過去の優勝者の特徴としては直前にイタリアで行われるワンデーレースで優勝、あるいは上位入賞者が活躍しているケースが多い。その例に従い、そのレース群からジャパンカップ本戦の優勝予想を占う。
第32回宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース
コース:宇都宮市森林公園周回コース
総距離:144.2km(10.3km×14周)
周長:1周=10.3km
獲得標高差:2,660m(1周190m)
山岳賞:3周、6周、9周、12周

大会を象徴する古賀志林道のつづら折れ photo:Makoto AYANO
今年も10月の第3日曜日である10月19日、栃木県宇都宮市・宇都宮市森林公園にて、宇都宮ジャパンカップサイクルロードレースが行われる。スタート時刻は例年通り午前10時。スタート時刻の天候は晴れ渡る予報となっている。
コースは例年通り、森林公園駐車場から赤川ダムの脇を通り、このコースを象徴する「古賀志林道」を登坂。3周、6周、9周、12周目をトップ通過した選手にそれぞれ山岳賞が与えられる頂上を通過し、その後は狭いコーナーが連続する3kmの下り坂。さらに2.5kmの平坦区間を経て、アタック地点ともなる田野町交差点からはスタート/フィニッシュ地点まで登り基調のワインディングが続いていく。
獲得標高差は1周190mのため合計2,660mに達し、また1周の平均予測時間は16分前後のため3時間半前後の戦いとなる見込みだ。ちなみに昨年は3時間33分30秒で決着した。

ジャパンカップ2024ロードレース コースマップ image:Utsunomiya Japan Cup 
ジャパンカップ2024ロードレース コースプロフィール image:Utsunomiya Japan Cup
過去2年が示す“イタリア帰り”の優位性
今大会における優勝候補を紹介する前に、2023年、24年のレースを振り返りたい。あわせて優勝者がその年、直近のレースでどんなリザルトを残したかも確認する。

高々と人差し指を掲げて勝利の喜びを表すニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) photo: Yuichiro Hosoda
記憶にも新しい2024年は序盤からハイペースで進行し、勝負は先頭の5名に絞られた。ニールソン・パウレス(アメリカ)が数的不利な状況を打破し、スプリントから2度目の優勝。このときのパウレスは直前にイタリアで行われたワンデーレース、グラン・ピエモンテでの優勝をはじめ、コッパ・ベルノッキで4位、イル・ロンバルディアで8位など好調そのものだった。
2023年は終始雨が降り続けたサバイバルな戦いに持ち込まれ、絞り込まれた3名によるスプリントを元世界王者のルイ・コスタ(ポルトガル)が制した。コスタもそのシーズンは秋のイタリアン・ワンデーレース群で調子を上げ、10日前のグラン・ピエモンテでは5位入賞。ブエルタ・ア・エスパーニャで逃げ切り勝利した調子をジャパンカップまで保ち、初優勝を手に入れている。
総じて、ジャパンカップの「短い登坂の反復と神経を使うテクニカルな下り」というリズムは、イタリア秋のワンデーレースとプロフィールが重なる。ゆえに直前にその強度を踏んだ選手ほど、本戦での結果に結びつきやすいのだ。
本命は“勝ちパターン”がコースに合うマシューズ

5月のエシュボルン・フランクフルトで初優勝したマイケル・マシューズ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー) photo:CorVos
前置きが長くなったが、今大会で直前のレースリザルトがよく、また勝利を掴む勘を備えている選手たちを中心に優勝候補を紹介したい。その筆頭がマイケル・マシューズ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)だ。
2017年のツール・ド・フランスでマイヨヴェール(ポイント賞)を獲得したため“登れる”スプリンターの印象が強いが、マシューズの勝ちパターンは「サバイバルな展開から精鋭集団に残り、スプリントで差し切る」こと。その力は35歳になったいまも衰えておらず、今年5月のエッシュボルン・フランクフルト(UCIワールドツアー)でも、このパターンから初優勝を飾っている。
ツール・ド・フランスの準備中に肺塞栓症を患い、約4ヶ月の戦線離脱を余儀なくされたマシューズ。しかし8月下旬に実戦復帰すると、10月はコッパ・ベルノッキとグラン・ピエモンテで共に5位。イル・ロンバルディアでは逃げに乗り、吸収された後も粘って21位でフィニッシュした。事前インタビューでもマシューズは「いまだコンディションは上り調子」と、自信を覗かせた。
マルティネスの3分登坂への適性

好調をキープしたまま本戦に臨むレニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:Makoto AYANO
登坂時間が3分程度の古賀志林道の登りにおいて、最も適性のある選手といえばレニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス)だろう。直前インタビューで「せめて5分以上の登りだったらよかったのに」と語るものの、日々の練習のメインが「1〜3分の登り」と言う22歳の若手クライマーは、バーレーン・ヴィクトリアス移籍初年の今年3勝。しかもその全てがワールドツアー(パリ〜ニース、ツール・ド・ロマンディ、クリテリウム・デュ・ドーフィネ)という結果だ。
直近でも、ジャパンカップのような登りを含む周回をこなすジロ・デッレミリアで3位表彰台に上がる好調ぶり。強豪ひしめくイル・ロンバルディアでも12位という結果で、世界トップクライマーの1人であることを証明した。またチームには、ブエルタ・ア・エスパーニャで大逃げからマイヨロホを4日間着用し、総合9位と躍進の年としたトースタイン・トレーエン(ノルウェー)、ロード世界選手権で9位のアフォンソ・エウラリオ(ポルトガル)も優勝を狙える層の厚さがある。
実力者揃いの“第2勢力”

36歳ながらトップレベルの登坂力をいまなお誇るヨン・イサギレ(スペイン、コフィディス) photo:Makoto AYANO

日曜のジャパンカップに期待がかかるルイ・バレ(フランス) photo:Makoto AYANO 
ジャパンカップと相性のいいライリー・シーハン(アメリカ) photo:Makoto AYANO
コフィディスのエースであるヨン・イサギレ(スペイン)の調子も悪くなく、イル・ロンバルディアは13位、他のイタリアのワンデーレースでも入賞に迫る成績だ。
そして単純なチーム力でいえば、クリテリウムでチーム6連覇を達成したリドル・トレックも、十分集団をコントロールできる戦力だ。クリテリウム要員のジョナタン・ミラン(イタリア)を除き、昨年6位のジュリアン・ベルナール(フランス)を中心にチームは本戦にフォーカスした布陣を敷く構え。ただし経験豊富なパトリック・コンラッド(オーストリア)とカルロス・ベローナ(スペイン)のコンディションは不明。クラシックレーサーだが、若手のマティアス・ヴァチェク(チェコ)で勝負しても面白い。
チームがロットと合併の可能性が囁かれているアンテルマルシェ・ワンティは、ルイ・バレ(フランス)がエース。いまだプロ未勝利の25歳だが、春のアムステル・ゴールドレース、9月のグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルで共に6位と、アップダウンが連続する過酷なレースへの適性を見せた。イスラエル・プレミアテックは2年ぶりの出場となるライリー・シーアン(アメリカ)がエースだ。
台頭する若手と伏兵

ダークホース的存在であるマティス・ロンデル(フランス、チューダー・プロサイクリング) photo:Makoto AYANO
若手選手で言えば、1級山岳にフィニッシュしたイタリアのワンデーレースでアダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツXRG)に食らいつき、2位に入ったマティス・ロンデル(フランス、チューダー・プロサイクリング)に注目。また兄、妹と共にプロ選手であり、来年ユニベット・ティテマ・ロケッツへの移籍が決まっているマティアシュ・コペツキー(チェコ、チーム ノボ ノルディスク)も面白い存在だ。そして直近のツール・ド・九州で区間1勝と総合優勝したキリロ・ツァレンコ(ウクライナ、ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ)は、新城幸也と共に優勝を目指す。
日本勢としては元タイムトライアル全日本王者である金子宗平(日本ナショナルチーム)、愛三工業レーシングチームからは2年連続アジア最優秀選手賞を獲得している岡本隼と若手の橋川丈が、世界のトップ相手にどう戦うか。また現役引退を発表した入部正太朗(シマノレーシング)も、昨年に続く逃げと、粘りの走りに期待したい。

日本ナショナルチームから出場する金子宗平 photo:Satoru Kato
第32回宇都宮ジャパンカップ サイクルロードレース
コース:宇都宮市森林公園周回コース
総距離:144.2km(10.3km×14周)
周長:1周=10.3km
獲得標高差:2,660m(1周190m)
山岳賞:3周、6周、9周、12周

今年も10月の第3日曜日である10月19日、栃木県宇都宮市・宇都宮市森林公園にて、宇都宮ジャパンカップサイクルロードレースが行われる。スタート時刻は例年通り午前10時。スタート時刻の天候は晴れ渡る予報となっている。
コースは例年通り、森林公園駐車場から赤川ダムの脇を通り、このコースを象徴する「古賀志林道」を登坂。3周、6周、9周、12周目をトップ通過した選手にそれぞれ山岳賞が与えられる頂上を通過し、その後は狭いコーナーが連続する3kmの下り坂。さらに2.5kmの平坦区間を経て、アタック地点ともなる田野町交差点からはスタート/フィニッシュ地点まで登り基調のワインディングが続いていく。
獲得標高差は1周190mのため合計2,660mに達し、また1周の平均予測時間は16分前後のため3時間半前後の戦いとなる見込みだ。ちなみに昨年は3時間33分30秒で決着した。


過去2年が示す“イタリア帰り”の優位性
今大会における優勝候補を紹介する前に、2023年、24年のレースを振り返りたい。あわせて優勝者がその年、直近のレースでどんなリザルトを残したかも確認する。

記憶にも新しい2024年は序盤からハイペースで進行し、勝負は先頭の5名に絞られた。ニールソン・パウレス(アメリカ)が数的不利な状況を打破し、スプリントから2度目の優勝。このときのパウレスは直前にイタリアで行われたワンデーレース、グラン・ピエモンテでの優勝をはじめ、コッパ・ベルノッキで4位、イル・ロンバルディアで8位など好調そのものだった。
2023年は終始雨が降り続けたサバイバルな戦いに持ち込まれ、絞り込まれた3名によるスプリントを元世界王者のルイ・コスタ(ポルトガル)が制した。コスタもそのシーズンは秋のイタリアン・ワンデーレース群で調子を上げ、10日前のグラン・ピエモンテでは5位入賞。ブエルタ・ア・エスパーニャで逃げ切り勝利した調子をジャパンカップまで保ち、初優勝を手に入れている。
総じて、ジャパンカップの「短い登坂の反復と神経を使うテクニカルな下り」というリズムは、イタリア秋のワンデーレースとプロフィールが重なる。ゆえに直前にその強度を踏んだ選手ほど、本戦での結果に結びつきやすいのだ。
本命は“勝ちパターン”がコースに合うマシューズ

前置きが長くなったが、今大会で直前のレースリザルトがよく、また勝利を掴む勘を備えている選手たちを中心に優勝候補を紹介したい。その筆頭がマイケル・マシューズ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)だ。
2017年のツール・ド・フランスでマイヨヴェール(ポイント賞)を獲得したため“登れる”スプリンターの印象が強いが、マシューズの勝ちパターンは「サバイバルな展開から精鋭集団に残り、スプリントで差し切る」こと。その力は35歳になったいまも衰えておらず、今年5月のエッシュボルン・フランクフルト(UCIワールドツアー)でも、このパターンから初優勝を飾っている。
ツール・ド・フランスの準備中に肺塞栓症を患い、約4ヶ月の戦線離脱を余儀なくされたマシューズ。しかし8月下旬に実戦復帰すると、10月はコッパ・ベルノッキとグラン・ピエモンテで共に5位。イル・ロンバルディアでは逃げに乗り、吸収された後も粘って21位でフィニッシュした。事前インタビューでもマシューズは「いまだコンディションは上り調子」と、自信を覗かせた。
マルティネスの3分登坂への適性

登坂時間が3分程度の古賀志林道の登りにおいて、最も適性のある選手といえばレニー・マルティネス(フランス、バーレーン・ヴィクトリアス)だろう。直前インタビューで「せめて5分以上の登りだったらよかったのに」と語るものの、日々の練習のメインが「1〜3分の登り」と言う22歳の若手クライマーは、バーレーン・ヴィクトリアス移籍初年の今年3勝。しかもその全てがワールドツアー(パリ〜ニース、ツール・ド・ロマンディ、クリテリウム・デュ・ドーフィネ)という結果だ。
直近でも、ジャパンカップのような登りを含む周回をこなすジロ・デッレミリアで3位表彰台に上がる好調ぶり。強豪ひしめくイル・ロンバルディアでも12位という結果で、世界トップクライマーの1人であることを証明した。またチームには、ブエルタ・ア・エスパーニャで大逃げからマイヨロホを4日間着用し、総合9位と躍進の年としたトースタイン・トレーエン(ノルウェー)、ロード世界選手権で9位のアフォンソ・エウラリオ(ポルトガル)も優勝を狙える層の厚さがある。
実力者揃いの“第2勢力”



コフィディスのエースであるヨン・イサギレ(スペイン)の調子も悪くなく、イル・ロンバルディアは13位、他のイタリアのワンデーレースでも入賞に迫る成績だ。
そして単純なチーム力でいえば、クリテリウムでチーム6連覇を達成したリドル・トレックも、十分集団をコントロールできる戦力だ。クリテリウム要員のジョナタン・ミラン(イタリア)を除き、昨年6位のジュリアン・ベルナール(フランス)を中心にチームは本戦にフォーカスした布陣を敷く構え。ただし経験豊富なパトリック・コンラッド(オーストリア)とカルロス・ベローナ(スペイン)のコンディションは不明。クラシックレーサーだが、若手のマティアス・ヴァチェク(チェコ)で勝負しても面白い。
チームがロットと合併の可能性が囁かれているアンテルマルシェ・ワンティは、ルイ・バレ(フランス)がエース。いまだプロ未勝利の25歳だが、春のアムステル・ゴールドレース、9月のグランプリ・シクリスト・ド・モンレアルで共に6位と、アップダウンが連続する過酷なレースへの適性を見せた。イスラエル・プレミアテックは2年ぶりの出場となるライリー・シーアン(アメリカ)がエースだ。
台頭する若手と伏兵

若手選手で言えば、1級山岳にフィニッシュしたイタリアのワンデーレースでアダム・イェーツ(イギリス、UAEチームエミレーツXRG)に食らいつき、2位に入ったマティス・ロンデル(フランス、チューダー・プロサイクリング)に注目。また兄、妹と共にプロ選手であり、来年ユニベット・ティテマ・ロケッツへの移籍が決まっているマティアシュ・コペツキー(チェコ、チーム ノボ ノルディスク)も面白い存在だ。そして直近のツール・ド・九州で区間1勝と総合優勝したキリロ・ツァレンコ(ウクライナ、ソリューションテック・ヴィーニファンティーニ)は、新城幸也と共に優勝を目指す。
日本勢としては元タイムトライアル全日本王者である金子宗平(日本ナショナルチーム)、愛三工業レーシングチームからは2年連続アジア最優秀選手賞を獲得している岡本隼と若手の橋川丈が、世界のトップ相手にどう戦うか。また現役引退を発表した入部正太朗(シマノレーシング)も、昨年に続く逃げと、粘りの走りに期待したい。

ジャパンカップ・ロードレース歴代優勝者
2024年 | ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) |
2023年 | ルイ・コスタ(ポルトガル、アンテルマルシェ・サーカス・ワンティ) |
2022年 | ニールソン・パウレス(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) |
2021年 | 中止 |
2020年 | 中止 |
2019年 | バウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) |
2018年 | ロブ・パワー(オーストラリア、ミッチェルトン・スコット) |
2017年 | マルコ・カノラ(イタリア、NIPPO・ヴィーニファンティーニ) |
2016年 | ダヴィデ・ヴィッレッラ(イタリア、キャノンデール・ドラパック) |
2015年 | バウク・モレマ(オランダ、トレックファクトリーレーシング) |
2014年 | ネイサン・ハース(オーストラリア、ガーミン・シャープ) |
2013年 | マイケル・ロジャース(オーストラリア、サクソ・ティンコフ) |
text:Sotaro.Arakawa
photo:Makoto AYANO
photo:Makoto AYANO
Amazon.co.jp