9月7日、日本のトップホビーレーサーの集う晩夏の大一番、ツール・ド・ふくしまが開催された。来年のグランフォンド世界選に繋がる重要レースであり、大会最長140kmは石井雄悟(MASXSAURUS)が逃げ切りで制した。白熱のレース模様をお届けする。
グランフォンドフォーマットに変更、世界につながるホビーレーサー注目の一戦に

年代別世界チャンピオン&昨年覇者の高岡亮寛(Roppongi Express) photo:Ryota Nakatani 
今季は勝利が続く石井雄悟(右/MASXSAURUS)が最前列に並ぶ photo:Makoto AYANO

ヒルクライマーの加藤大貴(COW GUMMA)、乗鞍優勝者の田中裕士(右) photo:Makoto AYANO 
エイジ別に整列するが一斉スタートになる photo:Makoto AYANO
福島復興サイクルロードレースシリーズの一戦であるツール・ド・ふくしまは、15市町村に跨る一帯を舞台とする市民ロードレースだ。国内では貴重なラインレース方式であり、風光明媚な福島の自然環境に支えられ、チャレンジングなコースが用意された。

朝6時にスタートを切ったグランフォンドふくしま140男子 photo:Makoto AYANO
本大会の最大のトピックは、2026年には「UCIグランフォンドワールドシリーズ大会」として開催されること。UCIグランフォンドのフォーマットに準拠した”プレ大会”として今年度は実施され、翌年にも同じコースが引き継がれる。そして、翌年大会の各クラス上位25%がグランフォンド世界選手権への出場権を獲得できる。ご存知の通り翌年の世界選の会場は北海道・ニセコだ。
すなわち、翌年の予選会を見据えた”前哨戦の前哨戦”という位置付けのレースとなった。世界を目指すレーサーにとっては格好のチャンスでもあり、強豪勢の勢力図を決定づける重要な一戦でもあった。

約300人の大集団がふくしまの地へ走り出していく photo:Kenji Hashimoto
出走クラスは3つ。最長のグランフォンドふくしま140を筆頭に、メディオフォンドふくしま80、ロードレースふくしま50(末尾の数字はレース距離を表す)。表彰は5歳刻みのエイジグループ(年代別)によって実施。エイジグループや総合順位を総計すると入賞対象は29にも達し、多くのライダーにチャンスがある。さらにロードレースではおなじみのスプリント賞とKOM賞、3つの特別入賞も設けられ、レースの活性化が図られた。

沿道には地元の方々の温かい応援があった photo:Makoto AYANO
男女合計のエントリー数は140kmに309名、80kmに289名、50kmに81名。全クラス合計679名が集い、昨年比約4倍強という参加者数の急増ぶりを見せた。前日のサイクリング部門と合わせて1,300人規模となり、まだ2年目の若い大会ながら存在感を示しただけでなく、UCIグランフォンドとなったことでの注目度アップが数字で実証された。

今季絶好調の石井雄悟(MASXSAURUS)が前へ出る photo:Kenji Hashimoto
メイン会場かつ全カテゴリーのフィニッシュ地点となる天神岬スポーツ公園には、140kmクラスのレーサーたちが集結。UCIグランフォンド年代別世界チャンピオンであり前年覇者の高岡亮寛(Roppongi Express)を筆頭に、Mt.富士ヒルクライム優勝者でゼッケン1の石井雄悟(MASXSAURUS)、乗鞍ヒルクライム優勝者の田中裕士らが有力勢として姿を見せた。
海を見下ろす小高い岬の公園が会場となり、スタート/フィニッシュラインが大鳥居付近に設定される日本らしいユニークな演出も。気温22度、朝6時の号砲と共に注目の一戦が幕を開けた。
グランフォンドふくしま140
大会における最長、最難関。国内トップクラスの強豪勢が揃い、最も注目度の高かったカテゴリーが「グランフォンドふくしま140」だ。前述の通り、2026年大会でUCIグランフォンドの対象種目になるグループだ。

加藤大貴(COW GUMMA)ら有力勢がアタックを繰り返す photo:Kenji Hashimoto
距離137km、総獲得標高は1800mほど。コースの大半を斜度5%以下のアップダウンが占め、フィニッシュライン500m手前から300m前には平均5%、最大8.8%のショートクライムが待ち受ける(なお全カテゴリーがこの坂を通過する)。

独走を試みる選手に合流する高岡亮寛(Roppongi Express) photo:Makoto AYANO
繰り返すアップダウンが非常に厳しいながらも急勾配の登りは無いという、アタックポイントに乏しいコース設定により、集団は徐々に人数が絞られつつも、終盤まで100名近くを残す展開に。小人数のアタックは何度も繰り返されるが、逃げては捕まりを繰り返す。

ラスト4kmでアタックに出た石井雄悟(MASXSAURUS) photo:Kenji Hashimoto
しかし残り約4km地点で先頭集団が牽制状態に入った隙をつき、石井雄悟(MASXSAURUS)が単騎で抜け出しに成功、独走に持ち込む。

グランフォンドふくしま140男子 ラスト4kmから逃げ切った石井雄悟(MASXSAURUS) photo:Ryota Nakatani
石井は差を保ったまま迎えたフィニッシュ直前の登りでもスピードを保ち、集団スプリントが背後に迫るなか、残り100mで勝利を確信、ガッツポーズを決めた。各年代別の優勝者もほとんどがこの集団内に混じってフィニッシュしている。
140総合優勝 石井雄悟(MASXSAURUS)

グランフォンドふくしま140男子総合優勝の石井雄悟(MASXSAURUS)と愛車のDARE photo:Makoto AYANO
「集団がバラけないコースだと感じました。ゴールスプリントになると予想していたが、終盤に緩んだタイミングがあり飛び出すことに。ラストの坂で追いつかれるかと思っていたが、最後まで踏み切ることができ、残り100mで勝ちを確信しました。ふくしまに向けた調整などは特になく、いつも通り全力の走りを心がけました。富士ヒル、ニセコ、ふくしまと続いて、次はおきなわを獲りたい。グランフォンドについてはあまり詳しく把握していないものの、もちろん来年の世界選手権も目指していきたいです。」

グランフォンドふくしま140男子の各カテゴリー入り混じる2位以下の登坂スプリント争い photo:Makoto AYANO
140 M45-49 3位 高岡亮寛(Roppongi Express)
「思ったより集団がバラけず、最後まで固まったままでした。石井選手が先行した時は、誰か追わないか?という雰囲気になってしまった。体調が良かったもののコースは自分向きではありませんでした。平均時速は41km/hほど。登りが予想より厳しくなく、力の差が出るコースとはならず、積極的でないライダーが上位に入ってしまったのは残念。今後はグランフォンド世界選手権、そしてツール・ド・おきなわに向けて注力します。」
140 M35-39 優勝 加藤大貴(COW GUMMA)
「序盤60kmは落車が多かったので集中してこなし、中盤の登りで自分の走りを狙っていました。抜け出すまではいかずとも、人数はある程度絞って最後まで残れた。ゴールスプリントは人数が多く、来年への良い下見になったので、対策して予選会に挑みたい。クライマーとして15分くらいの登りが欲しかったというのが本音です。」
140 M40-44 優勝 小林亮(soleil de lest)
「序盤に落車に巻き込まれてしまいましたが、なんとか復帰。集団が思ったより最後まで崩れなかったです。もう少しハードなコースなら楽しく違ったレースになったと思います。8月の乗り込みで調子は良かった。今年は世界選手権、そしておきなわに向けて頑張りたい。フィードゾーンで配布されるボトルが細く、ボトルケージへの取り付けが緩かったので下りでたくさん落下していたので改善してほしい。来年はさらに大きい集団になると想定され、対策が必要になるかと思う。」
140 M45-49 優勝 松木健治 (VC VELOCE)
「10日前までコロナに罹ってしまい、ほぼ練習できずに参加となりました。練習のつもりで走ったものの、コースがイージーだったため最後まで残ることができました。コースは面白かったが、厳しさはおきなわ、ニセコの方が上。豪華メンバーの揃うレベルの高いレースになったので、来年もぜひ盛り上がる大会になってほしいです。」
140女子は鈴木友佳子(MIVRO)が優勝

グランフォンドふくしま140女子 先頭でフィニッシュする 鈴木友佳子(MIVRO) photo:Makoto AYANO
140女子は男子と混走のレースで6名の出走となり、トップでフィニッシュした鈴木友佳子(MIVRO)がエイジと女子総合優勝の栄誉に輝いた。
140 W19+ 優勝 鈴木友佳子(MIVRO)
「140は人数が多く、女子は最後尾スタートだったので、前に上がるのが大変だった。15km時点の中切れで後ろに取り残され、同じパックの女子ライダーをマークしていたが登りでバラバラに。100km以上の長距離レースは初挑戦で、補給を普段より多く持ったが、ちょうど使い切るくらいで終えられました。今年の世界選手権をまずは走り切って、来年も出場できるよう頑張るつもりです。」
140 W19+ 3位 大堀博美 (イナーメ信濃山形)
「ロングライドが好きなので140kmにエントリーしました。先頭集団に残りたかったけど、最初の平坦区間で気づいたら最後尾にいた。アップダウンでじわじわ順位を上げていきました。短いアップダウンが多い分パンチのある選手に有利な感じでした。沿道からの応援が暖かく、こちらも手を振り返しながら走った。シーズン前半は体調不良が続いて自転車に乗れなかったが、ここふくしまで楽しく走れたのが嬉しかったです」
メディオフォンドふくしま80

メディオフォンドふくしま80男子のメイン集団 photo:Makoto AYANO
「メディオフォンドふくしま80」は距離80km、獲得標高1,300m。こちらも翌年はUCIグランフォンドの対象種目になる予定だ。スタート地点はグランフォンドふくしま140の57km地点に相当する「南相馬市馬事公苑」。140のメイン集団の通過直後にスタートが切られた。

20km地点から独走を決めた80総合優勝 沢田虹太郎(学法石川) photo:Makoto AYANO
20km地点からアタックし、ゴールまで逃げ切るという圧巻の走りで勝利を獲ったのは沢田虹太郎(学法石川)。弱冠17歳、二本松市在住の地元ホープが金星を手繰り寄せると共に、スプリント賞とKOM賞を総なめにした。
80 総合優勝 沢田虹太郎(学法石川)
「最初の山岳賞から1人で60km逃げて、1〜2分の差でゴールできました。タイム差はモトから聞かされていましたが、捕まらないか最後まで怖かったです。インターハイ入賞や自主練の300km走で自信をつけました。地元福島の大会で入場経験があるので、グランフォンドでも勝てて嬉しいです。次の目標は国スポです」

メディオフォンドふくしま80女子のメイン集団 photo:Makoto AYANO
また80kmクラスは有力女子ライダーが多数参戦する注目のレースに。男子との混走の中で女子の先頭を飾ったのは石井嘉子(honeyB BIKEBAJU)。エイジと特別賞の二冠を達成した。

メディオフォンドふくしま80女子総合トップの石井嘉子(honeyB BIKEBAJU) photo:Makoto AYANO
80 W19-34 優勝 石井嘉子(honeyB BIKEBAJU)
「集団のトップを獲ったので優勝かな? と思いガッツポーズしました。最後まで残った嶋野さん、手塚さんと3人で行くも、登りで振り切れなかった。最後は恨みっこなしの登りスプリントと決め、1分間全力のラストを踏んで抜け出すことができました。平坦が全く無いので、登りと下りの力が必要な、総合力を試されるコースだと感じました。」

メディオフォンドふくしま80女子トップの石井嘉子(honeyB BIKEBAJU) photo:Makoto AYANO
80 W35-39 優勝 嶋野真美
「家庭の都合であまりロードレースには出られてないのですが、富士ヒルで結果も出ていたなかで楽しく走れました。最後の登りで脚を攣ってしまい、残念。優勝の石井さんの走りが上手くてカッコいい!と思いながら走ってました(笑)」

メディオフォンドふくしま80女子 嶋野真美 photo:Makoto AYANO 
メディオフォンドふくしま80女子 総合2位でフィニッシュする手塚悦子(IMEレーシング) photo:Makoto AYANO
80 W40-44 優勝 手塚悦子(IMEレーシング)
「スタートからスピードに乗った速いレースだった。最初の登りで人数を減らして、3人残った女子ライダーで回して最後まで行きました。前に女子ライダーが先行しているかもしれないと思い頑張りましたが、結果的にそのまま逃げ切れたようです。コースはアップダウンが多くて楽しく、登りスプリントも好印象でした。」

ツール・ド・ふくしまに出場した女子選手たちが健闘を称え合う photo:Makoto AYANO
ロードレースふくしま50

スタートするロードレースふくしま50 photo:Makoto AYANO
今大会最短で、ビギナー勢に親しみやすい「ロードレースふくしま50」。葛尾村の「復興交流館あぜりあ」をスタート地点とする47km、獲得標高750mのコースだ。総合優勝および特別賞は小林瑞宝(日本大学工学部自転車部)の手に渡った。

ロードレースふくしま50を制した小林瑞宝(日本大学工学部自転車部) photo:Ryota Nakatani
ふくしまと共に”国内三大ホビーレース”を目指す
レースを終えた参加者の声を聞くと、今年からの新コースに対しては肯定的なコメントが多かった。スムースな路面と十分な道幅、険しくも走りやすいアップダウンコースはまさにロードレースにふさわしいものと言えるだろう。しかし一方で、セレクションのかかる厳しい登りが無かったことを悔やむ強豪勢の声も少なくなかった。140の平均時速をみれば41km/hであり、いかにレースが高速で進んだかが分かる。
翌年のツール・ド・ふくしまグランフォンドは約10ヶ月後、6月12〜14日に開催予定だ。前述の通り世界選手権の予選会として開催されることから、高い注目度をもってレーサー達に受け入れられることは間違いない。より人数を増したプロトンが、復興の進む福島の地を駆け抜ける姿が見られるだろうか?
大会事務局:橋本謙司さん「グランフォンド世界選の予選レースへと生まれ変わるツール・ド・ふくしま」
大会オーガナイザーの”ハシケン”こと橋本謙司さん曰く、ニセコクラシック、ツールドおきなわとも連携して「日本3大ロードレース大会」を目指すという。特に2026年は予選、世界選ともに日本開催であり、国内レーサーにとって大きな出場意義がある。以降も存続すれば、市民レーサーの新たな夢舞台としてふくしまの重要度は増していくだろう。世界を見据えた戦いは既に始まっている。市民レースの活性化に注目だ。

「ハシケン」こと橋本謙司さん photo:Makoto AYANO
「グランフォンド世界選手権の2026年会場がニセコに決まったことで、ふくしまがその予選会の役割を果たすことになりました。先を見越してこの2025年大会をグランフォンドフォーマットに則ったものに作り変え、4月から開催準備を進めてきました。ニセコの主催者からも応援をいただき、市民レースを盛り上げるべく多くのライダーが集まる大会作りを目指しました。結果的に豪華なメンバーが揃い、レーサーの間でも話題になれたのではと思います。
実質第2回となる今回大会は、サイクリング部門、レース部門ともに昨年から3倍以上の多くのサイクリストにお集まりいただき、福島の地域活性に寄与できたことと思います。昨年コースは完走率35%と厳しすぎたため、グランフォンドとは呼べないくらい難易度が高すぎるのが実際でした。今年は完走率87%程度と、グランフォンドとして理想的な難易度のコースに仕上がりました。選手からも肯定的なコメントが多く届いています。
ニセコ、おきなわと共に国内3大市民レースとして、優勝者を次戦に招待できるような連携を図っていきたいです。2026年は史上最もアマチュアレースが盛り上がる年になることは間違いありません。
このグランフォンドをきっかけに福島を初めて訪れた方も多く、試走に来たサイクリストの姿の多さが地元で話題になっていました。ロードレースを通じて地元が活性化し、震災復興に繋がることこそ今大会の特徴であり、価値あるものです。サイクリストの笑顔に貢献できたことが何より嬉しいですね。
翌年も概ね同じコースでの開催を目指しています。改善点や要望をヒアリングして、さらにパワーアップした翌年大会へと繋げていきたいです」

男子グランフォンド140、80、50の総合優勝者たちがチャンピオンジャージを披露 photo:Makoto AYANO
表彰式より各カテゴリーの入賞者たち

グランフォンドふくしま140男子 M19-34 photo:Makoto AYANO 
グランフォンドふくしま140男子 M35-39 photo:Makoto AYANO

グランフォンドふくしま140男子 M40-44 photo:Makoto AYANO 
グランフォンドふくしま140男子 M45-49 photo:Makoto AYANO

グランフォンドふくしま140男子 M50+ photo:Makoto AYANO 
グランフォンドふくしま140女子 W19+ photo:Makoto AYANO

メディオフォンドふくしま80男子総合優勝 沢田虹太郎(学法石川) photo:Makoto AYANO

メディオフォンドふくしま80男子 M19-34 photo:Makoto AYANO 
メディオフォンドふくしま80男子 M50-54 photo:Makoto AYANO

メディオフォンドふくしま80男子 M55-59 photo:Makoto AYANO 
メディオフォンドふくしま80男子 M60-64 photo:Makoto AYANO

メディオフォンドふくしま80男子 M65-69 photo:Makoto AYANO 
メディオフォンドふくしま80男子 M70-74 photo:Makoto AYANO

メディオフォンドふくしま80女子 W19-34 photo:Makoto AYANO 
メディオフォンドふくしま80女子 W35-39 photo:Makoto AYANO

メディオフォンドふくしま80女子 W40-44 photo:Makoto AYANO 
メディオフォンドふくしま80女子 W45-49 photo:Makoto AYANO

メディオフォンドふくしま80女子 W50-54 photo:Makoto AYANO 
メディオフォンドふくしま80女子 W55-59 photo:Makoto AYANO

敢闘賞に相当する経済産業大臣賞を受賞した加藤大貴(COW GUMMA) photo:Makoto AYANO
グランフォンドフォーマットに変更、世界につながるホビーレーサー注目の一戦に




福島復興サイクルロードレースシリーズの一戦であるツール・ド・ふくしまは、15市町村に跨る一帯を舞台とする市民ロードレースだ。国内では貴重なラインレース方式であり、風光明媚な福島の自然環境に支えられ、チャレンジングなコースが用意された。

本大会の最大のトピックは、2026年には「UCIグランフォンドワールドシリーズ大会」として開催されること。UCIグランフォンドのフォーマットに準拠した”プレ大会”として今年度は実施され、翌年にも同じコースが引き継がれる。そして、翌年大会の各クラス上位25%がグランフォンド世界選手権への出場権を獲得できる。ご存知の通り翌年の世界選の会場は北海道・ニセコだ。
すなわち、翌年の予選会を見据えた”前哨戦の前哨戦”という位置付けのレースとなった。世界を目指すレーサーにとっては格好のチャンスでもあり、強豪勢の勢力図を決定づける重要な一戦でもあった。

出走クラスは3つ。最長のグランフォンドふくしま140を筆頭に、メディオフォンドふくしま80、ロードレースふくしま50(末尾の数字はレース距離を表す)。表彰は5歳刻みのエイジグループ(年代別)によって実施。エイジグループや総合順位を総計すると入賞対象は29にも達し、多くのライダーにチャンスがある。さらにロードレースではおなじみのスプリント賞とKOM賞、3つの特別入賞も設けられ、レースの活性化が図られた。

男女合計のエントリー数は140kmに309名、80kmに289名、50kmに81名。全クラス合計679名が集い、昨年比約4倍強という参加者数の急増ぶりを見せた。前日のサイクリング部門と合わせて1,300人規模となり、まだ2年目の若い大会ながら存在感を示しただけでなく、UCIグランフォンドとなったことでの注目度アップが数字で実証された。

メイン会場かつ全カテゴリーのフィニッシュ地点となる天神岬スポーツ公園には、140kmクラスのレーサーたちが集結。UCIグランフォンド年代別世界チャンピオンであり前年覇者の高岡亮寛(Roppongi Express)を筆頭に、Mt.富士ヒルクライム優勝者でゼッケン1の石井雄悟(MASXSAURUS)、乗鞍ヒルクライム優勝者の田中裕士らが有力勢として姿を見せた。
海を見下ろす小高い岬の公園が会場となり、スタート/フィニッシュラインが大鳥居付近に設定される日本らしいユニークな演出も。気温22度、朝6時の号砲と共に注目の一戦が幕を開けた。
グランフォンドふくしま140
大会における最長、最難関。国内トップクラスの強豪勢が揃い、最も注目度の高かったカテゴリーが「グランフォンドふくしま140」だ。前述の通り、2026年大会でUCIグランフォンドの対象種目になるグループだ。

距離137km、総獲得標高は1800mほど。コースの大半を斜度5%以下のアップダウンが占め、フィニッシュライン500m手前から300m前には平均5%、最大8.8%のショートクライムが待ち受ける(なお全カテゴリーがこの坂を通過する)。

繰り返すアップダウンが非常に厳しいながらも急勾配の登りは無いという、アタックポイントに乏しいコース設定により、集団は徐々に人数が絞られつつも、終盤まで100名近くを残す展開に。小人数のアタックは何度も繰り返されるが、逃げては捕まりを繰り返す。

しかし残り約4km地点で先頭集団が牽制状態に入った隙をつき、石井雄悟(MASXSAURUS)が単騎で抜け出しに成功、独走に持ち込む。

石井は差を保ったまま迎えたフィニッシュ直前の登りでもスピードを保ち、集団スプリントが背後に迫るなか、残り100mで勝利を確信、ガッツポーズを決めた。各年代別の優勝者もほとんどがこの集団内に混じってフィニッシュしている。
140総合優勝 石井雄悟(MASXSAURUS)

「集団がバラけないコースだと感じました。ゴールスプリントになると予想していたが、終盤に緩んだタイミングがあり飛び出すことに。ラストの坂で追いつかれるかと思っていたが、最後まで踏み切ることができ、残り100mで勝ちを確信しました。ふくしまに向けた調整などは特になく、いつも通り全力の走りを心がけました。富士ヒル、ニセコ、ふくしまと続いて、次はおきなわを獲りたい。グランフォンドについてはあまり詳しく把握していないものの、もちろん来年の世界選手権も目指していきたいです。」

140 M45-49 3位 高岡亮寛(Roppongi Express)
「思ったより集団がバラけず、最後まで固まったままでした。石井選手が先行した時は、誰か追わないか?という雰囲気になってしまった。体調が良かったもののコースは自分向きではありませんでした。平均時速は41km/hほど。登りが予想より厳しくなく、力の差が出るコースとはならず、積極的でないライダーが上位に入ってしまったのは残念。今後はグランフォンド世界選手権、そしてツール・ド・おきなわに向けて注力します。」
140 M35-39 優勝 加藤大貴(COW GUMMA)
「序盤60kmは落車が多かったので集中してこなし、中盤の登りで自分の走りを狙っていました。抜け出すまではいかずとも、人数はある程度絞って最後まで残れた。ゴールスプリントは人数が多く、来年への良い下見になったので、対策して予選会に挑みたい。クライマーとして15分くらいの登りが欲しかったというのが本音です。」
140 M40-44 優勝 小林亮(soleil de lest)
「序盤に落車に巻き込まれてしまいましたが、なんとか復帰。集団が思ったより最後まで崩れなかったです。もう少しハードなコースなら楽しく違ったレースになったと思います。8月の乗り込みで調子は良かった。今年は世界選手権、そしておきなわに向けて頑張りたい。フィードゾーンで配布されるボトルが細く、ボトルケージへの取り付けが緩かったので下りでたくさん落下していたので改善してほしい。来年はさらに大きい集団になると想定され、対策が必要になるかと思う。」
140 M45-49 優勝 松木健治 (VC VELOCE)
「10日前までコロナに罹ってしまい、ほぼ練習できずに参加となりました。練習のつもりで走ったものの、コースがイージーだったため最後まで残ることができました。コースは面白かったが、厳しさはおきなわ、ニセコの方が上。豪華メンバーの揃うレベルの高いレースになったので、来年もぜひ盛り上がる大会になってほしいです。」
140女子は鈴木友佳子(MIVRO)が優勝

140女子は男子と混走のレースで6名の出走となり、トップでフィニッシュした鈴木友佳子(MIVRO)がエイジと女子総合優勝の栄誉に輝いた。
140 W19+ 優勝 鈴木友佳子(MIVRO)
「140は人数が多く、女子は最後尾スタートだったので、前に上がるのが大変だった。15km時点の中切れで後ろに取り残され、同じパックの女子ライダーをマークしていたが登りでバラバラに。100km以上の長距離レースは初挑戦で、補給を普段より多く持ったが、ちょうど使い切るくらいで終えられました。今年の世界選手権をまずは走り切って、来年も出場できるよう頑張るつもりです。」
140 W19+ 3位 大堀博美 (イナーメ信濃山形)
「ロングライドが好きなので140kmにエントリーしました。先頭集団に残りたかったけど、最初の平坦区間で気づいたら最後尾にいた。アップダウンでじわじわ順位を上げていきました。短いアップダウンが多い分パンチのある選手に有利な感じでした。沿道からの応援が暖かく、こちらも手を振り返しながら走った。シーズン前半は体調不良が続いて自転車に乗れなかったが、ここふくしまで楽しく走れたのが嬉しかったです」
メディオフォンドふくしま80

「メディオフォンドふくしま80」は距離80km、獲得標高1,300m。こちらも翌年はUCIグランフォンドの対象種目になる予定だ。スタート地点はグランフォンドふくしま140の57km地点に相当する「南相馬市馬事公苑」。140のメイン集団の通過直後にスタートが切られた。

20km地点からアタックし、ゴールまで逃げ切るという圧巻の走りで勝利を獲ったのは沢田虹太郎(学法石川)。弱冠17歳、二本松市在住の地元ホープが金星を手繰り寄せると共に、スプリント賞とKOM賞を総なめにした。
80 総合優勝 沢田虹太郎(学法石川)
「最初の山岳賞から1人で60km逃げて、1〜2分の差でゴールできました。タイム差はモトから聞かされていましたが、捕まらないか最後まで怖かったです。インターハイ入賞や自主練の300km走で自信をつけました。地元福島の大会で入場経験があるので、グランフォンドでも勝てて嬉しいです。次の目標は国スポです」

また80kmクラスは有力女子ライダーが多数参戦する注目のレースに。男子との混走の中で女子の先頭を飾ったのは石井嘉子(honeyB BIKEBAJU)。エイジと特別賞の二冠を達成した。

80 W19-34 優勝 石井嘉子(honeyB BIKEBAJU)
「集団のトップを獲ったので優勝かな? と思いガッツポーズしました。最後まで残った嶋野さん、手塚さんと3人で行くも、登りで振り切れなかった。最後は恨みっこなしの登りスプリントと決め、1分間全力のラストを踏んで抜け出すことができました。平坦が全く無いので、登りと下りの力が必要な、総合力を試されるコースだと感じました。」

80 W35-39 優勝 嶋野真美
「家庭の都合であまりロードレースには出られてないのですが、富士ヒルで結果も出ていたなかで楽しく走れました。最後の登りで脚を攣ってしまい、残念。優勝の石井さんの走りが上手くてカッコいい!と思いながら走ってました(笑)」


80 W40-44 優勝 手塚悦子(IMEレーシング)
「スタートからスピードに乗った速いレースだった。最初の登りで人数を減らして、3人残った女子ライダーで回して最後まで行きました。前に女子ライダーが先行しているかもしれないと思い頑張りましたが、結果的にそのまま逃げ切れたようです。コースはアップダウンが多くて楽しく、登りスプリントも好印象でした。」

ロードレースふくしま50

今大会最短で、ビギナー勢に親しみやすい「ロードレースふくしま50」。葛尾村の「復興交流館あぜりあ」をスタート地点とする47km、獲得標高750mのコースだ。総合優勝および特別賞は小林瑞宝(日本大学工学部自転車部)の手に渡った。

ふくしまと共に”国内三大ホビーレース”を目指す
レースを終えた参加者の声を聞くと、今年からの新コースに対しては肯定的なコメントが多かった。スムースな路面と十分な道幅、険しくも走りやすいアップダウンコースはまさにロードレースにふさわしいものと言えるだろう。しかし一方で、セレクションのかかる厳しい登りが無かったことを悔やむ強豪勢の声も少なくなかった。140の平均時速をみれば41km/hであり、いかにレースが高速で進んだかが分かる。
翌年のツール・ド・ふくしまグランフォンドは約10ヶ月後、6月12〜14日に開催予定だ。前述の通り世界選手権の予選会として開催されることから、高い注目度をもってレーサー達に受け入れられることは間違いない。より人数を増したプロトンが、復興の進む福島の地を駆け抜ける姿が見られるだろうか?
大会事務局:橋本謙司さん「グランフォンド世界選の予選レースへと生まれ変わるツール・ド・ふくしま」
大会オーガナイザーの”ハシケン”こと橋本謙司さん曰く、ニセコクラシック、ツールドおきなわとも連携して「日本3大ロードレース大会」を目指すという。特に2026年は予選、世界選ともに日本開催であり、国内レーサーにとって大きな出場意義がある。以降も存続すれば、市民レーサーの新たな夢舞台としてふくしまの重要度は増していくだろう。世界を見据えた戦いは既に始まっている。市民レースの活性化に注目だ。

「グランフォンド世界選手権の2026年会場がニセコに決まったことで、ふくしまがその予選会の役割を果たすことになりました。先を見越してこの2025年大会をグランフォンドフォーマットに則ったものに作り変え、4月から開催準備を進めてきました。ニセコの主催者からも応援をいただき、市民レースを盛り上げるべく多くのライダーが集まる大会作りを目指しました。結果的に豪華なメンバーが揃い、レーサーの間でも話題になれたのではと思います。
実質第2回となる今回大会は、サイクリング部門、レース部門ともに昨年から3倍以上の多くのサイクリストにお集まりいただき、福島の地域活性に寄与できたことと思います。昨年コースは完走率35%と厳しすぎたため、グランフォンドとは呼べないくらい難易度が高すぎるのが実際でした。今年は完走率87%程度と、グランフォンドとして理想的な難易度のコースに仕上がりました。選手からも肯定的なコメントが多く届いています。
ニセコ、おきなわと共に国内3大市民レースとして、優勝者を次戦に招待できるような連携を図っていきたいです。2026年は史上最もアマチュアレースが盛り上がる年になることは間違いありません。
このグランフォンドをきっかけに福島を初めて訪れた方も多く、試走に来たサイクリストの姿の多さが地元で話題になっていました。ロードレースを通じて地元が活性化し、震災復興に繋がることこそ今大会の特徴であり、価値あるものです。サイクリストの笑顔に貢献できたことが何より嬉しいですね。
翌年も概ね同じコースでの開催を目指しています。改善点や要望をヒアリングして、さらにパワーアップした翌年大会へと繋げていきたいです」

表彰式より各カテゴリーの入賞者たち




















ツール・ド・ふくしま2025リザルト
グランフォンドふくしま140男子 | |
M16-18 | |
1位 | 大塚翔太 (COW GUMMA) |
2位 | 小林柊友(岐阜第一高校) |
M19-34 | |
1位 | 石井雄悟(MASXSAURUS) |
2位 | 木村裕己(Roppongi Express) |
3位 | 岩間来空(Team Aniki) |
M35-39 | |
1位 | 加藤大貴(COW GUMMA) |
2位 | 古谷朋一(内房レーシングクラブ) |
3位 | 加藤優佑(ドスコイ巡業ふくしま場所) |
M40-44 | |
1位 | 小林亮(soleil de lest) |
2位 | 雑賀大輔(湾岸サイクリング・ユナイテッド) |
3位 | 南広樹(TeamZenko) |
M45-49 | |
1位 | 松木健治(VC VELOCE) |
2位 | 田崎友康(zaki 會) |
3位 | 高岡亮寛(Roppongi Express) |
M50+ | |
1位 | 鈴木弘文(レブハフトレーシング) |
2位 | 高橋誠 (Roppongi Express) |
3位 | 山崎博志(湾岸サイクリング・ユナイテッド) |
グランフォンドふくしま140女子 | |
W19+ | |
1位 | 鈴木友佳子(MIVRO) |
2位 | 廣瀬博子(ペダリストピナレロショップ) |
3位 | 大堀博美(イナーメ信濃山形) |
メディオフォンドふくしま80男子 | |
M19-34 | |
1位 | 郷原輝久(日本ろう自転車競技協会) |
2位 | 橋本順祥(Astama Cycling Team) |
3位 | 西村朝陽 |
M35-49 | |
1位 | 井上健志(チームGINRIN熊本) |
2位 | 今西大地(パラティアム TOKYO DIMARE) |
3位 | 中島龍 |
M50-54 | |
1位 | 山本裕昭(BONDS静岡サイクルRT) |
2位 | 井上善裕(INOUE RACING CYCLE) |
3位 | 白鳥興寛(ARCCレーシングチーム) |
M55-59 | |
1位 | 藤原真(champion system Japan test team) |
2位 | 齋藤多嘉志(SBC Vertex Racing Team) |
3位 | 今田裕一(Roppongi Express) |
M60-64 | |
1位 | 松本功二(BMレーシング) |
2位 | 寺島勝 |
3位 | 宗政昭弘 |
M65-69 | |
1位 | 花田清志(青森方面隊) |
2位 | 岡田隆司 |
3位 | 井口耕二 |
M70-74 | |
1位 | 森昭廣(ワイルドライフ) |
2位 | 大永徳彦(3G-Tractor RC) |
3位 | 東城康夫(大福屋) |
M75+ | |
1位 | 高山信行 |
メディオフォンドふくしま80女子 | |
W19-34 | |
1位 | 石井嘉子(honeyB BIKEBAJU) |
2位 | 林優希(なるしまフレンド) |
3位 | 遠藤杏奈 (HighAmbition女子サイクリングアカデミー) |
W35-39 | |
1位 | 嶋野真美 |
2位 | 池田由美 |
3位 | 安藤沙弥(Team SHIDO) |
W40-44 | |
1位 | 手塚悦子(IMEレーシング) |
2位 | 森廣真奈 |
3位 | 三谷尚子 |
W45-49 | |
1位 | 市村愛(セマスR新松戸) |
2位 | 井原真美(オンザロード) |
3位 | 伊藤麻耶(SOUTHPACK) |
W50-54 | |
1位 | 仲村陽子(FIETS) |
2位 | 番場しおり(SKG PHARMA) |
3位 | 西原久美子(Team hsj) |
W55-59 | |
1位 | 米田和美 |
2位 | 栗原裕美子(髪人) |
3位 | 山口優子(VELONATSU RACING TEAM) |
W60+ | |
1位 | 野水央子(なるしまフレンド) |
2位 | 菊池香(なるしまフレンド) |
3位 | 東有子(ハギボウ) |
ロードレースふくしま50 | |
M16-18 | |
1位 | 江本匠太 |
2位 | 石黒樹 |
M19-34 | |
1位 | 小林瑞宝(日本大学工学部自転車部) |
2位 | 横山昂平(サイドモンブラン) |
3位 | 平野智徳 (YOU CAN) |
M35-49 | |
1位 | 山本耕平(ARCCレーシングチーム) |
2位 | 渡邉正光 |
3位 | 越智進太郎(農林中央金庫) |
M50+ | |
1位 | 斎藤真一 (LEZEL CC) |
2位 | 阿南大介(内房レーシングクラブ) |
3位 | 佐藤雅禎 (ブラーゼンサイクリング倶楽部) |
ロードレースふくしま50女子 | |
W19+ | |
1位 | 小佂莉代 |
2位 | 飯田千夏 |
3位 | 山田貴子(VELONUTS) |
経済産業大臣賞(グランフォンドふくしま140の敢闘賞) | 加藤大貴(COW GUMMA) |
復興大臣賞(メディオフォンドふくしま80の女子全体のトップ選手) | 石井嘉子(honeyB BIKEBAJU) |
福島県知事賞(ロードレースふくしま50の総合優勝者) | 小林瑞宝(日本大学工学部自転車部) |
140総合優勝 | 石井雄悟(MASXSAURUS) |
80総合優勝 | 沢田虹太郎(学法石川) |
text:Ryota Nakatani
photo&edit Makoto AYANO
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