2010/08/27(金) - 16:16
このゼリウスはラピエールのロードシリーズの最高峰モデルである。ミドルクラスにはカーボンフレームのセンシウム、エントリーモデルにはアルミフレームのアウダシオなどが控える。
2年連続でツール・ド・フランスの区間優勝に貢献したゼリウス。もっとも選手の実力があってこそだが、バイクの優れたパフォーマンスも影響はあるだろう。このニューモデルの特徴は、優れたテクノロジーによって生み出されたフルカーボンモノコック構造にある。
フレーム形状は実に流麗なデザインで、ゆるやかにラウンドしたトップチューブが特徴的だ。最近の流行でもあるがトップチューブを湾曲させて乗り心地の向上を狙っているのだろう。
カーボン素材は再構成され、ユニディレクショナルHMカーボンとVHMカーボンを適材適所に配置し、わずか860g(サイズ55cm)という軽さを実現している。さらにフレーム内部の壁面もスムースに仕上げることで、より優れた強度と耐久性を実現している。
ヘッドチューブは上下異径のテーパードヘッドを採用。下側のベアリングは1.5インチという大口径サイズを採用している。フロントフォークはリッチー製で、ゼリウス専用に供給されたフルカーボンフォークだ。
リアブレーキケーブルはフレームに内蔵しており、すっきりとした美しいフォルムを実現しており、エアロダイナミクス性能の向上、ケーブルにまつわるトラブルの回避など多くのメリットを秘めている。
シートポストはレギュラータイプを用いる。サドルの交換や輪行など、あくまでもホビーサイクリストが使用する上での汎用性が高く、扱い易いはずだ。軽さを狙いたいなら軽量ピラーを導入したほうが、ISPよりも軽く仕上げられるだろう。BB部分は別注モデル(WEBシリーズ)でプレスフィットタイプが存在するものの、従来モデルは一般的な規格となる。
なお、ゼリウス900のコンプリートバイクの場合はシマノ・デュラエースをメインコンポーネントに、ホイールはシマノ・WH7900-C24-TL、ハンドル/ステム、ピラーなどはリッチーで固められている。
また、アッセンブルによって価格を抑えたモデルが3パターン存在する。ゼリウス700(税込み価格:514,500円)はスラム・フォースをメインコンポとしたセカンドモデルで、ホワイトとレッド、ブラックカラーでまとめた美しいパッケージとなっている。
ゼリウス400(税込み価格:451,500円)はシマノ・アルテグラで組んだチームカラーのサードモデル。コンパクトドライブを採用している。
もっともお手頃な価格のゼリウス200(税込み価格378,000円)はフォークグレードを抑えつつもシマノ・アルテグラを搭載したモデル。
価格は異なるがフレームは同様の構造だ。お手頃な価格帯からゼリウスのパフォーマンスを楽しめる。パーツやホイールのグレードを向上させていけば長期間その優秀な走りを楽しめそうだ。
さて、このフランスから届いた美しいカーボンモノコックフレームを、インプレライダー2人はどう評価したのだろうか?早速インプレッションをお届けしよう。
―インプレッション
「すべての能力が合格点に達している優等生」 鈴木祐一(Rise Ride)
第一印象はまさに「優等生」。以前にインプレでゼリウス400(コンポーネントやホイールのグレードを抑えコストパフォーマンスに優れたモデル)に乗ったことがあるのだが、乗り心地がよくマイルドで、長距離ツーリングなどでストレスを最小限に抑えてくれるようなイメージだった。しかしながらこの900も外観はほぼ同じ。設計コンセプトは大きくは変わらないだろう。
同様のコンセプトだが、よりレーシーに振っている乗り心地だ。それがゼリウス400との違いだろう。シマノ・デュラエースがメインコンポであることも影響するだろうが、こちらのほうが硬くて反応が良く、全体に好感触だ。
ダンシングで走るとバイクの振りも軽く、硬さもあるので加速しやすい。ゼリウス400と比べるとレースで必要な性能がより強調されていると言える。
優等生ぶりと表現したこのバイクの特徴は、なんといっても扱いやすさ。ダウンヒルは安定感に優れ路面の追従性がよく、上りでは自然な振りの軽さがある。ショック吸収性も高く、荒れた路面でのブレーキングなど本来気を使うべき場面でもコントローラブルだった。
「特別この部位がすごく優れている」というのは語りにくいが、必要な性能はすべて詰まっており、不満はない。むしろすべての能力が合格点に達しているのでデメリットを感じないという印象だ。際立った性能を強いて挙げるなら、走行中のストレスが少ないように考えられているようだ。
設計的なところはわかりかねるが、ライダーの側面から見ると「苦手なポイントを無くす」という指向が強い。「苦手を無くしていったらすべて良くなった」という良さがうかがえる。そこがゼリウスの特徴であり、好感がもてる。
当方のショップでもラピエールを取り扱っており、今までに何台か販売をしていて感じたのがメンテナンスのしやすさだ。ブレーキケーブルはインターナルケーブルルーティングだが、ワイヤーの出し入れがしやすい仕掛けがあり、作業効率がよい。
フレームサイズによって異なるのかもしれないが、アウターケーブル受けの位置などもよく考慮されている。組んでいてストレスがないのだ。例えばテーパードヘッドはヘッド周りが太くなりワイヤーの取り回しが悪くなる傾向があるが、ゼリウスの場合はケーブルルーティングにハンドリングフィールが影響されないようなフレーム設計なので組みやすく、オーナーとなったお客さんの評判もいい。
また特殊な加工や構造をいたずらに採用していないので、トラブルも少ないと予想できる。ゼリウスは万能な性能だけでなく、余計なトラブルを回避しロングライフを提供してくれるバイクといえる。
「まぎれもなくラピエール史上最高のバイク」 山本健一(バイクジャーナリスト)
ラピエールをじっくりと見たのは2003年にフランセーズ・デジューに採用されたことがきっかけだ。当時は大口径アルミフレームの黎明期で、スコットやコガと並びラピエールがこの最新トレンドのアルミフレームを採用していた。さらにスカンジウム配合のアルミチューブでポリッシュカラーのフレームは美しい輝きを放っていた。この年度末には選手払い下げのバイクを購入していた。
それからこのゼリウスの先代となるXライトまで、数台のラピエールを乗り継いできた。ハイエンドモデルのコンセプトは世代が移っても変わらず、コンペティションを強く意識していると言える。そして、いつの時代でもトップクラスのパフォーマンスを発揮してくれる。
先代となるXライトはチューブtoチューブ構造だったのに対し、このゼリウスはモノコック構造となる。フレームにかかるストレスを考慮するとこの形状のほうが正しいという、セオリー通りのモノコック構造を採用し、プレミアムなイメージがなくなってしまったのが残念ではある。とはいえ、100g以上の軽量化の影響はかなり大きいだろう。
著しく軽くなったにも関わらず、そのフレーム剛性はたくましく安定感がある。出力を抑えているときは優しく、いざ踏み込んだときの力強さは心地よい。
剛性は高いものの適度なしなりによって加速感は良い。アッセンブルされたシマノ・WH-7900-24C-TLホイールはややしなやかで、フレームの感触とあわせるとややコンフォートに感じる。しかしストレス無く乗りたい人にはこの組み合わせは秀逸である。剛性がきわめて高いアルミホイールを履いても、ピーキーになりすぎずに切れ味だけ活かせそうな質感だろう。
上りの性能も高く、鋭く加速する走りにも、イーブンペースで巡航する走りにも、自然と対応してくれる。実力以上の走りはできないが、もっと踏めそうな気にさせてくれるのだ。
800g台という軽さになっただけに、デリケートな質感は否めない。しかしそれは昨今のハイエンドバイクの宿命だろう。しかしながらライディングフィールでは不安感を少しも感じないのは、優秀な設計によるものだろう。乗りやすさはかなり上位に位置するバイクだ。
あらゆる場面に適応できる性能で、実業団レースから、耐久レースなどで能力を発揮してくれる。もっとも有効なのはグランフォンドのような、厳しいロングライドだろう。いくつも峠を越えハイスピードな下りや長い平坦など、あらゆるシチュエーションで最高の性能を発揮してくれそうだ。
ラピエール ゼリウス900
フレーム:ゼリウス HM UDカーボンモノコック
フォーク:リッチー・WCSカーボンテーパーX900
ヘッドセット:アルミニウムインテグレーテッド1.5-1.1/8インチ
コンポーネント:シマノ・デュラエース
ハンドル:リッチー・スーパーロジックカーボン
ステム:リッチー・WCS 4AXIS
サドル:リッチー・WCS 2B
ホイール:シマノ・WH-7900-24C-TL
タイヤ:ハッチンソン・アトムチューブレス
完成車重量:6.6kg
フレームサイズ:46、49、52、55cm
希望小売価格:756,000円(税込/シマノ・デュラエース完成車)
インプレライダーのプロフィール
鈴木 祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
山本健一(バイクジャーナリスト)
身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。
ウェア協力:ETXE ONDO(サイクルクリエーション)
http://www.etxeondo.jp/
text:Kenichi.YAMAMOTO
photo:Makoto AYANO
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