それはアタックではなくペースアップだった。ペダルを強く踏み込む力が要求される深い砂が続くコースを圧倒的なパワーで押し切った織田聖が危なげない走りで制し、シクロクロス全日本選手権4連覇を達成。ヒジリの勢いは止まることを知らない。

高速道路と帆船を模した公園ビーチエリアがコースだ photo:Makoto AYANO
大阪府貝塚市の「二色の浜公園BLUE PARK」特設コースは、レースを主管する関西シクロクロスでも人気の会場だ。大会2日目の12月14日、男子エリートは14時20分のスタート。

SKE48の荒野姫楓さんと弱虫ペダルの渡辺航先生 photo:Makoto AYANO
関西国際空港が見渡せる二色の浜は大阪中心部からも電車でもアプローチできる好ロケーション。さらに今日はスペシャルゲストに弱虫ペダルの渡辺航先生とSKE48の荒野姫楓さんの来場により多くの新規ファンが会場に集まった。

トークショーではビーチに人垣ができた photo:Makoto AYANO
昼に盛り上がった2人のトークショーを挟んで女子エリート、そして男子エリートの順でイベントはボルテージを上げていった。会場に「シクロクロスを観るのは初めて」という人も多かったのは「ひめたん」効果だろう。

600mのストレートをスタートしていくエリート男子 photo:Makoto AYANO
朝方まで雨が降り、昨日までふかふかだった砂浜を濡らした。水分を含んだ砂は締まり、少し走りやすくなった。しかし粗い砂粒がチェーンなどバイクの駆動系に絡みつくようになったのが悩みどころだ。そして風は強さを増し、吹きさらしの多いビーチ区間での負荷はより高まることに。美しい景観に反して、踏みのパワーを要求される過酷なコースだ。

沢田時(Astemo宇都宮ブリッツェン)を先頭にビーチエリアへと向かう5人パック photo:Makoto AYANO
600mの長い直線の舗装区間を走り出し、林間のスラローム区間を抜けて1周目に先頭パックを形成したのは沢田時(Astemo宇都宮ブリッツェン)、織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)、副島達海(TRK Works)、横山航太(ペダル)、松本一成選手(W.V.OTA)の5人。

5人の先頭パックを積極的にリードする沢田時(Astemo宇都宮ブリッツェン) photo:Makoto AYANO

横山航太(ペダル)を先頭にサンドエリアを進む5人の先頭パック photo:Makoto AYANO
沢田と横山が積極的にペースをつくり、サンドセクションが得意な横山を先頭に砂浜へ。波打ち際を使うか、浜にできた轍を使うか、おもに2通りのラインと走り方の選択があった。

砂さばきの巧い横山航太(ペダル)が先頭パックをリードする photo:Makoto AYANO

ラインは主に2つ。濡れた波打ち際は乗車して走ることができた photo:Makoto AYANO
先頭パック5人に動きがあったのは2周目。サンドセクションに入ると織田がペースアップして抜け出す。風の強いなか、まとまって走ればドラフティングが効く区間も少なくないが、続くパックも追走を強いられてバラけ、早くも協調体制は崩れた。

リードを広げた後もパワーを掛け続ける織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Makoto AYANO
周回を重ねてもその構図は変わらず、トップを走る織田と後続の差はさらに開き、30秒ほどのタイム差となる。レースは3.23kmのコースを8周することに。

波打ち際を乗ったままこなす織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Makoto AYANO
織田のリードは5周目には40秒まで拡大。副島、沢田がそれぞれ単独で追う展開で、織田の安全マージンは残り3周ですでに安全圏とも言えるほどになった。

副島達海(TRK Works)と沢田時(Astemo宇都宮ブリッツェン)の2位争いバトル photo:Makoto AYANO
6周目には沢田が副島を捉え、2人パックとなる。勢いを見せる沢田がリードを広げようと先行するが、副島もそれを許さない。もはや2位争いに切り替えざるを得なかった2人だが、その争いは加熱。観客の興味も2位争いのシーソーゲームに注がれるように。

サンドセクションでリードする沢田時に副島達海もパワーで追走する photo:Makoto AYANO

テール・トゥー・ノーズのバトルが続く photo:Makoto AYANO
大きなリードを築きつつ、パワーを掛ける区間では容赦なくペダルにトルクを掛け、プッシュし続けた織田。最終周までまったく不安要素を感じない走りで圧倒した。

ラインも的確に砂浜も乗ったままこなす織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Makoto AYANO
最終ストレートでは観客にハイタッチ。フィニッシュラインを越える前に降車して、感謝を表すようにビアンキのCXバイクのクランクの位置を整え、真正面に持ち上げるパフォーマンスも披露した。フィニッシュラインで迎えた渡辺航先生ともハイタッチを交わす。

全日本選手権4連覇を達成した織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) photo:Makoto AYANO

最後までトラブル無く走ったバイクに感謝し掲げる photo:Makoto AYANO
シクロクロス全日本選手権4連覇達成。今季は出るレース敵無しで勝利を重ねてきたが、今日もまさに日本王者にふさわしい走りだった。

マッチスプリントへと飛び込む沢田時と副島達海 photo:Makoto AYANO
ほぼ1分間、フィニッシュエリアで続いた織田の祝福タイムの後に、副島と沢田の2位争いのバトルは決着を迎える。砂区間で幾度となく勝負を仕掛け、先行した沢田だが、ラストスプリントのパワーでは副島が勝っていた。2人は最終コーナーで接触しかけるが、差を開いた副島がフィニッシュポーズも無く先着、2人はそのまま路面に突っ伏した。2人の死闘は2位沢田、3位副島で決着。

3位に終わった沢田時(Astemo宇都宮ブリッツェン)レース後は悔しさが滲む photo:Makoto AYANO
「副島選手には砂区間では先行できると思いましたし、最後もリードできるかと思いましたが、後ろにぴったりつかれてしまい、もがききれませんでした」と沢田。
「2人での戦いというより、聖さんを追いかけるつもりで走っていたので、砂浜はキツイし時さんはスイスイ前に行ってしまうし、辛くて辛くて。でもこの会場でもっとも僕への応援が多かったので、それで最後まで踏み切れたと思います」と副島。

2位の副島達海(TRK Works)越えられない壁は高かった photo:Makoto AYANO
4年連続でナショナルチャンピオンジャージを着ることになる織田。ポディウムでは笑顔も爽やかに、軽い口調でひょうひょうと喜びを語った。
「4連覇は素直に嬉しいです。全日本は何があるか予測がつかないレース。風が強いのでミスしたらそのぶんキツくなるのは分かっていたのに、いつものようにスロースタートになってしまい、前に追いつくのに力を使ってしまった。2周目に先頭に出てからは自分のペースで走ることができました。

フィニッシュラインで迎えた渡辺航先生と photo:Makoto AYANO
渡辺先生も応援に駆けつけてくれて、その前で勝つことができた。この会場は今年まで所属したマトリックス・パワータグの本拠地からもすぐ近くで、今日は安原監督も応援に来てくれた。監督のおかげで強くなれて、渡辺先生のおかげでこのチャンピオンジャージを穫れたんだと思います」。

元チームメイトの前田公平(左)も観戦に駆けつけ祝福した photo:Makoto AYANO
そして最後には自身がプロデュースする応援グッズ「ハイスピードダート、ハイスピードにゃんこ」のPRも欠かさない。織田はクリスマス前から年末年始にかけてはオランダ・ベルギーへ遠征し、スーパープレスティージュなどの欧州CXレースを連続してこなす予定だ。

男子エリート 1位 織田聖 (弱虫ペダルサイクリングチーム) 2位 副島達海(大阪産業大学 ) 3位沢田時 (宇都宮ブリッツェン) photo:Makoto AYANO
今年はグラベルレースにも新たに挑戦し、ロード、マウンテンバイクと勝利を重ねながら年間通して休み無くレースを走ってきた沢田時。ハードスケジュールに加え、直近に体調を崩したことも影響したかもしれない。
沢田は言う。「表彰台は昨年と同じメンバーで、同じ順位。ただ今日は、2周目から織田選手に離されてしまった。2位争いはできたが、力の差を感じたレースでした。タイム差的にも織田選手を捉えるのは厳しく、途中からは2位を狙う気持ちに切り替えました。

男子エリート 1位 織田聖 (弱虫ペダルサイクリングチーム) 2位 副島達海(大阪産業大学 ) 3位沢田時 (宇都宮ブリッツェン) photo:Makoto AYANO
織田選手はアタックというより、自分のペースで走っているだけで離れていったので、パワーのかけ方が自分はまだ足りないと感じました。このタイトルを狙うなら、来年はやり方を変えなければならないと思います」。
1年かけてしっかり考え、また挑戦したいです。次は1月に東北、2月にCX東京。今年は3月からマウンテンバイク、ロードと激しいシーズンでしたが、冬もしっかりシクロクロスを走ります。一度休めば、また新たな気持ちで臨めると思います。シクロクロスは楽しいですし、応援してもらえるのもうれしい。今年1年、サポートと応援をありがとうございました」
エリートに昇格してからも下剋上を期待される副島達海だが、今回もその野望は叶わなかった。
副島は言う。「もちろん勝つために走りました。全力を出し切れた感はあるんですが、まだ1位の壁は高かった。それに挑むことが僕を強くしてくれる。今日は辛くて悔しい。この結果を受け入れるには立てないほど悔しいんですが、これからまた1年、聖さんをぶっ倒すまで全力で取り組んでいきたい」。

大阪府貝塚市の「二色の浜公園BLUE PARK」特設コースは、レースを主管する関西シクロクロスでも人気の会場だ。大会2日目の12月14日、男子エリートは14時20分のスタート。

関西国際空港が見渡せる二色の浜は大阪中心部からも電車でもアプローチできる好ロケーション。さらに今日はスペシャルゲストに弱虫ペダルの渡辺航先生とSKE48の荒野姫楓さんの来場により多くの新規ファンが会場に集まった。

昼に盛り上がった2人のトークショーを挟んで女子エリート、そして男子エリートの順でイベントはボルテージを上げていった。会場に「シクロクロスを観るのは初めて」という人も多かったのは「ひめたん」効果だろう。

朝方まで雨が降り、昨日までふかふかだった砂浜を濡らした。水分を含んだ砂は締まり、少し走りやすくなった。しかし粗い砂粒がチェーンなどバイクの駆動系に絡みつくようになったのが悩みどころだ。そして風は強さを増し、吹きさらしの多いビーチ区間での負荷はより高まることに。美しい景観に反して、踏みのパワーを要求される過酷なコースだ。

600mの長い直線の舗装区間を走り出し、林間のスラローム区間を抜けて1周目に先頭パックを形成したのは沢田時(Astemo宇都宮ブリッツェン)、織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム)、副島達海(TRK Works)、横山航太(ペダル)、松本一成選手(W.V.OTA)の5人。


沢田と横山が積極的にペースをつくり、サンドセクションが得意な横山を先頭に砂浜へ。波打ち際を使うか、浜にできた轍を使うか、おもに2通りのラインと走り方の選択があった。


先頭パック5人に動きがあったのは2周目。サンドセクションに入ると織田がペースアップして抜け出す。風の強いなか、まとまって走ればドラフティングが効く区間も少なくないが、続くパックも追走を強いられてバラけ、早くも協調体制は崩れた。

周回を重ねてもその構図は変わらず、トップを走る織田と後続の差はさらに開き、30秒ほどのタイム差となる。レースは3.23kmのコースを8周することに。

織田のリードは5周目には40秒まで拡大。副島、沢田がそれぞれ単独で追う展開で、織田の安全マージンは残り3周ですでに安全圏とも言えるほどになった。

6周目には沢田が副島を捉え、2人パックとなる。勢いを見せる沢田がリードを広げようと先行するが、副島もそれを許さない。もはや2位争いに切り替えざるを得なかった2人だが、その争いは加熱。観客の興味も2位争いのシーソーゲームに注がれるように。


大きなリードを築きつつ、パワーを掛ける区間では容赦なくペダルにトルクを掛け、プッシュし続けた織田。最終周までまったく不安要素を感じない走りで圧倒した。

最終ストレートでは観客にハイタッチ。フィニッシュラインを越える前に降車して、感謝を表すようにビアンキのCXバイクのクランクの位置を整え、真正面に持ち上げるパフォーマンスも披露した。フィニッシュラインで迎えた渡辺航先生ともハイタッチを交わす。


シクロクロス全日本選手権4連覇達成。今季は出るレース敵無しで勝利を重ねてきたが、今日もまさに日本王者にふさわしい走りだった。

ほぼ1分間、フィニッシュエリアで続いた織田の祝福タイムの後に、副島と沢田の2位争いのバトルは決着を迎える。砂区間で幾度となく勝負を仕掛け、先行した沢田だが、ラストスプリントのパワーでは副島が勝っていた。2人は最終コーナーで接触しかけるが、差を開いた副島がフィニッシュポーズも無く先着、2人はそのまま路面に突っ伏した。2人の死闘は2位沢田、3位副島で決着。

「副島選手には砂区間では先行できると思いましたし、最後もリードできるかと思いましたが、後ろにぴったりつかれてしまい、もがききれませんでした」と沢田。
「2人での戦いというより、聖さんを追いかけるつもりで走っていたので、砂浜はキツイし時さんはスイスイ前に行ってしまうし、辛くて辛くて。でもこの会場でもっとも僕への応援が多かったので、それで最後まで踏み切れたと思います」と副島。

4年連続でナショナルチャンピオンジャージを着ることになる織田。ポディウムでは笑顔も爽やかに、軽い口調でひょうひょうと喜びを語った。
「4連覇は素直に嬉しいです。全日本は何があるか予測がつかないレース。風が強いのでミスしたらそのぶんキツくなるのは分かっていたのに、いつものようにスロースタートになってしまい、前に追いつくのに力を使ってしまった。2周目に先頭に出てからは自分のペースで走ることができました。

渡辺先生も応援に駆けつけてくれて、その前で勝つことができた。この会場は今年まで所属したマトリックス・パワータグの本拠地からもすぐ近くで、今日は安原監督も応援に来てくれた。監督のおかげで強くなれて、渡辺先生のおかげでこのチャンピオンジャージを穫れたんだと思います」。

そして最後には自身がプロデュースする応援グッズ「ハイスピードダート、ハイスピードにゃんこ」のPRも欠かさない。織田はクリスマス前から年末年始にかけてはオランダ・ベルギーへ遠征し、スーパープレスティージュなどの欧州CXレースを連続してこなす予定だ。

今年はグラベルレースにも新たに挑戦し、ロード、マウンテンバイクと勝利を重ねながら年間通して休み無くレースを走ってきた沢田時。ハードスケジュールに加え、直近に体調を崩したことも影響したかもしれない。
沢田は言う。「表彰台は昨年と同じメンバーで、同じ順位。ただ今日は、2周目から織田選手に離されてしまった。2位争いはできたが、力の差を感じたレースでした。タイム差的にも織田選手を捉えるのは厳しく、途中からは2位を狙う気持ちに切り替えました。

織田選手はアタックというより、自分のペースで走っているだけで離れていったので、パワーのかけ方が自分はまだ足りないと感じました。このタイトルを狙うなら、来年はやり方を変えなければならないと思います」。
1年かけてしっかり考え、また挑戦したいです。次は1月に東北、2月にCX東京。今年は3月からマウンテンバイク、ロードと激しいシーズンでしたが、冬もしっかりシクロクロスを走ります。一度休めば、また新たな気持ちで臨めると思います。シクロクロスは楽しいですし、応援してもらえるのもうれしい。今年1年、サポートと応援をありがとうございました」
エリートに昇格してからも下剋上を期待される副島達海だが、今回もその野望は叶わなかった。
副島は言う。「もちろん勝つために走りました。全力を出し切れた感はあるんですが、まだ1位の壁は高かった。それに挑むことが僕を強くしてくれる。今日は辛くて悔しい。この結果を受け入れるには立てないほど悔しいんですが、これからまた1年、聖さんをぶっ倒すまで全力で取り組んでいきたい」。
シクロクロス全日本選手権2025男子エリート 結果
| 1位 | 織田聖(弱虫ペダルサイクリングチーム) | 59分46秒 |
| 2位 | 副島達海(TRK Works) | +1:09 |
| 3位 | 沢田時(Astemo宇都宮ブリッツェン) | +1:10 |
| 4位 | 加藤健悟(臼杵レーシング) | +2:59 |
| 5位 | 横山航太(ペダル) | +3:26 |
| 6位 | 小坂光(Utsunomiya Lux) | +3:37 |
| 7位 | 松本一成(W.V.OTA) | +3:58 |
| 8位 | 堀川滉太(NEBcycling) | +4:19 |
| 9位 | 竹之内悠(/slash - PINARELLO) | +4:37 |
| 10位 | 丸山厚(BOMA/ROND CX TEAM) | +5:19 |
text&photo:Makoto AYANO
Amazon.co.jp