2010/08/31(火) - 23:14
ゴール後、感涙にむせぶ内間康平(鹿屋体育大学)。今までいくつものタイトルを取ってきた内間だが、インカレだけは勝っていなかった。6月の個人ロードとあわせて2冠を達成。学生ロード界で最強の選手になった。
厳しいコースと天候
8月29日(日)、インカレ4日目の最終日は個人ロードレースだ。青森県最南東部に位置する階上町(はしかみ)内の1周14kmの周回コースが舞台。半分は平坦基調の緩やかな起伏、残りは厳しいアップダウンで、1周当たり上り標高差は250m。大きな上りは2箇所ある。
加えて当日は4日間続いたインカレのなかで初めて朝から青空が広がる。青森と言えども強い日差しと高い湿度がサバイバルレースを予感させる。主催者も補給を毎周回OKにするほど。
大学対抗得点の逆転を目指す日本大学
注目はもちろん誰が勝つかだが、同時に大学対抗得点も気になるところ。28連覇を目指す日本大学はトラックで1位の中央大学に4点差で負けている。4位の鹿屋体育大学は大逆転も可能な厚い選手層を持ち、これも総合1位へ射程範囲内。上位3人までのポイントなので、優勝はもちろん、3人を上位入賞させることが重要だ。
女子は地元出身の1年生、上野みなみ
男女ともに時差スタートでレースが始まる。女子は5周70km、男子は12周168kmだ。
女子は16名がスタート。鹿屋体育大学は6名、日本体育大学は4名、そして昨年の覇者、明珍裕子を擁する朝日大学は3名での出走だ。
1周目から厳しいコースのため振るい落としがかかりばらばらに。先頭は上野みなみ(鹿屋体育大学)と明珍の2人。4周目に上野がペースを上げると明珍が離れる。4周目終了時点でその差は30秒。明珍は粘るが力尽き、上野は差を広げていきゴールでは3分弱の差をつけて優勝。
上野はこの3月に地元の八戸工業高校を卒業した1年生。両親の前で見事優勝した。上野はトラックレースでは日本を代表する選手だが、ロードにも対応できる能力を見せた。
序盤は中京、早稲田らがアタック
男子は1周目からペースが上がる。実質のスタートは中間付近、2つ目の上りから。ここで中根英登(中京大学)、野中龍馬(鹿屋体育大学)らが先頭に立ちペースを上げる。
その後に吸収されるが、この動きで154名でスタートした集団は早くも60名ほどに絞られる。2周目以降も榊原健一(中京大学)、入部正太朗(早稲田大学)らが仕掛けて集団は不安定。内間も西薗も前方に位置してこの動きに対応する。
西薗の動きで新たな先頭集団
3周目、お見合い状態となった上りで野中が単独アタック、これを成功させる。板橋義浩(日本大学)と清水一弘(中央大学)が追走、さらに冨岡亮太(北海道大学)、郡司昌紀(中央大学)、窪木一茂(日本大学)、野口正則(鹿屋体育大学)も追走に。5周目、メイン集団の中から西薗が一気にペースを上げる。下り区間を経て先頭は20人ほどになる。さらに上りでペースを上げ、いっぽうで逃げていた全員を吸収して、6周目には10人の先頭集団ができる。
メンバーは鹿屋3名(内間、山本元喜、野中)、日本大学3名(榎本剛士、高橋将輝、板橋)、中央大3名(飯野智行、郡司、笠原恭輔)と西薗。役者はそろった。この中から勝者が出る集団だ。
ラスト3周で内間と西薗が抜け出す
先頭10名はローテーションして進むが、それまで逃げていた野中は苦しく脱落。7周目には笠原が、そして板橋が脱落。さらに郡司も脱落して鹿屋と日大は2名ずつ、中央と東大が1名の合計6名に。
内間、山本、榎本、高橋、飯野、西薗の6名でローテーションしながらレースは進む。上り区間では榎本が最後尾に位置する。
そしてレースはついに10周目の2つ目の上りへ。上り終盤で内間がアタック、10%の坂を平地のようなスピードで飛んでいく。インナーで踏み出しすぐにDi2でアウターへチェンジ。多くの選手が「アタックするならこの場所」としたところで仕掛けた。頂上の後も下りに入らずアップダウンのある厳しい場面なのだ。
これを西薗、飯野が追うが西薗だけが追いつく。上りで最後尾に位置し温存されていた榎本はギアトラブルもあり反応できない。ここからは内間と西薗の頂上決戦、そして第2集団以降は特に日大と中央大のポイント争いに焦点が移る。
内間と西薗の頂上決戦
やはりこの2人が残った。内間は6月の学生個人ロードの覇者、ほかでは海外UCIレースで区間優勝などU23では日本を代表する選手。
いっぽうの西薗は昨年のインカレ覇者、そして6月の個人TTチャンピオンなど目覚しい活躍だが、不安材料は大学院進学試験がちょうどこのインカレの直前だったこと。
上りは西薗がペースをつくり、平地は内間の引く時間がやや長い。会話する場面も。2人で協調して逃げる作戦だ。内間はもともと表情に出さないがそれでも時折顔を歪める。西薗は顔を歪め、明らかに苦しそうだ。
ゴールは内間が先行、ガッツポーズで駆け抜ける。2位西薗も晴れ晴れとゴール。注目の3位は、単独で抜け出した山本が、その後は榎本、高橋がゴール。飯野の次には後方をコントロールした窪木が入った。
大学対抗は日本大学が逆転勝利
もうひとつの注目は大学対抗得点。日本大学は上位入賞に多数を送り込み、見事狙い通りに逆転でトップになった。先頭グループにいた主将の高橋、そしてメイン集団にいた窪木のコントロールが効いている。逆転しなければ28連覇を達成できない状況では、1位よりも大学対抗ポイントを優先させるのは当然のことだろう。プレッシャーが並みのものでなかったことは、多くの部員がゴール後に涙を流していたことがそれを表している。
中央大学は飯野の6位と野口裕生の19位だけ、そしてトラックでの取りこぼしが響いた。
なお、補給地点でのペナルティがあり、日本大学と鹿屋体育大学は上位2名のみの集計となっている。
これは規定の4名を超える人数で補給を行ったことへのアピールに対応したもので、罰金とともに「競技管理を尊重しなかったことに関連して、対抗得点対象者数を1 名減じる」というものだ。
今後に向けて
大学生の夏の祭典が終わった。多くの大学が年間スケジュールの最高ランクに位置づけする大会は、選手だけでなく関係者にとっても戦いだ。ときには選手不在のやりとりもなされる。インカレはバンクの周囲だけ、あるいはロードコースの周囲だけの狭いエリアで行われるが、その中での常識は世界に通ずるものでなくてはならない。ましてや選手の少なくない数が卒業後に指導者として日本全国へ散らばる。今後も選手本位の大会であり続けることを願いたい。
なお、来年のインカレは長野県で行われることが予定されている。
結果
女子 70km
1位 上野みなみ(鹿屋体育大学)2時間20分03秒
2位 明珍裕子(朝日大学)+2分44秒
3位 田中まい(日本体育大学)+5分55秒
4位 小島蓉子(日本体育大学)+8分03秒
5位 木村亜美(鹿屋体育大学)+8分34秒
6位 塚越さくら(鹿屋体育大学)+9分54秒
男子 168km
1位 内間康平(鹿屋体育大学)5時間02分30秒
2位 西薗良太(東京大学)+04秒
3位 山本元喜(鹿屋体育大学)+1分53秒
4位 榎本剛士(日本大学)+2分24秒
5位 高橋将輝(日本大学)+4分12秒
6位 飯野智行(中央大学)+4分27秒
7位 窪木一茂(日本大学)+7分00秒
8位 中田匠(日本大学)+7分05秒
9位 宇野誓(京都大学)+7分07秒
10位 木守望(京都産業大学)+7分53秒
大学対抗得点
女子
1位 鹿屋体育大学 68点
2位 日本体育大学 38点
3位 朝日大学 22点
男子
1位 日本大学 66点
2位 中央大学 61点
3位 鹿屋体育大学 59点
4位 早稲田大学 47点
5位 順天堂大学 33点
6位 朝日大学 18点
photo&text:高木秀彰
厳しいコースと天候
8月29日(日)、インカレ4日目の最終日は個人ロードレースだ。青森県最南東部に位置する階上町(はしかみ)内の1周14kmの周回コースが舞台。半分は平坦基調の緩やかな起伏、残りは厳しいアップダウンで、1周当たり上り標高差は250m。大きな上りは2箇所ある。
加えて当日は4日間続いたインカレのなかで初めて朝から青空が広がる。青森と言えども強い日差しと高い湿度がサバイバルレースを予感させる。主催者も補給を毎周回OKにするほど。
大学対抗得点の逆転を目指す日本大学
注目はもちろん誰が勝つかだが、同時に大学対抗得点も気になるところ。28連覇を目指す日本大学はトラックで1位の中央大学に4点差で負けている。4位の鹿屋体育大学は大逆転も可能な厚い選手層を持ち、これも総合1位へ射程範囲内。上位3人までのポイントなので、優勝はもちろん、3人を上位入賞させることが重要だ。
女子は地元出身の1年生、上野みなみ
男女ともに時差スタートでレースが始まる。女子は5周70km、男子は12周168kmだ。
女子は16名がスタート。鹿屋体育大学は6名、日本体育大学は4名、そして昨年の覇者、明珍裕子を擁する朝日大学は3名での出走だ。
1周目から厳しいコースのため振るい落としがかかりばらばらに。先頭は上野みなみ(鹿屋体育大学)と明珍の2人。4周目に上野がペースを上げると明珍が離れる。4周目終了時点でその差は30秒。明珍は粘るが力尽き、上野は差を広げていきゴールでは3分弱の差をつけて優勝。
上野はこの3月に地元の八戸工業高校を卒業した1年生。両親の前で見事優勝した。上野はトラックレースでは日本を代表する選手だが、ロードにも対応できる能力を見せた。
序盤は中京、早稲田らがアタック
男子は1周目からペースが上がる。実質のスタートは中間付近、2つ目の上りから。ここで中根英登(中京大学)、野中龍馬(鹿屋体育大学)らが先頭に立ちペースを上げる。
その後に吸収されるが、この動きで154名でスタートした集団は早くも60名ほどに絞られる。2周目以降も榊原健一(中京大学)、入部正太朗(早稲田大学)らが仕掛けて集団は不安定。内間も西薗も前方に位置してこの動きに対応する。
西薗の動きで新たな先頭集団
3周目、お見合い状態となった上りで野中が単独アタック、これを成功させる。板橋義浩(日本大学)と清水一弘(中央大学)が追走、さらに冨岡亮太(北海道大学)、郡司昌紀(中央大学)、窪木一茂(日本大学)、野口正則(鹿屋体育大学)も追走に。5周目、メイン集団の中から西薗が一気にペースを上げる。下り区間を経て先頭は20人ほどになる。さらに上りでペースを上げ、いっぽうで逃げていた全員を吸収して、6周目には10人の先頭集団ができる。
メンバーは鹿屋3名(内間、山本元喜、野中)、日本大学3名(榎本剛士、高橋将輝、板橋)、中央大3名(飯野智行、郡司、笠原恭輔)と西薗。役者はそろった。この中から勝者が出る集団だ。
ラスト3周で内間と西薗が抜け出す
先頭10名はローテーションして進むが、それまで逃げていた野中は苦しく脱落。7周目には笠原が、そして板橋が脱落。さらに郡司も脱落して鹿屋と日大は2名ずつ、中央と東大が1名の合計6名に。
内間、山本、榎本、高橋、飯野、西薗の6名でローテーションしながらレースは進む。上り区間では榎本が最後尾に位置する。
そしてレースはついに10周目の2つ目の上りへ。上り終盤で内間がアタック、10%の坂を平地のようなスピードで飛んでいく。インナーで踏み出しすぐにDi2でアウターへチェンジ。多くの選手が「アタックするならこの場所」としたところで仕掛けた。頂上の後も下りに入らずアップダウンのある厳しい場面なのだ。
これを西薗、飯野が追うが西薗だけが追いつく。上りで最後尾に位置し温存されていた榎本はギアトラブルもあり反応できない。ここからは内間と西薗の頂上決戦、そして第2集団以降は特に日大と中央大のポイント争いに焦点が移る。
内間と西薗の頂上決戦
やはりこの2人が残った。内間は6月の学生個人ロードの覇者、ほかでは海外UCIレースで区間優勝などU23では日本を代表する選手。
いっぽうの西薗は昨年のインカレ覇者、そして6月の個人TTチャンピオンなど目覚しい活躍だが、不安材料は大学院進学試験がちょうどこのインカレの直前だったこと。
上りは西薗がペースをつくり、平地は内間の引く時間がやや長い。会話する場面も。2人で協調して逃げる作戦だ。内間はもともと表情に出さないがそれでも時折顔を歪める。西薗は顔を歪め、明らかに苦しそうだ。
ゴールは内間が先行、ガッツポーズで駆け抜ける。2位西薗も晴れ晴れとゴール。注目の3位は、単独で抜け出した山本が、その後は榎本、高橋がゴール。飯野の次には後方をコントロールした窪木が入った。
大学対抗は日本大学が逆転勝利
もうひとつの注目は大学対抗得点。日本大学は上位入賞に多数を送り込み、見事狙い通りに逆転でトップになった。先頭グループにいた主将の高橋、そしてメイン集団にいた窪木のコントロールが効いている。逆転しなければ28連覇を達成できない状況では、1位よりも大学対抗ポイントを優先させるのは当然のことだろう。プレッシャーが並みのものでなかったことは、多くの部員がゴール後に涙を流していたことがそれを表している。
中央大学は飯野の6位と野口裕生の19位だけ、そしてトラックでの取りこぼしが響いた。
なお、補給地点でのペナルティがあり、日本大学と鹿屋体育大学は上位2名のみの集計となっている。
これは規定の4名を超える人数で補給を行ったことへのアピールに対応したもので、罰金とともに「競技管理を尊重しなかったことに関連して、対抗得点対象者数を1 名減じる」というものだ。
今後に向けて
大学生の夏の祭典が終わった。多くの大学が年間スケジュールの最高ランクに位置づけする大会は、選手だけでなく関係者にとっても戦いだ。ときには選手不在のやりとりもなされる。インカレはバンクの周囲だけ、あるいはロードコースの周囲だけの狭いエリアで行われるが、その中での常識は世界に通ずるものでなくてはならない。ましてや選手の少なくない数が卒業後に指導者として日本全国へ散らばる。今後も選手本位の大会であり続けることを願いたい。
なお、来年のインカレは長野県で行われることが予定されている。
結果
女子 70km
1位 上野みなみ(鹿屋体育大学)2時間20分03秒
2位 明珍裕子(朝日大学)+2分44秒
3位 田中まい(日本体育大学)+5分55秒
4位 小島蓉子(日本体育大学)+8分03秒
5位 木村亜美(鹿屋体育大学)+8分34秒
6位 塚越さくら(鹿屋体育大学)+9分54秒
男子 168km
1位 内間康平(鹿屋体育大学)5時間02分30秒
2位 西薗良太(東京大学)+04秒
3位 山本元喜(鹿屋体育大学)+1分53秒
4位 榎本剛士(日本大学)+2分24秒
5位 高橋将輝(日本大学)+4分12秒
6位 飯野智行(中央大学)+4分27秒
7位 窪木一茂(日本大学)+7分00秒
8位 中田匠(日本大学)+7分05秒
9位 宇野誓(京都大学)+7分07秒
10位 木守望(京都産業大学)+7分53秒
大学対抗得点
女子
1位 鹿屋体育大学 68点
2位 日本体育大学 38点
3位 朝日大学 22点
男子
1位 日本大学 66点
2位 中央大学 61点
3位 鹿屋体育大学 59点
4位 早稲田大学 47点
5位 順天堂大学 33点
6位 朝日大学 18点
photo&text:高木秀彰
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