう少しあると、自分にとっては扱いやすいバイクだと感じました。もったいないな、と……。
しかし総合的に見るとBMC独特の高性能を楽しむことができ、しなやかな走りは入門者にも扱いやすいですね。クルマで言うなら、F1マシンというよりも、スポーツカー的に気持ちいいスポーツ走行ができるモデルだと思います。
「ホビーサイクリストにマッチするしなやかなライディングフィール」
吉本 司(バイクジャーナリスト)
「上質なペダリングフィールがライディングに余裕を与えてくれる」吉本 司 以前、上位機種である「チームマシーンSLR01」も試乗したことがあるが、この「レースマシーンRM01」のシルエットはそれに酷似している。iCSやTCCといった構造も同じで、試乗前にSLR01と間違うほどだった。とはいえ、乗ってみるとそのフィーリングは別物。
SLR01は肉薄な大口径チューブのフレームらしいパリッとしたペダリングフィールがあるが、RM01はそれとは少々趣が異なる。そのペダリングフィールをひと言で表現するなら、「しっとり」とした品の良さを持っている。
そう表すとネガティブな印象を持つサイクリストもいるかもしれないが、そうではない。出足は「キンキン」とした鋭さというより、「スッ〜」と滑らかに前に出る感覚だ。
フレーム剛性は固いというよりもむしろ、トップレベルのレーシングフレームの剛性と比べると幾分しなやかな部類に入るだろう。しかしヤワな感覚はなく、剛性の芯を確実に感じられるので重厚であり、物足りなさはない。
加速のような局面で、一気に大きなトルクを掛けてペダリングをするとダウンチューブのBB近くがねじれる感覚がある。しかし、BB部分はペダリングの正確さを乱してしまうよう嫌な素振りは見せない。
ダウンチューブを微妙にウイップさせつつも、それをBB部分に必要以上に及ばせないのはBB30の恩恵であり、ダウンチューブとBB部の剛性バランスが上手に調整されているような感覚を受ける。
加速は初期の立ち上がりよりも、中、後半にかけて伸びが強くなる印象。滑らかに脚が周り、そして伸びやかに速度が上昇する。どちらかといえば、パワーを受け止めるというよりも、ためてはき出すような力をかけやすいペダリングフィールといえるだろう。
短い時間で速度の上げ下げが多いコースにおいてキレで勝負をしてゆくというよりも、巡航速度を必要とされる平坦路や、上り勾配が中程度のコースを高速でライバルを引き離しにかかるといった走りをイメージする。したがって、マイペースで淡々と走るようなヒルクライムには向いている。
そして、固いモノを踏むような嫌な感覚はないので、長時間のライディングでも脚への負担も少なく、ロングライドで初・中級者が用いても体力を温存できるアドバンテージはある。しっとりとしたペダリングフィールは安心感があり、どこまでも走れそうな気持ちにさせてくれる。
また、乗り心地については、フレームチューブの密度感を高く感じるので、特にロングライドの後半で体力を削ぐような小中の突き上げ感は上手にフレームがいなしてくれる。フロント部分は、フロントフォークの形状に表れている通り、ブレードの下部を比較的しなりを与えることで振動を積極的に吸収する設計といえるだろう。実際に路面からの突き上げはいなしてくれる。
しかし、ハードブレーキングではちょっとブレードが若干内側に入り込むような動きで、速度の高いコーナリングではアンダー傾向を示す。おそらくヘッドとフォーククラウン部分が固い割にブレードがしなやかに設計されているため、その横剛性を低く感じやすいのだろう。ただし、これらフォークのフィーリングは、中・上級者のサイクリストであれば慣れの範囲にあるといえるだろう。
上位機種であるチームマシーンSLR01とは約6万円差(フレームセット)。形状も似通っているだけにレースマシーンRM01と性能を比べたくなるものだが、セパレート型のシートポスト形状や体への負担の少ないライディングフィールなどを考えると、ホビーユーザーにとっての扱いやすさではRM01に軍配が上がる。レースからロングライドまで広い範囲で使いたいホビーサイクリストには等身大の高性能と言えるだろう。
BMC レースマシーンRM01 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
BMC レースマシーンRM01
フレーム:iSC カーボン レース
フォーク:TCC カーボン テーパーステアチューブ
サイズ:47、50、53、55、57
カラー:ホワイト、ブルー(2カラー)
ヘッドセット:FSA・No.44 E/CF
シートポスト:TCC カーボン
フレームセット重量:1670g(フレームセット:フレーム、フォーク、シートポスト、ヘッドセット)
価格:39万9000円(フレームセット)
インプレライダーのプロフィール
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート) 戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート
吉本 司(バイクジャーナリスト) 吉本 司(バイクジャーナリスト)
71年生まれ。スポーツサイクル歴は25年。自転車専門誌の編集者を経てフリーランスの自転車ライターとなる。主にロードバイク関連の執筆が多いが、MTBから電動アシスト自転車まで幅広いジャンルのバイクに造詣が深い。これまで30台を上回るロードバイクを所有してきた。身長187センチ、体重71㎏。
ウェア協力:B・EMME(フォーチュン)
photo:Makoto.AYANO
text:Tsukasa.YOSHIMOTO
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BMCは今までカーボンとアルミのハイブリッドモデルにも強い意欲を示していたが、今年のラインナップを見るとハイブリッドモデルはマスドロードフレームでは入門クラスの1種類だけになり、メーカーとしてフルカーボン路線に舵を切った。
このレースマシーンRM01は、2010年モデルとしてデビューしたばかり。よりレース指向となるチームマシーンSLR01の兄弟モデルとしてハイエンドの一角を担っていた。しかし、インペックの登場により、わずかワンシーズンでサードモデルとなった。とは言うものの、カーボンそのものから開発されたSLR01をベースに、素材などを見直してエントリーライダーにも扱いやすい走行性能に仕上げられている。重量はフレームセットで75gほど増しているが1670g(フレーム、フォーク、シートポスト、ヘッドセット)の数値は十分に軽量と言っていいレベルにある。これまであまり軽さを前面に押し出してはいなかったBMCも他社と肩を並べるようになっている。
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そして、このフレームには掲げられたコンセプトがある。それはiSC(インターロック・スケルトン・コンセプト)デザインを一歩進めた、シートステーとシートポスト、フロントフォークを積極的に動かすTCC(チューンド・コンプライアンス・コンセプト)だ。
トップチューブとシートステーの交点がより離れ、シートステーは流行となっている細身の形状に仕立てられる。後輪側から見ると、シートポスト、シートチューブ、シートステーなどが平らであることがわかる。外径の太い角形や丸型だとその方向へ力がかかったときにつっかえ棒となってしまが、RM01では外径を抑えつつ、比較的平らに近い形状にしているため、荷重がかかる方向へと力が逃げる。狙った方向に各部をしならせていて、それらの設計が振動吸収性、快適性に貢献しているのだ。
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シートポストはBMCお得意のロック機構内蔵式ではない。通常のシートクランプ式だ。しかし多角形断面のため専用品となっている。先述の通りシートポストもTCCの重要な要素であり、フレームと別体ではあるがインテグラルシートポストのようなモジュール思想による設計と言える。
BBシェルは、もはやハイエンドモデルの常識となりつつあるオーバーサイズ規格BB30を採用。BBシェルにつながるシートチューブ、ダウンチューブ、シートステーは幅ぎりぎりまで太くされている。注目はシートチューブ。ここはメーカーによって太くするか細くするか分かれるのだが、BMCの場合、接地面は太く、上に行くにつれて細くなっていくタワー型にしている。徹底的にBB部のねじれ剛性を高めて、踏力を逃がさない設計だ。
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結果として流行のデザインを取り入れてはいるのだが、それをきっちりと消化しBMCらしいデザインにまとめているところに開発者の非凡なセンスを感じる。過去モデルの特徴を持ち合わせていつつも、別物というのはなかなか出来ることではない。
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BMCのバイクは、アルミのハイドロフォーミングチューブの登場から現在のカーボンまで続く有機的なデザインではなく、ロードバイクでは珍しいメカニックな印象を受ける。男心をくすぐられてしまったら……、ほかのバイクでは満足出来なくなってしまうかもしれない。
そんなBMCのレースマシーンRM01を2人はどう評価したのだろうか。気になるインプレッションに移ろう。
―インプレッション
「BMCらしい上質なペダリングフィールが心地よい」
戸津井俊介(OVER-DOバイカーズサポート)
ロードレーサーSL01にも乗ったのですが、レースマシーンRM01と比べてみるとBMCが求めるバイク作りの方向性が分かるような気がします。両者とも似ていて、ロードレース用のバイクとして設計されていると思いますが、このRM01はステージレースに代表されるような長距離において、ライダーの力を残してくれる効果を期待できます。
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特にフロントフォークの感触が近く、限界まで攻めると剛性がやや足りない印象を受けました。他のバイクと比べてもそういう印象を受けますが、僕がレースバイクとしてのロードバイクに求めるフィーリングとしては、ちょっともの足り無さを感じるところがあります。
しかしフレーム単体の仕上がりはとてもいいフィーリングでした。今回、数台の試乗を一度に行なったのですが、その中ではかなり自分好みのフィーリングです。
剛性はどちらかといえば柔らかいレベルにあると思います。でもフニャフニャとした薄ぺらな感覚はなく、密度が詰まっているようなしなやかさです。そして、シルキーな走行感覚で脚にはかなり優しいものです。ペダリングフィールがとても上質で、ひと踏みごとに色々なインフォメーションを脚に感じることができるというか。独特のペダリングフィールはBMCらしいですね。
ペダリング自体が楽しいバイクで、低速でも楽しいですし、スピードを上げての巡航走行も気持ちよく走れます。そして、スピードを一度乗せてしまえば、ハイスピードを非常に持続しやすい性能を備えているので脚力を温存できますね。ですので、初心者には乗りやすいモデルと言えるでしょう。
加速はガツンと鋭く速度が上がるという感じよりも、むしろ、「ジワッ」と力をかけていって、その速度の頂点に来たときにシフトチェンジしてさらに加速するといった走り方をすると、スムーズに速度が上がってゆきます。上りでも高めのケイデンスで回転を重視するよりも、トルクをかけて行くような走り方の方が合っていると思います。
基本的にフレーム剛性が過度ではないので、長いヒルクライム、ロングライドやトライアスロンみたいに一定ペースで走るような場合は適していますね。レース的な走りならば、先にも話しましたが、耐久レースやステージレースが向いるでしょう。
フォーク周りの剛性が高すぎないことが快適な乗り味に貢献していますが、ハンドリングはつかみ所がないというか、ハイスピードコーナーでは少し神経を遣うように思えます。剛性の芯がどこにあって、どうやってバイクを倒し込んでいったら上手く走れるかすぐには分かりませんでした。試乗の最中、ずっとフロント周りのことを気にしながら走っていました。下りの荒れた路面で、わざと横に振るとフロントとリヤが違う動きをするようにも感じました。
フロントホイールの路面との接地感はしっかりあるのですが、リヤホイールが弾かれてしまう。縦方向に対しての動きはとてもバランスがいいけれど、横方向の動きに関してはちょっと前後でチグハグな感覚を受けました。フロント周りの剛性がもう少しあると、自分にとっては扱いやすいバイクだと感じました。もったいないな、と……。
しかし総合的に見るとBMC独特の高性能を楽しむことができ、しなやかな走りは入門者にも扱いやすいですね。クルマで言うなら、F1マシンというよりも、スポーツカー的に気持ちいいスポーツ走行ができるモデルだと思います。
「ホビーサイクリストにマッチするしなやかなライディングフィール」
吉本 司(バイクジャーナリスト)
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そう表すとネガティブな印象を持つサイクリストもいるかもしれないが、そうではない。出足は「キンキン」とした鋭さというより、「スッ〜」と滑らかに前に出る感覚だ。
フレーム剛性は固いというよりもむしろ、トップレベルのレーシングフレームの剛性と比べると幾分しなやかな部類に入るだろう。しかしヤワな感覚はなく、剛性の芯を確実に感じられるので重厚であり、物足りなさはない。
加速のような局面で、一気に大きなトルクを掛けてペダリングをするとダウンチューブのBB近くがねじれる感覚がある。しかし、BB部分はペダリングの正確さを乱してしまうよう嫌な素振りは見せない。
ダウンチューブを微妙にウイップさせつつも、それをBB部分に必要以上に及ばせないのはBB30の恩恵であり、ダウンチューブとBB部の剛性バランスが上手に調整されているような感覚を受ける。
加速は初期の立ち上がりよりも、中、後半にかけて伸びが強くなる印象。滑らかに脚が周り、そして伸びやかに速度が上昇する。どちらかといえば、パワーを受け止めるというよりも、ためてはき出すような力をかけやすいペダリングフィールといえるだろう。
短い時間で速度の上げ下げが多いコースにおいてキレで勝負をしてゆくというよりも、巡航速度を必要とされる平坦路や、上り勾配が中程度のコースを高速でライバルを引き離しにかかるといった走りをイメージする。したがって、マイペースで淡々と走るようなヒルクライムには向いている。
そして、固いモノを踏むような嫌な感覚はないので、長時間のライディングでも脚への負担も少なく、ロングライドで初・中級者が用いても体力を温存できるアドバンテージはある。しっとりとしたペダリングフィールは安心感があり、どこまでも走れそうな気持ちにさせてくれる。
また、乗り心地については、フレームチューブの密度感を高く感じるので、特にロングライドの後半で体力を削ぐような小中の突き上げ感は上手にフレームがいなしてくれる。フロント部分は、フロントフォークの形状に表れている通り、ブレードの下部を比較的しなりを与えることで振動を積極的に吸収する設計といえるだろう。実際に路面からの突き上げはいなしてくれる。
しかし、ハードブレーキングではちょっとブレードが若干内側に入り込むような動きで、速度の高いコーナリングではアンダー傾向を示す。おそらくヘッドとフォーククラウン部分が固い割にブレードがしなやかに設計されているため、その横剛性を低く感じやすいのだろう。ただし、これらフォークのフィーリングは、中・上級者のサイクリストであれば慣れの範囲にあるといえるだろう。
上位機種であるチームマシーンSLR01とは約6万円差(フレームセット)。形状も似通っているだけにレースマシーンRM01と性能を比べたくなるものだが、セパレート型のシートポスト形状や体への負担の少ないライディングフィールなどを考えると、ホビーユーザーにとっての扱いやすさではRM01に軍配が上がる。レースからロングライドまで広い範囲で使いたいホビーサイクリストには等身大の高性能と言えるだろう。
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BMC レースマシーンRM01
フレーム:iSC カーボン レース
フォーク:TCC カーボン テーパーステアチューブ
サイズ:47、50、53、55、57
カラー:ホワイト、ブルー(2カラー)
ヘッドセット:FSA・No.44 E/CF
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インプレライダーのプロフィール
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1990年代から2000年代にかけて、日本を代表するマウンテンバイクライダーとして世界を舞台に活躍した経歴を持つ。1999年アジア大陸マウンテンバイク選手権チャンピオン。MTBレースと並行してロードでも活躍しており、2002年の3DAY CYCLE ROAD熊野BR-2 第3ステージ優勝など、数多くの優勝・入賞経験を持つ。現在はOVER-DOバイカーズサポート代表。ショップ経営のかたわら、お客さんとのトレーニングやツーリングなどで飛び回り、忙しい毎日を送っている。09年からは「キャノンデール・ジャパンMTBチーム」のメカニカルディレクターも務める。
最近埼玉県所沢市北秋津に2店舗目となるOVER DO所沢店を開店した(日常勤務も所沢店)。
OVER-DOバイカーズサポート
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71年生まれ。スポーツサイクル歴は25年。自転車専門誌の編集者を経てフリーランスの自転車ライターとなる。主にロードバイク関連の執筆が多いが、MTBから電動アシスト自転車まで幅広いジャンルのバイクに造詣が深い。これまで30台を上回るロードバイクを所有してきた。身長187センチ、体重71㎏。
ウェア協力:B・EMME(フォーチュン)
photo:Makoto.AYANO
text:Tsukasa.YOSHIMOTO
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