ツール・ド・ラヴニールやロード世界選手権のU23カテゴリーで活躍できなかった選手は、プロになるチャンスが絶たれる。日本のロードレース界に蔓延るこの呪いを解くべく、元日本王者である西薗良太は「UCIポイントを700点取ればプロになれる」と言う。これが中堅選手が目指すべき、次なる数値目標であると。



「UCIポイントを個人で700点取ることができれば、ワールドチームやプロチームに届く」

宇都宮ジャパンカップロードレースの前日である10月18日、自ら行うポッドキャストの公開イベントに登壇した西薗良太氏はそう語った。その直前に開催されたツール・ド・九州が、なぜ日本人選手にとって重要なレースなのかを語る文脈での発言だった。

イベント後、西薗氏本人にその発言の意図を聞いた。



現役時代は過去3度、全日本選手権個人TTを制した西薗良太 photo:Sotaro.Arakawa

西薗良太:UCIポイントで700点という数字は、現役時代のエージェント(代理人)であるダニー・フェンと話していたときに出た数字です。現在トレンガヌ・サイクリングチームで監督を務めている彼が、直近にプロチームに送り出したのがジャムバルジャムツ・サインバヤル(モンゴル、ブルゴス・ブルペレットBH)でした。サインバヤルは真っ当な道からブルゴスBHに加入した前年に600点(正確には640点)を取り、その前年には400点(458.75点)を取っていました。

―それがプロチーム、さらにその上のワールドチームを目指す選手たちが目標にすべき数字であると?

そうですね。ダニーも言っていることですが、難しく考えずにUCIポイントを取りに行く。これまであった「ツール・ド・ラヴニールやロード世界選手権のU23で活躍できなければプロになれない」という論調は、違うと思っています。選手のキャリアもそれぞれの形があり、プロトンの中には意外と歳を重ねてからプロになっている選手もいます。

―例に挙がったサインバヤルは27歳、そのチームメイトであるゲオルギオス・バグラス(ギリシャ)も33歳の時に、マトリックスパワータグからプロデビューしていますね。

それぐらいの実績があれば、チームに入ってもそれなりの仕事ができるということです。事実、サインバヤル(の加入後)の走りは安定しています。トップ・オブ・トップの成績ではないけれど、安定した走りでチームの中でも良いレースに選ばれています。

ジャムバルジャムツ・サインバヤル(モンゴル、ブルゴス・ブルペレットBH) photo:CorVos

―しかし、決してUCIポイントの700点を1シーズンで獲得するのは簡単ではありません。例えばチーム右京が2025年に獲得したのは1470.7点。つまりアジアトップのチームかつ、コンチネンタルチームで世界2位のチームが獲得した点数の半分を、1人で取るほどの成績ということになります。

サインバヤルの600点も半分ぐらいはアジア選手権などで個人で取っていて、その半分は(所属チームで出場した)ステージレースの総合上位に1〜2回食い込むことで獲得しています。つまり2クラスのレースで常に1〜2位を争う戦いをしなければならず、1クラスでもトップ10が狙えるレベル感だと、総獲得ポイントが500〜600点ほどになります。

サインバヤルの主なリザルトとUCIポイント(2023年)
ツアー・オブ・タイランド(2.1) 総合2位 85pts
アジア選手権TT 3位 40pts
アジア選手権ロード 7位 80pts
モンゴル国内選手権TT 2位 30pts
モンゴル国内選手権ロード 1位 100pts
アジア競技大会TT 8位 10pts
アジア競技大会ロード 3位 150pts
ツール・ド・九州(2.1) 区間2位&総合9位 30pts


―つまり、日本人選手がUCIポイントを獲得するという意味でも、1クラスのレースであるツール・ド・九州は重要な舞台であると?

そうですね。チームの数だけ総合上位を狙うエースがいます。(総合も狙える選手ならば)今年の九州には18チームが出場し、その中で総合で10位台に入ることが重要だと思います。たとえUCIポイントに繋がらなくても、総合で何位だったという成績には重みがある。各チームのエース分の順位にちゃんと入ることが大事です。なぜならアシストの選手たちは途中で脚を止めているはずだから。最後まで踏み続けることは、ちゃんと(今後に)報われるのだよ、と伝えたいです。

2013年はチャンピオンシステムで走った西薗良太 photo:Kei Tsuji

―だからこそ日本のコンチネンタルチームに所属する選手にとって、700点がプロを目指す1つの数値目標になるということですね。

自転車ロードレース界的に、目標を再定義していく必要があると思います。繰り返しになりますが、世界選とラヴニールでダメだったら「その後プロに繋がる道は知らないよ」という呪いがありました。でもその先の目標感がない中でも、2019年には中根(英登)や増田(成幸)さんなどが、(東京五輪代表を目指し)血眼になる姿がありました。「目標があるとみんな頑張る」というのが、あの時に見えた。だからこそ具体的な目標を掲げる重要性を訴えたいのです。

いまはアンダー(23歳)の年齢を過ぎ、国内のコンチネンタルチームに残ってしまうと「全日本選手権しか頑張らない」というマインドに陥りがちです。なぜなら日本王者ジャージを1年間着られるという具体的な目標があるから。そのためにはチームも一丸となり頑張ります。しかし、そこから先に繋がる目標がない。その目標が必要だと思いました。

宇都宮ジャパンカップでアジア最優秀選手賞を獲得した留目夕陽(EFエデュケーション・イージーポスト) photo: Yuichiro Hosoda

―2026年シーズンに向け、UCIポイントを獲得し、ステップアップを願う選手はいますか?

例えば宇賀(隆貴、キナンレーシング)君とか、いま成熟しつつある選手ですね。彼はこれまであった精神的なムラが、ここ最近落ち着いてきました。たとえ2クラスのレースであろうと、UCIレースで貪欲にポイント獲得を目指してほしい。また岡(篤志、Astemo宇都宮ブリッツェン)君も、そういうマインドで頑張ってほしいと思います。

ポテンシャルで言えば留目(夕陽、EFエデュケーション・イージーポスト)君が一番すごいでしょう。ここ2年間は苦しかったと思うのですが、本来の力を取り戻してほしいと思っています。

―大学の後輩でもある、金子宗平選手もその1人でしょうか?

彼も良い選手なのですが、少し考え方が特殊すぎますね。



Side by Side Radioを運営する西薗良太 photo:Kei Takada
西薗良太
鹿児島県から東京大学に進み、2009年のインカレでロード&TTの2冠を達成した。シマノレーシング、チームブリヂストンサイクリングを経て、2013年に中国籍プロコンチネンタルチームのチャンピオンシステムでプロデビュー。チーム解散に伴い一度は現役を退いたが、2015年に復帰。2017年限りで2度目の引退を迎えた。全日本選手権個人タイムトライアルでは3度(2012、16、17年)の優勝を誇る。

Side by Side Radio
2018年の全日本選手権を契機にスタートしたポッドキャスト。西薗良太がサイクリングを中心に幅広く語る人気番組だ(リンク)。



text&photo:Sotaro.Arakawa
Amazon.co.jp

nissui MSC認証 速筋タンパクプロテインスープ クラムチャウダー風味

ニッスイ 速筋タンパクプロテイン(ニッスイ ソッキンタンパクプロテイン)
¥3,300 (¥21 / g)