2010/10/28(木) - 09:47
山本幸平(チームブリヂストン・アンカー)と同じく今年ワールドカップに参戦した片山梨絵(スペシャライズド)。日本の女子MTBクロスカントリー選手として唯一と言っていいプロ選手で、今年で全日本MTB選手権7連覇、全日本ロード選手権でも3位と国内女子選手の中でもトップレベルにある。北京に続きロンドン五輪への挑戦を、ワールドカップの感想と共に聞いた。
― 今年のワールドカップ全戦を回られた感想は?
実は最初は全戦回る予定ではなかったんです。とりあえず最初の3戦に出てみて、本当のレースはここにある、また絶対行きたいと思ったので全戦回りました。
シーズン初めはロンドン五輪を意識していなかったけど、ヨーロッパでレースをしているうちに、ここで戦いたいと思い、ロンドン五輪が明確な目標になりました。
ロンドン五輪に行くにはUCIポイントを稼がなくては日本の出場枠を獲得できないので、限られた予算の中で活動しました。最後のワールドカップ最終戦(アメリカ)とカナダの世界選でいい位置を走れるようになって、また来年に繋がるかなと感じました」
― 参加者は何人ぐらい?
出走はワールドカップで100人ぐらいです。
― 20~30位くらいだと、レースはどのような感じですか?
去年はワールドカップに全然出ていませんでしたが、北京五輪の前は何度かスポット参戦していました。
世界選はここ7年毎年出ています。その時は何とか完走できる程度の位置で、個人TT的な日本と変わらない走り方でした。
去年は海外遠征を減らしてトレーニングに徹し、今年ワールドカップに出たら以前より前のパック(集団)で走れたので、競り合いがあって、自分がミスすればすぐに順位も変わる。もちろん良い走りをすれば前の選手がすぐに見える。ある程度自分の回りを走る選手を覚えてくるものなので、また次戦で競り合う。本当にレースしているワクワクがあります。」
― ワールドカップ以外のUCIのレースだと上位に行ける?
今シーズン最初のMTBレースがヨーロッパでのUCIレースだったのですが、そこで良い走りができたのでワールドカップで走れる自信がつきました。以前のスポット参戦だとレースにならなかったけど、その春のUCIレースは出走10人くらいのスペインの小さなレース。マーガ・フリャナ(2008年の世界チャンピオン、去年はワールドカップ2勝)と一緒に出走し、ワールドカップだと人数が多すぎて後につけない彼女の真後ろについてまるまる2周走ることができた。
彼女がコースのどこでプッシュしているだとか、女子だからといっておとなしく登っているわけではないとか、肌で感じてワールドカップに行けました。
ワールドカップ以外のUCIレースに出る事が、レース経験を上げるのにとても意味があったと思います。
また、オリンピック出場枠のためのポイント獲得を考えた時に、ワールドカップで獲得できるそれだけでは足りません。ヨーロッパの選手は日本で言うJシリーズみたいな国内レースでUCIポイントが稼げるので、そこで差が出ちゃう。ヨーロッパのローカルUCIレースは日本人にとって経験の意味でも、UCIポイントを獲得する意味でも、非常に価値のあるものだと思います」
― 女子のロンドン五輪のポイント獲得は?
国別ランキングは各国上位3名のUCIポイントを合計して出すのですが、日本の女子だと現在は片山・中込由香里さん、矢沢みつみさんの3人になっています。
アジア選手権はUCIポイントを稼ぐ重要な大会です。日本人がヨーロッパに行くのは時差もあるしお金もかかる。それはアジア人のデメリットです。その代わり、アジアには大陸選手権という大きなメリットがある。
ヨーロッパの大陸選手権はレベルが高く、ポイント獲得が困難だけど、アジア選手権は出場すればTOP10は獲れちゃう。有利な大会なので、無駄にすること無くこのチャンスを使わなくてはいけないのに、今回は2人しか派遣されなかった。
派遣する側も理解していないので、自分がヨーロッパに行って何が起こっているのか、ロンドン五輪はどうなるのかをもっと知って欲しい。仕組みが分かりにくいのかもしれないので、自分でロンドン五輪の基準とかポイントの推移とかが分かるようなウェブサイトを年内には立ちあげるよう、準備中です」
― 世界で走っていてもなかなか注目されにくい?
ここ7年くらい世界選を走ってきて、今までの選手レベルだと正直、注目されてもつまらないレースだったかもしれない。
今だと山本幸平が走っているのを実際に現場で観ていて面白いし、私もいい位置まで来ていると思う。今こそ伝えるチャンスかなと思います。
― 自分たちの事を伝える良いチャンスが来た?
先輩達がずっと走ってきたハシゴがあるから、私たちが今いい位置までこれています。私たちが周りの人を、マウンテンバイク界を盛り上げるのは、受け継いだ一つの義務のようなものかもしれません。新城幸也選手がツール・ド・フランスに出て、日本人が活躍することによって注目度が加速していますよね。だから選手は強くなくてはいけないし、ちゃんと走れたなら伝えて欲しい。
― 海外のレースは楽しそうですよね?
今回の世界選だと一番の見せ場のロックセクションにオーロラビジョンを置いて観客が集まるようにしたり、観客がホットドックを食べながら観たりしてもゴミ箱がちゃんと置いてあったりと、盛り上げ方がちゃんとしている。選手が速くなれば周りを動かすエネルギーもできて、そしたら一般のメディアやレースオーガナイザーも動いてくれるのではないでしょうか。
― 若い女子選手に伝えることは?
岩出愛未ちゃんとかはアジア選や世界選で話す事もできたし、今は何をやっても伸びるので頑張って欲しいと思います。とにかく楽しく走って欲しい。楽しくないと続かないけど、続ければ自分に蓄積するもが必ず何かある。成長って、グッと伸びて平坦で、またグッと伸びるから。
そういった中で本人が本気になれれば、周りに伝わるものがあるだろうから、一緒に練習もしてくれる。外から押し付けるものでもないので楽しく続けて欲しい。
― 来年の予定は?
もちろんオリンピックの出場枠を獲得する事を目標に活動していきます。枠獲得にかかわる一回目の期日が来年の5月に迫ってきているので、それまでに現在25位(インタビュー当時)のランキングを18位以内にしておく必要があります。ヨーロッパでUCIレースの始まる2月から向こうに渡りたいです。日本で走る機会は少なくなるけど、サイトでできる限りの発信はしていきたいので、一緒にロンドン五輪を目指して応援して欲しいです。
一度6月に帰国しますが、またすぐワールドカップ北米ラウンドを回り、全日本で帰国したらまたヨーロッパへ行く一年になると思います。その為のスポンサーの獲得も大事ですね」
※ロンドン五輪出場のためには国別ランキングによる参加数割り振りのルールがあり、女子は1位から8位までが2人、9位から18位までが1名の枠が与えられる。10月24日現在の日本の国別ランキングは26位。
片山梨絵(かたやま・りえ)プロフィールと2010年度の主な戦績
生年月日 1979.9/13
出身 大阪府吹田市
UCIランキング30位(10/20現在)
7/19 全日本選手権 1位
9/4 世界選手権(カナダ) 24位
9/29アジア選手権(韓国)2位
4/25 ワールドカップ#1 - Dalby Forest(イギリス) 33位
5/2 ワールドカップ#2 - Houffalize(ベルギー) 37位
5/23 ワールドカップ#3 - Offenburg(ドイツ) 41位
7/25 ワールドカップ#4 - Champery(スイス) 52位
7/31 ワールドカップ#5 - Val di Sole (イタリア)32位
8/28 ワールドカップ#6 - Windham, NY(アメリカ) 23位
4/18 Gran Premio Massi #2 - Flix(スペイン) 2位
5/8 Coupe de France VTT Subaru #2 - Pernes les Fointaines(フランス) 7位
5/16 Tour de la Ville d'Aoste(イタリア) 1位
text&interview :Akihiro.NAKAO
photo: Hoshi - K. Yoshida
― 今年のワールドカップ全戦を回られた感想は?
実は最初は全戦回る予定ではなかったんです。とりあえず最初の3戦に出てみて、本当のレースはここにある、また絶対行きたいと思ったので全戦回りました。
シーズン初めはロンドン五輪を意識していなかったけど、ヨーロッパでレースをしているうちに、ここで戦いたいと思い、ロンドン五輪が明確な目標になりました。
ロンドン五輪に行くにはUCIポイントを稼がなくては日本の出場枠を獲得できないので、限られた予算の中で活動しました。最後のワールドカップ最終戦(アメリカ)とカナダの世界選でいい位置を走れるようになって、また来年に繋がるかなと感じました」
― 参加者は何人ぐらい?
出走はワールドカップで100人ぐらいです。
― 20~30位くらいだと、レースはどのような感じですか?
去年はワールドカップに全然出ていませんでしたが、北京五輪の前は何度かスポット参戦していました。
世界選はここ7年毎年出ています。その時は何とか完走できる程度の位置で、個人TT的な日本と変わらない走り方でした。
去年は海外遠征を減らしてトレーニングに徹し、今年ワールドカップに出たら以前より前のパック(集団)で走れたので、競り合いがあって、自分がミスすればすぐに順位も変わる。もちろん良い走りをすれば前の選手がすぐに見える。ある程度自分の回りを走る選手を覚えてくるものなので、また次戦で競り合う。本当にレースしているワクワクがあります。」
― ワールドカップ以外のUCIのレースだと上位に行ける?
今シーズン最初のMTBレースがヨーロッパでのUCIレースだったのですが、そこで良い走りができたのでワールドカップで走れる自信がつきました。以前のスポット参戦だとレースにならなかったけど、その春のUCIレースは出走10人くらいのスペインの小さなレース。マーガ・フリャナ(2008年の世界チャンピオン、去年はワールドカップ2勝)と一緒に出走し、ワールドカップだと人数が多すぎて後につけない彼女の真後ろについてまるまる2周走ることができた。
彼女がコースのどこでプッシュしているだとか、女子だからといっておとなしく登っているわけではないとか、肌で感じてワールドカップに行けました。
ワールドカップ以外のUCIレースに出る事が、レース経験を上げるのにとても意味があったと思います。
また、オリンピック出場枠のためのポイント獲得を考えた時に、ワールドカップで獲得できるそれだけでは足りません。ヨーロッパの選手は日本で言うJシリーズみたいな国内レースでUCIポイントが稼げるので、そこで差が出ちゃう。ヨーロッパのローカルUCIレースは日本人にとって経験の意味でも、UCIポイントを獲得する意味でも、非常に価値のあるものだと思います」
― 女子のロンドン五輪のポイント獲得は?
国別ランキングは各国上位3名のUCIポイントを合計して出すのですが、日本の女子だと現在は片山・中込由香里さん、矢沢みつみさんの3人になっています。
アジア選手権はUCIポイントを稼ぐ重要な大会です。日本人がヨーロッパに行くのは時差もあるしお金もかかる。それはアジア人のデメリットです。その代わり、アジアには大陸選手権という大きなメリットがある。
ヨーロッパの大陸選手権はレベルが高く、ポイント獲得が困難だけど、アジア選手権は出場すればTOP10は獲れちゃう。有利な大会なので、無駄にすること無くこのチャンスを使わなくてはいけないのに、今回は2人しか派遣されなかった。
派遣する側も理解していないので、自分がヨーロッパに行って何が起こっているのか、ロンドン五輪はどうなるのかをもっと知って欲しい。仕組みが分かりにくいのかもしれないので、自分でロンドン五輪の基準とかポイントの推移とかが分かるようなウェブサイトを年内には立ちあげるよう、準備中です」
― 世界で走っていてもなかなか注目されにくい?
ここ7年くらい世界選を走ってきて、今までの選手レベルだと正直、注目されてもつまらないレースだったかもしれない。
今だと山本幸平が走っているのを実際に現場で観ていて面白いし、私もいい位置まで来ていると思う。今こそ伝えるチャンスかなと思います。
― 自分たちの事を伝える良いチャンスが来た?
先輩達がずっと走ってきたハシゴがあるから、私たちが今いい位置までこれています。私たちが周りの人を、マウンテンバイク界を盛り上げるのは、受け継いだ一つの義務のようなものかもしれません。新城幸也選手がツール・ド・フランスに出て、日本人が活躍することによって注目度が加速していますよね。だから選手は強くなくてはいけないし、ちゃんと走れたなら伝えて欲しい。
― 海外のレースは楽しそうですよね?
今回の世界選だと一番の見せ場のロックセクションにオーロラビジョンを置いて観客が集まるようにしたり、観客がホットドックを食べながら観たりしてもゴミ箱がちゃんと置いてあったりと、盛り上げ方がちゃんとしている。選手が速くなれば周りを動かすエネルギーもできて、そしたら一般のメディアやレースオーガナイザーも動いてくれるのではないでしょうか。
― 若い女子選手に伝えることは?
岩出愛未ちゃんとかはアジア選や世界選で話す事もできたし、今は何をやっても伸びるので頑張って欲しいと思います。とにかく楽しく走って欲しい。楽しくないと続かないけど、続ければ自分に蓄積するもが必ず何かある。成長って、グッと伸びて平坦で、またグッと伸びるから。
そういった中で本人が本気になれれば、周りに伝わるものがあるだろうから、一緒に練習もしてくれる。外から押し付けるものでもないので楽しく続けて欲しい。
― 来年の予定は?
もちろんオリンピックの出場枠を獲得する事を目標に活動していきます。枠獲得にかかわる一回目の期日が来年の5月に迫ってきているので、それまでに現在25位(インタビュー当時)のランキングを18位以内にしておく必要があります。ヨーロッパでUCIレースの始まる2月から向こうに渡りたいです。日本で走る機会は少なくなるけど、サイトでできる限りの発信はしていきたいので、一緒にロンドン五輪を目指して応援して欲しいです。
一度6月に帰国しますが、またすぐワールドカップ北米ラウンドを回り、全日本で帰国したらまたヨーロッパへ行く一年になると思います。その為のスポンサーの獲得も大事ですね」
※ロンドン五輪出場のためには国別ランキングによる参加数割り振りのルールがあり、女子は1位から8位までが2人、9位から18位までが1名の枠が与えられる。10月24日現在の日本の国別ランキングは26位。
片山梨絵(かたやま・りえ)プロフィールと2010年度の主な戦績
生年月日 1979.9/13
出身 大阪府吹田市
UCIランキング30位(10/20現在)
7/19 全日本選手権 1位
9/4 世界選手権(カナダ) 24位
9/29アジア選手権(韓国)2位
4/25 ワールドカップ#1 - Dalby Forest(イギリス) 33位
5/2 ワールドカップ#2 - Houffalize(ベルギー) 37位
5/23 ワールドカップ#3 - Offenburg(ドイツ) 41位
7/25 ワールドカップ#4 - Champery(スイス) 52位
7/31 ワールドカップ#5 - Val di Sole (イタリア)32位
8/28 ワールドカップ#6 - Windham, NY(アメリカ) 23位
4/18 Gran Premio Massi #2 - Flix(スペイン) 2位
5/8 Coupe de France VTT Subaru #2 - Pernes les Fointaines(フランス) 7位
5/16 Tour de la Ville d'Aoste(イタリア) 1位
text&interview :Akihiro.NAKAO
photo: Hoshi - K. Yoshida
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