SDワークス・プロタイムが64勝を積み上げた2024年シーズン。世界選手権連覇のコペッキー、パリ五輪&世界選手権TT制覇のブラウン、ツール・ファム総合優勝のニエウィアドマなど躍動した選手たちの活躍を振り返る。



コペッキーが席巻したクラシックレース(1〜4月)

SDワークス・プロタイムが2024年積み上げた勝利数は64(総合優勝含む)。昨年から1つ勝ち星を伸ばし、2位のリドル・トレックの17勝を大きく引き離して女子レースを席巻した。しかし主要レースを見てみると、ライバルチームも健闘したことが窺える。

ダウンアンダーで総合優勝を飾ったサラ・ジガンテ photo:CorVos
ストラーデビアンケを制したコペッキー photo:CorVos


パリ〜ルーベで初優勝したコペッキー photo:A.S.O.

今年も1月のオーストラリアで行われたサントス・ツアー・ダウンアンダーからワールドツアーはスタート。地元出身のサラ・ジガンテ(AGインシュランス・スーダル)が名物の ウィランガヒル・フィニッシュを制し、24歳にして総合優勝に輝いた。

3月から本格化したヨーロッパでのクラシックシーズンでは、ロッテ・コペッキー(ベルギー、SDワークス・プロタイム)がストラーデビアンケ・ドンネで2度目の優勝を飾る。ロンド・ファン・フラーンデレンこそエリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア、リドル・トレック)に敗れたものの、コペッキーはパリ〜ルーベ・ファムでは6名によるスプリントで勝利。ビブショーツまで白色のアルカンシエルで初優勝を手に入れた。

ガッツポーズするウィーベスをマリアンヌ・フォス(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク)が追い抜く photo:CorVos

アムステルゴールドレース・レディースエディションは今年のクラシックレースを代表する記憶深いレースとなった。21の短い登り(ベルグ)で争われた戦いは、警察モトバイクの事故のため1時間の中断を余儀なくされる。

そして勝負は集団スプリントに持ち込まれると、年々登りでの粘り強さを増すロレーナ・ウィーベス(オランダ、SDワークス・プロタイム)が勝利を確信したガッツポーズでフィニッシュ。しかし最後まで踏み続けたマリアンヌ・フォス(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク)が抜き去り、2度目の優勝を掴んだ。

フォレリングの不調とニエウィアドマの涙(5〜7月)

5年ぶりの勝利を、ラ・フレーシュの大舞台で手に入れたカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド、キャニオン・スラム) photo:CorVos

今年のクラシックでは、昨年圧巻の強さを見せたデミ・フォレリング(オランダ、SDワークス・プロタイム)の不調が目立った。表彰台に複数回上がるものの、ラ・フレーシュ・ワロンヌ・フェミニーヌを制したのはカタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド、キャニオン・スラム)。ロードレースで2019年以来勝利から遠ざかっていたニエウィアドマはライバルたちを「ユイの壁」で引き離し、涙の優勝に輝いた。

続くリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ・ファムでもフォレリングは3位と勝利を逃す。そして優勝したのは現役ラストイヤーにしてキャリアハイのシーズンとなるグレース・ブラウン(オーストラリア、FDJスエズ)が集団スプリントを制し、初優勝を飾った。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ・ファムを制したブラウン photo:A.S.O.

ステージレースをフォレリングが席巻

区間2勝目と共に、総合優勝を決めたデミ・フォレリング(オランダ、SDワークス・プロタイム) photo:CorVos

今年のグランツールはラ・ブエルタ・フェメニーナから始まり、そこで復調のフォレリングが敵なしの強さを発揮した。ブエルタで初の総合優勝を飾ると、そこからワールドツアーのステージレースを4連続制覇。19レース中8勝を挙げ、フォレリング個人の力はもちろんチーム力でも世界一であることを誇示した。

フォレリングがパリ五輪に集中するため不出場だったジロ・デ・イタリア・ウィメンはロンゴボルギーニが初の総合優勝。初日に勝利を挙げ、着用したマリアローザを最後まで守り抜き、2008年以来となるイタリア人が制覇した。

自身初のジロ総合優勝を遂げたエリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア、リドル・トレック) photo:RCS Sport

パリ五輪、そしてツール・ファム(8〜9月)

圧巻の走りでパリ五輪TTの金メダルを獲得したブラウン photo:CorVos

フランスの首都パリを舞台に行われたパリ五輪、32.4kmの個人タイムトライアルを制したのは、リエージュ制覇で波に乗るブラウンだった。平均速度49km/hという驚異的なスピードで、2位以下に1分半以上の差をつけたブラウンが金メダルを獲得した。

オランダとベルギーの戦いと予想されたロードレース。だが1チーム最大4名という制約と高難度コースによるサバイバルな展開となり、残り3.5km地点で勝負は4名に絞られた。コペッキーやフォスが残る集団から32歳のクリステン・フォークナー(アメリカ)が飛び出し、キャリア最大の勝利を手に入れた。

本格的に競技スタート後、わずか5年で金メダリストとなったクリステン・フォークナー(アメリカ) photo:CorVos

パリ五輪閉幕直後の8月12日、オランダ・ロッテルダムで開幕したツール・ド・フランス・ファム・アヴェク・ズイフト。第3回目にして女子レース最大の大会となった戦いは、開幕2レースをシャーロッテ・コール(オランダ、DSMフィルメニッヒ・ポストNL)が勝利。1度目はメカトラに見舞われたウィーベスを、2度目は実力で退けた。

ウィーベスを下し、2連勝を飾ったシャーロッテ・コール(オランダ) photo:CorVos

ツール最終日を制したデミ・フォレリング(オランダ) photo:CorVos
ツール・ド・フランス・ファム2024総合表彰台 photo:CorVos


第3ステージの個人TTの勝利で総合首位に立ったフォレリングだったが、第5ステージの落車でマイヨジョーヌを失う。フォレリングは最終日の超級山岳ラルプデュエズで勝利したものの、脅威の粘り強さを発揮したニエウィアドマが僅か4秒差で首位を守り、本人も「信じられない」と語る3代目総合優勝者に輝いた。

ブラウンがTT2冠で有終の美

圧倒的な走りを披露したグレース・ブラウン(オーストラリア) photo:CorVos

スイスのチューリッヒが舞台となったロード世界選手権。個人タイムトライアルはここもブラウンが初優勝。五輪との2冠という偉業で、有終の美を飾った。

雨の中行われたロードレースは154.1kmで争われ、逃げができては引き戻されるを繰り返す。パリ五輪と同じく有力選手が集団から遅れていくなか、勝負は先頭に残った6名によるスプリントへ。フォレリングを先頭に最終ストレートに入り、ロンゴボルギーニをきっかけに6名が踏み込む。

ロード世界選手権を連覇したロッテ・コペッキー(ベルギー) photo:UCI

そんな中トップスピードに乗ったコペッキーがフィニッシュラインを先頭で通過。連覇でアルカンシエルのキープに成功した。

コペッキーはその後行われた2つのワールドツアーレース、ツール・ド・ロマンディ・フェミナンとシマック・レディース・ツアーで総合優勝する。その結果2024年のUCIポイントランキングで首位を獲得。年々総合力を高める28歳が、キャリアハイのシーズンを飾った。

2025年の展望

来年に向けた女子レースはフォレリングがFDJスエズへ、ロンゴボルギーニがUAEチームADQに移籍するなどエースたちがチームを変えた。そうした中64勝と女子プロトンを席巻し、UCIチームラインキングで4年連続の首位に立ったSDワークス・プロタイムの一強を、ライバルチームが崩せるのかに注目が集まる。
2024年シーズン女子ロード 主要レース結果
開催日 レース 勝者
3月2日 ストラーデビアンケ・ドンネ ロッテ・コペッキー(ベルギー、SDワークス・プロタイム)
3月31日 ロンド・ファン・フラーンデレン エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア、リドル・トレック)
4月6日 パリ〜ルーベ・ファム ロッテ・コペッキー(ベルギー、SDワークス・プロタイム)
4月14日 アムステルゴールドレース・レディースエディション マリアンヌ・フォス(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク)
4月17日 ラ・フレーシュ・ワロンヌ・フェミニーヌ カタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド、キャニオン・スラム)
4月21日 リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ・ファム グレース・ブラウン(オーストラリア、FDJスエズ)
4月28〜5月5日 ラ・ブエルタ・フェメニーナ デミ・フォレリング(オランダ、SDワークス・プロタイム)
7月7〜7月14日 ジロ・デ・イタリア・ウィメン エリーザ・ロンゴボルギーニ(イタリア、リドル・トレック)
7月27日 パリオリンピック個人タイムトライアル グレース・ブラウン(オーストラリア、FDJスエズ)
8月4日 パリオリンピックロードレース クリステン・フォークナー(アメリカ、EFオータリー・キャノンデール)
8月12〜18日 ツール・ド・フランス・ファム カタジナ・ニエウィアドマ(ポーランド、キャニオン・スラム)
9月22日 ロード世界選手権個人タイムトライアル グレース・ブラウン(オーストラリア、FDJスエズ)
9月28日 ロード世界選手権ロードレース ロッテ・コペッキー(ベルギー、SDワークス・プロタイム)
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos