2011/01/27(木) - 10:39
26日の第4ステージ、綾部勇成(愛三工業レーシングチーム)がステージ優勝。個人総合成績でも1位となり、黄色のリーダージャージも獲得。また、これにより2012年のロンドンオリンピックの日本出場枠獲得に関わるUCIアジアツアーのポイントを30ポイント獲得した。
キャメロンハイランドを制した綾部勇成
小雨まじりの空模様の下、選手たちのフィニッシュを待つ半袖のカメラマンたちは、前ステージまでの暑さとうってかわっての寒さにふるえていた。肌にふれるひんやりとした空気が、ここは高原なのだということを実感させる。
11時にスタートした選手たちのフィニッシュ見通し時刻は14時頃。「このお天気だともう少しかかりそうだね」と待つカメラマンたち。14時45分を過ぎたころ、「来るぞ!」フィニッシュ付近に緊張感が走り、フィニッシュゲートのむこうに10人ほどの選手たちのゴールスプリントの一群が姿を現した。
この日の137.6kmのコースはフラットな前半のあと、キャメロンハイランドの標高1613mのブキ・ブリンチャンまで一気に登り、そこから8kmほどやや下ってフィニッシュ。大きな登りを持つ頂上フィニッシュのコースなのだが、最後はスプリント勝負になりそうなおもしろいコースレイアウトだ。
一群となって入ってきた選手たちの先頭で走り抜ける青いジャージ。「綾部だ!」「綾部だよ!」日本のカメラマンにざわめきがひろがる。フィニッシュラインを超えた綾部勇成(愛三工業レーシング)は、勝利をいま実感したかのようにゆっくりと笑顔になり、コースのむこうへ走り抜けていった。
ふたたびフィニッシュ地点に戻ってくる綾部に、両側からさまざまな人が祝福の声をかけてくる。
「やったな!」「おめでとう!」綾部の背中を笑顔でぽんと叩くのは大会のテクニカルディレクター、ジャマルディン・モハンマド。そしてVIPテントにいる彼らと旧知の大会運営スタッフたちも、チームスタッフと手をとって喜びあっている。
ポディウムへと名を呼ばれた綾部は、壇上でジャージの形のメダルをかけられると、万感迫るという表情で頭を上げ、楯と花束を頭上に高くかざした。
最初の山岳決戦に挑んだ日本人選手たち
レース4日目の1月26日。第4ステージは、今年のツール・ド・ランカウイの2つの山岳ステージの1つ目で、アユルタワーからキャメロンハイランドに至る137.6km。
翌日の第5ステージとともに、この2日間の山岳ステージでこれまでの平坦と異なった顔ぶれがジャージを手にするはずとあって、この日の朝、レース会場に現れた各チームにも前日にも増して期待と不安のいりまじったような緊張した空気がただよう。
トレンガヌ・プロアジアのサポートカーの前には、前日の落車の傷が痛々しい福島晋一。手当はしてあるが右ひじにも腰にも血がにじんでいる。
「大丈夫ですか?」「いや、スタートしてゴールするまでのうちに治ってるんじゃないかと(笑)」ベテランらしく笑顔で淡々と冗談をとばす福島。「レース走ったらそのうち痛くなくなってくるんじゃないかと思ってるんですけどね。」
「昨日は本当は後半アタックしようかと思ってました。チームはマナンが頑張っていますから。スタートして10km付近で15人ぐらいの最初の落車があって、集団に復帰するとき自転車を直しながら走っていてキャットアイを踏んじゃって、もういちど単独で落車しました。けがですか?いま一番痛いのは右の手首。あとは擦過傷です。骨は折れていません。手首はあとでテーピングしようかと思っています。」
愛三工業レーシングチームの車もやってきた。チームスタッフに品川の様子をきくと「今日はホテルにいます。きのうは怪我した身体で走っちゃったので。落車したとき、前の日と同じところをやっちゃったみたいで今日は休んでます。『マレーシアの借りはマレーシアで返す』と本人は次のレースに意欲を燃やしています!」
今日からは愛三は5人でのレースになる。「人数が減るのは不利だけど、登りとかポジションキープとか、5人で頑張ってやっていくしかない。きのうまでのレースでは、アタックにも反応できているし、きのうの小さい山を登った感じも悪くないのでがんばります!」と鈴木謙一。
その後方にはスキル・シマノの車。「とにかく転ばないようにいきますよ。きのうまでずいぶんみんな転んでるんで。」と土井雪広。うちのチームはスプリンターとクライマー3人ずつなんですが、クライマーの誰かが逃げを作ってそのまま行けるかどうか。展開次第では、ぼくも前に出て行かなければ。ひざですか?多分大丈夫でしょう。山は、なるようにしかならないですから。スプリントにラッキーはあるけど、山にラッキーはない。ベストを尽くします」
スタートラインのほうへ戻ってくると、宮澤崇史らファルネーゼヴィーニ・ネーリの選手たちの姿も見える。「初日にとったリーダージャージを守る形で動いてきましたが、今日またジャージが動きます。第6ステージからの勝負に集中して、今日は山で頑張るチームメイトのためにがんばりたいと思います。今日の3つのスプリントポイントでもグアルディーニのポイントがかかっています。打撲は残っていて痛いですね。落車が多くて、みんな厳しいです。」
11時のスタートの5分前、カメラマンたちを乗せて出発したプレスカーの今日のコースは、選手と同じコースを通ってまっすぐフィニッシュ地点へ先回りするもの。車の窓から見える景色は、最初はとにかく平坦。両側2車線の広い道路をまっすぐ進んでいく。この前半の平坦に3つのスプリントポイントがあり、後半に3つの山岳賞ポイントがある。
11時15分頃に、ぽつぽつと雨が降ってきた。蒸し暑い空気のなか、開けた窓から肌にあたる雨が心地よい。スタートから30分ぐらいしたところで2車線の道路に入り、ゆるやかなカーブのゆるい登りを登っていく。
だんだん高度をあげていくにしたがって山には霧がたちこめ、どんどん気温も下がっていく。「涼しい」というより「肌寒い」という気温だ。道はつづら折りの登り、小さな下り、そしてまた登りを繰り返す。少し下って、フィニッシュまで20kmの地点。ここからはブキ・ブリンチャンまでの最後の登りだ。谷間には畑。町に入るとお寺の参道のように店が並び、いちごや花の観光農園のビニールハウスも谷間に見える。大きなリゾートホテルもある、日本のスキーリゾートを思わせるような観光地だ。フィニッシュ地点はすでにたくさんの応援の人でにぎわっている。
そして降っていた小雨も徐々にあがり、会場のボルテージが上がるとともにレースがやってきた。曇り空に拳を突き上げたのは青いジャージの綾部。
一躍今大会のヒーローになった綾部は、明日からリーダージャージホルダーとしてレースに挑む。ゲンティンハイランド決戦の時が迫る。
text&photo:Yuko Sato
キャメロンハイランドを制した綾部勇成
小雨まじりの空模様の下、選手たちのフィニッシュを待つ半袖のカメラマンたちは、前ステージまでの暑さとうってかわっての寒さにふるえていた。肌にふれるひんやりとした空気が、ここは高原なのだということを実感させる。
11時にスタートした選手たちのフィニッシュ見通し時刻は14時頃。「このお天気だともう少しかかりそうだね」と待つカメラマンたち。14時45分を過ぎたころ、「来るぞ!」フィニッシュ付近に緊張感が走り、フィニッシュゲートのむこうに10人ほどの選手たちのゴールスプリントの一群が姿を現した。
この日の137.6kmのコースはフラットな前半のあと、キャメロンハイランドの標高1613mのブキ・ブリンチャンまで一気に登り、そこから8kmほどやや下ってフィニッシュ。大きな登りを持つ頂上フィニッシュのコースなのだが、最後はスプリント勝負になりそうなおもしろいコースレイアウトだ。
一群となって入ってきた選手たちの先頭で走り抜ける青いジャージ。「綾部だ!」「綾部だよ!」日本のカメラマンにざわめきがひろがる。フィニッシュラインを超えた綾部勇成(愛三工業レーシング)は、勝利をいま実感したかのようにゆっくりと笑顔になり、コースのむこうへ走り抜けていった。
ふたたびフィニッシュ地点に戻ってくる綾部に、両側からさまざまな人が祝福の声をかけてくる。
「やったな!」「おめでとう!」綾部の背中を笑顔でぽんと叩くのは大会のテクニカルディレクター、ジャマルディン・モハンマド。そしてVIPテントにいる彼らと旧知の大会運営スタッフたちも、チームスタッフと手をとって喜びあっている。
ポディウムへと名を呼ばれた綾部は、壇上でジャージの形のメダルをかけられると、万感迫るという表情で頭を上げ、楯と花束を頭上に高くかざした。
最初の山岳決戦に挑んだ日本人選手たち
レース4日目の1月26日。第4ステージは、今年のツール・ド・ランカウイの2つの山岳ステージの1つ目で、アユルタワーからキャメロンハイランドに至る137.6km。
翌日の第5ステージとともに、この2日間の山岳ステージでこれまでの平坦と異なった顔ぶれがジャージを手にするはずとあって、この日の朝、レース会場に現れた各チームにも前日にも増して期待と不安のいりまじったような緊張した空気がただよう。
トレンガヌ・プロアジアのサポートカーの前には、前日の落車の傷が痛々しい福島晋一。手当はしてあるが右ひじにも腰にも血がにじんでいる。
「大丈夫ですか?」「いや、スタートしてゴールするまでのうちに治ってるんじゃないかと(笑)」ベテランらしく笑顔で淡々と冗談をとばす福島。「レース走ったらそのうち痛くなくなってくるんじゃないかと思ってるんですけどね。」
「昨日は本当は後半アタックしようかと思ってました。チームはマナンが頑張っていますから。スタートして10km付近で15人ぐらいの最初の落車があって、集団に復帰するとき自転車を直しながら走っていてキャットアイを踏んじゃって、もういちど単独で落車しました。けがですか?いま一番痛いのは右の手首。あとは擦過傷です。骨は折れていません。手首はあとでテーピングしようかと思っています。」
愛三工業レーシングチームの車もやってきた。チームスタッフに品川の様子をきくと「今日はホテルにいます。きのうは怪我した身体で走っちゃったので。落車したとき、前の日と同じところをやっちゃったみたいで今日は休んでます。『マレーシアの借りはマレーシアで返す』と本人は次のレースに意欲を燃やしています!」
今日からは愛三は5人でのレースになる。「人数が減るのは不利だけど、登りとかポジションキープとか、5人で頑張ってやっていくしかない。きのうまでのレースでは、アタックにも反応できているし、きのうの小さい山を登った感じも悪くないのでがんばります!」と鈴木謙一。
その後方にはスキル・シマノの車。「とにかく転ばないようにいきますよ。きのうまでずいぶんみんな転んでるんで。」と土井雪広。うちのチームはスプリンターとクライマー3人ずつなんですが、クライマーの誰かが逃げを作ってそのまま行けるかどうか。展開次第では、ぼくも前に出て行かなければ。ひざですか?多分大丈夫でしょう。山は、なるようにしかならないですから。スプリントにラッキーはあるけど、山にラッキーはない。ベストを尽くします」
スタートラインのほうへ戻ってくると、宮澤崇史らファルネーゼヴィーニ・ネーリの選手たちの姿も見える。「初日にとったリーダージャージを守る形で動いてきましたが、今日またジャージが動きます。第6ステージからの勝負に集中して、今日は山で頑張るチームメイトのためにがんばりたいと思います。今日の3つのスプリントポイントでもグアルディーニのポイントがかかっています。打撲は残っていて痛いですね。落車が多くて、みんな厳しいです。」
11時のスタートの5分前、カメラマンたちを乗せて出発したプレスカーの今日のコースは、選手と同じコースを通ってまっすぐフィニッシュ地点へ先回りするもの。車の窓から見える景色は、最初はとにかく平坦。両側2車線の広い道路をまっすぐ進んでいく。この前半の平坦に3つのスプリントポイントがあり、後半に3つの山岳賞ポイントがある。
11時15分頃に、ぽつぽつと雨が降ってきた。蒸し暑い空気のなか、開けた窓から肌にあたる雨が心地よい。スタートから30分ぐらいしたところで2車線の道路に入り、ゆるやかなカーブのゆるい登りを登っていく。
だんだん高度をあげていくにしたがって山には霧がたちこめ、どんどん気温も下がっていく。「涼しい」というより「肌寒い」という気温だ。道はつづら折りの登り、小さな下り、そしてまた登りを繰り返す。少し下って、フィニッシュまで20kmの地点。ここからはブキ・ブリンチャンまでの最後の登りだ。谷間には畑。町に入るとお寺の参道のように店が並び、いちごや花の観光農園のビニールハウスも谷間に見える。大きなリゾートホテルもある、日本のスキーリゾートを思わせるような観光地だ。フィニッシュ地点はすでにたくさんの応援の人でにぎわっている。
そして降っていた小雨も徐々にあがり、会場のボルテージが上がるとともにレースがやってきた。曇り空に拳を突き上げたのは青いジャージの綾部。
一躍今大会のヒーローになった綾部は、明日からリーダージャージホルダーとしてレースに挑む。ゲンティンハイランド決戦の時が迫る。
text&photo:Yuko Sato
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