長野の名湯を舞台にヒルクライム、ダウンヒル、グラベルの3種目のイベントが同時開催される野沢温泉自転車祭。2日目のグラベルとダウンヒル決勝の様子をレポート。里山の風景を味わう冒険チックなグラベルツーリングと、80人が一斉スタートで時速90kmに迫る超高速ダウンヒルは大迫力だ!



グラベルの始まりは朝のブリーフィングから。生憎の雨模様です photo:Makoto AYANO

今年で5年目を迎える自転車×味覚×温泉が揃うサイクリストの祭典、野沢温泉自転車祭。初日はヒルクライムとダウンヒル予選、そして夜は屋台村で盛り上がったが、2日目はゲレンデから外の世界へ広範囲に走るグラベル&アドベンチャーツーリングと、MTBのアドベンチャーダウンヒルの決勝レースがおもなメニューだ。(1日目はこちら

昨日まで半袖だったのに、雨模様だと寒いくらいだ
レインギアに身を包んで



1日目は取材に走り回った筆者も、今日はライドを体験すべくグラベルツーリングに実走参加。実は昨年にアドバイザーとしてゲスト参加させていただいたロングコースが、いよいよ今年正式コースとなって参加者を迎えることになった。昨年プレイベント的に走ったルートがリファインされ、今日を迎えたのだ。

「道端にコーステープを見つけたら、その先で曲がるサインです」
長坂ゴンドラは8分で標高1400mの頂上へ運んでくれる



グラベルは朝のブリーフィングから始まる。しかしこの日は朝から生憎の雨模様..。レインウェアに身を包んだサイクリストが会場に集まり、実行委員長の河野さんから説明を受ける。

グラベルイベントの定石通り、コース上には立哨員が居るわけでなく、参加者自身がサイクルコンピュータにgpxデータをインストールしてセルフナヴィゲーションしながら走ることになる。ただしルート上の分岐点や曲がるポイントにはコーステープの切れ端が結ばれる「最低限の目印」が付けられるという。

世界最新鋭の長坂ゴンドラは頂上〜麓を8分でつなぐ photo:Makoto AYANO

走るルートは野沢温泉スキー場を発着点に、野沢村北部から飯山、千曲川の河川敷や小菅・前坂地区、北竜湖にかけての広域にわたる。コース全長は約60kmだが、獲得標高は約1,000mあるので、なかなか厳しめのプロフィールと言える。

参加車種の限定は無く、eBikeやマウンテンバイクの人も多い。グラベル初心者に見受けられる人も多く、和やかムードが漂っているが、実はコースはけっこうキツいので、ちょっと心配になる筆者...(昨年走って知っているので)。

レッドブルのバルーンアーチをくぐってスタートだ photo:Makoto AYANO

そしてイベントの仕立てとしてユニークなのは、まずゴンドラで山頂駅まで登り、そこからスタートの下り基調で走り出すこと。なんたって頂上は1,400mある。初日のヒルクライムのフィニッシュ地点であり、MTBダウンヒルのスタート地点でもある。

雨模様だというのに半袖ウェアの参加者も多く、「山頂はゼッタイ寒いぞ...」と心配になりつつゴンドラに乗り込むと、幸いなことに雨雲が引き、晴れ間が広がってきたのでホッと一息。

世界最新鋭の長坂ゴンドラは頂上までを8分で登り切る。360°ガラス張りのゴンドラからは下界に野沢&飯山、遠くに信越五岳や津南・栄村方面の絶景を楽しめる。

MTB初級コースのゲレンデを下り始める photo:Makoto AYANO

頂上にはレッドブルのバルーンアーチが設置され、そこをくぐって走り出せばスタートだ。舗装路をしばし下り、ゲレンデのMTB初心者コースから林道へと分け入っていく。走りやすい芝の斜面から、徐々にガレた細い山路へと難易度も増していく。

落ち葉に隠れたダウンヒルの路面はけっこうガレていた photo:Makoto AYANO

大きめの石もある荒れた路面、落ち葉に隠れたガレた林道に、タイヤの空気圧設定が甘い人はまず苦労する。運悪くパンクする人もちらほら。実はこのグラベルツーリング、この最初の下り区間が最難関と言えそうだ。

パンクした参加者を見つけると直してくれたパナレーサーのお助けマン photo:Makoto AYANO

どんどん下ると外界への展望が開けてきた photo:Makoto AYANO

標高差で約1,000mを一気に降ると、最初の小休止ポイントは湧き水のある民家の前。ここは公式エイドではないのだが、その民家に住む一家がセルフエイドとして天然の湧き水をふるまってくれるのだ。有名な飯山の銘酒「水尾」の原料になっている湧き水を、子どもたちが紙コップに入れて渡してくれた。

湧き水をコップで配ってくれた子どもたち photo:Makoto AYANO
銘酒「水尾」の原料にもなる湧き水 photo:Makoto AYANO



いきなり地元の方々と触れ合えるのが素敵。じつはこの民家の方は昨日のヒルクライムのフィニッシュエリアでもきのこ汁を振る舞ってくれました。

地元の方々に応援されるなかを走り抜ける photo:Makoto AYANO

外界に降りると道の駅・野沢温泉のエイドがある。ここでは朝のお目覚に饅頭とコーヒーが供される。淹れたての本格派ドリップコーヒーに餡のまんじゅうが合うこと。振る舞ってくれるのは飯山高校スキー部の女子高生たちだ。

長いダウンヒルを経て外界に降りてきた photo:Makoto AYANO

道の駅・野沢温泉が第1エイドだ
エイドで迎えてくれた飯山高校スキー部の女子高生



チェックポイントではスマホのアプリで通過確認スタンプを押してもらう。ほかに走り方の決まりはなく、ペースのあう人とまとまって走れば迷いにくい。

朝のお目覚にドリップコーヒーと饅頭をいただきます
チェックポイントでは携帯のアプリに通過スタンプを押してもらう



野沢温泉村の北側からは民家が点在する人里の未舗装路や農道を繋いで走ることになる。両側が山に囲まれたこの一帯、斜面を生かした棚田に碁盤の目状に伸びる小路を走る。絵に描いたような農村は、北信州の原風景とも言える美しさで、思わずため息が出るほど。

後方の山の上から下界へと降ってきました photo:Makoto AYANO

高低差のある集落を縫うようにつけられた小路を行く photo:Makoto AYANO

斜面に伸びる農道を走っていると、農家の方が作業の手を休めて応援してくれるのがなんとも嬉しい。野沢温泉村と隣り合う飯山市の「いいやま観光協会・信越自然郷」が展開する「信越グラベル」もルートの一部となっていて、人里であっても地元の理解のもとに走ることができるのだ。

走るルートは広域で、後方に広がる谷のほうへも走ります photo:Makoto AYANO

里と山の際(きわ)に引かれた水路に沿って走れる区間があったりと、人里につけられた普段は立ち入れない未舗装路を走ることができるのが楽しい。

清冽な水がとうとうと流れる水路の脇を走る photo:Makoto AYANO
ピースするのはキャノンデール代理店の若社長。来年に向けて視察ライドを楽しんでました photo:Makoto AYANO



飯山市へ向かう田園地帯の未舗装路は農作業のための道で、一直線にまっすぐ伸びる路面状態のいいグラベルを快走することができる。

飯山から木島平を望む。なんとも美しい農村風景が展開する photo:Makoto AYANO

高低差のある棚田の道を下っていたら、農家の方々が応援してくれた photo:Makoto AYANO

路脇にフラッグが立っていたら、そこがタイム計測セグメントの始点だ。そこから2kmほどが計測区間となり、フィニッシュ後にアップロードしたStravaのデータをもとにタイム順に表彰される区間がコース上に2箇所あるのだ。

旗があったら一直線に伸びるグラベルの計測区間スタート! photo:Makoto AYANO

一直線に伸びる整った砂利のグラベルを快走するのは快感だ

計測区間に入る前に気持ち良く飛ばしていたら旗に気づき、そこから踏み直したが、途中で脚は売り切れてしまった...。レースではないけど、この区間のタイムを狙う人は多いので、上位表彰はなかなかハードルが高いようだ。

広域で連携する飯山市の皆さんがお接待してくれた第2エイド
ぶどうやりんごが美味しいこと!



いいやま観光局自慢の信越自然郷サイクルツアーサポートバスで休憩 photo:Makoto AYANO

飯山城址公園エイドでは広域連携する飯山市の「いいやま観光局」の皆さんがお接待してくれた。信越自然郷サイクルツアーサポートバスがエイド脇に鎮座し、そこで休めるゴキゲンな空間が広がる。ぶどうやりんごをいただきながら、スタッフの皆さんには信越グラベルを開拓してきた話も聞けたし、誰でもサイクルツアーに利用できる自慢のバスの中や装備も見学できた。

美しい田園に伸びる小路を走るのがなんとも楽しい photo:Makoto AYANO

コーステープがあったらその先で曲がるサイン photo:Makoto AYANO
真紅の林檎が道端にいっぱい。「美味しそう〜」 photo:Makoto AYANO



河川敷の堤防の上は幹線道路。グラベルなら安全快適だ photo:Makoto AYANO

千曲川の河川敷のグラベルを走る photo:Makoto AYANO

終盤の難所は小菅神社への急坂登りからはじまる。舗装路で上り詰めた、エイドにもなっている小菅神社講堂の境内では「水尾ケーキ」をいただく。前述の飯山の銘酒・水尾を使ったお菓子で、中には栗がゴロっと丸ごと1個入ってる。これまたドリップコーヒーによくあうこと!

エイドでチェックにあたってくれた飯山高校スキー部の女子高生が「パ」
飯山の銘酒・水尾を使ったお菓子「水尾ケーキ」



このチェックポイントでも飯山高校スキー部の女子高生がスタンプを押してくれたが、聞けばジャイアントスラロームの選手だということで、どうりで可愛くも頼もしいこと。

エイドにもなっている小菅神社講堂はとてもでっかい! photo:Makoto AYANO

神社の境内で休んでいたら降り出した雨は、北竜湖へ向かううちに本降りになった。湖を一周するのが本ルートだが、時間的にキツくてスキップした人は多いようだ。そして湖畔から北竜湖スキー場のゲレンデ頂上までを一気に登ることになる。

視界がひらけては里山の眺望が広がる photo:Makoto AYANO

北竜湖スキー場の超急勾配ゲレンデの直登をこなす photo:Makoto AYANO

つづら折の舗装路を経て、芝のゲレンデ直登の激坂を越えてから、ようやく2箇所目のタイム計測セグメントが始まる。ここからは登りのみのヒルクライムアタックだ。登りの得意な人は力試しにいいが、すでに脚が疲れ切っているので頑張れる人は少ないでしょう。

パナレーサーフラッグが登り計測セグメントのスタートだ photo:Makoto AYANO

ゲレンデを登りきった終点の頂上から舗装路の急坂を下れば、長坂ゴンドラ駐車場にあるメイン会場へとフィニッシュする。本降りの雨になったことで遅い人にとってはかなりの試練だったに違いない。メイン会場に続々とフィニッシュしてくる人たちが喜びを爆発させていたのが過酷だったことの証だ。

eMTBでグラベルを走った3人組。かなり過酷なライドを完走して喜び爆発! photo:Makoto AYANO

過酷な冒険ライドを存分に楽しんだ笑顔です
フィニッシュしたらリカバリーに効くアミノバイタルが嬉しい



実測で約63km、獲得標高差984m。距離にしたら短いと思えるけれど、雨が過酷さを増した。タイトル名に「アドベンチャー」がついたことにも納得。北信州の風景をたっぷり味わえる、想像以上に走り応えがある冒険チックなグラベルツーリングだった。

グラベルのほとんど最終走者がフィニッシュ。ハイタッチで迎えられる photo:Makoto AYANO

時速95kmの超高速!一斉スタートのアドベンチャーダウンヒル決勝

この日はアドベンチャーダウンヒルの決勝も開催された。約80人のライダーが、標高差800m・距離約5kmのゲレンデを一気に駆け下る国内唯一の一斉ダウンヒルレースだ。

予選を勝ち上がってきた80人が決勝に進める

ハイスピードが特徴の野沢温泉スキー場のMTBコース。牛首(うしくび)ゲレンデの直下降では最高時速が95km/hに達すると言われ、一部に舗装の登り返し区間もあるがアベレージスピードが高いダウンヒルセクションが続くことが大きな特徴だ。

ダウンヒル決勝、80人の一斉レースがスタート!

MTB全日本チャンピオンの井本はじめ選手は「世界的にみてもこんなにスピードが出るコースは少ないです。時速95km/hはマウンテンバイカーにとっていつか出してみたいスピード。出そうと思えば誰でも出せるほどゲレンデの斜面がきれいで、ノーブレーキでスムーズに下れる。めちゃ速いのでたまらないですね!」と言う。「ただし水切り溝が3箇所あるので、そこではホッピングしないと散ります」とも。

80人が一斉に駆け下りていくダウンヒルレース決勝は大迫力だ photo:野沢温泉自転車祭




80人一斉スタートの決勝では、井本はじめ、清水一輝、九島勇気選手らゲストライダーは30秒遅れでスタートして後方から追い上げる方式で下った。ここでは井本選手撮影のアクションカム映像を紹介する。ライン取りや抜くときのポイントや、牛首ゲレンデの超高速ダウンヒルなど見応えある映像をお楽しみください。

ダウンヒル決勝 Movie by 井本はじめ


ダウンヒル男子エイジクラスの表彰 photo:Makoto AYANO

ダウンヒル女子の部の表彰 photo:Makoto AYANO

キングオブ・ダウンヒルの楠紳一郎さん(AST FOREST)
DHクイーンに輝いた菊池美帆さん(545/TAKE.D)



14時すぎにはダンヒル決勝レースも終わり、グラベルの部と合わせた表彰式へと入っていく。ダウンヒル王者に輝いたのは、キングオブ・ダウンヒルが楠紳一郎さん(AST FOREST)、クイーンが菊池美帆(545/TAKE.D)。そしてグラベルは2つのタイム計測セグメントの上位者が表彰され、協賛社や地元からの豪華賞品&特産品などを手にした。

グラベル第1平坦セグメントの上位タイム者の表彰
グラベル第2登りセグメントの上位タイム者の表彰



2日間でヒルクライム、ダウンヒル、グラベルの3種目が開催。2種目に出場した女性にはクイーン・オブ・野沢温泉賞として「冬も来てね」とスキー場のシーズン券が贈呈されるなど、粋な計らいも。そしてこの夜も屋台村が開催されるとあって、後泊できる参加者が羨ましい!

ヒルクライムとダウンヒル両方に頑張った女性にクイーン・オブ・野沢温泉賞が贈呈された photo:Makoto AYANO

村長とのじゃんけんで村の特産品をプレゼント
シマノからも豪華な賞が贈られた



ヒルクライマーもダウンヒラーもグラベルライダーも、クロスオーバーしながら仲間たちと大いに盛り上がった2日間。このごった煮感こそが野沢温泉自転車祭の魅力かもしれない。



実行委員長と村長のコメント

河野周平・大会実行委員長(左)と上野雄大村長(右) photo:Makoto AYANO

野沢温泉村村長 上野雄大さん(右)

このイベントは2021年に私が発起人となって、強い情熱を持って立ち上げました。2日間で3種目やるイベントは他になく、夜も屋台村で楽しめる。そのぶん運営も大変なわけですが、この3月に村長になったことで公務が忙しくて私はまったく運営に関われなかったのですが、仲間や先輩、地域の人々たちが引き継いでくれ、無事開催できました。

このイベントは簡単に言えば地域の活性化が目的です。ウィンタースポーツで有名な野沢温泉村ですが、冬のフィールドを活用して通年賑わって欲しいという思いです。自転車のおかげで夏しか来たことがないという人も増えてきました。

運営は野沢温泉スキークラブを中心とした地元の方々が担っていますが、若者を中心に夏のイベントにも関わってもらって人材育成に繋げたいのと、地元の若者が参加してくれるようになったことで、彼らの目標になって欲しいし、村の人達にも参加してもらいたい。そしてスキーのようにいずれ文化になって欲しいな、と思っています。

今年は「サイクルウィーク」として2週間、地元住民を対象に上越までのサイクリングツアーを実施したり、井手川直樹さんによる2日間のスクール「MTBアカデミー」なども開催、盛り上がりました。いろんな人が関わってくれるようにしていますが、参加した皆さんや協賛社の方々が野沢を愛してくれるようになった実感があるのは嬉しいことです。関わる人が皆ハッピーになるイベントを目指したいですね。

大会実行委員長 河野周平さん

実行委員長は私ですが、リーダーがこういう人(村長)で、すごいスピードで突き進んでいきながら色んなモノを落としていく。それを拾いながらまとめる仕事です・笑。過去4年は突っ走ってきて、5年目の今年になんとか芽が出たという実感があります。あとは花が咲くようにしていきたい。

大会をホストした野沢温泉スキークラブ&村の皆さん photo:Makoto AYANO

今年、ヒルクライムは新たなコンテンツとしてタイムチャレンジを取り入れました。他のヒルクライムイベントに比べると距離が短いので、ただ走るだけじゃなくゲーム性を取り入れたり、自分への挑戦という要素を加えました。

ダウンヒルは例年通りですが、一斉ダウンヒルの醍醐味を味わってもらえたと思います。来年はコースの見直し含めてもっと参加者に楽しんでもらえることを考えていきます。

グラベルは名前を変えて「グラベル&アドベンチャーツーリング」として、単にグラベルという名だけでは表現できない冒険的なルートを引きました。旅とサイクリングがセットになったような味わいを付加して、この地域一帯を楽しんで欲しいという狙いがあります。飯山市とも連携して、今後も広域で盛り上げていきます。

今年参加していただいた人には来年もぜひリピートして、仲間や家族を連れて一緒に来て欲しいですね。

photo&text:綾野 真