2010/07/23(金) - 20:39
トゥールマレーという最高の舞台が用意されたツールのクライマックスは、最大の優勝候補コンタドールとアンディがぶつかりあう文字通り頂上決戦となった。
スタートを迎えるポーは昨日から雨が降り続き、未明から雷の音が轟いていた。トゥールマレーの麓でも大雨が降り、悪天候と落雷のためにライブ中継さえないのではないかという情報が飛び交っていた。ここ連日続いた好天のツケを一気返されたような悪天候。スタートを待つ選手たちの精神的プレッシャーは如何ほどに?
しかしスタート時刻が近づくに連れてポーの雨は弱まり、選手たちはいったん着込んだレインギアを脱いで、背中のポッケにしまってスタートしていった。
マリーブランク峠は小雨。そして深い霧に包まれた。そしてトゥールマレー峠は選手がゴールする頃には雨は止み、霧のみという条件になった。天気がもっと荒れれば波乱の展開があった?
マリーブランク峠で逃げたフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)、エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)、マークス・ブルグハート(ドイツ、BMCレーシングチーム)、アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)、ルーベン・ペレス(スペイン、エウスカルテル)、レミ・ポリオル(フランス、コフィディス)ら7名。
そしてこの強力なメンバーに単身追いつこうとブリッヂを掛けた2008年の覇者カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)。
後方ではブイグテレコムがメイン集団をコントロールしているという情報。マイヨアポアのアントニー・シャルトー(フランス)を抱えるブイグにとっては、序盤の峠こそが山岳ポイント争いを優位に進めるためのキーだ。サストレをいれて前を行く8人は、いずれもシャルトーのポイントを脅かさない選手ばかりだ。
最後の山岳ステージで勝利を欲したサストレ。しかしタイミングを誤ったか、サストレに加われれては勝利をさらわれると逃げグループの7人が思ったか、サストレは差を詰められず、かえって脚だけを使い遅れる結果に終わった。
ステージに勝った喜びと、マイヨジョーヌに手が届かなかった悔しさ
今年のツールが用意した最高の舞台トゥールマレー。2度目の上りとなるこのステージでの進行方向は、第16ステージで通過したラ・モンジ側から上るよりも格段に厳しい。
アンディはこのトゥールマレーでアタックする必要があった。タイムトライアルでコンタドールの優位が明らかなら、ここでアタックして差をつけるしかツールに勝つ方法は残されていない。アンディは残り10kmという早い時点からアタックを繰り返した。
チェーントラブルへのアタックでコンタドールに差を開かれた日、怒りに任せて「バイクから崩れ落ちるまで攻める」と言い放った。その宣言通りアンディはコンタドールに対して無数のアタックをかけた。他のすべてのライバルたちは振り落とし、ふたりだけの対決に持ち込んだ。しかしコンタドールはアンディの加速すべてに反応し、ついて行った。
ラスト3.5kmではコンタドールが反撃のアタックを見せたが、しかしアンディも離されることはなかった。2人は揃ってゴールし、コンタドールは着順を争うことをしなかった。
アンディはフィニッシュラインを越えるとき、悔しさとも、喜びともとれる表情で拳を突き上げた。そしてコンタドールの肩に手をやると、ふたたび空に向けて右腕を挙げた。ステージに勝ったがマイヨジョーヌには手が届かなかった。
アンディ「15回加速した」
アンディは言う。「SRMのデータでは15回アタックしている。たぶんTV映像じゃ分からないだろう。今日僕は数えきれない加速をした。でもただコンタドールを振り落すことはできなかった。彼があまりに強かったからだ。
彼がアタックしたのは僕に強さを見せつけるため、脚があることを見せつけるためだということは分かっている。結局最後まで彼を振り落とせなかたけれど、ステージ優勝できたことはハッピーだ。
彼の後ろからアタックができるように、僕は彼に前に出るように言ったんだ。でも彼は賢かった。後ろに付いていればいいだけだということを知っていた。
今朝、持てる力のすべてを出しきろうと自分に言い聞かせた。なぜなら今までの他のステージではレース展開のせいでそれができなかった。でも、今日僕は力を出し切ったが、アルベルトもそれができた。彼は偉大なプロフェッショナルだ。今日彼は自分がすべきことをした」。
アンディはマイヨジョーヌを諦めていない
総合優勝への希望は砕かれた? いや、アンディは諦めていない。
「フィニッシュラインを通るとき、気持ちを切り替えた。タイムトライアルで最高の力を出すと。きっとやれる。まだ僕の前にはマイヨジョーヌが見える。だから昨日言ったことは変更だ」。
結局8秒のタイム差を逆転することはできなかった。まだ第20ステージにタイムトライアルを残すが、昨年のTTの結果から判断してコンタドールの優勝はほぼ堅いというのが大方の見方だ。昨年のツールの最終タイムトライアルでは、コンタドールがステージ優勝を飾り、アンディは1分45秒の遅れをとっている。
しかしコンタドールは警戒を怠らない。TTまでにリードを保っていればツールに勝てるだろう?との問に対し、次のように答えてきた。「アンディも進化している。彼のTTの力が昨年と同じとは思っていないし、ルクセンブルグ選手権TTのチャンピオンにもなっていることを忘れちゃいけない」。
アンデは強気の姿勢を崩さない。しかしコンタドールの強さの前に、すでに歴然とした差を感じているのかもしれない。
アンディは言う。「僕はこのスポーツでいい未来が待っていると信じたい。ツールに勝てるスキルを身に付けられることを信じている。それは来年、3年後だろうか?僕がアルベルト・コンタドールとどれだけ距離があるかなんて、自分を比べる必要はない。僕らはそれぞれ別の選手だ。僕は彼とは違う」。
冷静にマイヨジョーヌを守ったコンタドール
アンディのアタックに対抗し、最後まで差をつけられることを許さなかったコンタドール。ラスト3.5kmでは自らもアタックしたが、アンディに付いていく走りでマイヨジョーヌを守った。
コンタドールは言う。「今日一番大事だったのはタイムを失わないことだった。アンディは上っている間じゅうずっと強くて、速いリズムを刻んでいた。彼が差を開きたいと思っていることは知っていた。でも僕は彼さえ見ていれば良かった。ステージ優勝は重要じゃない。総合のことだけを考えていた」。
ラスト3.5kmのアタックについては、「アタックしたのは僕がここにいること、そしていい脚があることを見せるためだった」と言う。
これまで、例年よりアタックが少ないことで調子の悪さを指摘する声があった。しかしコンタドールはこれを否定した。
「今年のツールはずっと厳しい。だから僕は必要以上にはアタックしない保守的な走りをしてきた。昨年と同じように調子がいいというデータがある。そして今日はマンドへのステージと同じくらいとても調子が良かったし、今日重要だったのはタイムを失わないことだった。ツールを通して重要なのは、パリでツールに勝てる位置にいつもいるようにすること。タイムトライアルもこのままの調子で行けることを願っているよ。アンディが強いことは間違いない。タイムトライアルでもすごい走りを見せると思っている」。
シャルトーを支えたブイグテレコム
マイヨジョーヌ争いがまだ決しないのに対し、この日で事実上の闘いに決着がつくのが山岳賞争い。アントニー・シャルトーの着るマイヨアポアを、チーム全体で守るのがBboxブイグテレコムの今日の勝負になる。
レース前日、チームメイトのマイヨアポアを守る責任について、新城幸也はこう話していた。
「ポイント争いに関係の無い選手たちの逃げなら行かせる。ポイントに関係ある選手が含まれていたらつなぐ(捕まえる)。このステージの山岳でポイントが付くのは上位8人までだから、ポイントに関係ない8人以上が逃げてくれたら楽なんですけどね。チームの皆がそのことを十分頭に叩き込んでいるので、動き方に迷いはないですよ。だから細かいミーティングも無し」。
マイヨアポアはチーム力で守れるもの? 「でもモローが一対一の勝負を仕掛けてくるなら、最後シャルトーは自分自身で闘わなければいけなくなるでしょう」と、ユキヤ。
この日ブイグの選手たちは、逃げのメンバーを監視し、とくにポイント2位につけるクリストフ・モロー(ケースデパーニュ)を監視しながら走った。モローがスロール峠でパンクしたことも有利に運んだ。
トゥールマレー峠のゴールにひとりで現れたシャルトーは、何度もガッツポーズを見せ、フィニッシュラインを超えると空に向かって拳を突き上げた。今日はポイントを取ること無く、取られることも無くステージを終えた。
続々とゴールするブイグの選手たちが、シャルトーのマイヨアポア維持を喜ぶ。マイヨを守りきったことはもちろんすでに知っている。シャルトーはすでにポディウムへと連れていかれたため、ヴォクレールはポディウム脇のバリアから忍びこんでシャルトーに抱きついて祝福した。
ベルノドー監督がチーム員ひとりひとりの労をねぎらう。ユキヤのホッペを両手で挟み、「よくやった、よくやった」と、まるで子供を褒めるかのように喜びを伝える。今日はブイグにとって勝利の日だ。
シャルトーは言う。「モローがトゥールマレー峠で早くに遅れたとき、マイヨアポアを守るに十分なポイントがあることを知っていた。ただゴールすればいいことを。
チーム全員がマリーブランク峠で集団の前に集結し、モローに対してチームがこのジャージを本当に欲していることを知らしめた。チームは集団のペースを抑えるようにコントロールして、逃げグループに山岳ポイントを取らせるように動いた。最後はひとりっきりで上ったけど、ファンと一緒だった。皆が僕の名前を叫んでくれた。その間中ずっと感激していたんだ」。
フランス人による山岳賞は、フランスが誇る山岳王リシャール・ヴィランクが2004年に獲得して以来のこと。シャルトーはクレディアグリコルに所属した2007年にアジアが誇る山岳レース、ツール・ド・ランカウィで総合優勝しているが、ツールのプロトンではダークホースと言っていい存在だった。
ユキヤの完走はほぼ確実
これで難関山岳をすべて終え、ユキヤの2度目のツール・ド・フランス完走、3度目のグランツール完走がほぼ確実になったと言っていい。後はトラブルなく走るだけ。
今日のユキヤはシャルトーをアシストするチームワークにまわり、しかも100位ジャストの好位置でゴールした。途中、今日も例外なくカメラに気づいておどける余裕も見せ、難関山岳といえど十分な余裕をもって走っている様子を見せた。
「もし表彰台にチームメイトを送れれば素晴らしい。このステージ最大の目標はマイヨアポアを守ること」。前日に話してくれたチームの目標を果たし、満足気だった。
ゴールしてくる選手たちの疲れきった表情が、このステージの過酷さを物語る。上位争いを繰り広げた選手たちに大きく遅れて帰ってくる選手たち。スプリンターたちも今日を乗り切ればボルドー、そしてパリ・シャンゼリゼでチャンスが巡ってくる。
text:Makoto Ayano
photo:Cor Vos, Makoto Ayano
スタートを迎えるポーは昨日から雨が降り続き、未明から雷の音が轟いていた。トゥールマレーの麓でも大雨が降り、悪天候と落雷のためにライブ中継さえないのではないかという情報が飛び交っていた。ここ連日続いた好天のツケを一気返されたような悪天候。スタートを待つ選手たちの精神的プレッシャーは如何ほどに?
しかしスタート時刻が近づくに連れてポーの雨は弱まり、選手たちはいったん着込んだレインギアを脱いで、背中のポッケにしまってスタートしていった。
マリーブランク峠は小雨。そして深い霧に包まれた。そしてトゥールマレー峠は選手がゴールする頃には雨は止み、霧のみという条件になった。天気がもっと荒れれば波乱の展開があった?
マリーブランク峠で逃げたフアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)、エドヴァルド・ボアッソン(ノルウェー、チームスカイ)、マークス・ブルグハート(ドイツ、BMCレーシングチーム)、アレクサンドル・コロブネフ(ロシア、カチューシャ)、ルーベン・ペレス(スペイン、エウスカルテル)、レミ・ポリオル(フランス、コフィディス)ら7名。
そしてこの強力なメンバーに単身追いつこうとブリッヂを掛けた2008年の覇者カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)。
後方ではブイグテレコムがメイン集団をコントロールしているという情報。マイヨアポアのアントニー・シャルトー(フランス)を抱えるブイグにとっては、序盤の峠こそが山岳ポイント争いを優位に進めるためのキーだ。サストレをいれて前を行く8人は、いずれもシャルトーのポイントを脅かさない選手ばかりだ。
最後の山岳ステージで勝利を欲したサストレ。しかしタイミングを誤ったか、サストレに加われれては勝利をさらわれると逃げグループの7人が思ったか、サストレは差を詰められず、かえって脚だけを使い遅れる結果に終わった。
ステージに勝った喜びと、マイヨジョーヌに手が届かなかった悔しさ
今年のツールが用意した最高の舞台トゥールマレー。2度目の上りとなるこのステージでの進行方向は、第16ステージで通過したラ・モンジ側から上るよりも格段に厳しい。
アンディはこのトゥールマレーでアタックする必要があった。タイムトライアルでコンタドールの優位が明らかなら、ここでアタックして差をつけるしかツールに勝つ方法は残されていない。アンディは残り10kmという早い時点からアタックを繰り返した。
チェーントラブルへのアタックでコンタドールに差を開かれた日、怒りに任せて「バイクから崩れ落ちるまで攻める」と言い放った。その宣言通りアンディはコンタドールに対して無数のアタックをかけた。他のすべてのライバルたちは振り落とし、ふたりだけの対決に持ち込んだ。しかしコンタドールはアンディの加速すべてに反応し、ついて行った。
ラスト3.5kmではコンタドールが反撃のアタックを見せたが、しかしアンディも離されることはなかった。2人は揃ってゴールし、コンタドールは着順を争うことをしなかった。
アンディはフィニッシュラインを越えるとき、悔しさとも、喜びともとれる表情で拳を突き上げた。そしてコンタドールの肩に手をやると、ふたたび空に向けて右腕を挙げた。ステージに勝ったがマイヨジョーヌには手が届かなかった。
アンディ「15回加速した」
アンディは言う。「SRMのデータでは15回アタックしている。たぶんTV映像じゃ分からないだろう。今日僕は数えきれない加速をした。でもただコンタドールを振り落すことはできなかった。彼があまりに強かったからだ。
彼がアタックしたのは僕に強さを見せつけるため、脚があることを見せつけるためだということは分かっている。結局最後まで彼を振り落とせなかたけれど、ステージ優勝できたことはハッピーだ。
彼の後ろからアタックができるように、僕は彼に前に出るように言ったんだ。でも彼は賢かった。後ろに付いていればいいだけだということを知っていた。
今朝、持てる力のすべてを出しきろうと自分に言い聞かせた。なぜなら今までの他のステージではレース展開のせいでそれができなかった。でも、今日僕は力を出し切ったが、アルベルトもそれができた。彼は偉大なプロフェッショナルだ。今日彼は自分がすべきことをした」。
アンディはマイヨジョーヌを諦めていない
総合優勝への希望は砕かれた? いや、アンディは諦めていない。
「フィニッシュラインを通るとき、気持ちを切り替えた。タイムトライアルで最高の力を出すと。きっとやれる。まだ僕の前にはマイヨジョーヌが見える。だから昨日言ったことは変更だ」。
結局8秒のタイム差を逆転することはできなかった。まだ第20ステージにタイムトライアルを残すが、昨年のTTの結果から判断してコンタドールの優勝はほぼ堅いというのが大方の見方だ。昨年のツールの最終タイムトライアルでは、コンタドールがステージ優勝を飾り、アンディは1分45秒の遅れをとっている。
しかしコンタドールは警戒を怠らない。TTまでにリードを保っていればツールに勝てるだろう?との問に対し、次のように答えてきた。「アンディも進化している。彼のTTの力が昨年と同じとは思っていないし、ルクセンブルグ選手権TTのチャンピオンにもなっていることを忘れちゃいけない」。
アンデは強気の姿勢を崩さない。しかしコンタドールの強さの前に、すでに歴然とした差を感じているのかもしれない。
アンディは言う。「僕はこのスポーツでいい未来が待っていると信じたい。ツールに勝てるスキルを身に付けられることを信じている。それは来年、3年後だろうか?僕がアルベルト・コンタドールとどれだけ距離があるかなんて、自分を比べる必要はない。僕らはそれぞれ別の選手だ。僕は彼とは違う」。
冷静にマイヨジョーヌを守ったコンタドール
アンディのアタックに対抗し、最後まで差をつけられることを許さなかったコンタドール。ラスト3.5kmでは自らもアタックしたが、アンディに付いていく走りでマイヨジョーヌを守った。
コンタドールは言う。「今日一番大事だったのはタイムを失わないことだった。アンディは上っている間じゅうずっと強くて、速いリズムを刻んでいた。彼が差を開きたいと思っていることは知っていた。でも僕は彼さえ見ていれば良かった。ステージ優勝は重要じゃない。総合のことだけを考えていた」。
ラスト3.5kmのアタックについては、「アタックしたのは僕がここにいること、そしていい脚があることを見せるためだった」と言う。
これまで、例年よりアタックが少ないことで調子の悪さを指摘する声があった。しかしコンタドールはこれを否定した。
「今年のツールはずっと厳しい。だから僕は必要以上にはアタックしない保守的な走りをしてきた。昨年と同じように調子がいいというデータがある。そして今日はマンドへのステージと同じくらいとても調子が良かったし、今日重要だったのはタイムを失わないことだった。ツールを通して重要なのは、パリでツールに勝てる位置にいつもいるようにすること。タイムトライアルもこのままの調子で行けることを願っているよ。アンディが強いことは間違いない。タイムトライアルでもすごい走りを見せると思っている」。
シャルトーを支えたブイグテレコム
マイヨジョーヌ争いがまだ決しないのに対し、この日で事実上の闘いに決着がつくのが山岳賞争い。アントニー・シャルトーの着るマイヨアポアを、チーム全体で守るのがBboxブイグテレコムの今日の勝負になる。
レース前日、チームメイトのマイヨアポアを守る責任について、新城幸也はこう話していた。
「ポイント争いに関係の無い選手たちの逃げなら行かせる。ポイントに関係ある選手が含まれていたらつなぐ(捕まえる)。このステージの山岳でポイントが付くのは上位8人までだから、ポイントに関係ない8人以上が逃げてくれたら楽なんですけどね。チームの皆がそのことを十分頭に叩き込んでいるので、動き方に迷いはないですよ。だから細かいミーティングも無し」。
マイヨアポアはチーム力で守れるもの? 「でもモローが一対一の勝負を仕掛けてくるなら、最後シャルトーは自分自身で闘わなければいけなくなるでしょう」と、ユキヤ。
この日ブイグの選手たちは、逃げのメンバーを監視し、とくにポイント2位につけるクリストフ・モロー(ケースデパーニュ)を監視しながら走った。モローがスロール峠でパンクしたことも有利に運んだ。
トゥールマレー峠のゴールにひとりで現れたシャルトーは、何度もガッツポーズを見せ、フィニッシュラインを超えると空に向かって拳を突き上げた。今日はポイントを取ること無く、取られることも無くステージを終えた。
続々とゴールするブイグの選手たちが、シャルトーのマイヨアポア維持を喜ぶ。マイヨを守りきったことはもちろんすでに知っている。シャルトーはすでにポディウムへと連れていかれたため、ヴォクレールはポディウム脇のバリアから忍びこんでシャルトーに抱きついて祝福した。
ベルノドー監督がチーム員ひとりひとりの労をねぎらう。ユキヤのホッペを両手で挟み、「よくやった、よくやった」と、まるで子供を褒めるかのように喜びを伝える。今日はブイグにとって勝利の日だ。
シャルトーは言う。「モローがトゥールマレー峠で早くに遅れたとき、マイヨアポアを守るに十分なポイントがあることを知っていた。ただゴールすればいいことを。
チーム全員がマリーブランク峠で集団の前に集結し、モローに対してチームがこのジャージを本当に欲していることを知らしめた。チームは集団のペースを抑えるようにコントロールして、逃げグループに山岳ポイントを取らせるように動いた。最後はひとりっきりで上ったけど、ファンと一緒だった。皆が僕の名前を叫んでくれた。その間中ずっと感激していたんだ」。
フランス人による山岳賞は、フランスが誇る山岳王リシャール・ヴィランクが2004年に獲得して以来のこと。シャルトーはクレディアグリコルに所属した2007年にアジアが誇る山岳レース、ツール・ド・ランカウィで総合優勝しているが、ツールのプロトンではダークホースと言っていい存在だった。
ユキヤの完走はほぼ確実
これで難関山岳をすべて終え、ユキヤの2度目のツール・ド・フランス完走、3度目のグランツール完走がほぼ確実になったと言っていい。後はトラブルなく走るだけ。
今日のユキヤはシャルトーをアシストするチームワークにまわり、しかも100位ジャストの好位置でゴールした。途中、今日も例外なくカメラに気づいておどける余裕も見せ、難関山岳といえど十分な余裕をもって走っている様子を見せた。
「もし表彰台にチームメイトを送れれば素晴らしい。このステージ最大の目標はマイヨアポアを守ること」。前日に話してくれたチームの目標を果たし、満足気だった。
ゴールしてくる選手たちの疲れきった表情が、このステージの過酷さを物語る。上位争いを繰り広げた選手たちに大きく遅れて帰ってくる選手たち。スプリンターたちも今日を乗り切ればボルドー、そしてパリ・シャンゼリゼでチャンスが巡ってくる。
text:Makoto Ayano
photo:Cor Vos, Makoto Ayano
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