例年ヒルクライムシーズンの到来を告げてきた「ツール・ド・八ヶ岳」が6年ぶりに開催された。悪天候のため全カテゴリーがハーフコースでの実施となったが、雨による寒さや滑る路面にも負けず、ヒルクライマーが駆けた1日をレポートする。



6年ぶりに戻ってきたツール・ド・八ヶ岳

長野県茅野市と佐久穂町の間に位置する麦草峠は白樺で有名だ photo:Michinari TAKAGI

例年ヒルクライムシーズンの初戦として親しまれてきた「ツール・ド・八ヶ岳」。しかしコロナウイルスの影響により、2020年の34回大会が中止されて以来は、現在に至るまで中止となってきた。しかし今年、満を持して6年ぶりの復活を果たした。

ツール・ド・八ヶ岳の舞台は、長野県茅野市と佐久穂町の間に位置する「麦草峠」。ここは最も標高の高い国道の「渋峠(2,172m)」に次ぐ、第2位の標高2,127m(国道299号)という高地にある峠だ。

国道299号のコースの一部は2024年11月14日から2025年4月17日までの期間は冬季通行止となっているが、サイクリストのためだけに特別に大会時のみ解放される photo:Michinari TAKAGI

コースは麦草峠を東側から登る「フルコース」と「ハーフコース」の2つが用意されている。フルコースは長野県南佐久郡佐久穂町にある「やちほ夢の森」から麦草峠までの20.8kmで、獲得標高は1,087m。ハーフコースは同じく「やちほ夢の森」から八千穂高原スキー場までの11.4km、獲得標高585mと初めてのヒルクライムイベントとしても参加しやすい。

メルヘン街道と呼ばれている国道299号のコースの一部は、2024年11月14日から2025年4月17日までの期間、冬季通行止となっている。しかしこのツール・ド・八ヶ岳の開催される4月13日は、一般車両に開放される前にサイクリストのためだけに解放される、特別な体験ができる機会なのだ。

スタート地点のやちほ夢の森は八千穂高原ICから4kmとアクセスが良いのもポイントだ photo:Michinari TAKAGI

ゴール地点の麦草峠山頂は雪予報に参加者とスタッフの安全を鑑み、全カテゴリーをハーフコースのレースとする決断となった photo:Michinari TAKAGI

フルコースのカテゴリーは男子がチャンピオンクラスやA~Hまでの9カテゴリー、女子が2カテゴリーが用意され、ハーフコースは男子と女子、E-BIKEで参戦できる電動カテゴリーまで用意されているため、老若男女問わず参加が可能となっている。

年代別カテゴリーの男子A~Hと女子も表彰もあるため、同世代と切磋琢磨できる機会でもある。ヒルクライムシーズンの開幕ということで、425名のサイクリストがエントリー。大会に向けて各々トレーニングに打ち込んできた成果を発揮すべく臨んだ。

中止の危機も、全カテゴリーのハーフコースによる開催決定

ヒルクライムシーズンの到来を告げてきた「ツール・ド・八ヶ岳」 photo:Michinari TAKAGI

フルコースの女子Bに参加する女性サイクリスト photo:Michinari TAKAGI

しかし、大会日である4月13日が近づき、各天気サイトで大会当日の天気予報をチェックしてみると、フルコースのフィニッシュ地点である麦草峠山頂は雪予報。コース状況と天気予報などを考慮し、当日の6時30分に完全開催か全カテゴリーハーフでの開催、あるいは中止の判断が下されることになっていた。

そしてコース状況を確認と天候の予測を行った結果、麦草峠山頂付近の大会開催時間帯が雪の予報となっていた。気温は氷点下と過酷な天候のため、参加者とスタッフの安全を鑑み、全カテゴリーが「八千穂高原スキー場」までのハーフコースのレースとする決断が下された。

「頑張らずにヒルクライムを楽しみたい!」と話すE-BIKEカテゴリーの参加者さん photo:Michinari TAKAGI

地元参加者である谷澤さんの愛車はグラファイトデザイン METEOR SPEED photo:Michinari TAKAGI
東京からやってきた中学生のお二人。頑張ってください! photo:Michinari TAKAGI


スタート地点となる「やちほ夢の森」に到着すると、スタートを待つ参加者は受付が実施されている建物の軒下に集まり、雨宿りをしていた。8時になると大会で使用するコースの通行規制が始まり、通行止めが開始された。

男子チャンピオンを先頭に各カテゴリーの案内板を持ったスタッフが並び、参加者たちがカテゴリーごとに整列していく。スタートを待つ参加者の1人に話を聞いてみると、「長野に住んでいて、ツール・ド・八ヶ岳が何年も中止続きだったので、ようやく復活してとても嬉しいです」と開催を心待ちにしていた様子だった。

南佐久郡佐久穂町の町長である佐々木勝氏が開会の挨拶を行った photo:Michinari TAKAGI

大会審判長の鈴木雷太さん photo:Michinari TAKAGI

8時40分になり、雨が降る中で開会式が行われた。南佐久郡佐久穂町の町長である佐々木勝氏が会場に駆け付け、「雨の中で参加者の皆様が濡れてはいけないので、一言だけ!どうか頑張ってください!!」と参加者に雨を吹き飛ばすような熱いエールを送ってくれた。

また、シクロクロスのマスターズチャンピオンで自転車番組『チャリダー』でもお馴染み筧五郎さんとリドレーアンバサダーのYUKARIさんが招待ゲストとして参加。大会審判長の鈴木雷太さんは注意事項を確認し、参加者にエールを送った。

小雨のなか6年ぶりのツール・ド・八ヶ岳がスタート

招待ゲストのYUKARIさんと筧五郎さん photo:Michinari TAKAGI

ツール・ド・八ヶ岳で頑張るぞー!! photo:Michinari TAKAGI

スタート時刻が近づいてくると、気温7℃と寒さの中でも太陽が姿を現す瞬間もあった。さらに、小雨になり良い意味で天気予報に裏切られることに。そのため参加者たちはウインドブレーカーやレインジャケットを脱ぎ、スタートの時を待った。

そして開始時刻である9時になると、男子チャンピオンが勢いよく駆け出し、八千穂高原スキー場までの距離11.4km、獲得標高585mの熱い戦いがスタート。続いてフルコース組のA~Hまでの9カテゴリー、女子の2カテゴリーが2分間隔で続々と走り出していく。

9時スタートの男子チャンピオンが勢いよく駆け出す photo:Michinari TAKAGI

フルコース組のA~Hまでの9カテゴリーが2分間隔で続々と走り出していく photo:Michinari TAKAGI
序盤は直線基調で、先が見える緩斜面で一定ペースで走りやすい photo:Michinari TAKAGI


ゲストライダーのYUKARIさんは女子カテゴリーと共にスタート photo:Michinari TAKAGI

筆者もフルコース組の女子カテゴリーと共にスタートしていくことに。「麦草峠」は勾配7〜9%の坂が何度も登場するなか、平坦基調の区間もあるためコース全体の平均勾配は5%だ。序盤は直線基調で、先が見える緩斜面なので一定ペースで登りやすい。

スタートするとすぐ標高1,100mを知らせる看板があり、改めて高地であることを再確認させられる。日ごろ走っている関東では滅多に1,000mを越えて走れる場所はない。非日常な高地からスタートするとあって、いつもより心拍数も高めだった。

スタートしてすぐ、標高1,100mを知らせる看板 photo:Michinari TAKAGI

冬季通行止区間が近づく photo:Michinari TAKAGI
筧五郎さんは参加者に声をかけたり、アドバイスをしながらヒルクライムに参加 photo:Michinari TAKAGI


標高1,200mの地点を通過すると霧が立ち込めてくる photo:Michinari TAKAGI

小雨になったとはいえ、スタートするまでに降り続けていた雨の影響で路面はフルウエットコンディション。滑りやすい路面とあってか、バイクの重心を捉えながら、しっかりとトラクションを伝え続けなければならない。

ゲストライダーのYUKARIさんはバイクに取り付けられたアクションカメラで動画を撮影しながら、笑顔で楽しそうに登っていった。一方筧五郎さんは参加者に声をかけたり、アドバイスをしながらヒルクライムに参加していた。

柴犬も沿道から応援! photo:Michinari TAKAGI
更に霧が濃くなっていく photo:Michinari TAKAGI


標高1,300mの地点を通過 photo:Michinari TAKAGI
森林区間を抜けた勾配が7〜9%の坂が登場 photo:Michinari TAKAGI


軽快なダンシングでクリアしていく photo:Michinari TAKAGI

力強いペダリングのシッティングでクリア photo:Michinari TAKAGI
激坂と緩斜面が入れ替わりながら参加者の前に立ちはだかる photo:Michinari TAKAGI


標高1,200mの地点を通過すると木々が生い茂る森林区間に突入していく。霧が立ち込め、自然の中と相まってか目の前には幻想的な景色が広がる。しかしコースは小刻みに右へ左へ曲がりながら走るため、一定ペースが刻みにくい厳しい区間だ。

森林区間を抜けた標高1,300mの地点からはさらに過酷な勾配が7〜9%の坂が登場し、参加者の前に立ちはだかる。気温はどんどん下がり、雨も若干だが強くなってきた。路肩には残雪があり、見た目からしても寒く感じた。

優勝は28分41秒のトップタイムをマークした宿谷英男(NICO-OZ)

28分41秒でフィニッシュした宿谷英男(NICO-OZ)が男子チャンピオンレースを制す (c)ツール・ド・八ヶ岳

2位は8秒差で高橋利尚 (c)ツール・ド・八ヶ岳
3位は18秒差で板子佑士(soleil de lest)が表彰台を獲得した (c)ツール・ド・八ヶ岳


笑顔で軽快にダンシングをしていく参加者もいれば、歯を食いしばりながら懸命に登る参加者の姿も。丁度そのころ、男子チャンピオンの優勝者がフィニッシュラインを通過した。

ヒルクライムシーズンを告げる6年ぶりのツール・ド・八ヶ岳を制したのは、ハイペースを維持して28分41秒でフィニッシュした宿谷英男(NICO-OZ)。2位は8秒差で高橋利尚で、3位は18秒差で板子佑士(soleil de lest)が表彰台に上がった。

標高1,600mを白樺林が見えてくる photo:Michinari TAKAGI

筧五郎さんが白樺林の前を通過していく photo:Michinari TAKAGI

標高1,600mを越えて来ると、霧もなくなっていきて白樺林が見えてくる。あまりにも真っ白のため見惚れてしまうほど。ただ終盤戦に差し掛かっているため、参加者の皆さんはその美しい白樺を横目に懸命にペダルを踏み続ける。

勾配のきつかった中盤を突破し、残り2kmに差し掛かると緩斜面が見えてくる。そのためここは登りではあってもスピードを乗せやすい区間。ここまでくれば、あとは残りの力を振り絞るだけだ。

八ヶ嶺橋が見えてくれば残り500m photo:Michinari TAKAGI

残りの力を振り絞る photo:Michinari TAKAGI
ピースをしながらと、まだまだ余裕そう! photo:Michinari TAKAGI


八ヶ嶺橋が見えてくればハーフコースのフィニッシュ地点である八千穂高原スキー場まで残り500mだ。

八千穂高原自然園と八千穂高原スキー場の間にある八ヶ嶺橋は、紅葉最盛期には絶景スポットとして人気が高い。今回は雨による視界不良のため絶景は見れなかったが、晴れていればフィニッシュ手前に壮大な景色が広がっていたはずだ。

ゴールまであと少し! photo:Michinari TAKAGI

相棒のアヒルちゃんとラストスパート photo:Michinari TAKAGI

全力でスプリントしていく方やゴールが近いことに安堵して笑顔をつくる方、カメラに向かってポーズを決めてくれた方をカメラのファインダー越しに見送っていく。

八千穂高原スキー場のフィニッシュラインを越えたところでバイクを停めて、参加者たちのフィニッシュを待つ。後続からは元々ハーフコースのエントリーをしていた方々が続々と駆け上がっていた。

E-BIKEカテゴリーの参加者もフィニッシュ photo:Michinari TAKAGI

ゲストライダーの五郎さんも自身のゴール後に、参加者に声をかけていた photo:Michinari TAKAGI

スタート前に「頑張らずにヒルクライムを楽しみたい!」と言っていた参加者の1人はE-BIKEで軽快に登ってきた。E-BIKEであれば、モーターのアシストにより、景色も楽しみながらヒルクライムも楽しめたことだろう。

ゲストライダーの筧五郎さんも自身のゴール後に、参加者に声をかけていた。登ってくる参加者はみな、達成感に満ち溢れた表情だった。

「同じバイクに乗っていて、仲良くなりました!」とサイクリストの輪が広がっていた photo:Michinari TAKAGI
美味しい天然水をどうぞ! photo:Michinari TAKAGI


各カテゴリーの入賞者が集結 photo:Michinari TAKAGI
佐久穂町観光協会会長の加藤氏の挨拶から表彰式が始まった photo:Michinari TAKAGI


男子チャンピオンレースから最終スタートのハーフカテゴリーの選手たちが無事にフィニッシュ。ハーフコースの開催となったため、表彰の時間もそれに応じて早まった。入賞対象者が続々と集まったところで、佐久穂町観光協会会長の加藤氏の挨拶から表彰式が始まった。

各カテゴリーの優勝者にはイエローに大会ロゴがプリントされたツール・ド・八ヶ岳のチャンピオンTシャツが贈られ、1~3位までの入賞者には金、銀、銅メダルと景品が授与された。

1~3位までの入賞者には金、銀、銅メダル photo:Michinari TAKAGI
男子Dの表彰式 photo:Michinari TAKAGI


女子Aのチャンピオンと八千穂高原恋人の聖地生まれの白樺の妖精「しらかばちゃん」 photo:Michinari TAKAGI
各カテゴリーの優勝者にはイエローに大会ロゴがプリントされたツール・ド・八ヶ岳のチャンピオンTシャツが贈られた photo:Michinari TAKAGI


男子チャンピオンレースの表彰式 photo:Michinari TAKAGI

コロナを乗り越え、6年ぶりに行われた「ツール・ド・八ヶ岳」。久々の開催は悪天候により、フルコースのフィニッシュ地点、麦草峠の頂上にはたどり着くことはできなかった。しかし、来年こそは八ヶ岳の雄大な景色の中、麦草峠を目指すサイクリストたちの笑顔が輝くことを信じている。

来年こそはその頂きを目指して、皆さんも挑戦してみてはいかがだろうか。

photo & text:Michinari TAKAGI