4月11日と12日に長野県の富士見高原リゾートスキー場で開幕したMTBエンデューロの国内シリーズ戦「シマノENS」。「カミハギサイクル」と「オガワサイクル/ハスクバーナ東海」の参戦レポートを紹介しよう。




長野県の富士見高原リゾートスキー場で開幕したMTBエンデューロの国内シリーズ戦「シマノENS」 (c)シマノ

チームで参戦する愉しさ ── ENS富士見高原
大会で見えた、仲間と走るという選択


パドックに並ぶ、それぞれの「チームのかたち」

マウンテンバイクのエンデューロシリーズ、ENS(Enduro National Series)。会場のパドックを歩いてみると、個人でエントリーしているライダーはむしろ少数派で、目につくのはショップやチーム単位で張られた大きなテント群です。

ひとくちに「チーム参戦」と言っても、そのスタイルは実にさまざまです。スポンサーを背負ってストイックにタイムを削りに来るレーシングチームもあれば、ショップのスタッフが、チームメンバーと共に遠征気分で楽しむグループ、異業種の仲間が集まって週末のキャンプついでにレースに出るような合同チームもあります。速さを追うのか、仲間との時間を味わうのか ── その比重はチームごとに異なり、だからこそパドックの空気は一様ではありません。

ただ、どんなスタイルのチームにも共通しているのは、「仲間と一緒に走ることで、レースの愉しさが何倍にも膨らんでいる」という事実です。今回の開幕戦・富士見高原大会で取材した「カミハギサイクル」と「小川サイクル/ハスクバーナ東海」。 カラーの異なる2つのチームから、チーム参戦という選択が持つ豊かさを紐解いていきましょう。

ショップが連れていく、という文化 ── カミハギサイクル

愛知県から参加した「カミハギサイクル」 (c)シマノ

愛知県から参加した「カミハギサイクル」は、スペシャライズド岡崎のマウンテンバイク担当・石田さんを軸に、常連客を引率する形でENSに挑んでいます。

石田さんがENSと出会ったのは、長野・松本の自転車専門学校時代。授業の一環でコースマーシャル(係員)を務めたのがきっかけでした。「その時がめっちゃ楽しかったんです。この楽しさをお客さんにも共有したいなと思って、3年ほど前から出始めました」と振り返ります。自身が現場で感じた熱量を、ショップの活動としてお客様に還元していく ── チーム結成の原点には、ごくシンプルな動機がありました。

スペシャライズド岡崎のマウンテンバイク担当・石田さん (c)シマノ

E-MTBがエンデューロへの入口を広げた

今大会、同チームからは新規参加者が目立ちました。その追い風となったのが、スペシャライズドのE-MTB「Levo SL」の存在です。

「去年、Levo SLを多くのお客さんに選んでいただきました。上りが楽できる分、下りに集中できるので、ENSにはドンピシャなんです」と石田さん。e-MTB全般の進化も背景にあります。「電動アシスト化がエンデューロへの道を作った、という面は確かにありますね」と語ります。

加えてENSは、愛知から2時間半〜3時間ほどでアクセスできるコースが多く、「絶対にジャンプを飛ばなきゃいけない」「ドロップをクリアしないと失格」といったハードな関門もありません。初めてレースに出るライダーにとって、入口として理想的なシリーズなのです。

ショップのチームで出れば安心

ショップ単位で参戦する最大のメリットは、やはり「安心感」 (c)シマノ

ショップ単位で参戦する最大のメリットは、やはり「安心感」です。

「普段から接しているスタッフがその場にいるので、お客さんのバイクのことも把握しています。何かあればすぐに手助けできる。これはお客さんにとって、すごく安心できる面だと思います」と石田さん。

その強みが実戦で活きた象徴的な場面が、今大会でもありました。あるメンバーが走行中にリアディレイラーをヒットし破損するメカトラブルに見舞われたのですが、スタッフがその場でパーツを交換して対応。結果、そのライダーは自分のクラスで3位に入り、表彰台に上がっています。「把握もしているし、パーツも積んでいるので、どうにでもなりますよ」。

ENSに向けた車両整備も、チームで動くことが前提になっています。「レース前にまとめてメンテナンスを受けてもらう流れができているので、ショップの運営としてもうまく循環しています」。お客様にとってはレースへの挑戦を支えるサポート、ショップにとっては日常業務との連続性 ── 双方にとって無理のない関係が築かれているのです。

前夜祭で生まれる、新しい輪

レース当日だけがチームの時間ではありません。前日入りしてのキャンプと宴会も、同チームにとっては欠かせない要素です。

「宴会でお客さん同士の距離が縮まるんです。もともと面識のなかった人同士が仲良くなって、そこからまた新しいグループができていく。いい流れができますね」。会場近くの同じキャンプ場を、この人数で泊まれるようにと2ヶ月前から押さえる ── それだけでチームの本気度が伝わってきます。

親子でENSへ ── ある家族の入口

親子でENSに参加した加藤親子 (c)シマノ

同チームから参加した、加藤親子の話も印象的でした。

マウンテンバイクを始めたきっかけは、息子さんがYouTubeを見て欲しがったこと。最初の1台は別のショップでGTのハードテールを購入し、親子でトレイルを走るうちにお父さんも乗りたくなって自分の一台を買い足したといいます。マウンテンバイクに乗り始めて、まだ2年ほど。しかも息子さんには、近々フルサスペンションモデルが納車予定とのこと。「息子の方を先に替えてあげないと、もう全然追いつけなくて」とお父さんは苦笑します。

マウンテンバイクを始めたきっかけは、息子さんがYouTubeを見て欲しがったこと (c)シマノ

個人で走る場所を見つける難しさも、チームに入ったことで解消されました。「最初はインターネットで情報を探して、ここ行ってみようかって一人で出かけていくんですけど、走り方もよく分からない。YouTubeで学んでも、実際に走ってみると全然違うんですよ」。

そんなときに、ショップのトレイルイベントに参加したことが転機になります。「トレイルに行くと、ここは危ないですよって走る前に教えてもらえる。だんだん乗れるようになっていく感覚があるんです」。そして何度か参加するうちに「ENSに出てみませんか」と声をかけられ、レースへの扉が開きました。

オートバイと自転車が交わる夜 ── オガワサイクル/Husqvarna東海

「オガワサイクル/Husqvarna東海」の合同チーム (c)シマノ

もう一組、印象的だったのが「オガワサイクル/Husqvarna東海」の合同チームです。今回がチームとしてENS初参戦、しかも参加した6名全員が表彰台という快挙を成し遂げました。

きっかけは、オートバイ乗りの一言

このチームが生まれた経緯は、少しユニークです。オガワサイクルの店長はこう説明します。
「もともとは、Husqvarna東海(オートバイショップ)のお客さんが、エンデューロレース(オートバイの)の練習や下見用にマウンテンバイクが欲しいって来店されたのがきっかけなんです」

そこからe-MTBに乗り始めた彼らは、やがてオートバイとは違うマウンテンバイク独自の面白さに気づきます。トレイルライドに出かけるようになり、その延長で「じゃあレースに出てみようか」とみんなで富士見までやって来たのだといいます。参加メンバー6名のうち、半分がオートバイ出身、残り半分がもともとマウンテンバイク乗り。二つの世界が混じり合った構成です。

参加メンバー6名のうち、半分がオートバイ出身、残り半分がもともとマウンテンバイク乗り (c)シマノ

全員が初参戦で、全員が表彰台

驚くべきことに、小川店長自身を含め、今回のメンバーは全員ENS初参戦でした。U15クラスで優勝した辻龍之助選手は、ダウンヒルシリーズの経験こそあれ、ENSは初めて。

「怪我せずに、前日のキャンプも含めて楽しめればいいよね ── そのくらいの気持ちで来たんですけど、思いの外みんながいい結果を出してくれて。最終的に全員が表彰台に上がれたので、味を占めちゃいましたね」と店長は笑います。「こんなことはまあ、そうそうないと思いますけど」。

小川店長自身を含め、今回のメンバーは全員ENS初参戦 (c)シマノ

人やバイクの個性もチームらしさを物語ります。ハードテールクラスで3位に入った前橋さんはオートバイの全日本エンデューロチャンピオン。さらに乗っていたのは、「5〜6年前に買った29インチのプラスタイヤ」という、今となってはジャンル全体でもレアな一台。

小川店長自身、レース参戦は20年ぶりだったといいます。「みんなで笑いながら『今日のレースで序列が決まる、こいつには負けねえ』なんて冗談を言い合って。遊んでばっかりでしたけど、それでも順位を見たら、みんなそのクラスの真ん中よりだいぶ上。ほぼ1桁台でしたから、遊んでばっかりだからこそ、よくやったほうだと思います」。

異業種ショップ同士の相互学習

この合同チーム、実は小川サイクルが他のMTBレースに出た経験もなく(普段はトレイルライドやマウンテンバイクパーク遊びが中心)、「競技に出る」という発想自体が初めてだったといいます。

そんな中で心強かったのが、Husqvarna東海のチーム運営ノウハウです。

「テントを立てるところから、キャンプの段取りまで、ほとんどハスクバーナさんに教えてもらいました。『こんなものが要るんだね』『こうするといいんだね』って、逆に僕の方が教わることばかりで。もう、ひっついているようなものでした」と店長。

オートバイショップの店長とは3〜4年の付き合いで、普段からお客様との接し方や楽しませ方について学ぶことも多いのだそう。ジャンルの垣根を越えた関係性が、レースという非日常の場で自然に機能している ── そんな姿が見えてきます。

自転車業界は、バイク業界と似ている

取材の中で小川店長が口にした一言も、業界の構造を端的に言い表していました。

「自転車のレースも、結局お店が『行くよ』って声をかけて連れ出すケースが多いんです。個人で出ている人は少数派ですね」。これはオートバイ業界で古くから続く「ショップツーリング」「ショップ単位でのレース参戦」という文化とよく似ています。販売店が顧客コミュニティのハブになり、一緒に遊びへ連れ出す ── そうした役割は、ジャンルを問わず愛好者の世界を支え続けているのです。

異業種ショップ同士の相互学習 (c)シマノ

ENSが「大人の遊び場」として定着する理由

カミハギサイクルのように、ショップのメカニカルサポートと前夜祭の宴会で、お客さん同士の輪を丁寧に育てていくチーム。オガワサイクル/Husqvarna東海のように、異業種の仲間とキャンプを楽しみながら、笑い合って初レースに挑むチーム。

この2チームを比較しても、参戦スタイルに「正解」があるわけではないことがよく分かります。タイムを削ることに没頭するも良し、順位よりも週末の時間を味わうも良し。むしろ、その幅広さこそがENSの懐の深さを示しています。

レース中のメカトラブルを助け合える安心感、初見のコースで危険箇所を教え合える心強さ、そして前夜の焚き火を囲んで語り合う時間 ── これらはすべて、チームだからこその財産です。ENSは、単にタイムを競うためだけの場所ではありません。走っている時間も、走っていない時間も含めて、仲間と最高の週末を共有するための「大人の遊び場」として、確実に定着している ──パドックに並ぶテント群は、そう教えてくれています。

もちろん、チームだけがENSの楽しみ方ではありません。一人で会場に乗り込む「孤軍参戦」であっても、ENSには不思議な連帯感があります。 リエゾン(移動区間)を一緒に走る前後のライダーと、「あのセクション、滑りましたね!」「あそこの根っこ、どう越えました?」とコースの攻略法を振り返りながら走るうちに、自然と会話が弾み、気がつけばゴールする頃には意気投合して仲良くなっている……そんな光景も、ENSでは日常茶飯事です。

一人でストイックに挑む緊張感を楽しむのもいい。けれど、もし不安なら、隣り合ったライダーに少しだけ声をかけてみてください。レース中も、そして走り終わった後のパドックでも、そこには同じコースを走り切った仲間としての敬意と、新しい出会いが待っています。

仲間と最高の週末を共有する「大人の遊び場」であり、同時に新しい友人と出会うための場所。ENSは、これから挑戦しようとするすべてのライダーを、等しく温かく迎え入れてくれます。
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